匿名さん 2024-10-17 14:17:45 |
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(本人に自覚は無いものの、夕食の話を聞くとぱっと表情に明るさが宿った。相変らずのへの字口がほんの少し緩み、相手に対する警戒レベルが大幅に下がった音がする。かつての使用人のように自身に対して敬う気持ちがあるかどうかは別として、此方の要望を汲む程に財力的にも精神的にも余裕がありそうな彼女。少なくとも今の段階ではそこに害心なんて微塵も感じられなくて、現状自分が危害を加えられることはないと確信できる。ここまでの会話で話が通用しない相手ではないことも分かったことだ、それなら――。きちんと話をする気になったのか、彼女の方へ向き直れば一番の疑問を口に)
お前はなんで僕を買ったの?何が目的?
一目惚れよ。アッシュは覚えてないかもしれないけどね
(相手の綺麗な顔立ちをじっと見つめていれば、夕食の話に変わった途端表情が明るくなったような気がして、警戒心から強い口調で話していたとはいえ、中身は可愛らしい子供なんだなと思っていて。恐らくこれまでずっと気になっていたであろう、相手を買った目的を尋ねられれば少し恥ずかしそうに、でも誤魔化すことはせず自身の手元に視線を下げキッパリと一言で表す。パーティ会場で此方が勝手に認識し、一目惚れをしただけな為、相手はその場に自身がいたことも知らないだろうなと思っていて。)
はぁ? お前のことなんて知らないんだけど
(納得のいくような回答が返ってこなくて、「何言ってんの」とでも言いたげな、冷めた視線であからさまに眉を顰める。"一目惚れ"なんて御伽噺くらいでしか聞いたことがない荒唐無稽な単語、それに、自分が惚れられるようなことをした記憶もつもりも更々ない。そもそもこの女性と自分は今日が初対面の筈だ。はっきりと否定の言葉を口にして、嫌悪感を隠そうともしなかった。先程迄の会話で少しは掴めたかと思った彼女の人間性がどんどん遠ざかってゆく。真面目に話をする気も失せてしまったのか視線を外の景色へと移して)
えぇ、そうでしょうね
(相手が一目惚れやら愛やらの言葉で納得するとは思っていなかったが、ここまであからさまに冷めた視線と言葉ではっきりと言われてしまえば残念に思うもので。だが、敢えてそれは口に出さずしまったまま苦笑を浮かべて予想はついていたと言葉を零し誤魔化す。納得のいく答えではなかったことから自身への興味は一気に冷めてしまったのか再び窓の外の景色へと視線を移して行くのを見れば、それ以上語ることはなく。たまに地面にある石や砂で揺れる車内で沈黙が流れていれば、長くも短くも、時間が過ぎていっていたようで自身の屋敷にまで到着し。)
(暫く沈黙が続く中、流れる景色の速さは徐々に落ち、やがて大きな屋敷の前で止まった。馬から逃げるように足早にキャビンから降り、豪邸としか例えようがないそれを見上げる。自分が今迄住んでいた屋敷と比べても見劣りしない、若しくは上回るレベルのお屋敷。この女性も同じ貴族とはいえ、自分は僅かにも王族の血を引く家系、大したものではないだろうと正直舐めていた部分があったのは嘘ではない。しかし今目前にあるそれは想像していたものよりもずっと豪華で、思わずの驚嘆の声が零れた)
……すごい
さぁ、入って。今日からここがアッシュの家だから
(屋敷の玄関の前に馬車が止められると、急ぎ足でキャビンから降りてしまったのを見て、そんなに自身とあまり広くはない空間に二人きりになるのが嫌だったのかと悲しい気持ちになりながら、相手の後を追うようにキャビンから降りる。相手の実家も相当大きな屋敷だっただろうに、やはり他人のものは良く見えてしまうのだろうか、感嘆の声を上げたのを聞き逃さず、その子供らしい反応にクスッと笑みを零す。使用人が玄関のドアを開ければ家の中に入り相手のことを手招きしながら上記の言葉を口にして。)
此処が僕の家……
(噛み砕くように言葉を反芻すると、意を決したのか手招きに応じて恐る恐る屋敷の中へと足を踏み入れる。はじめての場所にはじめての使用人、何もかもが新鮮で、慣れない空気に緊張を覚えないわけがなかった。ぎらぎらと輝くあちこちに施された装飾は眩しいくらいで少し目が眩む。広い屋敷のなか、少し目を離したら直ぐに迷子になってしまいそうだ。服を掴むや手を繋ぐなど実際に触れることはないにしろ、迷子になる気も更々ない。不服ながらも女性の後をぴったり付いていき)
…ここがアッシュの部屋なんだけれど…まだ完全に準備が整っていないのよね。私の部屋は隣だから、整うまで私の部屋にいましょうか
(玄関から入った後、続く廊下を右折や左折を何度か繰り返した後に相手の為に用意されたであろう部屋の前に着くと歩みを止めて。その部屋のドアを開ければ、子供一人が過ごすとは思えない程の広さがあり、ベッドや机、椅子などが置かれている。だが、シーツなどの寝具が完全には揃っておらず、掃除等も途中であることからまだ使うことは出来ず。その為、隣同士である自身の部屋に来てみないかと誘ってみて。)
(自分の部屋として紹介された新たな部屋は申し分のない広さだった。ある程度家具も揃っていて、"一般的には"何の不自由もなく暮らせるであろう充実ぶりである。しかし今迄何一つ不自由のない暮らしをしてきた自分が、突然このような"掃除も設備も中途半端な"部屋に住めるのかと問われれば答えはNO。たとえ僅かな期間でも生活の質を下げたくないという、年相応の子供らしくない傲慢な思いが勝った。不服そうに頷けば早く案内しろと言わんばかりに)
……分かった。とっとと片付けてよね
えぇ、もちろん。行きましょう
(これまで何不自由無い生活を送っていたのだろう、完璧ではない部屋を見ると此処で生活することを好んでいない様子に相手の性格をある程度知っているため納得出来て、子供らしくない発言に咎めることもなく受け入れて。隣にある自室に移動すれば、そこは相手の部屋と同じような構造、広さで内装の壁紙は自身で変えたのかシンプルでとくに柄などはなく、家具もベッドや机、ソファーや棚など無駄なものはない控えめなもので。ソファーに腰かけると、向かい合わせになるように相手に座るように一言声をかけて。)
……ふぅん、悪くないんじゃないの
(そこから案内された隣の部屋――女性の自室。埃ひとつ見当たらないくらい掃除の手もしっかりと行き届いている、あまり生活感の感じない空間だった。必要最低限の家具しか揃えていないのだろうか。生活するのに不自由はないだろうが、おもちゃも何もないこの部屋は遊び盛りの自分にとっては些か物足りなさを覚える。しかし先程の中途半端な状態と比べればそんな不満など些細な問題で、室内に一通り目を向けるとぶっきらぼうにも素直な感想を吐いた。行動の制限を感じたのかあまり気乗りしない様子だが、促された通りにソファに腰を落とし)
ありがとう、何も無い部屋でごめんなさいね
(褒められた…という訳では無いが、素っ気ない言い方で否定でも肯定でもない言葉をかけられると困ったように眉を下げて笑う。良い意味では素朴、悪い意味では地味なこの部屋は子供らしい面が未だ抜けていない相手にとってはつまらない部屋だろうと思い、それについてさらりと謝り。ただ座って話しているだけでも自分は幸せだが、それだと相手は退屈してしまうだろうと考えたのかソファーから立ち上がると棚の引き出しを開けて。)
なにか甘いものでも食べましょう、何が好きかしら?
ザッハトルテ。
(即答である。一般家庭であればまず常備はしていないであろうスイーツ。つっけんどんな態度に変わりはないものの、"甘いもの"という誘惑に心を動かされたのは事実だった。旧自宅では我儘を言って無理にでも用意させていたが、果たして彼女はこの要求に対応できるだろうか。相手を試すかのような口振りで甘味の名を告げれば、尊大さがにじみ出る眼差しを向ける。そこに込められた彼女を困らせてやろうという魂胆は隠せていないようだ)
まぁ、丁度昨日頂いたの。夕食もきちんと食べられるように一切れだけ食べましょうか
(迷う様子もなく直ぐに質問に答えたのを聞いて、そのスイーツが好きなのだろうかと考える。昨日取引先の相手から手土産として受け取ったザッハトルテという甘菓子は今相手の食べたいものらしく。そのことを思い出せば丁度よかったと嬉しそうに微笑む。相手との初めての食事を存分に楽しみたいところだが、先程話した夕食のこともあるため、そのことを考えれば全て食べるのは難しいだろう。まるで保護者のようなことを言えば、棚から離れ部屋の扉を開けば外にいる使用人にスイーツと紅茶を持ってくるように伝える。)
……え、
(偶然か必然か、はじめから仕組まれていたかと疑うほどスムーズな、一切想定していなかった対応に拍子抜けした間抜け声が漏れた。揺れる瞳と僅かにソファからずり落ちた身体、自分でも明らかに動揺しているのが分かる。此処でもすんなり好物が食べられるのは大変喜ばしいことだが、それは己の企みが不発に終わったことも示していた。ほんの悪戯心からの発言とはいえ、空回りばかりで自分の思い通りにことが進まないのは矢張り屈辱だ。どうにもならない悔しさは下唇を噛んで押し殺し、誤魔化すように言葉を続けて)
じゃ、じゃあ早く準備して。不味かったら許さないから
わかったわ、少し待っていてね
(案の定、というべきか。おそらく相手が好きであろうスイーツがあると言っても素直に喜ぶ様子は見せないことに、子供というのはこんなにも天邪鬼だっただろうか。それとも相手が特別なのか…?なんて考えていながらもそんなところが可愛らしいのだとなぜか笑みが湧いてきて。早急に用意をすることを言われれば、そんなに焦る必要は無いとでもいうように待っていて欲しいと伝える。数分経つと、ワゴンに乗った一人分にカットされたザッハトルテが2個と、フォーク、紅茶セットが届き。それらを使用人がテーブルに並べ、ティーカップに暖かい紅茶が入れられ。その近くには角砂糖やミルクなどが置かれて。)
(自分の我儘で準備させたザッハトルテとはいえ、照明の光を受けつやつやに輝くそれは子供一人の心なんぞ いとも簡単に惹きつけてしまう。好物を目前にして先程迄のしかめっ面が嘘のように瞳を輝かせ、ティーカップに注がれる小麦色の液体をご機嫌に眺めた。その淹れ立ての紅茶にはたっぷりのミルクと角砂糖を入れ、付属のティースプーンを使ってくるくると掻き混ぜたところでもう準備は万端。待ちきれないと言わんばかりのスピードで、フォークで一口大に切り分けたケーキを口へ運ぶ。ふわりと口内に広がるチョコレートの甘い香り、ザッハトルテならではの濃厚な舌触りにに思わず表情を緩めれば、声にならない声で呻いて)
~~~!!!
美味しいみたいでよかったわ、お礼を言っておかないと
(傲然とした態度をしていながらも、中身は純粋な子供。それは紛れもない事実で、まさに今好物の甘味一つでこんなに表情を緩め口いっぱいに頬張っている。そんな姿を見ながら、角砂糖を一つ入れた紅茶を少量飲み込むと、フォークでザッハトルテを小さめに1口サイズに切り、口に運ぶ。相手でも気に入る程の甘味ということもあり、濃厚なチョコレートの味が口内に広がって。その味に思わず頬に手を添えて今にも溶けてしまいそうなほど幸せそうな表情をしており。)
本当に美味しいわ、食べるのがもったいないくらい
(無我夢中にザッハトルテを頬張って、休む間もなく繰り返す咀嚼、そして何度目かの嚥下を終えたところで――我に返る。ザッハトルテは確かに美味しかったけれど、こんな油断しきった表情を見せる気は更々無かった。今更気付いたところでもう遅いが、絶対に見られたくない姿であることは間違いない。ちらり、正面で自分と同様に顔を綻ばせている彼女を一瞥した後に、ごにょごにょと意味を為さない反論を並べる。ほぼ完食寸前の皿を前に手遅れ感は否めないが)
っ、別に美味しいとかは言ってないんだけど。悪くない味ではある……けどさ
本当?良かったわ、残りはまた明日食べましょうね
(好物であろうザッハトルテを食べることに没頭している相手を見て甘いものが好きなのだろうか、明日落ち着いた様子ならば一緒に甘いものを食べに出掛けようか、なんて考えていて。相手の皿に乗っているザッハトルテを食べ切る寸前になって初対面の自分に気を緩めていたことに気が付いたのか、決して素直では無い感想を零したのを聞くと、そんなのは気にしていない様子で『悪くはない味』という部分だけを良いように捉えていて。)
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