七色の瞳のキミ（〆）

！
…………良かった。

( アメリア、と名前を呼ばれて彼の方へと虹を向ければその七色に入ったのは紛れもない、先程彼に話したばかりの男性の傷と全く同じ場所同じように在る傷跡で。それから彼から正体を明かすように言葉が紡がれれば、驚いたように丸められていた虹色の瞳は安堵にゆるゆると解けていき。貴方だったのね、だったりとか、最初から分かっていたの？とか。そんな言葉よりも先に出たのは彼が今生きていること事実への紛れもない安堵。ふわりと浮かべた微笑みは無意識で、アメリアは細く小さな指先でその傷跡にそっと触れては「 生きていてくれて嬉しい。……本当に、無事でよかった。 」とあの時血塗れで今すぐにでも命の灯火が消えてしまいそうだった過去の彼に想いを馳せながら優しい声で言葉を零して。 )

…これで、少しは信用してもらえるか？

（自分の腹部の傷口を見れば驚いていた瞳が段々と安堵に変化していくのが分かり。貴女のすらりとした細い指先が、傷口に撫でるように触れれば嬉しい、良かったと純粋な思いでそう呟く声が聞こえて。傷口を撫でている指先を見ていれば、その視線を貴女の虹色の瞳に変え上記の言葉を口にする。初めから自分を警戒している節は見当たらなかったが、過去に出会ったことがある人ということならば、初対面の時よりは安心感を抱いてもらえるだろうと思って。自分の体を見る度に助けてくれた貴女の姿を思い出し、早く会いたいという気持ちを堪えながら生活していたが、もうそんなことを思わなくてもいいんだなと思うと、傷口を撫でている手を優しく掴み、手の甲にキスを落として。）

！
……ええ、もちろん。

( 大きくて少し骨ばった手は自身の手よりも大きく、そして暖かい。それに手を救われたと思えば手の甲に落とされたのは優しい口付けで。王子様みたいだな、なんてその光景をぼんやりと眺めながら優しく微笑めば最初から彼を疑うなんてことはしていないとゆっくり頷いて。ずっと、あの彼は無事だったのかと不安だった、だが目の前の彼はオークションの会場からこの家までずっと自分を抱えるほど筋力もつきそして500億という値段で自分を落札するほどの財力すら抱えている。本当に大丈夫になったんだ、とアメリアの心はほっとした気持ちでいっぱいで、彼の両頬をそっと柔らかく小さな両手で包めばこつん、と額どうしを合わせて。 )

ウィルは最初からずっと優しかったもの。
あの場所から、私を助け出してくれてありがとう。

っ…さっさと風呂に入れ。疲れてるだろ

（自分が貴女の手の甲にキスを落としたのをぼぅっと見つめているのに気がつけば、さすがにやりすぎたか？と不安になり声をかけようとするが、自分のことを信じてくれるかという言葉に肯定の言葉が投げつけられ、心が段々と暖かくなっていくのを感じていて。そして、自分よりも小さく柔らかい貴女の手が、両頬に添えられ額同士がコツンと合わさり、オークション会場から助けてくれてありがとうという感謝の言葉を言われ、今迄よりも距離が近く、貴女の顔がすぐ近くにあるということから傍から見てもわかるくらいに顔を赤らめるとばっと離れて上記の言葉を口にする。）

……ふふ！
うん、行ってくるわね。

( 彼の頬がふんわりと赤く染まったのをみて可愛い、と思わず笑顔を零してしまえば思わず緩んでしまう頬もそのままにゆっくりとソファから立ち上がり。ふわふわと浮かんでくる暖かな気持ちは愛情が母性か、まだその判別もつかないものそれでも目の前の彼を愛おしいと思う感情は気のせいではないのだろう。アメリアはひらりとワンピースの裾を翻して部屋を出ていけばシャワー室に入り、特に恥ずかしがるわけでもなくそのままするすると服を脱ぎ浴室内へ。ふわりと暖かな浴槽は自分でも気付かないうちに気を張っていたのもじわじわと溶かしていくようで、「 ……気持ちいい、 」と思わず口から溢れ出た言葉は暖かなお湯に静かに解けていき。 )

…あぁ

（何を思ったのかクスッと微笑んだ後にこの部屋から出ていき、足音から察するに自分の言った通り浴室に向かったのだろう。こんな短い間でも、貴女と一緒に居るだけで幸せで溺れてしまいそうで。こんなに幸せでもいいのだろうかと思いながら、同時にまた貴女と出会えなくなってしまったらと考えると胸が締め付けられ上手く息が出来なくなりそうで。深く息をつくと、貴女が風呂から上がった時の服を出さなければと思い出しクローゼットの中を見るが、どれも貴女と自分の体格差を考えればブカブカになりそうなものだらけで。明日買いに行けばいいので、とりあえず今日の分だけでもとTシャツと長ズボンを用意して。その二つを畳むと、まだ浴室に入っていることを確認して脱衣所に畳んだ衣類を置いて部屋に戻り。）

─── あら………………。

( シャワー室から出れば、恐らく自分が本日着るものであろうTシャツとズボンが目に入り。先ずTシャツを身につければ彼のものなのでそれはなんの問題もなく着用でき。だが問題はズボン。丈自体はなんら問題ないのだがウエストがどうしてもぶかぶかで手を離すとそのまますとんと重力に従って落ちてきてしまうのだ。アメリアはこて…と静かに首を傾げたあとにズボンは諦めようと判断すれば、胸元だけが少々窮屈なのだがそれは性別差で仕方の無いことだときゅ、と少しだけTシャツの裾を伸ばしながら脱衣所から出てきて。「 ……あの、ごめんなさい。ズボンだけ…落ちてきちゃって…。 」と彼のいる部屋にそろそろと入り。 )

…はぁ！？おま、っ、そんな格好で出てくるな！

（脱衣所から出てきた足音を感じとれば、もうそろそろ来るなと予測して。その予想が当たり部屋に貴女が戻ってくれば、自分が脱衣所に置いてきたはずのズボンを履いておらず。話を聞けば、自分より貴女は細身であるためズボンが落ちてくると言われ、では今貴女は下に何も履いていないのかと思うと、顔を一気に赤くして貴女には絶対に話さないような大きな声量で注意をして。とは言っても、履いても落ちてくるのであれば仕方がないと思い、一つため息をつくと｢明日、服を買いに行くから今日だけは我慢しろ｣と何も履いていない貴女の足には出来るだけ視界に入れないようにして。）

！

( 初めて聞く男性の大きな声にびく、と反射的に肩を跳ねさせたものの彼の赤い顔を見ればそれが怒鳴り声ではないということが分かっているため特に怯えることも泣く。確かに彼にとってはお見苦しいかも…と首を傾げればTシャツの裾が伸びてしまわない程度に裾を引っ張って隠す努力を。此方を見ないように視線を逸らした彼の紳士さに心を絆されつつも「 私は平気だけれど…。ごめんなさい、少し見苦しいと思うけれど我慢してね。 」と、てっきり彼は好きでもない女の肌を見ないようにしているのだと勘違いをして謝罪をひとつ。それにしたって、無理に自分のものを着せたって良いのに買った女にもわざわざ服を買い与えるだなんて稀有な人だな…とぼんやり考えれば先程改めて丁寧にたたみ直したズボンをそっと撫でて。 )

そ、そうは言ってねーだろ…ただ、好きな女が下に何も履いてないって言われたら…こっちだってどう反応したら…

（見られても大丈夫だと貴女が言えば、それなら此方も何も言うことは無いが、その言葉の後に続いた『見苦しい』という単語が引っかかり否定する。そして、上記の言葉を紡いだ後にそういえば、貴女にはまだ自分が貴女の対して好意を抱いていることは言っていないことに気が付き。もう口から出してしまった言葉は取り返しがつかないため、顔を赤くしたまま｢…俺は風呂に入ってくる。お前はこの部屋にいろ。｣と恥ずかしさを紛らわすために貴女の頭にぽん、と手を乗せたあと逃げるように部屋から出ていき風呂場まで向かう。あぁ、言ってしまった。そんなことを言ったら避けられるに決まっているのにと自分の言ったことを後悔していて。）

、……え、ぇ。

( 好きな女。彼からそうサラリと告げられた言葉には一瞬時が止まったようにアメリアの動きが止まり。戯れ、というにはあまりに真剣なその声色と彼の頬の赤みがやけに真実味がありこれが嘘や演技だと言うのならば彼は役者として生きていけるようなそんなレベルだ。風呂に入ってくると優しい手が頭の上にぽんと乗り、未だ思考が追いついていないアメリアはただそれに返事をすることしか出来ずに。彼がいなくなった部屋で暫く呆然としていたけれど、漸く思考が追いついてきたのかアメリアの頬は段々と赤くなっていきぐるぐると混乱した頭はショートしそうなのかそのままソファにふらりと歩み寄ればゆっくりと身を預けるようにソファに体を倒して。好き、いつから？どうして？そんな言葉ばかりが頭の中で反芻し、意識をしてしまえば彼の匂いに包まれているようなTシャツすらも今の自分にはどきどきと高鳴る要因の一つで。 )

――ふぅ…

（予め頭と身体をしっかりと洗った後、湯船に浸かると毛先から水滴が落ちて湯にちゃぷんと沈んでいく音を聞きながら今日の夜だけで色々なことが起きてしまったなと思い天井を見上げて。貴女のことを誘拐した者のことを許すことは出来ないが、結果的にオークションで売られていたことで貴女を見つけられたわけで。喜んでいいのか駄目なのかと悩みながら、腹部にある傷跡に視線を移して。自分が貴女に傷跡を見せた時、貴女は優しく触れてくれたなと思うと途端に恥ずかしくなってきて。そういえば、先程貴女に無意識に好きな女、と零してしまったことを思い出すとこの後どんな顔をして会えばいいのかと考えていて。このまま悩みながら湯船に浸かっていたら逆上せてしまうと思い、浴室から出て体を拭き、ラフな格好に着替えると首にタオルを掛けて部屋に戻り。）

─── …すぅ、

( 彼がシャワーを浴びている間、好きな女という言葉だけで逆上せてしまいそうになる頭を落ち着けようとソファに身を預けているうちに眠ってしまったのか、それとも気が付かないうちに疲れが溜まっていたのか、アメリアはすやすやと無防備に寝顔を晒しながら眠っており。だがしかし彼が部屋に帰ってくれば扉の音にぱち…と美しい虹色の瞳をゆっくりと開いては眠り姫の如く「 ……ウィル、？ 」と彼の名を呼びながらまだ少し眠たげに瞳を擦りながら体を起こして。 )

起きなくていい、疲れてるんだろ。今日はもう寝ろ

（自分が部屋に戻ってくると、ソファに身体を沈めて眠っている貴女の姿が目に映り。扉の開閉の音で起きてしまったのだろうか、眠たそうにしながら体を起こし目を擦っているのを見れば無理に起きなくてもいいのにと思いながら、貴女の疲労の気持ちを考慮し優しく頭を撫でれば寝ていていいというのを告げて。貴女の肩と膝の裏に腕を回せば、そのまま持ち上げて姫抱きをしたあと、ベッドの方まで連れていき。ぽすんという軽い音と共にベッドに落とすと枕を頭の下に置き、薄い掛け布団を掛けてやり。怖がっている様子は見られなかったが、自分と一緒にいては安心できないだろうかという不安を抱えながらベッドに横になっている貴女のことを見つめて。）

、ウィルも…、一緒がいいわ、


( まだふわふわとした夢の中にいるのか、ベッドへと運ばれている最中は風呂上がりということもありぽかぽかと暖かい彼の体温に甘えるようにすり、と自身の頬を彼の首元に擦り。ふかふかのベッドに柔らかく降ろされては、なぜだか不安そうに月色の瞳で此方を見つめてくる彼をぽやぽやとした瞳で見つめ返しながら1人で眠るのは嫌だと両手を伸ばして。今日一日だけでじゅうぶんすぎるほどに自分への愛情と彼の持つ優しさが伝わったので、どうやらアメリアは彼に心を開いているのかその瞳は柔らかく彼だけを見つめており、「 ね、ウィル。 」と彼が此方に来るのを強請るように甘くふわふわした声で彼の名を呼び。 )

…仕方ねぇなぁ、お姫様の頼みなら聞いてやるよ

（一緒に寝て欲しい、という貴女の言葉に少しだけフリーズしてしまい何も言えずにいると、それに追い打ちをかけるように両手を伸ばし柔らかく甘い声で自分の名前を呼ばれると、拒否するのは難しく。確かに、知らない家の知らない部屋のベッドで一人で寝るというのは幾ら自分に怯えなかった貴女でも怖いものなのだろうと思い納得し。それに冗談めかしくクツクツと笑いながら、一緒に寝て欲しいという頼みを受け入れて。ベッド横にある小さな明かりのランプをつけると、部屋の電気を消し貴女のいるベッドへと入り込み横になる。そして、「なんかあったら起こせ。直ぐに起きる」と何か不安なことなどがあれば遠慮なく起こして欲しいと言って。）

……ん、……。

( 自身のお願いをさらりと叶えてくれた彼は、暖かなオレンジ色のランプの光だけが自分たちを照らすベッドへとその身を預けて。寝起きのぽやぽやしている様子で彼の言葉に小さく返事をしては彼の腕にきゅ、と抱き着いては｢ わたし、……私も、ウィルがすきよ、……。 ｣ と寝起き特有のたどたどしい喋り方でぽそぽそと彼に好意を告げて。まだこれが恋や愛なのか、それとも友愛なのか。それすらも判別はついていないけれど、それでもこうしてベッドを共にするくらいには彼に好意を抱いておりまた彼からの好意に応えたいとも思っており。アメリアは人肌に安心したのかふにゃ、とベッドランプに淡く照らされた虹色の双眸を柔らかく細めてはそのまま夢の中へとゆっくり意識を沈めていき。 )

っ…はぁ…アメリア、お前ほんと…

（寝起きでまだ呂律も頭も回っていないのか、恥ずかしいなんていう感情を無くしたかのように自分に素直に好意を伝えられ、思わず息を飲んでしまい。その後、額に手を当て困ったように眉を下げるともうすぐで意識を手放してしまいそうな貴女の頬を親指で撫で女性特有の柔らかさを感じていて。貴女の言った『好き』というのは、恋愛的なものなのか、それともオークション会場から救い出した恩からきたものなのか…どちらにせよ、貴女に好きと言って貰えたことは自分にとって一番幸せなことで。自分の腕にきゅ、と抱きついたまま虹色の瞳を見せなくなった貴女をしばらく見つめ後、自分も月色の瞳を隠し眠りについて。）

……ん、……。


( その日は、普段夢を見ないのに不思議と懐かしい夢を見た。父と、幼い頃亡くなったはずの母と、それから自分が食卓を囲んで笑いあっているとても幸せな夢。捕まってオークションに出品されたという普通に生きていれば経験することのないことがあったばかりなのに、不思議と夢見は良くそれも全て自分を買った彼のお陰なのだろう。アメリアは窓から差し込む暖かな朝の光にぴく、と眉を反応させてはゆっくりと虹色の瞳を開いて。見慣れない天井にハテ、と頭に疑問符を浮かべたもののそういえば自分は買われたんだったと段々意識が覚醒していくにつれ自分が昨日どんなことがあったのかも思い出したのか、ぱちぱちと何度か瞬きをしてゆっくりと身体を起こし。 )

ん…アメリア…？

（普段の仕事柄、人が動いたりすることに敏感なのか貴女が身体を起こすとまだ意識がはっきりとしていないが貴女が自分には言わずにどこかに行ってしまうのでは無いのかと大きな不安に駆られ。そんなことを考えれば、身体が勝手に動いてしまいぐいっと貴女の腕を掴むと再びベッドに横になるような形にして。段々と意識がはっきりとしてくると、ハッとして気がついたように「わ、悪い…」と謝り、掴んでいた腕を離し。強引なことをして嫌われてしまったかとしれない、そんなことが頭によぎると眉を下げ、それまるで怒られて落ち込んでいる犬のようで。）