女子生徒 2024-04-30 23:32:52 |
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!…あー、悪いけど可愛い彼女待ってるんでひとりじゃ無いんですよねー。
( 息をするたび口から出る白い息をぼんやり眺めながら待っていれば突如として掛けられた声は、他人のフリというには残念ながらあまりにもよく聞き慣れた声。もちろん反射的にそちらを見たことで目の前にいる人物が誰だかをすぐに頭が把握したからということもあるのだが。いつだかの仕返しのようなことをする彼女に、そのいつだかの彼女の反応とは違ってにやりと口角を上げながらわざと"彼女"という単語を強調すれば、言葉通りとても可愛らしい格好をした相手をしっかりと瞳に映してにこにこ笑い。 )
!!!
……………あ、う、…か、かのじょ、…来ました…。
( てっきり上手に騙されてくれると思っていたいたのに、にやりとした笑顔とわざとらしい言葉に反対に此方が顔をカッと赤らめては恥ずかしそうにファーマフラーに顔を埋めつつ小さな声で到着の報告を。常日頃から彼女になりたいと思っているしなれるのなら当然その座を喜んで受け取るつもりではあるのだけれど、いざそういった風にからかわれてしまうと途端にしおらしくなってしまうのはいつものこと。「 ……ご、ごめんね、待った? 」今ので一気に身体が熱くなってしまったのでみきは全く寒くないのだけれど、先に外で待っててくれていた彼は寒いだろうと羞恥で視線は合わせられないまま小さく問いかけて。 )
はは、待ってました。
( 彼女の様子を見ればこちらの反撃が成功したのは一目瞭然。可笑しそうにくすくすと笑いつつも、改めて彼女の服装を見ればやはり一段と可愛らしいと思うのも本当で。いつもの見慣れた制服姿やたまたま数回見る機会のあった私服とは違い、間違いなく今日この日の為に彼女が考えて選んだものだと思うと何だか一層愛おしく思う気がしてくる。そんな気持ちが込もった視線を彼女に向けるも、残念ながら恥ずかしそうな彼女の夕陽色とは視線が絡むことなく。「や、俺も来たとこ。…つーかお前こそ早くね?まだ集合時間前だぞ。」待ち合わせのド定番、常套句のやり取りに何だかむずむずしそうだが、ポケットからスマホを取り出して時間を確認すれば予定の集合時間よりもそこそこ余裕のある到着。とはいえ自分もさらに10分ほど前に着いたばかりなのでお互い様ではあるのだが。 )
……早く来たら、その分長くせんせーと居られるかなって思って、
( 先程は彼の反撃によって逸らしてしまった視線も、今や私服の彼の眩しさと照れで次は上げられなくなってしまったらしい。以前にも私服は見たことあるけれど、男の人のコート姿ってなんだかいつもよりも何倍もかっこよく見えてしまうものでそれも相まってなんだかとても気恥ずかしくて。時間について言及されればちょっぴり恥ずかしそうに頬を染めながらぽそぽそと“少しでも貴方といる時間を増やしたかったです”と素直に吐露して。そもそもその作戦も彼が早めに来ないと成立しなかったのだけれど、さすが大人は時間前行動が完璧なのでみきの作戦は大成功。約束の時間よりも少し早く合流できたことによって無事デート時間はちょっぴり増えて。それがとても嬉しくて、漸くちらりと顔を上げて彼と目線を合わせれば「 だから、早く来てくれてうれしい。 」とへにゃへにゃ柔らかく微笑んで。 )
っ、……そっか。
( きっと彼女は意図せずだろうが、そうして素直に吐き出された気持ちの方が存外カウンターとしては攻撃力が高かったりするもの。少し赤らんだ頬やいつもと違う服装も相まって、例に漏れず自分も彼女の言葉にどきりと胸が鳴ってしまえば何とか一言だけ返すのが精一杯で。ようやく合った視線と柔らかく笑う彼女が可愛くて、正直その辺を歩いている他人にすら見せるのが勿体無いと思ってしまう。先ほどから自分の視界の中にはちらちらと彼女を通りすがりに見ていく人が何人か映ったりしているのだが、そうやって視線を向けたくなる気持ちが分かると同時にやはり少しだけ独占欲のようなものも湧いてきてしまいそうで。「…とりあえず昼飯にはさすがに早いし先に用事済ませようと思うんだけど、いい?」と、本日のお出かけの名目である自分の欲しい物の買い出しを先に終わらせてしまおうと彼女に問いかけて。 )
ん!
……ね、ね、今日は何お買い物するの?
( 本日の名目である“お買い物”、そういえば何を買うのか聞いてなかったことに気がつけば彼の問いにこくんと深く頷いたあとにそのまま続けて質問を。ふぐ太郎たちのごはんかなぁ、とやっぱり彼と言えば生物準備室にいる小さな友人たちのことを思い出しては不思議そうに首を傾げるも、言い訳にするにしては“一人で十分”とバッサリ切られてしまいそうなのも事実でやっぱり本日の買い物予定のものは特に浮かばずに。やはりクリスマスが近いだけあって家族連れの次に多いのはカップルばかり、もしかしたら自分たちもその中のひとつに見えていたらいいのになぁなんて思ってしまうのは図々しいとは理解しているけれど仕方の無いこと。ブーツのヒールでいつもよりちょっぴり彼の問いにお顔を見つめやすいのが嬉しくて、みきはちらりと彼を盗み見てはまたこっそりと頬を綻ばせて。 )
あー、…完全に私物なんだけどな。
ほら、俺の部屋にあるソファ。あれだいぶ使ってるしそろそろ買い替えようかなって思ってたんだよ。
( 家族連れの小さな子供がそこかしこに置かれたクリスマスの飾りやサンタに喜んでいる微笑ましい様子や、腕を組んで幸せそうに歩くカップルたちを横目に歩く教師と生徒は、今日ばかりはその関係性に見えないのではないだろうか。あわよくばカップル…とはいえ実際、良くても兄妹が関の山かもしれないが。彼女の質問にそういえば伝えてなかったと気付けば、口にしたのは仕事とは関係のない完全な私用の物。彼女は自分の家に何があるか知っているし、実際に使ったことのあるソファのことを指せばすぐに思い浮かぶだろう。まだ見た目は綺麗とはいえ自分が今の学校に赴任されたのと同じ時期に買ったものなので、年季でいえばそれなりにはなっていて。「前からちょっとバネが怪しくなってきたなーって思っててさ。せっかく御影に付き合ってもらうんだから、お前のセンスに任せて選んでもらおうかなって。」と、彼女をちらりと見やってにやり。もちろんお買い上げ後は後日配送してもらうので荷物的にも何の問題も無い。 )
ソファー…、
み、みきでいいの……?!
( あまりに予想外の買い物に思わずぽかん、と間抜け面で彼の言葉を復唱してしまえば、彼が毎日使うようなもの(しかもそんなにぽんぽん買えるような値段のものではない)を自分が選んでいいのかと驚き半分照れ半分といったように頬に淡く朱を散らしながら思わず問いかけて。確かに彼の家に実際に行ったことがあるのでインテリアもわかるしどういうソファが合うかというのも大体想像はつくのけれど、それでも責任重大であるためにちょっぴり胸がそわそわしてしまう。だって2人で家具を見に行くだなんて本当にカップルみたいだし店員さんとかに間違えられちゃうかもだし、けれど自分がチョイスしたものを彼がこれから毎日使うんだと想像したらみきのおっきな独占欲も満たされてしまうような気がするのもまた事実。なんだかくすぐったい気持ちになりながらもぐっ!と気合いを表すべく拳を握れば「 一生懸命選ばなきゃ…! 」と改めて気合いを入れ直してはこくりと深く頷いて。 )
それが今日のお前の使命だからな、
頼んだぞー。
( 狼狽えながらもどこか喜んでいるようにも伺える彼女が可愛くて面白くて、そんな様子を楽しげに見ながら本日の彼女は我が家(といってもとりあえずはソファだけなのだが)のインテリアコーディネーターに大抜擢。そんな彼女の心中まではさすがに察せないが、嫌がっている素振りがないことに少しだけホッとしたのは内緒。薄らと頬を赤らめながらもやる気を見せる彼女が何だか可笑しく、「いやさすがにそんな気合い入れるようなことじゃないだろ。」とくすくす笑いを零し。…さて目的が明確となれば早いところ向かってしまおうと大手の家具屋へ向けて歩き出して。 )
だってせんせーが毎日見るものでしょ?
毎日それを見る度にみきを思い出しちゃうくらい素敵なソファ選ぶの!
( 早速家具屋へと歩き出した彼に倣うようにみきもゆったり歩き出せば、ただ立っていただけの時とはまた違う寒さにぶる。と一度身震い。それからへらへらと柔らかく笑えば自信がどうしてこんなにも彼のソファ選びにやる気になっているかをさらりと応えてはやる気を示すべくにこ!と満点の笑顔を浮かべて。クリスマス間近の街並みはどこを見てもキラキラと素敵に輝いており、もうさすがにサンタさんを信じていないみきですらとわくわくそわそわしてしまうのだから幼い子供たちは全てが楽しみで仕方がないのだろう。両親に買ってもらったのだろうプレゼントを小さな手いっぱいに抱えてにこにこぺかぺか歩く子供を微笑ましく見つめてはその視線に気付いた子どもがちいちゃな手でばいばいと振ってくれた手に「 ばいばーい 」と人懐っこい笑顔を浮かべて同じように手を振り返しては癒された!と言わんばかりに頬を弛め。 )
なーんか選ぶときに変な念でも込められそうな気がしてきた…、
人選間違えたかな俺。
( 小さく身震いをした彼女に気付いたものの、生憎マフラーや手袋といったものは着けていないし自身のコートを差し出せばきっと今度は自分の方が耐えられなくて身震いが止まらなくなるだろう。とはいえただでさえクリスマスで人通りが多いうえに明るいところで、何も無いとはいえ教師と教え子が手を繋いで歩くなんていつどこで誰に会うかも分からない状況ではあまりに綱渡りが過ぎる。少し悩んだ結果、少し歩く速度を緩めて彼女との距離を少しでも近くしたうえで少しでも風除けになればとイマイチ格好のつかない行動に出るのが精一杯で。彼女のやる気に溢れた宣誓を聞けば溜息混じりに笑いながらも、そもそも他に人を選ぶという選択肢は存在していないのだが。いつの間にやら小さな子供とやり取りを交わしていた彼女に気付けば微笑ましそうに笑みを浮かべ、「子供はいいなぁ。大人になると無条件にプレゼントが貰えなくなるどころか配る側にまわんなきゃいけなくなるし。」と何とも夢のない悲しい大人の現実を切り取った一言を零して。──ちなみに彼女に遅れて自分もこっそり手を振ってみたが、残念ながらぷいと顔を逸らされてしまって少しだけショックを受けているのは彼女に気付かれていないことを祈る──。 )
し、失礼なー!
変な念じゃなくて純粋な愛情ですー!
( 少し歩くスピードを落としてくれた彼に“歩くの遅かったかな?“と残念ながら彼の真意は伝わっていないのだけれど、歩くスピード合わせてくれて優しいなぁと結果的に彼の好感度はまたさらに上がり。あとはちょっと距離が近くなって嬉しいな、と思ったり。だがしかし彼の言葉にむ。と唇を尖らせては反論になっているんだかいないんだかの言葉を返しては不満げに頬を膨らませて。好きな人の私物を選ぶ、だなんて滅多にない機会だしその本人から直接指名を受けたのであれば殊更張り切ってしまうのは当然のこと。あとは生徒と教師という垣根が無くなった時にソファどう?なんていった名目でおうちに遊びに行けたらいいななんて下心も正直ちょっぴりあるのだけれど。きらきら未来のあるちびっ子との癒される一幕に心がぽかぽかと暖かくなっていた中になんとも現実的な言葉が降ってくれば、相変わらずな彼にもう!と呆れたように笑いながら「 せんせーも良い子にしてたらプレゼントもらえるかもよ? 」と悪戯っぽく首を傾げて。幸か不幸か、子どもって可愛いなぁと其方に夢中だった為か彼が見事子どもにスルーされたところは見ていなかったのだけれどきっとそんな所もみきとしては可愛いポイントに加算されるのだろう。 )
はは、純粋って。
お前のことだからまあ変な念は無いにしても、ちょっとした下心くらいなら入れてきそうだなって思ってたんだけどな。
( 自分自身が寒さに滅法弱いのは自覚しているため、彼女との距離が縮まることでほんの僅かでも空気の冷たさが和らぐのであれば一石二鳥。結果的に手を繋ぐには近すぎるが、腕を組むにはまだ少しだけ遠いような絶妙な距離感の出来上がり。もちろん真っ昼間の人通りが多いところではそのどちらも出来かねるのだが。可愛らしく頬を膨らませて恥ずかしげもなく言い切る彼女に笑いながら、その心の奥の計画(?)を知らないにしても冗談めいた言葉は偶然にも当たらずとも遠からずといったもの。もちろん本人にその自覚は無く、ある意味これは彼女限定のエスパーといったところだろうか。相変わらずこうしてたまにお姉さんムーブを見せてくる彼女に苦笑いしながら「毎日頑張ってる"良い子"な大人にはプレゼントひとつやふたつじゃ物足りないよな……サンタにはちゃんと見合った報酬を求めるぞ俺は。」と、内容こそ冗談満載だが声色は敢えて真剣に。もっともこの場合のサンタは赤い服と白い髭のおじいさんでは無くもっと現実めいた相手が対象なのだが。 )
う゛。
……………………別になんにもないもん。
( まさにたった今考えていたことをすばり当てられてしまえばぎく、と分かりやすく表情を固まらせながら静かに視線を逸らしては嘘と言うにはあまりにもお粗末な演技で言葉をぼそり。そりゃあ女の子だって好きな人に対してなら下心だって持ってしまうし仕方ないじゃん、と若干責任転嫁をしつつも少し恥ずかしそうにちらりと彼を一度見たあとにまたその夕日はすぐにふい!と逸らされて。ちゃんと見合った報酬、と言葉の冗談さに比べてその声色はなかなか真剣なものでみきは思わず瞳を丸くして。毎日頑張ってるいい大人に送る、ちゃんと見合った報酬。彼に比べたらまだまだ子供なみきにとってその報酬内容というのは簡単には思い浮かばずにゆっくりと首を傾げては「 こ、高校生の財力でも買えるもの……?例えば……? 」と“あくまで自分が買う訳では無いけれど興味本位で聞いています”といったテイストを崩すことなく例えばどんなものかと彼に問いかけてみて。…最も、それが自分があげられるものならば後ほどこっそり買おうと思っているのは内緒(だと思っている)のだけれど。 )
…へえ~~~~?
……俺も大概だけど、お前も結構分かりやすいよな。
( ほんの一瞬こちらを見たかと思えばすぐに合わなくなった目線を追いかけるように、首を傾げて覗き込みながらにやにやと悪戯っぽい笑みを浮かべて。自分の演技に難ありなのは分かっているうえで同じような彼女の演技を意地悪く指摘して。彼女がどんな下心を隠しているのかまではさすがに分からないにしても、純粋な愛情というのもきっと本音なのだろうがやはりそれだけでは無かったのだと分かれば可笑しくて抑えきれていない笑いが零れ。"例えば"と問いながらも"高校生の財力で"なんて言ってくるあたり、何となく彼女が企んでいることが分かるような気がする。きょとんと一拍、後にくすくすと笑いながら「財力は関係無いけどお前にしか出来ないプレゼントもあるぞ。例えば満点のテストとか。」と態とらしく意地の悪い言い方をするも、実際に教え子の成績が良くなるのは教師にとって素敵なプレゼントといっても過言では無いので決して嘘ではなく。 )
っ~…もう!
……だって仕方ないじゃん、……好きな人のおうちに遊びに行く言い訳にならないかなって、思っちゃったの。
( 其方を見なくてもわかる、明らかににやにやと楽しそうな声色にお手上げと言うようにぱっと頬に朱を散らしては彼の方へ羞恥に潤んだ夕陽色を向けつつ正直に考えていたことを答えて。ホントは言い訳やらキッカケがなくても遊びに行ける関係になれるのが望ましいのだけれど、今はそもそも緊急時でない限りは無理だろうし卒業しても自分の頑張り次第でないとそれは叶わないので少しでも保険をかけておくに越したことはないらしく。どうやら精一杯に装った興味本位ですというテイストはどうやらすぐにバレてしまったようで、くすくすと笑う彼からの回答は“満点のテスト”とのこと。ぽかん…驚いたように間抜け面を浮かべたあとにすぐ唇をとがらせては「 そんな点数取れたら最初から取ってるもーん。今60点取れてるのが奇跡なんだから。 」と不満げに彼のチョイスに苦言を呈し。確かに自分にしかできないプレゼントで、高校生にでもできて、彼が喜ぶプレゼントであることには変わりないのだけれど残念ながらそこそこ遠い夢であることもまた事実で。 )
…なるほどね。
ほんと強かだよなお前…。
( うるうると輝く夕陽色が下心を露わにさせられた恥ずかしさを物語っているが、そんな姿すらも可愛いと思ってしまう自分は結構末期なのかもしれない。買い出しに付き合わせることは先に言っていたものの何を買うか、そしてそれを彼女に選んでもらうと伝えたのはまさについさっきなのだが、それをすぐさま自分のチャンスに繋げようとするちゃっかりとした強かさはある意味素直に尊敬できる。呆れたような台詞とは反対に柔らかい視線を彼女に向けながら優しく微笑んで。…とはいえさすがにいち生徒に対して『いつでも家に来たらいい』なんて言えるわけはないので、思ってはいてもそれを口にはできないのだが。きっと彼女が欲しかった回答では無かったのだろう(わざとではあるが)、艶のある唇をつんと尖らせてまたもや不満を零す彼女の様子に「向上心があるんだか無いんだか……。」と小さく苦笑を。まあこうして"ご褒美"の時間が取れているだけ彼女の頑張りはしっかり伝わっていることに違いはないのだが。──そんな会話もそこそこに辿り着いた目的地は、こちらもクリスマスの飾りに彩られているだけではなくちょっとしたツリーや飾りをお勧め商品として販売しているよう。やはりそういったコーナーには家族連れやカップルが集中しており、私服だから周りからは分からないだろうとはいえ生徒を伴って入ることに何だか少しだけ背徳感を覚える気すらしてしまいそうで。 )
ほ、褒めてるのそれ……。
( 声色こそ優しくて愛おしさの滲む温かいものではあるけれどあまり褒め言葉とは言えないその言葉にグロスの塗られたさくらんぼ色の唇はつん、と尖ったままで。だが紛れもなく強かであるという部分については間違いでは無いので否定はできないしするつもりもあんまり無いのだけれど。自分よりも余程自分を理解してくれている彼がそう言っているのだからきっとそうなのだろう。暫くして辿り着いた目的地には大きなクリスマスツリーからこじんまりとした可愛らしいツリーや置物など正にクリスマス商品を前面に押し出しておりキラキラ色とりどりに輝いておりそれに伴いみきの瞳もきらきらと輝いて。「 見て見て!あんなにおっきなツリーも売ってるよせんせー、…じゃなくて、えと、…えーっと……司、くん…? 」自分の身長の倍はあるだろう、売り物とは思えないほどに立派なクリスマスツリーを見つけてはついいつもの癖で彼の服の裾をくい、と引っ張りながら見て見てと強請り─── かけたところで、そういえばあんまりお外でせんせーって呼ばない方が良いのか…?と相変わらず妙なところで気遣いが発揮されればちょっぴり悩んだ後に彼の方を振り返りながらこてりと首を傾げて名前を呼んで。いつも“せんせー”と呼んでいるせいで初めての名前呼びは何だか妙にそわそわと照れてしまいその頬はうっすら薄紅色に染まって。 )
褒めてる褒めてる。
お前にはそのままで居てほしいと思ってるよ。
( 楽しそうに笑いながらも口にする言葉に嘘は無くて。いつかの田中えまのように裏のある強かさもひとつの強みに違いはないが、自分の気持ちに正直で真っ直ぐな彼女の強さはまた違って美しく見える。例えその原動力が恋する乙女の下心だとしてもそれこそ彼女らしさだし、口にはしないがそういった部分に惹かれている自分を否定する気もなく。目的はソファひとつなのだが、こうもあちらこちらがキラキラと輝いていると子供や大人関係無く目移りはしてしまうもの。彼女の言葉にそちらに視線を向けるも、大きなツリーが目に映ったのはほんの一瞬。その次に耳馴染みのある声から出た聞き慣れない単語にすぐさまダークブラウンの瞳は丸く見開かれて彼女を映し。「───っな、…!?……~~~、お前…っ………今のは反則だろ…。」それはあまりにも突然の不意打ち。薄く朱を散らした頬でこちらに顔を向ける彼女を直視することが出来ず、思わず顔を逸らしては三十路の脆い心臓()が早鐘を打つのを抑えようと胸に手を当てて。 )
……なら、いっか!
( 暫くはむむむ、と唇を尖らせていたものの彼の言葉に嘘偽りがないのは声色を聞いて顔を見ればすぐに分かること。みきは安心したようにへにゃ、と微笑んでは目の前の彼がそう言ってくれるのであれば良いのだとすっかり不満気な様子はどこかへ吹き飛んでしまい。どうやら気遣いとして投げかけた言葉は彼に何かしらのダメージを追わせてしまったらしく、驚いたように綺麗なダークブラウンを見開いたかと思えばそのまま視線を逸らして心臓を抑えるような仕草をした彼に今度は此方が驚いたように瞳を丸くしては「 え!?だ、だってお外だし名前で呼んだ方がいいかなって思って…!ごめんね、嫌だった…!? 」と慌てて心配そうに彼を覗き込んでは不安そうに眉を下げて。個人的には本当にデートをしているカップルみたいでちょっぴり彼の名前を呼べたことは幸せだったのだけれど、もしも彼がそれで嫌な思いをしていたら嫌だなぁという風にまさか彼がそれ以外の感情で困っているとは微塵たりとも思っていないお顔で。 )
……、あー…別に、嫌とかじゃ…ない……。
( 良くも悪くも単純な彼女から不満げな様子は綺麗さっぱり無くなり、いつもの柔らかい微笑みにホッとしたのも束の間。まさかの名前呼びという意識外からの不意打ちに悶えていれば、今度はまったくの斜め上な心配を見せてくる彼女に小さく溜息を吐いて。確かに彼女の言うことには一理あって、それゆえの気遣いは素晴らしいとは思う。…が、いかんせん破壊力が強すぎて少々ダメージを受けてしまったのは致し方無し。もちろん彼女が心配するような嫌な感情などあるはずもなく、不安そうな彼女を安心させるべくそれに関してはきちんと否定を。少しして漸く落ち着けば、「…と、とりあえずソファ探すぞ…。」と店内を奥へと歩みを進めて。もちろん名前呼びに関しては咎めることなどせず。 )
?
……ならいいんだけど…。
( 未だに合わない視線には疑問は残るものの、どうやら嫌だとかそういったマイナスな感情ではないらしいことがわかると取り敢えずみきは分かりやすくほっと安堵の表情を浮かべて。ならばどうしてこんな反応なのだろう…と名探偵は顎に手を添えつつ店内の奥の方へと歩みを進める彼の数歩遅れて後ろを歩くこと暫く。─── …もしかして、照れている? !まさにピシャリと雷が落ちたような衝撃と共に名探偵は真相へとたどり着いたようで、みきはにこ!!と今日一番の笑顔を浮かべてパタパタと彼の真横まで駆け寄れば「 じゃあ今日一日お名前で呼んでいいってこと?司くん。 」とちょっぴり彼の耳元に唇を寄せながらふわふわご機嫌な声色で敢えて名前呼びをしながらそんなことをこそこそ問いかけて。だって外で“せんせー”って呼んだらみんなビックリしちゃうもんね?名前呼びなら兄妹かなって誤魔化せるもんね、そんな言い訳を並べたいたずらっぽい夕陽で彼を覗き込んではその表情は楽しそうに綻んで。 )
───!
( 大人しく少し後ろをついてくる彼女に意識を向けつつも、目線は目的の物を見つけるべく店内の案内板やらディスプレイされている家具やらを見ながら足を進めて。まさか後ろでこういう時ばかり能力を発揮する名探偵がまさにひとつの謎を解き明かしたことなどつゆ知らず、隣に駆け寄ってきた彼女が何かを言いそうだったので反射的にそちらへと体を傾けて。そうして掛けられた言葉は何とも楽しそうな声色と表情に彩られた自分の名前。思わず再びぱちくりと彼女を見たものの、さすがに二度目となれば初回の不意打ちよりは耐えることも出来る。悪戯に輝く彼女の瞳が言いたい事がこちらへの気遣いなのも分かってはいるが少しだけ悔しくて、「…いいよ。せっかくみきが気遣ってくれてんだもんな?」とその夕陽色をしっかりと見つめ返してはにっこり笑顔を携えながら小首を傾げて。 )
、……!!!???
( にこにこ、にやにや。今のみきの表情を表すとしたらそんなに擬音がピッタリで。普段あんまり見ることの出来ない想い人ノレアな姿をこの目に収めておこうと彼を見つめていたのだけれど、ようやく目線の合った彼は照れている様子もなく此方を真っ直ぐ見つめるダークブラウンは少しイタズラじみた色が滲んでいて。彼から返ってきた言葉に3秒ほどシンキングタイムがあったあとに漸く彼に反撃されたのだと理解をすれば先程までのにこにこにやにやした表情から一転、大きな夕陽をまん丸にしながら頬を真っ赤に染めて言葉をなくしてしまい。確かに自分の言い訳を使うのであれば彼がこちらを苗字で呼ぶのも随分とおかしな話になってしまうので彼の対応は大正解なのだけれど、突然好きな人からの名前呼びに混乱しているみきはそれに気づくことはもちろんできずに「 ぁ、……う、……。 」とただただパクパクと言葉にならない声を漏らすことしか出来ずに今度はみきが彼から視線を逸らしてしまい。 )
お返し。
( 彼女からの可愛らしい悪戯タイムを強制終了させるかのような反撃は上手く決まったようで、そこら中に飾りのモチーフとして置かれているサンタの服のように真っ赤に染まる彼女の頬と言葉になっていない声が漏れ出る様子に満足そうに笑えば小さく舌を出して。とはいえ彼女から名前呼びをされるのは周りからの邪推を逃れるためもあるので一向に構わないのだが、さすがに自分の方はいざという時以外は苗字で呼んでも差し支えはないだろう。「ほら、固まってないで行くぞ御影。」とくすくす笑いを抑えようともせず、視線を逸らした彼女の頭を軽くひと撫でしては止まっていた歩みを進めようと促して。少し遠くには寝具や机といった家具類が見えており、その一角にいくつか目的のソファを見えているので。 )
い、……いじわる…!
( ついさっきまではこちらがからかう側だったのにあっという間に形勢逆転されてしまったのが悔しくて、其方を見なくても今彼がどんなお顔をしているかなんて一緒にいる時間が長いみきにとっては簡単に分かってしまうこと。ぐぬぬ…!と悔しそうに頬を膨らませて小さく言葉を零したものの彼に頭をひと撫でされてしまえばなにだか怒るにも怒れなくて、未だ赤みの引かない頬をそのままに残念ながらいつもの苗字呼びに戻ってしまった彼について行くようにぷくぷく頬をふくらませたたまま少し先に見えるソファコーナーへと歩き始めて。そうして漸く目的のコーナーまでたどり着けばやはり大型店というだけあって1人用からファミリー用まで様々な形のソファが置いてあるのにみきの瞳は怒っているのも忘れてきらきらと興味深そうにソファたちを映して「 いっぱいある…! 」とキョロキョロと目移りしてしまいながらも1,2人用のソファの方へとしっかり歩を進めて。 )
んー、どれがいいか……
寝落ちしても体痛くならないやつとか……、
( ぷくりと膨らんだ頬と悔しそうに一言だけ零しながらも、こちらが頭を撫でるだけで反撃や反論が出来なくなる彼女が面白くて可愛くて。けらけらと楽しげに笑いながら辿り着いた販売コーナーには様々な色やデザインのソファが所狭しと展示されており。高校生でこういった所に用事があってくる事なんて滅多にない(少なくとも自分は無かった)のだろう、きらきらと瞳を輝かせて目移りさせる彼女を見ては優しく微笑んで。そのまま一緒に求めるサイズのソファが置いてあるコーナーへ赴けば、座面の柔らかさを手で押して確認したりしながら色々なソファをざっと見やって。「御影、気になるやつあったりする?」と、本日コーディネーターに指名している彼女に意見を仰いでみて。 )
あ、ダメだよ司くん。
寝心地いいやつにしたら今日はここでいっかってなるでしょ?
( 座面の柔らかさを手で確認する彼を見てそうやって調べるのか…!とまたひとつ賢くなれば彼の真似をするように自身も手で押してみたり布地の柔らかさを掌で確かめて見たりと数々あるソファの中で吟味を重ねていき。ふと聞こえた彼の言葉にはしっかりちゃっかりツッコんでは続けて重ねられた彼の質問には悩ましげに首を傾げては「 んー…これいいなぁって思ったんだけど、色がふんわりしすぎかなぁって悩んでる…。 」とその中でひとつ、2人用のなかなか柔らかで座り心地の良さそうなアームソファを示して。カラーリングが落ち着いた雰囲気ではあるのだが柔らかなブラウンのものしかないようでどうやそこだけが引っかかっているらしい。みきはむむむ、と眉を寄せてはみきのセンスとしてはアリなのだけれど男性の一人暮らしの部屋と考えると明らかに女性が選んだんだろうなと直ぐに分かってしまうだろうと考えてしまえば自信満々にコレがいい!と無責任に勧めることはできなくて。 )
う゛………………、
…くそ、否定できねー………。
( ただひたすら寝心地の良さそうな物を吟味していれば彼女からピシャリと核心をつくようなツッコミが。かといってそれを真っ向から否定できる自信などもちろん無いので、ぐぬぬと何も言い返せずに項垂れて。寝転がるだけならまだしも、自分の性格上動くのが面倒だとなれば間違いなくソファで寝るだろう。結果どんなに良いものでも所詮ソファはソファ。体を痛めたり風邪を引くのがオチなので、自分のことをよく理解している彼女に従う他無く。そういうストップを掛けてくれる時点でやはり彼女を連れてきたのは正解だと言えるのだが、当の本人はこちらの問いかけに何やら悩んでいる様子。彼女が示した先には、確かに独身男性の部屋に置くには少し柔らかすぎるのだろう色合いのソファが。だがそんな彼女の悩みなど気にすることなく「いいじゃん別に。コレにするか。」と、けろりと一言。過剰なほどミスマッチで無ければ別に色に拘りがあるわけでも無し、彼女が悩むほど(その悩みの種は分からずとも)の物には見えないので。 )
ふふ、もしそれで体調崩しちゃったら「来ちゃダメ」って言わても看病しに行っちゃうから。
風邪引かないようにしてね。
( どうやら自分の指摘はピッタリ当たりだったらしい。何も言い返すことの出来ない彼の様子に思わずくすくすと表情を綻ばせては脅しになっているんだかいないんだか絶妙なラインの脅し文句を。ソファで寝てしまい体調を崩したら看病に行けるし、崩さなかったら崩さなかったで彼が元気ということなのでみきとしてはどちらにしてもウィンウィン(?)なのだ。此方の悩みなど気にせずにさらりと一言返した彼にぱち…と驚いたように瞳を丸くしてはソファを指さしながら「 で、でもこれ女の人が選んだんだなーって色だよ…?いいの…? 」とおずおずと自分が悩んでいる最もな理由を差し出して。例えば、想像もしたくないけれど、自分以外の女の人が彼の家に遊びに来ることがあるとしたらきっと女同士それは伝わってしまうだろうし女の影があるのではと疑わせてしまうだろう。みきとしては適度な牽制となるので全くもって構わないけれど、それで彼の邪魔になってしまったらと考えると素直におすすめは出来なくて。 )
…確かにお前俺の家知ってるし、来るなって言っても聞かない未来が見える気がするわ……。
( どちらが年上なのか分からなくなるやり取りに居た堪れず頭を抱えて。内容的には何とも優しさに溢れているのだが、教え子が家に来るというのは確かに教師にとっては場合によって大変効き目のある脅し文句だろう。前回はやむを得ずなうえきちんと彼女の家族に連絡もしたとはいえ、そう何度も歓迎をするわけにはいかなくて。…もしもそうなったとしてもちろん嫌という気持ちは無いし、むしろ一人暮らしにとって看病に来てくれる相手がいるというのは大助かりではあるのだが。彼女の口からソファを決めかねていた理由が零れれば「?…何か問題あるか?つーかそもそも選んでんのは御影なんだから"女の人が選んだ色"になるのは当たり前なんじゃねーの?」と、きょとんとした顔で首を傾げて。伺うように言葉を紡ぐ彼女と違い、それでこのソファを選ばない理由が分からないといった様子で。自分的には何の問題も無いのでたまたま近くを通った店員に声を掛けては購入する旨を伝えて。 )
だって司くん風邪引いた時“食欲無いしめんどくさいから”ってゼリー飲料とかで凌ぐタイプでしょ。
風邪ひいた時ほどちゃんとご飯食べなきゃダメなんだからね。
( 以前彼の家にお邪魔した際の冷蔵庫の中や調味料の充実具合等々を見ればある程度普段の食生活はどうしても見えてきてしまうもの。普段から料理をしない人が風邪の時にわざわざ料理をするとは思えずにぷく、と呆れたように頬をふくらませながら鋭い指摘を続けていけばお姉さんぶって分かってる?と言わんばかりに彼の顔を覗き込んで。最も、教師である彼にとっては迷惑だということも分かっているのでお家までは押しかけなくとも家の扉にご飯を提げておくくらいのことはしようと思っているのだけど。意を決して自分がこのソファを迷っている理由を素直に吐露したと言うのにどうやら目の前の彼はその深い訳までは把握していないような様子で店員さんに購入意思を伝えてしまい。もちろん店員さんが売上チャンスを逃すわけも無いのでにっこりと柔らかな笑顔を浮かべながらそれを了承し購入準備を進めるべく品番確認をしてさっさとバックヤードへとはけていってしまい。「 ……もう、みき知らないんだからね。初めて来た女の人とかに指摘されちゃえばいいんだから。 」せっかく自分が気を遣ってあげたというのに、と呆れたように息を吐いたもののその実はみきの独占欲は充分に満たされてしまうのでその声色や表情はちょっぴり嬉しそうで。 )
………お前もしかして、前来たとき監視カメラか何か仕掛けていった?
( 彼女の指摘はあまりにも的確で、本当に見られているのではと思うほどまさに調子を崩したときの自分の行動をズバリと当てられればぎくりと固まり。そのままじとりとした視線をこちらを覗き込んでくる彼女に向ければ、冗談ではあるが可能性のひとつとしてそんな問いかけを。とはいえ少し考えれば、これだけ長いこと一緒にいるに加えて心許ない冷蔵庫を見られているのだからそんな推理はきっと簡単なのだろうと当たり前に分かることではあるのだが。にこやか且つ素早く対応してくれた店員さんを見送っては、配達の手続きもしなければいけないのでレジへ向かおうと。そんな中で聞こえてきた彼女の言葉は予想だにしていなかったもので、二度目のきょとん顔を披露した後へらりと笑顔を浮かべては「はは、何だそれ。お前そんなこと心配してたの?……仮に誰か来るとしても、ソファを選んだ張本人が看病だーつって押しかけてくるぐらいだろ。」と可笑しそうに言葉を繋いで。何の意図もなく自然と出たものだが、まるで彼女以外がもう部屋に来ることなど考えていないかのような台詞となって。 )
、
……ふふ!そんなのしなくても好きな人のことくらいわかるよ。
( じとりとしたダークブラウンでこちらを見つめながら冗談交じりの問いをなげかける彼にきょとん、と瞳を丸くしたかと思えばそのままくすくすと可笑しそうに笑い出し、そのままつん。と彼の頬を人差し指で軽く突いては楽しそうに頬を弛めて。監視カメラなんかに頼らなくても好きな人のことならばなんでも分かってしまうのだという恋する乙女はいつだって無敵で最強、みきは彼のダークブラウンを愛おしそうに見つめてはまたへらりと微笑み。きょとんと瞳を丸くしたかと思えばとんでもない殺し文句をさらりと零した彼に今度はこちらが瞳を丸くする番で。きっと彼は気づいていないし無意識なのだろうけれど、好きな人から自分以外の女性を部屋に入れるつもりがないような発言をされてときめかない女は当然居るはずもなく(みき調べ)じわじわと熱の上がってきた顔を自覚しながらもどうしようもないほどのときめきを発散する術はどこにもなくて「 っ、………ぎゅ、ってしていい…? 」と真っ赤になった顔を両手で隠しながらいつものようにダメ元でこのトキメキの発散をしようと小さなおねだりを。最も、断られる前提でいつも言っているのでいざ許可されたら許可されたで慌てるのはみきの方なのだけれど。 )
えぇ……?
そんなの分かるの絶対お前だけだって……。
( 大人しく頬をつつかれながらも怪訝な表情は崩さず、彼女曰くの恋する乙女のパワーとやらを実感するに終わり。お前だけ、なんて言いながら自分も彼女のことならきっと他の人より少しばかり気付くこともあるのだろうが、もちろんそれも無自覚で。彼女の夕陽色が綺麗にまん丸く見開かれたかと思えば、その瞳もすべて小さな両手に隠されてしまい。彼女の手がその顔を覆う直前に見えたのは本日だけでも何度か見る機会のあった真っ赤に染まった頬。そのままぽそぽそと、彼女の中の何かが限界を超えた際にいつも頼まれるおねだりを零されれば「また急だなお前は。…ダメに決まってんだろ、まったく。」と腰に手を当て、呆れたような笑みを浮かべて。そもそも仮にハグをするのに差し支えのない関係性だったとしても、こんな人の多いところではさすがに出来ないのだが。 )
せんせーが分かりやすすぎるのもありまーす。
( 未だ怪訝そうな顔を崩さない彼に対してくすくすと頬を弛めてしまえばそのままふに、と一度だけ彼の頬を指先で摘んで満足したらしくその手は離れて。普段散々わかりやすいと彼にからかわれているのでそれの仕返しのつもりらしい上記の言葉を返せばそれにプラスしてべ、と赤い舌を小さく出してこれもやっばり彼の真似で。案の定断られたハグのお強請りはいつもの事なので特になんにもショックを受けたりはないのだけれど、この胸の中の致死量のときめきはどうにかしなければならない。みきは両手で顔を隠しながら「 だってきゅんきゅんしたんだもん…ときめきで死んじゃう…。 」ともごもごくぐもった声で何度目か分からないこのお強請りの理由を説明し。ちらり、と両手の隙間から顔を覗かせては、困ったような…もとい恥ずかしそうの夕陽色で彼のダークブラウンを見つめて。 )
うっせ。
お前にだけは言われたくねーよそれ。
( 彼女の細い指が離れた後、ただでさえ分かりやすいと日頃揶揄っている相手に同じ言葉を返されるも残念ながら彼女の言っていることはすべて当たっているため反論のしようもなく。細い指の隙間からちらりと覗く夕陽色はどこか恥ずかしそうに熱の込もったもの。そんな瞳に見つめられれば少しばかり絆されそうになる気がしなくもないが、「──、…ばーか。ほらさっさと行くぞ。」と一言だけ返せば支払いを済ませるため踵を返して。道中で季節物の商品として炬燵やら完全に自分がダメになりそうな家具に惹かれてしまいそうになったりしたが、またもや彼女に的確な指摘を受けると考えれば泣く泣く()諦めて。 )
─── ふぅ。
炬燵も人をダメにするクッションも着る毛布も全部阻止!
( 気分はまさにひと仕事終えた後。会計に行くまでの道中、尽く人をだらけさせるのに特化した魅惑の家具たち(冬はそういったものが特に多い)に惹かれる彼を正論パンチで引き剥がす作業を繰り返すこと数回行っていけば、あとは今会計を行っている彼と合流すれば本日の目的である買い出し補佐の仕事は早々に終了するわけで。もちろん彼のお金出し彼のおうちで使うものなのだからある程度は自由に買ってもらって構わないのだけれど、それで体調を崩してしまったり体を痛めてしまったら元も子も無いので本日のみきは買い出し補佐の他にそんな彼の欲望を打ち破る役だったのかもしれない…と知らされざる自分の新たな任務を発見したことに満足気に頷きながらもベンチで彼の買い物が終わるのを大人しく待っていて。─── 本当はちょっぴり夫婦茶碗とか、そういったペアの食器類に目移りしてしまっていたのだけれどそれはきっと彼にはバレていないので良しとして。 )
───『すみません、お姉さんあちらのお客様のお連れ様ですよね?』
( 目的の物はしっかり買えたものの、誘惑に負けるように魅力的な品を見つければあっちへフラフラこっちへフラフラ。しかし何を見ても反論の余地など許されない同行者のド正論に勝てるはずもなく、しおしおとソファのみを購入するためにレジにて手続き中。そんな自分の知らないところで店員のお姉さんが彼女に声を掛けていることなどもちろん気付くはずもなく。──『ただいま当店でお品物をご購入して頂いたお客様にクリスマスのサービスとして粗品をプレゼントしておりまして~。カップルのお客様には、ペアのマグカップかミニクッションがお選び頂けますが如何でしょうか?』とプレゼントの写真が載ったチラシをにこやかに差し出して。マグカップの方は淡いピンクとブルーのペアで、中央から少し下にワンポイントとして白いラインが1本入ったシンプルなもの。続いてミニクッションの方は、彼女ならば抱きしめた際にちょうど良いサイズ感になるだろう。こちらも色合いはピンクとブルーだがマグカップよりは少し落ち着いた色で、デザインは可愛らしいテディベアが小さなハートを胸に抱いているもので。 )
─── へ、?
あ、いや、えっと、……
( 突然かけられた声にハッと我に返ればそこにはにこやかな笑顔の店員のお姉さん。なんだろう、と素直に話を聞いていればどうやらお店のキャンペーンで声をかけてくれたそうで、“カップルのお客様”という部分に思わず否定をしそうになったものの、こうして彼と並んで歩いていて初めてカップルに間違えられたという記念すべき嬉しさとちょっぴりの照れで頬を淡い桃色に染めれば否定の言葉はふにゃりとしたはにかみに変わり。お姉さんが笑顔でシンプルで使いやすそうなマグカップと可愛らしいクッションの写真が載ったパンフレットをじ、と真剣な夕陽色で見つめては少し悩んだ後に「 えと、…じゃあ、マグカップでお願いします! 」と今日のデートの為に昨晩塗ったオレンジ色のマニキュアで彩られた指先でマグカップの方をとん、と指さして。マグカップならばおうちに何個あってもいいし、シンプルなデザインなので別にみき用じゃなくても来客用(ほんとはみき専用してほしいけれど)として使えるのではないかという考えで勝手に選んでみたものの心の奥でちょっぴり“勝手に決めちゃったけどいいかな”、“せんせー使ってくれるかなぁ”と不安もあったりして思わずちらりと彼の方を見ては不安げに眉を下げて。 )
『ありがとうございます、マグカップですね。ではすぐにお持ちしますね~。』
( 可愛らしいお客様の照れた様子に、まだ付き合いたてなのかしら。なんて微笑ましく思っていれば、少し悩んだ後に選ばれたマグカップ。にこにこと了承すれば、店の一角に今回のプレゼント企画を宣伝しているスペースがあるのでそちらへと小走りで向かい。イベント用に広げられた机の上には大量のプレゼントが用意されており、マグカップが2個入っている箱がぴったり入る紙袋にその箱をひとつ入れるとまたもや小走りでお客様の元へ。『お待たせいたしました~。本日はありがとうございました。』と彼女に袋を手渡せばぺこ、と一礼、そのまま次はレジを通ったばかりの家族連れのお客様の方へと向かって。───「悪いお待たせ。明日には届くみたい………って、何それ。」店員が彼女の元を離れて少し、支払いとその他手続きを終えて戻ってくればベンチで大人しく座って待っていたはずの彼女の手にいつの間にか小さな紙袋があることにきょとんと。 )
わ…!
ありがとうございます、大事にします!
( 店員のお姉さんが戻ってくるのを待っている間はちょっぴりのそわそわとドキドキで正直落ち着かなかったのだけれど、いざマグカップの入った袋を渡されればぱぁあ!と夕陽色の瞳はきらきらと輝いて。大切そうに両手でそれを受け取ったあとぎゅ、と胸に抱き締めれば嬉しそうにふにゃふにゃ笑ってお姉さんにお辞儀を。それからしばらくして戻ってきた彼にキラキラした笑顔で紙袋を差し出しながら「 あのね、お店のクリスマスのキャンペーンでカップルの人にってペアマグカップくれたの!だから、……えと、お、おうちで…使ったらどうかなって…。 」とにこにこ元気に話し始めたものの段々と不安も襲ってきたのか声は最終的に小さな小さなものになり。これじゃあまるでペアだからみきの分も置いてね!とわがままを言っているようで、みきは差し出していた紙袋をそっと胸元で抱きしめては「 …お、お客さん用に…とか… 」ポソポソ付け足して。 )
へえ、いいじゃん。
マグカップなんて何個あっても困るもんじゃねーし。
( "カップル""ペア"の2つの言葉に目を丸くしたものの特に嫌がったり言及などしたりせず、差し出された袋を受け取…ろうとしたのだがそれは叶わず。段々と彼女の声は小さくなるし、最後に付け足された言葉が本心ではないことくらいはさすがに分かる。「うちに来る客っていっても友也とか男友達くらいだし、あいつらに出すのにペア物は気持ち悪いだろ。…俺のとこにあっても片方使わないままで勿体無いしお前1個持って帰れば?"カップル"用なんだろ?これ。」自分と男友達が色違いのペアカップを使う様を想像してどこかげんなりとしながら、別にペア物だからといって必ずしも同じ所に置いておかなきゃならないわけではないだろうと。お互いが1個ずつ持っていてもペアはペアだしそもそも貰ったのは"自分たち"だろ?といつもの意地悪な、しかしいつもよりは少し優しさも混ざったような笑みを浮かべてどこか不安そうな彼女の顔を覗き込んで。 )
!!
い、いいの……!?
( ホントはやだけど、でも我儘を言う勇気もなくて。けれど彼から告げられた提案にぱっと分かりやすく表情を輝かせてはきらきらと光る夕陽で彼を見上げて嬉しそうに表情を綻ばせ。置いてある家が違くとも、ペアマグカップはペアマグカップ。カップル用ならば尚更。いつもの意地悪な笑顔の中に優しさと温かさを感じればさっきまでむくむくと湧いていた不安はあっという間に散ってしまい。紙袋を持っている手を口元まで持ってきて緩んでしまう口元を隠せば「 じゃあ、マグカップおそろいしよ?─── …司くん。 」とにこにこふわふわ浮かぶような甘い声色で小さくおねだりを。 )
いいもなにもお前以外に誰が使うんだよ。
( やっぱ分かりやすい。と自分のことは棚上げに、こんな些細なことでここまで嬉しそうに顔を輝かせる彼女が可愛くて柔らかく微笑み。改めてお揃いを強請ってくる彼女の仕草や声色はとても甘く、漸く聴き慣れたはずの名前呼びにその甘さが加わればまた攻撃力は一段と高まって。どきりと胸が高鳴るのを誤魔化すように「っ、…はいはい喜んで。───じゃあ俺の用事も済んだことだしそろそろ昼飯にするか。」と、スマホで時間の確認を。お昼時にはまだ少し早いが、これくらいの時間ならどこの店もまだ混む前だろうしスムーズに昼ご飯を食べられるだろう。小さい紙袋とはいえ荷物は荷物。それ持つから、と声を掛ければ手を差し出して。 )
ふふ、はあい。
─── …ね、せんせーって普段外食するの?
( 未だゆるゆると緩んでしまう頬をそのままに、確かにちょっぴりお腹がすいてきた時間だと彼の言葉に元気よく返事をしてはそういえば大人の男の人ってこういう時どんなお店行くんだろ…と普段は女子高生らしくファーストフード多めなみきはちらりと彼を見上げて純粋な疑問を投げかけて。マグカップがふたつ入っただけの紙袋は決して重くないし全然持てるのだけれど、紳士に紙袋を持ってくれようとする彼にきゅん。とまた単純にときめいては「 ありがと!優しいとこもだいすき。 」と当然のように感謝と共に愛も投げかけて。ハイハイと流されるのを分かっていても好きだと思ったらすぐ伝えなければ気が済まないので、恥ずかしいなんて感情は二の次。伝えられなくて後悔はしたくないので、いつだってみきは自分の気持ち(恋心)に正直で。 )
んー…友達と飲みに行くくらいで滅多にしないかな、
行ってもラーメンとか。
……あ。言っとくけど、オシャレなレストランとか高級フレンチとか俺に期待すんなよ。
( 彼女のように、当たり前に自分の気持ちを素直に伝えられるのは本当に美点だと思う。大人になればなるほど建前やらしがらみが多くなって気持ちを押し殺すことの方が当たり前になってくるもの。もちろん彼女と自分の間には今はまだどうしても超えられない壁があるためこちらから何かできる訳ではないので、こうして好きなだけ気持ちをぶつけてきてくれる彼女に感謝しつつも少しだけ羨ましかったりするのも事実なのだがそれは内緒で。彼女からの質問には少し考える素振りを見せるも、普段は惣菜弁当とごく稀にする自炊ばかり。外食は確かに楽だが、1人だとどうしても大手チェーンの牛丼屋であったりラーメン屋くらいの選択肢になってしまう。仲間内で行くのはだいたい居酒屋ばかりだし…と考えたところで、このクリスマスの雰囲気にピッタリなお洒落ランチを期待されているのではと態とらしくハッとすれば、渇いた笑いを浮かべながら"大人の男性"らしからぬ格好のつかない台詞を零して。ましてや異性とこうして休日にお出かけ(デート)なんて数年ぶり。「御影は何か食いたい物とか無いの?」と、とりあえず本日買い物に付き合ってくれた彼女のリクエストが何よりも先だと首を傾げて。 )
お、男の子のご飯って感じ…。
( ファーストフードやコーヒーチェーン店、ファミレスはよくあれどあまり友人とラーメン屋さんに行くことがない女子高生にとってはなんだか新鮮で、ちょっぴりそわそわした気持ちを感じながらも彼の普段の食生活にぽそりと一言。もちろんみきもラーメンは好きなので食べたくなったら食べに行くことはよくあるのでその気持ちは充分分かるのだけれど。だがしかしハッと何かに気がついたかなような反応の後に付け足された彼の言葉にぱち!と夕陽をまん丸にしては思わず吹き出してしまいながら「 大丈夫だよー、自分で払えるレベルのお店しか行きませーん。 」とくすくす可笑しそうに笑いながらふるふると首を振って。最もそういうところは大人のお姉さんとお兄さんが行くところなのでこんなチンチクリンが言っても1人浮いてしまう未来しか見えないので。それから彼に食べたいもののリクエストを聞かれればうーん…と悩ましげに首を傾げて考えること少し。パッと浮かんだ好物はなにだか彼に言うには子供っぽいような気がしてちょっぴり恥ずかしそうに「 ……オムライス…。 」と小さな声で正直に今食べたいものを答えて。オシャレなレストランでも、高級フレンチでもない、実に庶民的なメニューしか出てこない自分の子供舌には我ながら恥ずかしくなってしまうのだけれど。 )
男の子って歳でも無いけどな。
二郎系なんて食える気しねーもん、胃もたれと胸焼けする自信ある。
( 男の子、だなんて10歳近くも歳下の女子高生に言われてしまえば何だかむず痒くて苦笑いをすれば、実際若い子たちならペロリと食べてしまえるであろう流行りのガッツリ系は少々三十路の胃にはつらいので。そういう些細なところに案外年齢差を如実に感じたりするものなのだが、彼女の手作りを食べたことのある立場から言わせてもらえば味付けや量が余りにも自分に合いすぎていたので彼女とは食の好みの相違が無いのではと思っていたりもして。仮にもデート()だというのにまだ昼代を自分で出そうとしている彼女には悪いのだがもちろん払わせるつもりなんてこちらには毛頭無い。ただそれを先に言ってしまえば変に気を遣うのではと考えているので敢えて口にはしていないが。いつかフォーマルな服装で入るような店に彼女を連れて行ってあげたい気もするのだが、それはきっとまだまだ未来の話だろう。思い付いたものの何だか恥ずかしそうな様子で出してくれた答えは庶民の舌に馴染みのあるもの。背伸びして変わったような物でなく、素直に自身の食べたい物を教えてくれた彼女に何だかホッとしてくすくすと笑いながら「ん、りょーかい。オムライス…ってことは洋食か。えーっと確か……、──ちょっと歩いた先にオムライスが美味いって評判のカフェがあるみたいだから行ってみるか。」とスマホを取り出してぽちぽち検索を。彼女のリクエストが仮に中華であれ和食であれスムーズに店が決まるよう、実は先だって昼ご飯を食べられる店をいくつかピックアップしていて。 )
ふふ!
クラスの男の子たちがそれ美味しいって言ってたよ。みきもまだ食べたことないの。
( つい最近クラスの男の子たちが口にしていたラーメンの種類が出てくれば自分もいつか食べようと目論んでいる最中らしく特に胃もたれも胸焼けも感じぬままにヘラヘラも笑って。だってまだお皿いっぱいの天ぷらも何重にも巻かれて絞られた致死量の生クリームもぺろりと食べられてしまうので。女子高生は無敵なのだ。お店を調べてくれているのだろうかというにはあまりに早すぎるそのスピードにきょとん…と思わず瞳を丸くしては「 もしかして、…調べておいてくれたの? 」と気付きながらも男を立ててスルーするような良い女精神はまだ備わってないので思ったことをそのまま問いかけて。もしかしたら彼も、今日を楽しみにしてくれてたとか。そんな想いがじわじわと湧き上がればやっぱりみきの心はきゅんきゅんとときめいて暖かくなってしまい。やっぱりこの人のこういう優しいところが好き、と何度だって彼に恋に落ちてはにこ!と満面の笑顔を浮かべて「 ありがとう、司くん! 」とだいぶ慣れてきた名前呼びと共に感謝の気持ちを素直に伝えて。 )
まじかよ……さすが男子高校生だな…。
あれ結構量もあるって聞いたけど、さすがに御影はそんな食えないんじゃないか?
( やはり若い力というのは凄まじく、自分も学生時代ならワンチャン……と考えてはみたがもはや想像するだけでお腹がいっぱいになってしまいそうな悲しい大人が年齢を実感しただけに終わり。無謀にも挑戦した同い年の友人(更に少食気味)が小盛りを食べるのすら精一杯だったといつだかに聞いたことがある。若いとはいえ女子には少し敷居が高いのではないだろうかと苦笑いをひとつ。スマホをしまい早速歩き出そうとしたところ真っ直ぐ投げかけられた疑問にぴたりと動きを止めて。そうやって思ったことをすんなりと口にしてくれるところもまた彼女の魅力なのだが、やはり少しだけ格好がつかないなと眉を下げて。「ン………まあ、…ほら、店っていざ探すとなったら案外見つけるの手間取ったりするしな。時間勿体無いだろ。」と、彼女のきらきらとした笑顔に照れ臭さを覚えては、それを誤魔化すようにはいはいと返事をしながら再び歩みを進めて。 )
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