女子生徒 2024-04-30 23:32:52 |
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褒めてる褒めてる。
お前にはそのままで居てほしいと思ってるよ。
( 楽しそうに笑いながらも口にする言葉に嘘は無くて。いつかの田中えまのように裏のある強かさもひとつの強みに違いはないが、自分の気持ちに正直で真っ直ぐな彼女の強さはまた違って美しく見える。例えその原動力が恋する乙女の下心だとしてもそれこそ彼女らしさだし、口にはしないがそういった部分に惹かれている自分を否定する気もなく。目的はソファひとつなのだが、こうもあちらこちらがキラキラと輝いていると子供や大人関係無く目移りはしてしまうもの。彼女の言葉にそちらに視線を向けるも、大きなツリーが目に映ったのはほんの一瞬。その次に耳馴染みのある声から出た聞き慣れない単語にすぐさまダークブラウンの瞳は丸く見開かれて彼女を映し。「───っな、…!?……~~~、お前…っ………今のは反則だろ…。」それはあまりにも突然の不意打ち。薄く朱を散らした頬でこちらに顔を向ける彼女を直視することが出来ず、思わず顔を逸らしては三十路の脆い心臓()が早鐘を打つのを抑えようと胸に手を当てて。 )
……なら、いっか!
( 暫くはむむむ、と唇を尖らせていたものの彼の言葉に嘘偽りがないのは声色を聞いて顔を見ればすぐに分かること。みきは安心したようにへにゃ、と微笑んでは目の前の彼がそう言ってくれるのであれば良いのだとすっかり不満気な様子はどこかへ吹き飛んでしまい。どうやら気遣いとして投げかけた言葉は彼に何かしらのダメージを追わせてしまったらしく、驚いたように綺麗なダークブラウンを見開いたかと思えばそのまま視線を逸らして心臓を抑えるような仕草をした彼に今度は此方が驚いたように瞳を丸くしては「 え!?だ、だってお外だし名前で呼んだ方がいいかなって思って…!ごめんね、嫌だった…!? 」と慌てて心配そうに彼を覗き込んでは不安そうに眉を下げて。個人的には本当にデートをしているカップルみたいでちょっぴり彼の名前を呼べたことは幸せだったのだけれど、もしも彼がそれで嫌な思いをしていたら嫌だなぁという風にまさか彼がそれ以外の感情で困っているとは微塵たりとも思っていないお顔で。 )
……、あー…別に、嫌とかじゃ…ない……。
( 良くも悪くも単純な彼女から不満げな様子は綺麗さっぱり無くなり、いつもの柔らかい微笑みにホッとしたのも束の間。まさかの名前呼びという意識外からの不意打ちに悶えていれば、今度はまったくの斜め上な心配を見せてくる彼女に小さく溜息を吐いて。確かに彼女の言うことには一理あって、それゆえの気遣いは素晴らしいとは思う。…が、いかんせん破壊力が強すぎて少々ダメージを受けてしまったのは致し方無し。もちろん彼女が心配するような嫌な感情などあるはずもなく、不安そうな彼女を安心させるべくそれに関してはきちんと否定を。少しして漸く落ち着けば、「…と、とりあえずソファ探すぞ…。」と店内を奥へと歩みを進めて。もちろん名前呼びに関しては咎めることなどせず。 )
?
……ならいいんだけど…。
( 未だに合わない視線には疑問は残るものの、どうやら嫌だとかそういったマイナスな感情ではないらしいことがわかると取り敢えずみきは分かりやすくほっと安堵の表情を浮かべて。ならばどうしてこんな反応なのだろう…と名探偵は顎に手を添えつつ店内の奥の方へと歩みを進める彼の数歩遅れて後ろを歩くこと暫く。─── …もしかして、照れている? !まさにピシャリと雷が落ちたような衝撃と共に名探偵は真相へとたどり着いたようで、みきはにこ!!と今日一番の笑顔を浮かべてパタパタと彼の真横まで駆け寄れば「 じゃあ今日一日お名前で呼んでいいってこと?司くん。 」とちょっぴり彼の耳元に唇を寄せながらふわふわご機嫌な声色で敢えて名前呼びをしながらそんなことをこそこそ問いかけて。だって外で“せんせー”って呼んだらみんなビックリしちゃうもんね?名前呼びなら兄妹かなって誤魔化せるもんね、そんな言い訳を並べたいたずらっぽい夕陽で彼を覗き込んではその表情は楽しそうに綻んで。 )
───!
( 大人しく少し後ろをついてくる彼女に意識を向けつつも、目線は目的の物を見つけるべく店内の案内板やらディスプレイされている家具やらを見ながら足を進めて。まさか後ろでこういう時ばかり能力を発揮する名探偵がまさにひとつの謎を解き明かしたことなどつゆ知らず、隣に駆け寄ってきた彼女が何かを言いそうだったので反射的にそちらへと体を傾けて。そうして掛けられた言葉は何とも楽しそうな声色と表情に彩られた自分の名前。思わず再びぱちくりと彼女を見たものの、さすがに二度目となれば初回の不意打ちよりは耐えることも出来る。悪戯に輝く彼女の瞳が言いたい事がこちらへの気遣いなのも分かってはいるが少しだけ悔しくて、「…いいよ。せっかくみきが気遣ってくれてんだもんな?」とその夕陽色をしっかりと見つめ返してはにっこり笑顔を携えながら小首を傾げて。 )
、……!!!???
( にこにこ、にやにや。今のみきの表情を表すとしたらそんなに擬音がピッタリで。普段あんまり見ることの出来ない想い人ノレアな姿をこの目に収めておこうと彼を見つめていたのだけれど、ようやく目線の合った彼は照れている様子もなく此方を真っ直ぐ見つめるダークブラウンは少しイタズラじみた色が滲んでいて。彼から返ってきた言葉に3秒ほどシンキングタイムがあったあとに漸く彼に反撃されたのだと理解をすれば先程までのにこにこにやにやした表情から一転、大きな夕陽をまん丸にしながら頬を真っ赤に染めて言葉をなくしてしまい。確かに自分の言い訳を使うのであれば彼がこちらを苗字で呼ぶのも随分とおかしな話になってしまうので彼の対応は大正解なのだけれど、突然好きな人からの名前呼びに混乱しているみきはそれに気づくことはもちろんできずに「 ぁ、……う、……。 」とただただパクパクと言葉にならない声を漏らすことしか出来ずに今度はみきが彼から視線を逸らしてしまい。 )
お返し。
( 彼女からの可愛らしい悪戯タイムを強制終了させるかのような反撃は上手く決まったようで、そこら中に飾りのモチーフとして置かれているサンタの服のように真っ赤に染まる彼女の頬と言葉になっていない声が漏れ出る様子に満足そうに笑えば小さく舌を出して。とはいえ彼女から名前呼びをされるのは周りからの邪推を逃れるためもあるので一向に構わないのだが、さすがに自分の方はいざという時以外は苗字で呼んでも差し支えはないだろう。「ほら、固まってないで行くぞ御影。」とくすくす笑いを抑えようともせず、視線を逸らした彼女の頭を軽くひと撫でしては止まっていた歩みを進めようと促して。少し遠くには寝具や机といった家具類が見えており、その一角にいくつか目的のソファを見えているので。 )
い、……いじわる…!
( ついさっきまではこちらがからかう側だったのにあっという間に形勢逆転されてしまったのが悔しくて、其方を見なくても今彼がどんなお顔をしているかなんて一緒にいる時間が長いみきにとっては簡単に分かってしまうこと。ぐぬぬ…!と悔しそうに頬を膨らませて小さく言葉を零したものの彼に頭をひと撫でされてしまえばなにだか怒るにも怒れなくて、未だ赤みの引かない頬をそのままに残念ながらいつもの苗字呼びに戻ってしまった彼について行くようにぷくぷく頬をふくらませたたまま少し先に見えるソファコーナーへと歩き始めて。そうして漸く目的のコーナーまでたどり着けばやはり大型店というだけあって1人用からファミリー用まで様々な形のソファが置いてあるのにみきの瞳は怒っているのも忘れてきらきらと興味深そうにソファたちを映して「 いっぱいある…! 」とキョロキョロと目移りしてしまいながらも1,2人用のソファの方へとしっかり歩を進めて。 )
んー、どれがいいか……
寝落ちしても体痛くならないやつとか……、
( ぷくりと膨らんだ頬と悔しそうに一言だけ零しながらも、こちらが頭を撫でるだけで反撃や反論が出来なくなる彼女が面白くて可愛くて。けらけらと楽しげに笑いながら辿り着いた販売コーナーには様々な色やデザインのソファが所狭しと展示されており。高校生でこういった所に用事があってくる事なんて滅多にない(少なくとも自分は無かった)のだろう、きらきらと瞳を輝かせて目移りさせる彼女を見ては優しく微笑んで。そのまま一緒に求めるサイズのソファが置いてあるコーナーへ赴けば、座面の柔らかさを手で押して確認したりしながら色々なソファをざっと見やって。「御影、気になるやつあったりする?」と、本日コーディネーターに指名している彼女に意見を仰いでみて。 )
あ、ダメだよ司くん。
寝心地いいやつにしたら今日はここでいっかってなるでしょ?
( 座面の柔らかさを手で確認する彼を見てそうやって調べるのか…!とまたひとつ賢くなれば彼の真似をするように自身も手で押してみたり布地の柔らかさを掌で確かめて見たりと数々あるソファの中で吟味を重ねていき。ふと聞こえた彼の言葉にはしっかりちゃっかりツッコんでは続けて重ねられた彼の質問には悩ましげに首を傾げては「 んー…これいいなぁって思ったんだけど、色がふんわりしすぎかなぁって悩んでる…。 」とその中でひとつ、2人用のなかなか柔らかで座り心地の良さそうなアームソファを示して。カラーリングが落ち着いた雰囲気ではあるのだが柔らかなブラウンのものしかないようでどうやそこだけが引っかかっているらしい。みきはむむむ、と眉を寄せてはみきのセンスとしてはアリなのだけれど男性の一人暮らしの部屋と考えると明らかに女性が選んだんだろうなと直ぐに分かってしまうだろうと考えてしまえば自信満々にコレがいい!と無責任に勧めることはできなくて。 )
う゛………………、
…くそ、否定できねー………。
( ただひたすら寝心地の良さそうな物を吟味していれば彼女からピシャリと核心をつくようなツッコミが。かといってそれを真っ向から否定できる自信などもちろん無いので、ぐぬぬと何も言い返せずに項垂れて。寝転がるだけならまだしも、自分の性格上動くのが面倒だとなれば間違いなくソファで寝るだろう。結果どんなに良いものでも所詮ソファはソファ。体を痛めたり風邪を引くのがオチなので、自分のことをよく理解している彼女に従う他無く。そういうストップを掛けてくれる時点でやはり彼女を連れてきたのは正解だと言えるのだが、当の本人はこちらの問いかけに何やら悩んでいる様子。彼女が示した先には、確かに独身男性の部屋に置くには少し柔らかすぎるのだろう色合いのソファが。だがそんな彼女の悩みなど気にすることなく「いいじゃん別に。コレにするか。」と、けろりと一言。過剰なほどミスマッチで無ければ別に色に拘りがあるわけでも無し、彼女が悩むほど(その悩みの種は分からずとも)の物には見えないので。 )
ふふ、もしそれで体調崩しちゃったら「来ちゃダメ」って言わても看病しに行っちゃうから。
風邪引かないようにしてね。
( どうやら自分の指摘はピッタリ当たりだったらしい。何も言い返すことの出来ない彼の様子に思わずくすくすと表情を綻ばせては脅しになっているんだかいないんだか絶妙なラインの脅し文句を。ソファで寝てしまい体調を崩したら看病に行けるし、崩さなかったら崩さなかったで彼が元気ということなのでみきとしてはどちらにしてもウィンウィン(?)なのだ。此方の悩みなど気にせずにさらりと一言返した彼にぱち…と驚いたように瞳を丸くしてはソファを指さしながら「 で、でもこれ女の人が選んだんだなーって色だよ…?いいの…? 」とおずおずと自分が悩んでいる最もな理由を差し出して。例えば、想像もしたくないけれど、自分以外の女の人が彼の家に遊びに来ることがあるとしたらきっと女同士それは伝わってしまうだろうし女の影があるのではと疑わせてしまうだろう。みきとしては適度な牽制となるので全くもって構わないけれど、それで彼の邪魔になってしまったらと考えると素直におすすめは出来なくて。 )
…確かにお前俺の家知ってるし、来るなって言っても聞かない未来が見える気がするわ……。
( どちらが年上なのか分からなくなるやり取りに居た堪れず頭を抱えて。内容的には何とも優しさに溢れているのだが、教え子が家に来るというのは確かに教師にとっては場合によって大変効き目のある脅し文句だろう。前回はやむを得ずなうえきちんと彼女の家族に連絡もしたとはいえ、そう何度も歓迎をするわけにはいかなくて。…もしもそうなったとしてもちろん嫌という気持ちは無いし、むしろ一人暮らしにとって看病に来てくれる相手がいるというのは大助かりではあるのだが。彼女の口からソファを決めかねていた理由が零れれば「?…何か問題あるか?つーかそもそも選んでんのは御影なんだから"女の人が選んだ色"になるのは当たり前なんじゃねーの?」と、きょとんとした顔で首を傾げて。伺うように言葉を紡ぐ彼女と違い、それでこのソファを選ばない理由が分からないといった様子で。自分的には何の問題も無いのでたまたま近くを通った店員に声を掛けては購入する旨を伝えて。 )
だって司くん風邪引いた時“食欲無いしめんどくさいから”ってゼリー飲料とかで凌ぐタイプでしょ。
風邪ひいた時ほどちゃんとご飯食べなきゃダメなんだからね。
( 以前彼の家にお邪魔した際の冷蔵庫の中や調味料の充実具合等々を見ればある程度普段の食生活はどうしても見えてきてしまうもの。普段から料理をしない人が風邪の時にわざわざ料理をするとは思えずにぷく、と呆れたように頬をふくらませながら鋭い指摘を続けていけばお姉さんぶって分かってる?と言わんばかりに彼の顔を覗き込んで。最も、教師である彼にとっては迷惑だということも分かっているのでお家までは押しかけなくとも家の扉にご飯を提げておくくらいのことはしようと思っているのだけど。意を決して自分がこのソファを迷っている理由を素直に吐露したと言うのにどうやら目の前の彼はその深い訳までは把握していないような様子で店員さんに購入意思を伝えてしまい。もちろん店員さんが売上チャンスを逃すわけも無いのでにっこりと柔らかな笑顔を浮かべながらそれを了承し購入準備を進めるべく品番確認をしてさっさとバックヤードへとはけていってしまい。「 ……もう、みき知らないんだからね。初めて来た女の人とかに指摘されちゃえばいいんだから。 」せっかく自分が気を遣ってあげたというのに、と呆れたように息を吐いたもののその実はみきの独占欲は充分に満たされてしまうのでその声色や表情はちょっぴり嬉しそうで。 )
………お前もしかして、前来たとき監視カメラか何か仕掛けていった?
( 彼女の指摘はあまりにも的確で、本当に見られているのではと思うほどまさに調子を崩したときの自分の行動をズバリと当てられればぎくりと固まり。そのままじとりとした視線をこちらを覗き込んでくる彼女に向ければ、冗談ではあるが可能性のひとつとしてそんな問いかけを。とはいえ少し考えれば、これだけ長いこと一緒にいるに加えて心許ない冷蔵庫を見られているのだからそんな推理はきっと簡単なのだろうと当たり前に分かることではあるのだが。にこやか且つ素早く対応してくれた店員さんを見送っては、配達の手続きもしなければいけないのでレジへ向かおうと。そんな中で聞こえてきた彼女の言葉は予想だにしていなかったもので、二度目のきょとん顔を披露した後へらりと笑顔を浮かべては「はは、何だそれ。お前そんなこと心配してたの?……仮に誰か来るとしても、ソファを選んだ張本人が看病だーつって押しかけてくるぐらいだろ。」と可笑しそうに言葉を繋いで。何の意図もなく自然と出たものだが、まるで彼女以外がもう部屋に来ることなど考えていないかのような台詞となって。 )
、
……ふふ!そんなのしなくても好きな人のことくらいわかるよ。
( じとりとしたダークブラウンでこちらを見つめながら冗談交じりの問いをなげかける彼にきょとん、と瞳を丸くしたかと思えばそのままくすくすと可笑しそうに笑い出し、そのままつん。と彼の頬を人差し指で軽く突いては楽しそうに頬を弛めて。監視カメラなんかに頼らなくても好きな人のことならばなんでも分かってしまうのだという恋する乙女はいつだって無敵で最強、みきは彼のダークブラウンを愛おしそうに見つめてはまたへらりと微笑み。きょとんと瞳を丸くしたかと思えばとんでもない殺し文句をさらりと零した彼に今度はこちらが瞳を丸くする番で。きっと彼は気づいていないし無意識なのだろうけれど、好きな人から自分以外の女性を部屋に入れるつもりがないような発言をされてときめかない女は当然居るはずもなく(みき調べ)じわじわと熱の上がってきた顔を自覚しながらもどうしようもないほどのときめきを発散する術はどこにもなくて「 っ、………ぎゅ、ってしていい…? 」と真っ赤になった顔を両手で隠しながらいつものようにダメ元でこのトキメキの発散をしようと小さなおねだりを。最も、断られる前提でいつも言っているのでいざ許可されたら許可されたで慌てるのはみきの方なのだけれど。 )
えぇ……?
そんなの分かるの絶対お前だけだって……。
( 大人しく頬をつつかれながらも怪訝な表情は崩さず、彼女曰くの恋する乙女のパワーとやらを実感するに終わり。お前だけ、なんて言いながら自分も彼女のことならきっと他の人より少しばかり気付くこともあるのだろうが、もちろんそれも無自覚で。彼女の夕陽色が綺麗にまん丸く見開かれたかと思えば、その瞳もすべて小さな両手に隠されてしまい。彼女の手がその顔を覆う直前に見えたのは本日だけでも何度か見る機会のあった真っ赤に染まった頬。そのままぽそぽそと、彼女の中の何かが限界を超えた際にいつも頼まれるおねだりを零されれば「また急だなお前は。…ダメに決まってんだろ、まったく。」と腰に手を当て、呆れたような笑みを浮かべて。そもそも仮にハグをするのに差し支えのない関係性だったとしても、こんな人の多いところではさすがに出来ないのだが。 )
せんせーが分かりやすすぎるのもありまーす。
( 未だ怪訝そうな顔を崩さない彼に対してくすくすと頬を弛めてしまえばそのままふに、と一度だけ彼の頬を指先で摘んで満足したらしくその手は離れて。普段散々わかりやすいと彼にからかわれているのでそれの仕返しのつもりらしい上記の言葉を返せばそれにプラスしてべ、と赤い舌を小さく出してこれもやっばり彼の真似で。案の定断られたハグのお強請りはいつもの事なので特になんにもショックを受けたりはないのだけれど、この胸の中の致死量のときめきはどうにかしなければならない。みきは両手で顔を隠しながら「 だってきゅんきゅんしたんだもん…ときめきで死んじゃう…。 」ともごもごくぐもった声で何度目か分からないこのお強請りの理由を説明し。ちらり、と両手の隙間から顔を覗かせては、困ったような…もとい恥ずかしそうの夕陽色で彼のダークブラウンを見つめて。 )
うっせ。
お前にだけは言われたくねーよそれ。
( 彼女の細い指が離れた後、ただでさえ分かりやすいと日頃揶揄っている相手に同じ言葉を返されるも残念ながら彼女の言っていることはすべて当たっているため反論のしようもなく。細い指の隙間からちらりと覗く夕陽色はどこか恥ずかしそうに熱の込もったもの。そんな瞳に見つめられれば少しばかり絆されそうになる気がしなくもないが、「──、…ばーか。ほらさっさと行くぞ。」と一言だけ返せば支払いを済ませるため踵を返して。道中で季節物の商品として炬燵やら完全に自分がダメになりそうな家具に惹かれてしまいそうになったりしたが、またもや彼女に的確な指摘を受けると考えれば泣く泣く()諦めて。 )
─── ふぅ。
炬燵も人をダメにするクッションも着る毛布も全部阻止!
( 気分はまさにひと仕事終えた後。会計に行くまでの道中、尽く人をだらけさせるのに特化した魅惑の家具たち(冬はそういったものが特に多い)に惹かれる彼を正論パンチで引き剥がす作業を繰り返すこと数回行っていけば、あとは今会計を行っている彼と合流すれば本日の目的である買い出し補佐の仕事は早々に終了するわけで。もちろん彼のお金出し彼のおうちで使うものなのだからある程度は自由に買ってもらって構わないのだけれど、それで体調を崩してしまったり体を痛めてしまったら元も子も無いので本日のみきは買い出し補佐の他にそんな彼の欲望を打ち破る役だったのかもしれない…と知らされざる自分の新たな任務を発見したことに満足気に頷きながらもベンチで彼の買い物が終わるのを大人しく待っていて。─── 本当はちょっぴり夫婦茶碗とか、そういったペアの食器類に目移りしてしまっていたのだけれどそれはきっと彼にはバレていないので良しとして。 )
───『すみません、お姉さんあちらのお客様のお連れ様ですよね?』
( 目的の物はしっかり買えたものの、誘惑に負けるように魅力的な品を見つければあっちへフラフラこっちへフラフラ。しかし何を見ても反論の余地など許されない同行者のド正論に勝てるはずもなく、しおしおとソファのみを購入するためにレジにて手続き中。そんな自分の知らないところで店員のお姉さんが彼女に声を掛けていることなどもちろん気付くはずもなく。──『ただいま当店でお品物をご購入して頂いたお客様にクリスマスのサービスとして粗品をプレゼントしておりまして~。カップルのお客様には、ペアのマグカップかミニクッションがお選び頂けますが如何でしょうか?』とプレゼントの写真が載ったチラシをにこやかに差し出して。マグカップの方は淡いピンクとブルーのペアで、中央から少し下にワンポイントとして白いラインが1本入ったシンプルなもの。続いてミニクッションの方は、彼女ならば抱きしめた際にちょうど良いサイズ感になるだろう。こちらも色合いはピンクとブルーだがマグカップよりは少し落ち着いた色で、デザインは可愛らしいテディベアが小さなハートを胸に抱いているもので。 )
─── へ、?
あ、いや、えっと、……
( 突然かけられた声にハッと我に返ればそこにはにこやかな笑顔の店員のお姉さん。なんだろう、と素直に話を聞いていればどうやらお店のキャンペーンで声をかけてくれたそうで、“カップルのお客様”という部分に思わず否定をしそうになったものの、こうして彼と並んで歩いていて初めてカップルに間違えられたという記念すべき嬉しさとちょっぴりの照れで頬を淡い桃色に染めれば否定の言葉はふにゃりとしたはにかみに変わり。お姉さんが笑顔でシンプルで使いやすそうなマグカップと可愛らしいクッションの写真が載ったパンフレットをじ、と真剣な夕陽色で見つめては少し悩んだ後に「 えと、…じゃあ、マグカップでお願いします! 」と今日のデートの為に昨晩塗ったオレンジ色のマニキュアで彩られた指先でマグカップの方をとん、と指さして。マグカップならばおうちに何個あってもいいし、シンプルなデザインなので別にみき用じゃなくても来客用(ほんとはみき専用してほしいけれど)として使えるのではないかという考えで勝手に選んでみたものの心の奥でちょっぴり“勝手に決めちゃったけどいいかな”、“せんせー使ってくれるかなぁ”と不安もあったりして思わずちらりと彼の方を見ては不安げに眉を下げて。 )
『ありがとうございます、マグカップですね。ではすぐにお持ちしますね~。』
( 可愛らしいお客様の照れた様子に、まだ付き合いたてなのかしら。なんて微笑ましく思っていれば、少し悩んだ後に選ばれたマグカップ。にこにこと了承すれば、店の一角に今回のプレゼント企画を宣伝しているスペースがあるのでそちらへと小走りで向かい。イベント用に広げられた机の上には大量のプレゼントが用意されており、マグカップが2個入っている箱がぴったり入る紙袋にその箱をひとつ入れるとまたもや小走りでお客様の元へ。『お待たせいたしました~。本日はありがとうございました。』と彼女に袋を手渡せばぺこ、と一礼、そのまま次はレジを通ったばかりの家族連れのお客様の方へと向かって。───「悪いお待たせ。明日には届くみたい………って、何それ。」店員が彼女の元を離れて少し、支払いとその他手続きを終えて戻ってくればベンチで大人しく座って待っていたはずの彼女の手にいつの間にか小さな紙袋があることにきょとんと。 )
わ…!
ありがとうございます、大事にします!
( 店員のお姉さんが戻ってくるのを待っている間はちょっぴりのそわそわとドキドキで正直落ち着かなかったのだけれど、いざマグカップの入った袋を渡されればぱぁあ!と夕陽色の瞳はきらきらと輝いて。大切そうに両手でそれを受け取ったあとぎゅ、と胸に抱き締めれば嬉しそうにふにゃふにゃ笑ってお姉さんにお辞儀を。それからしばらくして戻ってきた彼にキラキラした笑顔で紙袋を差し出しながら「 あのね、お店のクリスマスのキャンペーンでカップルの人にってペアマグカップくれたの!だから、……えと、お、おうちで…使ったらどうかなって…。 」とにこにこ元気に話し始めたものの段々と不安も襲ってきたのか声は最終的に小さな小さなものになり。これじゃあまるでペアだからみきの分も置いてね!とわがままを言っているようで、みきは差し出していた紙袋をそっと胸元で抱きしめては「 …お、お客さん用に…とか… 」ポソポソ付け足して。 )
へえ、いいじゃん。
マグカップなんて何個あっても困るもんじゃねーし。
( "カップル""ペア"の2つの言葉に目を丸くしたものの特に嫌がったり言及などしたりせず、差し出された袋を受け取…ろうとしたのだがそれは叶わず。段々と彼女の声は小さくなるし、最後に付け足された言葉が本心ではないことくらいはさすがに分かる。「うちに来る客っていっても友也とか男友達くらいだし、あいつらに出すのにペア物は気持ち悪いだろ。…俺のとこにあっても片方使わないままで勿体無いしお前1個持って帰れば?"カップル"用なんだろ?これ。」自分と男友達が色違いのペアカップを使う様を想像してどこかげんなりとしながら、別にペア物だからといって必ずしも同じ所に置いておかなきゃならないわけではないだろうと。お互いが1個ずつ持っていてもペアはペアだしそもそも貰ったのは"自分たち"だろ?といつもの意地悪な、しかしいつもよりは少し優しさも混ざったような笑みを浮かべてどこか不安そうな彼女の顔を覗き込んで。 )
!!
い、いいの……!?
( ホントはやだけど、でも我儘を言う勇気もなくて。けれど彼から告げられた提案にぱっと分かりやすく表情を輝かせてはきらきらと光る夕陽で彼を見上げて嬉しそうに表情を綻ばせ。置いてある家が違くとも、ペアマグカップはペアマグカップ。カップル用ならば尚更。いつもの意地悪な笑顔の中に優しさと温かさを感じればさっきまでむくむくと湧いていた不安はあっという間に散ってしまい。紙袋を持っている手を口元まで持ってきて緩んでしまう口元を隠せば「 じゃあ、マグカップおそろいしよ?─── …司くん。 」とにこにこふわふわ浮かぶような甘い声色で小さくおねだりを。 )
いいもなにもお前以外に誰が使うんだよ。
( やっぱ分かりやすい。と自分のことは棚上げに、こんな些細なことでここまで嬉しそうに顔を輝かせる彼女が可愛くて柔らかく微笑み。改めてお揃いを強請ってくる彼女の仕草や声色はとても甘く、漸く聴き慣れたはずの名前呼びにその甘さが加わればまた攻撃力は一段と高まって。どきりと胸が高鳴るのを誤魔化すように「っ、…はいはい喜んで。───じゃあ俺の用事も済んだことだしそろそろ昼飯にするか。」と、スマホで時間の確認を。お昼時にはまだ少し早いが、これくらいの時間ならどこの店もまだ混む前だろうしスムーズに昼ご飯を食べられるだろう。小さい紙袋とはいえ荷物は荷物。それ持つから、と声を掛ければ手を差し出して。 )
ふふ、はあい。
─── …ね、せんせーって普段外食するの?
( 未だゆるゆると緩んでしまう頬をそのままに、確かにちょっぴりお腹がすいてきた時間だと彼の言葉に元気よく返事をしてはそういえば大人の男の人ってこういう時どんなお店行くんだろ…と普段は女子高生らしくファーストフード多めなみきはちらりと彼を見上げて純粋な疑問を投げかけて。マグカップがふたつ入っただけの紙袋は決して重くないし全然持てるのだけれど、紳士に紙袋を持ってくれようとする彼にきゅん。とまた単純にときめいては「 ありがと!優しいとこもだいすき。 」と当然のように感謝と共に愛も投げかけて。ハイハイと流されるのを分かっていても好きだと思ったらすぐ伝えなければ気が済まないので、恥ずかしいなんて感情は二の次。伝えられなくて後悔はしたくないので、いつだってみきは自分の気持ち(恋心)に正直で。 )
んー…友達と飲みに行くくらいで滅多にしないかな、
行ってもラーメンとか。
……あ。言っとくけど、オシャレなレストランとか高級フレンチとか俺に期待すんなよ。
( 彼女のように、当たり前に自分の気持ちを素直に伝えられるのは本当に美点だと思う。大人になればなるほど建前やらしがらみが多くなって気持ちを押し殺すことの方が当たり前になってくるもの。もちろん彼女と自分の間には今はまだどうしても超えられない壁があるためこちらから何かできる訳ではないので、こうして好きなだけ気持ちをぶつけてきてくれる彼女に感謝しつつも少しだけ羨ましかったりするのも事実なのだがそれは内緒で。彼女からの質問には少し考える素振りを見せるも、普段は惣菜弁当とごく稀にする自炊ばかり。外食は確かに楽だが、1人だとどうしても大手チェーンの牛丼屋であったりラーメン屋くらいの選択肢になってしまう。仲間内で行くのはだいたい居酒屋ばかりだし…と考えたところで、このクリスマスの雰囲気にピッタリなお洒落ランチを期待されているのではと態とらしくハッとすれば、渇いた笑いを浮かべながら"大人の男性"らしからぬ格好のつかない台詞を零して。ましてや異性とこうして休日にお出かけ(デート)なんて数年ぶり。「御影は何か食いたい物とか無いの?」と、とりあえず本日買い物に付き合ってくれた彼女のリクエストが何よりも先だと首を傾げて。 )
お、男の子のご飯って感じ…。
( ファーストフードやコーヒーチェーン店、ファミレスはよくあれどあまり友人とラーメン屋さんに行くことがない女子高生にとってはなんだか新鮮で、ちょっぴりそわそわした気持ちを感じながらも彼の普段の食生活にぽそりと一言。もちろんみきもラーメンは好きなので食べたくなったら食べに行くことはよくあるのでその気持ちは充分分かるのだけれど。だがしかしハッと何かに気がついたかなような反応の後に付け足された彼の言葉にぱち!と夕陽をまん丸にしては思わず吹き出してしまいながら「 大丈夫だよー、自分で払えるレベルのお店しか行きませーん。 」とくすくす可笑しそうに笑いながらふるふると首を振って。最もそういうところは大人のお姉さんとお兄さんが行くところなのでこんなチンチクリンが言っても1人浮いてしまう未来しか見えないので。それから彼に食べたいもののリクエストを聞かれればうーん…と悩ましげに首を傾げて考えること少し。パッと浮かんだ好物はなにだか彼に言うには子供っぽいような気がしてちょっぴり恥ずかしそうに「 ……オムライス…。 」と小さな声で正直に今食べたいものを答えて。オシャレなレストランでも、高級フレンチでもない、実に庶民的なメニューしか出てこない自分の子供舌には我ながら恥ずかしくなってしまうのだけれど。 )
男の子って歳でも無いけどな。
二郎系なんて食える気しねーもん、胃もたれと胸焼けする自信ある。
( 男の子、だなんて10歳近くも歳下の女子高生に言われてしまえば何だかむず痒くて苦笑いをすれば、実際若い子たちならペロリと食べてしまえるであろう流行りのガッツリ系は少々三十路の胃にはつらいので。そういう些細なところに案外年齢差を如実に感じたりするものなのだが、彼女の手作りを食べたことのある立場から言わせてもらえば味付けや量が余りにも自分に合いすぎていたので彼女とは食の好みの相違が無いのではと思っていたりもして。仮にもデート()だというのにまだ昼代を自分で出そうとしている彼女には悪いのだがもちろん払わせるつもりなんてこちらには毛頭無い。ただそれを先に言ってしまえば変に気を遣うのではと考えているので敢えて口にはしていないが。いつかフォーマルな服装で入るような店に彼女を連れて行ってあげたい気もするのだが、それはきっとまだまだ未来の話だろう。思い付いたものの何だか恥ずかしそうな様子で出してくれた答えは庶民の舌に馴染みのあるもの。背伸びして変わったような物でなく、素直に自身の食べたい物を教えてくれた彼女に何だかホッとしてくすくすと笑いながら「ん、りょーかい。オムライス…ってことは洋食か。えーっと確か……、──ちょっと歩いた先にオムライスが美味いって評判のカフェがあるみたいだから行ってみるか。」とスマホを取り出してぽちぽち検索を。彼女のリクエストが仮に中華であれ和食であれスムーズに店が決まるよう、実は先だって昼ご飯を食べられる店をいくつかピックアップしていて。 )
ふふ!
クラスの男の子たちがそれ美味しいって言ってたよ。みきもまだ食べたことないの。
( つい最近クラスの男の子たちが口にしていたラーメンの種類が出てくれば自分もいつか食べようと目論んでいる最中らしく特に胃もたれも胸焼けも感じぬままにヘラヘラも笑って。だってまだお皿いっぱいの天ぷらも何重にも巻かれて絞られた致死量の生クリームもぺろりと食べられてしまうので。女子高生は無敵なのだ。お店を調べてくれているのだろうかというにはあまりに早すぎるそのスピードにきょとん…と思わず瞳を丸くしては「 もしかして、…調べておいてくれたの? 」と気付きながらも男を立ててスルーするような良い女精神はまだ備わってないので思ったことをそのまま問いかけて。もしかしたら彼も、今日を楽しみにしてくれてたとか。そんな想いがじわじわと湧き上がればやっぱりみきの心はきゅんきゅんとときめいて暖かくなってしまい。やっぱりこの人のこういう優しいところが好き、と何度だって彼に恋に落ちてはにこ!と満面の笑顔を浮かべて「 ありがとう、司くん! 」とだいぶ慣れてきた名前呼びと共に感謝の気持ちを素直に伝えて。 )
まじかよ……さすが男子高校生だな…。
あれ結構量もあるって聞いたけど、さすがに御影はそんな食えないんじゃないか?
( やはり若い力というのは凄まじく、自分も学生時代ならワンチャン……と考えてはみたがもはや想像するだけでお腹がいっぱいになってしまいそうな悲しい大人が年齢を実感しただけに終わり。無謀にも挑戦した同い年の友人(更に少食気味)が小盛りを食べるのすら精一杯だったといつだかに聞いたことがある。若いとはいえ女子には少し敷居が高いのではないだろうかと苦笑いをひとつ。スマホをしまい早速歩き出そうとしたところ真っ直ぐ投げかけられた疑問にぴたりと動きを止めて。そうやって思ったことをすんなりと口にしてくれるところもまた彼女の魅力なのだが、やはり少しだけ格好がつかないなと眉を下げて。「ン………まあ、…ほら、店っていざ探すとなったら案外見つけるの手間取ったりするしな。時間勿体無いだろ。」と、彼女のきらきらとした笑顔に照れ臭さを覚えては、それを誤魔化すようにはいはいと返事をしながら再び歩みを進めて。 )
えー?
いっぱいお腹すかせていけば食べられるよ。
( いつもと変わらないような彼とのやり取りも、ここが外で私服同士だと言うだけでちょっぴりまた気持ちも変わってくる。彼が大好きだという気持ちは変わらないけれど。みきはくすくすと楽しそうに笑いながら言葉を返していけば、ふと歩いている最中に距離が近かったせいかふと手と手が触れてしまい思わずぴく、と、肩を跳ねさせては慌てて手を引っこめたりなんて一幕もあったりなかったり。再び歩み始めた彼は、きっとちょっぴり照れてるんだろうなぁなんで思わず頬が緩んでしまう。そんなところももちろん可愛くて大好きなのだけれど、あまりそういって指摘すると彼をいじめているようになってしまうので可愛い!は何とか心のうちに留め。「 オムライス楽しみだなぁ。 」なんてにこにこと楽しそうに既に歩き始めていた彼を追いかけるようにちょっぴりスキップのような軽い足取りでぴょん、と追いかけてはにこにこと機嫌良さそうに頬を弛め。 )
────あそこだ。
( 準備室でのお喋りのようにいつもと同じ和やかな時間。周りから自分たちがどう見えているかなんてのも気にならないほどに。たまたま手が触れてしまったことには自分も少しだけぴくりと反応してしまったが彼女が慌てて手を引っ込めたことにくす、と微笑みながらも、いつか何も気にせずにその手を握って繋いだまま歩けるようになれたら──なんて事を考えてしまっては小さくふるふると頭を振って。彼女の好物なのかは定かではないが、今食べたい物として挙げたものを楽しみにしている彼女がひたすら可愛くて。そうして歩き始めて少し、お洒落ではあるが落ち着いた雰囲気の外観に、外には手書きの看板が立てられているカフェへと到着。中に入れば愛想の良い女性店員がにこやかな対応を、「2人です。」と人数を伝えて店内奥の2人用のテーブルへと案内されれば通路側の席に座り。メニューを開くと評判通りオムライスがお勧めらしく、オーソドックスなものからデミグラス、ホワイトソースがかかった写真はどれもふわトロ卵の美味しそうなものばかりで。 )
おしゃれ…!かわいい…!
( どこかレトロな雰囲気がありつつも現代的な雰囲気も併せ持つお洒落で落ち着くカフェにたどり着けばみきの瞳はキラキラと輝いて。店員さんの愛想も良く客層も落ち着いたマダムやおじいちゃまおばあちゃまが多い印象があるカフェをキョロキョロと興味深そうに見回しながら席へ案内されればなんとも自然な流れで奥側の席に座らせてもらい。あまりに自然すぎたが故にその事実に気が付いたのは席に座ってメニューを見ている最中だったので「 わ、おいしそう…!デミグラスソースも─── ハッ!あ、えと、奥側の席ありがとう…! 」とメニューへの感想もそこそこに気がついた時点でお礼を零して。自然なエスコートにときめいた気持ちはもちろんあるのだけれど、その中にも“慣れてるのかな、ほかの女の人にもしてたのかな”というもやもやが出てしまったのは心の内に秘めて。 )
ん、静かでいい感じだな。
落ち着いて飯食えそうで良かったよ。
( 昼時のピークと呼ぶにはまだ時間が早いからだろうが、ゆったりとコーヒーを嗜む年配のご夫婦や自分よりも遥かに人生の先輩方が目立つ客層のおかげで、クリスマスの煌びやかな賑わいのある街中とはまた違った雰囲気が店内に流れている気がする。彼女と共にメニューを見ていれば、まったく予想だにしていなかった礼を貰えばきょとんと一拍。「───へ?……ほんと律儀だなお前。どーいたしまして。」と、自分でも無意識下の行動ゆえに今までこんな事で礼など言われたことがなく間抜けな声が出てしまったが、そんな"慣れていない"反応をする彼女がやはり愛おしくて小さく笑いを零し。もちろんそんな彼女の心中など分からないが、秘められたもやもやすらも仮に知ったところでただただ可愛いとしか思えないだろう。「せっかくだし俺もオムライスにするとして……どれにするか…。」メニューと睨めっこをする事数分、看板メニューを注文するにあたっても拘りのお勧め品は一筋縄ではいかず。トマトソース、きのこの入った和風ソース、明太子ソースにチーズソースなど見れば見るほど悩ましいラインナップにお腹は空いてくる一方で。 )
ん゛ん……ケチャップソース…でもデミグラスも美味しそう…。
( 両腕を組んで真剣な表情で様々な種類のオムライスが並ぶメニューへとしっかり向き合えば、写真付きのメニューというものはやはり文字のみよりも数倍美味しそうに感じてしまうのは不思議だけどよくあること。折角ならばおうちでも再現出来そうな味を、と選ぼうとしているのだけれどやっぱりどれも選びきれなくて美味しそうでキラキラした瞳は悩ましげに色んなメニューへいったり来たりを繰り返してはどうしよう!と言った風に小さく呟いて。「 ……司くん決めた…? 」とちらりとヘルプを求めるように彼へと視線を映してはもし決まってたら待たせちゃ可哀想だし早く決めなきゃ、と言った様子で首を傾げて。 )
んー………──やっぱりここはオーソドックスにケチャップソースにしようかな、俺。
( 彼女に声を掛けられてすぐ、というわけにはいかず悩む事暫く。あっちこっちに視線を泳がせた結果、結局はいちばん最初に目に入ったオムライスの定番ケチャップソースを指差して。1番人気はデミグラスらしいが、自分の世代にはオムライスといえばケチャップという概念の方がまだ少しデミグラスを上回っているのもあって。別に敢えて言う必要も無いので口には出さないが彼女の呟きが聞こえたのも決め手のひとつ。彼女が悩んでいる選択肢のうちのひとつを自分が選べばそれを味見させることだって出来るし、そうすればどちらの味も楽しんでもらえるのではと。もちろん呟いていないだけで、彼女の選択肢が他にあるのならばそちらはまたいつかの機会に。ということになるのだが。 )
!
あのね、みきもそれ迷ってたの!おそろい!
( 彼のメニューが無事に決まれば自分も彼と同じメニューで迷っていたのだと上記を零し、同じメニューに惹かれていた、ただそれだけのそんな些細なおそろいすらも嬉しくてみきはにこにこ表情を和らげて。とは言っても、残念ながら彼の決め手のひとつが自分の呟きで気を遣ってくれたのにはまだまだ気が付けはしないのだけれど。彼がケチャップにするならデミグラスにすれば、彼は王道もいちばん人気も食べられるのでは!と人知れず彼と全く同じようにお互いを想う選択をしては「 じゃあみきデミグラスにしようっと!せん、……司くんにも一口あげるね。 」と無事に自分のメニューも決定。ケチャップのオムライス好きなのかなぁ、今度作ったら喜ぶかなぁ、なんて、好きな人との外食はその人の食の好みを知れるチャンスでもあるため勿論みきがそんなチャンスを逃すわけがなく本日もまた好きな人の好きなメニューだとか、味の傾向だとか、卵のふわふわ加減だとか。そういうのをしっかりちゃっかり調べるつもりらしく。 )
…はは!お揃いって。
ま、決まったならいいか。──すいません、
( 優柔不断が揃って同じようなメニューで悩んでいた、ただそれだけの事なのだがそんな事でこうも喜ばれてしまってはどうにも可笑しくて。更には彼女もどうやら同じようなことを考えていたらしく、当たり前のように告げられた一言に微笑んでは「はいはいありがとな。俺のも、…みきに一口やるから。」そもそも彼女にも食べさせようとしていたのでそこは問題ないのだが、少しだけ言い慣れてきた様子の名前呼びににやりと笑みを浮かべて対抗したのはほんの悪戯心。なんにせよ注文が決定したのなら良し、カウンターの向こうで店内の様子を伺っている従業員に視線を向けて手を挙げればすぐさま気付いてくれた様子。オーダーを取りに来た相手にケチャップソースとデミグラスソースのオムライスを注文すればどうやらセットにドリンクが付くらしい。「あ、じゃあホットコーヒーを。御影は?」 )
!!!
な、……ぅ……きゅ、急に呼ぶのは、ずるいと思います……。
( 嬉しいなぁ楽しみだなぁとるんるん上機嫌に表情を綻ばせていたものの、残念ながらそのご機嫌な顔はあまりにも自然かつ突然の彼からの名前呼びによってカッと熱が上がり遂には両手で隠されてしまい。そもそも好きな人に名前を呼ばれるだけでも此方には大ダメージだと言うのに、更に彼から一口あげるなんてなんとも甘美な気遣いはみきをめろめろとノックアウトさせるには充分すぎる攻撃で。テーブルの上に両肘をついて顔を隠していればいつの間にか彼が店員さんを読んでくれたようで、セットのドリンクを聞かれれば流石にこのまま注文するのは店員さんに失礼だろうとそっと両手を顔の前から退かしたものの顔色は依然として羞恥で真っ赤に染まり。「 お、オレンジジュースでお願いします…。 」と注文したドリンクすらもちょっと子供っぽくて恥ずかしいのだけれど美味しくオムライスを食べるためにはみきにはコーヒーは苦すぎるので致し方ないこと。無事に注文も終わり店員さんがまたカウンターの方へ戻っていき、そんな背中を見つめつつもやっぱり熱の下がらない顔のまま「 ……もう、絶対変に思われた…! 」とみきはまたバッと顔を両手で隠してしまい。 )
名前呼ぶだけなのに『今から呼びます』って宣言する方がおかしいだろ。
( 一瞬にして赤みを帯びた顔で抗議の意を唱える彼女はその可愛らしい顔を両手で隠してしまい、その反応に満足そうな笑みを浮かべながら一応は正論らしいツッコミを。赤みが落ち着くまで隠し続けたい彼女の気持ちはよく分かるが、残念ながらいくら仕事の出来る店員さんでもそこまでは気付けないだろう。オムライスは彼女の分も注文できたものの、ドリンクはさすがに話し合っていないので未だ赤い顔の彼女に聞く他無く。一方の店員さんは特に気付いた様子もなく(敢えて触れてくれていないだけかもしれないが )『畏まりました、少々お待ちくださいね。』と、戻る際もにこやかな笑顔を崩さなくて。「はは、すっげー赤いもんな。大丈夫だって、照れちゃって可愛いーくらいにしか思われてないんじゃないか?」と片肘で頬杖つきつつくすくすと可笑しそうに笑うのは彼女をそんな状態にした張本人のみで。 )
す、好きな人から名前で呼ばれたら心臓ギュッてなるんだもん……次から今から呼ぶねって言ってから呼んで……。
( 彼の言葉にふるふると首を振ってはいくら変だろうがおかしかろうがなんだろうが不意打ちの名前呼びはあまりにも破壊力が強すぎるので自身の心臓に優しくして欲しいと、両手の向こうからもごもごと無茶を。けれど名前はやっぱり呼んで欲しいなんて恋する乙女の我儘があるのもまた事実なので、決して呼ばないでとは言わず。幸か不幸か、店員さんの営業スマイルは崩されることがなく指摘もされることもなく無事に注文は終わり一安心。まるで他人事のようにくすくすと可笑しそうに笑いながらこちらを見つめる元凶の言葉にまたぴく、と反応をしてはそろそろと目元だけを指の隙間から覗かせては「 ……司くんは、可愛いって思ってくれてる、? 」とこうしていつもすぐ赤面してしまう自分のことを可愛いと思ってくれているのかと小さな声で問いかけて。店員さんにどう思われたのかもとても需要なのだけれど、でも目の前の彼にどう思われているかがなんやかんや1番大事で重要なので。 )
やだよ、
逆に呼びにくいだろそれ。
( 彼女の無茶振りにくすくす笑いが苦笑に変われば、そんな宣言ありきで名前を呼ぶだなんて今度は自分の方が変に意識してしまうのではとすんなり却下。もっとも、こうして不意打ちに呼んだときの彼女の反応が可愛いからというのもあるのだが。いつか彼女も名前呼びをされる事に慣れてしまえばこんな初々しい反応をしてくれなくなるかもなので、見られるうちに堪能しておきたいからなんて考えているのは内緒。彼女の顔を覆っている白い指の隙間から見えた夕陽色はどこか期待の色が滲んでいるように見えて。きっと肯定すればまた恥ずかしがって暫く顔は隠されたままになるのだろうが、否定するのも何だか違う気がする。ちらりと覗く彼女の瞳と視線を合わせれば優しく微笑み「思ってるよ。特に今日は気合いの入った格好してくれてるから尚更。」と、何だかんだで感想を述べるタイミングを逃し続けていた一段と可愛らしい本日の彼女の装いにも漸く触れることができて。 )
だ、だって……
好きな人に名前で呼ばれるの、心臓に悪い…。でも名前で呼ばれたいんだもん…。
( 当然のようにすんなりとみきの提案が却下されてしまえば、うるうると羞恥で潤んだ瞳をで困ったように眉を下げながら彼を見つめて複雑な心境をぽそり。きっとこの先、不意打ちで名前を呼ばれても今のように心臓が痛くなることが無くなったとしても彼に名前を呼ばれるだけでふわふわと勝手に頬が幸せそうに緩んでしまうのは想像しやすくて。いつか彼も自分と同じように、自分が名前を呼ぶだけで幸せを感じてくれるくらいに好きになってくれたら良いなぁなんて思ってしまったのは彼には内緒で。ちらりと恐る恐る覗いた先には優しげにこちらを見つめる彼のダークブラウンがあって、ただそれだけでもみきの単純な心臓は跳ね上がってしまったのに更に強請った以上の言葉が返ってくればまた熱の上がってきた顔を隠すように唯一見えていた瞳すらも両手で隠してしまい。「 …………だって、…デートだから、…。 」と小さな声で呟いた言葉は静かな店内のおかげで彼にはしっかり届いてしまうだろう。せんせーとのデートだからお洒落してきました、とはさすがに恥ずかしくて全部は答えられなくて、けれど貴方のためですという気持ちは伝えたくて「 可愛いって、思って欲しくて、 」と先程よりももっとか細い声でぽそりと呟いて。 )
それじゃあ尚のこと不意打ちに慣れてもらわないとだな。
ちゃんと先生が手伝ってやるから。
( 彼女に名前を呼ばれるどころか、こちらが名前を呼んだ時の反応だけでこうも胸をざわつかせてくるのだから自分からすれば彼女の方が何倍もタチが悪い。頬を赤く染め上げて瞳を潤ませる彼女が恥ずかしがる姿を他の誰にも見てほしくないだなんて、今はまだ口に出せるはずも無いので心の奥に留めておくしかなくて。名前なんてむしろ不意打ちで呼ばれない事の方が珍しい…というより難しい。にこにこと爽やかな、しかしどこか悪戯っ子のような笑顔で彼女の心臓を鍛えるお手伝いをと。会話の内容こそお互いにしか分からない声量だが、どこか甘い雰囲気に少し離れた席のマダムがあらあらまあまあと微笑ましく思ってくれている事など自分はもちろん彼女も気付いていないだろう。「…今日初めて会ったときからずっと思ってるよ、───みき可愛いなって。」瞳も隠されて再び手のシャッターが掛かってしまった目の前の彼女に、ただひたすら優しく甘い声色で素直な気持ちを吐露して。こんなにも思ったことをぽろぽろと告げられるのは、きっとここが学校ではなくて自分と彼女も白衣と制服ではないから。非日常を感じるだけでここまで彼女に甘くなる自分にも驚きではあるのだが。 )
う゛…嬉しいけど心臓もたない…。
─── 、…慣れてもらうってことは、これからも呼んでくれるってこと…?
( 顔を見なくたってわかる、絶対に楽しそうににこにこしてる。彼限定のエスパーでありほぼ毎日一緒にいるみきにとって顔を見なくとも彼が今すこぶる楽しそうな顔で提案してくれているのなんて手に取るように分かるし、からかわれている…!と顔の熱は未だ引きそうになくふるふると顔を隠したまま首を振り。だがしかしぴた、と唐突に何かに気づいたらしく動きを止めては頬を赤らめ瞳が潤んだ状態ではあるのだけれど驚いたように目を丸くしながら顔を上げ、“慣れる必要があるということはこれからも呼ぶ機会があるという事なのでは”と名探偵の頭脳が働いたらしく。だって苗字呼びだったら突然の名前呼びに慣れる必要もないし、不意打ちで苗字を呼ばれてもただなあに?とお返事をするだけなのだから。どこか期待にそわそわと染まる夕陽色で彼を見つめては、どうなの?と問うように首を傾げ。もしかしたら顔を隠すのは早計だったかもしれない、視力をなくしたことによっていつもよりずっとずっと彼の声が甘く優しく聞こえるし、なんだかそわそわと落ち着かない気持ちになる。みきは彼の言葉にぴく、と反応してはいつもより数割増で甘々な本日の彼へ降参するように彼の手元に両手を添えては「 も、……もう、だめ、すとっぷ。 」と真っ赤な顔を小さく振りながら白旗を上げて。たしかに今日は彼に可愛いと思われたくて精一杯オシャレをしたのだけれど、いざ本人に真正面から(しかも名前呼びで)褒められてしまったら供給過多で死んでしまうとみきは周りの様子すら気にする余裕が無いほどいっぱいいっぱいで。 )
───、!
……まあ、気が向いたら………。
( 何とも初々しくて可愛らしい彼女の反応を楽しんでいれば、まさに先ほど自分が口にした言葉が無意識だったと気付かされた様子でぱち、と目を丸くさせて。もちろん生徒のことを名前で呼ぶのなんて別におかしなことでは無いのだが、呼んでも男子であったり同姓の子は苗字も入れてフルネームで呼んだりというのが自分の中で自然に出来上がっていた決まり(というには少しお固い気もするが)。しかし今回指摘を受けた事柄はまるで自分がこれからも彼女の側にいて、しかも自然と名前で呼ぶような関係性になる事を望んでいるかのような──。期待の色を隠すことなくこちらを見つめてくる夕陽色から視線を逸らすのは反撃に負けた証拠になるが、今回ばかりは上手く揚げ足を取られたといっても過言では無くぽそぽそと小さく声を出して。ついに降参の意を伝えられれば「残念、可愛かったのに。」と未だ楽しげに笑いながらも一旦は彼女に従う形に。自らの手に添えられた小さくて柔らかく温かい手を握り返そうとしたところで『──お待たせいたしました。』と店員の声が降ってきたことで結局手はそのまま動かせず。彼女を揶揄うのが楽しすぎて周りが見えていなかったことを少しだけ反省しつつ、運ばれてきたオムライスが机の上に並べられるのを見守って。 )
!
……ふふ、うん。気が向いたらみきって呼んでね。
( 普段女子生徒のことをあたり名前呼びしているイメージのない彼に唯一名前で呼んでもらえる、そんな些細な唯一でもみきは心が浮かんでしまいそうなくらい嬉しいし己の醜い独占欲だって満たされてしまう。逸らされてしまったダークブラウンは照れから来ているものだと分かっているから、反対にみきは愛おしそうな色で充ちた瞳でじっと彼を見つめては柔らかな声で名前呼びを強請って。今は限られた状況下だけで構わない、いつか名前呼びが当たり前になったらいいななんて未来に期待を抱きつつ。どうやらいっぱいいっぱいの状態でかけたストップ(ヘルプに近い)を聞き入れてくれたらしい彼は未だ楽しそうな笑みを崩さないままだがなんとか一旦は止まってくれて。それにほっと安堵していればいつの間にか店員さんが来ていたことにびく!と肩を跳ねさせて姿勢を正せば、見られてた…!恥ずかしい…!とドキドキうるさい心臓はいつの間にか机の上に並べられていくオムライスを見ているうちに「 ……おいしそう…! 」なんて意識は全てそちらに持っていかれてしまい。 )
ほんと美味そうだなぁ。
───んじゃ、いただきます。
( 気が向いたらなんて自分から言ったものの、逆に期待を込めてその台詞を使われてしまえば何だか途端に気恥ずかしくなってくる。彼女に対する自分の気持ちが少しだけ透けてしまったようで少しだけ居た堪れないが、お互いにどうにも出来ない壁があることを彼女も分かってくれているからこそ一定のライン以上は踏み込もうとしてこない辺りは正直助かる思いがあって。まだ見ぬいつかの未来にこんな特殊な場合だけでなく、何ともないいつも通りの日常でお互いの名前を気兼ねなく呼べる日が来ることを自分でも気付かないほど心の奥底で願って。出来立てほかほかのオムライスはふわトロ卵がきらきらと輝き、その上に掛けられた真っ赤なケチャップソース。彼女の方のデミグラスソースはさらにその上から生クリームをひと回し掛けられておりそちらも見た目だけですでに美味しさが伝わってきそうなほど。セットのドリンクをテーブルに置いたところで『ごゆっくりどうぞ。』と一礼してにこやかに下がっていく店員さんにこちらもぺこ、と頭を下げて。さっそくスプーンを入れてみればとろりと流れる卵とケチャップソース。中に入っているチキンもゴロリと存在感があり、一口頬張れば人気の理由が見た目だけでないと分かる絶妙な味加減に瞳を輝かせて。 )
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