名無しさん 2024-06-23 15:07:43 |
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ああー!陽斗さんは座ってていいのに……実は、夕飯の支度は出来てるんです。ソースは完成してて、あとは麺を茹でるだけで、トマトパスタの出来上がりです!
( 手伝おうと近づいてきた彼にわーわー言いながらまた座らせようとしたが、しぶしぶ諦めて一緒にキッチンへ向かう。フライパンの蓋を開けて中身のソースを見せたり、市販のパスタ麺を取り出したりして今晩のメニューを紹介した。自炊経験の少ない自分でも手軽に作れるレシピを調べたらたまたまこの料理に辿り着いたのだが、そういえば初めて食事をした時も、たらこスパゲッティをおすすめして食べてもらったなーとふと思い出して「なんか僕達、ずっとパスタ食べてますね」と神妙な顔をして。もしかして、太っ腹にお寿司5人前をとったりした方がよほど良かったんじゃないかと不安になりだして、徐にスマホを取り出し )
えっと…お寿司とか、うな重とかのほうがよかったら、全然、頼みますんで……。
(どうにか座らせようとする彼を制して一緒にキッチンへ立つと、彼が作ってくれたというトマトソースを覗いて「美味そうやん!」とにこやかに声を上げる。まさか夕食を作ってくれているとは知らず、事前に準備してくれていたのかと思うと嬉しさが込み上げてくる。そして、相手の言葉に初めて一緒に食事をした時のことを思い返すと、確かにパスタばかり食べてるなぁ、と笑いかける。なんだかんだテレビ局ですれ違ったり連絡を取り合っていたりした為会った気でいたが、あれから2人で外食したりこうしたプライベートな時間に会ったりするのは無かったように思う。そう考えると、改めて2人きりである今の状況に鼓動が早くなるのを感じるが、なんとか咳払いをして平常心を取り戻す。)
なんでやねん!これでええって!
…それに俺、手料理とかほとんど食べたことないし、みっちゃんが作ったの、食べたい。
( 咳払いを終えてパスタを茹でる準備でもしようかと鍋に手を伸ばしていた時、徐にスマホを取り出して出前を注文しようかとする相手へ慌てて自身の手を重ねて止めておく。首を横に振りながら素直に発言し、特に後半に発した言葉は些か照れくさいが相手の目を見て懇願する。我が家は両親も忙しい人達だった為温かな家庭料理とは程遠くて自分のために自炊をすることが多かった。食べるのは大抵自分が作った料理だったし、下積み時代にヤマちゃんと住んでいた時、料理担当は自分だった。だから、誰かが自分のために作ってくれる食事なんて初めてで、外食や出前なんかよりもずっと贅沢だと思う。)
……!は、はい!味の保証はします!けど……お口に合わなかったら、ごめんなさい……。
( ふるふるとデリバリーアプリへ伸びる指を慌てて抑止され、ハッと我に帰るも彼の言葉には未だ不安そうに眉を下げ。手料理なんてたいそうなものじゃないけど、それでも楽しみにしてくれるなら期待に応えたい。まずはパスタ茹でなければ何も始まらないので、鍋に水を入れながら「陽斗さん時間測ってもらえますか?7分でお願いします」と声をかけて。待ち時間に何をしようか考え、温めたソースの味見をしてもらおうとスプーンでそれを掬うと、彼の口の前に持っていった。これはかつての陽斗さんのような無意識の行動ではなく、確信犯で、こうすれば少し照れた顔を見せてくれるんじゃないかという淡い期待を含めた行動だった )
はーるとさん!おくち、あけてください。
大丈夫やって。自信もちーや。
( 時間を測って欲しいと言われると、快く頷いてズボンのポケットから自身のスマホを取り出すとタイマーアプリを起動させる。そうしながら、まだ不安げな表情を見せる相手には上記を述べ、ぽんぽんと背中を軽く叩きながら笑って見せた。水の入った鍋が火にかけられるのを眺めていると、ふと通知音がなり、それが相方の仕業だと分かると指先を動かしてメッセージを開く。どうやらマネージャーとの写真を送ってきたようで、店の個室っぽい部屋で楽しげに笑う2人の姿が画面に表示される。こいつら、もう酔ってんのとちゃうか?と可笑しげに小さく笑っていると、隣から聞こえてきた声掛けに反射的に、ん、と口を開けて顔を向ける。視線はスマホに向けたままだったが、一間遅れて視線諸共相手へ向き直ると、スプーンを差し出している彼と視線が混ざった。口をぽかんと開けた自分の顔が間抜けなこと、優しげな表情で此方を見つめる整った顔が近くにあること、それらを再認識した途端になんだか急に恥ずかしくなり、みるみるうちに耳が赤くなる。あーんとしたことはあってもされたことは無かったので、される側はこんなに恥ずかしくなるものなのかと反省しつつ、誤魔化すように自分からスプーンを咥える。慌ててしまった為か口の端についた其れを舌で届く範囲舐め取りながら、尚も耳は赤くしたまま「ぅ、うまいやん。」と照れてしまったことが悔しかったのか、台詞と表情が合わないまま呟いて。)
本当ですか!よかったです。
……ふふ、まだ口についてますよ。
( スプーンを口に含む彼をにこにこと眺めながら反応を見る。味を褒めてくれたのは嬉しくて、安堵したように肩の力が抜けたが、一方の彼は耳を赤く染めてなんだか複雑そうな表情。意外と照れ屋さんなんだよなーと期待通りの反応をする彼の愛おしさに胸がいっぱいになりつつ、さらにいじわるしたくなってしまって、ぐっと彼に顔を寄せる。口元に残るソースを指摘すると、彼の顎を引き寄せ口の端をぺろりと舐めた。そのまま後頭部をおさえながら、ちゅっちゅっと軽くキスをして、最後はわざと大きく音を立てて唇を離す。しばらく浮かれて彼に抱きついたままだったが、次第に自身の行動を省みて、ゆっくりと後退り。いくら恋人同士といえど突然キスをするなんて気持ち悪いのでは、完全に我を忘れてがっついていた、情けない…と後悔すれば、謝罪の言葉を口にして )
す、すみません、陽斗さんが可愛くて、つい……嫌、でしたよね。
ぇ、ほんま?──…ッ!
( ソースが口元に残っていると言われると慌てて其れを拭おうとする。しかし、それよりも先に相手の顔が近付いてきたかと思えば舌で舐め取られ、その瞬間一気に顔に熱が集まるのを感じた。突然の事で固まっていると、そのまま思考する余地もなく優しく口付けされて思わず目を閉じる。可愛らしいリップ音が鼓膜を刺激し恥ずかしさのあまりプルプルと小さく震えてしまうが、心地よく感じてしまっているのも事実で。唇を離れていくのを感じゆっくりと瞼を開けると、抱きつかれている温もりに甘えるようにこちらもそっと背中へ腕を回すが、顔の熱が尋常ではなくてきっと情けない顔をしているから…それを隠したくて抱きつき返しているようなものだ。しかしふと、我に返ったのか後退し謝罪の言葉を口にする相手には、む、と唇を尖らせて「こんのア ホ」と大きな声を出し脳天に軽くチョップをお見舞する。)
…べ、別に嫌とちゃうけど、いきなりやめろや!ビックリするやろ!……それに、
( もっとしたなるから、困んねん 、と視線を逸らししどろもどろになりながら小さく呟く。だが、すぐさま自分の言ったことに後悔し更に羞恥心を募らせると、恥ずかしさのあまり雑になった所作で沸騰した鍋の中にパスタを入れる。「どうしてくれんねん」などと相変わらずぶつくさと文句(?)を言いながら、誤魔化すように皿を用意したりと慌ただしく動き回る。)
も、もっとって……陽斗さんから求められたら、僕、本当に止まれなくなりますって。
( 相手からのツッコミ兼攻撃に痛みを感じたわけではないが、反射的に「いてっ」と声を上げて頭を抑える。しかし、チョップよりもその後に続いた言葉の方に衝撃を受け、目を見開き相手の顔を見た。もっとって何!?これ以上の濃厚さを求めてるの!?と脳内では騒ぎ立てるが、弱々しく赤面する姿を見ればこちらまで照れてきてしまい、両手で顔を覆い隠す。コンロの近くだからとかそんなんじゃ説明つかないほど体が暑い。そりゃ、お互い大人だしこれ以上のことを想像するのも無理はない。僕だって期待していないわけではない。だが、これだけは宣言しておかなければと忙しなく動く彼に向けて )
言っておきますけど、今夜は絶対手出しませんから!もしまた我を忘れてたら殴ってでも止めてください、僕だって男だし、男は獣なんですからね!
( と、か弱い乙女を諭すような調子で大真面目に伝える。それを言うならば彼も男で獣ということになるのだが、そんなことはすっかり頭から抜け落ちていた。何よりも自分の理性が崩壊することを恐れているからだ。先に動いてくれていた彼を手伝って食事の準備を進めるが、余裕のない自分を見て引かれたりしないか、それだけが気がかりだった )
そ、そんなん知っとるわ!なんやお前、俺のこと生娘かなんかと思っとんのか!……いや、まぁ、誰かと付き合うんも初めてやし、正直浮かれとんのも本当やけど…し、仕方ないやん!
( 大真面目に此方を諭してくる相手には、知っとるわ、とツッコミをいれつつ呆れたように言い返す。しかし、未だ恥ずかしさは抜けきっておらず顔は赤くしたままで、段々と声量を小さくさせながら腑に落ちない、といった具合に眉間に皺を寄せている。初お泊まりともなれば此方も当然、そういったことを期待していない訳もなく、だが、実際そういう雰囲気になられても恥ずかしさに耐えられる自信もない。手は出さないと彼から断言されると、安堵と同時に少しばかり残念な気持ちにもなるものだから恋愛とは恐ろしく複雑なものだと痛感する。しかも彼の恋愛遍歴はどうか分からないが、こちとら完璧な恋愛初心者の為はっきり言って先程から心臓が爆発しそうなくらいには緊張しっぱなしだ。うるさいぐらいに脈打つ鼓動を鎮めようと1つ深呼吸をすると、そのタイミングでスマホのタイマーがなり、パスタが茹で上がったことを教えてくれる。)
ん、パスタ出来たで。…もう、ほんまみっちゃんのせいで疲れたわ!飲みもん先持っていっとくで!
( 茹で上がったパスタを笊に上げると、後は任せたと言わんばかりに2人分のコップにお茶をついでリビングのテーブルへと運んでいく。運んで行った際にテレビのリモコンが置かれているのが目に入り、ふと、1つ心当たりを思い出せば徐にリモコンへ手を伸ばしてその電源をONにする。ぱっと点いたテレビの画面には、トーク番組に出ている彼の姿が丁度タイミングよく映されているところだった。)
えっ、初めてなんですか!?陽斗さんのことだからたくさんモテてきたのかと……
( 初めてという言葉に過剰に驚き、彼の声を飲み込むように思わず大声を飛ばす。恋愛経験がないというならすぐ顔を赤らめるのも納得がいく。恋は盲目というから、僕より年上の彼が可愛らしく見えるのはそれが所以だとばかり思っていたが、実際彼はこういったことに不慣れだったらしい。自分自身の恋愛経験といえば、と学生時代まで記憶を遡る。当時から周りと一線を画す整った容姿は注目の的にされ、好意を寄せられることも多く、優柔不断で断れない性格のため告白されればノーを言う勇気もなく首を縦に振っていた。しかし、特別な容姿に反して平々凡々な中身に失望され、距離を取られ、フラれ、を何回も経験したためか、自信が育まれないまま大人になっていた。アイドルになってからは恋愛など眼中にないまま、がむしゃらに仕事をしていたが、陽斗さんに出会い何かが変わった。ここまで誰かに強烈な感情を抱いたのは生まれて初めてなんだ。それを受け取ってもらえて、ありのままの僕を認めてくれた彼に感謝している。あらためて彼への感情を再確認できたところで、タイマーが鳴り、あれよあれよという間にパスタを笊にあげてリビングに行ってしまった彼の背中を見つめ、小さく笑い声が漏れた )
はーい、完成しましたよー!美風特製トマトパスタです!
( パスタの上にソースをかけて、トッピングも欠かさず盛り付けた2つの皿を両手に持ちながらリビングに向かう。すると、テレビから流れる映像がちらりと視界に映り、珍しく本気で嫌そうな顔をしながら「うわー…この前収録したやつ……」と声量を落として視線を逸らす。以前陽斗さんからアドバイスを受け、力まず率直に話していこうと臨んだ番組収録だったが、そう上手くいくはずもなく踏んだり蹴ったりでメンバーに助け舟を出される始末。おまけに告知中には舌が回らず噛みまくって、何度もカット!と声が響いたことを思い出し、居た堪れず椅子に腰掛けてからももじもじと視線を右往左往させた )
恋愛沙汰にはそんな興味なかったし、芸人なることばっか考えとったからなぁ…、そもそもモテる要素なんか持ってへんかったよ。
( さほど意外だったのか、付き合うのが初めてだという此方の発言に大きな声で反応を示した彼に、当時の事を振り返りながらもさらりと上記を返す。学生時代は特に芸人になるとヤケになっていた頃で正直今よりも人付き合いは下手だったように思う。家にいる時間を極力減らしたくて、お金も貯めたくて、放課後はバイト三昧だった。空いた時間はヤマちゃんとお笑いの勉強をしていたし、告白してくれた子も確かにいたけれど“興味がない”と一蹴したこともあった。今考えるととんでもなく最低なことをしたなと今更ながらに後悔しているが、そんな話もまた話題の1つにでもして供養しようかと考える。テーブルに運ばれてきたパスタを見て「ありがとぉ」と相手へお礼を伝えると、鼻腔を伝う美味しそうな香りに腹の虫が鳴るのを感じつつ、相手と向かい合うように椅子へ腰掛け両手を合わせる。いただきますと挨拶を済ませれば、早速フォークでパスタを巻き取り口の中へ運ぶ。)
嫌そーな顔しとるなぁ!そんなすぐには上達せぇへんって。
でも、ちょっとずつ喋るの上手なってるやん。
( そんでもってパスタも美味い!なんて調子よく言いながら、自身が映っている画面を見て顰めっ面をしている様子に笑いつつ励ましの言葉をかける。確かにまだ緊張している感じはあるし噛んでしまった場面もあったが、最初の頃よりは格段に雰囲気も柔らかくなり慣れてきているのが伝わる。話の内容に囚われすぎないことで話す時の出だしもスムーズになっていて、自分達が舞台に上がり始めていた時なんかはもっと慣れるのに時間がかかっていたように思う。──未だトーク番組に緊張して動揺している彼も可愛いと思うのだが、この事は胸に秘めておくことにしよう。)
そうですかー?陽斗さんが言うならそうなのかもしれないですけど……僕なんてまだまだですよ
( 番組内でのトークを素直に褒められると、謙遜しつつも硬い表情が少しずつほぐれていく。そしてパスタの味を気に入ったらしい相手を見てすっかり機嫌を戻したのか、「よかったです」と嬉しそうに相好を崩して。こんなに褒め上手で格好良くて可愛くて最高な陽斗さんがモテないなんてあり得ないのになぁと考えつつ、恋愛に興味がなかった彼が今こうして自分の隣にいる現状を思えば優越感も湧き出して。ふふふっと大袈裟に笑い声を出しながら、僕もいただきます、と手を合わせて食べ始めると、我ながらかなり良いといえる出来具合に満足そうに頷いて。ふと視界の端にあるテレビ画面を見ると、トーク番組が終了して次はドラマに切り替わるようで )
───あ、これ最近流行ってるドラマみたいですね。僕はあんまり詳しくないんですけど、メンバーが話してましたよ。
( 確か、なんちゃら田さんが主演のドラマで、俳優通のメンバーが今季で1番面白い!と豪語していたことを思い出し。お笑い方面の勉強はしていたが、演技に関してはさっぱりなのでドラマや映画には全く知識がない。俳優さんと共にお仕事をする機会がないわけではないが、いま画面越しに見える主演の彼とは面識がなく、陽斗さんは知っているかと話題を出してみて )
( 相手の顰めっ面が解かれていき柔らかな表情になっていくのを見ると、此方も自然と目を細めて笑い「俺らももっと上達したるからな」なんて相変わらずライバル視していることも示唆しておく。パスタの味も相当気に入ったのか、手を止めることなく口へと運んでいきお茶の入ったグラスを手に取った。丁度その時、彼が出演していて番組からドラマへと切り替わったらしく、聞こえてくるBGMが変わったのを感じ視線をそちらへと向ける。流行っているドラマだと聞くが、どちらかといえば自分もドラマや映画には疎い方なので、へぇ、と相槌を打ちつつ画面に移る女優さんなんかを眺めていた。だが、次のシーンへ場面が切り替わり見覚えのある顔が映し出された瞬間、ぴくりと身体が反応し、眉間の皺が深まる。)
………雪田、冬馬。コイツが主演のドラマやったんか。
( 皮肉にも、画面の向こうで前髪が割れ少し額が覗くような髪型をした兄は今の自分とそっくりで、画面を数秒睨みつけた後、静かに視線を逸らしてお茶を一気に飲み干し思い出した。最近、やたらとCMや広告で見かけるものだからその度に視線を逸らし広告を飛ばして過ごしてきた。流行っているというのならばその理由には納得だが、なんにせよアイツの顔は1番見たくない。相も変わらず険しい顔をしたままパスタを頬張るが、その時ふと、目の前にいる彼には兄の話をしていない事に気が付いて慌てて声を掛ける。訳も分からず突然不機嫌になってしまっては彼がきっと困ってしまうだろうから。)
……に、兄ちゃんやねん。アイツ。
でもな、この事はヤマちゃんとマネージャー、事務所の社長ぐらいしか知らんねん。共演NGにしてんのも、この人らにしか言ってへん。
え、雪田さんって、まさか……、
───お、お兄さん!?確かに、雰囲気似てるけど…そうだったんですね……
( 画面に映る俳優を見た途端、目の色を変えて顔を顰めた彼の様子を不思議に思い、どうしたのだろうと戸惑いつつ目で追っていた。彼が口にした名前には、ああそんな名前だったな、と忘れかけていたパズルのピースがはまる感覚にすっきりするも、あれ?と首を傾げて。陽斗さんと、同じ名字だ。そう気付いたのと同時に、まさかの告白にこれまた驚いて思わず腰を浮かせる。大声をあげてしまったことに反省して、ごほんと咳払いして再び着席するも、困惑は続く。共演NGということは、お世辞にも関係が良好とはいえないのか。彼の複雑そうな表情を一目見れば分かる。お兄さんも陽斗さんも、職種は違えど芸能界で活躍する売れっ子だというのに、今まで兄弟という関係をひた隠してこれたのは、裏で有る事無い事ゴシップが流れ出ないように手を回して、秘密を厳守してきたからだろう。何故、そこまでして関係を隠し続けているのだろうか。ふと、直感で気になったことを訊いてみる )
あの、話しにくかったら言わなくても大丈夫なんですけど……。
もしかして、アイドルやタレントが苦手っていうのも、お兄さんが関係してるんですか?
( いつしか打ち明けてくれた、キラキラとした職業に苦手意識があるという話を思い出し、おずおずと質問して。確かお兄さんは俳優の他にタレントとしても活動していたはずで、それが何か影響しているのかと予想した。もっと彼のことを知りたい、その一心で聞いたことだが、もしこれ以上触れられたくない話題だったら今すぐにでもテレビを消して、他のことを話そうとリモコンを握りしめごくりと固唾を呑み )
…アイツらは、努力なんて生まれ持った才能が無いア ホがすることやと思ってる。あの容姿に生まれて、モデルとか俳優にも楽々抜擢されてもうて、すっかり天狗になっとるんよ。
おるやろ?ロクに勉強もしてへんくせに常に成績が良い出来のいい奴が。
( いつか彼に話したあの件と、変わらず画面の向こうで優しげな表情をしたアイツの関係を問われると、静かに頷いて残り少なくなっていたパスタを徐に口へ運んだ。其れを咀嚼しながら少しばかり考え事をすると、嚥下を終えた後にゆっくりと上記を語りはじめた。彼の中でアイツがどういうタレント、又は俳優として認識されているかは分からないがこの話をするとアイツの印象はきっと悪い方向へと変わるはずで、少なからず自分の主観を押し付ける事になるのは罪悪感が募る。決してアイツの悪口をただただ言いたい訳ではないのだが、何より、目の前にいる彼に隠し事はしたくないと思った。)
…アイツ曰く、芸人は、所謂“何も持ってへんから笑いに逃げてる可哀想な奴ら”。
…俺、顔とかはアイツと似とるし同じようにタレントとか俳優とか、アイドルにだってもしかしたらなれたのに、って、どうして、なんで、芸人“なんか”にって言われ続けて。
──嫌やん、俺はずっと芸人に憧れて、芸人になる為に必死に努力してきたのに、…そんな風に考えとるアイツらが嫌で。同じ職業の奴はみんなそんな風に考えとるんかなって思うようになって…あ、もちろん、今はそんなんとちゃうって分かってるで!
( 今でこそ色んな方と仕事をして自分の固定概念も変わってきているが、少し前までは自分の中でああいった職業が兄のイメージで固められてしまい拭いたくてもなかなか拭いきれなかった。おまけに、両親も全面的に兄の応援をしていた為、自分の夢を応援されることは一度たりともありはせず、芸人として売れた今でさえ連絡は絶ったまま。テレビを通して兄も両親も自分の姿を見ているだろうけど、今更応援してほしいとも思ってはいない。歳の離れた兄は物心着いた時から芸能界で活躍し出していて、かっこよくて憧れで、それと同時に自分の夢を嘲笑うその姿が怖かった。…ただ一言、芸人に憧れた無垢な弟に“頑張れ”と言って欲しかった。がむしゃらに努力していた時に“偉いぞ”と言って欲しかった。明るく笑う兄の声がテレビ画面から聞こえてきて、俯き気味に話していた顔をハッと上げると、「ご、ごめんなこんな話して!」とわざと声音を明るくし、力なくへらりと笑ってみせる。)
───僕は、誰がなんと言おうと、芸人のユキさんが好きです。
モデルやアイドルになったユキさんもきっと素敵だろうけど、芸人の道を歩んできたからこそ、今のユキさんがいる。それは誰にも否定してほしくない。それなのに、ご家族に直接否定され続けた、というのは……、
( 彼が語る過去を静かに聞き入れる。偏見を持つようになった事情を赤裸々に語る彼は遠い目をしていて、何故だかこちらの目頭が熱くなった。僕が尊敬する雪山のユキは、生まれ持ったものに甘えて胡座をかくような人じゃない。向上心があって必死に努力して、それなのに僕にアドバイスをする時や褒められた時はいつも「俺だって最初は~」と謙遜するような人だ。芸人という職業に誇りを持って、日々邁進していることは、大ファンである僕が1番よく知っている。……もしかしたら1番彼の苦労を知るのは相方のヤマさんかもしれないが、彼の恋人という立場でいえば僕だって負けていない。何か掛けられる言葉があるはずだと、無理に笑った彼の瞳を涙を浮かべた目で見つめ返して。途中言葉に詰まると、溜まった涙が止めどなく流れ出てしまい、ごしごしとまぶたを拭う )
…っ、すみません…なんだか、悔しくて……
( "雪山のユキ"をずっと応援してきたファン心と、"雪田陽斗"という1人の人間を好きでいる感情が交わり、思考がぐちゃぐちゃだ。「泣きたいのは陽斗さんの方なのに……」と呟くと、自分がめそめそ泣いている場合じゃないと鼻を啜る。そして、かつて自分を安心させてくれた彼のように、腕を伸ばし相手の頭に触れると、精一杯の笑顔を向けて )
とにかく、僕は陽斗さんが好きなんです。あの日の僕に希望を与えてくれたユキさんを尊敬してます。だから…どうか、落ち込まないでください。誰かに否定されてきた分、僕があなたを肯定しますから!
( 自分よりも遥かに傷付いたような顔で涙を流すものだから、一瞬話したことを後悔した。それでも、自分の事を想い涙を流してくれる彼の優しさがとても嬉しく、頭に伸びてきた手がどうしようもなく温かくて、鼻の奥がツンと痛み思わず涙が溢れてしまった。泣きながらも此方に向けてくれた笑顔が太陽のように眩しくて、過去のことを思い出し薄暗くなっていた心を照らしてくれるようだった。片手で涙を拭いながらそんな相手の顔に思わず、ふふ、と笑みを零すと、呆れ混じりに「なんでお前が泣いてんねん。」と呟いた。)
アイツの事は多分一生嫌いやし許さへんけど、ちゃんと実力があるからあんだけ人気なんやろうな。
( 弟に対しては酷い態度を取っていた兄だが、世間からすれば今でも人気の衰えない芸能人。きっと、兄は兄なりに努力したことがあったのかもしれないし、生まれ持った才能を活かすのもまた才能だ。いつまでの過去のことを引きずり見ないフリをするのはやめて、自分も兄と向き合わないといけない日がくるかもしれない。)
そやから、俺ももっと頑張って、いつかアイツよりも人気になって見返したるねん。なんせ、俺には住岡美風っていう最高のファンで彼氏がおるからな!
( 自分の頭を優しく撫でていたその手を取りぎゅっと握りしめると、自信を取り戻したような笑顔で上記を述べる。兄と正々堂々戦えるように、そして、惜しげも無く“好き”だと伝えてくれる目の前の彼のためにも、いつまでも尊敬してもらえるユキとして頑張っていたいと思える。握りしめていた彼の手を徐に自身の口元へと持っていくと、軽くちゅ、と口付けを落とす。そして、へへ、と悪戯っ子のような笑みを浮かべると「大好きやで」と真っ直ぐ相手の目を見て伝えた。)
…っ!僕も、大好きです……!
だけど、それやめてくださいよ、生殺しですから……
( 暗く沈んだ彼の表情が晴れたのを見て安堵したのも束の間、手にキスをされ思わずびくりと肩を震わせた。可愛いがすぎる笑顔と言葉に絆されかけたが、これ以上はいけない気がして、握られた手の人差し指を彼の唇に当てると、首を横に振って。真面目な話の後で邪にもドキッとしてしまったのも申し訳ないし、これ以上煽られたら身が持たない。言葉では冷静に諭したものの、顔を逸らして紅潮するさまはきっと不恰好だろう。決してヘタレなんかじゃない、彼を大事にしたいだけで……心の中で誰も聞いてない言い訳をしながら、手を引っ込めて、放置したままだった料理を再度食べ始めた )
陽斗さん、そろそろお風呂入ります?僕は陽斗さんが来る前に入っちゃったので、どうぞ遠慮なく!
( 食事を終え、テーブルの上の食器を片しながら彼に声をかけて。先ほどはあまり明るい話ができず余計に疲れさせてしまった気がして、湯船に浸かって癒されてもらおうと考えていた。「よかったらお背中流しましょうか?……なんちゃって」と冗談を言いつつ、反応をうかがって )
え、ほんまぁ?昔ヤマちゃんと住んでた頃は背中の流し合いとかよくやっとったわー!なんや懐かしいなぁ、お願いしよかな。
( 食事の後片付けをしているとお風呂へ促され「あ、そうやなぁ」と頷くと、背中流しましょうか、との提案には予想外にも嬉しそうな反応を示しまるで修学旅行で友達と大浴場に入る子供のようだった。というのも、兄との確執も全てさらけ出したことで、隠し事をしているという心の奥底にあった重りが取り除かれ晴れやかな気分になっていたのだろう。おまけにあんな話を聞かされたにも関わらず、自分のことを励まし肯定するとまで言ってくれた彼にすっかり甘えてしまい緊張感など吹っ飛んでいたようだ。)
………ん、あれ。
( とはいえ、意気揚々と一足先に風呂場へお邪魔したのはいいものの、脱衣所で服を脱ぎながら今一度彼からの提案を思い返すと、先程の発言がいかに軽率であったか思い知りみるみるうちに顔に熱がこもる。いやいや、なんでヤマちゃんと同じテンションで答えとんねん!と今更ながら心の中で自分にツッコミをいれつつ、ふと自分のお腹に触れてみる。元々太ってた訳じゃないし鍛えていた方だが、最近はまともに筋トレもしていないしたるんだ気がする…!芸人たるもの番組の企画などで上裸になることは何度かあったし普段なら気にならないのだが、相手が恋人となると話は変わってくる。おまけに相手は一流のアイドルだし、こんな歳上の体を見て幻滅されないだろうかと不安になる。とりあえず洋服を脱ぎ終え一応腰にタオルなんか巻いてみたが、どうしたものかと困った挙句に、脱衣所からひょっこりと顔を出し相手へおずおずと声をかける。)
あー…、みっちゃん、背中な、流して貰えるのめっちゃ嬉しいねんけど…服脱いでたら急に恥ずかしなってきた、どないしよぉ…。
( 冗談のつもりで提案したことが本気で受け取られてしまい、無邪気な反応には少々頭を抱えた。みっちゃん呼びを提案した時もそうだが、流石のノリの良さだ。信頼されてると思えば悪い気はしないものの、若干無防備にも見えて心配になる。なるべく僕以外にはこの軽率さを発揮しないでほしいと思うのはわがままだろうか。またこの人は相方さんの名前出して…と不服に思ったことは心に秘め、彼をバスルームへ案内する。もやもやとしながら廊下で待っていると、なにやら声がして )
……今更断るつもりですか?せっかくお願いしてくれたんですから、もう逃しませんよ
( 脱衣所から声をかけてきた彼は眉を下げてこちらを覗く。そんなそぶりなんて一切見せていなかったくせに、突然照れ出した相手にしびれを切らして、ガラッと戸を開くと彼のいる脱衣所に足を踏み入れた。タオル一枚姿の彼の姿に変な興奮をしないよう努めて、あくまで平常心で上に着ていたシャツを脱ぎ、足元の裾を捲ると「ほら、入って入って!」と有無を言わさず浴室に押し入れて )
(/ こんにちは!
数日お返事するのが厳しそうで…火曜日以降またお返しできるかと思うのですが、、既にお待たせしているのに申し訳ありません…!もう少々お待ちいただけると幸いです;)
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