名無しさん 2024-06-23 15:07:43 |
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……え、えっと、そんな急に好き好き言われると、キャパオーバーです……。
( まさか振り返ってくるとは思わず、接近した顔にどきりとして少し仰け反り。とくんとくんと未だ鳴り続ける心臓の音が必死に弁明する彼の言葉をかき消そうとするが、聞き逃さぬようにしっかりと耳を傾けて。睨むような視線はこの際全く怖くないのだが、なんだか堪らなくなって顔を背けてしまう。顔が熱いし変な汗も出てくる。またシャワー浴びなきゃ…。貴方が自覚していないだけで、顔ファンもリア恋勢も多い。同業者や裏方のスタッフに想いを寄せられる可能性だってある。いつどこで知らない輩に陽斗さんを取られてもおかしくない中で、彼は僕を好きになってくれた。「……あぁ、嬉しいな。両想いになれるなんて、やっぱり運命だったんですよ、僕たち」でれでれと蕩けた声でロマンを語れば、ちゅ、と頬に口づけて。照れた様子もしっかり目に焼き付けたいが、体を冷やさないようにも早く終わらせないと、と前を向かせて )
陽斗さん、……お腹の方、ダメだったら止めてくださいね。
( そう一言添えてから、腰に巻かれたタオルを少しずらして、彼のおへその辺りを優しく撫でてみる。……柔らかくてかわいいな。そこからするりと胸の方へ手のひらを移動させながら、決して劣情を抱かないように集中して洗っていく。肌の手触りが、形状が、すべて陽斗さんのものだと思えば思うほど、茹ったタコのように顔が赤くなり、変態チックな思考を振り払おうとかぶりを振るも効果はなさそうだ )
( / たとえ返信が遅くなってもいつでもお待ちしておりますからね!背後様がお元気でいらっしゃることが何よりも大事なことですので!ぜひまたよろしくお願いします!(蹴可)
…なに、サムいこと言ってんねん。
( ちゅ、と頬に口付けされると、呆気にとられ瞬きを数回繰り返した後、尚も顔を火照らせたまま相手の言葉に上記を返した。運命だとか、そんな話を他人から聞かされたら本気でサムいと思うのに、相手に面と向かって言われたらこうも嬉しく思うのは自分がチョロいからなのだろうか。恋は盲目だの劇薬だの色々言うが、本当にその通りだと思う。実際、彼の視線に、言葉に、一々身体が反応して、激しく鳴り響いている鼓動はちっとも鎮まってはくれない。
おまけに、一言添えられた後に彼の手が腹へと伸びてくると、背中の時とはまた違った感触にまたもビクリと反応してしまう。なんか、こそばゆいし、ダイレクトに相手の体温が伝わるというか…とにかく、とにかく恥ずかしすぎて、「…アカンッ」と小さな吐息とともに言葉を洩らすと、胸の辺りを這っていた相手の手を自身の手でぎゅうと握りしめた。羞恥心ですっかり潤んだ瞳で彼を見ると、次の瞬間にはバッと立ち上がり捲し立てるような早口で喋っていた。)
──アカンアカン!もうアカン!!照れてもうて気絶しそうや!あ、あとは自分で流す!ホンマありがとう!!すぐ出るから待っとってな!!ほな!!!
( 握りしめていた相手の手を掴んだままくるりと身体の向きを変え、そのまま浴室の戸を開けると相手の身体を問答無用で外へと押し出していく。言い終わる頃には相手を脱衣所へと追い出しぴしゃりと浴室の戸を閉めたのだった。)
───っ!?え、陽斗さーーんっっ!!
ゆっくり湯船にも浸かってくださいねー!?
( 妙な色気を孕んだ反応に息を呑んで見惚れてしまう。そんなに可愛いことされたら、もう我慢の限界が……なんて考えが過ったのも一瞬のうちで、気がついた時には脱衣所に追い出されていた。あれ??と首を傾げながら、ついさっきまで彼に触れていたはずの手と強引に閉められた戸を交互に見る。ようやく状況を理解すると、曇りガラス越しに見える影に向かって声を掛けてから、ふらりと壁に寄りかかり息を吐いた。正直、無理矢理にでも抵抗してくれて助かった。何をしでかしてしまうか自分でも分からなかったから。はっきり嫌なことは嫌だと言ってくれる彼だからこそ、ぎりぎりまで距離を縮めて反応を確かめたくなってしまうのも悪い癖だ。自分ってこんなに意地悪い性格してたっけな、彼が良い反応してくれるからしょうがないよな。自問自答を繰り返しながら、一旦廊下へと出る。そういえば陽斗さんの荷物の中に着替えが入っているだろうと、彼の鞄を持ってきて脱衣所に置いておく。まだ寝るには早いし、風呂上がりの一杯でも用意しようかとキッチンへ向かうと、冷蔵庫に蓄えておいた酒の缶やおつまみをソファの前のローテーブルに並べておいて、彼が戻るのを待った )
──…お待たせ。
( 暫くすると、スウェットの寝巻きに着替え首にはタオルを掛けたままやってくる。大分温まったのか、その顔は真っ赤なままだった。
彼を浴室から無理やり追い出したあと、さっさと体についた泡を流し、彼の発言通り湯船に浸かると、大暴れしている心臓を落ち着かせるようにひたすら無心になるよう努めていた。その結果、少しばかり湯船に浸かりすぎたようでご覧の通り顔が真っ赤になった訳だが、なんとか平常心を取り戻すことに成功した。
彼に触れられるのは勿論嬉しいのだが、恋愛初心者な自分にとって恋人特有の甘い雰囲気はどうも恥ずかしくて…そんな雰囲気に呑まれそうになった途端ついつい照れ隠しで突き放してしまう。そんな自分に反省しつつ、ローテーブルに置かれたお酒やおつまみを見つけると声をかけた。)
お、準備してくれてたんや!ありがとぉ。
…あ、さっきはごめんな?ちょっと、恥ずかしくなってもうて……。洗ってくれたのもありがとう!嬉しかったんはホンマやで?
おかえりなさい!あ、お酒の前にお水飲みましょうね。
……ふふ。大丈夫、照れ屋さんなところも好きですから。
( 風呂上がりの彼は頬が火照っていて少しあどけない雰囲気もあり、なかなか直視がしにくい。水が入ったグラスを手渡して、謝罪する必要なんてないのにと笑い飛ばす。僕を突き放すたびにいちいち罪悪感を覚える必要なんてない。むしろ反省すべきは僕の方で…なんて繰り返せば水掛け論になってしまうので、彼の言葉は素直に受け取ることにして。しかし彼には申し訳ないが、今晩だけは、困らせるのをやめられそうにない。こんな機会は滅多にないのだから、彼を甘やかしたいという自分の我儘を聞いてほしかった。追撃のようになってしまうのは心苦しいが、スキンシップに慣れてほしいというのも本音だった )
そうだ。髪、乾かしましょうか?陽斗さんは座っててください、僕に全部お任せを!
( ぽんと手を叩いて提案すれば、彼をソファへと誘導して。いそいそとドライヤーを持ってくると、コードをコンセントに挿して準備完了。甘やかされるのも悪くないと言質は取ったことだし、もう逃がしはしないとでも言いたげに気迫のある表情で彼に近づいて )
( 笑って大丈夫だと言われれば此方も緊張が溶けたかのように口元を緩めるが、その理由にはなんだか悔しさも覚えて複雑な心境になる。先程から自分ばっかり照れて情けない姿を晒しているような気がする…、まぁ、こんなことを張り合っても埒があかないので、ここは黙って言う通りにしておこう。)
髪も乾かしてくれんの?ホンマに至れり尽くせりやん。
ホンマ、俺を甘やかすの好きやなー
(促されるがままにソファへ腰掛け受け取ったグラスから水を一口飲むと、上記を述べて、へへ、と半場呆れたようなそれでいてとても嬉しそうに笑いかけた。何から何までやってもらって、まるで自分がお姫様になったような気分やなぁ、なんて内心可笑しそうに呟く。しかし、お互い仕事で忙しい身だし、時間が合う時は限られている。今日ぐらいは、と甘えたくなってしまうし、彼もきっと同じような事を想っている事だろう。
そしてふと、仕事といえば、と思い出したように「あ、」と一言声を出すと、温風と共に丁寧な手つきで髪を梳いてくれている相手の方へちらりと視線をやる。)
そういえばな、そろそろ賞レース始まんねん。
俺ら、大阪のコンテストで上位になって東京に出てきたけど、こっちで賞レース出るの初めてやし…。準備とか、予選とか色々バタバタすると思うねん。
…忙しなると思うけど、応援しててくれるか?
へぇ、賞レース……。
……え!?賞レースですか!?ゆゆゆ雪山が賞レースに!?絶対応援します!!!
( 彼の髪を乾かすことに集中していたためその言葉を受け流しそうになったが、オウム返しした後にようやく事の重大さに気づいて衝撃を受け。ドライヤーの電源を切って何度も確かめるように単語を口にする。夢の賞レースという大舞台。雪山がさらに飛躍して、活動の幅を広げるチャンスだ。(絶対優勝するに決まっているが)もし優勝を逃したとしてもファイナリストという肩書きだけで名高く、優勝を掴めばこれまでにないほど大忙しになるだろう。その準備期間、本番、その後までずっと多忙となり、今日のような時間を過ごすことは難しくなる。それでも、自分にできることがあるならばと再度ドライヤーを起動して )
お仕事は手伝えないかもですけど、陽斗さんが疲れた時には癒しになりますから!いつでも連絡してくださいね!
( にかっと一点の雲りもない笑顔を向けてわしゃわしゃと頭を撫でる。彼にとって、人生を賭けた大仕事。半端は許されない。なるべく邪魔にならないように努めたいが、ほんの少し時間が空いた時にでも連絡してほしいというのは自分の我儘かもしれない。しかし何事も息抜きというのは必要だし、「ほんと、たまーにでいいんで!」と念押しながら。かくいう自分もアイドル業で忙しくしており、普段は自由に休暇を取れる状況でもないのだが、これだけは伝えておこうと彼の肩に手を置いて )
……それで、もし予選通過して本番を迎えたら、なんとしてでも予定をこじ開けて絶対見に行きます。ユキさんのファンとして見逃せませんから!
( 一度ドライヤーを切り興奮したような反応を見せる相手を見て、ふは、と笑い「そうや、雪山のガチファンやったなぁ」と思い出したように言う。自分を甘やかすその姿は誰がどう見てもイケメンのスパダリで非の打ち所がないというのに、ふとした時に出る‘’ガチ勢ファン感“がたまらなく可笑しくて、そのギャップがまた愛おしさを増す要因なのだが、その事に関しては口に出さないでおこう。
明るい笑顔と共に向けられる言葉が既に癒しそのもので、再度起動したドライヤーの風に混じりながらも自身の耳にまっすぐ届いてくる。)
……ありがとう。全力で頑張れそうや!
みっちゃんも仕事忙しいはずやろうけど、あんま無理せんと、なんかあったら言うてな?
( わしゃわしゃと乱された髪を笑いながら手ぐしで直すと、なんとも嬉しそう笑顔で礼を述べる。自分の1番のファンでいてくれて、恋人として傍で応援してくれる…こんな心強い味方がいてくれるなんて本当に幸運だと思う。しかし、肝心な時に役に立ちたいのは自分だって同じことで、相手は人気絶頂中のアイドルだし、自分よりも遥かに多忙なスケジュールだろう、疲れた時はお互い様やろ、と付け足すと、肩に置かれた手にそっと自分の手を重ね、少し恥ずかしいのか、ぎゅ、と遠慮がちに握ってみる。
そして続く相手の言葉には、相変わらずのガチファンムーブにふふ、と笑いながら、冗談交じりに返答を。)
え、ホンマー?それやったら意地でも予選通過せんとな!ネタ作るの頑張るわ!
俺がヤマちゃんと漫才やってる間に、変に週刊誌に撮られたりすなよー?
はい!仕事以外ではあんまり出歩かないようにします。お酒も控えるし……あ、でも今夜だけは僕も一緒に呑んでいいですか?
( 握られた手を安心させるようにするりと撫でながら、指を絡ませて恋人繋ぎをする。僕は未だ仕事でヘマをすることも多いぽんこつだし、そんな自分に嫌気がさす日も少なくない。それでも大好きな陽斗さんの頑張る姿を見ていれば、僕だって負けてられないという気持ちになれる。僕にとって輝かしい存在でいてくれてありがとう、なんて思わず涙が出そうな顔で限界オタクのようなことを考えていれば、週刊誌、という言葉を聞いて一瞬だけ誰かの顔が頭によぎる。数日前、雑誌の特集を受けた際に偶然撮影現場を見に来ていたという、とあるモデルの女性。彼女は僕の楽屋まで挨拶に来てくれたのだが、露骨にぐいぐいと言い寄られ、連絡先を聞かれたことを思い出す。もちろん丁重にお断りしたし後ろめたい気持ちは一切ない。どんな美人でも陽斗さんには敵わない。当たり前だ。しかし、今こんなことを伝えたら余計な不安を抱かせてしまう気がして、酒の話題で誤魔化した。こんな人がいたんですよーといつか軽い気持ちで愚痴れたらいいな、なんて楽観的に思いつつ、ひと通り乾き切った髪を櫛で軽く整えると「はい、終わりました!」と声をかける。そして彼の隣に座ると、糖質ゼロを謳うビールの缶を開けて、彼の方へと向けて声高らかに乾杯の音頭を取って )
では、雪山の賞レース優勝を祈願して…乾杯!!
ん、飲も飲もー!飲みたい時は飲んだらええねん!
って、俺以上に張り切りすぎやない?…まぁええわ、乾杯ー!
( 髪を乾かしてくれた事に礼を伝えると、彼に続くようにして缶を手に取り軽くツッコミを入れながら相手の音頭に缶同士を軽く合わせた。
賞レースへのエントリーはマネージャーが済ませてくれており、予選が始まるまであと1ヶ月。勝ち進んだとして決勝戦があるのは約3ヶ月後…計4ヶ月間は賞レースを中心にしたスケジュールになるのだが、今まで通りの仕事に加え、ネタ合わせ等に大幅な時間を使わなければいけない為、恐らくあっという間の4ヶ月になるだろうことは予想できる。その頃には優勝して歓喜しているのか、はたまた己の不甲斐なさに唇を噛み締めることになるのか…。どちらにせよ今考えたところで胃が痛くなるだけだと、雑念を振り払うように首を横に振ると、ぐい、とビールを煽って息を吐く。そして、他の話題にしようかと思考した際、1つ話題を思い出したらしく、隣に座る相手の肩をぽんぽんと忙しなく叩くと、まるではしゃいだ子どものように楽しげに口を動かした)
あんな、この話もしよ思てたんやけどな、この間新しいMV出しとったやんか?あれ、めっちゃかっこよかったで!
なんか、やっぱアレやな、普段の時とアイドルしとる時は顔はちゃうわ!どっちも好きやけど。
( つい数日前に彼らのグループが出していた新曲のMVをちゃっかりとチェックしていたようで(というか、情報はなるべくチェックしているのだが恥ずかしいので本人には伝えていない)、律儀にもその感想をぺらぺらと話し出す。元々お喋りな性格も相まって、自分のターンになると一方的に語りつくしてしまうのだが、そんな自分にも相手はにこやかに傾聴の姿勢を見せてくれるものだからついつい調子に乗ってしまう。おまけに、今日はお泊まりということもあってか浮ついた心境も助長して、ビールとおつまみを挟みつつ軽快にお喋りを続けていた。
──暫くすると程よいアルコールも入り完全なリラックスモードになってしまい、隣に座る相手の肩に頭を乗せながら「みっちゃんって手ぇ大きいよなぁ、やっぱ背ぇもデカイからなんかなぁ」なんてどうでもいい会話をしながら、相手の掌をにぎにぎと弄んでいた。)
え、見てくれたんですか!?頑張って撮影したので、陽斗さんに褒められたって聞いたらみんな喜びますよ!
( テンション高めな陽斗さんかわいい、大好き…という気持ちを酒の肴にしながら、彼の話を聞いていく。まさか新曲までチェックしてくれているとは。初対面の時も名指しですらすらと褒めてもらえたことを思い出し、広くアンテナを張っているんだなと感心して。メンバー含めみんな喜ぶだろうと思うのは本心だが、もっとも、誰よりも喜んでいるのは僕自身だ。後ろ暗い事情があると知ってからは尚更、アイドルの自分を認めてもらえるのはとても誇らしい。いつか僕の活動で、陽斗さんに希望を届けるというのも目標の一つだ。より一層機嫌が良くなって美味しい酒が飲めているが、あまり調子に乗ってまた記憶を飛ばしたら二度と許してもらえない気がするので自重しつつ。一方相手はふわふわと柔らかい雰囲気を纏い出していて、肩に擦り寄られたときは危うく酒を溢しそうになった )
……陽斗さーん?あんまり可愛いことしないでもらえますか…。どうなっても知りませんよ。
( そういえばアルコール耐性はあまりないんだっけ。唐突なあざとい言動にどぎまぎして、内心頭を抱えながら言い聞かせる。こんな姿を見せるのはきっと自分の前だけだと理解しているが、あまりにも無防備すぎて気が気でない。今がどんなに危険な状況か自覚していないのか。男は獣だってちゃんと教えたのに。一回懲らしめてやらなきゃ分からないのかな。酒のせいか、場の雰囲気に酔ったせいか、沸々と湧き出る劣情を抑えようとする理性は機能せず、徐に彼の太ももを撫でると熱視線を向けて )
それとも、誘ってるんですか。
……んー、別に可愛いことなんてしてへんわぁ
( 気の緩みきった猫がヘソ天をして無防備に寝ているように、尚も相手の肩に体重をかけながらなんとも呑気そうに返答する。気の許せる相手がすぐ隣にいて、ここにはカメラも無いので芸人モードをONにしておく必要も無いし、飲み干したビールが良い感じに体内を循環しぽかぽかと暖まってくるのを感じながら、思わず伸びを1つ。しかし、そんな呑気そうな表情も彼の言葉と太ももに触れられた事でにぴくりと反応し伸ばしていた腕もろとも固まってしまう。そろりと隣の相手へ視線を移せば、その熱を帯びた瞳に捕まり暖まっていた体温が更に上昇するのを感じる。
…アカン、やってもうた。そう思った時にはすでに手遅れで、太ももに伝わる相手の体温に静かだった鼓動がドンドコと激しく鳴り始める。)
べ、別に誘ってるつもりはなかってんけどっ…
やめてや…その顔で見つめてくんの。なんか、落ち着かんくなるやん。
( 小さな声で上記を伝えると、じわじわと恥ずかしさが募ってきたのか、両手で顔を覆うように隠してしまう。住岡美風イケメンすぎるやろ!どうしてくれんねん!と褒めているのか怒っているのかよく分からないテンションで内心抗議するものの、今の状況が変わる訳もなく、じりじりと寄ってくる相手の身体に押し倒されそうになりながら、なんと言葉を掛けようか必死に脳みそをフル回転させる。
先程、浴室で自分が相手を追い出した時もそうだったが…今まで虫歯になりそうな程甘ったるい雰囲気になる度、その空気に我慢できず(いや、ある意味我慢しているのだが)その空気を打破しようとしてきた。しかし、これからお互い忙しくなるし、滅多にないお泊まりのチャンスだし…。なんて、脳の片隅にいる小さい自分が今だ今だと拳を振ってくる。めちゃくちゃ恥ずかしい、恥ずかしいけど、でも、今日ぐらい、その甘ったるい雰囲気に飲まれてもいいのだろうか。
太ももに触れている相手の手にゆっくりと自分の手を重ね指を絡めると、恥ずかしさで熱を帯びた瞳を揺らしながらこれまた小さく呟いた。)
──なぁ、美風。
絶対手ぇ出されへんって…ホンマに出してくれへんの…?
ずッ…………………
( とてつもないカウンターを喰らった。急所を突かれ身体の力が抜けるように、へなへなと姿勢が崩れる。そのまま茫然としながら彼の太ももへと倒れ込み、失礼を承知で膝を枕代わりに。いじけた子供のように「ずるいですよ、それは…」と呟く。確かにカマをかけたのは自分だが、いつもみたいに照れて拒否されて終わりだと思った。都合良すぎる妄想かと疑ってしまう。夢オチだけは絶対嫌だな、と見上げた彼の顔が存外近いところにあり「~~っ、顔が良い……いや、すべてが良い……」と声を洩らしながら合掌して崇拝する。そこそこ酒が回っているため、普段よりもより率直なオタクムーブをかましてしまう。せっかくのムードが台無しである。陽斗さんという甘い毒に侵されて瀕死状態、少しずつ体力が削られていく感覚。それでも一人の男として、これ以上恥をかくわけにはいかない。覚悟を決めると、上体を起こし彼の頬へ手を伸ばす )
……陽斗さん、こっち向いて。
( 宣言を破るのは心苦しい。しかし照れ屋で甘え下手な彼が勇気を出してくれた。こんなこと、もう二度とないかもしれない。僕にはそれに応える義務がある。陽斗さんの、恋人として。彼の唇に触れると、親指でこじ開けた隙間から舌を差し込んで深く口づける。お酒の味だ。その奥深くに隠れた彼自身の味を探るように、ゆっくりと丁寧に、甘く溶かしていくように触れていく。唇を離す頃には何故か彼を見下ろしていて、いつのまにか押し倒していたことに気がついた。もうとっくに羞恥心は過ぎ去り、多幸感に包まれる中、思わず敬語が外れたまま小さく首を傾げねだって )
……ねえ、陽斗さんからキスしてほしい。だめ?
( 膝の上に雪崩込んで来たかと思えば、こちらの顔を見上げて合掌するものだから思わず吹き出したように笑ってしまう。しかし、再度その優しい声と手に触れられると、言われた通りに視線を預けて動けなくなる。少し笑って過度な緊張が緩まってくれたらしく、先程より落ち着いて小気味よく流れる鼓動の音に耳をすませながら、真っ直ぐ、目の前にある綺麗な顔を見つめることが出来た。ゆっくりと近付いてくる様を見蕩れたように眺めていると、いよいよ自分も瞼を閉じる。唇に触れていた彼の指に口内を暴かれると、吐息混じりに小さく声がもれる。ぬるりとした温かな感触は初めてのもので、彼が優しく優しく触れるものだから、此方もそれに応えようと一生懸命に追いかけては絡ませる。
唇が離れるのと同時にゆっくり目を開けると、此方を見下ろす彼と再度目が合う。いつ押し倒されたのかなんて定かではなくて、それほどまでに夢中になっていのかと思うとそんな自分が恥ずかしい。しかし、唇が離れてしまうのが寂しいと感じてしまったのも事実で、首を傾げてねだるかわいい恋人の首元にぎゅうと両腕を回すと、返事の代わりにちゅ、と小さく音を鳴らして唇を重ねる。)
──下手くそやけど、文句言わんでな…?
( 何度も可愛らしい音を立てながら口付けを交わしあと、先程彼がしてくれたように小さく口を開けて深く深く口付けていく。もっとしてほしくなる、なんて食事の準備をしている時にも言ったけれど、あれは紛れもない本心で、その証拠に今だってもっと、もっとと欲しがっている。他の誰でもない彼のことがもっとほしい。そんなことを回らない頭の中で考えながら、混じり合う吐息の中に溺れていく。首に巻きついていた腕を少し動かして、彼の後頭部にそっと手を添え、柔らかい髪の毛を撫でてから首筋へと這わせていく。これは、酒に酔うよりも非常にタチが悪いし、一度はまったら抜け出せなくなる。自分は案外、快楽にめっぽう弱いのかもしれない。途絶え途絶えに息を吐きながら、「大好きやで、」と蕩けたような声を絞り出した。)
(/ イチャイチャタイムが楽しすぎるのですが…!これ以上いくと規約に違反してしまうことになりそうなので…(クッッッ)
良きところでぜひぜひ事後へ飛ばしちゃってくださいな…!)
( 吹っ切れて積極的になった陽斗さんは罪深い。少し距離を縮めただけで真っ赤になっていた彼が、自ら顔を寄せて深く口づけてくれる。凄まじいギャップにくらくらしそうだ。互いの唾液で濡れてしまった彼の口元を指で拭うと「ベッド行きましょうか」なんて決まり文句を。心臓は今にも爆発しそうなほど高鳴っているが、ちゃんと格好つけられているだろうか。年下だからって舐められたくない。しっかりと彼をリードしたい。その一心で、彼の手を引いて寝室へと連れ込む。彼をベッドに押し倒してからの記憶は曖昧だ。格好悪い部分も見せたかもしれないし、がっつきすぎて引かれたかもしれない。それでも不器用ながら、精一杯の愛情を分かち合った。 )
───陽斗さん、おはようございます…。起きてますか……?
( 翌朝。男2人で寝転んでもさほど窮屈ではないベッドの上で目覚める。眼前には愛しい彼の後頭部が見えて、寝ぼけたまま抱きついては頸にキスを落とす。職業柄、痕を残すのは絶対に許されないので軽く触れるだけ。昨晩から唇を酷使しすぎて少しひりひりと痛む気がするが、それは幸せの証拠でもあった。本当、夢のようだ。一目惚れした瞬間の僕には想像もつかないような未来を、今生きている。しっかりと、彼はここにいる。それを強く確かめるようにぎゅうと彼の体を包み込む。未だ夢見心地で、口をついて出た言葉は天然混じりのうわ言だった )
……ぼく、ちゃんと生きてますよね。幸せすぎて天国にいるんじゃないかって…思って……
( / 陽斗さん可愛すぎます最高です泣きそうです(限界オタク)イチャイチャタイム止まらなくなりそうだったので一旦暗転して朝チュンの形にさせていただきました!大好きなお泊まりシチュを思う存分堪能させていただいて本当にありがとうございます(泣)
このあと朝ごはんを食べたりしてお泊まり編は〆になると思いますが、今後の展開について少し相談させてください!
雪山の賞レース出場と、美風と女性モデルの熱愛報道によるすれ違いを同時期の出来事として進めようかと思ったのですが、それだと陽斗さんのメンタルがぐちゃぐちゃになるのでは…?と懸念がありまして……。しかし仮に優勝した後に報道を知ったらそれこそ落差がすごくてさらに可哀想な感じに……といろいろ悩んでいまして、ぜひご意見を聞かせていただければと思います!
…んー……。生きとってもらわんと困るんやけど…。
( だんだんとはっきりしてきた意識の中で声が聞こえてくると、
ぎゅう、と抱きつかれたままゆっくりと相手の方へ体を向けて、その背に自分の腕をそっと添える。力を込めて抱きつき返したい気持ちはあるのだが、なんて言ったって全身の力が入らない。
我ながら情けない話なのだが、ベッドへと向かうところから気持ちがふわふわとしすぎてハッキリと覚えていない。…というのも、雰囲気に酔ったまま欲に順従に求めまくっていたのは何となく覚えているもので、今すぐにでも頭が沸騰しそうなぐらい恥ずかしい。事の激しさがどれほどのものだったのかなんて自身の腰の痛みが全てを物語っており、疲労も相まって身体はダルいが、この幸福感は何者にも変えがいものだ。
天然すぎるうわ言を言っていた恋人の顔をちらりと見上げると、昨夜の熱視線を思い出してすぐさま目を逸らし、その胸元に頭をぐりぐりと擦り付ける。)
…なんか、こんなゆっくり寝たんも久しぶりかもしれへん…
って、めっちゃ声ガサガサなっとるやんー…!
今日、仕事休みやなかったら大惨事やで。
( 昨夜の事を思い出してしまったことがバレたくなくて、照れ隠しの意味も込めて欠伸を1つ、伸びを1つすると上記を述べる。今日は1日オフを貰えたのでお泊まりを実行したのだが、心の底から休みで良かったと思う。)
(/いえいえ!こちらこそ、美風くんがイケメンすぎて…最高でした……。ありがとうございます!!
暗転&朝チュンも感謝致します!満身創痍になっている陽斗ですが、まぁ、自業自得ですね(?)
こちらとしては同時進行で問題は無いです!確かに、メンタルに来る回になりそうですが…、おそらく、熱愛報道に静かに怒り悲しむ陽斗が同等に美風くんのメンタルも喰ってしまうことになるのではと思うので、お互い様かな…と(汗)
その分、仲直りする際はたくさんラブラブしましょう!()
ちなみに、雪山が優勝するかどうかは私もまだ決めかねていて、展開を見ながら上位止まりか優勝か決めようと思います!
頑張れっ…雪山……!)
わ、大丈夫ですか…?なにか喉に良いもの持ってきますよ。陽斗さんは動けそうだったら起きてきてくださいね、絶対無理はせずに!
( ふと耳に入る声が随分と掠れていることに気付き、心配になり頭を撫でて。彼もまだ20代とはいえ、年下の僕に付き合わされてへとへとになってしまったようだ。無理をさせて申し訳ない気持ちもありつつ、よく眠れたようだし結果的には良かったのかなと納得して。とはいえ、喋りを生業とする彼の喉を潰してしまうなどもってのほか。ケアを施すのも僕の役目だと思い、なくなくベッドから起き上がると無理はせずにと念を押してから寝室を出て。洗顔と歯磨きを済ませ、昨晩のまま放置していたテーブルの上を片付けては、キッチンにて蜂蜜入りの白湯を作る。元より寝起きが悪いわけではないが、朝からここまでてきぱきと動けるのはきっと彼の前だからだろう。格好つけたがりは尚も健在だ。家に帰すまでがお泊まり、故にまだまだ甘やかしは続行中である。出来上がったものをマグカップに淹れて、両手に二つ持ったまま再び寝室に戻って )
体の方は大丈夫ですか?その、腰とか……湿布が欲しかったら言ってくださいね
( / 了解いたしました!では心苦しくもありますが同時進行でいきましょう…!甘々お泊まりからのシリアス展開、ギャップがすごくて今から少しわくわくしてきました(?)これを乗り越えたらさらに仲を深められそうですね。雪山、そして陽斗さんもがんばってー!!
( 自分のことを心配してかベッドから起き上がり部屋を後にする相手の背を見送ってから、暫くはそのまま横になっていたが、自分だけずっとベッドに転がっているのも申し訳がないので、ゆっくりゆっくりと身体を起こすとベッドの淵に腰掛けた。
マグカップを持って戻ってきた彼から其れを1つ受け取ると、「ありがとう」と礼を述べながら早速一口飲んで。優しい蜂蜜の甘さと共に喉の痛みも和らいでいきそうで、ほっと一息つくと相手も腰掛けるように隣をポンポンと叩いて促した。
どこまでも自分のことを気遣ってくれる彼は本当に自分に甘いなーなんて心の中で思いながらくすりと笑うと、少しづつではあるが甘やかされるのにも慣れてきたらしく、隣に座った彼の片手を引っ張ると、自身の腰に当てて身をぴたりと寄せ合った。)
湿布は大丈夫なんやけど、その代わり代わりにこうしといてや。みっちゃんの手暖かいから気持ちええねん。
( そうは言ってみるものの、やはり甘える度にどこか恥ずかしさはあって、耳が赤くなってしまいながらもう一度マグカップに口を付ける。
そうしていると、ふと、枕元に転がっていた自分の携帯から通知音がなり、手を伸ばして内容を確認してみる。どうやら明日の集合場所が変更になったとかでマネージャーからメッセージが来ていたらしい。仕事関連のメッセージをみると現実に引き戻されたような感覚になりながら、「あんな」と隣の彼へと優しく語りかけた。)
俺な、仕事はもちろん好きやけど、ずっと兄貴とか親を見返したいって気持ちが大きかったんよ。そやから、変に力が入ってたところもあったというか…。
でも、なんかな、今回の賞レースは家族のこととか関係なく純粋に頑張りたいって思うねん。そう思えんのもみっちゃんのおかげやな。
…暫くは一緒にゆっくりできへんかもやけど、俺もみっちゃんのこと応援してるからな。
( そう言うと、相手の方を見ながら少し照れたように笑いかける。真っ直ぐな好きをたくさん伝えてくれる相手に報いるように、自分は自分らしく、楽しみながら好きなお笑いを全うして挑みたいと改めて思った。自分のお笑いで彼が笑ってくれるなら、優勝して、彼が喜んでくれるなら、そう思うと心の底から頑張ろうと思えるし、そんな自分はなんて単純な奴なんだとも思う。
明日からはまた忙しい日常が戻ってくるが、落ち着いた頃にまた2人でのんびりできる日が今からでも待ち遠しい。)
( 誘導されて彼の隣に座ると、カップを持たない方の片手が彼の腰へと引っ張られるのをされるがまま目で追う。起き抜けにしては破壊力の高すぎる発言だな…と驚きながらも、こちらも寝起きがゆえに深く考えず彼の腰を労るように優しくさすって )
勝負事なので、楽しんでほしいっていうのは変かもしれませんけど……あんまり緊張する必要もないですよ。僕はユキさんのお笑いが大好きだから、勝っても負けても僕の中では雪山が1番です。
( 至極当然、という表情で得意げに、腰から背中に手を動かしてぽんぽんと叩く。みっちゃんのおかげなんて言われてしまえば、彼の力になれていると自信がついて。会えない期間も、より一層仕事を頑張ろうと意気込むことができる。充電を溜めるためにも、今はゆっくりと彼を独占できる時間を楽しんでいこう。彼にそっと寄りかかりながら、幸せなひとときを噛み締めた )
『───ねえ、あのウワサ聞いた?住岡美風が熱愛だって』
『え、相手は?』
『モデルのアリサらしいよ』
『へー、なんかお似合いだね』
( 通行人の話声を横目にタクシーへ乗り込む。キャップを目深に被り、震える手を組みながら重く溜息を吐いた。何かに怯えるように、身を縮めて自宅までの時間をやり過ごす。不意に恋人の顔を思い出しては、どうしようもない罪悪感に苛まれた。頭を悩ますのは、昨日発行された週刊誌のとある記事。先日雑誌の仕事で共演した"アリサ"という女性モデルとの熱愛報道が出てしまった。仕事を終え、スタジオを出たところを呼び止められてしつこく言い寄られるまではまだよかった、はっきりと断ればいいだけだったから。しかし影に隠れていたカメラには気付かず、角度が悪く上手い具合に密着しているふうに見える写真を激写されてしまった。グループの人気が上昇している大事な時期に、熱愛報道が出回るなんて最悪だ。責任は重い。どんな処分も甘んじて受け止める覚悟で、メンバーとマネージャーの前で頭を下げた。それでも彼らは、こんな事実無根の記事を信じるわけがないと暖かな視線を送ってくれた。しかし記事を目にしたファンに不安を与えたことに変わりはなく、しばらく世間は猜疑心を捨ててはくれないだろうと忠告を受けた。その証拠に、テレビ局ですれ違うスタッフさんや他の芸能人からも『あの件はどうなんだ』と興味深そうな視線を向けられる。SNSでも賛否両論の声が多く寄せられ、有る事無い事を好き勝手に書き込まれている。そして何より心に突き刺さるのは、恋人である彼への罪悪感。ついこの間泊まりに来た時、これから賞レースに向けて頑張るんだと言っていたばかりだ。それなのに僕がこんなことになって、きっと彼は心配するだろうし、誤解もあるだろう。彼の邪魔だけはしたくなかったのに。ひとり寂しい部屋に帰ると、ジャケットすらも脱がずにベッドにダイブした。ふと彼の匂いがした気がして、思わず涙がこぼれた )
( / キリが良さそうなので、熱愛報道が出回った直後に場面転換してみました!長くなってしまいすみません…。女性モデルもこちらで勝手に名付けてしまいましたが、お互い自由に動かせる舞台装置としてその他の設定を盛り込んでいただいてもかまいません!
( ──予選まであと数日。舞台の仕事をしながらも合間にテレビ撮影をこなしつつ順調に賞レースへの準備も進めていた時。ヤマちゃんが何だか複雑そうな顔をしながら週刊誌を渡してきた。世に出回っている情報はネタになる時もあるし、逆に偶然ネタと情報が類似すると炎上する場合もあるしでニュースや週刊誌の情報はたまにチェックしている。
変な顔をしている相方になんやねん、なんて言いながらページをめくっていると、よく知る人物が目に映りぴたりと動きをとめた。大々的に書かれた『 大人気アイドル、モデルと熱愛か』の文字をゆっくり読むと、ショック、というより心配が勝った。写真に映る彼の表情は角度的によく見えないが女性と密着しているように見える。だが、自分だってこの業界で生きている人間だ、週刊誌の記事を鵜呑みにするほど馬鹿ではない。
それに、人気絶頂のアイドルは週刊誌が張っている事も多いだろうし、彼がモデルとお付き合いしているなんて有り得ない。だって、彼は自分と付き合っているのだから。…彼は、こんなことをする人ではないはずだ。きっと、記事がでて不安で大変な想いをしているに違いない。
相方には彼と付き合っていることは言っていないが、多分、長年一緒にいる勘ってやつもあり、薄々気付いている。だからそんなに心配そうな顔をしているんだろう。「…大丈夫やから」なんて、小さく言えば、次の収録の時間となり週刊誌を閉じる。鼓動が嫌に速くなるのを感じたまま、それを無視するように楽屋を後にした。)
「 ──あ、ユキさんですよね?初めましてー!
あの、美風くんがとっても面白いって言ってたので、舞台の映像見ました!すごい笑っちゃって!私もファンになりそうですー! 」
( 仕事の合間に彼へ連絡を取ろうかと思っていたのに、スケジュールが詰め詰めなのもあり全く連絡する時間はなく、なんだか焦った気持ちのまま、相方より一足先に次の撮影に向けてテレビ局内を歩いていた。すると、ふいに背後から声を掛けられ振り向くと、そこに居たのは彼と週刊誌に載っていたモデルで、ズキリと胸が痛む。
廊下の真ん中で可愛らしい笑顔で話しかけて来る彼女になんとか平然とした態度を保ちながら礼を言うが、彼の事を親しそうに下の名前で呼ぶ彼女は、なんだか此方の様子を伺っているようにも見えて…胸の中のざわめきがどんどんどんどん大きくなっていく。
思わず苦笑いをしてしまった自分をみて、彼女は何かに気付いたように手を口元に添えるとなんだか恥ずかしそうに言葉を続けた。)
「 …あ、もしかして、週刊誌見ちゃいました?
まさか撮られちゃうなんて思ってなくて…あの時は、ただ食事に行こうって話をしてただけなんです。局ではプライベートの事をあんまり話さないでって彼はいつも注意してくれてたのに、私がつい……」
(/ 場面転換ありがとうございます!!
早速、此方も勝手にモデルを動かして2人を対面させましたが、ロル回しにくかったらすみません…;
熱愛編もまたよろしくお願いします!!)
( 単独での仕事を終え、テレビ局の廊下を歩く。メンバーがいない現場では孤立感が強まり、精神をすり減らしながらもなんとか取り繕って精一杯仕事に集中していた。しかし、そろそろ限界を迎えそうだ。視線の先に陽斗さんらしき背中が見えた時、いよいよ幻覚を見たのかと自分を疑った。目を凝らして、しっかり実在していると確かめた直後、彼の近くにもう1人の人影を見つける。それは自分自身と熱愛報道が出ているモデルで、どうして陽斗さんと話しているのか、理解が追いつかない。ただ分かるのは、他に誰が見ているかも分からない状況で、このまま割って入るのは賢明ではないということ。物陰に隠れて、冷や汗で湿った額を拭う。陽斗さんには合わせる顔がないし、彼女とのエンカウントは避けたい。それでも、何故潔白な自分がこそこそと気を回さなければいけないのかと、次第に腹が立ってきて。勢いのまま、彼らの前に飛び出して )
……あっ!こ、こんにちはー。お久しぶりです、は…ユキさん。それと…アリサさんも。
( ぎこちなく偶然を装い、視線は床を向いたまま声をかけた。まずい、何を話すか決めていなかった。何を話しても間違う気がした。気まずいまま次の言葉を言い淀んでいると、アリサさんが先陣を切って「美風くん!週刊誌の件はご迷惑をかけて本当にごめんなさい…」とやや大袈裟に表情を歪めて頭を下げた。何も言えず立ちすくむ。続けて「私、すごく責任を感じてたの…しばらく会えなくて寂しかったし、美風くんに嫌われるんじゃないかと思って……」と、悲痛な声をあげながらすり寄るようにそっとボディタッチをしてきた。謝りたいのか近づきたいのか、ちぐはぐな言動に困惑する。人に対して真っ向から嫌いだなんて言えない弱みにつけ込まれているような気がした )
……あの、僕、このままほとぼりが冷めるのを待つだけで本当にいいのかなって思うんです。ちゃんと否定しないと、アリサさんだってご迷惑じゃ───
「ううん、私はいいんだよ。むしろ無理して否定した方が怪しまれるんじゃない?ね、ユキさん」
( 肩に置かれた手を避けさせると、彼女の眉間にシワが寄ったように見えて背筋が凍る。しかし一瞬のうちに不自然なほどパッと表情が晴れて、あろうことか陽斗さんに話を振りだした。彼女からすれば、今回の件に陽斗さんは無関係のはず。ちょうどこの場に居合わせたから、という理由なのかもしれないが、隠し続けていた僕らの関係を衝かれたような感覚がして、密かに恐怖を感じた )
( / なかなか良い性格()してる悪役を動かすのってちょっと楽しいですよね。アリサさんには存分に場を掻き乱してもらいましょう…(苦笑)熱愛編、波乱の予感ですがこちらこそよろしくお願いします!
( 流石はモデルとでも言うべきか、自分と同じぐらいの高身長にスラットした体型、その綺麗な顔つきは人気なのが頷けるほど。…しかし、こうして話してみるとなんだか圧を感じて非常に居心地が悪い。テレビの画面越しに観た時はこんなこと感じなかったのに。
対応に困っていると、聞き馴染んだ声が背後から聞こえてきて思わず握っていた拳に力が入る。ぎこちない挨拶には「久しぶりやな」なんて他愛もなく返すが、此方も目を合わせることは出来ず、へらりと笑顔を作るだけで精一杯だった。彼を前にして分かりやすく声音を変える彼女の様子に呆然としながら、くっ付き合う両者を前に乾いた愛想笑いしかできず。そして、突然会話の矛先を向けられたかと思えば、うーん、と腕を組み考えるフリをする。“コイツは俺のなんでさっさと否定してもらっていいですか”なんて、私欲を丸出しにするほど子供でもないし、かといって優しくアドバイスできるほど大人でもない。結局のところ、「
…いやぁ、僕がとやかく言えることではないんちゃいますー?」なんて、当たり障りのない事を言いながら目を逸らすことしかできなかった。2人が並んでいる前で上手く笑うことかできなくて、多分、凄く、情けない顔をしていたかもしれない。)
『あれ、ユキー!何してんねん!スタッフさんが探してるらしいで!はよ行くぞ!』
…お、おぅ。
すんません、アリサさんに、…住岡くん、次の収録があるんで先に失礼します!それじゃ。
( この場から逃げてやろうかと思ったその時、2人の後ろから駆け足で相方がやってきて此方の腕をぐいと引いた。相方はすれ違いざまにちらりと2人に目をやって「あ、こんにちはー!」なんていつも通りのんびりと挨拶をしていたが、恐らくこの状況がよろしくないと概ね自分を引き剥がしに来てくれたのだろう。
相方の言葉に慌てて頷きながら申し訳なさそうに2人に言葉をかけたが、結局、大好きなはずの恋人とは一度も目を合わせることが出来ず、久しぶりによそよそしい呼び方をしてしまった。
1番辛いの他でもない彼なのに…最悪な態度をとってしまった自分が情けなくて、ぎゅうと痛む胸を抑えながら、相方に続いて足早に廊下を去っていった。)
( かつて、彼にならどう呼ばれても嬉しいなんて考えていた自分がひどく健気に思えた。今の僕は、下の名前だったり、似つかわしくない愛称で呼ばれることに慣れすぎていた。名字で呼ばれただけ、それだけで疎外感を覚えてしまう。ヤマさんに連れられて行った姿を見つめながら、心がぼろぼろに荒んでいくのを実感した。彼との心の距離が開いていく。どうにかしたいと思うのに、隣でほくそ笑む彼女を跳ね除けることもできず、ただ顔に影を落とした )
……僕も、失礼します
( 「あ、ちょっと!」と呼び止める声が聞こえたが、無視して踵を返す。事務所同士の兼ね合いもあって、きっと記事について言及するのは難しいんだろう。最近では歌やダンス、MCも上達してきて、所詮は顔だけと叩かれることも減ってきた。努力が認められてきたのだろう。熱愛報道が出たとしても、僕を信じて応援してくれる人達はたくさんいる。世間の興味は移ろっていくもので、このまま自然鎮火するのを待つしかない。彼女は、その間に僕との距離を縮めようと企んでいるようだ。身に覚えがない言動を捏造して、ありもしない関係を匂わせてマウントを取る厄介な人。好きでもなんでもない人間からの好意でも受け入れていた過去の自分はもういない。今の僕の人生には陽斗さんという軸があって、彼に見放されることだけが何よりも耐え難い。いっそのこと、僕の恋人は陽斗さんだって言ってしまえば……そんなこと出来るはずがないのに、今は非現実的な思考に溺れるしかなかった。───雪山の賞レース出場を賭けた予選当日。お互い煮え切らないまま大事な局面を迎えることになり、心配する資格もないくせに彼のことばかり考えていた。自分なんかが連絡してもいいのか、迷いはあった。しかし、どうしても言葉を届けたくて、一言だけメッセージを送った )
『頑張って。応援してます。』
(──予選当日。派手なスーツに身を包み、緊張して冷えきった指先でスマホ画面に表示されたメッセージを開いた。あの日から、彼に会うどころかこうしたメッセージすら途絶えてしまって、ひたすら忙しさに身を任せて己の感情に背を向けていた。
世間では彼の熱愛に関しての話題が薄れていく一方だが、ファンの一部の間ではまだ様々な意見が飛び交っていた。ショックが癒えない人が大勢いる中で、肯定的な意見を述べているものも少なくなくて、あの2人がお似合いだと賞賛する声も知っている。そりゃ、自分の推しの隣にあんな綺麗な人がいたら認めざるおえないし、どうせ付き合うなら同じようなキラキラとした人であって欲しいと思うのは自然なことだろう。─並びあったあの2人がとてもお似合いだと思ったのは、自分も同じだったから。
“ ありがとう ”と一度打った文字を静かに消去して、全身鏡に目をやる。柔らかな曲線も、長く艶やかな髪も、可憐で可愛らしい顔も、何も持ち合わせていない自分が映っている。)
……ヤマちゃん、いこか。
( 視線をずらし、軽くストレッチをしていた相方に向けて小さく声をかける。「よし!ぶちかましたろ!」と明るくいつもの調子を崩さない相方にほっと安堵したように笑いかけると、肩を組み合い、余計なことは考えないように深く息を吸って予選の会場へと向かって行った。)
──
「 美風ー!雪山さん、予選通過したって!さっき結果でてた!ヤマさんにお祝いメッセージ送ったら“決勝も楽しみにしときー!”だって。予選のネタも見たかったなー!…」
( 予選が終わって数日後、メンバーがいる楽屋に入るやいなや、黄色担当─竹内は熱愛が出てすっかり元気を無くしていたリーダーの横に座りニコニコと話し掛けた。彼の大好きなお笑いコンビの話題だったし、自分も実は趣味が合ってヤマさんと仲良くさせてもらっており伝えてみたが、彼の反応を見るに「……ユキさんからは、連絡来てないの?」と心配そうに優しい声音で尋ねてみる。ユキさんと仲良くなってからそれはそれは嬉しそうで仕事も頑張っていた彼だが、熱愛が出た時期と雪山さんの賞レースが重なってしまい、あまり連絡が取れていないようだった。楽屋にいる他のメンバーも此方の様子を伺いつつ、それぞれ、大丈夫かな、という目線でアイコンタクトを取る。リーダーの事が心配なのは全員同じのようだ。)
……え、そっか、よかった…。
…うん。連絡はないけど、忙しいだろうし仕方ないよ。
( あの後、数日経っても彼からの返信はなく、やはり愛想を尽かされたのだろうかと気が滅入るばかりの毎日を送っていた。楽屋で出演者アンケートに向き合おうにも、身が入らず片手でペンを回しながら放心していた。すると、メンバーの1人であるタケくんが隣に座るや否やにっこりと笑って。彼から朗報を聞けば、顔を上げて一瞬明るい表情を見せたものの、ユキさんの話題になればまた俯いて。既読はついたが以降返信はなく、口では仕方ないと言うものの、無視されている現状には相当心を挫かれている。ふとメンバー達の視線が気になって、力なく笑いかけて。「みんな、なんでそんなに心配そうな顔してんの…僕なんてユキさんからすればただのファンでしかないんだから、わざわざ連絡なんてするわけないって」自分に言い聞かせるように、そっと呟く。まるでユキさんと共演する前、芸人とファンでしかなかった関係に戻ったみたいだ。メンバーにまで余計な気を遣わせて、まったく情けないリーダーだ。これ以上心配をかける訳にはいかない。勢いをつけて立ち上がると、重い空気を断ち切るように快活な調子で声をあげて。空元気かもしれないが、これが僕にできる精一杯だった )
……いろいろ心配かけてごめんね。仕事は絶対手を抜かないから、裏でちょっと暗い顔してても見逃してほしい!全然、僕は大丈夫だから。
( ただのファンだと言うけれど、ヤマさんから聞いた限り、2人は大分仲良くしていたみたいだったのに…、そうは思うものの、大丈夫だと言い張るリーダーにこれ以上余計なことは言えず、彼の言葉に 分かったよ、とまた優しく微笑んで頷けば、背中をぽんぽんと叩いてやった。)
────
──
「じゃあ、今日のとこ修正頼んだで!俺もあの間んとこ考えとくわ!」
…ん、また明日合わせよなー。
( マネージャーの車に乗ったまま窓から顔を出し言葉をかける相方へ、はいはい、と手を振りながらその姿を見送った。先程仕事が終わりすっかり日も落ちた時間になり、コンビ揃ってマネージャーに途中まで送って貰っていたものの、買い物しなければ行けないことを思い出し、気分転換に散歩がてらブラブラしようと適当な所へ降ろして貰うことにしたのだ。
予選を無事通過し、喜ぶ暇もなく本戦の準備に勤しんであっという間に日数が経った。あくまで目標は優勝、ゆえに日に日にネタ合わせの時間は長くなり、緊張感も増してくる。今日話し合った修正箇所について頭の中でぐるぐると考えながら、流石に疲れが溜まってきているのか無意識に溜息がこぼれる。
…彼とも随分連絡を取っていない。何度もメッセージを送ろうとしたのだが、その度にあらぬ事を考えてしまい作成したメッセージを消去しての繰り返し。彼女と並んでいる姿を見てから、日に日に募る劣等感や罪悪感に苛まれていた。あれからもあのモデルと現場で鉢合わせることが数回あったが、その度、俺は芸人で、男で、そんな俺が彼を独占していいはずがない、と考えてしまう。そして、そんな事を考える自分が更に嫌になって、また堂々巡り。
彼のことを思う度にぎゅうと痛くなる胸を無視しながら、携帯を取り出そうとカバンの中に手を入れ、ふと、カバンに入っていたカード状のものへと手が触れ取り出した。
それは賞レース当日の関係者席への招待状だった。日付と賞レースの名前が書いてあり、『雪山 関係者 』と無駄にオシャレに印字されている。これを持っていけば関係者席へ案内されるというもので、誰か招待したい人がいるなら、とマネージャーからそれぞれ渡されていたのだが…、 絶対に当日は見に行く、と眩しい笑顔を向けてくれていた彼を自分は今無視し続け傷つけている、それなのに、そんな自分が一体どの面を提げてこれを渡せば良いというのか…。)
……あ、…。
( そんな事を考えながら歩いていると、見覚えのある建物が目に入り、立ち止まる。そういえば、家、ここら辺やったな、とぼんやり見つめる先には彼のマンション。
──勝手に郵便ポストに入れとこかな、あ、でもポストもオートロックの向こう側か。そもそも忙しいし来れるわけないやん。俺なんかの為に…。
またも薄暗い感情が心の中に雪崩込んできて、被っていた帽子を目深に被り直すと、熱くなっていく目頭を拭って踵を返そうとしていた。)
( グループでの仕事が終わり、単独の仕事に向かうというメンバーを見送った後、予定がない数人で揃って食事をした。別れ際『俺らも週刊誌に撮られないように気をつけて帰ろうぜー』などと冗談半分で言い出すやつもいて、恥ずかしくって慌てて止めたが、早くもネタに昇華されているのはありがたくもあった。彼らなりに重く考える必要はないと教えてくれているんだろう。仲間達に支えられて、幾分か楽観的になれた。陽斗さんのことを考えれば、またちくりと胸を刺す痛みがあるものの、今は一生懸命仕事に向き合うしかない。その為にも休める時にしっかり休まなくては。解散して足早に帰路につくと、暗がりの中にぽつんと立つ人の姿を見つけて。その背格好と酷似している人物が頭に浮かんで、いやまさか、と疑いながら距離を縮める。帽子のせいで見えづらいが、ちらりと顔を覗くと、確かにその人はずっと会いたかった彼だった )
陽斗さん?陽斗さんだ…!どうしてここに……あっ、あの!予選通過おめでとうございます!
( 久しぶりに対面して舞い上がってしまい、気まずいまま別れたことも忘れて話しかける。そしてお互い変装しているとはいえ、また良からぬ写真を撮られたら大変だと思い「とりあえず、あっちで話しましょう」とマンションのエントランスへ手を引いていく。さすがに家の中まで連れて行く考えには至らなかった。まだ彼の本意を掴めていないから。外では暗くて気が付かなかったが、彼の瞳が少し潤んでいるように見えて、パッと手を離す。やっぱり、僕と話すのは嫌だったかな。できるだけ普段通りでいるつもりが、なんだかこちらも泣きそうになって視線を逸らしながら )
本戦の日も近いですよね。ちょうど休みがもらえそうなので見に行きたいなー、なんて…。……あはは、ごめんなさい、僕が言っていいことじゃなかったですね。
……ぁ、いや、近くのスーパー寄ろかな思ってて。ついでに散歩してただけや。
( 背後から声がするとぴくりと肩を揺らし、久しぶりに見る彼の姿に一層瞳が潤んだ気がしたが、バレたくなくて直ぐに顔を逸らしてしまった。彼は明るく楽しそうに言葉をくれるのに、目も合わせられない自分がとても恥ずかしい。予選通過の祝福をしてもらえば「ありがとう」と返すものの、どこか気まずさは払拭できず。そのままエントランスまで手を引かれると、伝わってくる彼の体温に甘えたくなって仕方がないのに、上記以上は言葉が出なくて、よそよそしい自分の態度に相手の優しい温もりもすぐに離れていってしまった。ちらりと彼の表情を見ると、自分と同じように目を逸らし、悲しげな表情を押し潰しているように見えた。
そんなことをさせたい訳じゃないのに…自分のせいで…と、手にしていた招待状を渡すよりも先に、「ごめん…」と小さく呟いた。)
──…ちゃうねん。1番大変やったのはお前で、こんなん、俺がお前に当たる事やないって分かってんねん。分かってるけど、どうしようもないねん。
言いたいことは沢山ある。けど、今言ってしまったらアカン。今の俺はめちゃくちゃ稚拙で、このままやったら、お前の隣に立ってられへん。
( 俺は、1人の人間として、立派な芸人として、堂々と隣に居れるようになりたい。そう消え入りそうな声で伝えながら、我慢していた涙がポロポロと溢れ出す。彼自身にぶつけたい感情は色々ある。胸の中で疼いている悲しさや、嫉妬心を全部ぶつけてしまいたい。しかし、まだその時ではないと思う。これは単に自分で課した言い訳でしかなくて、こんな事に付き合わせるのも申し訳ないとは思うけど、まだ予選しか通過していない半端者が全力も出し切っていないうちに彼に縋るのは、誰よりも自分自身が許せなかった。優勝して、自分もキラキラと輝く彼の隣にふさわしいのだと思いたい。
エントランスの中心で静かに涙を拭いながら、ずっと手にしていたカードを差し出した。)
……絶対、優勝したるから。それまで、もう誰にも触られんといて。
……陽斗さん…。
( 何に対しての謝罪なのか、理解する前に弱々しく涙を溢し始めた彼を見て、反射的に手を伸ばしかけた。しかし、彼を苦しめているのは僕なのに、その涙を拭う資格はあるのだろうか。そんな考えが過っては、宙に浮かせた手をゆっくりと下ろして握り込む。"お前の隣に立てない"って、どういうことだ。僕はどんな陽斗さんでも受け入れたいのに。格好悪くてもいい、情けなくてもいい、傷つけられてもいい。どんな彼でも隣にいてほしいのに。最初は芸人として生きる彼に惚れた。でも今は、なによりも陽斗さん自身を好きでいるんだ。たとえいつかお笑いをやめてしまっても、芸能界を引退する時が来たとしても、彼が彼のまま、隣にいてくれるなら僕には勿体無いくらい幸せなのに。ただ名前を呼ぶしかできない自分が憎い。…ああ、僕らこのまま終わってしまうのかな。最悪な結末を覚悟したその瞬間、何かを差し出された。戸惑いながら受け取ると、それが招待状だと気づいて )
これ、……いいんですか?
……え、どうして…てっきり、陽斗さんは僕のこと、もう好きじゃないんだと思って……
( 自分自身の手で涙を拭う彼を見れば、僕の存在は必要ないと暗示されているようで心の距離を感じた。それでも招待状を手渡してくれたのは、彼の勇姿を見届ける権利を与えてくれたということ。別れ話をされてもおかしくないような流れで突然のことに拍子抜けして、瞳が揺らぐ。触れられないで、なんて独占欲すらも匂わせてきて、まだ、彼の恋人でいていいんだとひどく安心した。優勝宣言には意志の強さを感じて、彼の中で何か決意したことがあって、それは僕に関係あることだというのも察しがついた。隣に立てない云々の話だとすれば、僕がどんなに説得しても彼は納得しなさそうで。複雑ではあるが、戦うことで彼の気が晴れるなら、僕は応援するのみだ。そして彼が勝負に挑むなら、僕だって。今すぐにでも抱きしめたい衝動を抑えながら、そっと服の裾を掴み )
ねえ陽斗さん、僕もちゃんと戦います。あの人とちゃんと話をして、諦めてもらいます。僕は、陽斗さんの隣じゃなきゃ嫌だから…。
…正直、まだ怒ってるし、悲しい気持ちはあるよ。
でも、ちゃんと、お前に見てて欲しいと思うから。
( 好きじゃないんだと思った、との言葉には否定を示すように首を横に振って。しかし、はっきりとは言葉にせず目を逸らしたまま複雑な心境を少しばかり吐き出した。それでも、見ていて欲しいと思うのは紛れもない本心で。
残った涙の跡を指で拭っていると、不意に裾を引かれゆっくりと視線を動かした。─…自分たちは同性で、アイドルとお笑い芸人という世間的には対にも取れるような立場でいて。きっと、自分たちがプライベートで撮られたとして、週刊誌は大事になんてしなくて、ただ仲の良い友人か何かだとしか思わないだろう。芸能生活を考えればそれぐらいで収まるのが何よりだが、彼の熱愛記事を見て、それに対する世間の反応を見て、やっぱりアレが正解なのかな、なんて思ってしまって。…でも、それがとてつもなく悔しくて。彼に触れていいのは自分だけだと信じたくて、優勝するまで誰にも触られるな、なんて稚拙な独占欲をチラつかせてしまった。もし、本当に優勝できたとして、その瞬間、一番に、他でもない彼に抱き締めてほしいとさえ思う。生放送だし(そもそも優勝しなきゃいけないし)出来るわけがないと分かっているけど、もしそれが現実になったら、この世で1番幸せだと言っても過言では無い。
彼の決意に満ちたかっこいい顔を見つめながらそんなことを考えていると、自分の隣じゃなきゃ嫌だという言葉に、裾を引く手を控えめに握り返しながら、「…ちゃんと勝つんやで」なんて、力が抜けたように小さく笑ってみせた。)
───
─
「 あ、美風くん!偶然だね!今日はこっちでお仕事?」
( 2人が名残惜しそうにしながらも控えめに結んだ指を離した夜から暫く。テレビ局の廊下で知っている背中を見つけるや否や、アリサはパタパタと小走りをしてその背中を軽くタッチする。覗き込むようにして相手の顔を見ると、嬉しそうに笑顔を向けて上記を述べ、わざと小声で囁くようにして「 アレから結構経つのに、やっぱり記事にされちゃうと共演のお仕事減っちゃうね。残念。」とクスクス笑いながら続ける。)
「でも、結構肯定的な意見も多かったというか…応援、してくれてる子たちもいるみたいでびっくりしちゃった!
美風くんとってもかっこいいし、お似合いなんて言われて、私ちょっと照れちゃった。」
……あ、はい…アリサさん、そのことなんですけど、今お時間大丈夫ですか。
( あれから話し合いの機会を窺っていたが、ちょうど彼女の方から声を掛けてきた。人好きのする仕草には一切靡くことなく、淡々とその目を見据える。彼女を悪者だと思いたくないが、知らずうちに敵意が滲み睨んでしまったかもしれない。意図せずとも僕らの関係を引き裂こうとした彼女には、もう二度と笑顔を向けられそうになかった。それでも同業者として、穏便に、後腐れなく話を終わらせたい。彼からの応援の言葉を胸に、そっと息を吸うと話し始めて )
今後もし例の記事について聞かれても、はっきりと否定するって約束してくれませんか。……なにも困ることはありませんよね、僕達に特別な関係なんてないんですから。
( 思ったよりずっと低い声が出てしまって、自分のことなのに驚いて。冷たく遇らうことは避けたかった。逆上されて良からぬことを言いふらされる可能性だって捨てきれない。彼女への信頼はそれほど薄い。恋人の存在を伝えなかったのもそれが理由だ。もしも陽斗さんとの関係がバレたら、怒りの矛先が彼に向かうかもしれない。慌てて「すみません、事務所の人に話つけてこいって言われて」と事務所を盾に嘘をついて。相手の顔が見れずに俯く。今は彼女が認めてくれるよう、祈るしかなかった )
( 時間があるかと問われればにこやかに頷くが、その内容が自分の望むようなものではないとすぐに分かった。言葉選びこそ慎重だが、向けられた視線は鋭く、秘められた怒りが静かに滲んでいるような気がした。本当なら猫撫で声で擦り寄って様子を伺いたいところだが、どうにもこの手は通じなさそうだ。
そうなれば「ごめんなさい」とここは素直に謝罪の言葉を口にし、うるうると揺れる瞳を相手に向けて申し訳なさそうに言葉を続けた。)
「……迷惑をかけちゃったのは悪かったわ。
でも、私は美風くんが好きなの。美風くんだって分かってるでしょ?これから特別な関係になれないの…?」
(反省しているのかと思いきや、謝罪の言葉に続けて出たのは告白まがいな言葉。記事について否定して欲しいと望む相手に向かって、この場に及んでも自分の都合を無理やりにでも叶えようとしているらしかった。
あんな大々的に週刊誌に記載されたのは予想外だったが、きっかけは何であれ彼とお近づきになりたいという思いがあった。しかし、それは純粋な恋心ではなく、“人気急上昇中のイケメンアイドルが彼氏”という箔がつくからに過ぎないだろう。)
ごめんなさい。気持ちには応えられません。
( 「好き」という言葉。ファンから貰う「好き」も、恋人の彼から貰う「好き」も、全部愛おしくて胸の中に大事にしまっている宝物のような言葉。それが彼女の口から発された今、これほど薄っぺらい「好き」があったのかと冷めた目で彼女を見下ろす。以前までは曖昧な好意だけ匂わされてはっきり切り捨てることもできずに困っていたが、直接的な言葉をかけられたのなら返事は一つしかなかった。潤んだ瞳を向けられ、罪悪感がないわけではない。アイドルが女性を泣かせるなんて酷いなと自分でも思う。それでも僕にはそれ以上に泣かせたくない人がいる。僕の隣は、すでにその人で埋まっている。泣き落とそうとしても無駄だと、未だ食い下がろうとする彼女に続けて言葉をかけて )
……僕は、相手を尊重して大事にしてくれる人が好きです。本当はつらいはずなのに、自分の気持ちを無視してまで僕を心配してくれるような、不器用で優しい人がいい。…申し訳ないですけど、あなたが当てはまるとは思えません。
( 恋人を思い浮かべて並べた言葉は、暗に自己中心的な彼女を批判しているように聞こえただろうか。しかし心に鬼を宿して言い切らないと諦めてもらえそうになかった。彼女は確かに端整な顔立ちで、華やかな職業で活躍している自信家だ。それを考慮すれば、アイドルの僕にはお似合いなのかもしれない。実際、そんな世間の声も少なくなかった。それでも、駄目なんだ。僕の隣はあの人しかいない。アイドルの僕も、格好悪い僕も、すべてを愛してくれるのは彼しかいない。そして、彼のすべてを愛せるのも僕しかいない。…これはなるべく出したくない最終手段だったが、拒絶の意図を分からせるには一番効く。最後のひと押しだと釘を刺して )
あ、あと、仕事以外でこれ以上関わろうとしたら、共演NG出しますから。…というか、今すぐにでも出したいくらいなんですけどね。アリサさんの事務所にはお世話になってるんで、難しくて。
( 此方の告白をあっさりと断られ、その結末は内心分かりきっていた事だがどうにも悔しくて。一言言い返そうかと口を開くが、続けられる言葉は自分を見透かし、あろうことかとある人物を思い浮かべ心から愛おしそうに話すものだから、思わずぎゅ、と拳に力が入る。
彼が誰を想っているのかはなんとなく分かっていた。相手も相手で、この記事については無関係のはずなのに自分と会うと心底気まずそうにしていたから。共演をきっかけに仲が良いらしいとは元々聞いていたけれど、まさか本当に…)
「……それ、“あの人”のことなんでしょう。
確かに、顔はカッコイイかもしれないけど、芸人だし…、それに、男性同士よりも私と噂になってたほうがいいのにって思ってたのに…。」
( 彼らの関係については確証なんてなくて、様子を伺うためにわざと話し掛けたりはしていたけれど、今この瞬間に、自分があの人に負けたことだけは事実のようだ。未だ信じられなくて、往生際悪く次に発する言葉を必死に選んでいたが、彼からの最後のひと押しに、ふん、と腕を組んで「もういいわ。」と不機嫌そうに呟いた。)
「私だって、事務所にこれ以上怒られたくないもん。もうやめるわよ!貴方たちよりもかっこいい人なんてたくさんいるし!」
( とうとう諦めたのか、負け惜しみのように子供じみた捨て台詞を吐くと、腕を組んだまま踵を返しそのまま廊下の向こう側へ去っていった。
──…すると、それと入れ違うようにして、背後から「また絡まれてたのか?大丈夫?」と、なかなか戻ってこないリーダーを心配して探しにきたらしい竹内が駆け寄ってきた。)
「 マネさんからスケジュール貰ってたんだ。
美風、当日の日ちゃんと休み入ってたよ!楽しみだな」
( 彼女が言う"あの人"とは、きっと陽斗さんのことだ。ずっと彼の事を考えて発言していたんだ。女性は洞察力が鋭いとも言うし、勘づかれても無理はない。彼との関係を見透かされ狼狽えてしまいそうだったが、動揺を見せて墓穴を掘ることは避けたくて、あえて堂々と相手の目を見ることで場を凌ぐ。否定も肯定も今は適切ではないと思った。すると、ようやく観念したのか往生際が悪い態度をとりながらも「もうやめる」と吐き捨てて彼女は去っていってしまった。その背中を見送るや否や、ぷつりと緊張が解けると体の芯から力が抜けて、思わず壁に手をつく。その後すぐに駆け寄ってきた見慣れた顔に少し安心して、ゆっくりと呼吸を整えて )
…………あ、……う、うん。ありがとう。
……なんとか、話つけて…怒らせちゃったけど、納得してもらえたみたい
( 事の顛末を伝えながら、心底安心したような顔で片手でピースを作り彼に見せびらかす。ひどく疲弊していたが口角を上げる余裕はありそうだ。あんなに人に対して敵意を向けたのは初めてで、ずっと憤慨していて攻撃的な態度をとってしまった罪悪感は捨てきれない。なるべく事を荒立てたくなかったのに、結局彼女の怒りを買う形になったこと、陽斗さんとの関係がバレてしまったこと、心残りはたくさんある。これ以上関わらないと約束を取り付けたが、今後彼女がどう動くかは分からない。不安はあるものの、一応、一件落着といってもいいのだろうか。とにかく後は彼の勇姿を見届けて、しっかりと仲直りをする。それが新たな目標だ )
…なんか、すっきりしたよ。まだすべて解決したわけじゃないけど、……これでちゃんと雪山を応援できる。当日、楽しみだね。
( 仕立ててもらった新しいスーツに身を包み、相方と並んで舞台袖に立っていた。生放送の大舞台だからとメイクさんに髪の毛までセットされたのがなんだか落ち着かなくて、思わずセンターパートに分けられた前髪を触ってしまう。
──いよいよ迎えた本戦当日。先輩方が多く出場する中、若手は自分たちともう1組のみ。賞レースは審査の基準が幾つもあり、これでもかとネタ合わせをしてきたにも関わらず、やはり緊張感が今までの仕事と比べ物にならない。それに、自分には優勝したい理由が沢山ある。
芸人を志し始めたころから、いつか賞レースに優勝して少しは家族を見返してやりたいと思っていた。その気持ちは変わらない、でも今は、彼の隣に芸人として堂々と立ち並びたい。芸人のユキとして、雪田陽斗として、彼に少しでも誇りに思って欲しい。しかし、“絶対優勝する”なんて大口を叩いておいて、実際は優勝できなかったらと思うと恐ろしくて、自分で自分の首を絞めるとはこういうことかと小さく笑った。
今日のことに集中する為、彼に会ったあの日以降、未だに連絡はとっていないし、極力考えないようにしていたが、どことなく寂しさを覚える。…彼はちゃんと戦えたのだろうか、観に来てくれているんだろうか。やっぱり、面倒臭いやつだと見切られていないだろうか。騒がしくなる舞台袖でそんなことを考えていたが、舞台上からMCの声と観客の声援が聞こえて深く息を吐くのと同時に背筋を伸ばした。)
「 ──運悪くトップバッターやなぁ。ユキ、緊張してんの?」
…ちょっと考え事してただけや。少ししとるけど、お前ほどやないで。
「 俺は別に緊張なんかしとらんわ。でも、楽しみや、ユキが書いた新ネタめっちゃおもろいもん。決勝で披露したろな。」
その前に、調子乗ってヘマして優勝逃さんようにきばりや。
…ほな、さっさといくで。
「「 どうもーー!雪山ですー!」」
( 相方とグータッチを交わし舞台袖から一歩踏み出したと同時に、いよいよレースが始まった。
1番手と言うこともあり激しく緊張していたが、漫才が始まると自然と落ち着いて、普段通りのテンポ感で進めることが出来た。大きな舞台に1本のスタンドマイク。派手な照明や派手な演出もないけれど、マイクを挟んだ相方とのこのやり取りが、自分にとってはとても幸せで、楽しくて。観客の笑い声が聞こえる度に、やっぱり、人を笑顔にできるこの仕事が1番かっこいいんだと心のそこから感じた。
トップバッターで漫才を終えると、その後はひたすらに祈るばかり。自分たちの得点が他所に抜かされ、3位以下になってしまったらその時点で決勝進出が消え去る厳しい世界。
─数時間祈ってばかりでいい加減緊張度がMAXになり具合が悪くなりそうだが、いよいよ、今漫才をしている組で最後…。最初は景気よくトップの点数を死守していたが、その後は抜かされ現在は3位。この最後の組に点数が抜かされたら、その時点で敗退してしまう。
モニターに映る自分は無意識に相方にしがみついて、心底不安そうな顔をし相手の点数が表示されるのを今か今かと待っていた。…しかし、次の瞬間、会場へ響き渡るMCの声により、不安そうな表情から一変し、相方と共にガッツポーズを決めることになる。)
『 3位をキープし!雪山!!決勝進出~~!!』
はぁ…どうしようどうしよう、緊張してきた……吐きそう……。
「いや、美風が緊張してどうすんの!」
( 遂に迎えた運命の日。関係者席に腰を下ろしてからも、始まる前から顔面蒼白で頭を抱えているものだから隣の黄色担当には呆れられてしまった。だって、仕方ないだろう。大好きな漫才コンビの晴れ舞台で、ひとりのファンとして、そして陽斗さんの恋人として様々な感情が渦巻いているんだ。背筋伸ばして平常心で、なんてのは到底無理な話だ。昨夜から一睡もできなくて目の下にできた隈をなんとか隠して、見た目だけはしっかりと決めてきたが、死刑執行を待つような表情で開始時間を待つ姿は恐らく格好良いとはいえないだろう。「ほら始まるよ」という声に顔を上げて、ステージを見る。オープニングを進めるMCの声、出場者の出番順が発表され、雪山が一番手と知れば「えっ!?」と思わず大きな声が。お笑い賞レースは出番順が肝心だ。最初のうちは審査員達も手探りで、低めの点数をつけがちであるため後から抜かされてしまうことが多い。出番が遅いほど有利になる場でトップバッターなんて不運すぎる…と再度頭を抱えそうになったが、いやいや、ここで雪山を信じなければファン失格だと自分を奮い立たせる。きっと大丈夫だ。彼らなら大丈夫。不安はあるが、それ以上に期待していた。彼らはどんな漫才を見せてくれるんだろうって。審査員紹介が終わり、いよいよネタ披露が始まる。コンビ名が叫ばれて、音楽と共に登場する2人に目を奪われた )
───っふ、ははっ…もう、なんだ、すごい調子良さそうじゃん……
「…心配して損した?」
ううん、雪山ならやってくれると思ってた!
( 笑い過ぎたのか、はたまた感動したせいか、目の端に溜まった涙を拭う。一瞬で過ぎていった時間を思い返すと、彼は最後の最後まで、とても良い顔をしていた。僕の大好きな"雪山のユキ"がそこにいた。それが嬉しくて嬉しくてたまらない。審査員がつけた点数は1番手ということもあり飛び抜けたものではなかったが、僕としてはこれ以上はない最高の漫才だった。これを超えられるのは決勝に進んだ雪山しかいない。どうか、生き残ってほしい。そう祈っていても、現実はそう上手くいかない。暫定1位の座を奪われ、案の定どんどん順位が抜かされていく。その度に固唾を呑み、待機室にいる彼に思いを馳せた。そして準決勝最後のネタが終わり、現在3位である雪山がモニター映し出される。彼はとても不安そうで、届くはずもないが大丈夫…と呟いて。決勝進出か、脱落か。MCの声が結果を叫んだ時、隣ですでに涙目の男とともに歓喜して泣きながらハイタッチを交わした )
いやぁ、無事に決勝行けて良かったです!!まぁ、最初から行く気しかなかったんですけどね!
( 決勝進出が決まって安心したのもつかの間、ステージ上に決勝進出を果たしたメンバーが並び、MCをしているタレントと軽く言葉を交わしていく。「嘘つけ、めっちゃ不安そうにしてたやん!」なんて自分の言葉に相方や他の決勝メンバーがツッコミをいれつつ、順に意気込みが語られていく。
他のメンバーが話している間にちらりと観客席を見てみると、漫才中は夢中になってあまり意識を向けられないが、本当に沢山の人が見に来てくれているんだなぁと実感する。それに、恐らく前列の端の方にある関係者席…彼が来ているかどうかは未だに確認出来ていないが、きっと見てしまったら色んな感情が溢れてしまいそうで、自分の前方の方で視線を留めておく。それでも、彼の応援が伝わったのか、自然と緊張が和らいでいて、決勝の場だというのに最初よりも力が良い感じに抜けてきている気がする。
一度また舞台からはけると、決勝最初の組の漫才が始まる。決勝での順番はくじ引きの結果2番手。真ん中というのは前にも後ろにも圧される苦しい順位だが、ここまで来たら全力を出し切るしかない。
この時の為に稽古した新ネタは、相方のボ ケを最大限に引き出せるものだし、これまでずっと王道漫才をしてきた自分たちにとっては少し挑戦したネタでもあった。それ故、大いにウケる可能性も、大いにスベる可能性もあるわけで、どちらに転ぶか分からない不安は勿論ある。
最初に漫才を披露していた先輩方のネタはやっぱり面白くて、掌にじっとりと嫌な汗が滲んでくるけれど、よし、ともう一度気合いを入れ直し、有難いことに2回聞くこととなった自分たちの出囃子の音に、顔を上げた。)
──あっという間やったな。
「せやなぁ、でもなんか、やりきった感があるわ。」
(自分たちの出番を無事終え、最後のネタを舞台袖から眺めながら、始まる時と同様に隣の相方へ声をかけた。どんな時でも普段の調子を崩さない能天気な相方に思わず笑ってしまうと、「ホンマやなぁ」と小さく返す。新ネタはちゃんとウケたし、なんなら1番反応が良かったんじゃないかと思えたほどだったが、先輩のネタがやはり観客の反応が大きかった気がするし、今行われている漫才も大いにウケている。決勝なのだし接戦は予想していたが、結果発表までは気が抜けない。
──…そして、いよいよ結果発表の時。結果は5人の審査員の多数決によって決まる為、舞台上に並んだ出場者の自分たちはもちろんのこと、観客もスタッフも、会場全体が緊張や期待感に包まれているのが伝わってくる。観客の反応を見るに本当に誰が優勝してもおかしくないような状態だった。相方と2人、自分の両手を合わせて祈るようにモニターを見つめる中、MCがマイクを握りしめ息を吸い込み、審査員の結果が1つずつ開示されていく。)
『… 結果は、
…… “ダブルパンチ”、“雪山”、“雪山”、“ダブルパンチ”
さぁ、最後の1票で決まります…。最後の1票は…。
“ 雪山 ”!!優勝は雪山です!!おめでとうございます!!』
( …MCの言葉を聞いて、ぎゅ、と思わず瞑っていた目を開いて顔を上げた。紙吹雪が噴射された音も、観客の歓声も、何故か聞こえなくて。多分、凄く間の抜けた顔をしたまま喜ぶ相方に肩を揺さぶられていたと思う。無意識に関係者席へ視線を移すと、そこには彼の姿があって。視線が合った途端途端、ぶわりと体の奥から全てが押し寄せてきて、溢れ出る涙に戸惑いながらも嬉しくて子どものように泣きじゃくる。それでも心の底から安心して、“やったぁ”と声には出さず、無邪気な笑顔を向けた。)
( 決勝戦で雪山は2番手が割り振られ、どんなネタを披露するのかと期待がやまない。一回戦と同じ系統で攻めてくるか、それとも全く違うものなのか。舞台に立つ2人をどきどきと見守る。すると、最初の掴みから普段の雪山の雰囲気とは違っているような気がして。「あ、これ、新ネタかな…」思わず呟いた声に隣の彼が賛同して頷く。すごい、こんなネタも作れるんだ…。新鮮な雪山の漫才に感嘆を溢すのも束の間、彼らが作り出す笑いの渦に巻き込まれては、時間を忘れてのめり込んでいた。───彼らの出番が終わった後、笑い疲れてへとへとになりながらお腹を抑える。なんだあのネタ!初めて観た!とファン同士熱くなって語り合いながら、この後のことをふと考える。流石は決勝戦、三組全員がそれぞれ本当に面白くて審査員の唸る声も聞こえてくる。僕としては雪山が1番なのは変わらないが、すべては結果次第だ。もう順位なんて決めなくていいのにと身も蓋もないことを考えていても、結果発表の時はやってきてしまって。投票結果が開示されるたび、どくどくと心臓が高鳴る。そして、最後に名前を呼ばれたのは───雪山だ。わっと沸く歓声の中、噛み締めるように実感する。そっか、雪山が、優勝したんだ。ずっと信じていたから、なんだか妙な納得感があって案外すんなりと受け入れられた。よかった、よかった。雪山、すごい。ユキさん、すごいよ…感涙で滲んだ視界の中、心の中で彼の名前を呼ぶと、それに気付いたかのように彼がこちらを向いて、目が合う。瞬間、堰を切ったように涙を流す彼を見れば、ガタッ、と思わず席から腰を上げて、"おめでとう!"と口を動かしながら彼に向かって必死に手を振った )
───ユキさーーんっ!!優勝おめでとうございます……!!!接戦でしたけど僕の中ではずっとずっと雪山が1番でした!!あっヤマさんも!おめでとうございます!!
( 放送終了後。一段落したらしい彼らは楽屋にいるらしく、はやる気持ちで会いに行く。大仕事を終えた後だし今日はもう控えた方が…また顔を合わせたら気まずくなってしまうかも…などと心配もしていたが、開かれた扉の先に彼の顔を見れば、そんな考えは一瞬で吹き飛んだ。ぱっっと瞳を煌めかせ、大興奮のあまり人目を憚らず彼に飛びついた。ぎゅうぎゅうと熱い抱擁をするが、現在の状況的に周りは違和感を覚えずにいてくれるだろう。もちろんヤマさんにも声をかけるが、陽斗さんにはずっと抱きついたまま。久しぶりに触れることが許された彼の体温を噛み締めていれば、引っ込んでいた涙がまた顔を出してきて、ずるずると鼻を啜る。優勝を掴んだことで自信を持てただろうし、"お前の隣に立てない"という葛藤は払拭されたはず。だとすれば、と周りに聞こえないように、彼の耳元で小さく懇願して )
……本当、おめでとうございます。
はやく、僕の隣に戻ってきてください、陽斗さん。
あ、みっちゃ…ちょ、力強い!力強いて…!
……応援してくれてありがとうな。
( まるで嵐のように番組スタッフや取材陣が去っていき、やっと一息ついたところで楽屋の戸が開き目をやると、飛びこんできたのは今まさに会いたかった彼だった。その姿を見た瞬間、複雑な気持ちが入り交じってどきりとしたけれど、力強く抱き締められればそんな気持ちは吹き飛んで、苦しい、と苦笑いしながらも大人しく身を委ね肩の力が抜けていくのが分かる。
そうしていると、隣から「住岡くんはホンマにユキしか眼中にないなー、俺がついでみたいになっとるやんか! あ、あと、観客席のところでなかなかに目立ってたで?」とヤマちゃんが可笑しそうに笑いながら明るく声を掛けてくる。確かに、結果発表の後、こちらに手を振る彼の姿は立ち上がっていた事もあり大いに目立っていた。だが、涙を浮かべながら一緒に喜んでくれた彼の姿は自分にとって、それはそれは嬉しいものだった。お礼も兼ねてぎゅと相手を抱きしめ返すと、ふと、鼻を啜る音が聞こえてきて…くすり、と小さく笑うと優しく頭を撫でる。彼が泣いているのは優勝への喜びだけでは無いと知っている。だって、自分も同じ理由で泣きそうだから。
無事に優勝を果たしたし、ちゃんと話をしてケジメをつけなくては、なんて心の中で呟くのと同時に、耳元へ届いた彼からの言葉に、返事を口でする代わりに首元へ顔を埋め、ゆっくりと首を縦に動かした。)
「 あ、そうだ、タケちゃんと前に話しとったんやけどさ、この後4人でご飯でもいかへん?ほら、俺らは明日からまた忙しくなるし、ひとまずお疲れ様会&息抜きってことで 」
……あー、悪いねんけど、俺ら先に約束してあんねん。行かなあかんところもあるし、4人で行くのはまた今度でもかまわへん?
( な?、と顔を上げて相手へ同意を求めるが、勿論予め約束なんてしていないし行くところなんて特に決まっていない。だが、こう見えて空気の読める男である相方は「…あ、そうやったん?全然かまへんよー!それやったら、俺はタケちゃんと2人でデートしてくるわー」なんてあっさりと言ってのける。自分の相方がアイドルとべったりくっつきあっているというのに微塵の動揺も見せないその姿は、有難いというか流石というか…。しかし、そんな相方がいたから優勝出来たのであって、また明日な、とお別れする前に、そっと彼から離れると、最後に唯一無二の相方にぎゅう、と抱きつき、2人で笑いあった。)
ヤマちゃん、おめでとう。
「ユキも、おめでとう。明日からもまた気合い入れていこな」
( 頭を撫でられる感覚に懐かしさを覚え、さらに涙が溢れる。僕の言葉にこくりと頷く彼を見て、さらに抱きしめる力を強めた。そしてヤマさんからの誘いをさらりとかわした彼に、ぎこちなくも同調して「えっ、は、はい!すみません、またご飯行きましょうね」と頭を下げて。この後の予定は取り決めていなかったが、2人の時間を作りたいという気持ちは同じだった。一切嫌な顔をせず了承してくれるヤマさんに、流石はユキさんの相方、この人がいちばんイケメンなのでは…なんて尊敬の念が芽生えつつ「タケくんをお願いしますね」なんてリーダーらしく振る舞って声をかけ。抱き合う2人を見ては、雪山…なんて尊いんだ……と最初こそは微笑ましく眺めていたが、急にそわそわし始めて、彼の腕を掴んで引き離して )
じゃあユキさんお借りしますね!今日は本当にお疲れさまでした!ゆっくり休んでくださいね!
( 別に嫉妬したわけではない。2人は家族同然の仲だ。それでも早く彼と2人きりになりたくて無理やり連れ出してしまった。楽屋を出てからも、ひっつき虫のように彼に寄り添って1ミリも離れようとしない。積り積もった寂しさを彼の体温で溶かそうとしているらしい。歩きづらいかもしれないがお構いなしに彼に体重をかける。腰に手を回して引き寄せると、彼にいくつか選択肢を与えて、自由に選んでもらうことにして )
……陽斗さん、この後どうしますか?バーに行くのもいいし…僕の家でも大丈夫ですよ
( 歩いている間ずっとこちらに体重をかけくっついている相手にいつもなら照れて言い返すところだが、今日は何も言わずにただただそれを受け入れた。スタッフの数名に見られたかもしれないが、今日のところはチャンピオンになった余韻に浸っているということで済ませて欲しいところだ。とにかく今はもう、細かいことは全く気にならなかった。)
そっち行くのもええんやけど…前にお邪魔させてもらったし、せっかくなら、家こーへん?こっちからならウチの方が近いやろうし。
( 腰を引き寄せられながら問われると、うーん、と考えた後に上記を述べ隣の相手を見る。バーにいくよりはもっと2人でゆっくり話がしたいし、となればどちらかの家の方が都合が良いのだが、急に誘ったのはこっちだし近い方が良いかと思い、自分の家も提案の1つにいれてみて。正直、先に彼の家へ行ってしまった手前、年季の入ったボロアパートに招待するのは気が引けるのだが…、いつまでも相手にばかり甘えてはいられない。
「あんまし綺麗やないけど、それでもええなら」と付け加え、すっかり暗くなった景色に紛れてそっと相手の手を握った。
上京してから住んでいるアパートは、まぁ、見るからに、苦労した芸人が住んでいそう、といって感じで。しかし、室内はリフォームした後だった為比較的綺麗ではあるらしい。広さはあまり無いので家電や家具も必要最低限にしており、(リビングにあるテーブルの上にはネタ作成で苦悩した痕が紙玉となって散らばっていた為、そこは除き)案外綺麗に掃除されている。)
陽斗さんの家!?いいんですか!?是非行きたいです!!
( まさかの提案に驚きながらも、二つ返事で了承する。以前、酔い潰れた彼を家まで送ったのも今では懐かしい記憶だ。当時はタクシーでアパートの前まで送り届けて家の中までは見ていないため、どんな内装なんだろうと想像が膨らむ。彼の家だったらたとえゴミ屋敷でも全然構わない、むしろ生活力の無さに萌えを感じるだろうし喜んで片付けてあげたい。とはいえ、真面目な彼のことだ。綺麗じゃないと謙遜しつつ、なんだかんだ整頓されているんだろう。妄想が捗っていると彼の方から手を握られ、目尻を下げて受け入れる。彼が頭を撫でる以外のスキンシップを行うのは珍しくて、嬉しそうに見えないしっぽを振りながら強く握り返した )
───お、お邪魔します…。
( 緊張で声を振るわせながら、彼の家に足を踏み入れる。あまりじろじろと見ては失礼かもしれないが、これが陽斗さんの生活スペースかと思うと視線は右往左往と動いて落ち着かない。予想通り綺麗な室内でふと机の上の丸まった紙くずが目に入れば、これが努力の痕跡…!と感動して。はわわ…なんて情けない声を漏らしながら部屋を観察するのもそこそこに、彼も気になっているだろうしあの日のことを報告することに。一旦冷静さを取り戻し真剣な表情を見せて。粗方解決したが、ひとつの不安な点を挙げると素直に謝る。親しい間柄の人達…それこそヤマさんやタケくんにだって報告していない関係が、今回の件で恨みを買われたであろう彼女に気付かれたことは不覚で、後が怖いと思う。この話を共有することによって彼にも不安がうつったらどうしようかと悩んだが、思わず弱音を吐き出して )
……実はあの後、アリサさんと話して僕のこと諦めてもらえたんです。でも、陽斗さんとの関係がバレてしまったみたいで…ごめんなさい、僕の不注意でした。今後、もし言いふらされたらどうしようって、少し不安で…。
(部屋に入るや否や、彼の視線の先に散らばった紙くずがあるのを見つけると、何故だか感動している相手を他所にさっさとゴミ箱へ捨ててしまう。テーブル周りに置かれた座椅子へ適当に座るよう促すと、自分は冷蔵庫の中にあったペットボトルのお茶を2本取り出して、相手と向かい合うように腰掛ける。1本のペットボトルを相手側へ寄せながら、真剣な表情で話し始める彼の姿へ視線を改めた。謝罪の言葉が聞こえると、首を横に振って「ちゃんと話してきてくれたんや、ありがとう」と、約束を守ろうとしてくれた彼へ優しくお礼を述べる。そして、お茶を1口飲むと、何やら考え事をした後にゆっくりと口を開く。)
…あの人、そもそも勘づいてるみたいやったで。俺にいちいち絡んできてたし、…俺も、微妙な顔してもうたからバレてしまったのかもしれへん。とにかく、お前だけのせいやないやろ。
それに、俺は嘘の記事が出回るより、そっちの方が数倍ええ。
( 彼女に自分たちの関係性がバレたと聞いて感じたのは、やっぱりそうなんや、という妙な納得感で不思議と焦りなどは無かった。局で出会う度にいわゆる、マウントを取る、といったような言動が多かったり、こちらの事を探っているようなあの目つきが居心地悪かったのだが、あれはきっと自分たちの関係性を最初から伺っていたに違いない。人気アイドルの彼女ともなれば自分の価値も引き上げるネタになるだろうし優越感も得られることだろう。それらを勝ち取るために記事への否定もせず彼に擦り寄っていたのだろうが、此方としては不愉快この上なかった。
確かに、自分たちの関係性が世に出回ってしまったらそれこそファンの人たちは混乱するだろうし、非難の声も多いはずだ。しかし、自分以外の人と彼が記事になってしまうぐらいなら、いっその事真実が述べられた方がいい、なんて口に出す。
…念願の賞レース優勝という実績を得てすっかりいい気分になっていたが、思い返せばここ数ヶ月、自分は彼に酷いことをしてばかりだった。「…あんな、」と今度は此方から小さく切り出すと、視線と共に相手へ頭を下げながら、だんだんと震える声を絞り出した。)
………改めて言わせて。美風の方が大変やったのに…俺がへそ曲げて連絡もせんで余計に心配かけてしまって、ホンマにごめん。
──なんで撮られてんねん、とか、なんですぐ否定せぇへんねん、とか…嫉妬心とか怒りとかばっかで、“大丈夫やで”って、言ってやれへんかった。美風のこと、元気づけれんままで…そのくせ自分の勝負所には応援しに来てなんて、めちゃくちゃ我儘で勝手なことした。俺の変なプライドと意地のせいで、結局、今日まで不安にさせたままやった…。
でもな、舞台上から美風を見つけた時、めっちゃ嬉しくて、めっちゃ…好きやなぁって、思った。
( / お世話になっております。雪山の優勝も仲直りも嬉しすぎてどんどん返信したい気持ちは山々なのですが、体調が優れず返信が遅れてしまいそうなのでご連絡させていただきました。一週間以内には必ず戻りますので暫しお待ちください…!
(/ わざわざご連絡ありがとうございます!
こちらの事は気にせず、ゆっくりお休みくださいませ。
いつでもお待ちしております!)
( 彼は思いの外あっけらかんとして、彼女のことはなんとなく察していたと言う。2人が話している最中に僕が割り込んでいったあの時も、あの人は単にマウントを取りたがっていたのか、それとも鎌をかけていたのか。真意は分からないが、最悪彼に危害が及ぶことになったかもしれないと思うと恐ろしく思う。虚偽の情報が出回るくらいなら、いっそのこと関係がバレたほうがいいという彼の言葉は心強く、不安がるなと背中を撫でられているようでほっとする。そんな中、これまでのことを謝罪されるとゆっくりと首を振って )
……我儘なんかじゃないですよ。僕の方こそ不安にさせてごめんなさい…まだ僕のこと好きでいてくれて、ありがとうございます。もう、隣に立てないなんて寂しいこと言わないでくださいね。約束ですよ。
…もし僕らのことが世間にバレて批判されたとしても、一緒に戦いましょう。2人で立ち向かったら怖くないですよ。僕は陽斗さんが隣にいてくれる、それだけでいいから。
( もし逆の立場だったら、きっと僕は相手を思いやる余裕もなく立ち直れなかっただろう。不安だらけの中でもやるべきことに目を向けて優勝を手にした彼は、本当に強かな人だ。一時は愛想を尽かされたかと絶望したこともあったが、彼の愛情は絶えていないことを知ると胸がいっぱいになって、堪らず彼の隣に移動して小指を差し出す。もう、彼と一生離れたくない。離したくない。会えない期間が寂しさを増幅させて、僕はいつのまにか強欲になっていた。ぐっ、と彼との距離を縮めて、顔を接近させる。そこまではよかったものの、2人きりの空間は久しぶりで今更ながら緊張してしまい、触れるのを躊躇してしまう。目と鼻の先で止まり、彼の瞳を見つめるしかできなかった )
( / お待たせしました…!まだ完全に復活できていないため今後も少し返信ペースにムラがあると思いますが、ご了承くださると幸いです
( 隣に並んで小指を差し出してきた彼の顔を見上げると、小さく笑い自身の小指をそっと絡ませ頷いた。自分自身の決意を固め鼓舞する為に言った言葉ではあったが、彼にとっては悲しく辛い言葉であったに違いない。それほど、彼は自分に愛を注いでくれていた。もしもの時は一緒に戦おうとさえ言ってくれる彼の優しさを再認識すると、より一層自分の発言を省みて反省してしまいそうになるが、今は悲観的に自分を責めるより、あの時感じていた気持ちを素直に伝えた方が良いだろうと判断した。
絡ませた小指に僅かながら力をいれ、久しぶりに流れる2人の時間に緊張が移り思わず目を逸らしながらも、「隣に立てない」と発言した心内をぽつりぽつりと話し始める。)
……、俺な、怖くなってしまって。
男と男なんて、まだまだ、少数派やんか。
それに、やっぱりモデルさんみたいに綺麗で可愛らしい人が美風にはお似合いなんかな、って…。だけど、せめて優勝できるぐらい実力があれば…少しは、こんな俺でも、見合うようになるんちゃうかなって思ったんよ。
( そこまで言って一度口を閉じると、視線をうろつかせ何やら恥ずかしそうに口をまごつかせた。そして、意を決したように「でもな…」と続けると、尚もたじろぎながら顔を近づけ、可愛らしい音と共に軽く重なり合った唇をゆっくりと離す。久しぶりのその感触に恥ずかしさのあまり頬を染めながらも、先程まで小指を絡ませていた相手の手を取って、そこへするりと熱を持った頬をすり寄せ心地よさそうに目を細めた。そして、半場自分自身に呆れたように、そして、安心したような笑顔を向けてこう続けた。)
だからといって、すぐに引き下がれへんぐらいには、俺、お前にベタ惚れしとるみたいやし、もうお前の隣は誰にも譲れそうにないわ。
(/ おかえりなさいませ。体調の具合はいかがですか?
あまり無理はなさらず、十分、休息なさってくださいね!!
余談ではありますが、熱愛までとはいかずとも賞レースの一件で仲の良さがいくらかバレてしまった2人が、“雪風コンビ”として推され始めたのもあって、一緒に女性雑誌の表紙の仕事をする。というプチエピソードも楽しそうだなと思った次第でございまして…!どうでしょうか??)
( / 背後のみ失礼します…!まずは長らくお待たせしてしまい本当に申し訳ありません。私生活が立て込んでおりましてなかなか時間がとれず…今月中に必ず返信いたしますのでもう少々お待ちいただけると嬉しいです。
そして雪風コンビすごくいいと思います!!モデル関係の仕事を断っていたという陽斗さんが葛藤しつつも美風と一緒なら、まぁ…というふうに仕事を受けることになる感じだとめちゃくちゃ萌えです…!!ぜひ次の展開に組み込んでいきましょう!!
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