女子生徒 2024-04-30 23:32:52 |
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上等だよ。
こちとら教師やってんだから調子に乗った生徒の扱いは慣れてるからな。
( 口ではこんな事を言う彼女だが、その性格や根本的なこともあってきっと少し調子に乗るくらいがちょうどいいような気がする。…とはいえ比較対象が我が家の傍若無人姉妹なのはあまりにも差がありすぎるが。彼女の我儘を否定しているわけでは無いのにも関わらず、当の本人がそれに頬を膨らませて反対の意を唱えるという何とも不思議な光景に思わず頬が緩み。いくら彼女が調子に乗ってこようとも、教鞭を取って早数年。生徒なんて少しくらい手が掛かる方が可愛らしいものだとどこか得意げな笑みを浮かべて。袖先に力を込められるのは、むしろ人通りが多い街中ではこちらとしては少し安心するのでなお良し。小さく抗議を示す彼女に「俺が厳しくしたくてしてるわけじゃないんだよなぁ、残念ながら。……ま、こうしてうろうろしてりゃ何かしら良さげな物とか目に入るだろ。」と可笑しそうに笑いながら、クリスマスの飾りで華やかな通りを彼女と2人でウインドウショッピングしている現状をそれなりに楽しんで。 )
う、゛……。
みきがワガママクイーンになっても知らないからね…。
( 彼はどこまでも優しくて、ここまで言われてしまえば此方もなんだか引くに引けなくなってしまうしそわそわと心の奥がくすぐったくなってしまうようで。とはいえ我儘を言い慣れていないせいでどこからどこまでのレベルが我儘なのかという判断も難しいみきにとって我儘クイーンになれる日が来るのかどうかは神のみぞ知る話。それならば今までよりもちょっぴり我儘を言う回数を増やしちゃおうかな、なんてちらりと彼を見上げては早速今日の帰り際辺りから彼の言葉に甘えさせて頂こうとこっそり決意して。華やかで賑やかなクリスマス間近の町はどこまでもキラキラと輝かいており、色んなお店がクリスマスの飾り付けやらをしているせいで誘惑が非常に多いのもまた事実。お店のショーウィンドウに映る自分たち2人は制服と白衣じゃないことも相まって今日は兄妹には見えないような気がして、いつも以上にみきの瞳はショーウィンドウの方へと向いてしまい。「 ─── わ、かわいい…、 」そうして歩いているうちに暫く、みきの目に入ったのは雑貨から服飾まで幅広く扱っているようなアンティーク調の1軒のお店。ウッド調の暖かな雰囲気のある外観は海外の雑貨屋さんのような雰囲気で、思わずみきはぴたりとそこで足を止めては「 ね、司くん。ここでマフラー見てもいい? 」と緩く彼の服の袖をくい、と引っ張って。 )
、……あはは!
お前のそんな姿はちょっと見てみたいような気もするけどな。
( 自分の気持ちを表に出さない子だったと、小さい頃の話を店長さんから聞いている事を彼女は知らないはず。それを踏まえたうえでこうして本人の口から"我儘を言うぞ"なんてニュアンスの言葉が出てくるのは何だか逆に嬉しくて。彼女が今までに漏らした我儘なんて『帰りたくない』やら『離れたくない』といったようなもの。しかし自分の意見が通るまで我儘を貫き通すわけではなく、二言目には返事をして退ける彼女がワガママクイーンを名乗れる日がくるのはきっと随分先になるんだろうなと可笑しそうに笑い。クリスマスとは縁遠くなって暫く経つが、冬の寒い日に人が多ことが分かっているクリスマスに賑わう街中を休日に歩いているなんて、彼女と出会った頃の自分が今の自分を見たらきっと驚くだろう。彼女の視線がやけにショーウィンドウの方に向けられることに関しては単に色々見てるんだろうなくらいにしか思っておらず。自分も何となく色んなところに目を向けていれば、彼女の小さな呟きと止まった足に気付いて同じ方へと視線を向けて。ブランドやジュエリーが立ち並ぶショップではなく暖かくてどこかホッとするような、しかし並べられたクリスマス関連の商品たちにはやけに目を引かれてわくわくさせてくるような素敵な雰囲気の店。彼女の問いに、ん。と頷いて了承の意を伝えれば、さっそく店内へ。 )
だ、ダメだよぉ…。
自分のわがままばっかり突き通したがる子になっちゃう…。
( 彼の言葉に困ったように眉を下げるのはなぜだか我儘を許可されている本人の方。ワガママクイーンになった姿を見てみたい、と言われてもそこまで行ってしまったらいよいよ本当に彼を困らせてしまう子になってしまうとみきはふるふる首を振って。元より自分の感情よりも相手の感情を気にするタイプなのでそれを許可されても矢張り遠慮が勝ってしまうらしく、けれど彼が我儘を言われて嬉しいならばできるだけ頑張ろうというスタイルにはするらしいのだけれど。彼から無事に了承を得られてはありがとう!と嬉しそうに微笑んで早速店内へ。暖房の効いた暖かな店内はやはりクリスマスの装飾で飾り付けられており、可愛らしいアクセサリーから男性が身につけられる手袋やマフラーなど様々な小物たちが陳列されているためどこを見ようかと目が迷ってしまうほど。だがしかしみきの目的はただ一つ彼へのプレゼントを選ぶことなので、一瞬だけ可愛らしいアクセサリーたちに心が踊りかけたけれど足取りは迷うことなくマフラーコーナーへ。「 わ、…!すごい、マフラーってこんなにいっぱい素材があるんだね…! 」カシミヤやウール、ポリエステル、様々な種類のシンプルかつ使いやすそうなマフラーにキラキラと目を輝かせてはするりと彼の袖から手を離して実際にそれらに触れて感触を確かめて。 )
そう言える間はまだまだ安心だけどな。
( なんだかんだ言っても彼女本人の性格上、きっと我儘になりきれないのは目に見えていて。こんなやりとりで実際遠慮しているのは彼女の方だし、相手のことを考えられるうちはまだまだ彼女の我儘でこちらが困らせられるような事にはならないだろう。もちろん度が過ぎていたりだとか現実的に厳しいようなものにはすっぱりとNOを出すつもりではいるが、そうして彼女が自分の要求を伝えてきてくれるのは心を許して甘えてくれている証拠だというのが分かっているからこそ少しだけ嬉しかったりするのも事実なので。店内の暖かさに寒さのせいで無意識に強張っていた体からほっと力が抜ければ、その内装や陳列された商品に漸く意識を向けられる。まさに彼女が好きそうな可愛らしい小物やアクセサリー類もたくさん置いてあるのだが、まっすぐ目的の物がある方へ進む彼女に溜息混じりの笑いを零して。「ほんとだ、……うーん、違いって手触りくらいか……?暖かいならどれでもいいけどなぁ。」と、彼女に倣うようにマフラーの手触りを確かめながら首を捻って。 )
そうかなぁ…。
司くんが優しすぎるだけだと思うけど……。
( むむむ、と眉を寄せては未だ納得いってなさそうな表情ではあるけれどこれ以上この話題で彼には叶わないと充分に納得してしまえば諦め半分で首を傾げて。ふわりと柔らかな素材のマフラーが好きな自分と同じように彼がそういった素材を好きかどうかは分からないのでこういった肌に触れる商品は本人に確認をしながら買うのが一番。その証拠に素材をあまり気にしないような彼の発言に思わず彼らしいなと笑ってしまえば「 素材によって肌が痒くなっちゃったりするのもあるし、実際に巻いてみた方が分かりやすいかも。─── ね、ほら。これとか素敵! 」と落ち着いた無地で濃紺の綿100パーセントマフラーを広げてはちょっぴり背伸びをしてそれを彼の首にそっとかけて。新婚さんみたい!なんて考えが来る前に金メダルの贈呈式みたい…と思ってしまうのは年齢から来るものなのか、可笑しそうにくすくすと笑いつつもそのまま彼にマフラーを巻いてあげれば“どう?”と首を傾げて。勿論暖かさや丈夫ならカシミヤが一番なのだろうけれど高校生には手が出せないお値段なので、綿100パーセントならば暖かいある程度は丈夫だろうと。 )
……別に、無条件に誰にでも優しくできるわけじゃないけどな。
( ぽつりと小さな呟きが彼女の耳に届いたか否かは分からないが、少しばかり自分を過大評価しすぎているその言葉には眉を下げて。彼女の言う優しさが、特別な感情ありきのものだといつか気付いてくれる日がくるといいのだが。彼女が見繕ってくれたマフラーをその手で巻いてくれる動作に気付けば巻きやすいよう少し首を下げるのは無意識下の行動。自分自身あまり物に拘りが無い方とはいえ、ふわりと首に巻かれた綿のマフラーは確かに肌触りは心地良く、しっかり巻いてもごわつくような感じもなく肌にもストレスにならなさそうで。「───ん、これ気持ちいいな。………似合う?」に、と得意げに、しかし少しだけはにかんだ様子もちらつく笑みを彼女に向けながらこてりと首を傾げて。 )
、?
……あ、生徒には優しいーってこと?
( ぽつりと呟いた言葉にキョトン、と首を傾げては“教師故に自分の可愛い生徒には優しくできる”ということなのだとなんとも自然な勘違いをしては何故か眉を下げてしまった彼をのぞきこんでニコニコ笑って。だったら生徒として彼にかかわれてよかったかも!と役得だと言わんばかりにその表情は勘違いにも気が付かずに表情を緩めるみきが自分には特別甘いのだと気がつくのはまだまだ先の話なのだけれど。冬の男性の服装はふわふわ可愛いレディースの冬物とは違ってどこかスタイリッシュでキリッとした格好良さを何倍も際立たせる気がする。得意げながらちょっぴり恥ずかしそうにはにかむ彼にきゅん!とまたあまりに単純にときめいてしまっては「 っ…似合う…!すっごくすっごくかっこいい…! 」とキラキラとしたときめきを隠さない夕陽色の瞳で彼を見上げて。黒やブラウンではなく無地の濃紺にしたことにより重たすぎず軽すぎないマフラーがワンポイントになっておりこれならばどんな服装にもきっと合わせやすいだろうし、彼の整った顔立ちをさらに際立たせている気がする。こんなに格好よかったら色んな人が好きになっちゃう…とちょっぴり不安な気持ちが沸きあがるけれど、でも自分のプレゼントで好きな人が格好良く喜びにはどうしても変えがたく。 )
……っふ、
ま、そういう事。
( 覗き込んでくる夕陽色は少しズレた自信に満ちてニコニコとこちらに向けられており。だが確かにそのニュアンスも決して間違いではないため、可笑しそうに肩を震わせながらも笑いは何とか堪える事に成功。今はまだあからさまな特別扱いは出来なくても、いつか先の未来に『そういえばあの時──、』なんて昔話に花を咲かせて楽しめたら。彼女のようにお洒落なセンスなんて持ち合わせていないし、そもそもそういった事には無頓着なのでこうして信頼している相手に見繕ってもらえるのは正直とてもありがたくて。思いのほか力強く褒められたことに「お、おぉ……。ありがとな……。」と、問いを投げかけた自分の方が何だか押され気味に。きらきらと輝く彼女の瞳が、お世辞でも何でもなく真っ直ぐな意味で褒めてくれているとその口以上に語っている気がすれば尚更照れ臭くなってしまう。彼女の不安なんてもちろん気付くはずもなければ、仮に気付いたとしてもそもそもそんな心配は杞憂だと笑い飛ばすのだが。 )
─── …あ、でもこのニット素材の畦編みも可愛い、…うーん…でも可愛すぎるかな…。
司くん、今の巻いたやつとこのニットのやつどれが好き?
( 彼からの肯定の言葉にふふん!と自慢げに笑ってはどうやら彼の肯定に疑問を持つことなく“彼のことよくわかってる!”と勘違いは加速していき。いつかの未来、彼がこういう時に誤魔化していたことを知れば大袈裟なほどに驚いて白磁の頬を染めるのだろうけれど、それはもう少し先の話で。好きな人にプレゼントするものだから、選別は真剣に。綿100パーセントのマフラーはシンプルで素敵だったけれどふと目に入った畦編みのニット素材のマフラーも可愛いかも!と手に取ってみたけれどあんまり可愛すぎると彼も使いづらいのでは…?と首を捻れば、あんまり試着させすぎると疲れちゃうかもという気遣いから、彼の瞳とおんなじダークブラウンのニットマフラーを試しに自分首の巻いてみてはこてりと首を傾げて問いかけて。いくら自分がクリスマスプレゼントするとはいえ、やっぱり使ってもらう本人が気に入るものをプレゼントしたいので。 )
うーん…単純に見た目だけで言えばそっちの方が暖かそうだよなぁ…、
別に可愛いとかはあんまり気にしないっつーかよく分からないけど、御影がいいと思う方を選びたいかな俺は。
( ソファの時もそうだったが可愛すぎる、若しくは女性が選んだと分かってしまうもの、などという彼女の悩みには首を傾げて。そもそも彼女のセンスには全幅の信頼を置いているし、せっかくプレゼントをしてくれるというのならばやはり彼女が良いと思ってくれた物が嬉しいのも本音。自分の考えだけを言うならば、悲しいかな"畦編みの方が何だかもこもこしていて暖かそうだな"くらいの単純な感想しか出てこなくて。しかしそのマフラーはこっちの首に試着するのではなく彼女本人が巻いて見せてくれるその様子には、自分の瞳の色と同じ物を彼女が身につけているというちょっとした独占欲が満たされる感覚を覚えて。「……あー…でもそれ、お前の方が似合うかもな。」と、ぽつり。彼女が使うには少し落ち着きすぎる色味な気もするので手放しにオススメ!とは言えないのだが。 )
うーん…畦編み、可愛いけど1回引っ掛けたら終わりだからなぁ…。
…………司くんが巻いてる方にする!綿の方が見た目より暖かいし!
( それはまるでテストの時よりも真剣な顔。彼の言うとおり見た目の温かさは圧倒的に畦編みなのだけれど、意外と肌に刺激になるのと1度どこかに引っ掛けてしまったら一環の終わりというなんとも儚い習性があるためそこがどうしてもネックで。どうやら彼は最終選択肢を此方に託してくれるようで、みきはうんうんと悩み抜いた結果綿のシンプルなマフラーの方に決定してはパッと微笑んで。やっぱり使いやすさと見た目に反して畦編みのものよりもきっと暖かいであろう点、それから可愛い彼は自分だけが見られればいいやというなんとも勝手な独占欲が最終の決め手。無事に決まったのでいそいそと畦編みのマフラーを脱いでいる最中にふと隣から聞こえた彼の声に思わずきょとん、と瞳を丸くすればそのままふにゃりと微笑んで「 ほんと?好きな人の目の色と同じ色だからかも! 」とこちらを見つめる彼のダークブラウンを真っ直ぐに見つめながら恥ずかしげもなくさらりと答えて。好きな人の瞳の色だから自分に似合う、というのもおかしな話なのだけれど、でもきっとそのダークブラウンに映っている回数は他の人よりも多い自信はあるのできっと親和性がいいんだと少々無理やりながら自分の中で結びつけて。 )
ん、じゃあ決まりだな。
( 授業中やテストの際に滅多に見せてくれないとてつもなく真剣な顔にやれやれと呆れたように肩を竦めるも、その理由が自分へのプレゼントを選んでくれているということなのだから喜んでいいやらツッコミを入れた方がいいやら少しだけ複雑なのは内緒。しかしここまで悩み抜いてくれた結果、綻ぶような笑顔と共に決めてくれたマフラーが嬉しく無いはずもなく。応えるようにこちらも微笑んで試着していたマフラーをするりと首から外していれば、先ほどの呟きを拾った彼女から聞いているこちらが恥ずかしくなるような真っ直ぐな好意を向けられて。「っ、…またお前はそういう事を……。…でも個人的には、やっぱりお前にはもっと可愛らしい色が似合うとは思うんだけどな。」彼女の言葉はあまりにも直球で、それが若さゆえの行動力(言動力?)なのだろうかと小さく感心の混ざった溜息を零し。自分の色だから似合うだなんて小っ恥ずかしい台詞を口にするのが憚られる悲しい大人は、すでに彼女の首から離れた畦編みのマフラーが似合っているのは本音だったとしてもやはり彼女にはもっと華やかな色合いの物が似合うだろうと、そちらも本家ではあるが気恥ずかしさを誤魔化す意味合いも込めて言葉を返し。 )
はー…無事に決まってよかったぁ。
( ここ数日の悩みの種第一位(第二位は期末テスト)を漸く無事に片付けられたことに安堵したようにほっと息を吐けば、自身が巻いていた畦編みマフラーを丁寧に畳んでから元に戻し。彼が試着していた方はレジに持って言って在庫があれば新品を包んでもらうつもりなので、へにゃりと笑いながら彼が巻いていたマフラーをそっと受け取っては大切そうにそれを撫でて。学生があげられるものなんて本当に限られているし大人から見たらちゃちなものかもしれないけれど気持ちは誰よりも込めているつもり、みきは彼のダークブラウンと視線を絡めては“決まって安心した!”と柔らかく微笑んで。可愛らしい色が似合う、という彼の言葉にぱぁ!と瞳を輝かせては「 ね、司くん知ってた?何色が似合うーとかそういうのが浮かぶのってその人をよく見てる証拠なんだよ。 」と彼の耳元に唇を寄せて小さな声でこっそりと囁いて。赤と青どちらが似合う?といったような2択のうち似合う方を選ぶのではなく試していない色が似合うのではと言えるのは脳裏にその様子を簡単に浮かべることが出来るほどに当人をよく見ている証拠。自分が彼に似合う色味がたくさん浮かぶのと同じように彼もみきの似合う色がわかっていることがとっても嬉しくて、勝手にゆるゆると緩んでしまう頬はそのままに愛おしそうに瞳を細めては「 ─── えへ、なんちゃって。みきお会計してくるね!ちょっとまってて。 」とあっさりと彼から離れてはそのまま言い逃げのように会計の方へとぱたぱた歩いていき。 )
──、でもほんとにいいのか?
せっかくバイトで貯めた金なのに。
( いい大人が教え子にプレゼントを買ってもらうだなんて、本音を言えば居た堪れない気持ちはもちろんあって。ましてや今目の前でレジへと進もうとしているのを見れば尚更。彼女が稼いだお金なのだから使い方は彼女が決めるのが当たり前なのだが、自分なんかに使わせるのが何だか申し訳ない気持ちがほんのり湧き上がってきてしまう。ぽり、と頬を掻きながら心配そうな視線を彼女に投げかけて。何かを言うのだろうと耳元へ寄ってくる彼女に自然とこちらも体を傾ければ、その形の良い唇から紡がれたのはその内容を理解した瞬間に顔に熱が上がってくるのを感じてしまうような豆知識。彼女が自分のことをよく見ている(授業中に感じる視線等も含めて)ように、自分も彼女のことを考えていることが気付けば多くなっていることを指摘されたかのように思えて。目を丸くさせて何も返せないまま固まっていれば、悪戯を成功させた子供のように足早に去っていく彼女の背中を見送ることしかできず。「──………っ、…!…くそ、やられた…。」と漸く悔しげに一言呟いたのは少ししてから。 )
ふふ、いーの!
好きな人にこうやってクリスマスプレゼントあげるの夢だったから!
( 小学生の時も中学生の時も友人たちが頬を染めてキャッキャと楽しげに自分の想い人へプレゼントを選ぶ様子をただただ眺めることしか出来なかったし、去年は出会ったばかりでそういった物を渡すと迷惑だと思われるかもとお菓子を差し入れするのが精一杯だったのだけれど今年は違う。自分も彼女たちのように好きな人のためにあげるプレゼントに悩むなんて恋する乙女しかできない贅沢な悩みができてすごく楽しいのだ。みきはきらきらと心底楽しそうな笑顔を浮かべてはお金の問題じゃなくて気持ちの問題なの、と彼を見上げて。それに元々物欲がないおかげでバイト代は溜まる一方なのでそこまでお金は苦しくないし問題ないと。レジで包装を選ぶ際、クリスマスシーズンだからかプレゼントのラッピング袋やリボンには様々な柄があるようでどれも素敵で可愛らしいそれらはどれも選びきれないほど。だがしかし大人の男の人へのプレゼント包装をあんまり可愛くしすぎると持ちにくいかな…という考えからラッピング袋はシンプルなものなものにして、リボンは自分の瞳とおんなじ夕陽色のものを選択。ラッピングが終わったプレゼントを紙袋に入れてもらえれば無事に会計は終了しそのままぱたぱたと彼の方へと戻れば「 お待たせ司くん! 」とにここご機嫌に紙袋を背後に持ったままどうやら外に出てから渡すらしくその表情はすこぶる楽しそうで。 )
…、それなら良かった。
生徒の夢を叶えることに貢献できたなんて教師冥利に尽きるよ。
( 決してモテないわけではない(というかむしろ逆)彼女が今までこういったイベントに参加することが無かったことは今でも驚きなのだが、本人がそういうのであればこれ以上の言及は野暮だと眉を下げて笑い。しかし心の内では少しだけ、きっとこれまで彼女に好意を抱いてきたうえで恋に破れてきたのであろう男子たちに小さく謝罪を述べて。ともあれ、彼女本人がこんなに楽しそうにしてくれているのは自分としても喜ばしいことなので。彼女が戻ってくるまで、先ほどマフラー以外に気にしていた素振りを見せていたアクセサリー類を見て時間を潰して。小さな花や雪の結晶、星やハートなど様々なモチーフのネックレスやブレスレットがキラキラと輝くのを見ながら、これは御影に似合いそうだな、なんて物をいくつか頭で考えていれば背後から聞こえてきたご機嫌な声に振り向いて。「──ん、いや全然。…なあ御影、お前アクセサリーとか着けるっけ?」と、にこにこ顔の彼女に応えるように微笑みながら首を傾げて。 )
えへ。
いちばんの夢は司くんのお嫁さんだけどね!
( 夢を叶える、といえば間違いなくみきの口から出る“彼のお嫁さん”という単語。今回ももちろん例外ではなく彼にしか叶えられない自分の夢のいちばんといえば間違いなくそれなのだとにこにこふわふわ楽しそうに笑っては今回のようにそれは彼にしか叶えられないことなのでしっかりとそのアピールも忘れずに。とは言っても残念ながら教師としての彼から毎回却下されてしまうのでこれらは卒業してからさらにアピールしていく所存。どうやらアクセサリーを見ていた彼、分かるよアクセサリーってキラキラしてて見てるだけでも目が楽しいよね!と彼が見つめていたそれらがまさか自分に似合うだろうと見ていたものだとは微塵も思っていない顔で自分もアクセサリーの方へと目を向ければふと隣から降ってきた質問にキョトン、と瞳を丸くして。「 ?うん、お出掛けの時は着けてるよー。クラスの女の子とか先輩たちはネックレスとかピアスとか普段も着けてて可愛いよねぇ。 」そこまで厳しくない校則ど教師陣、華美なものでなければネックレスやピアス、ブレスレット等を付けていても(生活指導以外には)うるさくは言われないのでオシャレな女の子たちは小ぶりなモチーフのついたネックレスを首元から覗かせていたりなどとても目の保養。もっとも、自分を飾りつけることに無頓着なみきはなんにも着けずそのままの素材なのだけれど、やっぱり憧れはあるらしくアクセサリーの方から彼の方へ目線を移してはへにゃりと笑って。 )
……それは"教師"には難しいからノーコメントで。
( ああそういえばこいつはそうだったと呆れたように笑いながら、もうすでに聞くのも何度目かになる彼女の夢を再確認しては両手の人差し指を交差させて×印を。自分が教師で彼女が教え子でなければもう少し夢を持たせてやってもいいのかもしれないが、今はまだこれが精一杯。もちろん可愛い生徒の夢は叶えてやりたい気持ちは重々あるのだがこればっかりは未来の自分に任せざるを得ないので。ピアスに関しては前に少しだけ話をして聞いた事があるが、それ以外にも普段アクセサリーなんて着けているイメージの無い彼女にこんな物をプレゼントしてもいいものだろうかと悩み。「そうか………まあうちの校則緩いからな。本当はあんまり良くはないけど。」と、幸いアクセサリーは嫌だとかの感想は出なかったが普段着けないもの、ましてや先ほど彼女との会話で『身につける贈り物は重い』と出たばかり。お互いがそれに対してマイナスなイメージを持っていないことは分かったものの、そもそも付き合っていないどころかいち生徒の彼女にアクセサリーはどうなんだ…?と、こちらに向けられた笑顔にはぎこちない表情しか返せず、口元に手を当てながら目の前のアクセサリーと彼女とを交互に見ながら悩んで。 )
…………じゃあ、“司くん”には?
( 自分がいつもの言葉を言えば、彼もいつもと同じようにNOを返してくる。…と思いきや、本日はちょっぴりいつもとは違い“教師には”という枕詞がついていて。ちゃんとそれも耳ざとく拾ってしまったみきは、困らせるつもりは一切無くただただ純粋な疑問として真っ直ぐな夕陽で彼を見つめながら丸っこい声でぽつりと問いかけて。教師には難しい、ならば彼個人にとっては?いつもならばここら辺で困らせちゃう!と気付けるのだけれど、今日はいつもと違って私服だからかそこに気付くには至らずただただこてりと首を傾げて彼の返答を待って。突然の質問と、それから此方とアクセサリーを交互に見ては悩ましげな表情を浮かべる彼にどうしたんだろう…と不思議そうにこちらも首を傾げては「 プレゼントにネックレスってちょっぴり独占欲!って感じで素敵だよねぇ。だってその人のお顔見たらそのまま目に入ってくるし、ワンチャンとか猫ちゃんの首輪みたいに私はこの人のです!って言ってるみたい。あ!あのね、あきちゃんもこの間彼氏さんにね ─── 。 」と彼の心情は知らないままに、またアクセサリーたちの方へと視線を落としてはぺらぺらといつものようになんてことの無い雑談を話し始めて。ネックレスが首輪、だなんて表現は恐らく最近読んだ少女漫画か例の大人キラーな友人からの入れ知恵なのだろうけれど、店内照明に照らされてキラキラと光るネックレスたちを見つめながらみきはへらへらとなんにも知らない顔で話し続けて。 )
、それは───…
……その時にならないと分かりませーん。
( 彼女の瞳はどこまでも真っ直ぐで、その疑問は決して裏など無くただ純粋に口から零れたといっても過言ではないのだろう。そもそも自分すらも"教師には"難しいだなんて無意識に出た言葉に気付かされたのは彼女の指摘があってこそ。まるで自分自身は何も難しいなんて思っていないような無自覚の考えにどこか自嘲気味に笑いながら、彼女には思いっきり肩を竦めるオーバーリアクションで返して。この問いに答えることは簡単だが、残念ながら今このタイミングでは無いので。こちらの行動を不思議に思いつつも肝心なところはまったく意に介していないのか、いつも通りの口調と笑顔で友人の恋愛話を嬉々として語る彼女はやはり鈍感と言わざるを得なくて。そんな彼女の話を聞いて楽しそうに笑いながらも「……独占欲……首輪……ふーん、」とポツリと呟いて。キラキラと並ぶネックレスをもう一度ちらりと見ては、「──悪い御影、俺ちょっとトイレ寄ってくるから待ってて。」と(少しばかり不自然な気はするが)一旦その場を離れて。 )
な、何それー!
その時っていつ?ね、ね、いつー!?
( わくわく、そわそわ。いつもとは違った彼の言葉、その後に続くのは何になるんだろうと幾度となく重ねてきた会話とはまた違う道に進んだ今日の彼の返答をキラキラした目で待っていれば返ってきたのはオーバーに肩をすくめる彼と未来に期待を投げた回答。結局またどうせ卒業したら、だ!と不満そうに頬をふくらませてはくいくいと彼の服の袖を引っ張りながら先程のちょっぴり甘い雰囲気はどこへやらあっという間にいつもの何度も間の抜けた空気に早変わりして。お預けがあまりに多い!とみきは不満そうなのだけれど、その実お預けを多く食らっているのは実は彼の方だと気付くのはまだ少し先の話。無事に“親友が彼氏にネックレスをプレゼントされたけれど貰って三分で壊した話”をし終わったと思えば、どこか楽しそうな笑みを浮かべた後にお手洗いへと行ってしまった彼にきょとん…と瞳を丸くして「 ?うん、いってらっしゃい。 」と大人しく待つ他なく。それならアクセサリー見てよっと、とネックレスコーナーから指輪コーナー…は欲しくなってしまうので通り過ぎてヘアアクセサリーのコーナーでひとり楽しくアクセサリーを眺めて彼の帰りを待っており。 )
あーうっさいうっさい、
分かんないっつったら分かんないんだよ。
( 袖を引っ張られてもされるがままに、顔は明後日の方向を向いてただただ彼女の不満を受け流すだけ。彼女の抱いている期待を未来に投げることで結果的に彼女が自分から離れていかないようにしているのは少しばかり狡い気がしなくもない。大人や教師としてはハッキリとNOの意思をもって突っぱねるのが正解なのは頭では分かっているのだが、2年弱も真っ直ぐすぎる好意を向けられ続けてしまえば絆されるのも致し方ないだろうと誰に向けるわけでもない言い訳が頭の中でぐるぐるとまわって。彼女のことだから自分ばかりお預けをくらってる!なんて思ってそうだが、何の遠慮もいらなくなったときにまだ隣にいてくれるならその時は是非とも覚悟をしておいてもらいたいもので。彼女の友人の話がまさかの破壊エンドで終わったことには驚きながらも(その彼氏さんには笑いが)面白くてつい笑ってしまい。そしてそのままその場を離れて暫く、「───お待たせ。」と手ぶらで戻ってくればヘアアクセを眺めている彼女の後ろから陳列されたそれを覗き、「お前好きだよなこういうの。よく制服にも変なピンつけてるし。」と、学校での彼女の胸ポケットにはよく色々なヘアピンが刺さっていることを思い出せば笑みを零して。 )
司くんのいじわるー。
( 一向に合わない視線はあしらわれているとよく分かるのだけれど、彼のそんな横顔ですらみきはきゅん。とときめいてしまうのでもうどうしようもなくて。意地悪、と頬を膨らませつつも本気で拗ねている訳では無いのでその声色は実にあっけらかんとした軽い口調なのだけれど、いざそんな彼が自分に構ってくれたらそれはそれであわあわとあっという間にキャパオーバーしてしまうのだから恋する乙女はなんとも難儀なもの。自分がいつもつけているおもしろヘアピンに比べれば随分とおしゃれなヘアピンたちはどれも素敵で輝いて見える。何かひとつせっかくだし買っちゃおうかな…と悩ましげにそれを見下ろしていれば、いつの間にか帰ってきていた彼におかえりー、と笑顔を向けながら同じくまた視線をヘアピンたちに戻して。「 変じゃないもん、可愛いもーん。ちゃんと季節を考えたりして付けてるんだから! 」と唇を尖らせながら遺憾の意を表明して。ちなみに最近の流行りはおにぎりのヘアピンで、せっかくクリスマスが近付いてきたのでそろそろサンタクロースのヘアピンにしようかなぁと悩んでいる最中らしい。 )
え、お前のあれってコンセプトあったんだ?
あんまり見ないような変わったもんばっかり付けてるなーとは思ってたけど。
( 頬を膨らませる彼女もその口から紡がれた言葉も、決して本気で不満を露わにしているわけではないのが分かるのはどこか楽しげにも聞こえる声色のおかげだろう。だからこそ自分もこうして軽く流すことができるし、「言ってろ。」なんて小憎らしく舌を出すことも出来てしまうわけで。ただ単に可愛い!面白い!で付けられていたわけでは無いと初めて知ったことにきょとんと目を丸くさせてはくすくすと可笑しそうに笑い。季節を考えているにしては少しばかり食べ物系を見る頻度が高い気がしなくもないのだが、それを指摘するときっと『食いしん坊だと思ってる!?』なんて怒られそうなのでそこは黙っておこう。キラキラと瞳を輝かせて悩ましげにヘアピンを眺める彼女に「……どれか気に入ったやつがあんの?買ってやろうか。」と声を掛け、その目線の先にあるヘアピンを探そうと。 )
あるよーう!
冬はね、牡蠣とかミカンとかサンタさんとかにしてるの!それで、春になったら桜とかお団子とかランドセルになる!
( どうやら己のこだわりは彼には伝わっていなかったらしい。みきはふふん!と自慢げに胸を張っては季節ごと変わるヘアピンたち ─── 日替わりの時もある ─── の細やかな分類について語り始めて。ちなみにおにぎりはいつだって食べても美味しいので春夏秋冬関係なく付けているお気に入りである。稀になんのコンセプトもない星だったり可愛らしいヘアピンを付けることはあるけれど、やっぱりクラスメイトたちと会話のきっかけになるのは何かしらのコンセプトのあるものたちばかりなので結果的にそれらの割合が多く。どうしようかなぁ、買おうかなぁ、とヘアピンを眺めていてはふと背後から掛けられたなんとも魅力的な声掛けにきょとん、と瞳を丸くしたけれどすぐにふるふると首を振って「 んーん、だいじょぶ!……ふふ、司くんったら親戚のお兄さんみたい。 」と、以前店長が言っていた通りやはり自分から欲しいものを強請ったりはせず断った後に彼のセリフがなにだかとても親戚めいていて思わずくすくすと笑ってしまい。たまにあう親戚のお兄さんって何かしらすぐ買おうとしてくれるよなぁ、なんて一足先にお正月の気分になってはヘアピンから彼へと視線を移してヘラリと笑い。 )
へえ、ちゃんと拘りが………え、牡蠣?ミカンとかサンタはまだ分かる気がするけど牡蠣??
( 自慢げに自分のヘアピンコレクションを語る彼女の話を聞いていれば、可愛いとか面白いの枠の中でもきっと異質な方であるモチーフにはどうにもツッコミを入れざるを得なくて。とはいえそこまできちんとコンセプトがあったと知れば、次から制服の胸ポケットでその存在感を主張するヘアピンを楽しみにしそうな自分がいる気がする。暑すぎるやら寒すぎるやらでしかほぼ季節を感じようとしていないインドアな自分にとって、準備室にやってくる彼女のヘアピンはある意味で季節の移り変わりを楽しめる重要な指標になるのではと薄く笑みを浮かべて。こんなにも瞳を輝かせてヘアピンを眺めている彼女が可愛くてついぽろりと出た言葉だったのだが、やはり彼女はこういった場合に遠慮する癖がついてしまっているらしい。「何だそれ。……──じゃあ俺が選ぶ。」と、親戚のお兄さん扱いには苦笑が零れたもののその後は彼女に何かを言わせる隙もなく、様々な装飾のヘアピンの中から冬らしいものとして小さな雪の結晶がモチーフの物を選んでは再びその場を離れ。きっときょとんとしているであろう彼女を置き去りにレジへと赴けば、ラッピングはそこそこにすぐさま足早に戻ってきた後「残念ながら俺はお前の親戚のお兄さんじゃないからお年玉は渡せないんだけど、その代わり。」と、シンプルな小袋に入ったヘアピンを差し出して。 )
うん、牡蠣!
─── あ、ほらこれ。可愛いでしょ!
( 彼の言葉にこくん、と何も不思議でないような顔で頷けばすらすらと自分のスマホを弄っては友人との自撮り(2人でお互いの頬をむにゅ、と摘んでタコさん口になっている画像)を表示しその中にちらりと写っているやけにリアル寄りな牡蠣のヘアピンを指さして。雑貨屋さんで見つけた時にコレだ!と衝撃を受けて買った冬が旬の牡蠣は友人たちからもなかなか好評なのでみきのお気に入りのヘアピンのひとつらしくその表情はふふん、と自慢げで。案の定親戚のお兄さんという表現に苦笑いを浮かべる彼にこちらもくすくすと楽しそうに笑っていたのも束の間、続けられた彼の言葉に何かを言う隙も理解する隙もないあっという間に彼は雪の結晶がモチーフのヘアピンを選べばそのままレジへ颯爽と歩いていってしまい。今何が起こったのか全く分からないまま満月のようにまん丸にした夕陽色の瞳をただ瞬きさせることしかできないみきは、レジを早々に済ませた彼からシンプルな小袋に入れられたヘアピンを差し出されたことで漸く理解をしたのかパッと頬を赤く染めながら「 わ、いいの…!?じゃ、なくて!ご、ごめんねみきそんなつもりで見てた訳じゃ…! 」と気を遣わせちゃった!とあわあわ慌てながら首を横に振って遠慮をしてしまいなかなかそれを受け取ることは出来ずに。本音を言えば凄く凄く嬉しいし飛び跳ねてしまうほどに心は浮き足立っているのだけれど、それ以上にやっぱりお昼ご飯も食べさせてもらった上にプレゼントまで!と言ったことで実に長女らしく遠慮してしまっているようで。 )
……ん、…んー?
…か、かわいい…のか?これ……。女子高生の感性難しすぎんだろ…。
( 彼女に見せられたスマホの画面の中には楽しそうな女子が2人、そしてその姿はとても可愛らしいのだが。件のヘアピンは想像以上にリアルさを追求された牡蠣。可愛くデフォルメされたものとかキャラになった物ではなくまさにリアル牡蠣。何度考えても可愛いという感想よりも、やけに生々しいだとかちょっと美味そうだとかの感想が出てきてしまう辺りは性差なのか年齢差なのかと首を傾げて。牡蠣のヘアピンの話が先に出ずに『これ見て!』と見せられていたならば、口が突き出た彼女を見て素直に『可愛いな。』と口に出せてはいたのだろうが。基本的に生きることに省エネな自分がこんなにも機敏に動けたことに自分自身驚きなのだが、それ以上に目を丸くさせる彼女はよほどびっくりしたのだろう。しかし長女ゆえなのか遠慮が体に染み付いてしまっている彼女は差し出してもなかなか受け取ろうとしてくれなくて。「──これは御影が強請ったんじゃなくて、俺が御影に似合うだろうなって思って勝手に買っただけだよ。……いらないならいいけど。」決して気を遣ったわけではなく、ただ単に自分が選んで買っただけだとはっきり主張を。もちろんそんなのは建前でしかないのだが、そうでもしないと目の前の相手は受け取る手を出してこないだろう。一拍置いてから、夕陽色の瞳を覗き込むように小首を傾げながらダメ押しの一言を付け加えて。 )
えー、可愛いし美味しそうなのに…。
( なんとも絶妙な表情で首を傾げる彼に対しもう一度己で画像を見てもやっぱりヘアピンは可愛いので、みきは不思議そうにぱちぱちと瞬きを繰り返しては彼に倣うように同じ方向に首を傾げて。でもやっぱり以前☆先生にも見せた時満面の笑顔で『美味しそうだね!』と言っていたしもしかしたら大人の男の人的には可愛くないのかなぁ、と今どきの女子高生は不満そうに唇を尖らせて。きっとこちらが遠慮してしまわない為に言ってくれているのであろう彼の言葉と自分を見つめる優しいダークブラウンに痛いほどに心臓がときめき遠慮ばかりしようとしていた心がホロホロと溶けていけば、彼が差し出してくれた小袋をそろそろとゆっくり受け取ったあとにそのまま大切そうにぎゅ。と胸元で抱き締めて「 ……ふふ、えへへ。ありがとう、司くん。大切にするね。 」と嬉しそうにふにゃふにゃ柔らかく笑って。今日彼と共にこうして出かけられただけでも最高のプレゼントなのに、更にこうして“彼がみきのために選んでくれた”プレゼントを貰えるなんて。幸せすぎて死んじゃいそう、だなんてぽやぽや暖かな気持ちで彼のダークブラウンと自身の夕陽を絡めてはにこ!と嬉しそうに微笑んで。 )
お前らの中で美味しそうと可愛いってイコールなの…?
( 普段自分のことをやれおっさんだ三十路だと揶揄していても本音を言うとまだまだ若いとは思っていた…のだが、こうも今時の子と感性が違ってくるとやはり少しだけジェネレーションギャップなるものを感じてしまうのも悲しい現実で。ただそれをマイナスな方に捉えているわけでは無く、むしろ生徒に対する理解が深まると考えているのはもちろんだが彼女の好みや趣味嗜好が分かるのも個人的にとても楽しいのも本音ではあって。漸く受け取ってくれた彼女が柔らかく温かい笑みを浮かべてくれたことにこちらも安堵すれば、「ん。まあ牡蠣よりは面白くないけど、可愛いとは思うからそれ。」とにやりとした笑みを浮かべ。しかし用事が済んでしまえば、いつまでもこうして店内にいるわけにもいかない。暖かい室内が少しだけ名残惜しいが「じゃあ買う物買ったしそろそろ行くか。…他に見たい物が無ければだけど。」と声を掛ければ出口の方をちらりと見て。 )
うーん……でも確かに言わてみればそうかも…?
オムライスとかも美味しいしまんまるで可愛いよね!
司くんはどういうのがかわいい?
( 彼の言葉にふむ。と両腕を組んで改めて考えてみると確かに美味しいものは可愛いものが多い気がする…と静かに頷いて。だがしかし○○だから可愛い!と言うよりも女子高生の言う可愛いはほぼそういう鳴き声のようなものなので特に理由等がない場合が殆どなのだけれど。こうしたジェネレーションギャップ…というよりも男女の差が判明すればするほど彼の事をまたひとつ知れたし自分のことを知って貰えたなとみきはなんだか嬉しくて、無意識ににこにこと緩んでしまう頬をそのままに彼の思う可愛いは一体どんなものかと無邪気に問いかけて。受け取った小さな小袋の中にあるのは、可愛らしい雪の結晶がモチーフのヘアピン。彼がこれを“みきに似合う”と思って選んでくれたのがとても嬉しくて、彼の言葉にこくん!と深く頷けば「 すっごく可愛い!毎日付ける!……あ、でも自慢みたいになっちゃうから内側の方につけるね! 」と彼から貰ったヘアピンは無事にレギュラーメンバー入り。胸ポケットだと色んな人から見えてしまうので、自分だけが見える制服の内ポケットに付けるんだと楽しそうに零して。無事にプレゼントも買い終わり、きっとこれからまた店内は混んでくるのだろうと彼の言葉にはーい!と元気に返事を返せば店員さんに軽く頭を下げながら店を出て。暖かな店内から一転外の空気はいくら午後過ぎとはいえ冷たく、少し歩いて人通りの少ない広場のベンチあたりまで来てはくるりと振り返って彼に先程買ったばかりの紙袋を差し出し。「 はい、司くん!メリークリスマス! 」とにこにこ笑顔で差し出したそれは、本当は帰り際に渡そうと思ったのだけれどもし彼が今寒かったらすぐに使えるようにとみきなりの気遣い。寒いのが苦手なのにこうして自分のご褒美に付き合ってくれた彼のお礼でもあるので、遠慮せず受け取って欲しいときらきらした夕陽で彼を見上げて。 )
お、オムライスも…?……やっぱり俺には難しい感性だな…。
可愛いもの?……んー………、…何でもいいなら、今日の御影の服とか。
( 見た目に全振りしたような食べ物ならまだしも、本日食べたオムライスだって美味しそうではあるが可愛いとは思わなかったなとやはり首を捻り。女子の言う"可愛い"に言葉通りの意味が込められているのかどうかなんて下手なテストよりも難しいのではないだろうか。彼女からの問いかけにうーんと口元に手を当てて考えること暫く。自分が可愛いと思うもの、思ったものを頭に浮かべようとしても、笑っている御影に頬を膨らませて拗ねる御影。真っ赤な顔で慌てる御影…と、何だか気付けば彼女の百面相しか浮かばなくて。さらには今目の前でにこにこと微笑む彼女にすべてを持っていかれているのが現状で、自分の思う"可愛い"を答えるならばどうしても御影みき関連になってしまう。…とはいえ『御影。』と彼女本人を指すのは当の本人を目の前にして何だか恥ずかしい気がしなくもないので少しだけ誤魔化しも(と言ってもそちらも本音だが)混ぜてみたりして。楽しそうにヘアピンの処遇を語る様子に「自慢って誰にだよ。気に入ってもらえたなら良かったけどさ。」と釣られるように笑みを浮かべて。しかし冬のモチーフの物をひとつ贈ったとなれば、残りの春夏秋も何かしら探してみたくなったりもしたのだがそれはまた別の話。───外はやはり冷たくて、キリッとした澄んだ空気がまさに冬といった感じ。店内との寒暖差にぶるりと身震いをひとつした後、彼女に続いて少し歩いた先で渡されたクリスマスプレゼント。中身はもちろん知っているので、ぺこりと頭を下げて受け取れば「ご丁寧にどーも。……早速だけど開けて使ってもいいか?」と開封の許可を伺って。せっかく綺麗にラッピングしてくれた物をこんなにすぐに開けるというのはどうかとは思うのだが、中身がマフラーだと分かっているからこそ今すぐにでも着けたくて。 )
、!!!
─── ……ふ、服、だけ…?
( 男の人って何が可愛いと思うんだろう、猫ちゃんとかかな。それとも何か別のもの?何にしても彼が可愛いと思うものを知れる大チャンスにみきはわくわくそわそわと輝く夕陽を彼に向けていたものの、彼から返ってきたのはなんとも予想外の答え。先程まで楽しそうににこにこしていた表情から一転、瞳をまん丸にして頬を真っ赤に染める驚きの表情に変われば少しの沈黙のあとにどこかそわそわと不安そうに眉を下げながら小さく問いかけたのは服以外は彼の“可愛い”に該当しないのかという乙女の小さなやきもち。もちろん彼に可愛いと思われたくて服を選んできたので可愛いと思って貰えているならすごく嬉しいし計画通りなのだけれど、いちばんはやっぱり自分自身を可愛いと思っていて欲しいだなんて思ってしまうのもまた事実で。ぺこりと律儀に頭を下げてくれる彼にくすくすとおかしそうに笑ってしまえば、想像通りの彼の言葉に「 もちろん!マフラー巻く前に風邪ひいたら困っちゃうもん。 」と当然のように頷いて。自分がプレゼントしたマフラーを巻いた彼をいちばんに見られるだなんて贅沢、他の女の子たちは味わえないんだろうなぁと思えばゆるゆると頬が勝手に緩んでしまい。 )
っ、…………欲張り。
( 予想通り赤く染まった顔に可笑しそうに笑いを零していれば、続く言葉は少し予想からは外れたもの。てっきりいつものように口をぱくぱくさせる真っ赤な金魚になるのかと思いきや、それ以上を強請るような言葉と表情にどくんと胸が鳴ってしまう。彼女自身を可愛いと思っているなんてもはや日常的に当たり前。しかしこういう時に女性はきちんと言葉として欲しいらしいというのは分かってはいるが、どうしてもちょっとした悪戯心が出てきてしまうのは相手が彼女だからだろう。好きな子ほどいじめたくなるというのはどの年代にも共通なのかもしれないと、声色にはちゃんとした答えを気持ちとして乗せはしたものの意地悪く口角を上げてはわざと彼女の求めている言葉を使わずに。無事に開封の許可が貰えればどこかホッとしたように、そしていそいそとラッピングの袋を開けては買いたてほやほやの濃紺のマフラーを取り出し自身の首に巻き付けて。首元がこうして防寒されるだけで体感がまったく変わってくると、ほっこりとした暖かさに顔を緩ませながらラッピングの袋は丁寧に折り畳んでとりあえずマグカップが入っている紙袋の中にイン。「はー………あったけー……。…ありがとな御影、おかげで冬越せそう。」と、マフラー1本でここまで心強くなれたことに素直に感謝を述べて。 )
だ、だって…
……司くんに可愛いって思ってもらえなきゃ、意味ないもん。
( 自分が今できる、精一杯の我儘でありおねだり。好きな人に可愛いと言って欲しい、だなんてある意味いつも言う“だいすき” よりもよほどハードルが高い気すらしてしまう。いつもの意地悪な笑顔と、それから欲しかった“可愛い”では無い言葉。けれどその言葉の雰囲気から彼がどう思ってくれているかなんて彼限定のエスパーには足し算よりも簡単。みきは頬を真っ赤に染めたままきゅ…と眉を下げては恥ずかしそうに視線を逸らしながら小さな声で素直な気持ちをぽそぽそと呟いて。もちろん他の人に褒めてもらえるのもとっても嬉しいけれど、やっぱり大好きな彼にそう思われていなければなんにも意味がなくなってしまう。そのために今日だって前日から準備やらスキンケアやらを頑張ったのだから。たったマフラーひとつ、されどマフラーひとつでこんなにも喜んだ表情が見れるのならばプレゼントしがいがあるというもの。その様子に安心したようにふわりと微笑んでは「 ふふ、良かったあ。やっぱりすっごく似合ってる! 」と愛おしそうにその夕陽に彼をまっすぐ映して。 )
そんなの…、思ってないわけ無いだろ。
──いつも可愛いとは思ってるけど今日はなおさら。
それだけ気合い入った格好してんのはたぶん今日出かけるの楽しみにしてくれてたんだろうなーとか思うと可愛くて仕方ねーよ。
( 彼女の貴重な我儘はだいたいこういうおねだりが多く、普段は遠慮がちだということを知っているからこそ叶えられるものならなるべく叶えてやりたいという気持ちが強くあって。更にはいつものように恥ずかしげも無く気持ちをストレートに伝えてくるのとは違い、どこか不安そうにも見える表情で小さく言葉を漏らす今の彼女は庇護欲を刺激してくる。その様子に口が動いてしまえばあとは堰を切ったようにすらすらと、止まらない言葉に小さく溜息を吐きつつも真っ直ぐ彼女の夕陽色を見据えては思っていることを伝えて。マフラーひとつで心まで温かくなるのはきっと彼女が自分のことを考えながら真剣に選んでくれたのを目の前で見ているから。その暖かさに絆されるようにふにゃりと柔らかく微笑めば「大事に使うよ。つーか冬は毎日着けるなこれ、まじで暖かい。」と、マフラーに顔を埋めるようにその肌触りと暖かさを堪能して。 )
─── …ふふ、えへへ。
そう。司くんとデートできるのが楽しみで、可愛いなって思ってもらいたくて、今日いっぱい可愛くしてきたの。
( 真っ直ぐ彼のダークブラウンが此方を見つめてくれて、そんな彼の瞳の中の自分は真っ赤な顔で大きく目を真ん丸にしてるちょっぴり間抜けな表情で。彼の言葉がじんわりと胸の中に広がってはゆっくり優しく溶けていき、それと同じようにみきの表情も薄紅色はそのままだけれどゆるゆると溶けていくように綻んでは最後は幸せそうなふわふわした笑顔が完成。自分がこうして今日のデートを楽しみにしていたのも、可愛くしてきたのもぜんぶぜんぶ彼は分かってくれていて、みきはそれがとても嬉しくて愛おしくて優しく蕩けた夕陽色で彼を見つめてはぎゅっと抱きつく代わりに彼の袖を指先で掴んでにこにこ微笑み。マフラーに顔を埋めるようにする彼は何だか少し幼く見えてとっても可愛くて、みきはまたきゅん!とひとつ胸を高鳴らせては「 ほんとう?マフラーつけてくれてるの見たらみきもぽかぽかになるから2人であったかいね。 」となんの恥ずかしげもなく“自分があげたマフラーを使ってくれてるのを見ると胸が暖かくなります”と真っ直ぐに返してはこれで無事にこの冬は2人とも越せそうだと満足気に笑って。 )
知ってる。
だから会った時から思ってたよ、可愛いって。
そのふわふわした服も髪も、オムライス食べてた時もずっと。
( 言葉とは不思議なもので、一度口にしてしまえばもう何の引っかかりも無く次から次へと溢れてしまう。今日一日中隣にいたのはとにかく可愛くおめかしをしてくれた彼女で、口にこそしていなくても最初からずっとそう思っていたことを改めて告げれば朗らかに笑う彼女に釣られるように優しく微笑んで。あくまで名目上は買い物に付き合わせたことになっているが、彼女がデートだと言うのならば別にそれを否定するほど野暮ではないし自分も少しだけそう思って楽しんでいた節もあったりなかったり。もちろん口には出せないが。マフラーを着けている自分よりも何故だか贈った側である彼女の方が満足そうに、暖かくなるなんて笑っているのを見ればこちらも可笑しそうに笑い。「はは、お前はほんっと恥ずかしげもなくそういう事を言うよなぁ…。でもこれで冬の寒い準備室でも何とか大丈夫そうだな、このマフラーと子ども体温の御影が来てくれれば。」とにやり。いつだかに話した彼女との会話の一幕ではあるが、夏の暑さと冬の寒さは自分の生命に関わる(大袈裟)ことなので、それを乗り越えるのに必要なことは決して忘れていないぞと友人のカイロ役を担っているらしい彼女に期待を寄せて。 )
っ、……
…あ、あの、…も、いっぱい伝わった、…から。ありがと、…。
( 普段なら“ハイハイ可愛い可愛い”と流されてしまうところを真っ直ぐに褒めて貰えただけでも嬉しいのに、次から次へと紡がれる彼の言葉にみきの表情はふわふわした幸せそうな笑顔からだんだんとオーバーヒートしているようにぷるぷると羞恥の限界を迎えていき。じわりと潤んだ瞳は優しく此方に微笑む彼から不思議とそらすことが出来なくて、甘々を強請っておきながらいざ彼からそれを供給されてしまうとあっという間にキャパオーバーになってしまうのもいつもの事だけれど、みきはくい。と指先で掴んだ彼の袖をもう一度軽く引っ張っては弱々しくストップを希望して。嬉しいなぁ、毎日着けてくれるんだなぁ、なんて勝手に緩んでしまう頬はそのままに、彼がおかしそうに笑う顔すらみきにとっては嬉しくなってしまう理由のひとつ。だがしかしそんな彼から零れた言葉にぱち。と大きな夕陽と口を真ん丸にしては一気に顔に熱が昇ってくる感覚を無視してそのままこくこくと頷いて「 み、みきもいつでもあっためる! 」と女の子たち限定のみきカイロは彼だったらいつでも使い放題だと言わんばかりに─── 決して今とは言われていないのだけれど ─── 彼の方へと両手を広げていつでもウェルカムな体制を。 )
……もういいの?
言ってほしかったんだろ?
( 自分でも驚くほど今日は彼女に甘くなってしまっている気がするが、このクリスマスの雰囲気が漂う街にいつもと違う装いで紛れてしまえば周りからは教師と生徒になんて見えないだろうという余裕があるからかもしれない。嬉しい、幸せ、と顔にそのまんま出ているような笑顔から段々と恥ずかしさが勝ってきてしまったのだろう彼女の様子に可笑しそうに笑いながら、引っ張られた袖に誘われるように彼女の潤んだ夕陽色を覗き込む形で顔を近付けて。思ったことがそのまま顔や行動に出てしまいがちな彼女の体は、やはり今回も素直に動いてしまったようで。両手を広げられてもさすがに人目のある外で抱き締められには行けなくて、広がった腕に手を添えては「はいはい、それはまた今度お願いするから。」とくすくす笑いながらその手を下げさせようと。 )
いっ、…言って欲しかったけど…。
あんまり言われたら、心臓ぎゅってなっちゃうから……。
( ストップの意で軽く引っ張った彼の服の裾は逆に彼を誘うようにしてその意地悪なダークブラウンがいつもよりもずうっと近い距離に近付かれてしまい、けれど恋する乙女が好きな人に近付かれて嫌がるはずもなくみきは羞恥で潤んだ瞳で彼を見つめてはふるふると首を振ってギブアップを宣言。男からしたらそれが誘っているように見えるだなんて恋愛経験の浅いみきに分かるはずもなく、こうなってしまった原因である彼に助けを求めるようにただただこてりと首を傾げて蕩けた夕陽に彼を映すことしかできず。自信満々に広げた両手は残念ながら今ではなかったようで、くすくす笑う彼に優しく手を下ろされつつも彼の“今度”という単語には耳ざとくきらきらと瞳を輝かせて反応を表して。「 今度!?今度っていつ?今週!? 」と、“彼を温めるため”とは言えど体勢で言えばハグなのでみきがしてほしかったやつ!と言わんばかりに彼に顔を近付けては彼の言う今度を詳しく聞こうと嬉しそうに問いかけて。最も、何かの間違いで『じゃあこの日』と言われてしまったら言われてしまったでどきどきして当日はそれどころではなくなってしまいそうなのだけれど。 )
塩梅が難しいな、
もっと心臓鍛えといてくれ。
( ほんのりと赤く染まる頬に潤んだ瞳。恋愛に長けた者であればきっと計算されてそういった仕草を取れるのだろうが、彼女の場合は決して狙ったものでなく天然なので無自覚に周りの男を恋に落としてしまうのはある意味では尚更タチが悪いともいえるだろう。例に漏れず自分もそんな小悪魔に誘われるがまま──、というわけにはさすがにいかないので。甘く蕩けた夕陽色から逃れるように、そしてそんな気持ちを誤魔化すように冗談を零しながら近すぎた距離を再び広げて。会話の中のほんの一言を的確に拾う彼女の勢いは凄まじく、こういう時ばかりはぐいぐいと距離を詰めてくるのも困りものだ。「残念だけど今週はもう期末テストの週間に入るから準備室はまた立ち入り禁止だよ。冬休みに補習したけりゃ別だけどな。」と、彼女には酷だがクリスマスが近いという事はそういう現実もセットでくるものだと苦笑に近い笑みを浮かべながら告げて。もっとも夏休みと違って冬休みに補習なんてそもそも無いのだが。 )
う゛…。
鍛えても司くんが想像超えてくるくらいかっこいいのがいけない…。
( 迫られるといっぱいいっぱいになってしまうのに、いざ彼に引かれてしまうと後を追いたくなってしまう。乙女心とはなんとも複雑なもので、広げられた距離に“やだ”というようにみきの手は無意識に袖を掴む指先に少しだけ力が入って。けれどやっぱり言葉と表情はよわよわと彼には叶わないことをなんとも分かりやすく表現しており、一応は頑張ろう我慢しようという努力はしているのだけれど彼の前ではそんな努力は一気に水の泡と消えてしまうのだと本人も困ったように眉を下げて。だって本当は彼がくれる甘い幸せをぜんぶぜんぶ余すことなく享受したいのに、今は自らでそれをストップさせてしまっているのだからみき自身も困っているのだ。彼の言葉になんとタイミングの悪いテストだ…と不満げに唇をとがらせたものの、やっぱり乙女の器用な耳は好きな人の言葉を余すことなく拾うため「 、……冬休み補習する! 」と先程の拗ねた表情から一転、きらきらとした瞳で冬休みの補習に参加したいと他の生徒では考えられないような補習への積極参加姿勢を見せて。だってそうしたら冬休みにも彼に会えるってことだし、テストはすっっっっごく嫌だけどそういったイベントが発生するのなら悪くない!とみきの瞳は嬉しそうにきらきらと輝いて。 )
何言ってんだお前は…、
褒めても何も出ねーぞ。
( ニュアンスとしてはこちらが悪いというものだが、言葉としてはただの褒め言葉。どこか照れ臭そうな、しかし呆れたように溜息を吐きながらちぐはぐな彼女の台詞に肩を竦めて。しかし袖先を掴む手に少しだけ力が込められたことに気が付けば、薄く微笑みながら掴まれていない方の手で彼女の頭を優しくひと撫で。今はまだ彼女にストップを掛けられればそれに従う形にはしているが、それを拒否した場合にいったいこの夕陽色はどれほどまで蕩けてしまうのだろうという好奇心が心の奥にあったりするのだがそれはまだ表には出さずに。いつかの未来、彼女に少しだけ耐性がついたところで享受しきれないほどとろっとろに甘い時間を共有出来るかどうかは神のみぞ知るところ。今回のデート…もといお出かけだって彼女がテストで目標点数に達したゆえのご褒美であるにも関わらず、今度は積極的に補習への参加欲を露わにする彼女に目を丸くして。それ即ち"期末テストで赤点取ります"という宣言といっても過言では無いので。間違った方向にやる気を見せる様にやれやれと頭を抱えては「……補習に積極的なのはいいけど、冬休み中にそれで学校来るのたぶんお前1人だぞ。先生も生徒も含めたうえで。…つーか俺は絶対行かないからな、貴重な冬休みにわざわざ暖かい家を出てたまるか。」と、夏休みに比べて随分と短い冬休みはそもそも補習は無いと乾いた笑いを零し。その後には子供のようにイヤイヤと首を横に振りながら、まるで生命の危機に関わるかのように真剣な眼差しで家から一歩も出たくないと何とも不健康なアピールを。 )
だってホントのことだもん…。
( 呆れたような言葉とは裏腹に頭を撫でてくれる手や彼の表情はどこまでも優しくて。みきのちょっぴり困っていたような表情にはふんわりと撫でられて嬉しい!の色が滲んではちらりと彼を見たあとに少しだけ気恥しそうに視線を逸らして。褒めても何も出なくてもいいけれど、もうちょっとだけ手加減をしてくれないといつまで経っても心臓が落ち着かなくなってしまうからそれはなんとかしてもらおう…なんて恋愛初心者な恋する乙女はこっそりと1人胸の中で決意し。もしかして特別に2人だけの補習を…!?だなんて少女漫画よろしくな展開を期待してどきどきそわそわしたのも束の間、残念ながら現実はそう甘いものではないようで彼のきっぱりとした拒否にあんぐりと口を開けて。「 い、今完全に2人で補習の流れだったのに……!?せんせーが居ないなら意味ないじゃん…! 」と一瞬期待した自分がバカみたいだと不満げに唇を尖らせて。もっとも、彼の行きたくない理由については残念ながらまぁ彼はそうだろうな……と納得してしまったのだけれど。 )
お前は補習を何だと思ってんだ…。
───あーあ、そんなにテストのやる気が無いやつにはこの後考えてたご褒美も無しにするしか無いかなあ。
( 何だかんだ言いながらもこうして強請る割にはストップを掛けてくる焦らし上手な無自覚小悪魔に翻弄されているのはどちらかといえば自分の方なのだが。彼女の心臓が鍛えられるその時を待つなんて、気が付けば日が暮れていたというようなレベルでは収まらないだろう。痺れを切らして手加減(当社比)しつつもストップの声に従ってやらない日がくるのはもう少しだけ先の話で。相も変わらず少女漫画的な展開を夢見る彼女に苦笑しながら、補習の意味合いを曲解して捉えてしまっている事に教師としては一応言及を。冬の太陽は帰っていくのが本当に早く、夏はあれほど憎らしいのにその存在を恋しく思ってしまうなんて人間(主に自分)のエゴには驚いてしまう。そんなこんなで陽が傾き始めた頃合いになって、この後彼女を連れて行きたい場所があったのだが。と、あからさまに演技じみた口調でわざとらしく大きな溜息を吐いて。 )
!!
て、テストのやる気はある!せん、…司くんと2人っきりで冬休みに会いたかったの…。
( 彼の言葉は当然のように効果てきめん。“ご褒美!?”と一瞬で煌めいた夕陽色の瞳をまん丸にしながらもやる気はあるけれどただただ彼と冬休みに会いたかっただけだとバカ正直に吐露して。別にみきとしては彼に会える口実が補習でなくても構わないのだ、結果的に彼と2人っきりになれればそれで。みきはきゅ…と眉を下げて彼を見つめては「 ほ、ほんとだよ?テストのやる気はいっぱいあるからね? 」と視線を合わせたまましっかりと念を押すようにもう一度やる気アピールを。冬はずいぶんと陽が短くて、そうこう彼と会話をしているうちに空はぼんやりと夕焼け色から濃紺へと移り変わろうとしており街灯もぽつりぽつりと灯りを付け始め。ご褒美ってなんだろう、もうお家帰らなきゃダメかな、もうちょっとテスト頑張るアピールした方がいいかな、ゆっくりと変わっていく空模様のようにみきの心もぐるぐると忙しなく感情が入れ替わり、だがしかし目線だけはしっかりと大好きな彼を見つめていて。 )
──っ、はは!
お前の行動源ってほんとそればっかなんだな。
2人っきり…は別として、お前のバイト先にまた飲みに行くかもだし何だったら家知られてるし。どこかしらで会う機会くらいはあるんじゃねーの?
( 良く言えば素直、悪く言えば隠し事が出来ないバカ正直。そんな彼女が想像通りの答えを示せば可笑しそうに笑いつつも、本音を言えばそこまでして会いたいと思ってくれている事に悪い気はしなくて。不可抗力によって家の場所はお互いに知っているし、一応歩ける距離ではあるから場合によっては行動範囲が被れば会う事もあるのではないだろうか。…とはいえ諸々をすっ飛ばして家に遊びに行きたいなんて言われたとしたらそれはそれで困るのだが。"ご褒美"の言葉に釣られるように再度やる気の念押しをしてくる彼女にこちらもまた笑いながら「分かった分かった。案外現金なところあるよな御影は。」と、下心ありきではあるがそのやる気に関しても特に否定はせず。太陽がその身を隠そうとすることで周りが薄暗くなってくれば、空気の冷たさも一層引き締まるようなものになってくる。じわりじわりと夜が近付いてくる今、スマホを取り出して時間を確認すれば「んー……まあちょっと早いけど着く頃には大丈夫だろ。じゃあ行くか───って、そういえば御影は帰りの時間大丈夫なのか?その、門限とか…。」と、彼女を伴って目的地へと歩き出そうとしたところでぴたりと足を止めて念の為の確認を。まだ夜というには早い時間ではあるが、これからますます暗くなってくるのに彼女の帰宅事情を聞いておかないとそもそも連れ回すことがアウトかもしれないので。 )
!、
じゃあみんなよりちょっと多く司くんに会えるかも!
( 自分のバイト先もお互いの家もたしかに知っているし、家に至っては一応歩いても行ける距離。きっとおうちに行きたい!と言ったら彼は困るだろうから言わないけれど、またバイト先に飲みにきてくれるのであれば他の生徒たちよりも多い時間彼に会えるんだと嬉しそうにその瞳は輝いて。ほかの人たちよりも遅く“良いお年を”が言えて、他の人たちよりも早く“あけましておめでとう”が言えるならばみきはそれがとても幸せに思うのでその表情はへにゃへにゃと分かりやすく喜びに緩んでおり。彼の言う“ご褒美”はどうやら場所の他にも時間が関係しているらしく、何の想像もつかないみきはこてりと首を傾げつつ彼について行こう─── としたものの彼の歩みが止まったことによりみきもぴたりと足を止めて。時間について聞かれれば頬を薄紅色に染めた後にへにゃりと照れくさそうに笑えば「 あのね、お母さんに今日好きな人とお出かけなのって言ったらバイトが終わる時間までに帰ってくればいいって言ってくれたの。だからね、時間は平気。 」と小さな声で答えて。高校生のバイトの終わり時間、つまりは22時まで出掛けても良いともなれば時間としては充分に余裕があるだろうというみきの母なりの娘への愛情と優しさで。。 )
確かにな。
…実家に帰るのも年明けてからの予定だし、何だったらいっそのこと初詣とか一緒に行くか?なんて──。
( 彼女が家に来ること自体を嫌だなんて思うはずはもちろん無いのだが、家に上げるとなると前回の台風然り何かしらの理由が無い限りはやはり生徒という壁が高すぎて簡単にはいかないのが現実。とはいえただ会えるというだけでここまで喜びを露わにしてくれるのであれば、冬休み中にまた一度はバイト先に顔を見に行ってやるかくらいの気持ちで薄く微笑んで。そのままさらりと年明けのお誘いをあくまで軽い冗談のつもりで投げかけてみて。こちらの質問に柔らかく笑う彼女から出た答えは、逆にこちらがぎくりとするようなもの。彼女の言う好きな人=先生だというのはすでに母親に伝えていると前に聞いているので、本日のお出かけの相手が自分だと分かっているうえで快く送り出してくれたらしいのはありがたいのだが。「お、まえは…またそういう言い方を……、?…余計に気になるんだけど……まあもう言ったもんは仕方ないか…。」と溜息混じりに苦笑を零しながら、理解のある(少しありすぎる気もするが)御影母へ感謝の意と、やはりお会いした時にしっかり挨拶をしておかねばと改めて気が引き締まる思いが湧き上がって。───少しばかり居た堪れない気持ちがあったりもするのだが、とりあえずは遠慮なく、と目的地へ向けて歩き出して。 )
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