雁金 2024-07-07 17:25:08 |
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(何故だか、月の無い漆黒の闇夜は妙に落ち着く。こうして人の皮を被り、人の振りをしていても─やはり己は化生の存在に過ぎないのか、と自虐的な苦笑が浮かんだ。特に意味は無いのだが、ふと公園に立ち寄った時─腹を押さえ、ベンチに座っている青年の姿が目に入る。体調が悪いのか、と思いはするものの─自分には何一つ関係ないことである故に、無視してその場を立ち去っても良かったのだが、無視できない理由があった。屈み込む青年の背後には、首が有り得ない方向に捻れた異質な人影が立っている。雁金は苛立ったような小さい舌打ちを一つ、青年の方にずかずかと遠慮なく歩み寄って声を掛け)
…おい、クソガキ。いきなり変な事聞くが…お前、もしかして「見える」類の人間か?
(そこまで言葉を紡いだ所で─嫌悪に歪んだ表情のまま、青年の背後に立つ人影を指差す。人影の視線がゆらりと動き、雁金を視界に捉えた途端─人影は不安定に揺れ動き、怯えるような所作を見せた。その様子を見ては再び舌打ちを一つ、青年と目線を合わせるようにその場に屈み込み)
…見えねえってんなら、俺はこのまま帰る。…だが、見えるってんなら…助けてやってもいい。どうする。
(確認させて頂きました。こちらこそ、不備や要望等あれば遠慮なくご指摘ください。)
(暫く耐えていると自分の方にずんずんと歩いてくる人の気配がして。こんな夜中に公園のベンチに座って変な体制をとっている自分にどんな事を聞いてくるかと思えば“見える”のか、と聞かれ。未だズキズキと痛む腹をさすりながらゆっくりと顔をあげるとそこには人相悪めの体格の良い男が立っていて。そこはかとなく胡散臭さを感じた為口を開くかどうか迷ったが、いつまでも居座り身体を蝕み続ける腹痛と『助けてやっても良い』という相手の言葉を天秤にかけた時、気付けば言葉を発していた)
…見え、ます…俺の後ろ、…に…っ、だから…助けて…下さい…
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(/ありがとうございます。改めてよろしくお願い致します。それでは背後はここで一旦フェードアウトさせて頂きますね)
…やっぱりな。…目ぇ瞑ってろよ。
(青年の言葉に頷いた雁金は、相変わらずの咥え煙草でポケットに手を突っ込んだまま、片足を振り上げたかと思えば─青年の後ろに立つ人影に向け、足を蹴り出す。革靴の底が人影に命中した途端─人影は、夜の闇に溶けるようにして消えた。その後も暫くの間は念入りに人影の居た辺りを踏み付けていたが、ふと何かに気付いたかのように足をひょいと上げては青年の方を向き)
……おい、終わったぞ。んじゃ、俺は帰るからよ…
(そこまで一方的に言い放った後、青年の返答を待つ気は元々ないのか─くるりと踵を返しては煙草の吸殻をポイ捨てし、その場を立ち去ろうとして)
っは、はい…
(相手の言葉にぎゅっと目を瞑ると、蹴り上げられた足に一瞬怯み思わず更に身体を屈め。暫くすると腹痛が引いていき、周りを見回すとあのへんなものは居なくなっていて。良かったと安堵する反面、この人は一体何者なのだろうと考えて少し寒気を感じ。身震いしていると男が煙草をその場に捨て去って行こうとしていて。引き止める為に声を発した)
っま、待って下さい!
(止めたは良いものの次の言葉が見つからず、取り敢えず足元のタバコを踏み消すともう一度相手をじっと見て)
…オレ、唯信ていいます。御影唯信…大学で民俗学を専攻してて…ここから5分くらいのアパートで一人暮らししてます…あの、貴方は一体、何者ですか…?
…雁金。心霊現象の専門家兼、「怪異探偵」だ。…何かあったら、ここに連絡すりゃいい…俺の気が向いた時なら、依頼も受けてやる。
(青年の声に公園を立ち去りかけていた足を止め、そちらを振り返る。素っ気ない声で必要最小限の情報だけを吐き捨てたかと思えば─胸ポケットから取り出した名刺を青年に向け、投げた。小さな紙切れは風に乗って舞い、青年の足元へぽとりと落下する。表面には「心霊現象専門家兼怪異探偵 鞍馬心霊相談所所長 雁金」と飾り気の無いフォントで男の肩書きと名前、ついでに事務所のものらしい固定電話の番号と住所が綴られているだけで、裏面に至っては白紙─それは己を飾り立てる気など元より無いことがひしひしと伝わるような、そんな名刺で)
…今日は忙しいんでな、帰らせてもらうぜ。
(名刺の行く末を見届けた後、雁金は再びくるりと踵を返した。青年の方を振り返らないままに公園を立ち去り、事務所への帰路を辿る。古びた階段を2階まで上がり、尻ポケットの鍵で扉を開け─靴も脱がずに、応接室のソファへと身体を預けて)
ちょっと待っ…あぁ、行っちゃった…
(再度引き止めようとするも名刺を追った目を上げてみると男の姿は見えなくなっていて。溜息をついて名刺を拾うとそこには無機質な字で相手の肩書きと名前が書いてあり、やっぱり見た目通りの人だと少しだけ安心し。その名刺を大事にパスケースの裏に仕舞うと、自分も家に帰って久々に痛まない腹を抱えてぐっすりと眠り。気付くと自室で朝を迎えており、いつもの様に朝食を食べ学校へ向かい授業を受けているとまた少しずつ腹部が痛みだし。ゆっくりと上を見上げると教室の天井にどす黒い大きな顔が張り付いていて生徒達を品定めする様にじっと眺めていて。自分が選ばれたらどうしようかと怖くなり、授業終了と同時に気付けば教室を飛び出していて)
…ここ、だよな…あの人いるかな…?
(息を整えながら昨日調べた住所を頼りに歩いていると辿り着いた入り口で表札を確認し。名刺と全く同じ名前がこれまた無機質な字体で記されていてまたも入ろうか悩むが、今の自分にはそんな余裕は無いのだと腹の痛みが嫌と言う程訴えて来て。体調悪そうにしている自分を足元で全身が透けている小さな女の子が心配しているが、その不調を起こしているのが自分であるという自覚はさらさら無い様で一向に離れる気配は無く、仕方なくその女の子を足にしがみつかせたまま、インターホンを押して)
…あ…?客か?
(昨日は結局、そのまま寝落ちてしまったらしい。昼前に鳴り響くインターホンの音で不機嫌そうに目を覚まし、ソファから降り─妙な体勢で寝たせいか、節々が痛む体を大きく伸ばした。その後はドアの前の来客を放置したままにインスタントコーヒーを淹れ、白い湯気の立つマグカップを片手に持った状態で─ようやくドアの方へ歩み寄ったかと思えば、乱雑にノブを回して扉を開く。あからさまに面倒さを押し出した表情で、来客の顔へと目線を向けると─それは、昨日気紛れに助けてやった青年だった。足元にはまた何か─だが、昨日の「何か」とは異なり、別に嫌な気配は感じない。それに放っておいた所で、今すぐどうかする、という物で無いのは明白だった─それに、今日は少々機嫌が悪い。眉間に皺を寄せたまま、青年に向けて言葉を吐き捨て)
…昨日のとは質が違えからな、ソイツがお前に害を成すことはねえ。…分かったらとっとと帰れ…俺はな、眠いんだよ。
…あ、ちが…この子は別に良いんです、わりと前からいたりいなかったりで怖くないし…じゃなくて、学校に、あの、すげぇでかいのがいて、その…
(暫く待ってやっと相手が出て来た事に安堵したのも束の間、吐き捨てる様に言葉を浴びせられると焦りながらも事情を説明し。足元にいる女の子を少しだけ庇う様にすると、今回の腹痛は別なやつのせいだと一生懸命に特徴を話し。相談所までやって来た道中で学校にいた時よりは腹痛が治っている事に違和感を抱きながらもなんとかして欲しいという旨を伝えて)
…だからその、昨日みたいにやっつけて下さい。オレ、見えるだけで何も出来なくて…でも、このままだと学校の人達がヤバくて…貴方しか、頼れない、んです…
……ふん。昨日会ったばっかの胡散臭えオッサン頼るくらいには、複雑な事情があるみてえだな。…上がれ、とりあえず話は聞いてやる。
(相手の返答を待たぬまま、豪快な欠伸と共にドアを閉めようとしたが─青年の何とも切羽詰まった言動に手がぴくりと反応し、ドアノブから離れる。相変わらず眉間に皺を寄せたままではあったが、ほんの少しだけ目付きと声色は和らいだ。足でドアを蹴って開け、顎をしゃくって─青年を室内へ上がるよう促す。ソファと向き合うように置かれている一人掛けの椅子へと腰を下ろしては行儀悪く脚を組み、サイドテーブルにマグカップを一旦置いた。「…で?その『すげえデカいの』の特徴は?色々あんだろ。色とか、形とか。」彼に問い掛ける言葉は無愛想で不親切だが─その声色は、先程とは比べ物にならない程穏やかなもの。青年の返事を待つ間、マグカップに口を付けて中身を啜り)
…あ、ありがとうございます…失礼します…
(相手の返答で取り敢えずは話を聞いてくれそうだという事に安堵し、続いて建物の中に入り。瞬間自分の足にしがみついていた少女は何処かにいなくなってしまい、それで腹痛も治った為少し複雑だが取り敢えず今は良いかと近くのソファにゆっくりと腰を下ろし。自分が見たものの特徴を問う相手の声色はとても穏やかなもので、先程とは打って変わって自然と言葉が口から出て来て)
そいつは黒くて、手足が長くてドロドロしていて、そのドロドロで講義室の天井にべったりと張り付いていて…生徒と先生を品定めする様に、じっと眺め回していました…
(そこまで話すと「すみません」と相手に断りを入れてカバンからボトル入りの水を取り出してキャップを開けるとひと口飲み。ふぅ、と大きく息をつくと続きを話し始め)
今まで校内であんなの見た事なくて、他の講義室や食堂には何もいなかったです…恐らく、強くて他のが入って来れないんじゃ無いか、って…
…ソイツは多分、土蜘蛛だな。全く碌でもねえ…800年くらい前、頼光の小僧に刀でぶった斬られたって聞いたが…まだ懲りてねえのか。
(雁金は青年からの話を黙って聞いていたが、話が途切れた所で─胸ポケットから煙草の箱を取り出し、一本抜き出して火を点ける。ふう、と煙を吐き出した後にそう呟き、吐き捨てるように表情を歪めた。だがすぐに「…ああ、悪ぃ…こっちの話だ。」と軽く手を挙げて謝罪し、組んでいた脚を解く。そのままテーブルの方へ身を屈め、青年の顔をまじまじと見つめながら─「お前に手ぇ貸してやってもいいが…こっちも商売なんでな。タダって訳には行かねえ。」と、端から聞けば少々非人道的にも聞こえる言葉を続けた。視線を青年から外さないままに、雁金は「…依頼料、お前に払えんのか?」と首を傾げながら問い掛けて)
…つち、ぐも…
(相手の口から出た妖怪の名前を復唱すると、少し黙って。このまま相手に取り込まれそうな感覚に陥るが何とか自我を保とうと大きく息をついて。800年前、と聞こえたが気のせいかも知れないと聞き返す事はせず。依頼料は払えるのか、と聞かれ少し考えると口を開き)
…貯めたバイト代、払います。…足りなかったら…ここ、手伝わせて下さい…見えるオレなら、役に立てます、たぶん…
(自信なさげに上記を言い、ざっとこの位…と指を3本立てて相手を見て。状況をどうにかして欲しいという考えは変わらないので、建物内をぐるっと見回して続け)
…依頼料は…そうだな、30万ってとこだ。前金で貰うが、それ以上は絶対に取らねえ。
(雁金は無精髭の伸びている顎に手を当て、少しの間考え込んだ後─青年の指をちらりと見て、ぶっきらぼうにそう吐き捨てた。続けられた青年の言葉には馬鹿にするような嘲笑を返し、「ふん…勝手にしろ。視える"だけ"のガキが役に立つとは、到底思えねえけどな。」まだ充分な長さの残っている煙草を灰皿に押し付け、半ば潰すようにして消火しては─組んでいた足を解き、椅子からすっくと立ち上がる。大きく欠伸をして腕を伸ばした後は─ソファの辺りへ投げ出してあったコートを拾い、それに袖を通した。そのまま青年の方へと向き直り、「依頼料寄越しな。…お前が依頼料払うまで、俺は動かねえぜ。」と手を差し出して)
っわ、解りました。…下ろしてくるんで、待ってて下さい
(何とか助けてくれそうな流れになったので、安心して胸を撫で下ろし。カバンを背負うと上記を言ってふら、と相談所を出て。外に出るとズキ、と強い痛みが腹部にはしり倒れかけるが何とか持ち堪え銀行に向かって。店内で通帳を開くとそこには提示したギリギリの金額が表示されていて、我ながら無茶をしたなぁと苦笑し。お金を下ろして相談所に戻って来ると少し厚い封筒を相手に差し出して。先程の相手の嘲笑に言い返す気持ちでふっ、と息をついて)
見えた方が助手にするなら何かと役立つでしょう。オレの事はガキじゃなくて唯信、て呼んで下さいね
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