ネガティブ 2024-08-12 19:24:43 |
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うーんと……
(彼にずっと付いてきているので、今いる病院も勝手知ったる所だった。だから特別迷うことなくやや早歩きで売店まで向かう。最近の売店では菓子や弁当、飲み物以外にも本や充電器など様々なものが売ってある。こういうところに並べられている商品を見るのは好きだが、あいにく今は彼のことが気掛かりでゆっくり店内を見ている時間はない。とはいえ、自分は大層な優柔不断である。彼のことが絡んでなくても優柔不断で、あらゆることを自分で決めるのに時間が掛かる。だから目の前の棚に陳列してあるおにぎりとサンドイッチのどちらがいいか、決めかねていた。その時、何か嫌な予感がした。言葉では形容できないが、とにかく早く病室に戻った方がいいと言われている気がした。適当にサンドイッチを何個か取ると、素早く会計を済ませて来た道を戻る。そして彼の病室の近くまで来た時、看護師が病室へ入っていくのが見えた。理由は決まっている。ナースコールをしたからだ。なぜナースコールをするのかと言えば、看護師を呼ばなければならない体調だからだだろう。どうか何かの間違いだったり、彼が退屈紛れに呼んだだけだったり、そんな理由であって欲しい。そんなことを思いながら、病室のドアを開けて飛び込むように入る)
水月、どうしたの…!
(自分の期待と予想は外れ、彼よりもナースコールに気が付いた看護師が先に病室に入って来た。食器を下げて欲しいと頼むと、長く病院を利用しているせいで自分のノリをよく解っている看護師は『今度テストだって言ってたよね?絶対参加して、満点取ってよ~?』と、こちらも自分が食事を取れた事に安堵しているのかニコニコとしながら言われ。『勿論!って、子ども扱いはよして下さいよ~』なんて調子良く返せば、典型的な談笑の出来上がりだ。そうして笑い合いながら考える事は、看護師が先にここへ到着したという事はつまり今売店に行っている彼がこの場面に出くわす可能性が高くなったという事で、そうなればまた色々な思考の積み重ねで余り良くない方向へ進むかも知れない、との予感だった。だから今は取り敢えず看護師に早々に退室願おうとして会話を『じゃあまた、何かあったら呼びますね』と打ち切ったタイミングで、彼が病室に飛び込んできた。何やら只事ではない雰囲気だがこちらは単純に食器を下げて貰おうと思って看護師を呼んだだけで、実際身体の調子は大して悪くない。…この後も大丈夫な自信が無いので敢えて“大して”と付け足しておくが、本当にその位何とも無いので少しでも安心して欲しくてニコ、と笑いかけ)
あ~、零、おかえり。何か買えた?…どうしたん、そんな慌てて?
え、? 看護師呼んだでしょ。なんで何ともない…? あれ?
(病室に飛び込むと違和感を覚えた。確かに看護師は来ていたが、呼んであろう当の本人はまるで何事もないかのように笑みを向けている。ただの強がりかと思ったが、近くにいた看護師でさえ此方に怪訝な視線を送っている。それに気が付くと、一気に頭の中が真っ白になり、"?"が頭の上に並んでいるかのように、何も分からなくなってしまう。自分は生まれてこの方予防接種等以外で病院を受診したことなどないし、ましてや入院などもない。だから彼がまさか食器を下げてもらう為だけにナースコールをしたなんて、欠片ほども考えていなかった。ナースコールを緊急時の呼び出しと解釈していたからだった。考えれば考えるほどどんどん理解ができなくなって、暫くは餌を食べようとして直前に取り上げられたハムスターのように棒立ちだったが、やがて何事も無かったという現状を理解すれば、戸惑いながらも彼の質問にたどたどしく答える)
サンドイッチ、二つだけだよ。ハムと卵がいっぱいのやつ。買ってきたの。
あー…食器下げて貰おうと思って…まだ動くのしんどいからさぁ…あぁ、サンドイッチ買って来たのか。2つで足りるん?
(病室に飛び込んできた彼は暫く突っ立っていたが、自分と看護師の様子を見てようやく今の状況を理解したのか自分が買って来たものの内容を話してくれた。健康体の彼だからきっと、今まで自分以外の事でナースコールとは縁がないのだろう。だから今、自分が身体がしんどいからと食器を下げて貰う為だけに看護師を呼ぶ行為が珍しいのだ。そして彼が買って来たものといえば、サンドイッチ2つ。いつも少食な自分に遠慮しているのか本当にそれで足りるのか定かではないが、彼にとってはどうも少な過ぎる様な気がして尋ねてみる。その会話の内に看護師はいつの間にか居なくなっていて、彼と鉢合わせる前に退室して欲しいなと思っていた手前、食後に感じた息苦しさの事を伝えておくのを忘れてしまった。彼が消灯時間まで居てくれるのであれば大丈夫だとは思うが、どうせなら伝えてしまえれば良かったな、と少し後悔して。だが一先ず彼が食事を取る様子を眺めようとベッドに横になったまま顔だけ彼の方に向けて)
俺のことは気にせず…どうぞ食べて?
別にそんなにお腹すいてないから…これで良いの
(状況を理解すると徐々に顔が熱くなる。急いで来たが自分の勘違いだった。ただの勘違いで何よりではあるが、どうも彼の笑みのおかげで恥ずかしさが込み上げてくる。その恥ずかしさを誤魔化すために、目を逸らしながら意味もなく嘘をつく。本当は空腹で仕方がないのだが、とりあえずこの二つのサンドイッチは間食ということにして、消灯時間が来て病院を出た後に本格的な夕食を取ることにする。彼に促されて椅子に座ると、包装を開けてサンドイッチを頬張る。サンドイッチを咀嚼しながらも恥ずかしさは消えることなく赤面という形で残り続けているので、ただひたすらに会話もせずにサンドイッチを食べ進める。決して彼と目を合わせずに、あっという間にサンドイッチを二つ食べてしまうと、彼に揶揄いの対象にされる前にさっさと話題を変えようと画策する)
明日には退院できるの…?
…そう?なら良いんだけどさ…
(彼の言葉を聞いて、何となくいつもの心配性が彼をここまで焦らせたのだろうと思うと少し切なくなった。そんな自分に、身体が弱くて迷惑をかける不要な存在だと自分の中の小さな悪魔が囁く。それは間違いだ、彼がそばに居てくれるのは自分を大切に思ってくれている証拠なのだから大丈夫、と天使が2倍の声量で叫ぶ。その内にあっという間にサンドイッチを食べ終えた彼が新しい話題を振ってきた。『明日には退院できるのかどうか』、いつもの自分ならそんなのは愚問だと笑い飛ばしいてる所だが、今回はそうはいかないらしい。医者から聞いた退院についての条件の1つ目は、『コイル手術の入院期間を終えるまで』。2つ目は、『吐気が完全に無くなるまで』。コイル手術の入院期間は3日から4日なので、少なくとも明々後日までは病院に居なければいけないという事になる。そして問題は、条件の2つ目。今吐かずに済んでいるのは点滴による吐気止めのお陰なので、それが切れればまたどういう状態になるかは自分でも解らない。そう考えて来週テストがある事を医者に伝えると、持たされた薬を食前に欠かさず飲む事を条件に1日退院なら許可出来る、との話がされた。その後の経過は解らないので先の見えない話でうんざりしたが、それも自分の身体の所為なので仕方ない。取り敢えずここまでを簡単に相手に伝えようと、ゆっくり口を開く)
んー…取り敢えずは明々後日まで入院で、テストの日は、必ず薬飲むのを条件に1日退院、だって。…これは満点取らないとなぁ
そ、そっか。…じゃあ暫く入院なんだね
(良かった、と言いそうになり慌てて口を噤む。退院後の彼の体調を案じていたので暫くは病院に居てくれるだけで自分としては安心だが、それを彼の目の前で口にするのは憚られる。自分は彼のような健康状態では無いので、その辛さは理解できないが、きっと入院を強いられるのは彼にとっては窮屈で苦しいことこの上ないのであろう。無神経に自分が喜んでいい話では無い。だが彼の健康を考えるのであれば、やはり安心してしまう。自分の看病なんかよりここの方が百倍安心だ。ここならば彼は医師や看護師の言う通りにするし、彼に何かあったらすぐに対処してくれる。まず安心である。そして自分はずっと彼と一緒にいればいい。自分の理想そのものだった。別に彼の看病が嫌になったとか苦痛だったとかではない。ただ自分はいざという時に対処することができない。彼が吐いた時もあたふたとするばかりで機転の利いた行動をすることが出来ない。その自分の何も出来なさが心底嫌だった。だから彼がここにいれば、自分は心底安心できる。いっそ彼をこのままここに閉じ込めてしまえれば良いんだ。彼をここに縛り付けておくのが互いのためなんだと自分の中の大きな悪魔が叫ぶ。いやそれは彼の望むところでは無い。そんなものは幸福では無い、と天使が2分の1の声量で囁く。悪魔の暴走が始まろうとしていた)
まあ…あまり無理せずにここでゆっくり身体を休めようよ。大学も学生課に届け出て休学にしてもらうとかさ…。
(自分の話を聞いて、返答の言葉と共に彼の眉がぴくりと動いたのを自分は見逃さなかった。きっとまた何か、自分には到達し得ない考えが彼の中に浮かんだのだろう。それは果たして喜か?哀か?でもそれは、知り合った時からと同じで自分には踏み込んではならない彼だけの領域なのだから深く掘り下げないのが吉だ。そう考えて頷き、笑みだけを返す。そうして次に考えるべきは、入院の為の準備についてだ。当然病院に来た時は、まさか入院になるなんて思ってはいなかったのでスマホと財布はあるが充電器やタオル、着替え等の持ち物は勿論自宅にある。彼とは部屋を互いに自分の家の様に行き来しているので、自分も彼も互いの部屋の物の位置は何となく把握しているから、彼に頼めば今言った物は持ってきて貰えるだろう。そう考えていると彼の次の言葉が耳に入ってきた。『ゆっくり身体を休めて、大学は学生課に届け出て休学に』?…冗談じゃない!と咄嗟に言い返しそうになる気持ちをグッと堪える。落ち着け、彼は自分の為に最善の策を講じてくれているのだ。ここで無闇に言い返せば、それこそあの時の様に大喧嘩になってしまう。第一今の自分の体調がここ数ヶ月で1番酷いのは事実だし、こんな身体で学校に行っても楽しくないし、楽しめないのだから。色々と考えて、ここは一先ず彼の話に乗る事にしては口を開いて)
んー…そうだなぁ…じゃあ明日、ここに来るついでに届出の用紙と、俺の家から筆記用具と印鑑、着替えと充電器、タオルを何枚か持って来てくれるか?…俺の担当の宮内センセには、テストは受けられるってのも含めて俺からメッセージ送っておくからさ
うん…分かった…用紙は前に貰ったことがあるから、家から持ってくるね。明日は…1限しかないからそれが終わったら、ここに来るから。
(反発されるかと思いきや、あっさり承諾してくれた彼に僅かばかりの違和感を覚えるも、深く考えることはせずに満足そうに大きく頷く。休学届の用紙は彼が体調を崩す期間が長くなった時に貰いに行った。休学は彼にとって決して喜ばしいことではなく不本意なことだと理解はしているが、彼とはもっとずっと一緒にいたいから、必要であればやむを得ない。それが自分の考え方だった。物がしまってある場所は何となく覚えているので探すのに苦労はないだろう。決して喜んではいけないことのはずなのに、彼が休学を決めてくれたことに、つい喜の感情が胸に広がってしまう。ずっと自分が望んでいた決断をしてくれたという満足感から、胸を覆っていた言いようのない不安が雲散霧消したかのようだった。だが同時にそんな傲慢でどうしようもない自分に対する嫌悪も胸を侵食していく)
…うん、解った。じゃあまた明日、だな。…今日は、ありがとう
(穏やかなやり取りに安堵して、そう返事をすると今日の事について彼に感謝を伝え。休学、という響きには嫌悪感を抱くが、やっぱり今の自分には仕方ない。続けられた彼の言葉に『一限が終わったらここに来るから』というのを聞いて少しほっとする。それまで耐えれば、また彼に会えるんだ。思っていたより離れる時間が短かった事に、身体の調子が良くないからここにいるのに少し嬉しくなってしまった。笑っちゃダメだ、と自分に言い聞かせてなんとか笑みを作るだけに留め。そうして消灯時間が来ると、看護師がノートとボールペンを持って病室に入って来た。『ここに置いておくね』と言われたノートの表紙には“佐和水月の病状記録その10”とあり、書かれる内容は文字通り自分の病状とそれに対する処置、投与された薬の名前、その時間帯…と簡易的なカルテの様なもので、元々は両親の為に離れていた時間の自分の事が少しでも詳しく伝わればと小2位から看護師に頼んで書いてもらっている物で、一人暮らしを始めた今でも彼の不安が少しでも軽減されればと、続けさせて貰っている。あわよくば今回は使わずに済めば良いなぁとまるで他人事の様に考えながら、看護師の準備している様子を見ていて)
(/すみません背後です!この後別れて時間軸は翌日に進んでいくと思うのですが、離れている間の水月の病状はこれより悪化し入院期間が当初より長引いても大丈夫ですか?それとも、徐々に回復し早めに復学出来た方が良いでしょうか?セリフ等の相性も含め相談がしたいです!)
(/ 体調が悪化すれば零は悲しみながらも入院が長引くことで不謹慎ながら喜びます!そして自己嫌悪で苦しみます。 復学できると不安に苛まれますがやはり少し喜びます! 此方としては悪化を考えていましたが、どちらでもお選びいただけるようにロル投下しておきます!現状は零は悪化は望んでいないにしろ安全な病院にいて欲しいという水月君とは逆の願いを持っていますが、こういうやや仄暗い思いは継続した方がいいでしょうか?)
うん…じゃあ、また明日ね
(彼の言葉で間もなく消灯時間が訪れることを知ると、寂しさを隠そうともしない表情になる。これから明日の一限が終わるまでは彼に会うことは叶わない。その間に何かがあったらどうしようか。そう考えるとキリキリと胃が痛む。正直規則を破ってでも彼と共にいたかったが、いい歳した成人男性が駄々をこねる訳にもいかずに、素直に椅子から立ち上がる。ドアまでスタスタと歩いていくと退室の直前に彼の方を振り返り、名残惜しそうに上記を言う。言い終わるとそのまま大人しく病院を出る。入院は心配ではあるが少なくとも休学の決意をしてくれたことで、少しは安心できる。複雑な思いを抱えたままステアリングを握って車を動かし、帰宅する。帰宅するとまず彼の部屋へ入り、頼まれていたものを用意する。大体はどこに何があるかは把握しているので、用意は迅速に行うことができた。用意したものを忘れてしまっては大変なので助手席に予め置いておく。そして今後の彼の体調が悪化することなく現状維持出来ればいいという思いと、長い入院生活から早く解放されて欲しいという矛盾を抱きながら、そのままベッドに倒れ込むようにして横になり、さっさと眠ってしまった)
(/お返事ありがとうございます。こちらとしても2人の絡みをもっと見たくて、それにはやはり現状から悪化していた方が心配されたり色々な事を深く描写し合えたりするのではと考えていたので、良かったです。水月がこれより苦しむのは生み出した親なので少し辛いですが…そこは零君に沢山構ってもらっている水月を見て癒しを得てプラマイゼロ!…という事で。零君の水月に対して現状抱いている感情につきましては、今のところこちらの解釈とも合っていますので大丈夫です。先ずは下記、翌日まで繋げさせて貰いましたので、よろしくお願い致します!)
またな~…はぁ…
(病室を出ていく彼を努めて明るい声で送り出すと目で追い、無機質にドアが閉まってしまうと自分は寝ている状態なのでそれ以上彼の存在を感じる事は出来ず。あからさまに寂しそうにした自分を見兼ねてか、2人の様子を見ていた看護師は『早く明日になれば良いね。先ずはゆっくり、おやすみなさい』とにっこり笑って声を掛けてくれ、いなくなった。そうして1人になったので眠ろうと目を閉じたは良いものの、結局使いません様にとの願いとは裏腹に、ノートには次々と項目が追加されていった。翌日の朝方までに2回喘息の発作で起こされ咳が止まらずに嘔吐してしまった事。特に2回目はいつもの吸入では治まらず嘔吐の量も多かった為に、担当医の判断で1段階強い薬での吸入をした事。そのお陰ですっかり日が登ってからやっと落ち着くと、彼が来るまでは吐き気止めと脱水の為の点滴を交換して貰いながらゆっくり眠る等して過ごせていた事。起き上がる事が出来ないのでオムツを履かされそうになった時は、朦朧とした意識の中でもとてつもない羞恥が自分に襲い掛かったので掠れた声ながら全力で拒否し、結局カテーテルを装着された事。そこまで記入されてその下は空欄のノートは、開かれたままボールペンと共にオーバーテーブルのよく見える位置に置かれていて)
(明くる日、一限の授業が終わるとすぐに車に乗り込んで病院へ向かう。彼は宮内先生に連絡を入れてくれただろうか。休学届も素直にサインしてくれるだろうか。そんな疑問はあったがとにかく彼の顔を早く見たくていつもよりもスピードを出して病院に向かう。寄り道もせず渋滞もなかったので、30分ステアリングを握り続けていれば、病院へとあっという間に辿り着く。彼は健やかでいるだろうか。不意に不安が襲ってくる。何か良くないことが起こるかもしれない。存外に自分は直感を大切にする。勘とはこれまでの多くの経験を得て蓄積されたデータベースだと思っているからだ。そのデータベースが不安を感知したので病室へ足を急がせる。静かに病室のドアを開けると「来たよ」と声を掛ける前にノートが目に付いた。不安の正体が分かるかもしれないと、荷物を椅子に置くと彼には目もくれずにノートを読み出す)
……なんで。嘘…。
(ノートに書いてあるのは自分が知らない事実ばかりだった。いずれも自分が病院を出た後起こったことだろう。別に自分が残っていたらどうなってた訳でもないのだろうが、それでも自分が居ぬ間に彼の体調が悪化したことはショックだった。思わず声が洩れると、ぽろぽろと涙が溢れてくる。彼の体調がどれほど重篤なのか、カテーテルの挿管がどういう意味を持つのか、自分には分からない。だが分からないからこそ恐怖心が倍加する。ノートを置くと怯えた目を彼に向けて震えながら言葉を発する)
……病院に居るから、これ以上悪くなることは無いと思っていたのに。
(/ ありがとうございます!返信遅れてしまって申し訳ないです!)
ん…
(吐き気止めのお陰ですーっと胃の中の不快感がラクになるのを感じていると、自分が思っているより大分体力を消耗している事を実感して。目が覚めていても身体は十分に動かずもどかしく感じ、時計が見られないので実際はどの位か分からないが、自分は相当な時間辛く苦しい思いをしたんだ、それはきっと自宅だろうが何処だろうが変わらないんだ、何処でだって自分の体調はコントロール出来ないのだから仕方のない事なのだと浅く細い呼吸を繰り返しながらそんな事を考えて。そうしていると病室のドアが開く音が聞こえた。入ってくる気配で彼だと解ったが、当然目も開けられなければ身体も起こせないので何もこちらから伝えられはせず。代わりに彼が自分の事を見ているかは分からないが少し動く口の端を上げ、それで彼が来た事は解っているとアピールして見て。その内に何か彼が呟き、次第に鼻をすする音が聞こえ、泣いているのだと解った。自分の事について泣いてくれるなんて家族以外では有り得ないと思っていた時もあったので少し嬉しくなってしまうが、こんな事で泣かせるのは間違っているのも知っている。その後に続けられた言葉には声は出せずとも口を動かしていつもの様に反論する。『病院にいるからって、体調が悪化しないなんて保証、何処にもないだろ』、と感嘆符が5個くらい付きそうなイメージで。そうして暫し彼の事を見ていたが恐らく彼は自分が目覚めている事に気が付いていないので、気付かせる為に声を発しようと息を吸い)
…れ…い…おは、よ…
(/大丈夫ですよー、お待ちしてましたー!)
水月!……水月…か、身体…なんでそんなに悪くなっちゃったの……
(おはようと声を掛けられるとハッとして彼が起きていたことを知る。思わずいつもより僅かばかりに大きな声を出してしまうが、すぐに口を抑えて、いつもの声量で彼に問い掛ける。そんなこと彼が一番知りたいはずなのに。彼が自分を満足させるだけの答えを持っているはずがないのに。無駄だと分かってはいるが、とにかく誰かに聞きたかった。そして何かしらの答えが欲しかった。分からないのは、怖い。彼の身に何が起きて、何が問題なのかを知りたかった。年甲斐もなくいつまでもグスグス泣いていられないと自分に言い聞かせて、やっと涙の濁流を止める)
そ、そうだ。先生、先生呼んでこようか。具合、悪いでしょ…? 先生呼んで見てもらおうよ。色々と聞かなきゃいけないことがあるんだ…
(涙は止まっても頭の中はパニックそのものだった。思い付いたかのように医師を呼ぼうと提案し、病室の中をウロウロしながら呟くように言う。この緊急事態に脳が耐えられなくなっていた。怖い。彼がなぜ体調悪化したのか分からないのが怖い。容態の是非が判断できないから怖い。彼が突然居なくなるかもしれないのが怖い。様々な恐怖で頭の中は支配されて完全に冷静さを失っていた)
…そんなの…俺が知りたいよ…
(自分の言葉に気付いた彼からは、至極難しい質問が投げかけられた。だが色々と考える気持ちの余裕も、長く言葉を話す労力も無い。だから上記を短く返して、溜息を吐いた。その後せめていつまでもグスグスと泣いている相手を慰めようと笑ってみせるが、きっと効果は無いだろう。その内に彼から先生を呼んで診てもらおうと提案されるが、生憎昨日の夜から彼に会うまでに嘔吐やら点滴の交換やら吸入やらでノートには明確に書いていないが、少なくとも5回はナースコールをし看護師と共に病室に来て処置をして貰っているので、体調のせいとは言え、流石に申し訳なくなってきた。だが、ぶつぶつと呟きながら自分が寝ているベッドの周りをうろうろと歩き回っている彼を見て、そこまで色々な事が気になるのであれば、彼の為にも早く安心させてあげなければとも考え。そうしていると少し、腹の辺りに違和感を感じた。それが次第にはっきりとした腹痛に変わると、昨夜朦朧とした意識の中で医者が話していた事を思い出す。ー制吐剤が切れてくると腸を含める内臓は普段通り機能し始め、当然いつも通り排泄欲も出てくるので、したくなったらまた呼んで下さいー折角吐き気が落ち着きつつあるのに、今度はそれで苦しめられなくてはいけないのか。だが漏らす訳にはいかないし、それが終わった後なら彼と医者が話す時間も少しは設けられるだろうと思い立って)
…じゃあ呼ぶけど…『したい事』あるから、その後でも良い?
したいこと…? うん。分かった…
(溜息を吐く彼を一瞥すると、焦るあまり馬鹿なことを聞いてしまったなと後悔する。彼の呆れたような反応は少し自分を冷静にさせた。ウロウロしていた歩みを止めて大人しく椅子に座る。あっという間に大人しくなる様はまるで冷水を掛けられた犬のようだ。そんな時、彼の言葉に首を傾げる。医師を呼ぶことをあっさり受け入れてくれたはいいが、彼の言う"したいこと"とは一体なんだろうか。言葉から察するに医師を呼ぶことは決まっていて、自分はついでかのような言い方だった。きっと重要なことなのだろう。身体を動かすのも辛いだろうから代わりに腕を伸ばして、さっとナースコールのボタンを押す。ボタンを押すと医師が来るのを待っていたが、何となくこの場に自分がいることは憚られるのではないかと思う。自分が超能力者では無いが、彼とは長年ずっと一緒にいる。だから表情や声のトーンから何となくそんなことを感じ取る。彼に顔を寄せて眉間に皺を寄せながら、聞きづらそうに質問してみる)
もしかして、俺いない方がいい?
(自分がひと言言うとすん、と大人しく椅子に座る彼を見ていてやっぱり自分の言葉がちゃんと届いているんだという事を実感して。彼の要求がついでの様な言い方になってしまったのはまずかったかなとも思ったが、その辺りについては言及されなかったので一先ずほっとして。自分の代わりに彼がナースコールを押してくれる間にも腹痛は酷くなっていき、前はこんな風じゃ無かったのになぁ、と考えながらゆっくりと腹を摩っているとひとたび首を傾げた彼が次の瞬間には聞きづらそうに『自分はこの場にいない方が良いか』と聞いてきた事で、恐らく自分の発言のトーンや微妙な表情から察したのだろうか、流石幼馴染!と言いたい所だが今回ばかりは気付かないで欲しかったとも思い。だがいよいよ限界が近付いて来たので、自分が言った“したい事”の内容を話さなくてはいけないだろう。どうしたら遠回しかつ要点が伝わるかと考える余裕はもう無く、もうそのまま伝えてしまおうという結論に至る。嘔吐も併発してしまわないと良いなと思いながら口を開き)
ん…腹、痛くてさぁ…出そう、だから…聞かれたく無いから、部屋出てて…
そ、そうだったの。ごめんね、外でてるからっ
(彼の言葉でようやく事態を把握して、そして慌てて病室を出る。自分の幼なじみの勘が当たっていた事は存外良い気分だが、内容を聞いて後悔した。普段冴えない分こういう所で勘が当たるとさすが幼馴染!と自賛したくなるが、今回ばかりは気付きたくなかった。尤も、気付かずにあの場にいたらいたで、早晩医師らがやって来て『したいこと』が分かっただろうから、どちらにしても気まずくなっていたであろう。自分が病室を出ると入れ替わるように医師たちが近付いてきた。医師が病室に入ろうとした時に呼び止めて、用向きが済んだら彼のことで話があると伝える。一瞬キョトンとした顔をした医師だったがすぐに承諾してくれた。そのまま彼らが病室に入って行くと、壁に寄り掛ってため息を零す。今のうちに聞きたいことを整理しておかなければ。頭の中で事前に整理しておかないと、いざ質問をしようとする時に頭の中が真っ白になってしまう。そうして暫く考え込んでいると、病室から他の看護師たちが出てきた。もう終わったのだろうか。病室のドアを僅かに開けて顔を半分出しながら尋ねる)
水月、もう終わった…?
ぅん…ごめんなぁ…
(彼が病室を出ると入れ違いに医者が2人の看護師と共に病室に入って来た。昨夜のやり取りからもうなんとなく事態を察しているだろう医者に、小声で『用を足したい』と告げる。すると看護師達がワゴンから必要物品を取り出し早速準備に取り掛かってくれた。自分の腹はその間にも強く締め付けられ、悲鳴を上げていた。少しして『準備出来ましたよ、どうぞ』の声と共に身体を横に向けたまま背中を摩られると、尻の力が抜けてほぼ水のものが排出されていった。荒い呼吸と共にその排出を何度か繰り返していると、不意に気持ち悪さが押し寄せた。排出には区切りがついたので一先ず後処理をして貰い、吐き気が出た事を伝えると、『そうですか…辛いですね…』と医者は声をかけて看護師にタオルを口元に敷くように指示し、尚も背中を摩ってくれた。もう出すものはほぼ残っていないので、とても気持ち悪いが吐き出せはしなかった。『吐けますか?』との質問に自分が首を横に振ると医者は『安静にして一旦様子を見ましょうか』と伝えてきた。薬とはいえ吐き気止めも沢山使いすぎるのは良くない事で、その他明確な症状が無ければ極力使わない方が良いのだ。そうして看護師達は片付けを終えると先に病室を出て行き、彼から声を掛けられたのだろうか医者が残った。そうして彼が病室に顔を覗かせ処置が終わったからどうか尋ねてきたので医者が何かを返そうとするのを少し遮り、彼の顔を見て)
…終わった、よ…っん…く…また気持ち悪いのは、ぶり返して来たけど…っ、うぅ…
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