ネガティブ 2024-08-12 19:24:43 |
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…ッ!?
み、水月……よ、良かった、気が付いたの…!
(もしかしたらこのまま意識が戻らないのではないか。傍にいるとは言ったものの、死んだように眠っている彼を見て一瞬だけそんなことを考える。ダメだダメだ。彼に倣ってポジティブ思考でいなければ。意識を切り替えるためにぎゅっと目を瞑った時だった。柔らかいものが頬に触れる。ハッと目を開けると、目が覚めていた彼に撫でられていた。そして自分に負けず劣らずのか細い声での言葉を聞くと、それが合図になったのか。目からぽろぽろと涙が溢れ落ちる。今日は泣いてばかりだな──場違いにもそう思ったが、これは悲しくて泣いている訳では無い。親はよく言っていた。嬉しくて流す涙は良い涙だと。だからこの涙は恥じることなく、止まるまで流せば良い。眠っている彼に縋り付くように泣いていると、自然と心が落ち着いてきた。こんなに泣いたのは──とは言え自分は事ある毎に泣いてはいるのだが──久しぶりだ。そして彼の体調がこんなに悪くなったのも。そこで大事なことを思い出した。医師を呼ばなければ)
そ、そうだ。お医者さん呼んでくる…ま、待ってて
(ナースコールを押せば済む話なのだが、今は彼が目覚めたこの喜びを口にしたかった。だからナースコールを押さずに彼に一言告げると病室から出て行く。近くにいた看護師に声を掛けて、医師が到着するのを待ってから、彼らと共に病室へ向かい。病室を出て行ってから数分後、医師と看護師を連れて彼の元へ戻ってくる)
(自分が声を発するとどうやらそれは相手に届いていた様で、先生を呼びに行くと言って早々に病室を出て行ってしまった。相手の頬を撫でていた手は行き場を失い、空を描いていた。だがそれに気付くのにも数秒要する程、自分の頭は回っていなかった。病室に1人になると急に心細さが襲ってくる。普段から元気な時の方が少ないが、それでもここまで消耗したのは本当に久しぶりだった。周りを見ようと起き上がる為に動かした手にも、十分な力が入らず体を支える事が出来なかった。声を出してみるとまだ掠れていたので一旦止めようと口をつぐみ、そのままぼんやりと部屋の天井を見つめていて。その内に相手が先生と看護師を連れて病室に戻ってきて、段々と意識もはっきりしていき質問にひとつずつ答えていき。その話の中で、自分は喀血の原因である血を止める為に喉のすぐ近くの血管にコイルを入れる手術をした事、その時の麻酔の影響で今は十分に声を出せない事、飲食が可能になるのは麻酔が切れてからーーつまり後1時間は何も口にできない事を辛うじて理解するとあぁ、自分はそんなにヤバかったんだなぁ、と自覚し始める。無理しちゃダメだよ、と告げて先生がいなくなるとまだ自分の方を見ていた看護師と目が合い、『今日のお洋服も素敵でしたよ』と告げられてこんな時なのに少し照れてしまい。病室に2人きりになると相手の顔を今度は目線を合わせてしっかりと見て、掠れた声で)
…ここの看護師、やっぱりみんな可愛いよな…
(後ろの方で医師の説明を聞いていて胸が痛んだ。コイルを入れる手術とはどのようなものか医学に精通していない自分には想像もできない。だが少なくとも手術が必要なほど彼の身体は危機に晒されていたということだ。それを思うとやはり不安が湧き上がってくる。説明を終えると医師は病室を退室していったが、退室間際の「無理しちゃダメだよ」という言葉には大きく頷く。そうだ。彼は無理をする。持ち前のポジティブ思考のおかげで何でも楽観的に前向きに考えられることはいいことだが、それと無理をすることは違う。これからは無理しないように事前に相談をして欲しい。そんな苦言を言おうとした時、彼の軽口が耳に入る)
…………そうかな。水月がそう思うなら、そうなんだと思うけど。俺にはよく分からないかな
(眉間に少しだけ皺を寄せて、不機嫌そうに言う。何なんだ。きっとただの社交辞令なのにデレデレして。そしてやはり自分の本意に彼は気付いていないんだろうと思う。幼馴染として彼のやや後ろに立ち続けてきて、自分はいつしか彼に好意を抱いていた。自分はてっきり異性愛者だと思っていたのに、いつしか彼に惹かれていた。別にこの気持ちに気づいて欲しい訳では無い。打ち明けるつもりもない。生涯隠し通す覚悟だ。だが何となく彼の照れ笑いや、かわいいなどと言って貰える看護師に大いに嫉妬し、ナヨナヨとした普段とは違いツンとした言い方をする)
……横になってっともやもやして気持ち悪いからさ、ベッド、上げてくんね?
(自分は冗談のつもりで言ったのだが、どうやら相手を怒らせてしまったらしい。その理由までははっきりとは解らないが、人の変化に気付ける人間になりたいと努力した結果、普通なら気付かない様な些細な事にまで気付いてしまう自分には正直、少しうんざりしていた。それをこの口は上手に口聞き出来ないものだから、余計に相手以外の友人には距離を置かれてしまう。それをしまいとする努力が実り、彼の前だけでは何とか突飛な事や質問を口に出さない事に成功していて、こうして一緒にいてくれる訳なのだが。とにかくこれ以上深掘りすれば良くない方向に進めてしまうと直感し言及を取りやめて。そう言えば彼はどうしてこんな面倒臭い自分と一緒にいてくれるのだろうという疑問も思い浮かんだが、今でなくても良いと一旦口には出さない様にして。それはそれとして一先ず処置が終わり、先生と話していてはっきりと自分がちゃんと生きていると実感し始めた辺りから、胸の辺りが何だか気持ち悪くなってきていたのを思い出し、上記を述べて。点滴はしているので脱水は凌げている筈だが、それはそれで胃が空っぽな事に間違いはない。後1時間は飲食出来ないと伝えられたので空腹を満たす事は今は出来ないが、上半身を起こす事で少しでも紛らわせるだろうかと考えていて)
うん…分かった。
でも大丈夫? あんまり辛いならナースコールした方が良いんじゃない…?
(彼の心中などいざ知らず、現金なもので彼が看護師の話題をやめると、いつもの表情に戻る。彼の要望にこくりと頷くと、ベッドの角度を調節しながら彼にナースコールを押すことを提案する。今日の彼は何も口にしていないし、口にしても嘔吐してしまっていた訳で。さすがに胃の中には何も入っていないから、嘔吐しようとしても胃液程度しか出ないだろうが、それはそれでまた気持ち悪さしか残らないため、辛いだろう。それよりは折角こういう問題に正確に対処してくれる人達がいるのだから、素直に呼んだ方が良いと思うのだ。もちろん、先程の看護師以外が望ましいのだが。ベッドを起こすと傍にある椅子に座り、改めて彼の顔を見つめる。普段は端正な顔立ちだと思うのだが、今日は体調の悪さと術後ということもあって、あまり顔色は良くない。やはり想いを秘めている相手には健康でいて欲しい。もはや寸分の苦しみも与えたくない。そんな切実な願いから、チラチラとナースコールのボタンと彼の顔の交互に視線をやる)
んー…そうする、かなぁ…
(ベッドを上げてもらい少し楽になったが、それで完全に吐き気が消えた訳ではなく胃の中はびくびくと気持ち悪いままで。相手の提案通りこのままナースコールをしても良いが、専門職に頼るという点で、自分が押し渋っているのには理由があった。そもそも吐き気止めというものには投与方法には薬の服用、点滴、座薬という風に種類があり、今の自分の状態では恐らく口からはものを摂取出来ないので薬の服用は除外。点滴は1度めちゃくちゃ痛いという噂を聞いてから拒否しているのでこれも多分除外される。となると残されているのはーーうん、考えるのは止めよう。とにかく今は、楽になりたい。その時一瞬気が抜けたのか、ぐぁ、と吐き気が込み上げとっさに容器を掴むと口に当てがい胃液を吐き出し。まだ少し麻酔が効いているので喉の辺りに違和感があり、それが気持ち悪くて再度嘔吐した。変わらず出てくるのは胃液のみだったがそれが苦しく、ゼィゼィと呼吸を繰り返しながら少し容器から顔を上げ、またも掠れた声で相手に告げ)
…わり…ナースコール、押して…
ん…分かったよ
(案の定彼が嘔吐すると一瞬、ビクッと肩を揺らしたがすぐに冷静になる。容器に胃液を吐きながら呼吸を荒くする彼は、見ているだけでも辛そうだった。彼の言う通りにボタンに手を伸ばして一回押す。押してからすぐに看護師が駆け付けた。看護師に気持ち悪くて嘔吐したと説明をすると、すぐに処置の準備に取り掛かってくれた。その準備を見守りながら嘔吐する直前まで彼が複雑そうな顔をしている理由を考えてみる。単純に吐き気を我慢しているのかと思ったが、ナースコールを提案した時嫌そうな顔をしたのを見逃さなかった。何が気に食わないんだろう。薬を飲めばいいだけなのに。そこまで考えた時にあっと思った。彼は手術直後で暫くは飲食ができない。きっとそれは薬も同様なのだろう。となると点滴か座薬──座薬? そうか。彼は座薬が嫌なのか。確かに赤の他人に座薬を施されるのは成人男性にとっては大いに恥ずかしいことだろう。何となく彼の意図が分かると、呼吸を荒らそうにしている彼に耳打ちする)
俺、外に行ってようか?
ん…ありがと…
(相手がナースコールを押してくれたのを見ると礼を言い、続けて咳き込みながら嘔吐しているとその内ナースワゴンを押しながら病室に入って来たのは小さい頃から顔馴染みの男性看護師で、『ごめんねさっきは来られなくて。急患取っててさぁ…あ、お友達に連れて来て貰ったんだね~どうも~』なんて慣れた様子で話しながら相手にもぺこ、と頭を下げる様子を見ていると苦しいというのに少し笑ってしまい。こうやって患者の不安や不調を和らげる様に話せるのは、彼らの職業に対する向き合い方がそうだからなんだろう、とぼんやり考えていると、相手の話を聞いて『術後だし薬は飲めないかな…点滴も嫌がってたもんね?』と問われ、自分が頷くと『じゃあ…座薬かな。準備するね』とテキパキと準備している様子を眺め。そうして今の状況をはっきりと理解すると気持ち悪さを上回り恥ずかしさが押し寄せてきて。今からでも点滴にして貰おうか、いや、やっぱり痛いものは痛いから辞めておこう。そんな事をぐるぐる考えていて、まだ吐きそうだったので話せずにいると彼が『外に行っていようか』と耳打ちしてくれた。申し訳なく思いながらもこれ幸いと無言で頷き、彼が病室を出ていくまでと看護師が準備を終えるまではじっと吐き気に耐えていて)
(彼が頷くと男性看護師にぺこりと一礼して病室を退室し、近くの壁に寄り掛かりながら、男性看護師が退室するまで待つ。座薬が嫌な気持ちも分かるが、自分としてはこれで彼の体調が好転するなら、ここは多少嫌な思いもしてもらいたい。自分は酷い男なのだ。彼の体調が良くなるなら何だってするべきだと思っている。自分のものや時間、金銭、果ては身を捧げることも厭わない。周りの人間もそうするべきだと思っている。そしてそれは彼自身も例外ではなく。彼の健康に有益であれば、自分はどんなに嫌なことも強制させるだろう。100パーセント自分のエゴでしかないが、彼が健康になるのならば、自分と同じように大病一つない身体になれるのであれば、どんな犠牲も安いものだ。時々思う。自分の健康と彼の病気をトレード出来たらどんなに良いかと。自分のような人間より彼の方が健康でいるべきだ。だがこんなことは決して彼には言わない。"冗談でも言うな"と怒られそうだからである。彼は滅多に怒らないが、きっと自分がネガティブで身勝手なことを言えば、烈火のごとく怒るだろう。そういえば一度本気で怒られた時は──そうやって昔のことを振り返り続けていると、しばらくしてから看護師が病室から出て行った。それを確認すると病室に入り、やはり小さい声で彼に問いかける)
…気分、良くなった?
(相手が退室すると『じゃあ入れようか』と看護師が準備万端でこちらを見ていて、流石に覚悟を決めると病衣のズボンと、パンツを下ろしていき。座薬を入れられるぞわ、という感覚に目を瞑り耐えて。『終わったよー』と言われ元通りに履き直すと少し緊張が解けてゆっくりとため息をついて。本当に少しずつだが吐き気が引いていく感覚に安堵しつつ、看護師が出て行ったのと入れ替わりに彼が戻ってくると『良くなった?』と聞かれるとこく、と頷き。気が付くと麻酔はすっかり切れていて、術後の痛みはあるものの来た時と比べると身体は楽になっていて。もう少し待って大丈夫なら何か食べようかなと考え、それなら自分で食べたい、ともぞもぞと身体を動かしてみると意外と動いたのでまた少しほっとして。今なら何か出来そうだと考えて、ふと今日の授業の事を思い出し。そういえば相手が自分の部屋に来た時に何かプリントを抱えていた。恐らく授業のレジュメだろう。今持っているかはわからないが、そうで無くても起きている時に何かしておきたいと思い、聞いてみて)
…あのさぁ、今日何教えて貰ったん?聞かせてよ
…今日はね、まず歴史学では新古今和歌集の読み取りと、後鳥羽天皇の政治的意図について──
(先程とは打って変わり随分と体調が良さそうな彼に安堵しながら、嬉しそうに今日の講義の内容を説明する。彼とは履修している講義が多く被っているので、こうやって説明するのも楽だ。それに彼は自分とは違ってすぐになんでも吸収してしまうから、自分の説明でもすぐに理解してくれるだろう。自分は普段はあまり熱を入れて喋らないのに自分の専攻分野となると饒舌になる。そんな自分の癖が嫌いだ。だが口は止まらないのでべらべらと喋ってしまう。彼はこんな自分をどう思っているのだろうか。幼馴染とはいえ、心の底までは分からない。自分は彼の内面を探るだけの度胸がない。だから未だに彼が何を考えているのか分からない時がある。それに自分は彼と一緒にいるとドキドキとする時がある。だから冷静に物事を考えることがおぼつかなくなる。しかしこのまま彼について知らないことが増えるままなのもどうかと思い、一頻り講義の内容について説明をすると呟くように彼に問いかける)
今言ったのが今日の講義内容だけど…水月ならもう大丈夫だよね? 勉強得意だから…。勉強なら何でもできるよね?
うん、うん…成る程…
(彼が話す内容に適度に相槌を打ちながら、何だか微笑ましい気持ちになっている自分に気付く。彼は普段進んで話をすることは無いので大抵は自分が話題を振る事になるのだが、彼の好きな事となると話は別でとても饒舌になるのだ。はたから見るとその表情の変化は解りにくいが、自分には解る。そして、羨ましい。病気がちな自分はこれまでずっと、身体の調子が良くなりこのまま行事に参加できるのでは!と希望を持たされた矢先、毎度欠かさず前日に倒れたり逆に当日に起き上がれなくて部屋から出られなくなったりし、その度に期待を裏切られてきた。だから一度熱中しかけた事も、もしまた身体のせいで続けられなかったらと思うといつも半ばで諦めてしまう事が多かった。服の事もたまたま好きなものを着られてそれが憚られる経験が無かったから続いているだけで、今後はどうなるか解らない。だから、自分は彼が羨ましいのだ。自分の好きな事について、好きなだけ語れる彼の事が。だが自分がそんな感情を抱えているとは到底知る由もない彼が、自分の前で彼の好きな事について語っているのがどうやら可愛く見えて、自然とその顔には笑みが宿っていた。それ故に『大丈夫だよね?』と聞かれると些か自分が期待されているのではという淡い感情を抱いてしまい、嬉しさから少しぎこちなくなって)
大丈夫、だよ。零の説明、めっちゃ解り易かった、から…
(/いつも素敵なお返事をありがとうございます!背後です。毎回中々まとめようと思っても伝えたい事があり過ぎて書き込み量が多くなりがちですみません…今後についてなのですが2人の過去に少し触れたいと考えておりまして、主な内容としましては①水月と零の出会い(いつから互いを知っていたのか、関係が出来たきっかけのエピソード等案があればお聞きしたいです)②今のひとり暮らしについて(これだけ身体の弱い水月がひとり暮らしを勝ち取れたのは、零が隣室という条件付きだったから?等)その辺りを具体的に今後のお話に盛り込みたく考えておりましたが…如何でしょうか?)
そっか…ありがとう
(返事を聞いておや、と思う。いつもの彼ならすぐに快活に返事を寄越すのに、今回はなんだかぎこちない返事だったからだ。何か癪に障るようなことでも言ったかと不安になるも、彼の表情を窺うとそういうわけでもないらしい。なら安心しても大丈夫かと判断して、頬を弛める。彼に褒めてもらうと心が満たされる感覚がする。この褒め言葉があれば、自分はもう他に何もいらないと思える。そんな充実感から、つい昔のことを思い出す)
……ねえ。初めて会った時のこと、覚えてる…?
(自分は鮮明に覚えている。それこそ何度も夢に見るくらいには。彼は覚えていてくれているだろうか。いや、覚えていてもいなくても自分さえ思い出せればそれで良い。定期的に自分が彼に聞かせて思い出させればいい。彼の返事を待たずして頭の中で初めて会った日の回想をする。ああ、あれは確か──)
(/ とてもいいと思います!2人の出会いなどは私は小、中学校程度からかなと考えていました。案としては「学校などで体調を崩した水月を零が見つける」や「元々ただの友達だったが、水月が病弱なのを隠していることを知ってからより親密になった」など考えていましたが、最終的にはお任せします。一人暮らしは、零がやめさせようとしたが、最終的には折れて自分の隣だったら良いと言ったから…とかを考えていました。いずれにしてもキャラの深堀りができるいい機会だと思いますので、どんどんやりましょう!)
んー…憶えてる、と言うより…アレは忘れられないなぁ…
(授業の話に一区切り付くと、彼から発せられた質問には少し考えて発言し。質問に対しての答えは勿論イエスだが、問題はその内容だ。ーーあれは確か、中2の夏のある日。元々熱を出しやすくて、小学校からずっと担任にそれを伝え夏場は授業中の冷えピタ使用の許可を取っていたが、あの日は運悪くカバンに入れるのを忘れてしまった。仕方無くいつも通り振る舞っていたがみるみる体調は悪化し、どうしても保健室に行きたくなくて体温が上がる感覚と悪心を我慢しながら何とか授業に出席していたが、とうとう耐えられなくなり教室で思い切り嘔吐してしまったのだ。集まる視線、級友の話し声。その後どうしたかは正直憶えていないが教室を飛び出して羞恥と恐怖で体が震えパニックになっていた自分を彼が見つけてくれたのだ。教室の隅にいつもいた、大人しい彼。誰かと話す事があってもとても声が小さく、周りが耳を傾ける様子が印象的だった彼。その彼が自分を探し出し、『大丈夫!?』と大声で聞いてくれた。初めて聞いた彼の大きな声。必死に探してくれたのだろう、呼吸が上がっていて額には汗が滲んでいて、それでもしっかりと自分に手を差し伸べてくれた。ぐちゃぐちゃとした記憶の中で、その光景だけは、今も鮮明に憶えている。その時全てが救われた気がしたーーそれはそれとして、あの凄惨な光景をまた思い出す事になり、片手で顔を覆い少し彼から目線を逸らして)
…思い出すとやっぱ、恥ずいな…
(/ありがとうございます。迷いましたが、「元々顔見知り程度でうっすら病弱な事を公開しているのも知っていたが、水月が上記の出来事を起こしたのをきっかけに親密になった」という風にしてみました。一人暮らしの事についてはここで触れるとより長くなってしまうと考えましたので、以降のお返事で進めていければと思います!お相手様の案とても良いので、取り入れたいと思います!よろしくお願い致します)
ふふ……俺の声を一発で聞き取れたのは水月だけだったね。あんなに具合悪そうにしてたのに
(何やら大声を出した気もするが、そもそも自分は大声を出したつもりでも、相手に聞こえていないことが多々あるため、きっとその時もその程度のボリュームで話しかけたに違いない。だから彼が答えてくれた時、不謹慎ながら嬉しかった。てっきり聞き返されるばかりだと思っていたのに。そこから何となく彼のことが気になりだし、気が付いたら一気に親密になっていた。クラスでは意外な組み合わせだと言われることもあったが、何となく彼を放ってはおけなかった。あのまま自分が見つけなかったら、追いかけなかったら。そう思うと自分が彼にとって必要な存在なのではないかと思ってしまった。今では自信が無いが当時としては本当にそう思っていた)
友達になったばかりの時、ずいぶん苦労したよね。俺がいつもビクビクしてるせいで、水月が俺をいじめてるみたいに見られた時もあったし
…(当時の自分は今よりもずっと臆病で、道を歩くだけでいつもオドオドしていた。自分は別に誰かにいじめられている訳でも、彼は別にいじめっ子という風貌でも無いのだが、自分があまりに挙動不審なせいで彼に迷惑をかけてしまった。今となっては良い思い出だが、当時は相当に苦しんだ。それでも彼から離れようという気にはならなかった)
(/素敵な設定をありがとうございます! 今後とも要望などがあったら遠慮なく言ってくださいね!)
うん…そうだったな…っふ、もういーって……あぁ…そんな事もあったっけなぁ…
(あの時は、本当に消えてしまいたいと神に願っていた。だからそれを実行する為に全ての神経を耳と目に集中させて時が過ぎるのをただ待っていた。だから彼に声を掛けられた時は心底驚いたし、本当に嬉しかった。今でこそ隠し事が多くなってしまったが、当時は彼になら全てを任せられる、と全てを曝け出す覚悟を決めていた。それまで自分の事を気遣ってくれる人は多くいたが彼との間よりも酷い事件は起きなかったので、その真意はずっと解らないままだった。でも、彼との出会いは違った。自分には、彼の様な存在が必要だったのだ。それもあの様な事があったからだろうと思うと少し複雑だが、それでも彼の事が知れたなら良かったと思う。そんな事を考えていて気恥ずかしさから顔が少し赤らんだのが引いていくと、続けて彼からまた話題を振られてもう少し当時の事を思い返してみる。確かに当時は自分らの関係は周りには異色だったらしく本当に色々な事を言われ、自分は彼を守るのに必死だった。彼の繊細な内面を誰よりも知っていたから。でも自分がどれだけ失敗しても自分から離れていこうとはしなかった彼は意外と強いのかも知れない、もしかしたら守りすぎたかな、と少し失礼な事を思ってしまったのは内に秘めておこうと思い直していると、食事を運ぶワゴンが病室の前を通るのが見えて少し眉間に皺を寄せて)
…そっか、もう晩御飯の時間か…
(/こちらこそありがとうございます!ではまた顔を出させて貰います~)
ふふ…懐かしいね
(当時の彼の心情は知る由もないが、自分をよく庇ってくれたことは覚えている。誤解が解けてもすぐにあらぬ疑いが生まれ、彼がそれを解いてくれて、まが疑いが生まれる…中学時代はその繰り返しだった。それでも彼から離れたくなかった、いや、離れられなくなっていった。自分の中で彼の存在が大きくなっていくにつれて、彼のことをただの友人として接することができなくなっていることに気付いた。常に彼のことを考え胸が一杯になり、彼と手が触れた日にはただでさえ小さい声が殊更小さくなった。思春期特有の気の迷いかと思ったが、男子の間で評判だったクラスメイトの女子と会話をしていても、スタイルの良い教育実習生の胸元を見ても、心が動くことは無かった。そうしてようやく高校生になって、自分は女性ではなく彼に惹かれているのだと確信した。過去を回想しながら彼に惚れたことも思い出す。だが決して打ち明けることは出来ない。これだけは、自分の全てをさらけ出しても、この想いだけは秘めていなければならない。そうしなければ彼との関係が壊れてしまうから)
…どうしたの。病院食、嫌い?
(思い出話に花を咲かせているとワゴンが病室の前を通った。ちら、と時計を窺うと18時だった。夕飯時にはいい時間だ。だが彼はあまり食べたくないのだろうか。意外そうに彼に尋ねてみる。病院食は栄養摂取が第一で、味や見てくれなどは二の次だ。だから好む人間の方が少ないことは分かる。常に病院に居れば慣れるのだろうが、彼は病院と自宅を行ったり来たりしているので、なかなか慣れないのだろう。尤も自分としては、病院食になど慣れて欲しくないし、病院とだって無縁になって欲しい)
うん、…本当になぁ…
(あの頃は本当に、彼の存在が貴重で手放したく無いという思いでいっぱいだった。だからどれだけ自分が無様に映っていようとも気にしなかった。ただ彼を守りたくて、守る事で傍に居て欲しいと強く思っていた。だから、大切に言葉を選んで、沢山話をして。その中で彼が自分に対して特別な気持ちを抱いている事には薄々気付いていた。それが世間一般に言う“好き”とは違うという事にも。だが人にはそれぞれ秘めている思いがあり、それは他人がずけずけと侵食して行って良い領域では無い。だからわざわざ自分から彼に話す事では無いと思い胸の内に仕舞い込み、触れない様にしていた。これからもきっとそれは変わらない。そうして彼の顔を見つめていると自分が眉間に皺を寄せたのが見えたのか『病院食は嫌いか』と問われ。そう聞かれると別に病院食が嫌いな訳では無いのだが、元々子供の頃から色々な症状に誘発され嘔吐しやすいのもあり、今食べられても後で吐いてしまうかも知れないという怖さから、いつしか誰かの前で食事をするのも怖くなってしまっていた。彼の前では食べられている事もあり、いずれ克服したいと思ってはいるものの、最近は元来少なかった食事の量が更に減り、食事の度に頭を悩ませていた。マイナスな思考になってしまうのも怖くて、どう伝えようかと迷ったが、彼にはもう隠し事をしないと決めた身なのだから正直に言ってしまおうと俯き加減で口を開き)
…嫌いって訳じゃ無くて…また吐いたりするのが、怖いんだよ…
…でも栄養は摂らないと。それに俺が言うのも何だけど、吐きそうって思ってたら余計に吐きそうになっちゃうよ
(病は気から、という言葉がある。彼の病が思い込みと言う訳では無いのだが、あまりに嘔吐を意識しすぎると、本当に気持ち悪くなってしまうのではないかと案じる。彼にはあまり苦しい思いをしてほしくない。今までたくさんそういう思いをしてきただろうから、せめて食事の時などは安らかな時間を与えたい。だから彼に暗に何も考えないことを提案するが、内心無理だろうなと思う。彼は真面目だからきっと迷惑を掛けたくないと考えまくる。だから何も考えないでいるなんて彼には難しい要求だろう。それを知っていて提案するなんて自分はつくづく性悪だ)
何かあったら病院の人たちだっているし…食べてる間俺もいるから…大丈夫だよ。ね?
(不安そうにしている彼に安心して欲しくて、さっと手を伸ばして、肩にその手を置こうとするも、それで嫌な思いをさせたらといつものマイナス思考が発動する。だから伸ばしかけた手をさっと後ろに隠して誤魔化すように言葉を掛ける)
…うん…解ってる、んだけどさぁ…
(彼に言われて考えを改めようと努力してみる。だがこれまでの色々な場面を思い返してみて、そう簡単にはいかない事を悟る。本来なら娯楽のひとつとして捉えられる筈の食事が、幼い頃からずっと身体の弱かった自分には、何か凶悪なものに感じてしまうのだ。出会ってからこれまで自分を気遣ってか様々な言葉をかけてくれているが、きっと健康な彼には食事が苦痛に感じる自分の事は完全には理解出来ないだろうな、と少し卑屈な思いも出てきてしまい、これではいけないと首を横に振って。先程の座薬のお陰で大分吐き気は引いてきたので食事自体はこのままいけば出来そうだが、励まされた事で妙に緊張し今度は少し腹痛が出てきた。ちょっとでもそれを和らげたくて彼の方に手を伸ばそうとしたが、成人した男性が幼馴染とはいえ不安だからといって勝手に手を握ったら、流石に不審がられないだろうか?そう考えて手を下ろすとその手で布団をぎゅっと掴み。尚も不安そうにしている自分を鼓舞しようと、『何かあったら助けてくれる。自分もいるから』と彼は続けて言ってくれた。その時彼が自分の肩に手を伸ばしかけて辞めたのを見逃さなかった。次の瞬間素早く点滴の無い方の手で彼の腕を掴むと、大きく息を吐いて言った)
…腹痛いから…摩ってくれん?
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