常連さん 2024-10-29 22:26:54 |
通報 |
……あら、ひなのさん。昨日の今日で会うとは奇遇ですね、もしかしてひなのさんがこちらの部員ですか?
(自動車部の部室であるガレージの前、部員らしき人影が全く見えず静まりかえっている様子に疑問符浮かべつつも、とりあえずもう少し待ってみる事にして。そうしてしばらくして耳に届くのは何処かで聞いたような声、振り返ると昨晩のシボレーのドライバーが立っていて、何となくまた会うような気もしていたがよもやこんなにも早くその機会がやってくるとは思ってもみず、しかも同じ学校の生徒だという事実にも軽く驚いていて。しかし、同時にこのタイミングでここに現れたということは彼女こそがこの自動車部の部員、もしくは部長であったりするのだろうかと思い、実際あそこまでのパフォーマンスを発揮するだけの実力があるのだから正式なメンバーであったとしても何ら不思議なことではないと思い、同じ新入生である可能性を考慮に入れずそう問いかけて)
「んぇ…?うぅん、入部希望。」
S2000の彼女はたしか入学式と言っていたし同じ学年であるはずなのだが、どうやらこっちは2年生として見られているらしい。すぐに首を振って否定すれば、まだ部活にも入っていない同級生だと伝えることにした。
どういう偶然かわからないけれど既になによりも密接なコミュニケーションをした相手が同学年にいると思うとなかなか心強く、そのうえきっと同じチームで走るとなれば良いライバルにもなってくれそうだ。
「ただなんか……人気が全然ないんだよね…」
というのが理想なのだが、現状このシャッターの奥に人気もなく、自動車部があるのかもわからない。たしかに案内には書いてあったしネットでは一応出場記録くらいでてくるもので、入った途端に廃部なんてことはないだろう。
「何か知ってたりする?」
なるほど、私と同じ新入生だったのですね……私は本当は自動車メカニック部へ入りたかったのですが実は去年を最後に廃部となってしまったそうで……なのでそれに近い活動ができそうなここを選んだのですが……どうなっているのでしょうか?
(どうやら彼女も自分と同じ新入生で自動車部への入部希望者であると知れば納得して頷き、とはいえ自分の方は昨日こそ珍しく追いかけっこに夢中になったりもしたが本来は車の走りを競い合わせるようなレースの世界には殆ど関心がなく、この学校を選んだ理由も当初はこことは違う自動車のメカニックを中心に行う部への入部を希望してのものだったが部員不足によって廃部になってしまったと聞き、この自動車部にもその代替案としてやってきたに過ぎないことを正直に語り。しかし、この感じではこの部すらもマトモに活動できているか怪しいのではないかと、あくまでも妥協してここに来ている身である己にはこの部の事情など詳しく知る由もなく何がどうなっているか分からないものの、この先の展望に少しばかり暗雲が立ちこめていくような気がして「一応案内にはここで活動しているとありましたよね?」新入生向けの体験入部の案内にはキチンと名前があり、活動の拠点がここである事も確認だけはしてきている、一応それが見間違いなどではないことを再度ここに来ている相手にも確認するよう問いかけ)
「へぇ、整備の方に興味あるんだ。」
彼女も同じくここに入部志望らしいのだが、聞く感じバトル好きというわけではないらしい。寧ろ彼女が興味をもっていたのはメカニックの方面らしく、たしかに昨日の熱弁ぶりからすればそれも納得できる。
とはいえ案内に乗っておいて部活動の紹介もなく、なんなら部員1人歓迎に来ないだなんて不思議な話で、いよいよ廃部が疑惑にあがってきた。
「うーん……ボロボロのガレージだし廃部なのかなぁ…」
――ボロボロでも廃部はしてないよぉ……
と一応使ってはいるみたいだがちょっと年季の入ったシャッターを見て、今日のところは帰ろうと呟いた時、背後から声がした。間の抜けたようなゆっくりとした声色なので特別驚きはしなかったのだが、話を聞かれていたのかと振り返る。
そこには春風より少し身長の高い影があって、セーラーのリボンの色からして少なくとも私達より上級生なのだろうというのがわかる。髪色は世にも珍しいアッシュグレーといった具合で、後ろにふわっとまとめられていて、なんだか静かな大人らしさを感じた。
――もしかしてさぁ…入部きぼう…?
振り返った私達の姿を見てもどこかマイペースに話を続けられて、相変わらず間の抜けた感じだ。まぁ丸眼鏡の奥の垂れ目に怖い印象も受けないし、声色も優しくはある。なによりその口ぶりからしてこの部活の関係者らしいのははっきりしていて、うんうんと頷いた。
自動車部の先輩ですね。私は一年の邑崎春風と申します。入部するかはまだ検討中なのですが、まずは体験入部という形にはなりますがお願い致します
(この学校で自分のしたかったこと、頼みの綱の自動車部すらも廃部となれば実現は限りなく困難となり、いよいよこの学校を選んだ意味もなくなってきてしまうが、事情はなんであれ廃部であればそれも致し方無し、それならそれでこれまで通り一人でやってきた事を継続して個人的に行うまで、本当は同好者との意見交換などを通じてスキルアップなどを図りたかったところだが仕方がないからこれからも自力で地道に、そこまで考えその場を去ろうとしたところで背後より声をかけてきたのはアッシュグレーの髪を後方でまとめた丸メガネの大人びた雰囲気の女性、どうやらその口ぶりからして自動車部の部員であろうことが伝わってくれば素早く姿勢を正し、自己紹介。自分の本当にしたい活動とは多少の乖離があるため本当に正式な部員になるかは保留としておきたいところ、なんとなく先輩は優しそうな人で悪い人にも見えず入部に対して最初から前のめりな同級生の少女は自分とはベクトルが違うが、潔く気持ちいいぐらいの車好きであり年も同じとくればそんな人たちと一緒に活動するのなら自分の青春を託してもいいのかもしれないと、若干正式入部の方向に心を動かしながらもひとまず現状の自身の考えを礼儀正しく、真っ直ぐに伝えて)
「入部希望です!!」
――おぉ~……珍しいねぇ…じゃ、まぁ見学だけでもっと…
春風は少し遠慮気味に体験入部なんて事を言うが、私は他の部活なんて興味はない。廃部になっていないという事実だけでも十分で、規模も設備も関係なく二つ返事で頷いた。眼鏡の彼女はふにゃっとした笑みを浮かべて頷いて、こちらを通り過ぎればガレージのシャッターに手をかけた。
21世紀も後半に入ろうとしている今にして思うとかなり旧式のシャッターが開けられれば、中は想像よりもずっと綺麗な状態で保たれており、工具に設備にと町工場レベルのそれは揃っている。
そんな中で目を引くのはガンメタリックのR32とレーシングブルーのシビックFK8、そして奥でカバーをかけられている一台だ。こうして輝くボディがあると自然とここの自動車部がまだ生きているのだという実感が湧いてくるもので、バトル前のワクワクが刺激されてくる。
――ぁ、私は楓。ここの副部長やってるんだぁ
こちらがキラキラとした目で周りを見渡していると改めて声がかけられて、彼女は水色のシビックに手を当てながら振り返った。どうやら彼女も春風と同じホンダユーザーらしい。それと同時に問われたのはおそらくマイカーがあるかどうかで、私達二人みたいに経験者が来るって訳でもないらしい
――もう相棒は見つかってる?
名前:鈴木 楓(スズキ カエデ)
年齢:17
容姿:身長164cm。パーマをかけたようなカールのかかる髪を後ろでまとめ、自分の車と同じカラーのクリップで止めている。髪色はアッシュグレーに近いがどちらかと言えばくすんだ黒髪といった具合で、カールも近くで見ればキューティクルの傷みによってできている天然のものである。体系はいかにも平均的といった具合だが、どちらかと言えばスリムな方に入る。アクセントに細い縁のオーバルメガネをかけており、その奥の垂れ目も相まってたぬきっぽい抜けた印象を与えている。
性格:常にマイペースな雰囲気で、人当たり柔らかな代わりにつかみどころがない。良いふうに言えば誰に対しても分け隔てなく、悪く言えばだれに対しても一定の距離がある様子で接している。ただそのゆるふわな笑みの裏に腹黒い何かがあるというワケでもなく、ただ単純にぼーっとしがちな性質なだけである。
車種:ホンダ シビック タイプR FK8型
カラーはレーシングブルー。無限の手がけるエアロパーツをふんだんにあしらったエクステリアは鋭い印象を与えるとともに理想的な空力を生み、自ら手掛けた軽量化によって見た目と性能の両立を計っている。マフラーはトライデントを装備し、そっから繋がる吸排気系には徹底的にチューニングがほどこされる。FF特有の性質をなんとか抑える様に足回りも調整され、何度も繰り返された試行錯誤がなされている。
備考:シズハル公道最速部の副部長にしてNo.2(全二人)。ホンダの下請け先となる町工場の社長令嬢であり、根っからのホンダ狂かつメカニック狂。現状シズハルの車両整備を担当しており、パーツや知識などは顧問のよしみで仕入れている。ドライビングセンスに関しては人並程のものしかないが、自らの性質に合わせたチューニングを施したシビックの戦闘力は高い水準にまとまっており、このままニュルブルクリンクにもっていっても恥はしないレベルである。シビックを愛車に選んだ理由はホンダ好きということもあるが、そんなホンダが作り出した完成品であるタイプRを自らの手でさらに強く速くしてみせるという対抗心の表れでもある。
(/副部長さんのPFになります!)
はい、よろしくお願いします楓先輩……っ──!
(ここの副部長、つまり実質的なNo.2ということになるだろうか、何にせよこれからお世話になるかもしれない部の先輩ということに変わりはなく重ね重ね丁寧に挨拶をするが、彼女が手を触れた愛車であろうシビックを見た途端に目の色を変えてそばへと駆け寄っていって。勿論自分と同じホンダユーザーというだけで一目置くところだが、注目すべきはその車の完成度で。まずぱっと見外観からでもわかる無限製のエアロ、メーカーの純正品ではないが創始者の縁からホンダ車との親和性が高く準純正品といって差し支えない仕上がり、更には排気効率を考えてのものだろうトライデントマフラー、他にも目の見えないところにも多くの手が加えられているのは明白、チューニングやメカニックをあくまでも個人の趣味の範疇で嗜んでいるような自分からすれば憧れすら抱く程で、恐らくこのままサーキットに持っていっても十分通用するだろうことは想像に難くなく、いつかは自分でもここまで拘りを持ったチューニングを施した車のステアリングを握ってみたいと思える垂涎の品で「このシビックは楓先輩のものですか!?素晴らしいです!もっとじっくり見させていただいても……あっ、す、すみません……あまりに素敵な仕上がりだったもので、つい熱く……」所有者の先輩とシビック交互に見やり挨拶の時の礼儀正しさが嘘のようにぐいぐい押していってしまうが、新入部希望者である陽菜乃が完全に引いているのを見て、またやってしまったと赤面しつつクールダウンして)
「そっか、同じホンダ同士だもんね」
――お、わかってるねぇ
先輩のシビックをみるやいなや春風はそちらに釘付けになっていて、興奮を抑えられない様子で一旦冷静になって顔を赤くしつつも、目線がチラチラと向くのを押さえられていない。昨日の口ぶりからして随分メカ系統にはお熱な雰囲気であったし、加えてホンダにも強い拘りがあるのだろう。まぁたしかにあの音が変わる高回転領域は見ていても聞いていても心地が良いし、品のある高音が彼女ら2人には似合っている気がする。
――そ、私の相棒。君は?シビック?インテグラ…?それとも…アコードとか?
そんな春風と同じく先輩も同じ穴の狢らしく、ゆったりとしたペースは変わらなくてもどこか目が輝いた気がする。それから色々とホンダ車をあげたがS2000の名前はなくて、彼女はタイプRに拘りがあるようにも思える。
そんなホンダ好きの会話にアメリカンマッスルカーの私はあまりついていけないけれど、浜松生まれ浜松育ちとしてはホンダの魅力はよくわかっているつもりだ。
私の愛車はS2000になります、楓先輩のものには遠く及びませんが私も独自にエンジンなどに手を加えてまして……
(楓の挙げた中には自身の愛車の名前はなかったため、こちらから車名を告げて。同じホンダユーザー、そしてこだわりのチューニングを追求するその姿勢、こんなにも話しの合いそうな人物はこれまでに出会ったことがなく、自分が変わり者という自覚があっただけに同世代の友人達の前ではずっと本心を隠し抑圧してきた反動からか一度は我に返って気持ちを落ち着けたものの、やはりすぐに気持ちは再燃してしまい再び、車に対する向き合い方のタイプの違い等から蚊帳の外になり気味の陽菜乃をそっちのけで楓へと自身のS2000に積んだスーパーチャージャーのこと、自身が重視するコーナリングに対する美学とそれに係る足回りのチューニングに対する自分なりの考えなんかを、まさに立板に水のごとく夢中になって語ってしまって、こうなるともう止まらず)
「話の回転率も高いんだ……」
やはり愛車の話となると一気に声色が変わって、それでいてマシンガントークを繰り広げられるとまさしくVTECの様だ。途中までは聞けていたけれどだんだんとマニアックな整備の話になってくるといよいよわからなくなってきて、ぽかんと双方を眺めることになった。
ただ先輩の方はそんなVTECトークにしっかりとついて行っていて、うんうんと頷きながら内部の話を聞いている。お互いホンダ車ということもあってか会話は弾んでいるみたいで、散々語り合った後に先輩が口を開いた。
――よし、じゃあ入部決定でいいんじゃない……?運んできなよ、S2000と………えっと
「5代目カマロです。」
――カマロなんて乗ってるんだ…意外……
どうやらもうこれだけ熱意があるならさっさと入ってしまえという訳らしく、スペースも十分なガレージに持ってきてから話がしたいとのことだ。私の車種を知らない先輩はちょっと言葉に詰まったが、こっちから述べれば少々驚いた顔を浮かべた。
最初から入るつもり満々だったこちらはすぐに最寄りの貨物ステーションまで車を運んでもらうことにして、携帯で遠隔呼び出しをした。学校に隣接する一般道がない代わりに一般大型貨物運搬用のリニアが敷かれていて、妙な話だが車が電車に乗ってやってくるのだ。ロマンのかけらもない話だが、便利といえばとてつもなく便利な世の中なので文句は言えまい。
と学校付近のステーションで下ろしてもらえば、おそらく唯一この学校に通じている大きな歩道を遠慮がちに走らせ、向けられる珍しげな視線にそこのけとガレージまで運んで来た。
は、はぁ……ですが、私は公道レースはあまり……
(これだけメカニックに関するトークで意気投合した先輩の手前、あまりその気持ちをむげにしたくない気持ちはあったが、レースに対する熱量や意気込みでは既に入部を決めてウッキウキな陽菜乃との間にはやはり乖離があるような気がしていて、今でも競い合うことにはそれほど積極的にはなりきれない自分がいて、やはり自分のような半端な気持ちで飛び込むのは……と、どうしても二の足を踏んでしまい。しかし、先輩の押しは決して強くないが、それでもその目には期待の色が滲んでいるのがわかり既に自分に選択権は無さそうだと半ば諦めに近い形で小さく息を吐き「わかりました、それではよろしくお願いします」本当は体験入部で様子を見てからと思っていたがどの道この調子では抱き込まれるのは時間の問題、それならもういっそ入部してしまったほうが早いと判断して自身も車両を遠隔呼び出し、ガレージへと乗り入れて)
――ふふ、乗り気じゃないみたいだね
こちらがガレージに乗り入れてから春風が続くけれど、まだその顔には迷いが見える。そんなに車が好きならここは天国みたいな場所じゃないかと思っていたのだけれど、どうやら全員にとってそうという訳ではないらしい。
先輩も嬉々として招き入れてはいるがその迷いには気づいているみたいで、柔らかで穏やかな口調とともにS2000へと歩み寄った。口調も雰囲気もさっきと変わっていないはずなのに、目元だけはどこか鋭く変わったような気がして、赤色のボディに反射する顔は真剣な色を見せる。
――この子の本気、引き出せるのが他人でいいのかな?
「本気?」
――そ、本気。
先輩は相変わらず眺める足を止めずにフロントホイールの前でしゃがみこめば、ブレーキや足回りを見つめた。私には何を見て何を考えているのかはわからないけれど、春風に説くような言葉は続いて、思わず呟いたこっちの言葉を拾われた。
――この子達は速く走るために作られたからね。競走馬が勝つために走るように……誰より先頭を行くために生まれた。
――追いかける背と、追われる背が必要だと私は思うんだ。どれだけ完璧に仕上げたとしても、隣の誰かより速く走れなければ無意味なのかもなって。
先輩の声色は低いものの、どこか遠くを眺めながら語られるように不確かで、誘い文句としては難しく思う。ただなんとなく言っていることはわかる。要するに絶対的な速さよりも、バトルにあるような相対的な速さを求めたいってことだろう。そんな事を直感的に理解できるのは私がそっちのタイプだからであって、タイムアタックで誰かに勝つよりもバトルで誰かより先にいることの方が大事ではあると思う。
トピック検索 |