ユーフォルビア 2024-10-14 02:31:34 |
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レグルス様こそ、あれだけ集中的に狙われていたのに怪我1つないだなんてすごいです。……! すみません、その前にちょっとこちらへ。
(ユフィを庇いつつ、あれ程の戦闘を繰り広げておきながら微塵も疲れを感じさせないその姿は、本で読んだ人間の生態と大きく異なっていた。短命でひ弱、そして残忍。ユフィの寿命に比べれば人間の一生は短いことに変わりないが、少なくとも彼はひ弱でも残忍でもないように思う。やはり本の中に書いてあることが全て、というわけではないのだろうか。───奴との戦跡上空、ぽっかりと開けた葉の天井からは相変わらず雨が落ちてくる。先程よりは雨脚も弱まってきたものの、まだ完全には止みそうにない。…ふと、自分も彼もびしょ濡れになっていることに気が付けば、案内をしてもらう前にすることがあると、彼の背中をぐいぐい押しながら葉っぱに分厚く覆われ雨に当たらない場所まで移動し。それから鞄の中に片手を突っ込み、奥?の方から羊のような愛らしい見た目の無害なモンスター・モフフの毛で編まれたふわふわの大きな布を2枚引っ張り出すと、1枚は自分の頭に、もう1枚は背伸びをして彼の頭にふんわり被せて。「これ、吸水力抜群なんです。風邪を引いたらいけないので、良かったら使ってください。」自身の髪についた水滴を拭いながらそう促して)
お、コイツは中々……随分と上等そうな布だが、本当に使わせてもらっていいのかね?
(降り頻る雨から逃れるように、彼女に付き従って天然の雨傘の下へ。雫に濡れた眼鏡のレンズを袖布でサッと拭って掛け直せば、頭上に何やら真綿を思わせるような軽く柔らかな何かが載せられて徐に手を伸ばし触れてみると、どうやらそれが彼女が髪を拭いているのと同じ材質で出来た非常に柔らかく、繊維の隙間に空気を多く含んだ温かく吸湿性の高い布だという事に気づき、これがどんな素材を用いて作られたものなのかなどといった知識は生憎と持ち合わせていないが、市場なんかに出せばかなりの高値で取引されるのではなかろうかと思われることは推察することができ、そんなものを雨と汗に濡れた野郎の髪を拭くためなんかに使っても良いものかと疑問を呈するが、既に頭上にあるそれは髪を濡らす水分を吸い取り始めており、こうなっては気にするだけ無駄と開き直って厚意に甘えることにすれば丹念に水滴を拭き取っていき、滴るほどの水滴がなくれば布を二つに折り畳んでから差し出し「ありがとう感謝するよ、洗って返した方が良かったかね?」借りるだけ借りてそのまま返すのはマナーとしていかがなものかと、そんな事を冗談めかし言うと口角を上げて)
お気になさらないでください。またいつお会いできるかも分かりませんし、申し訳ないです。……ええと、それでは案内をよろしくお願い致します。
(律儀にも洗って返そうかとの申し出に、首を横にふるふると振って控え目に断りを入れる。道案内を頼んだ際に迷いの森を出るまでの短い付き合いだと言っていたし、それなら今後、果てしなく広い世界の何処かでまた彼に会う機会なんて無いに等しいだろうから。…分かっていたつもりだったが、既にこの人間のことを共に凶悪な敵と戦った仲間もとい初めてのお友達として認定してしまったユフィは、顔にこそ出さないものの彼と別れるのを少し名残惜しく思っていた。───頭からローブ、スカートの先まで、吸水力に優れた手触りの良い不思議な布は見る間に水分を吸っていき、雨に濡れる前と殆ど変わらない状態まで拭い取ると、軽く絞ってから差し出された布と一緒に適当に鞄の中へしまい込む。それからローブの裾をぱっぱっと払って服装を正し、ずれやすい斜め掛けバッグを肩に掛け直すと、紐の部分を両手でぎゅっと握って準備万端。彼の仕事も終わったので、改めて森の出口までの案内をお願いしようと丁寧に頭を下げて)
ま、それもそうだねぇ……お嬢さんは次どこへ行くか決めてはいるのかね?
(こうして行きずりで出会っただけの間柄の相手と何の示し合わせもなしに再び相見えるのは一体どれだけの確率だろうか、何にせよ仮に洗って返す約束をしたとして互いの一生のうちにその約束が果たされる可能性は決して高くなさそうとあっては、ここは素直に彼女の言に頷き布を返却してから林道を森の外へ向けて歩き出して。雨はだいぶ弱まり、木々の葉の隙間からポツポツ落ちる雨粒も気にならないぐらいになって、この分なら森を出る頃には雨は止んでいるかもしれないなと頭の片隅考えながら彼女の歩調に合わせて若干いつもより歩幅狭めて歩いていれば、ふと横目で思った事を尋ねる。彼女は森をどの方面に出たいかなどの具体的な要求はなくとにかくこの森を出るという点のみを重視している、それはつまり決まった住居や帰る場所がない、或いは帰るつもりがないということ。改めてその装いなどを見れば確かに小綺麗ながらも旅装に見えなくもない、何か目的や行き先があるのか特に他意は無いのだが気になって)
私はとりあえず、“オーランツ”という国に行くつもりです。本を読んで知ったのですが、『地上の楽園』と呼ばれる場所がどんなに素敵な場所なのか、実際に見てみたくて。
(道案内役である彼に随順しつつも、ユフィの目が向く先は木の根元だったり茂みだったりと忙しい。元々この森に迷い込んだのも、魔法薬に使えそうな珍しい植物はないだろうかと“ほんの少しだけ”のつもりで寄り道したのが原因だった。そうして辺りを観察しながら出口を目指している途中、不意に旅の行き先を問われるとほんわかした笑みを浮かべながら素直に目的を明かして。…ユフィがなんとなく目指している場所・オーランツ共和国は自然豊かな美しい国と名高い。花は咲き乱れ、妖精達が華やかに舞い、夜には星が降り注ぐ、生命力に溢れた国。次いで目的地を確認するべく、鞄の中からジャバラの折りたたみ式地図を取り出しゆったりと手元で広げては、目線を地図上に落としたまま歩きながら“オーランツ共和国”の場所を探して。方向感覚が鈍いことに無自覚なユフィは、とりあえず森を抜けられさえすればどうにでもなるはず!とこの状況を楽観視しているが、地図を見ながら漸く気が付く。まず現在地が何処か分からないということに。「……レグルス様、ちなみに此処はどのあたりになるのでしょうか?」自分の歩調に合わせてゆっくり歩いてくれている地理に詳しそうな彼にちらっと視線を送り助言を求めて)
……!?やれやれ、お嬢さん勘弁してくれたまえ。オーランツといえば来た方向とは真逆の遥か南方向だよ
(聞き馴染みのある国名は、先程彼女が歩いてきた方向からして非常に考えにくいもので、最初は何かの間違いか己の聞き間違いも疑ったが『地上の楽園』などという大仰で胡散臭ささえある肩書きまでも加われば、その特徴に一致する土地はこの地上には一箇所しかない。しかし、そうだとすれば彼女が自身を尾行するため歩いてきた方向とは完全に真逆であり今現在も絶賛逆方向の森の出口を目指して歩いているところで、まさか目的地がちゃんと定まっており、その上で現在地の把握すらせずに案内を頼んだのかと、あまりの衝撃に急に足を止めれば目を見開いて彼女の顔を二度見、内心の動揺を表すように少しばかりズレてしまったメガネを直し気持ち落ち着けながら、広げられた地図を横から覗き込み「いいかね、今いるのが大体この辺り……そして、オーランツはこっち側……。そもそも、ここにある関所は最近通行規制がされていた気がするねえ」目的地と現在地の位置関係を改めてハッキリさせるべく地図上交互に指さし、この森から最短で辿り着こうと思ったらこの森を反対側に抜けた先の街道を通ることになるが街道上の関所はここ最近周辺の情勢が不安定なこともあり特別な許可が無ければ通行出来なかったはずと記憶を頼りに語り)
! あら、そうだったのですね。……これもまた運命、ということで。急ぐ旅でもないですしこのまま森を出てこう、ぐる~っと大回りしてみます。
(分かりやすく丁寧に現在地及び目的地の位置関係を教えてもらったことで、何故今しがた彼があんなにも動揺した様子を見せたのかを理解したユフィは、さっきまで歩いて来た道、地図、彼の呆れ顔と順番に見遣り、それから“やってしまいましたね”とばかりに目をぱちくりさせながら緩慢な動作で口に片手を当てた。───このまま突き進むか、来た道を戻るか。きっとお願いすれば、親切でお人好しな彼のことだから、反対側の出口まで一緒に戻ってくれそうではある。しかしそこまで迷惑は掛けられない。それに戻ったところでその先にある関所で通行規制されているのなら、どの道遠回りをしなければいけない。となれば道筋は決まっている。ユフィは、いくつかの村や山を越える必要があるかなり遠回りなルートを行くことにした。早速今後の道筋を説明しようと彼に地図を見せつつ、自分たちが今向かっている出口付近を先ず指差して、其処からオーランツまでの道程を伝えるべく大きな弧を描くようにして指先を移動させる。そうして今後の動きを示した後、再度森の出口付近を指し示しては「なので、このままこの辺りの出口に行きたいです。」と付け加えて。…と、ここまで説明したところで、ときに彼の次なる目的地は何処なのか気になり、此方からも疑問を口にして)
そういえば、レグルス様はこの森を出られたらどちらへ向かわれるのですか?
俺はこの先の要塞都市シュノークへ向かう予定だよ。そこに活動の拠点があるんでね
(道を間違えたなら回り道をすればいいとあっけらかんと言ってのける彼女、ポジティブと捉えるべきか呑気というべきか……関所を通らず済むよう考え直して指し示されたルートは妥当性があり至極真っ当なものであったが、そこまで地図を読む能力が全くないと言うわけでは無い彼女が何故に迷子になどなっているのかを考えれば、方向感覚が欠如しているかあるいは、強い好奇心に抗えず予定していたルートを大きく外れてしまうか、もしくはその両方かもしれないと推察して。こんな調子で果たして本当に目的地に無事に辿り着けるものだろうかと他人事ながら心配になるが、それを気にかけてやる義理も筋合いもない。そもそも自分には所属している勢力があり、そこで果たすべき役割がある以上この先の彼女の旅路に肩入れする事は出来ないのだと、誰に言い訳するでもなくそんな事を思いながら、自身の行き先がこのまま真っ直ぐ街道沿いに進んだ先にある、度々襲来する魔物との戦闘を想定して武装し要塞化されたシュノークという都市であり、そこが自身の活動拠点であるということを話す。そしてそんな自身の頭の中には戻ってからの己の身の振り方について一つ思うところがあって。というのも自身が今回割り振られた仕事はあくまでも出現したばかりの泥の調査、しかし現場に駆けつけた自身の前に現れたのは活性化寸前の個体であった。受けた報告との相違、あれほどになるまで見落としていたなどということは考えにくい……となれば、自分はもしや謀られたのではないかという疑念が胸中に芽生えており、事と次第によっては組織とは袂を分つことも視野に入れなければならない。もちろんそうなった場合シュノークでの滞在は認められなくなるだろう、その後はのことは……そこまで考えを巡らせたところで、改めて彼女の方を見やる。もう面倒はごめんだ、今度はゆっくり出来る場所で平穏に過ごしたい、地上の楽園とやらが自身のその願いを叶えるに値する土地か、彼女を送り届けてやるついでに見定めてみてもいいかもしれないと考え「お嬢さん、特に急ぎでも無いんなら立ち寄っていかんかね?この先の街も集落もそれなりに距離がある、ここで旅支度を整えてから出発するのも手だと思うがね?一晩の宿ぐらいなら俺が都合してやってもいい」彼女に付き合うにしろ送り出すしろ、それを最終的に判断するには一度上層部と話しをつける必要がある、その為に一日彼女を拘束してしまうことは申し訳なさもあるが、事実としてこの先しばらくまともに宿の確保もままならない道のりが続くため、そこまで悪く無い話しだろうと提案して)
確かにこの道を行くとなると、此処でしっかり準備しておいたほうが良さそうですね。
(シュノーク、シュノーク……あ、此処だ。森を抜けて暫く行った先にある大都市の場所と其処までのおおよその距離を地図上で確認しつつ、相槌を打ちながら彼の話に耳を傾ける。どうやら彼の所属する謎に包まれた組織がシュノークにあるらしいが、泥を討伐した際に「報告の事を考えると気が重い」と彼が漏らしていたのを思い出すと、これからその気が重い報告をしに行くのだろうと推測する。そして思い返せばユフィはユフィで、碌な旅支度もせずに家を飛び出した為、実家の食料庫からこっそり持ち出した食料も残り僅か。そんなユフィの鞄の中は現在、この森で見付けた数種類の植物やきのこや変な虫が大半を占めていた。ここらで日持ちする食料や日用品、いざという時用の薬の確保もしておきたいところ…と思案を巡らせる。おまけに地図で見る限り、かなり規模の大きな都のようだ。もしかしたら魔導書や魔道具なんかを取り扱うお店もあるかもしれない。期待に胸を膨らませ、勿論彼の案に乗ることにした。森を出たらそこまでの縁だと思っていた彼とまだ一緒にお話出来ることも素直に嬉しい。しかし道案内だけでなく、宿のことまで面倒をみるという有難過ぎる申し出に対しては「ただ宿の手配までしていただくのは流石に申し訳ないです…!」と、少し慌てた様子で遠慮しようとして)
そうかい?まあ、手狭で散らかった部屋にはなる、素直に自分で宿をとった方がいいかもしれんね。そこは好きなようにするといい
(宿の便宜を図るとは言ったものの、実際には自身の生活拠点として割り当てられた部屋へと招くというだけのこと、男の一人暮らし故に綺麗に整頓されているとは言い難く、元々は一人用に用意された部屋であるためそれほど広くはなく最低限雨風を凌ぐには必要十分といったところであることから積極的に勧めるようなものでもない。こちらからの申し出に遠慮がちな様子を見せる彼女にふむ、と顎に手を当てながらも自分が提案はするのあくまでも真っ当な宿屋ではないということを言外に示唆しつつ、無理強いはせず本人が望むようにすればいいだろうと今晩の宿については彼女の自己判断に委ねる事にして。改めて森の出口方面から一旦の目的地として定めたシュノーク目指して案内を続け、歩く事30分ほど、森から伸びる街道は人の手が加わっている事を顕著に示すように次第に綺麗に舗装されたものになってゆき道の脇に広がる草原の草も高さが綺麗に揃えられたものになれば、やがて遠目からでもわかるぐらいの大きな石造りの城壁が見え始めて)
………!
(“宿”と聞いて旅人向けの宿泊施設を想像していたが、彼の口振りから察するに少し違うような気もする。シュノークを拠点に活動していると話していたし、もしかして彼の所有する家か、もしくは仮住まいの宿のことを言っていたのだろうか。だとすれば“手狭で散らかっている”というのは勿論…。そんなユフィの思考に追い打ちをかけるが如くすーっと脳裏を過ったのは、実父がいつぞやに言っていた「どんなに善人ぶっていようが男は皆ケダモノだ。」という意味深な発言。これはまさか、殿方の部屋に招かれている…? 長年籠の鳥だったユフィは人一倍世間知らずではあるが、女性向け小説には殊更詳しい為にあらぬ妄想が膨らんでいく。耳の先をほんのり朱に染めつつ恐る恐る横目で彼の顔を覗いてみるものの、ポーカーフェイス過ぎて意図が読めず。レグルス様に限ってそんな、ケダモノなはずはないと、良からぬ思考を断ち切るべく頭を軽く振って気を取り直し。一先ず今晩の宿のことはシュノークに着いてから考えることにした。)
(───…時刻にして夕方前くらいだろうか。先程までの鬱然とした雰囲気から一転して、長く続く一本道の脇に広がる草原が視界いっぱいに飛び込んできた。草むらは風にそよぎ、ユフィの髪もさらさら揺れる。森を出る頃にはすっかり雨も止んでいて、灰色の雲の切れ間からは天使の梯子が降り注いでいた。そのうち強固な城壁が見えてくると、嬉しそうに顔を輝かせながら感嘆の声を漏らして)
わ…、立派なところですね…!
まあ要塞都市だからねぇ
(外敵からの襲来に備えるべく高く聳える円形の城壁、それにぐるりと周囲を囲まれており、城壁の上には見張り台や大砲があったりと物々しい雰囲気も少なからず感じられ、まさに要塞都市の名に相応しい様相で、ここまで設備や軍備が整っている都市もそうはないだろうと傍らで興奮気味に目を輝かせる彼女へと相槌を打って。正面に見える入り口の堅牢な鉄製の門を開けて貰うべく門を守っている当直の衛兵へと声をかけると間もなくして何事もなく通行の許可が得られて、鉄製の門はカタカタ音を立て上に持ち上げられるように開かれ「ご苦労さん」と衛兵へと片手上げ労いの言葉をかけながら通行して。厳重に守られた門の先には侵入者が数の利を活かせないよう横幅の狭い通り、その脇には有事の際に備えて火に強い石造りの建物が立ち並んでいたりと、どれもが戦闘向けの工夫が施された街並みではあるが、そこを行き交う多くの住民たちの姿は他所の街との相違はなく各々平穏に過ごしているようで「さて、俺はもうひと仕事済ませてこなければならん訳だが、お嬢さんはどうする?後でどこかで落ち合うかね?」ひとまず無事に送り届けるところまでは出来たため、宿の面倒を見る必要もなく他に用件も無ければここで別れてもいいが、後をどうするかは彼女次第、どの道自分は一度戻って報告だけは済ませる必要があるため判断を仰いで)
(遠目では視認出来なかったが、城壁に近付くにつれ見えてきたのは、外敵から城内を守るために備え付けられているのであろう大量の兵器や、城門前に配置されている屈強な衛兵達。見慣れない光景と、その厳重な雰囲気に圧倒されたユフィは静かに息を飲んだ。一方、前を行く彼は慣れた様子。衛兵もまた彼を知っているようで、一緒にいる自分までも検問を受けることなくあっさり通行を許可された。彼に続いて衛兵の傍を通る際、軽く会釈をしてから無機質な門をくぐる。そうしてシュノークの敷地内へと足を踏み入れて。任務中ということで一切の表情を消している衛兵や、重厚な外壁からは想像もつかなかったけれど、内は意外にも活気あふれる城下町という風情。目の前を派手に着飾った女性が優雅に歩いていたり、何処からともなく陽気な音楽が聴こえてきたりといった様子からも、この国の財政力の高さが窺える気がした。───そして今後について。よくよく考えてみたがやはり、ここまで道案内をしてもらった上、部屋にまで泊めてもらわけにはいかない(しかも男性の)との結論に至った。彼の方に向き直ると、改めて心からのお礼を伝えた後に遠慮がちに返答して)
ここまで案内してくださって本当にありがとうございました。……あの、あれから考えたんですけど、やっぱりこれ以上ご迷惑はかけられないので、今晩の宿は自分で探すことにします。
……それと、もし良ければレグルス様のお仕事が終わったら、一緒にご飯でも食べに行きませんか。いわゆる“打ち上げ”というやつです。
(シュノークまで休憩を挟まずに結構な距離を歩いた為、ユフィはかなりお腹が空いていた。自分もそうだからきっと彼もそう、と勝手に想像しては、折角だし夕食を共に出来ないだろうかと、どこかで聞き齧った単語を用いて誘ってみて)
打ち上げかい?なるほど、そいつは良い考えだ。それなら日没までに用件を済ませてくるよ、この場所でまた落ち合おう
(一時的な共闘で彼女には仲間意識のようなものが少なからず芽生えつつあって、打ち上げと銘打った食事会の開催には乗り気な様子を見せ、深く頷き。現在は夕刻時、今から報告へ戻って完全に日が沈むまでには話しをつけてこの正門前へと再び戻ってくることを伝えて、それほど時間的な猶予はないが自分の中では既に組織に見切りをつけることを半ば決めているが故に情報を余計に与えるのも癪というもので長々と語ることはないと考えての時間設定でもあって「……ああ、そうだ、もし俺が戻るまでに散策をするつもりなら大通りからは外れないようにしたまえ、特に狭い路地なんかはガラの悪い輩もゴロゴロいるから要注意だよ」好奇心の強い彼女のこと、恐らく自分が戻るまでこの場所で静かに大人しくという訳にはいかないだろう、興味を惹かれるものがあれば何にでも首を突っ込んでしまうような危うさのある彼女へと、この場所における注意事項を説明して。というのも都市の防衛には荒くれ者の傭兵なんかも動員することになっており、日頃仕事を求めてそういった者たちも都市の内部に多く潜伏していてその中には軍人崩れの者もいれば前科があったり脛に傷をもつ者もいる、流石に人目のつきやすい場所で大手を振って活動はしていないが、人通りの少ない薄暗い路地なんかは特に気をつけなければならない、ましてや彼女のように身なりがいい女性というのは特に奴らにとっての格好の獲物のため、好奇心は猫をも殺すと言うがより気をつけなければならないと口酸っぱく言い聞かせて)
(シュノークを拠点に活動しているレグルス様なら、この辺のオススメの食事処も知っていそう!なんて打算も勿論あるけれど、ここまで道案内をしてもらったお礼に細やかながら食事を奢らせてもらう心積もりだったので、此方の誘いに快諾してくれて一安心、ほっと口元を緩めて。───“日没までに正門前に集合”との約束を念頭に置きつつ、その間に宿を探して、時間があれば魔導書を取り扱っている書店がないか見て回って、と頭の中で予定を立てていると、短い付き合いながらもユフィの行動を何となく予測しているらしい彼から続けて注意事項を伝えられた。「分かりました、大通りからは外れないように気を付けます。…平和そうに見えても、監視の目が行き届いていない場所も存在するのですね。」外部からの防衛力には長けているのに肝心の内部の治安はいまひとつ、という事実を悩ましく思いながら小さくこくりと頷いて。そしてハッと思い出したように、森で採集した植物やら虫やらがごった返す鞄の奥の方へ片手を突っ込むと、中からシルバーのバングルを2組取り出して、1つは自分の右手首に、もう1つは彼の利き手ではない方の手首に勝手に装着。これは対になるバングルをしている相手のことを頭の中で思い浮かべると、その相手の居場所まで導いてくれる不思議な魔道具で、ユフィが幼い頃に父娘で身に着けていたものだったが、家出する際に何処かで何かの役に立てばと実家からこっそり持ってきていたのだった。)
えっと、お守りです。無事に会えるように。
……ん?ほう、なるほど。まじないの類は信じんのだが、お嬢さんの厚意は有り難く受け取っておくよ
(伝えておくべき事は伝えてなお多少の不安は残るような気がするのは少し過保護になり過ぎているだろうか、我ながら出会って間もないにも関わらず随分と絆されてしまったものだなと内心苦笑を浮かべるが、実際の年齢については種族すらわからない現状では不明だが少なくとも彼女とて幼い子供ではないのだからと思い直して。そんなことを考えている己の心境など知ってか知らずか肩からかけた鞄に手を突っ込み、中を探る様子を何気なく眺めていればそこから取り出されたのは二つのシルバーのバングル、その一方が自身の手に装着されるとこれの意図するところを彼女の口から聞けば、左手を顔の位置に軽く持ち上げ装着されたそれをしげしげと眺めて。まじないや占いなどといった類の物は一切信じない性分、しかしそれを自身へと託してくれた彼女の気持ちを思えば満更でもなく素直に礼を言い、口角を僅かに上げ笑い「では、行ってくるよ」短く彼女へと一時的に別れを告げると踵を返して、組織に対して芽生えた疑心に重たい足取りで歩き出して。自身が向かうは国家直属の諜報組織のその支部。大通りを外れて国の暗部を担うその場所へ報告に戻った自身を迎える者の中にはこの都市の防衛を担う軍部のトップ層の者もいて、そういった者たちに自身は極力感情を押し殺しつつ、今回森で起きた出来事を伝える。あくまで調査であり特別な準備は不要と聞かされていたが、その実態は違ったことなども努めて冷静に淡々と報告を続けていく中でやはりコイツらは黒だと確信する。不幸な事故だった、無事だったのだからいいではないか、そんな無責任極まりないことを宣う奴らだ、人一人の命など都合の良い捨て駒程度にしか考えていない事がよくわかる。しかし、ここで反抗するのはむざむざ命を投げ捨てるようなもの、この場は穏便に報告のみを済ませて、心では奴らとの決別を決めて憤る感情押し殺しその場を後にして)
『……ごめんなさいね。有り難いことに今日は満室で……』
『……申し訳ございません。本日は既に満室となっております。』
『……あたしにはよく分かんないけど、今週いっぱい魔法使いの試験?があるとかなんとかで、世界各国の魔法使いがわんさか集まってるらしくてねぇ。うちもそうだけど、多分どの宿も暫く満室だと思うよ。』
───…まさかどの宿も既に満室だなんて…。
(彼と別れ、意気揚々と宿という宿を渡り歩き宿泊可能な空き部屋はないかと何軒も探し回ったが、ユフィが訪ねた場所はものの見事に全て満室。数人の宿主から聞いた話によると、シュノークにおける軍事力の強化を目的として現在世界各国の魔法使いを呼び集めているらしく、その中から優秀な者を選抜する為の試験を実施しているとのことだった。空を見上げると次第に辺りは夕日に染まりつつあり、彼との約束の日没までそう時間が無いことを悟る。もはや魔導書店探しどころではないと肩を落とし、とぼとぼと大通りを歩きながら最早無謀かも知れない宿探しを続けていると。 バサッ! 大通りに面する狭い路地の入口を通り過ぎようとした瞬間、何者かによって大きな麻袋を頭からすっぽり被せられたかと思えば、突然ひょいと肩に担ぎ上げられそのまま路地裏へと連れ込まれてしまった。「わぁ…!」いきなりの出来事に頭の中はハテナでいっぱい。とりあえず出来る限り足をジタバタさせてみる。が、魔力量は多い一方で非力なユフィが懸命に足掻いたところで謎の人物にはまるで効かず、呆気なく連行されてしまって)
『……いいモノ見つけましたぜ。多分ですがエルフの女です。』
『そうか、エルフは良い。高く売れる。』
『おい、商品に傷をつけないように気をつけろよ。価値が下がるからな。』
『にしても静かだな、コイツ。生きてんのか?』
『いやぁ、さっきまで暴れてたんスけどね……』
(古びた扉が空いた音が聞こえ、その後すぐに後方で閉まる音がした。一体何処に連れて来られたのだろうか。視界が奪われている以上、音で状況を判断する必要があるので袋の中で静かに耳を澄ます。……会話の内容から察するに、近くに居る怪しげな人物達は自分のことをエルフだと思っているようだ。聴こえてきた声の数から考えて人数は恐らく5~6人程度。宿の手配もまだだし、これではレグルス様との約束の時間にも間に合わない。頭の片隅で密かに[物語のヒロインみたい…]と悠長に構えつつも、何とか脱出する手立てはないかと考えを巡らせて)
……こいつは、どうも何かあったようだねぇ
(この土地を離れる決心はついたものの、理由が理由だけに仕方のないこととはいえある程度収入が安定していて住居も確保されている生活を手放した後のことを考えるとどうにも気が重い、先の見通しが立たない現状に深いため息を吐きつつ、とりあえずは彼女の旅路へと同行させてもらえるよう投げかけてみることを念頭に置きながら、待ち合わせの場所へ。しかし、それから暫く待てど暮らせど待ち人が現れる気配がないまますっかり辺りは暗くなってしまって。ふと、左手に巻かれたバングルを見やる、思い浮かぶのはそれを巻いてくれた時の彼女の笑顔。彼女は自らの意思で約束を反故にするような人物だろうか……その自問自答に意味はなく答えは考えるまでもない、ほんの少しの時間を共にしただけだが悪意を持って他者を陥れたり、蔑ろにしたりするような者などでは断じてないと確信しており、だとすれば考えられるのは何かしらのトラブルに巻き込まれた可能性、その一点のみで。所謂厄介ごと、面倒ごとの類、自分が最も忌み嫌うものでそれに自ら飛び込んでいくのは愚の骨頂という他ない、しかし彼女のような若く身なりの良い女性は良い『商品』足り得る、輩もむざむざ商品価値を損なうような真似はしないだろうし、つまりは今ならまだ無傷のまま助け出せる可能性が高いということに他ならず、それが出来るとすればこの街で唯一彼女の事を知る自分だけなのだ「やれやれ……結局こういう役回りかねぇ……まあ、ここらで恩を売っておくのも悪くない、か」立て続けに自らに降りかかる面倒ごとに、人生のままならなさを感じながら肩を鳴らして、恩を売っておけば後の話がスムーズに進むと自身を納得させるよう打算的な思考を口に出して、とはいえ……手がかりも無しにどう探すか、地道に聞き回っていては手遅れになる可能性もある、左手のバングルがほんの一瞬だけ輝いた気がした、その瞬間自身の思考にまるで割り込むようにして脳裏に過ぎる一つの光景、それはここら一帯を縄張りとする大きな人身売買組織の拠点内部の倉庫で。何故いきなりその風景が浮かんだのかはわからないが、そこに彼女は囚われているとどこか確信めいたものを感じて駆けつけ、倉庫前を警護している見張りを鎧袖一触その場に打ち倒して扉を乱暴に開け放つとかくしてそこに人一人入っているのがわかる麻袋、背格好からして恐らくは探し人その人だと確信抱き「お嬢さん、囚われのお姫様なんていうのは物語の中だけにしておいてもらいたいねえ……ま、無事で良かったよ」冗談めかし軽口叩きながら外側を縛りつける縄を剣で斬り、麻袋をとってやり)
『……いくらで売れますかねぇ?』
『エルフは希少だからなァ…。1億Gはかたいんじゃねぇか?』
『おまけに女だからな。富豪のジジイが喜んで金を出すだろうよ。』
『大事な商品だ、そっと降ろせ。それから動けないように縛っておけ。』
(誘拐された本人をよそに謎の集団による下衆な会話が繰り広げられる中、集団のリーダーとおぼしき人物に乱雑な扱い方を指摘された下っ端の実行犯は、ユフィの商品価値とやらが下がることを恐れてか、意外にも割れ物を扱うように注意深くその場に降ろすと、指示通りに袋の外側から縄で何重にも縛り完全に身動きが出来ない状態にした。隙を見て杖を取るつもりが、これでは魔法が使えない。[…レグルス様すみません、あんなに忠告していただいたのに…。]人通りの多い場所を選んで歩いていたつもりだったし、自ら進んでこの危険地帯に飛び込んだわけではないけれど、もっと周囲の様子を見て慎重に行動するべきだったと深く反省する。魔法が使えてこそ怖いもの知らずでいられるユフィも、此時ばかりはちょっぴり危機感を覚えたようだった。…その時バングルの力が働き、彼が何処かへ向かっている映像が突如として頭の中に流れた。仕事が終わって待ち合わせ場所に向かっているところだろうか? にしては様子が妙な気もする。すると少し離れた場所から物凄い音が聞こえ、周りに居た集団が何事かと騒ぎ出した。)
『なんだコイツ……!』
『おい見張りはどうしたんだ!』
『もしかして尾行されてたのか!?』
(慌てた様子の声に混じって、近くで呆れた風な馴染みのある声が聴こえた直後、身体を縛る縄が解け、更に麻袋が取り払われた。見上げるとすぐ側に彼が居て。どうやらさっき見た映像の中のレグルス様は此処へ向かう途中だったらしい。なかなか待ち合わせ場所に現れない自分に痺れを切らして探しにきてくれたのだろうか。「……助けに来てくださったのですか?」さながら物語に出てくる王子様のように颯爽と現れた彼に、何故か分からないが胸がきゅっ…と締め付けられる思いがした。身体を縛る縄はもうないというのに。しかしその理由を考える間もなく、『お前らさっさとやれ!』我に返った集団が次々と武器を手に取り、多勢に無勢とばかりに彼に向かって襲い掛かり)
こっちは一人だというのに、こうもよってたかって向かってくるというのは感心しないねえ……なんて、獣に道義を説いても無駄か
(騒ぎを大きくしない為に予め見張りの処理を最優先したのだが、どうやら間が悪かったらしく敵の本隊と出くわしてしまい、ことごとくツイてないなと深いため息。考えなしに数任せにご丁寧に群れて突っ込んでくる輩を獣と揶揄しつつ抜刀すれば、向かってくる敵を利き手に装備した盾で真っ直ぐ正面に強烈な勢いで殴り飛ばし、複数人を巻き込んだかと思うと、素早く身を翻し逆手に持った左手の剣で刺突を放ち、怯まず向かってくる敵を刺し貫く「獣が相手ならば胸も痛まん、生憎とディナーの約束があるんでね、手短に済ませてもらうよ」敢えてガラの悪い連中の神経を逆撫でするよう挑発的に口にして盾を装備した手をクイクイと動かすと思惑通り逆上して馬鹿の一つ覚えのように突撃してくる。当然正面からやり合っても遅れをとるような相手ではないが真っ当にこの人数を相手してやるのも面倒というもの、彼女も体勢を整えた頃だろうと視界の端にチラリ捉えてアイコンタクト送ると、唐突な連携にも関わらずそれでも何となく彼女なら合わせてくれるような予感、そばにあった水の溜まった大きな樽を蹴っ飛ばし、向かってくる敵集団へ向けて水を撒き散らして。自身の推測が間違っていなければ先程の泥との戦闘で放たれた氷結魔法の発動条件は大量の水……あるいはまた別の魔法で奴らを懲らしめてくれるか、そんな事を考えながら水を浴びて一瞬怯んだ集団を視界の真ん中に捉えていて)
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