異常本丸調査室の日常(〆)

……分かった。ならあんたは絶対にここから動かないと約束しろ。この札はあんたに預ける、20分で仕留めるつもりだがそれ以上時間が掛かれば即座に使え。俺が時間内に帰ってこなかった時は一度政府に帰り、応援を頼んでくれ。
【これは拒否ったら俺が仕留められるなと即座に判断するとポーチを取り言われた通りに銃を入れ。それから自身の持つウエストポーチから強制送還札を取り出し有無を言わさず握らせると奥にある人魚の巣へと泳ぎ出し】

・・・・・・ギリギリまで、耐えるか。あいつ、さむくないのかな【寒さで震える手で札を握りしめ直しながら】

やっと着いた…ここだな。時間はあまりかけられない、やるか。
【まさか奥まった巣にまで来るとは思っていなかったようで、一度呼吸を整えてから数匹の人魚の頭を銃で撃ち抜き。親玉がこちらに気付くと部下であろう人魚に命令をしたようで先程とは違い統率のとれた動きをしており。しかしこちらも負けじと次々に斬っていたものの、背後を取られたと気付いた時には親玉の手から伸びる蔦で足を取られこのままでは海に引き摺り込まれそうで】

しぬきで、そのへんのいわにつかまれ、こんのドジ後輩！！【嫌な予感を感じ泳いできていた紅葉傘が先の尖った岩を蔓に向けて投げ裂け目を作る、と同時に人魚によって水中に引きずり込まれる。完全に沈む前に指が示したのは親玉、先に仕留めろと言わんばかりだ】

あの馬鹿…！なんで待ってなかったんだ！
【最悪の場合、手入れで治るだろうし足は切り落とすつもりだったがそれよりも先に藁が緩み。一体何が、と視線をやればどうやらここまで来ていたようで沈む姿を見て駆け寄ろうとするもその指は親玉の方を指しており、これ以上時間は掛けられないと判断すると再度銃を打ち、逃げ惑う親玉の尾鰭に向かい刀を投げるとちょうど良く突き刺さったようで。尾鰭が使い物にならなくなり、苦しそうにしているのを横目に雷撃の札を数枚貼り付け発動させると流石の親玉も生き絶えたようで。少しばかり感電したのか手先が焦げたような気がするが、それよりも紅葉傘が沈んだ方へと行くと名を呼んで】

わたし、ごと、ころすきか、きさま【電撃の所為でこんがりと焦げてしまった人魚と一緒に所々焦げた紅葉傘が浮いてくる】

おかげでしびれた、げーとまではこべ、ふだは、にんぎょにやぶられたとでもいって、かくしだまに、のこしておこうか

す、すまない…咄嗟だったから…。もちろん運ぶ。
【怒られてしまうと先程と打って変わりしゅんとして】

ただ、よくやったよ。最高の後輩だ、ローストビーフ丼だけでなく依然食べ損ねたから揚げ定食も奢ってやろう

…！本当か、あんたは最高の先輩だな。
【ぱっと表情明るくなり。とにかく帰ることにすると布で紅葉傘の体を固定し本体を持たせて片手で引っ張りながら洞窟を出て】

同期と日程決めて、から揚げ定食とローストビーフ丼は別日になるかな。好きなだけ、食べて構わない。【内心、私の威厳はから揚げ定食以下かとしょげている紅葉傘】

ああ、分かった。ありがとう。
【なんとか時の政府まで戻ってくると、お互いぼろぼろな為一度医務室へと移動することにして】

あの人魚の親玉、首は取ったの？【ふと、思い出したとでも言うように紅葉傘が問う】

…そうだった、完全に失念していた。
あんたを医務室に運んだら首を取ってくる。

なら、逃げられたかもな。白比丘尼は、生首だけになっても蘇ったというし。でも、これであの人魚が、審神者を、諦めてくれれば・・・・・・【薬研先生にまたか此奴みたいな目で鎮静剤を打たれ寝た】

薬研、こいつを頼んだ。
俺は少し用事ができたからそちらに向かう。
【そう言い残すと医務室を出て再度人魚の出た場所に続くゲートへと向かい】

紅葉傘先生の民俗学講義

白比丘尼は八百比丘尼ともいう、人魚の肉を食べたことで不老不死となった尼僧のことです。ただ完全な不老不死ではなく、八百歳、諸説によっては二百歳で死んだとも。白比丘尼伝説では、比丘尼は飢饉に苦しむ民に己の肉体を差し出し飢えから救い飢饉が終わった時には生首だけになっていた、という伝説もあります。そんな白比丘尼は己の首を村の側の洞窟に納めるように言いその洞窟は閉ざされたとか。
この比丘尼伝説はどれも共通して、ある村で人魚が獲れる→その人魚を喰うための祭りが開かれるor獲った人間が独り占めしようとする→村の娘or獲った人間の娘がこっそりその肉を食う→その後食べた人間は皆人魚の肉に耐え切れず異形となるor人魚の肉の毒で死ぬ→その後娘は結婚するが飢饉が起き苦しまず死なず老いないことを不審に思われる→夫が娘の頸を断つと娘の身体は数多の魚に変わり飢饉を凌げるorそのことを知った娘は村を出て尼になり己の身を炊き出しとして差し出し首だけになる

といった流れがほとんどですね。

どちらの話も首は残っています、ではもし首が生きていたら、不老不死の力が残っていたら、その首から身体は再生されるのでしょうか？


余談ですが、人魚は恵比寿信仰の象徴でもあるんですよ。恵比寿信仰とは、浜辺に流れ着いた漂着物を異邦から訪れた神として祀るものだとか。
刀剣男士は人の想いから生まれた付喪神で、今はその力を人間に貸し戦争の場に立たれています。信仰とはそれだけ強いモノを産む、なら人魚は、恵比寿様と祀られた人魚はただの妖なのでしょうか？

逃すか…！
【その後例の洞窟に戻ると尾鰭を先程ダメにしておいた為まだ逃げてはいなかったようで。こちらに気付くと逃げようとしたものの、投石兵を展開し数発当て怯んだ隙にとどめを刺して封印札を貼り。首だけ持ち帰るか悩んだものの、他にも調べられるかもしれないと丸ごと持ち帰ることにしては洞窟を出て】

【その後、人魚を丸ごと抱えた山姥切国広がゲートから現れ怪異討伐班は爆笑しながら研究所や封印機関や浄化部に連絡を取り対処をしてくれた。数日後、回復した紅葉傘にその報告が回り唖然とした彼女に笑顔で始末書が回されることになる。数日後に迫った後輩と後輩の同期と行くローストビーフ丼とから揚げ定食のために紅葉傘は必死に始末書と戦うことになる・・・・・・】

【長い時間海に浸かっていたにも関わらず政府に戻ってすぐに対処してもらったものの写しがびしょ濡れで政府内を歩いていたと言う噂はすぐに同期の元へと広がりようやく繁忙期が過ぎたと思ったら次はお前か！と怒られたらしい】

やぁ後輩、同期たちと日程は決められたかい？っと、その様子だとびしょぬれなのを怒られたか