トピ主 2024-07-26 06:44:45 |
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不死鳥の翼 過去編「決別」
(神竜との戦いから数日後、雨雲に覆われたデュランダルの街並みと同様に、いつもは人で賑わうギルドは陰鬱な空気が立ち込めていた。その原因は言わずもがな、苛烈な戦いにより初めて仲間を失ったことで心身共に深く傷付いた不死鳥の翼の面々によるものである。とくに著しく憔悴していたのは、兼ねてよりカルロスとの恋仲が噂されていたクレアであった。品行方正で知られる彼女はこの数日間、人が変わったように食堂の一角を占拠しては浴びるように酒を飲んでいた。)
姉さま…これ以上は体に障る。あの戦いで姉さまは相応の代償を払っただろう?もはや長くない余生をこれ以上無為に削るようなことをするな…そんな状態では亡くなったカルロスが浮かばれないぞ。
(酒の空瓶が机上と床を問わず散乱した状態を見て、レイラは小さく舌打ちをした。見るに堪えない姉の醜態に対する怒りは勿論、姉をこのような状態に追いやった自分の力不足に対する苛立ちによるものである。包帯に巻かれて首から吊り下げられた自身の右腕を揺らし、酒瓶を蹴散らしながらクレアに迫ったレイラは新たに口に運ばれようとしていたグラスをクレアのその手ごと鷲掴みにして制止し、クレアの虚ろな瞳を真剣な眼差しで覗き込むと、溢れ出しそうな感情を抑え努めて冷静に説得を試みる。)
…煩い
(レイラの懸命な訴えは、冷たく放たれた一言に一蹴された。今のクレアは恋人を喪って憔悴した上、過剰に摂取した酒によって正常な判断を下せる状態にない。今の彼女にとってレイラの訴えは雑音に他ならなかったのだ。レイラの手を雑に振り払うと、反動で大きく水面の揺れた酒を口につけ、瞬く間に飲み干した。そして、慣れた手つきで新しい酒瓶を開けてグラスに注ごうとした刹那、再びその手が抑えられた。クレアは掴まれた自身の手にポツリポツリと伝う温かい感触の正体が分からず、虚ろな表情のまま思わず首を傾げた。)
姉さま…!なぜ分かってくれないんだ…!姉さまがいなくなっては誰よりも私が悲しむのだぞ…!お願いだから…酒をやめてくれ…
(誰よりも慕っていた姉に冷たく突き放されたことで、抑え込んでいたレイラの感情は決壊した。瞳から大粒の涙を流しながら感情的に声を張り上げるその様は、いつものお高くとまった勇者様からは想像もつかない程に弱々しいものであった。いくら強がっていてもやはり人間誰しも心の拠り所がある。その拠り所から拒絶されたのだからレイラの反応は当然のものであろう。しかし、その悲痛の叫びはクレアに届くことはなく「パリンッ!!!」という瓶の割れる騒音により掻き消された。)
……姉さま…?………
……もう知らぬ…勝手にしろ…
(騒音と共に大きく視界が歪んだ。次第に目の前の世界が赤く染まり何事かと纏まらない思考を整理する。自分が酒瓶で殴られたことを理解するのにそう時間は掛からなかったが、心が現実を受け入れられずレイラはしばらく放心状態で立ち尽くした。ようやく心までも現実を受け入れると、服の袖で血と涙を拭い、拳を握り締めて沸々と湧いてきた怒りを押し殺した。理不尽な拒絶により、もはやクレアへの愛情は憎悪へと変わっており、ゴミを見るような冷めた目でクレアを一瞥すると「勝手にしろ」と言い残してギルドを後にした。)
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