烏有 2024-06-13 20:01:53 |
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なるほどの、コレが君の姿か。こりゃええ偶像になれそうじゃな。いやァ詳しゅうありがとう。君に倣って謝謝のほうがええ?
それから組織規模じゃけど、一概には言えんのう。それっちゅーのも実質傘下にあるが対外的には独立した組織と取引をするように見せる形が多いもんで。オレのことを知っとるんも昔から馴染みあるモンか、オレが直接声掛けたやつくらいじゃろ。各組織の背後にオレの存在があって、深部に食い込んどる印象じゃな。
まァ君から見た感じ、組織言うほどのモンは感じられんかもしれんし、あるいは関わる全体が組織に見えるかもしれん。一応各地に散らばる拠点はあって、君が元々おった興行団に若干食込む構成員もおったろうな。
それから攫ってきた子供に関して、君が初犯じゃないことは確かじゃ。君にたまたま素質あるからってことで目ェ掛けとるけど、途中で見切りつけた子らに例えば身辺の世話させとるゆうことも少なくはなかろう思うわ。そんで君のこと利用する為にわざと誰か他の子ぉ引き入れて君に会わせる……ゆう手段も取るじゃろうな、オレなら。こんなモンで回答になっとるか。他に追加で気になるトコあったら何でも言うて。
さてほんじゃ始め方について、初対面からと途中からどっちがええ?初対面なら前貰った君のロルの続きから。途中からなら攫った直後か連れ回しとる場面、もしくは君の指定する場面から始まらして貰う。
確認してくれてあいがと!。もし話しちょっ中でちごっなじゃとか、こんおいは好きじゃなかじゃとか。出てきたやそん時に教えてくやせ。
あい、明白了!全部理解しもした。
おいは哥哥様が接すっ人らが組織じゃとは知らんじゃっどん、ないかがあっとじゃろうなって推測すっ程度。そいよりも目ん前ん哥哥様について行っ事で手一杯じゃと思うんす。
今んこつ他に気になるんは───謝謝!無問題!けんど、話しちょっうちに又わからん事が出てきたや、そん時にまた聞かせたもんせ。
折角じゃっで、初めから話したかっち。けんど、最初ばっかいは哥哥様に舐めた態度があっち思うで勘弁したってください。
樂趣!哥哥様に会ゆっこと楽しみでなりませんけ、改めてよろしゅうたのみあげもす。
>狐魅
────不要愚弄人。( どうにも寝付きの悪い夜だった。演目は上々、最高の仕上がりを披露する事が出来た上に麗らかな女子から黄色い悲鳴も飽き飽きするほど沢山浴びた常ならば上機嫌に同演目の子らをからかい見下して好い夢の中に居たはず。ジメジメとした重たい空気がそうさせるのか、布団の中に居られずに夜の散歩に出たのは出会うよりも一時間ほど前のこと。ポツポツとした雨粒を前に無力、防ぐものは何も無く強まる雨粒を身で受け止め。突如と掛かる声に驚きでパッと両方の肩が跳ね上がり、見て取れる子供扱いにバカにするなと言い返すそれこそ子供のそれ。悪い大人よりも身軽な己の方が強いのだ、だから何も心配がないと根拠の無い身の丈以上の自信を見せて )不好的大人よりおいの方が強い。心配ない
>烏有
……ほう、ずいぶんな自信じゃ。( 差し向けた傘を益々彼の方へと傾けると挑戦的な物言いに不穏な笑みを深め。夜帳に溶ける中左手に隠し持った懐中電灯の電源を親指で探り当てれば、眼前に薄っすらと浮かび上がる顔形へいきなり差し向ける。すっかり暗闇に慣れきった瞳には強い光が応える筈──その思惑が功を奏したならば未だ発達途中と見える脚の内へすかさず自身の踵を捩じ込み、砂利道の中彼の四肢を投げ出させようと企んで。雨粒を凌ぐ筈の傘は同時に道端の襤褸と化し、僅かな風に吹かれて端へと転がっていく。用済みの玩具を尻目に獲物の体勢はどのようなものかと眇める瞳は紛れもなく捕食者の色。殺傷を厭わぬそれに相手が呆気なく地面へ転がったか未だ地に根を張るかはさておき、重苦しいコートの直ぐ裏側にあるのは慣れ親しんだ鉄の塊。息をつく暇なく仕込んだ銃を眼前の黒髪へと押し付けて、ニィと口角を上げ )けど坊っちゃんには変わりないのう。……なァ世間知らずのお坊ちゃん、こーいう大人を前にしたときの作法は知っとるか?
ぜーんぶ承知ってことでオレもよろしゅう。上ははじめの文じゃけど、わかりやすいか思うて前貰ったんも再掲示さしてもらったわ。気になるとこありゃ言うて、なけりゃこっちは蹴ってええよ。
!?挨呀ッ ──── 危なかじゃろ!ないしやがっ( 銀のような雨が視界を狭まる中、暗闇の中で邂逅した姿を捉えようと目を凝らして声の主の面を求めて。凝視していた暗闇に慣れていた無防備な目が突如の明かりの眩しさに眩んでしまう。網膜が必要以上に明るさを感知してしまえば求めていた姿は焼ける影となっており捉えることが出来ず、反射的にアイヤと驚きの声があがり。目を慣らそうと幾度もパチパチと瞬きを繰り返し漸く光が焼き付いた目が突如の明るさに慣れたと思えば、一瞬の内に身体の重心が振れていた。一呼吸の内に畳み掛けてくる不意打ちの連続を前に、体幹の強さが活きたらしく転げる前に反射的に伸ばした腕が地面に触れて側転の要領で身軽にも体勢を整え、噛み付かんばかりの喧騒で無謀にも文句をつけて。立ち上がる前髪は水分を含み顔に落ち、大きな動きが加わり顔に張り付いて邪魔くさい。それを払う事が出来なかったのは手の内に収められる小ささの、呼吸さえ止まる威圧感を持つ大きな鉄が向いていたからで。茫然たる顔、静止したままの身体の中で唯一動かすことが出来た二つの眼が掬い上げるように初めて彼の姿を追い掛け。圧倒的な武力を前に両腕を顔の高さへ掲げ降参を動きで示し )………… そいは本物か
偽物じゃあ思うなら、博打打ってみるか?お前の頭に花が咲きゃホンモノ、銃口から花が咲きゃニセモンじゃ。( 想定以上の身の熟しに僅かに目を瞠るも一瞬、利口にも即座に降参の意を送る彼の姿にくつくつと笑みを漏らす。銃口が真っ直ぐに狙った頭部からほんの僅かずれたかと思えば直後、銀色の弾丸が彼の髪を掠めコンクリートへと着弾して。無理やり空気を切り裂いた轟音に鼓膜が唸り、明かりを引っ提げていた腕から懐中電灯が滑り落つ。用済みとなった光源は僅かな明滅を繰り返してその生涯を終え、再びの夜闇が辺りを隠した。時を同じくして低いタイヤの駆動音が泥道を滑る。巡回の者でさえ躊躇う深夜、雨粒を弾きながら静かに走る黒塗りの四輪駆動の黒い車が自身の直ぐ傍へと停まり。音も無く扉がスライドされた中に見えるのは空っぽの薄暗い車内。辛うじて運転手の姿が垣間見えるものの布仕切りのせいで運転席の全貌は見えず、三人程度が並んで座れる後部座席が広がるのみ。ドアを避けた車のボディに凭れ掛かるようにしながらこつこつと側面を銃で叩いて )さァて、お前の目にはコイツが花に見えたかのう?もしそうじゃねえんなら、大人しくオニーサンと一緒に行くことをオススメするで。
──────、…………。( 一か八かと言うには余りにも分の悪い博打の申し出に言葉が詰まる。刺激してはいけないと頭では理解しているのに見上げる双眸を怯えた犬のように逸らすことは出来ず、背けることも伏せることもなくただ真直ぐに命の手綱を握る拳銃ではなく感情の読めない彼の面を注視して。鼓膜が痛い程に震え、ビリビリと突刺す痛みが肌の上を走り身体が強張った。雨の匂いに混じる焼けた火薬や硝煙の臭いが現実を突き付けるには十分の効果を齎して。誂えたように車が停車、絶対に踏み込んでは駄目なのに僅かな時間で好奇心を擽られて仕方がない。この状況下に置いて相応しくない楽しさを隠せない興奮を抱えた顔でごくんと唾を飲み。綱渡りのように不安定しか無い現状に怯えではなく感情の昂りを抱けば腹を括った様子で上げていた両腕をそっと下ろし、顔に張り付いていた前髪を正すようにかきあげて「 知らんし人について行ったぁいかんのじゃ。……おいは狐魅ってゆ。哥哥様がだいなんか教えてくれんな、おいは車に乗りもはん 」出す手を間違えれば命を落とすと体感として肌身に染みていながらも向けた顔を逸らさずにハキハキとした声量で伝え。雨のせいで空気が湿り重たい影響からか自動車が吐き出す排気ガスの濃い臭いを長く鼻から吸い込んで覚悟を決めて。大胆にも口角を持ち上げて堂々と笑みを作ると勇気と度胸を履き違えた発言を、それは間違いなく本物だが今現在この場において命の実害よりも脅しとして使用されていると踏んでのこと。 )そいから出たんな────綺麗な花やった。
ん?んん~?……肝が座っとるとはちぃと違うな、どちらか言や酔狂が近いか。( 相対する子供から伝わってくるのは恐怖か怒声か等と間違えていたその何れも裏切られ、一瞬遅れて理解したのは紛れもなく好奇の性。雨に張り付く前髪の下現れたのは予想よりも利用価値を見込める英俊さで、放たれる言葉すら並の度胸が所以ではない。ともすれば逃してしまいそうな名を確りと聞き届けては少々の後相手の感情へ酔狂と名を付ける。吊り上がる口角は先とは違いしんからのもので、煙を雨に溶かしたばかりの鉄塊をくるりと回し。「 フーメイなァ。お前が勝手に明かした名に付き合う道理は無かろうが──まァ、ヒント位は教えたる。なあんも無い名前、これ以上は取引に乗ってもらうで 」果たしてヒントと呼べるかも怪しいそんな戯言を口にしては車の入口を顎で示す。鉄の花が綺麗だなどと抜かす感性の行方を未だ真意の読めぬ笑みで聞き届けながら、相手の返事を待たずして車内へと姿を消し。彼がこの脅しに乗るのならば当初の資金繰りに過ぎない予定を翻し、陰気な車内で拍手と共に出迎えよう )──いやァ気に入った。御稚児趣味の金持ちに売るんは勿体無い!それよりもうちょい悪趣味なことに付き合ってもらおうか。
………そいじゃあわかりもはん。( 個人を特定する名が呼ばれると犬猫が見せる動作のように頭を上げて、面に滴る雨粒を落とすようにブンと大きな動作で揺らし。与えられたのは海原の中でびゐだまでも探すような無理難題の解答、わかりやすく不貞腐れて瞳を半目に眉間に皺を寄せて下顎を突き出すように唇を尖らせて不満を訴えて。まるで着いていく好奇心に抗えないのを見透かされているかのように、端から姿なんぞ存在しなかったとでも語るかの如く開かれたままの扉を覗く事で僅かに残る彼の余韻を心で整理して。整理し、分析を終える頃、眼の前には果しない泥濘が見えていた。しかし、もはや、先の見えない泥濘に飛び込む以外の選択肢が愚かな世間知らずには無くなっている。静かに息を吸い込み、静かに息を吐くと濡れ鼠のような姿である事を遠慮せずに車内へと。道を踏み外しているにも関わらず何処と無く浮き足立つ様子なのは心の奥では太陽が上る頃、一座の花形が存在しない事に慌てふためき捜索が為されるだろうと過大な自己評価を置いているからかもしれない。背もたれは使わず背中を直立させて座れば腿の上に親指を隠す握り拳を置いて、気持ちはまるで一夜の冒険、思い出作りとでも言うべきか。恐れを見せずに送られる華やかな拍手を遮り、前髪に隠されて交わすことが難しい彼の目元へ焦点を合わせてから声を発して。 )───こん車ん乗っち、進ん先はないがあっと
ほうじゃのう、……まずは格好を整えたるか。濡鼠のまんまじゃあ商品価値も落ちるけえ。( 薄暗がりの中でも浮かぶ不満気な表情から一転、そのかんばせに年齢に似つかわしい冒険心が浮かんでいるのを認めれば思惑通りと僅かに眉を上げて。続く質問には微かに睫毛を上下させて逡巡を見せるも一瞬で、雨露に濡れる座席へと視線が落ちる。先決なのは体裁を整えることと結論付けては冷えているだろう相手の膝へぞんざいに毛布を渡し、風邪を引かれてはたまらないとばかり身体に纏うよう無言の指示を。窓から覗くのは黒ばかりでそれが途切れる間もなく、これまた陰気な地下酒場の入口階段傍へ。漏れる不穏な喧騒の中運転手は最後まで姿を見せず、代わりに行きと同じくドアが滑る。エスコートの手すら差し伸べないまま勝手に車から降り、生命の尽きかけたネオンの光の下真っ直ぐに伸びた灰色の階段を下っていき。まるで着いてくる事を確信しているかのような傲慢な足取りは軽やかで振り返るのはドアに着いた丁度その場のみ。重苦しい濃色のドアがギィと音を立てて開いた刹那、先程とよく似た轟音が耳を穿つ。硝煙の匂いが広がる雨中、ドアの向こうに倒れ伏しているのは紛れもなく人間、正確には先程まで人間だったもの。呆気なく命を奪った自身の掌に収まる鉄塊を再びコートの内へと仕舞うと、何事もなかったかのように死体を踏み付けて内部の酒場へ。ポツポツと明かりの灯る店内はお世辞にも広いとは言えず、人相以上の異様さが空気を支配している。自身はと言えばすたすたと呑気にカウンターの横へ位置取り、店員らしき青年に親指で入口を指し示し )……おーい、始末しとけ言うた鼠が一個紛れ込んどったで。
…………!。謝謝、( 感情の昂りが収まらない身体は寒さを感じさせずに熱を持ち、雨に濡れていることすら気付かせていなかった。膝に落ちたのは毛布、渡された物に見せる警戒心は無く素直に肩にかけて感謝の声をあげ。硝子越しの景色はただの闇、先なんて端から用意されていないとでも言うようなただの真っ暗闇でぼんやりと反射する己の姿を見ることくらいしか出来なかった。裏社会に縁のないただの少年にとって治安の悪い場景の移り変わりが止まり、死にかけのネオンがチカチカと光るのを横目に見たのがやけに記憶に刻まれた。先に降りてしまった彼の姿にハッと目元を大きくし、置いていかれた犬のようにその背を追い掛けて。毛布を肩に掛けたままちょろちょろと着いて回る姿は第三者から見れば滑稽な様でもあり、タンタンタンと軽やかな足取りで脆い階段を踏み降りて。錆びたような軋む音を立てて重たげな扉が開くのと同時に記憶に新しい轟音と少し遅れて煙たいの匂い、そして何よりも新しく加わったのは濃い生臭さだった。その臭いは僅かな時間の内にも存在感を濃くして、金属のように鉄臭く、臭いの元を躊躇いなく踏み付ける背中に抱いたのは恐れよりも圧倒的な強さを前にした降伏と敬意。そして愉しいものを見られるのではと言う幻想か夢想か、根拠の無い期待が膨れた。冷えたコンクリートの上、傷口から滾々として流れる血液は馴染みのある再度の高いサラッとした物ではなくて、どろりとした粘土を持った黒くさえ見えるものだった。広がるそれさえも踏んでしまわないように避けながら漸く足を進めると何やら話を進める大人二人を遮り、ただ一言。" 俺のことも殺すつもりか ”そう投じて )イ尓要殺了我罵?
……。会生什ノ公取決イ尓如何工作、 イ尓要譲自己対我有用。わかったかなァ、坊っちゃん?( 陽の下には晒せぬ算段を交わす最中、伸びやかな声が密談を遮る。連れてきたのは自身の癖まるで今存在に気づいたかのように視線を下げては投げ掛けられた問の内容を咀嚼して。馴染みが無いとは言えその面持ちと幾らかの伝手から容易に導き出された答えはどちらとも言えず、遠慮無く伝えた言葉は北方の訛りが混じる中文で。" お前次第だ、役に立て "等と身の安全も保障しない言葉は全て表。心得たように傍らで息を殺す店員の一人に何やら視線で合図を送ると、幾らもしない内に奥の部屋から風が漏れる。「 ……まあそいでも猶予与えんほど鬼じゃないけえ。まずは風邪ひかんよう着替えておいで~。 」呑気に声を掛ける傍ら、静かに移動する人々の内片腕に布地を携えた青年が相手の手を取りカウンターの後ろを指さして。黒布が隠すその背後にあるのは従業員の使用する休憩室で、アルミテーブルにパイプ椅子が並んでいる以外は何も無い殺風景な空間の筈。従うのならば机上に広げられるのは彼が元々着ていた長袍──一切の違いも見受けられない真新しいそれ。何を聞かれようとも従業員が口を割ることはないだろうが、毛羽立ちの一つもない手触りはお誂えであることが察せられるだろう。自身はと言えば案内は店員に任せ、酒場の隅にあるソファに腰掛けてマイペースにグラスへ注がれた酒を飲み始める。既に死体が退かされている入口へちらりと目を遣るとそれきり興味を失ったらしくロックグラスの中身を一気に煽り )
……… 董了。じゃっどん!坊ちゃんと呼ぶたぁ止めたもんせ。おいん名は狐魅じゃ( 母国語を使用された事で少しの齟齬も無く言葉をそのままの意味で落とし込む事が出来た。役に立てとは、何を求めての事なのか。現状では理解の仕様が無い事だらけだが、少なくとも体調管理をする為の補助はして貰えるらしいとお気楽な声が教えてくれた。それから流れるように誘導を受け、もう一度驚くこととなったのは着用しているずぶ濡れのそれと寸分違わぬ同じものが目の前に並んだからで。汚れもほつれも皺ひとつないそれは新品であることが伺えるそれに恐る恐ると言った様子で触れれば指先に伝わる生地の質感から、形もデザインも全てにおいて僅かな違いもなく同じ物だと言う事がわかる。着替えとはこれの事を示しているのだと伝われば躊躇いなく濡れたせいで肌にくっつく長袍から新品のそれへ着替えを始めて。初めて着るそれは少しの違和感もなく肌に馴染み、サイズまでもが誂えたかのように丁度よくいつどのタイミングで用意をしたのかと言う疑問を誘導してくれた従業員に問うてみたものの回答は無かった。肌身離さず持つ鏡を開けば綺麗な服に見合うように乱れた髪を手櫛で整えて、自信を持てる見た目になった事を確認してから再度彼の元へと姿を戻して。戻るや否や開口一番に伝えるのは望んだ答えを得られなかった事に対する不満で、それから少し遅れてハッとした面を見せて"そうじゃない!"と一人言を漏らし、上半身を九十度に傾けたお辞儀と共に嬉しさが滲む声で感謝を伝えて )あにさぁ、さっきん店員さぁは意地悪じゃ。聞いたことにないも答えてくれん……────不是這個!!兄さぁ、綺麗なんお洋服をあいがと。
( 少年の叫びに名を呼ばれたければ結果を出せ、とばかりひらひらと手を振って。連れられてゆく背面は一瞥を境に再度視界に入ることはなく、次に認識したのは真新しくも新鮮味の無い衣服へと着替えた姿。何かと思えば開口一番子供らしい不満が漏れた直後、仕込まれたのか生来のものか整った作法の礼が現されて。脳の奥で算段するのは眼の前の子供の利用価値、臆すること無く立つ姿に偽物の光を背負った傀儡の幻を視る。果たして見世物の主演級を張るだけはある、等今更の値踏みを終えれば酒を掴んでいた手を下ろし、再び空になったグラスを机に置いて。ソファに沈めていた腰を浮かし礼のため下げられていた頭の下、年少らしさを残す顎へ指を添えてはくい、とその面持ちを光の元へ晒そうと。観察したその面は紛れもなく一級品、其処に立っているだけで用途などいくらでもありそうだが、それでは物足りない。久々の上玉商品に浮足立つ心持ちで柔々と彼の頬を揉みながら、脳裏に浮かぶ計画は道理に外れた数々で。片腕でグラス側にある酒のボトルを掴むと栓だけが抜かれたそれを相手の口へと近付け、瓶の中で波打つ度数を半ば強制的に飲ませようとして )綺麗なお洋服だけじゃ此処の奴らはなぁんも言う事聞いてくれんよ。聞かせるにゃお前の覚悟示さんと。……ま、其奴を示すためにも景気付けがいるかのう。一杯やっとこか。
~~~ない、ないすっと!んぐ、む。ぷ、───( 指先が顎に触れて下ろしていた面を持ち上げられる。彼の行動に不思議そうな顔をして見えそうで見えない前髪の奥の目を探し追い掛けていれば、注意を引き戻すようにぐにぐにと頬を揉むように触られた。特別痛みは無いが違和感は有る居心地の悪さが不服となり、隠れずに顔に浮かんで。そんな不満は表情だけに留まらず、恐れを知らぬままに言葉に変わってその手を払おうと顔を振って逃げようとして。頭部を左右に一度ずつ振ってみたが面を掴む手を払う事が叶わず、言葉の真意こそ掴めなかったが単語として覚悟を示すの声が頭に残った。冷たい瓶を咥えると喉の奥へ流れ込む液体を口から吐き出すことはせず、呼吸も中途半端なまま陸で溺れる奇っ怪な経験を。流されるアルコールをこぼさないように必死に食らいつきゴクゴクと喉を動かすのは折角貰った服を汚したくない気持ちだけで、苦く通った箇所がカッと燃える熱い液体は少しも美味しいとは思えなかった。ざっと多く見積った量にしてグラス二つ分とそんなに多く飲んだ訳では無いが、初の飲酒では限界のようで、こぽこぽと溺れるような音が喉の奥からし始めたのを合図に傾くビンを正そうと腕を伸ばし )
( 避けようとする細腕も所詮子供の力とは言え素直に退いて、些か程軽くなった瓶の中身に目を眇める。微量とはいえアルコールの濃さも相俟って飲酒の初歩、或いは通常の耐性では酩酊に陥りかねない酒量。ほぼ無理矢理に流し込んだ少年の胃の腑が耐え得るかは知ったことではないが、価値の分からぬ御銘酒を取り零すほど無粋でもないらしい。合図のない限り我関せずを貫く店内の空気が濃淡を描くようにさわざわと塗り替えられ始め、値踏みに近い視線が相手へと降り注ぐ。これで漸く選考の壇に立ったようなものである。退いた瓶の首を掴んで残りを一気に飲み干すと、片手でくしゃりと前髪を掻き上げ息を吐き。「 肴もなけりゃ盃も無いが、まー酌み交わしたんじゃけ三献じゃ。次はお前の覚悟──生き残りたきゃ示す番。 」どん、と空壜を机に放り投げると同時に何かを察した店員二名が視線の先の" 鼠 "を捕まえ、両脇を拘束された男がソファの前へと連れて来られる。特段の徴も無いような中肉中背の目にはまだ若年らしい恐怖と疑問が浮かんでおり。捕まったまま地に膝を突くその面持ちには一切構わないままソファ前のテーブルの上にゴト、と並べ始めたのは殺傷武器の数々。銀色のナイフに小型の銃、薄緑の液が入った注射器に錠剤。見た目よりも重苦しいそれらはすべてコート下に仕舞われており、取り出したものは一部に過ぎず。順序もあくまで思いつきに過ぎないのか目立った整合性はなく、くるりと振り向いた刹那露わになったままの瞳に浮かぶのは冷笑と品定めが混じった酷薄さで。暗に従わねばこの場で切り捨てると言わんばかりに食指で机をゆっくりと叩き )好きなの選んで、ソレ、お片付けしようなァ。……出来るよなァ狐魅?
( 心臓に火がついたらこんな感じだと疑似体験をしている気分で、ドクドクと脈打つ心臓は熱くて熱くて仕方がない。深く酸素を吸い込みたいのに肺が半分ほど縮こまったのではと錯覚する程に呼吸を上手にすることが出来ず浅い呼吸だけをは、は、と幾度も幾度も繰り返して。二つの目は何故だか全てのものを二重の輪郭に見せるようで平衡感覚を失いクラクラと眩んでしまう。簡潔に纏めるなら今すぐに胃の中の物を全て嘔吐してしまいたい。それ程までに身体中の血液が沸騰した酸欠状態に訳も分からないまま苦しんで、普段なら有り得ないほど真直に立つことが出来ずに僅か振れるように体の重心が不安定で。彼の声が何かを話すがその言葉の意味を理解出来ずに何か音が鳴っているとしか認識が出来ず、正面に用意された男と不穏な道具がヒントとなりにわかに信じがたい現状を教えてくれた。突き刺すような視線が複数自身に向いている事も補足の一つになると少しの沈黙を。───繰返し伝えた名が呼ばれたことで据わった眼差しを彼へ向けて、酒の匂いが届くような裏返る赤い声で確認のように話しかけ「 兄さぁはおいにこん人ん事を殺せってゆーと。……………遅かれ早かれ"お片付け"っち、手を汚すなら。そいならやるんは今じゃなか。頭クラクラしち、正気じゃなか時に人んこっ殺すたぁ綺麗じゃなかち、そー思う。 」大して考えられない回らない頭と舌のせいで喋りにくさを覚えつつ言葉を発すのは、逃げ道を探していると言うよりも惜しいことをする、勿体ない、つまらない事をさせる。そうとでも言いたげな雰囲気で。 )兄さぁなら、おいをもっとおもしろいして使ゆって思ちょった。そいは違いもしたか?
んふ、……だとさ。命拾いしたなァお前。詐欺師の皮被るにゃあオツムが足らん。鉄砲玉になるにゃ身体が付かん。挙げ句がつまらん箱師にポンの持ち逃げかぁ。やることもちいちゃかったのう。( ふらふらと傾ぐ身体はその身に溜めたアルコールの濃さを示すもので、冷徹な視線は心配等一切映さない。相手の一挙一投足が全ての目に這う空間で紡がれたのは武器の全てを退けるもので。並べた道具に一瞥を遣ると相手の憤懣には応えないまま、人の鎖に繋がれた哀れな通行人へと向き直る。" 今じゃない "と引き取った言葉の続きは項垂れる男の現状と過去。何処までも倫理を排したものではあれど外道には外道なりに道がある。上に君臨する誰か、或いは組織の自浄作用から心臓の停止を命じられた男の罪は十二分に撒かれた。例えその背後に何が有ろうとルールに背いては、……とそれまでが建前。酔に頭を任せて喋る少年の肩を掴むと背を支える形で男の前へと突き出して。背後から回した手の先はまた丸みを描く顎へ伸び、くいと相手の頭を上げさせる。「 此奴が正気の時、お前を殺させるんが面白い使い方か──それとも、別に動かせるんが面白いか。まあ何にせよ、お前の生命はこぉんな子供の掌の上じゃ。なァ、よかったな、今はお片付けの時間じゃ無いらしい! 」薄暗い照明の下狭っ苦しい空間に晒された面の色はともかく、品定めの濃淡は濃の方へと傾いた。開いた口から滑る言葉は矢張り一切少年の疑問に答えることはなく、代わりに酒にふらつく相手を" 何か "に仕立て上げたいかのような──妙な感触を持って紡がれていき。滔々と流れていくその言に従って、一時的とは言え生命の危機を脱した男の瞳には畏怖と敬意が滲む。生死の境では最早大人子供の区別等無く相手に向けられる視線には懇願の色も映り出し、濁り混ざったそれは崇拝とも付かぬもので。変わらず少年の面を上げさせたままニコニコと笑み、光を一切映さない瞳で問いかけて )狐魅、言え。お前の考える面白さは何じゃ?
愉走眼睛。───どきどきすっこと、幸せになっこと、生きちょっこと。そい以外はつまらんことばっかいじゃわ。( 長時間湯船に浸かった時の逆上せた感覚に近い。浅い呼吸と振れる視界、ぼんやりとした浮遊感をかき消す為に本能が水を求めて口が渇き、上下の唇が引っ付いて口を開くと薄皮がピリと僅かに裂ける音がした。落ち着かない体は支えを与えられたことで幾分か重心が正しく整えられて、力の入りにくい足に意識を置いてバランスを取るようにして。強制的に面が持ち上げられ、奪うことを拒否した命と向き合えば焦点の合いにくい両目でも恐れと敬意が見てとる事が出来た。どうしてこの男が処されるべきに至ったのか、重要な情報が語られているのに思考力の低下のせいで理解が追いつかないでいる。名を呼ばれ質問を受ける。質問の意味を考え、自分の考えをまとめるのに数十秒の空白を生み出すとそれは質問なのか尋問なのか、受ける当事者よりも周囲の方がヒリヒリと冷たさを感じる時間となり。漸く開いた口は"目を奪う、注目される、目立つ"そう言った類の単語を放ち。場に似合わないあどけない軽い笑顔で言い切るように己の面白いを連ね、それが叶わないなんて少しも思っていない自信のある大胆不敵な言い切りは幼く未熟が為せる無謀で。過去知り得ない魅力で既に心を掴まれている彼へ視線の先は縫い付けるように向いて )おもしろかは叶う。だって神様はおいん味方じゃっで。
ふ、お前の愉快がそれなら、すこし間違いが混ざっとる。神は味方ゆう生温いもんちゃう。……殺せ。今からお前自身が神になるんじゃ、( 零される言葉と視線の内に孕む危うさを鋭利削ぐことなく受け取れば僅かに身を屈めて耳朶へ唇を寄せ。周囲に聞こえないよう潜めた声で否定するのは言いようもなく蠱惑的な響きが混ざっていた。依代なんかでは勿体無い、預言者では物足りない、この悪趣味な世を飾るに相応しい偶像ならばどうだろう? ひとまず彼の持つ特異性を知る者は跪いた者が一人、成り行きを視界の端で捉えるものがふうみいよ、広いようで狭いこの業界では噂などアッと言う間に広まる。其処に自身の手も加わるとならば尚更、仕立てが滞るなんてことは無い。上げさせた面を満足そうに確認すれば漸く解放してやり、彼の腕を掴む事が出来れば先程まで自身が腰掛けていたソファの上へと引き倒して。次いで視線のみで介抱の手を周囲の人々に押し付ければ「 此奴にお前等のタマ握らせとることはわかっとるな、 」と脅しにも似た言葉を土産にコートの裾を翻す。何やらつばの折れた帽子を被ると今度は顔も確認しないまま酒場──数ある内の拠点を後にして )
さー、序章終了間近!言うところかのう。君のクソ度胸も見してもろたし、拍手拍手。こりゃあ仕立てるのも力が入るってモンじゃな。
んで次なんじゃけど薄らぼんやり思いついとるのは①雑技団潜入工作員②路上の神様出現事件③日常回くらい。そっちの意見としてはどう思う?あァ、それとは別にこれわからんとか言うところがあれば言うてな。
……… 真的很有趣( 神はいつだって己の身を守り救ってくれる存在だ。産みの親も知らない身であれば神の子だと思う事くらい許されるだろうと信じ、救われてきたようで。実際には偶然、運が良かった、ただそれだけの事な訳だが力も金も何も無かったただの小僧がちやほやされて困ること無く今日まで生きてこられたのは神様が味方だと根拠なく心の拠り所として抱いていたからで。そんな神様を味方でないどころか、会った時には殺して成り代われと囁きを受けるとクラクラと眩む意識の中ではそれが無礼ではなく面白いに変換されてしまったらしい。"やっぱり面白い"と底の見えない彼の魅力を前にそう口にせずには居られなかったらしい。わはは!と口を大きく開いて吹き出すような笑い声を面白そうに落とせば不慣れな酒が愈々身体中を巡りひっくひっくと吃逆があがり。掴まれた腕に引かれるがまま縺れる足をズルズルと時折引き摺って、急性アルコール中毒の一歩手前だったのだろう途切れかけてる意識はソファに転がり体から力を抜くのと同時に落ち掛け、僅かに残る意識で口を開き「 兄さあ、あいがと 」それは何に対する感謝なのか。言い切る前に立ちくらみのように視界は暗くなりぷつりと意識の糸を打ち切って )
兄さぁと一緒じゃとハラハラすっどん、それ以上におもしろか。
そして次ん展開ん相談もあいがと!全部おもしろかなりそうで全部迷うてしまうっちゃけど、①でおいが兄さあにとって役に立つ存在だって少しは思うて貰ゆれば良かねって。そう思うんす。
じゃっで兄さあが良かれば雑技団潜入工作員として次ん話を進められればなって、そう思うんすけどどげんやろ。
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