女子生徒 2024-04-30 23:32:52 |
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『もーっ、みきが照れちゃってどうすんのー?』『せんせーっ!みきももーっと可愛くしたんだよーっ!見て見てー!』
( てっきりいつもの様にきらきらと輝く笑顔で駆け寄って行くかと思いきや、予想に反して動かなくなってしまった友人の背中を押しながら着替え済みの教師に声を掛けて。───コスプレなんてまさに自分達の文化祭以来の経験にどこかそわそわと落ち着きなく男子たちと話しているところ先生と呼ぶ声に反射的にそちらを見れば、先ほど見た状態から更に粧し込んだ彼女の姿。ピシッと纏められていたお団子ヘアは、ちょろっと出ている毛先のおかげでより愛らしい印象に。スリットからちらりと覗く足だけでも大した攻撃力だったのに、太ももに巻かれたチョーカーのおかげで色気も倍増。「っ────…。」咄嗟に言葉が出ず見惚れるように固まってしまえば、えらく気合の入った装いのコンテスト優勝コンビは共に静かになってしまったようで。 )
、…………せ、せんせ…??
( 互いの沈黙を破ったのはみきの方で、見られて恥ずかしいのも勿論だけれどいつも以上にかっこいい彼に見られいると緊張してしまうのかぽやぽやと頬を染めながら戸惑い気味に彼を呼んで。似合ってなかったのかな、やっぱり太もものチョーカーはやりすぎ?自分を見たまま一言も発さずに固まってしまった彼を覗き込むように首を傾げてはちょっぴり不安そうな瞳で彼を見上げて。『 ……結婚式のファーストミート? 』『 これ付き合ってないのほんと?みきイケそうじゃない? 』『 せんせー、可愛いって言ったげてー! 』『 てかせっかくだし2人で散歩しといでよ!ほら! 』こそこそ、ひそひそ。見ているこちらが甘酸っぱくなってしまうような何とももどかしい目の前の2人に思わず囁きあいつつもその中でもノリの良い女子が彼に向かって可愛いのお強請りをしたりみきと彼の背中をぐいぐいと押して散歩をしてこいだのなんともクラスメイトたちはフリーダム。本日は昨日の文化祭で余ったお菓子やらご飯やらドリンクを生徒たち向けに売るプチ文化祭のような後夜祭なので、外部の人間もいなければ特に見回るような揉め事もないだろうと。 )
───っ、あ。
…あー…えっと………って、は?散歩?…いやいや俺この格好で出るのはさすがに……!
( 女子生徒から掛けられた声でハッと我に返れば、目の前の彼女は恥ずかしそうにしながらもどこか不安そうにこちらを見上げていて。普段の彼女よりも色めいているせいか大人びて見える今の姿は当然可愛くも美しくもあって。彼女に向けての一言が溢れそうになったその時、彼女のクラスメイト達からまさかの提案が飛び出れば今度はそちらに対して一瞬固まり、慌てて意義を唱えようとしたがノリに乗った高校生ほど強いものはなく。『せっかく優勝コンビが揃ってんだからいい宣伝になるんだって!』『うちらの売り上げのために!ほらほらさっさと行ってきてよせんせー!』グイグイと押し出す手は彼女に対しても容赦無く、2人してあっさりと教室の外へ追い出されてしまう始末で。 )
あ、ちょ、みんなッ─── …。
…………もー。
( ぐいぐいと容赦なく背中を押すクラスメイトの圧に押し負け、みきも何かを言える隙もなく無事彼と2人で教室から追い出されては呆れたように眉を下げて。…とは言っても正直こんな素敵な彼を独り占めできるのはすっごく嬉しいし(ただしまだ彼を見るとドキドキする)、これなら今度こそ彼に可愛いって言って貰えるチャンスなのでは?と内心は満更でもないのも事実。追い出されてしまったものは仕方ないので大人しく宣伝がてら校内を練り歩こうと早々に考えをシフトチェンジしては、そう言えばしっかりと彼自身に感想を伝えていなかった!とくるりと彼の方に向き直れば「 せんせー、あのね、その格好すっごくかっこいいし似合ってる!あとお揃いとっても嬉しい! 」と格好や雰囲気こそいつもより大人びているもののきらきらとした笑顔やちょっぴり淡く染った桃色の頬はいつも通りで。すらりとした彼の体格を包み込むジャストサイズのチャイナ服は元々脚が長いのに更に脚長効果がありモデルさんのようだし、いつもの無造作ヘアもかっこいいけれどこうして毛先を遊ばせているのもちょっぴり遊び人な雰囲気が出ていてこれまたかっこよくてみきの心臓はきゅんきゅんとずうっとときめきっぱなしで。 )
……は~…とりあえず歩くか……。
( 縋る手も虚しくピシャリとドアを閉められてはもはや打つ手も無く。服は教室の中だし、きっと宣伝して帰ってくるまで返してもらえないのだろう。諦めた様に溜息を吐いて歩き出そうとしたところで、くるりとこちらを振り返った彼女に目を丸くさせてぴたりと動きを止めて。格好こそ普段の彼女よりも大人の雰囲気を纏っているものの、口を開けばいつも通りの彼女。おかげで変な緊張も解けてホッとしたように微笑めば「はは、ありがとな。…お前の方こそ何ていうか…可愛いっていうか綺麗っていうか……意外と似合うんだな、そういう格好。」と、褒め方に悩んだのか少し照れが混ざったような言い方なうえ、ここはまだ彼女の教室の前なので声も心なしか小さめに。自分が来る前は廊下まで声が聞こえていた賑やかさが落ち着いているのを見るに、閉められたドアの向こうで彼女の友人たちが聞き耳を立てているのだろう。呆れた様にもうひとつ溜息を吐けば、「じゃあ行ってくるけど、俺のバイト代は高いからなー?」と教室に向かって声を掛けて。 )
!
……えへへ。今日これ着て良かった!
( きっとみんなが聞き耳を立てているだろうから小さな声でちゃんとこちらを褒めてくれる彼の優しさにまたきゅん。とときめいてはほんのり頬を薄紅色に染めつつ嬉しそうにふにゃりと笑って。それからみきも「 デートしてきます! 」とるんるんの声できっと扉の真後ろにいるであろうクラスメイトたちに声を投げかけては、行こ!と彼の服の袖を掴んで歩き出して。本当は手が良かったのだけれどここは学校なので我慢、…☆先生はファンの子によく腕を組まれてるのを見るけど。昨日よりは盛り上がりに欠けるけれど、それでもいつもよりか賑やかな廊下を歩いていれば案の定色んな人から声をかけられたり写真を頼まれることもあるわけで。今年のミス、ミスターコン優勝者2人が揃ってチャイナを着て歩いていればそれはもう人目を集めないはずがなく。いつもより女子生徒が彼にきゃあきゃあと黄色い声を浴びせてるのにちょっぴりもやもやしつつも何とか第一陣の波は捌ききれて。「 せんせー、すっごく人気…。やっぱりカッコよくしすぎた……? 」とムムム。と両腕を組んで眉をひそめてはこれはデートどころではないのでは!とみき的に由々しい状況だということに気がついて。 )
───いやあれは人気っていうより、三十路のおっさんがコスプレしてるーって面白がってるんじゃないか…?
( 2人して声を掛けたことで2-Bのドアの向こうから『やばっ、』という小さな声と慌ててその場を離れるような足音からやはり聞き耳を立てていたことが分かれば、呆れたような笑みを零した後彼女に引っ張られるがまま並んで歩き。他の生徒たちも気合いの入った仮装をしていたりと目に鮮やかな後夜祭、一般客がいないだけで昨日とは違いほのぼのとした賑やかさを感じて。声を掛けられ写真を撮られ、1人ならば辟易していただろうが彼女が隣にいるおかげで何とか捌けた波から抜け出せば何故だか顰めっ面になっている当の本人。その呟きが耳に届けば苦笑しつつ、いやに気合いの入った自分の様相が何だかむず痒くなる気がして。「…むしろ人気なのはお前じゃねーの?俺はオマケ。」と彼女をちらりと見やって。確かに黄色い声も混ざってはいたが『先生やばっ!』という声が大半だったように思える(良い意味か悪い意味かは分かっていないが)自分に対し『みきめっちゃ可愛いー!』『昨日のメイド服も良かったけどチャイナ服ほんっと可愛い!まじ自慢の後輩ー!』『御影先輩ってあんな…、…お、俺狙っちゃおうかな… 』と、学年問わず可愛がられていた彼女こそが主役といっても過言ではないだろう。 )
ぜーったいちがう!
……さっきの子だって完全に好きな人見る目だったもん。
( なんとも鈍感な彼にぷく!と頬を膨らませては、決してその子の恋心を否定するつもりもないし独り占めをしても良い立場ではないと分かっていながらもふつふつと湧き上がる嫉妬心はどうしても無くなってくれなくて。だいすきな彼のかっこよさが世間に知れ渡るのはとってもとっても良い事なのだし嬉しいことなのだけれど、でもその反転ライバルが増えるのは面白くないのはまた事実。だが彼への賞賛の黄色い声やよく懐いている先輩や友人からのお褒めの言葉しかみきには届いていなかったのか彼の言葉にきょとん、と瞳を丸くしては「 ……せんせーのがきゃあきゃあ言われてたのに…? 」と首を傾げ。むしろむきの方がおまけでしょ、と言いたげなその瞳は謙遜でも遠慮でもなくとても真剣で、けれど昨日よりも湧き上がってくる不安は少なくてそれはやっぱり左手の薬指のおかげなのだろうなとひっそりと思ったりもして。 )
そ、そうか……?
見た目が変わっただけでそんなに変わるもんかね──…あ、じゃあ普段のお前は見る目があるってことだ。
( ここまでハッキリと否定されては続く言葉も飲み込む他なく。女性のようにメイクをするでも無く、服装とほんの少し髪が整っただけ。それだけで騒がれるとなると、人は見た目に左右されやすいものなのだと改めて感じるに至り。しかし逆を返せば、オシャレ等々に無頓着な普段の様子を散々見ている彼女が飽きもせずに好意を伝えてきてくれるのは自分の内面を見てくれているという証拠にもなるわけで。ふとそれに気付けば隣で頬を膨らませる彼女に目を向けてにやりと、しかしいつもの意地悪な感じだけでは無くどこか照れと嬉しさのようなものも混ざった様な笑顔で冗談めいた言葉を投げかけて。真剣に疑問符を浮かべる彼女が何だか可笑しくもありつつその鈍感さには少し心配な部分もあり(自分も人の事は言えないが)。「………嫌?」と首を傾げ、彼女曰く黄色い声を受ける自分に不安を抱いてくれているのかと。最近ヤキモチを隠す事なく出してくれる彼女を可愛く思っていたりするのだがさすがにそれは口には出さず。昨日よりはほんの少しだけ薄くなっているものの、まだまだしっかりとお互いの指に引かれた黒い線はその存在を主張していて。 )
!!
…………だ、だって…全部すきだもん……。
( いつもの意地悪な笑顔(それももちろんだいすき)とは違う、どこかはにかむような笑顔の彼から降ってきた言葉に瞳をまんまるにしたあとじわりと頬を赤く褒めては、すすす…と恥ずかしそうに目線を逸らしながらもちろん彼の見た目も大好きだけどそれ以上に全部がすきなので何をされたって喜んでしまうのだと白状して。いつもしつこい程に好き好きと彼に伝えているけれどいざこうしてあらためて言うとなるとちょっぴり恥ずかしいので、ちらりと一瞬彼の方を向いてはそのままぷい!と恥ずかしそうにまた視線を逸らし。こてり、と自分とおんなじように首を傾げた彼にちょっぴり我慢しようと頑張った嫉妬心をそのまま問われてしまえばぴく、と少し肩を跳ねさせた後に「 …………すっっっごく、嫌。 」と幼い子どものように口を尖らせながら正直な気持ちをぽそり。だってみきは我慢しようとしたのに、せんせーが嫌って聞くから。可愛くない顔をしても可愛くないなって思わないでね、なんて心の中でこれにちょっぴり責任を押し付けては、分かってるくせに、と彼を見上げて。 )
はは、そりゃ良かった。
お前の前で無理に着飾んなくても嫌われる心配は無いってことだ。
( ほんのりと赤く染まった顔で恥ずかしそうに答える彼女に今度は何処か満足げな笑みを向けて。☆先生のように普段から身なりを整えているならまだしも、大したことをしていない素の自分でもきっと彼女なら笑顔で隣にいてくれるのだろう。そんな未来を頭の隅で想像しては今までに無い居心地の良さを感じ、すっかり視線を逸らしてしまった彼女の横顔を優しく見つめて。こうして彼女が率直な気持ちを口にするようになったのも長く一緒にいるからこそ。前までの彼女ならこちらが問いかけたところでそれすらも誤魔化して我慢していたのだろうと思ったところで、漸く前にバイト先の店長さんから聞いた"自分の気持ちを口にしない子"という言葉がすとんと腑に落ちて。彼女から見て自分は心を開くに値する人間になれたのかなと改めて感じれば、どこか責めるようにこちらを見上げてくるそんな様子すらも愛おしく。漏れ出る笑いを我慢する事なく、綺麗に纏められた髪を崩さない様に優しくその頭を撫でて。 )
き、嫌いになんてなるわけないじゃん!
……だいすきすぎて、困ってるのに。
( なんとも心外な彼の言葉に思わずバッ!と振り返って先ずそれを否定をすれば、またじわじわと恥ずかしそうに視線を逸らしながら小さな声でぼそりとむしろその真逆な状態で困っているのだと吐露して。こんなに大好きでどうしようも無いのにこれ以上近づけないのがもどかしくて、どうやったら好きになって貰えるのかを毎日考えているほどなのに。彼のことをすきになるのを辞められたら楽なのだろうけれど、頭でわかっているのに心は伴ってくれないのが初恋片思いの厄介なところで。てっきり呆れたように笑われるかハイハイといつものように流されるかと思っていたのに、みきの考えとは真逆に目の前の彼はどうしようもなく愛おしいものを見るような瞳をしながら頭を撫でてくれ。どこかそわりと期待をしてしまう心はそのままに、「 わ、…分かってるくせに…。いじわる…。 」と他の誰よりも今自分が色んなモヤモヤを抱えていることを理解している筈の彼に改めて其れを伝えるのはちょっぴり恥ずかしくて子供っぽくて、みきはぎゅ…と眉を寄せて眉尻を下げて。 )
!……ふ、それは頼もしいな。
………まあ困ってるのはこっちも同じようなもんなんだけど。
( 勢い良く振り返ってからの否定をされれば目を丸くしたものの、再びそろそろと外された視線に可笑しさが滲んできてしまいくすくすと笑って。しかし彼女の言う"困る"との言い分はこちらにも通ずるところが実際あったりするわけで。コンテストのPRタイムはあくまで演技の括りだし、手を伸ばせば届く距離にいるのに(頭を撫でたり等は別として)それ以上に近づけない絶妙な距離感に頭を悩ませなければいけないのは自分も同じ。年齢と立場からくる壁の高さを感じざるを得ない状況が、仕方ないとはいえまだ暫く続くということに対して小さく小さく愚痴を零して。不本意ながら自分の気持ちを吐露させられた事に不満を漏らす彼女に「文句を言うならお前のクラスメイトにな。俺は抵抗したんだぞこれでも。」と溜息混じりに苦笑しながら、そもそもの元凶と呼ぶべきはそっちだと責から逃れるように。…とはいえノリに流されて早々に抵抗を諦めた自分にまったく責が無いのかと問われれば口を噤むしかないのだが。 )
?せ、せんせーも困ってるの…?
…………み、みきがいっぱいわがまま言うから…?
( てっきり困っているのは自分だけだと思ってたのに、どうやら彼も何かに困っている様子。話の流れからして恐らく自分に困っているのだろうと察すれば頭に思い浮かぶのは最近彼にわがままを言いまくってしまった自分の姿。彼に優勝やハグをねだったりまさに今お揃いの服装を着せていたり、確かに思い出していけば彼が困るようなことがあまりにも多すぎるとはわわ…と衝撃的な様子で口元を手で隠しては不安そうな夕陽を彼に向けて。彼の言葉に依然として柔らかな頬をぷく、と膨らませては「 でも普段と違うせんせーを見れたからみんなは許す…。 」となんともわがままにクラスメイトの行動は許してしまい。すっごくわがままを言えば自分だけが見たかったのだけれど、ただの一生徒でしかない自分にはそれを言う資格は無いのでそれを言うことの出来る資格を得られるまでは我慢。でもやっぱりモヤモヤはしてしまったので、周りに人が居ないことをしっかり確認した上でするりと彼の指先を握って。 )
え、別にお前の我儘くらいは……、
──…あー、いや。うん、やっぱり困ってるわ。
ハロウィンだからっていい歳した大人がこんなしっかりコスプレさせられてさぁ、助けを求めようにも誰かさんはむしろ目ぇキラキラさせてたみたいだし?
( 恐る恐るといった様子でこちらの困っている原因を探ってくる彼女の言葉には反射的に否定を…しようとした所で、ふと何かを思い付いたようにその言い分をころりと変えて。とはいっても責めるようなものではなく、どちらかと言えば明らかに楽しんでいる口ぶり。PRタイムの演技(という事にしておく)が嘘のように、あからさまな棒読みで腕を組んで態とらしくうんうんと唸り。何ともまあクラスメイトもとい協力者たちには甘い彼女にきょとんと目を丸くしては「うわ、何それずっる。贔屓だ贔屓ー。数の暴力だー。」と可笑しそうに笑い。しかし握られた指先からはほんの少しだけ彼女の不安のようなものを感じた気がしては、自然とその手を握り返して。そもそも彼女の格好だってだいぶ刺激が強く、生徒とはいえ他の男に見せるのが勿体無いと思っているあたり自分も案外独占欲が強いのかな、なんて考えていることは内緒。 )
う゛…。
ご、ごめんねせんせー、……ど、どうしたら許してくれる…?
( 彼の言い分はまあごもっともで、みきは自己PRの時の演技とは比べ物にならない棒読みにも気が付かずにぎく…と体を強ばらせては機嫌を伺うように彼の周りをあわあわ周って。確かにあの時は彼とお揃いの格好を見たいだとか彼のいつもと違う格好を見たいだとかの自分の好奇心を押し付けてしまった自覚がバッチリあるのでその分焦りもひとしお。どうしたら許してもらえるのかと飼い主に怒られた子犬のようにきゅ…と眉を下げてはどうしたら彼が困らないかの答えを待つように彼を見つめて。そっと手を握り返してくれる彼の手はとても優しくて、繋いだ手からまるで不安はほろほろと溶けていくよう。みきはそれに安心したように頬を綻ばせては「 でも、みきはいっつもせんせーを贔屓してるもん。たまには他のみんなも贔屓したげなきゃ。 」と偶にはこんな無謀な片思いを応援してくれる友人達にも報わなければと首を傾げて。最も結局はその贔屓も、彼の新しい一面を見たいからという彼関係のものなのだけれど。 )
んー、そうだなぁ……
…じゃあせっかくのハロウィンだし…trick or treat?
( まるでしゅんと垂れ下がった尻尾と耳が見えそうなほどこちらの機嫌を窺う様子の彼女が可愛くて面白くて。漏れ出そうな笑いを何とか堪えながらも、特に何かを考えていたわけでもなく。口元に手を当てて少し考えれば、そういえばこの仮装をするそもそもの原因は本日がハロウィンだから。首をこてりと傾げながら口にしたのはハロウィンお馴染みの台詞。これでお菓子が出ればそれはそれで良し、無ければ困らせられた仕返しが悪戯となるわけで。彼女の反論には正直一理あってしまう。…とはいえ「教師が生徒に贔屓されているっていうのも何だかなって感じだけどな…。否定できないのが悔しいけど。」と、決して悪い気がするわけではないのだが彼女の言葉に肯定を示しながら眉を下げて苦笑を零し。 )
へ、?
……え、えと、お菓子……あ゛。
もうみんなに配っちゃった…。
( こてりと首を傾げた彼から零れたのは正にハロウィンの合言葉と言っても過言ではない一言。お菓子なら持ってる!とポケットを探ろうとしたもののそもそもチャイナ服にそんなモノは存在しないし、ハロウィン用にと持ってきたお菓子はクラスの女の子たちに配って先程みんなで食べたばかり。“お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ”、つまりはみきには悪戯の道しか残っていないのでどんな悪戯をされようが甘んじて受け入れるしかないわけで。悪戯ってなんだろう…痛いのは嫌だなぁ…と彼をちらりと見上げては大人しく悪戯をされるのを待って。どうやら彼も贔屓されている自覚があるようで、なにだか自分に愛されてくれている自覚があるように感じてしまいみきは満足気に頬をほころばせては「 だって先生だけど好きな人だもん。他の人より贔屓しちゃうよ。 」なんて周りに人はいないのだけれどなんとなくこそこそと囁いては悪戯っぽく微笑んで。 )
──残念だったな?
じゃあ悪戯は……うーん、そうだなぁ………。…御影、手出して。
( 自信ありげにポケットを探ろうとした彼女の手はチャイナ服の表面を滑って終わり。しかもすでに配り終えた後ということで、残念ながら彼女に悪戯を避ける道は残されておらず。にっこりと笑ってみせては、彼女からの視線を受けながらまた少し考える素振りを。悪戯といってもこちらも何か用意があるわけでは無いので出来ることは限られてくるだろう。彼女に向けて片手を出せば、同じように片手を出すよう要求して。好きだから贔屓する、というのをわざわざ言葉にされてしまえば、ハッキリと"特別"を示されているようで何だか照れ臭さと優越感に近いものが心に湧き上がってくる気がしては「…あっそ。」と一言を返すのが精一杯で。彼女が時折見せる悪戯っぽい微笑みはやけに可愛らしく、更には服装が違うせいかいつもより言葉が甘く聞こえてしまってはふい、と視線を逸らして。…とはいえ今回のように彼女の利になる事があればあっさりと贔屓先を変えるのだろうが。 )
手、……?
……こ、こう…?
( にっこりと笑う彼とは対照的にどこか緊張した面持ちのままおずおずと差し出されている彼の手にちょん、と手を乗せては一体どんな悪戯をするのだろうかと首を傾げて。また手をなぞられるのだろうか、とふと過去のことを思い出せばちょっぴり警戒するようにもう片方の手で口元を抑えて声が出ないように完全ガード。さあ、何時でも来い!準備万端!と言わんばかりにちらりと彼を見上げれば様子を伺うような夕陽色は逸らされることなくどこか楽しそうに見える彼のダークブラウンを見つめて。照れ混じりの返事と逸らされた視線に“照れてる!かわいい!”とみきの笑顔はさらに嬉しそうに綻んで、「 せんせーもみきのことすきだからちょっぴり甘いもんねー。 」と他の生徒よりも彼と共にいる時間が長いからこそスポ体の後にアイスをくれたりテストの点が良ければご褒美を強請れたりと優遇されている自覚はばっちりあるので、彼をからかうような言葉をつむぎながら覗き込むように彼を見上げては繋いだ手を緩く振って。 )
、ははっ!警戒心たっかいなお前。
…1個でも当てたら悪戯終わりだからなー。
( どうやら過去から何かを学んでいるらしい彼女の行動に可笑しそうに笑っては、残念ながらただ擽るだけじゃないんだよなと心の中で呟いて。白くて小さな手の平に指先をちょん、と当ててはそのままするすると文字を書き始めて。もちろん彼女からは見えないように【ばか】【かわいい】【どんかん】【あかてん】など、あくまで自分が彼女から連想する言葉を単語の間に区切りをつけながら。どこか自信ありげな言葉と共にこちらを覗いてくる夕陽色と目が合えば、ばつが悪そうに苦笑しながら「お前はそうやってすぐ調子に乗るな。」と空いてる方の手で彼女の柔らかな頬を痛くないように摘んで。かと言って好きじゃないなんて否定の言葉を使うつもりは毛頭なくて、それを誤魔化すようにむにむにと摘んだ先の柔らかな感触を楽しんで。 )
っ、…ふふ、くすぐったい。
( どうやら今回は擽る訳ではなく、手のひらに書かれた文字を当てるゲームらしい。するすると手のひらの上を彼の指が滑る感覚はちょっぴり擽ったくて、なんて書いてあるか見てしまわないように目を閉じながらみきから見たら逆文字になる文字たちを集中して当てようとするもそわそわする感覚に思わずくすくすと笑ってしまい。ただ文字数だけは分かるので「 んー、かぼちゃ!がいこつ! 」とハロウィンらしい単語たちを取り敢えずは当てずっぽうで答えていくも残念ながら彼の書いた文字とはかすりもしないのだけれど。むに、と柔らかく頬を摘む彼の手にもちろん抵抗する訳もなくされるがままにへにゃへにゃ笑えば「 えへ。だってほんとのことだもーん。 」と自信たっぷりに彼に甘やかされている自覚があるからこそ、そして彼が(生徒として、という前提があるけれど)好きという箇所を否定をしないからこそ自信たっぷりに答えてみせて。 )
はは、かすりもしないじゃん。
( どうやら文字数だけで単語を拾っているらしく、本当に難しいのかそもそも当てる気が無いのかは彼女にしか分からないのだが。しかしあまりにも当てずっぽう、一文字どころかニュアンスすら掠らない様子に可笑しそうに笑い。それならばと一瞬だけ思案するように指を止め、チラリと彼女を見やってしっかり目を瞑っていることを確認すれば次に書いた文字は【好き】の二文字。分かりやすい平仮名から漢字に変えたことで更に当てられなくなるだろうことは分かっているうえで。悔しいが彼女の指摘は大正解で、自分でも彼女に対しては一段と甘めに対応してしまっている自覚はあって。他の生徒と差をつけるつもりはもちろん無いのだが、一緒にいる時間が長ければどうしても彼女に構うことになる時間が増えるので多少は仕方ないだろう。「はー、お前には負けるよほんと。」と、こんなやり取りすらも満更ではなさそうに微笑めば散々柔らかさを堪能した頬から漸く手を離して。 )
えぇ…じゃあハロウィン関係ない単語ってこと、…?
……あ!今の“き”でしょ!うーん…最初の文字、…ヒント!ヒントちょうだい!
( かすりもしない、と言うことはきっとハロウィン関係の単語ではないということ。むむ、と眉をひそめてはさらに感覚を研ぎ澄ませて手のひらに集中すればようやく分かったのはたったの一文字。だがしかし最初の一文字は解読できなくて、ここまで難しいのならばストレートな正解は難しいかもしれないと判断すれば白旗をあげるようにヒントをねだり。彼の呆れるような言葉とは裏腹にその表情はとても優しくて、そんな彼の表情に胸がふわふわと浮かぶように嬉しそうに瞳を緩めれば「 んふふ、みきの勝ちー。 」先程頬を柔らかく掴まれたお返しに彼の頬をつん。とつついて悪戯っぽく笑い。 )
おっ、惜しい。
んー、ヒントか……、…お前に関係あることかなぁ。
これ言ったら喜ぶんじゃねーかな、みたいな。
( ようやく当てられた一文字。しかしやはり漢字は難しいらしくその前は読み取れなかった様子で。ヒントと言われてもたった二文字の答え(ましてや一文字は当たり)となるとこちらとしても難しく、少し悩みながら出したものは果たして彼女にとってヒントになったのかどうかは分かりかねるところだが。細い指先につつかれたのはどうやら頬だけでなく心の奥も。彼女の笑顔とその仕草に少し胸が高鳴ってしまったのを誤魔化すように、つついてきた指をその手ごと絡め取ってきゅ、と握れば「…負けついでに言うとさ、こういうの見せるのも贔屓してくれたら案外喜ぶかもよ、俺。」と、自由な方の手でするりと彼女のスリット部分──とはいえ触れるのは肌ではなく太ももに巻かれたチョーカーのみ──をつんと突いて。 )
みきに……関係あること…言ったら喜ぶ…。
………あ!“みき”!!
( 彼のヒントを呟きながらうんうん悩むこと数秒。目を瞑ったままハッ!と閃いた顔をすれば空き手で自分を指さしながら二文字で“き”か二文字目、そして自分に関係があり言ったら(呼んだら)喜ぶことと言えば自分の名前ではないかと答え。だって彼に名前呼びされたらとっても喜ぶ自信があるし。…最初の文字は“み”よりももっと画数が多かった気はするのだけれど。みきはどう?当たってる?と言わんばかりににこにこ口角を上げては彼からの答え合わせを待って。彼に悪戯をしたら大抵倍返しになって返ってくるもの。それを何度やったって学習しない哀れな子羊は彼の頬を突いていた指をあっさりと絡め取られてはみきの行動を拒んでいる訳ではなさそうなその行動にぴく、と肩を跳ねさせた後まん丸の瞳で彼を見上げて。せんせー、とその行動の意図を問いかけるように口を開こうとしたものの、その唇から零れたのは「 っひゃ、 」という甘い小さな悲鳴。肌に直接触れられた訳では無いけれどレースのチョーカーなんて合ってないようなものなので彼の指の感触はしっかりと伝わってしまい、彼の指に突かれた場所が火傷をしたように熱くて。一気に熱の上がってきた顔で驚いたように彼を見つめては、「 ひ、ひいき、…? 」と辛うじて唇から発することが出来たのは戸惑いと照れが混じった疑問だけで。 )
───……っふ、あはは!
そっか、そうきたかー……うん、じゃあそれが正解ってことで。
( こんなにも真っ直ぐ自信満々に"名前を呼ばれたら嬉しい"と伝えられたことは今までに無く。確かに"き"が付いて二文字ではあるが、その答えに面食らったようにきょとんとして一拍。耐えられないといったように破顔してしまえば、その笑いを後引きながらあまりにも可愛らしい答えに正解の判定を出さずにはいられなくて。漏れ出たような甘い声にぞくりと胸の中が震える感覚を覚えては更にそれを求めるかのように、指を押し当てたままチョーカーに沿ってつつ、となぞり。「ん。…つーかこの衣装お前が選んだのか?こんな無防備にちらつかせられたら他の男子たちの目に毒だろ。」とぽつり。初めに教室で彼女が見せびらかすようにくるりと回ったときや、廊下を歩くたびに隙間が開くスリット部分から覗く生足に男子たちの目線が集まっていたのを知っていて。更に言えばやはりこのレースのチョーカーが一層その色気に力添えをしているといっても過言ではなく、男としては嬉しくも個人としては少しばかり憎らしい気もするレース部分を爪で優しくカリ、と掻いて。 )
え゛!?
そうやって言うってことは違うの…!?
( てっきり彼からはなまる満点を貰えると思いきや帰ってきたの心底楽しそうな笑い声。思わずパチリと瞳を開いて真剣に正解を当てに行った筈の答えが違うことに驚愕してはだったら正解はなんなんだと首を捻り。甘々判定で正解をくれる彼の優しさはとっても嬉しいのだけれどなんだか小さな子どもが大人にサービスをされているようでちょっぴり悔しくて、みきは彼の胸にぽす、となんとも無防備に背中を預けては今度は自分から見ても正しい向きの文字になるようにそのまま手のひらを出して「もっかい!次はこの向きで!」と相変わらず妙なところで負けず嫌いを発揮してはすっかりこれが悪戯ということも忘れてもうワンチャンスをねだって。直接肌に触れられているわけではないのに直接触れられるよりもぞくぞくと余計に彼の指の感覚を拾ってしまう体は彼の指がチョーカーの上を滑る度にびくりと跳ねて、甘ったるい吐息を無意識に零しながら「 お、お友達が、…っ選んで、くれて…。 」と途切れ途切れに彼の問いに答えて。だがしかし、いっぱいいっぱいの頭の中で“他の男子たち”という単語だけがやけに頭に残れば彼の目には毒ではないのだろうかとふと疑問が浮かび、それに言及しようと口を開けば今度はチョーカーを引っ掻くように爪で擦られて思わず彼に助けるように捕まったままの手に柔く力を込めて。 )
いやー合ってる合ってる。
正解っつったろ?──みき。
( 未だくすくすと耐え切れないといった様子で笑いながらも出された答えが正解であることは覆さない姿勢で。しかし変なところが負けず嫌いの彼女はやはり大サービスの正解判定に納得がいっていない様子。こちらに背を向けて手の平を出し、クイズのやり直し(と言っても向き的にもはやクイズとは呼べない)を今か今かと待っているその姿にこちらの笑いは一旦中断。さすがにクイズの答えが見える姿勢で先ほど書いた二文字を書くわけにはいかず、出されたままの手にするりと自分の手を重ね合わせて優しく握りゆっくりと下に下ろせば後ろから耳元で小さく正解(仮)を唱えて。自分の手がチョーカーの上を動くたびに彼女の体は小さく跳ね、いやに艶めいた吐息が形の良い唇から零れる様は何とも嗜虐心を煽られるようで。それでも何とかこちらの質問に答える彼女がやけに愛おしく、「そっか、自分で選んだわけじゃないんだな。…センスは良いと思うけど、あんまり可愛すぎるのも困りもんだよなぁ。」とチョーカーを撫でる手を止めることなく、力の入った手には応えるように同じく緩く力を込めて。 )
だってせんせー今じゃあって言って、─── っひぁ、
( 今じゃあって言ったじゃん。そう言い返そうとしたみきの言葉はするりと重なった彼の手と耳元で囁かれた声のおかげで最後まで紡がれることはなく。今までの人生の中で何百回何千回何万回と呼ばれてきた自分の名前が彼の唇から紡がれるだけでみきの頬やら耳は赤く染まりあっという間に動けなくなってしまう。彼に囁かれた方の耳がジンジンと熱くて、心地よい低音の優しい彼の声が何回でも頭の中をリフレインする。そんな事をされてしまえば当然のようにみきは何も言えなくなってしまうし、更に言ってしまえばドキドキと跳ねる心臓を沈めるので精一杯で彼を振り返ることすらできなくなってしまい。助けを求めるように握った手には優しく応えてくれるのに、もう反対の手は意地悪にチョーカーを撫で続けているちぐはぐな感覚にぐるぐると蕩けるような感覚に瞳を潤ませては、「 っこま、る…? 」 と甘い吐息の間に漸く疑問を挟むことに成功したもののなんで?というその次の語句は紡ぐことが出来ず。だがしかし蕩けた夕陽の中に恐らくその疑問は書いてあるだろうからきっと彼には伝わるだろう、先程は贔屓すると喜ぶと言っていたのに今は困ると零す彼の真意が分からなくてみきはただただ意地悪な手と優しい手に翻弄され続けて。 )
…あー、でも呼んでも喜んでもらえないなら確かに正解とは言えないのかもな。
( 反論の言葉のその先は紡がれる事がなく、体ごと言葉も固まってしまったかのような彼女に小さく笑いを零し。腕の中の彼女は面白いくらい微動だにしなくなってしまったが、綺麗に纏められた髪のおかげで曝け出された耳が真っ赤に染まっているのは良く見える。体勢はそのままに顔だけ天を仰げば、正解(仮)が本当の正解になるのは彼女の反応次第だと何処か態とらしくぼやいて。熱くて甘い息遣いの合間にぽろりと零れるように漸く落とされた短い単語は不完全な疑問で。しかし相変わらず彼女の瞳が口以上に雄弁に語ってくれるおかげで、ぽやぽやと蕩けながらも何とか言葉を補完した様子。…と言ってもきっとそれを理解出来るのは自分だけだとは思うのだが。緩く繋がれたままの手は偶然にも左手同士、彼女が必死に返した疑問への答えは「…そりゃ"予約"している相手が他の男からそういう目で見られるのはあんまり気持ちの良いもんじゃないからな。」と、お互いの薬指に書かれた少しだけ薄くなった黒い線をこれ見よがしに顔の前に上げて。ヤキモチだなんて妬ける立場では無いもののこの線が消えるまで、それまでの間はこのただの落書きが嫉妬をする際の隠れ蓑になってくれるので。 )
っ、ち、ちが…っ!び、びっくりしちゃったの!
……でも、あの、すっごく嬉しいから、…もっかい。もっかい呼んで…?
( 態とらしい彼のボヤきに漸く我に返って動けるようになれば、慌てて彼の方を振り返ろうとしたあとにやっぱりこんな真っ赤なお顔は見せる訳にはいかないと(耳で全部バレていることには気が付かずに)体勢は特に変わらず。けれど完全に油断していたところでの名前呼びだったので今度はもっとちゃんと聞きたいのだと捕まったままの手に緩く力を込めては小さな声でぽそりとアンコールのおねだりを。本当はもう一回どころかずうっと名前で呼んでほしいけれど、でも流石にそのわがままは彼を困らせてしまうだろうから口から零れることはなく。自分から出たとは思えないほど甘ったるい呼吸をするので精一杯の眼前には昨日書いたばかりの揃いの左手薬指の黒い線。予約している相手が他の異性からそういう目で見られるのは気持ちの良いものでは無い、自分が最近よく感じるその感情を彼も抱えてくれているのだとまだボンヤリと熱に浮かされた頭でもそれだけは理解ができては、何とも遠回りで愛おしい彼のいじらしさにきゅん、と胸がときめいては、眼前にある彼の左手の薬指にちゅ、と小さなリップ音を立ててキスをしたあとにするりとその手に頬擦りをして「 ─── やきもち、? 」とどろりとした蜂蜜のような甘い声で一言だけ小さな声で問いかけ。 )
クイズに正解したから悪戯タイムはもう終わり。
また今度な。
( 彼女のことだからもう一度名前呼びを願ってくるだろうと予想通りのおねだりに薄く口角を上げては、そう何度も呼ぶのも何だか勿体無いような気がして彼女にとって残念ではあるが終了のお知らせ。こういった不意打ちが上手くいったときの彼女の反応が好きだから、なんてさすがに口には出せないので敢えておねだりを聞いてあげない理由は胸の奥に飲み込んで。完全にこちらが主導権を握っていたはずが、突如として薬指に落とされた柔らかな感触に体はぴくりと跳ねてしまい。離れる際に熱を帯びた吐息が指にかかればぶるりと心が震え、その後に紡がれた短い一言は胸焼けがしそうなほど甘ったるい声音で。顔を赤く染めてこちらの攻撃を必死に耐えている様はどこからどう見ても食べられる側の小動物だったのだが、こうしてたまに突然の反撃を仕掛けてくるのはまさに窮鼠が猫を噛むようで。遠回しに彼女に向けていたものを真っ直ぐな一言で捕らえられては何だか格好がつかない。「──……さあ?どうだろうな。」と、出来るだけ黒い線を盾にしてみるも今となってはさほど意味が無いようにも感じられて。 )
!
せ、正解じゃないのに…!!ずるい…!!
ね、ね、本当はなんて書いたの?
( 残念ながら精一杯のおねだりは悪戯終了のお知らせにより却下。本当は正解していないにも関わらず彼の甘々判定は今に限りちょっぴり不満で、ぷく!と頬を膨らませては繋いだままの手を軽く上下に振って。だがしかしやっぱり本来の正解は気になったのか彼の甘々判定を甘んじて受け入れることなく続けて問いかけ。文字数が2で二文字目が“き”。そして自分に関係があって喜ぶこと、あと一歩でたどり着けそうなのにたどり着けないモヤモヤに悔しそうに眉を寄せては背後にいる彼をちらりと振り向いてこてりと首を傾げて。此方としては精一杯の反撃、そしていっぱい遊ばれたのでちょっぴり彼の慌てる姿を見たいなの下心があってこそのみきの行動や言葉は残念ながら大ダメージを与える程ではなく。けれど唇が触れた瞬間にぴくりと反応を示し、こちらに問いに答える彼の声には拒否めいた色は混じっていないため嫌がっていないことは明白。どうだろうな、なんて揺さぶるような言葉も今のみきにはその真意なんてお見通しで、周囲に誰もいないことを確認しては「 せんせーかわいい、だいすき。 」とぎゅ!とそのまま後ろをふりかえって彼に抱きついて。いつもの制服よりもチャイナ服の生地が薄いせいでいつもよりも彼の体温が感じられる気がして、みきはニコニコ嬉しそうにこっそり微笑んで。 )
…ナイショ。
もしかしたら本当に"みき"って書いてたかもよ?
( 名前呼びを貰ってなお本来の正解まで聞き出そうとする彼女のなんと欲張りなことか。普段は何につけても甘めの判定を求めてくる彼女が、こんな時ばかりはその判定を受け入れようとしないのは負けず嫌い以外の何物でもないだろう。教えてほしそうにこちらを振り向く彼女に意地悪な笑顔を向けた後んべ、と舌を出して。呼ばないと言った割に再び名前を口にはしたが、これはあくまでクイズの正解(かもしれないもの)を答えているだけなので自分の中ではノーカンで。体のラインが出るほどタイトなチャイナ服を纏った状態で抱きつかれてしまえば彼女の柔らかさを直に感じてしまうのは仕方のない事で。先ほどまでは散々スリットの際どい部分──肌ではなくチョーカーではあるが──に触れてその甘い反応を楽しんでいたものだが、相手から迫られると両手を上げてしまうのはもはや反射のようなもの。「っ──、……あーはいはい。可愛いは余計だけどありがとな。」と溜息混じりに礼を述べては、生地の薄さゆえにお互いの鼓動が温かく混ざり合う心地よさに少しだけ身を委ねて。 )
!!
…えへへ。みき、せんせーの優しいとこだいす、…あ!…“好き”、とか!?……なーんて、そんなわけないか。
( どうやら素直には教えてくれないようで、もっと画数多い文字だったと反論する前に好きな人から紡がれたのは二度目の自分の名前。呼ばれた訳ではないけれど、みきからしたらこれも呼ばれたカウントに入るのでやっぱり甘々な彼にニコニコキラキラと瞳を輝かせた直後。ちょうど彼に告げようとした言葉がまさに彼の提示したヒントにピッタリ当てはまる!と気がついて回答したものの、あっさりと自らそんな訳が無いとその奇跡を投げ捨ててしまえば呆れたように笑いながらまた彼の胸にぽす、と背中を預けて。例え悪戯のゲームだとしても、彼がそんな思ってもいないことを書くわけが無いなんてちょっぴり悲しい諦めなのだけれど。決して抱き返すわけでも無く、でもだからといって離れろと無理やり体を引き剥がす訳でもない。だけど此方に少し此方に身を委ねてくれているのは当然みきにも伝わっていて、みきはふにゃりと笑いながら「 ふふふ。ヤキモチ妬いてくれたの嬉しい。みきはせんせーしか見えてないからだいじょーぶだよ。 」と彼に囁くように柔らかく言葉を紡ぐも、彼しか見えていないのがむしろ今心配要素なのだということは無自覚。だって今は自分の好い人がなんとも可愛らしいヤキモチを妬いてくれたのだから、それどころでは無いので。 )
、…………んー?
( クイズ中は掠りもしなかったのについにドンピシャで正解を当てた彼女は、あっさりとその解答を投げ捨ててしまったようで。もちろんそれを正解だと言えるわけもなければ、嘘を吐くのも違うのでこちらの答えは否定でも肯定でもなくどこまでも狡いもので首をこてりと傾げて終わり。相変わらず変なところで自信がないのか鈍感なのか、自分から正解を手放して再びこちらに凭れかかる彼女が何だか可笑しくて薄く微笑みながら、その正解を口にするためいつか隔たりが無くなる日に思いを馳せて。柔らかい笑みを携えながら、自信満々な言葉を紡ぐ彼女は本当に言葉通り真っ直ぐ自分の想い人しか見えていないのだろう。「そこに関しては心配してないっつーか、する必要が無さすぎて逆に困ってるというか…。」と乾いた笑いを零せば、彼女が自分以外に目を向けないことに無自覚ながらも自信を持ってしまうのは日頃彼女から伝えられる好意のせいとも言えるしおかげとも言える。しかしやはり何度考えても、特に何をしたわけでもないはずなのだがここまで熱烈に好かれているという事実には未だに頭を捻るものがあるのも事実で。 )
好きなんてせんせーに言われたらきっと心臓爆発しちゃうもん、自己PRのとき心臓大変だったんだからぁ。
( まさか自分がドンピシャの正解を叩き出しているとは思わず、もうお手上げだと言うように考えることを放棄しては億が一にでも彼にそんなことを言われてしまったら心臓がどうにかなってしまうと冗談半分に笑って( けれど心臓はほんとうにどうにかなってしまいそうにはなる )。自己PRのあの一シーンで一体どれだけの女子生徒がみきの立場を自身に置き換える想像をしたことだろう、それだけ格好良かったのだから仕方ないのだけれど、終わった今となればちょっぴり独り占めしたかったなの気持ちもあるのはまた事実。バッチリみきに愛されている自覚のある彼の言葉に満足気に表情を綻ばせたものの「 ??こまる……? 」とふとひっかかった箇所にはこてりと首を傾げて。いっつも好き好き言いすぎてしつこいのかな、でも好きだから許して欲しいな…なんて気遣ってるんだか気遣っていないんだか絶妙なラインを行ったり来たりしながらもやっぱり困る理由は分からずに大人しく彼の答えを待って。 )
自己PR……あぁ、…いやでもお前のことだから騒がしくなるんじゃねーかなと思ってたんだけどなぁ。
( 彼女の言葉にはた、と昨日のコンテストを思い出せば、引いたお題がお題だったのもあって確かに言葉に出した例の二文字。演技となるとやはり意識して棒読みになってしまうのは分かっていたので素の状態で臨んだのだが、こうして笑って済ませられているのならば彼女の中であれはしっかり演技として刻まれている様子。こっちから可愛いだとか、相手を褒めるようなことを言えば過剰なほど食い付いて騒がしくなる彼女が、演技だと思っているからこそなのかは分からないが驚くほど静かに自分の告白を受け入れていたことがやけに印象強くて。言葉の意味を理解できないというように首を傾げる彼女はきっとまったくの見当違いな推理を繰り広げていることだろう。「だって俺、未だに何でお前がそこまで好いてくれてるのか自分自身よく分かってねーもん。歳だって離れてるし、…そもそも好意を伝えられても今はそれに応えて付き合ってやることも出来ないし。」と、眉を下げて笑みを零しながらも何処か申し訳なさそうな声色でぽつりと返して。 )
だ、だって…まさかあんなに演技上手だと思わなくて、…。
びっくりして、真っ白になっちゃったの……。
( 恥ずかしそうにぽぽぽ、と頬を染めながら視線を落とせば、自己PRの時の演技とは思えない彼の自然な演技を思い出してはまた頬を染めて。最も、後ろから見ている彼からは真っ赤な耳が丸見えなのだけれど残念ながらみきはそれには気付いておらずただただあの時を思い出して致死量のときめきに胸を痛めていて。だって王子様みたいだったし、ちゅうされたし、好きって言われたし。どれか一つだけだったらきゃあきゃあはしゃげたのにまさかの3つ全部一緒にだったので色んなものがオーバーヒートしてしまったのだともそもそ返して。どこか申し訳なさそうな、みきに困っているというよりは自分自身に困っているような、そんな彼の言葉と表情にきょとんと瞳を丸くしたかと思えばみきはぱっと花が咲くように笑って。「 好きにきっかけはあっても、これ!っていう理由なんてないよう。歳が近いから好き、とか付き合えないから嫌い、とかそういうの関係なくみきはせんせーが好きだもん。……だから、そんな顔しないで? 」彼の両頬にそっと手を添えては真っ直ぐにダークブラウンを見つめながら首を傾げて。 )
──演技、ね 。
…そういやお前の対応も良かったもんな、あそこがいちばん盛り上がったんじゃないか?
( 口をついて出た言葉は音にもならないようなとても小さな呟きで。それにしても頑なにこちらを向かないということは、きっと耳以上に彼女の顔は真っ赤に染まっているのだろう。しかし残念ながら顔と違って無防備に晒されたままの耳は綺麗に赤く染まってしまっているのがよく見えるので、何となく無意識に手を伸ばしてはその小さな耳をつん、と指先でつつきながら自分の"演技"に対する彼女の返答の際に客席から割れんばかりの歓声があがったことを思い出して。こちらに向けられた朗らかな笑顔と、頬を包む柔らかな手の感触の心地良い温かさにどこかホッと気持ちが落ち着く気がして。「…ん、さんきゅ。……でもこっちとしては、華の女子高生の青春を費やされてることにちょっとだけ引け目ってもんを感じることもあるんですよ。」真っ直ぐにこちらを見つめる夕陽色に吸い込まれるように顔が近付けば額同士をこつんと当て、彼女の優しさに甘えてばかりの現状を不甲斐なく思うも下手に動けない現状に自嘲気味な笑みを零して。 )
みきのは演技じゃないんだけどね。
でも、結果的に盛り上がってよかったあ。
( 完璧にセットされた彼のカッコ良さを見ることなくこうして背中を預けて喋っていれば不思議といつも通り(いつもはこんなに距離は近くないけれどみきとしてはラッキーなので)に感じてとても落ち着いて、けれどそんな無防備な状態のままにふと耳に感じた彼の指先の感触にぴく。と反応こそすれどなんとか声にはならず。それから続けてあの時の自分の反応を思い返せば、あれは間違いなく演技でなくただのいつもの自分だったとへにゃへにゃ笑い。ただただ大好きな人にオーバーヒートするくらいときめいて、でもどうしても彼からの“好き”に返事をしたくて。全く周りが見える余裕のなかったあの場で抱きつかなかったのはほぼほぼ奇跡と言えるほど2人だけの世界に感じていたのは恐らくみきだけではないはずだとちらりと彼をふりかえって。元気出たかな、なんてじっと彼を見つめていればだんだんゆっくりとそのお顔が近付いてきて、好きな人がゆっくりと顔を近づけて来たらどんな状況だろうと期待してしまうのは乙女の脳なので“まさか…!”とそわそわして目をぎゅ!と瞑ったものの残念ながら触れたのは唇ではなく額同士。ちょっぴり残念な気持ちを抱えつつも、近過ぎて顔が見えないけれどやっぱりまだ彼は本調子ではないような気がして。みきはすり、と額同士を擦り合わせては「 みきは女子高生を卒業しても華の女子大生で次は華の社会人になるつもりなのでだいじょーぶでーす。 」と、大人が振り返るよりも現役の女子高生は引け目を感じるどころか実にプラス思考、更に言ってしまえば華の女子大生期間も華の社会人期間も彼に費やすつもりなのでたかが3年ごときで引け目を感じられてしまうと困ってしまうのだ、最低向こう6年は見て欲しい。 )
、……っはは!あれ素の反応かよ。
ナイスアドリブって思ったのになぁ。
( 彼女の答えにきょとんと一拍。彼女の反応を良いアシストとして受けたのは自分だけだったようだと知れば可笑しそうに破顔して。…ということはお互い知らず知らずのうちに心からの告白劇を繰り広げていたらしいのだが、それに気付いたのはどうやら自分だけのようで。もしもこの先自分と彼女との間に何の障害も無くなったときに想いを伝えることになったとして、コンテストでの一幕は何だか先にクイズの正解を見てしまったような気分になってしまう。とはいえ今はまだそれでいい、彼女にしっかり演技だと思わせられたならば結果としては上々以外の何物でもないので。声に出しての反応が無いのをいいことに、彼女が振り返ってもなお赤く染まった小さな耳をふにふにと弄びながらそんな事を考えて。こうして額が触れ合うことでお互いの考えている事が筒抜けになるのでは。なんてどこか空想じみたことを考えていたものの、何かを感じ取ったのか彼女からの優しさ溢れる台詞に目を丸くして。「───ふ、それだけ華の期間長いなら確かに少しくらいなら大丈夫そうかもな。」と笑みを零せば、とりあえずは華の女子高生の時間は甘んじて費やされようと。まさか彼女がその先まですでにスケジュールを組んで発言しているとはまったく思っていないわけだが。 )
そ、そんなアドリブできるくらいなら山田くんの時にもうやってるもん…。
( 振り返ってもなおふにふにと彼の指に弄ばれている耳に時たま小さく肩を跳ねさせたりとちょっぴり意識を持っていかれつつも、彼の演技のように上手にそんなことができるのであれば先ずそもそも山田のPRの時にできていたと恥ずかしそうに唇をとがらせ。彼がどんな気持ちであの自己PRを行ったかなんて当たり前のようにみきは分からないまま、自分は本当にときめいて自然に出てきた言葉なのにどこか余裕そうに見える彼にみきの夕陽色の瞳はちょっぴと不満そうで。 漸く彼の声が柔らかいものに変わったと分かれば安心したようにふわりと笑っては「 そうだよ、だからせんせーはそんなこと考えずにたくさんみきに愛されてくださーい。 」と無事に彼の許可(?)も得られたことだしこれからも遠慮なく華の女子高生期間を彼に費やしていくのだとまた改めて決意。他の女子高生のように彼ピとデートや手を繋いで下校や甘い青春のワンシーンはなかなか得られないけれど、こちとら彼を好きになった時点でその覚悟は出来ているしむしろ今は想像していた何倍も幸せなのでそれで良いのだとその笑顔はとても朗らかで。 )
────それはダメ。
( 不満そうな夕陽色と共にぽそぽそと呟かれた言葉に対して出たのはほとんど反射的なもので。それまで耳輪の部分を優しく弄っていただけの指が一瞬動きを止めれば、そのまま少し手を下げて耳朶から彼女の首筋までするりと指を滑らせて。コンテストでの彼女の返答は確か"大好き"だったはず。その場合例えアドリブだとしても、友愛ではなく愛情としての"大好き"を返す先は彼女のことを一途に想っていた相手になるわけで。柔らかい笑顔とは反対に口ぶりは確固たる自信に溢れているように聞こえる。いい大人が女子高生に愛されろだなんて、その響きは何とも甘美な毒のよう。懐いてくれるのはもちろん嬉しいのだが、普通の女子高生が送るはずの青春を送らせてやる事ができないという後ろめたさが付随するのは仕方がない。しかしそれでも良いと、飽きる事なく真っ直ぐな好意をひたすらに向けてくれる彼女がただただ愛おしくて。「はいはい。お手柔らかにお願いしまーす。」と諦めたような手振りと笑いを零しながらもその声色は満更でもなさそうで。 )
っん、!
─── っ、…だ、だめ……?
( ふにふにとした耳への柔らかい刺激にそろそろ慣れ始めた頃、ピタリとその動きが止まったかと思うが早いか次に彼の指先が弄んだのは全くノーガードだった首元。びく!と肩を跳ねさせ更には先程まで我慢できていた声まで漏らしてしまえば、その行動の理由と咄嗟の否定の理由が結びつかずにみきの瞳には困惑と疑問が混ざり。今彼の手が触れている首の部分にまるで心臓があるようにどきどきと熱くなるのを感じつつ“ダメ”の理由を模索するも、山田がそれを嫌だと言うのならまだしも彼が拒否する理由だけはどうしても分からずに ─── 彼の手が首元にあるのも頭が回らない大きな原因の一つではあるけれど ─── みきはただただ答えを待つように彼を見上げて。すっかりいつも通りの彼の言葉は諦めたような口ぶりだけど彼限定のエスパーは決して満更ではないと思っているのは丸わかり。みきはするりと彼から手を離せば、にこ!といたずらっ子の笑顔を浮かべつつ「 ふふふ、やーだ。 」なんてノー手加減の宣言。だって毎日顔を合わせることのできるこの高校生の期間のうちに彼をメロメロにしなきゃいけないのだから、お手柔らかになんてしている場合ではないので。みきに何かを返せなくて困るんじゃなくて、みきに愛されすぎて困って欲しいのだとその夕陽は蠱惑的にキラキラ輝いて。 )
───…!
あ、いやほらアレだ。山田は真剣だったのに、それに返すのがアドリブでの台詞ってのも失礼だろ?
( 大きく跳ねた肩と漏れ出た甘い声にハッとすれば、ほんのりと熱の込もった白い首筋から漸く手を離し。こちらを見上げてくる夕陽色を真っ直ぐに見返す事ができず、行き場を無くした手を誤魔化すように自分の頭をぽり、と掻いては自分でも咄嗟に出た否定の言葉に驚きつつ、どうにか不自然にならないような理由を見つけては口早にそれを述べて。仮に彼女の返答がアドリブだとしても、やはり"大好き"だなんて台詞をそう易々と他の男に投げかけているシーンは見たくないだなんて──。そんな気持ちは最もらしい理由を盾に心の奥深くにしっかりとしまって。こちらの願いも虚しくはっきりと拒否されれば、そのいたずらっ子のような笑顔と口調に溜息混じりの笑いが零れ。彼女の思惑は知らずとも、いつもよりも何処か挑戦的な色を見せるその瞳がその気持ちを隠さず伝えてきているようで。…もちろんやられっぱなしなんて性に合わないのでやり返す事にはなるのだろうが。そうこうしていれば、気付けばこうして隠れて話をすること暫く。「…さ、そろそろ行くか。一応は宣伝を頼まれてるわけだしな。」と、さすがにいつまでも同じ所にいては宣伝()にならないと漸くその重い腰を上げて。 )
そ、そうなの…、?
でも、真剣にってなったらごめんなさいってなっちゃうのに…
( 彼の言葉にぱちぱちと不思議そうに瞬きをすれば、でもそんなこと言ったら彼と自分も演技と真剣なのに…と不思議そうに首を傾げて。それに真剣にとなってしまえばみんなの前で断ることになるのだからそちらの方が気の毒だ、と言いたげにバカ正直に彼の言い訳に流されて。2人っきりのちょっぴりいつもよりも甘い時間は残念ながら終わり、彼の言葉に“まだ二人っきりがいい”と瞳は不満げだけれどそうわがままを言う訳には行かないので渋々それに従いかけたものの「 はぁい。……あ、待って。 」とぴたりと止めては自身の太ももに巻いてあるレースチョーカーを外してそのまま自身の手首に巻き付けて。「 ─── これならせんせー贔屓になる? 」と悪戯っぽい笑顔を浮かべれば何も巻かれていないつるんとした太ももをぺち、と叩き。 )
それは………ま、もうコンテストも終わったわけだし結果的には良かったんじゃないか?
( 山田のPRタイムでは言葉を失いながらも、最終的にはその鈍感さにより別の意味で盛り上げた彼女には今となっては何処か安堵してしまう気持ちがあるのは事実(とはいえさすがに山田には同情の意を向けるが)。彼女が下手にアドリブのスキルを持っていなくて良かったという思いと、言葉通り大衆の面前でごめんなさいと頭を下げられる山田の姿を見てしまうのも居た堪れないのでそればかりは彼女の鈍感な部分に少しだけ救いを感じてみたりもして。二つ返事で…というには少しばかり後を引くような彼女の反応は予想通り。しかし引き止められるとは思わず疑問符を浮かべながら彼女の行動をただ見ていればそれは予想外のもので。自分が漏らしたほんの少しのヤキモチを気にかけてくれたのか悪戯っぽくも何とも可愛らしい笑みを浮かべる彼女に目を丸くさせて。「──っ…、…あー、うん。なるなる。どーも。」と、自分の幼稚な嫉妬心を浮き彫りにされた気がしては気恥ずかしそうに視線を逸らして。…本音を言えば、チョーカーが無くなったとてスリットから覗く生足の魅力が無くなるわけではないので複雑ではあるのだが。しかしわざわざ"贔屓"してくれたらしい彼女のいじらしさに一層の愛おしさを感じて。 )
???
そっか…。
( こて…とやはり彼の言葉には首を傾げつつもそれ以上なにか言及することもなく、確かにまぁもうコンテストは終わったしあれだけ盛り上がった(むしろ今もまだ優勝パワーは尾を引いている)ので良いのだろうと自分を納得させて。きっと自分の立場と彼の立場が逆になれば“演技でもやだ、他の子に好きって言わないで“と馬鹿正直にわがままを言うのだろうけれどそれはその時になってみなければ分からない話。どうやらみきなりの“贔屓”は功を奏したのか、彼の返事に嬉しそうににこ!と笑顔を浮かべれば「 良かった!他には何かせんせー限定の贔屓のところある? 」と、宣伝として人前で練り歩く前に彼にしか見せない箇所はあるかとくるくるその場で回って見せて。普段滅多にこうして嫉妬心(みきはそれに気が付いていないけれど)を見せてくれることのない彼がこうして独占しようとしてくれているのが嬉しいのかその表情はちょっぴり嬉しそうで。 )
他って言われてもそりゃ──、……あー…まあ大丈夫じゃないか?
……強いて言うならそうやって派手に動くような事が無ければ。
( 今年のコンテストは知らないところで話が進んでしまっての参加だったとはいえありがたいことに優勝できたのは事実。☆先生のように殿堂入りとまではいかなくていいので、来年も開催されるであろうコンテストでは前年の優勝者は参加権剥奪とかしてくんねーかななんて思ったりしてみて。そうすれば自分も彼女も比較的落ち着いた心持ちで文化祭を楽しめるはずだろう、きっと。贔屓の場所を選べとでも言うようにその場で華麗に回る彼女は、その提案によって更に此方の独占欲が刺激される事など微塵も考えていないのだろう。本音を言えばこんなに愛らしくて何処か妖艶的にも感じる衣装を纏った彼女を誰の目にも晒したくない。しかしいくら何でもそこまで独占は出来ないし言える関係でも無いので、それならばせめてちらちら覗く生足だけには気をつけて頂きたい所存。タイトなチャイナ服とはいえこうしてくるりと回ればスカートはスリットの部分からふわりと広がるし、それによって何とも刺激的な一瞬が生まれてしまうのできっとお年頃の男子たちの目はそちらに向いてしまうだろう。無防備にちらつかせられる足から視線を逸らしては、こんな指摘もセクハラになるのではという思いもありながら(散々チョーカー越しに太ももを弄ったあとで言うのも何だが)ぽつりと呟いて。 )
…………それだけ?
( 思っていたよりもなんとも単純な彼の回答にきょとん、と夕陽色をまんまるにしてはこてりと首を傾げて一言。何がダメなんだろう、と彼の目の前ならいいかと自分の格好を見下ろしてちょっぴり回ってみたりするけれど特に何か変なところ等も特にないのでみきにはやっぱり分からなくて。けれど思っていたよりも簡単な贔屓だったのでもちろん断る訳もなく(そもそも自分から聞いたので何を言われても二つ返事で了承してしまうだろうけど「 じゃあ今日は大人しくしてるね! 」とニコニコキラキラ元気にお返事を。いつもは自分ばかりああしてたくさんのわがままを言ってしまっている分、こうしてたまにぽろりと出る彼のちいちゃなわがままはどうしようもなく愛おしくて可愛く感じてしまうのでふんるんと楽しそうなまま「 いこ、! 」と人通りのある方向へと歩き出して。 )
そっ……、!
……はあ、…今日だけじゃなくて普段からおとなしくしてくれれば先生としては大いに助かるんだけどなー。
( それだけ、なんて色々と我慢しているこちらの頑張りをいとも簡単に剥ぎ取ってきそうな台詞に思わず声が出てしまうもすぐさま良い笑顔と共に了承の意を受け取ればぐっと飲み込み、代わりに何だか久しぶりな気がする軽口を。彼女の目線からはくるりと回っても自分の格好がどうにかなっている様は見えにくいのだろうが、その確認するための回転でさえ自分の方からはしっかりとスリットが仕事をしているのが見えてしまうのでとても心臓に悪い。そんなこちらの心境など微塵も知らない様子の彼女は、大人として情けなくなる小さな独占欲すらも無邪気に受け入れてくれたようで。あちこちから笑い声や話し声が賑やかに聞こえてくる廊下へと再び歩き出せばまたすぐさま四方八方から声を掛けられ、宣伝としては大成功なのだが元の服に着替えられるのはまだ当分後になりそうだなと諦めたような溜息を吐きながらも隣の彼女が楽しそうならばとりあえずはそれで良い。 )
普段暴れてるみたいに言わないでくださぁーい。
( 少しだけ久しぶりのような気がするいつもの彼のような軽口にへらりと笑って答えては、さっきみたいなヤキモチ妬きの彼もとっても可愛いけれどやっぱりいつもの彼も好きだなぁなんて結局はどんな彼でも愛せてしまうのでいつだって彼にメロメロなのは間違いなく。ひとたび人通りの多い廊下に出れば先程の二人っきりの甘ったるい空間はどこへやら、友人から全く知らない後輩や先輩にまで耐えず声をかけられ驚きながらもみきは楽しそうに後夜祭を楽しんでおり。『 えーっ先生かっこいいじゃん! 』『 私たちとも写真撮ってください! 』『 え、待って私も撮りたい! 』やはりいつもと雰囲気の違う彼にきゃあきゃあと色めき経つのは女子生徒たち。もちろん優勝コンビの相手であるみきがいることによって遠慮する生徒も多いのだけれどもちろんそんなことお構い無しな生徒だってたくさんいる訳で、めろめろと黄色い声を上げながらするりと彼に腕を組んだり距離が近かったりとみきとしてはとてももやもやするけれど自分も写真対応に追われてしまいどうすることもできず。やっぱり教室の中だけで着てもらえば…ううん、みきの前でだけ着てもらえば良かった!と先程の彼と同じような独占欲が心の中にもくもく湧き上がっては無意識に左手の薬指をきゅ。と握って。 )
──はいはい、
写真撮ったら2-Bに行けよお前ら、今の俺は2-Bの宣伝部長だからなー。
( 過去付き合ってきた相手にここまで嫉妬や独占欲のようなものをハッキリと示した記憶が無い分、どうしようもないくらい彼女に惹かれ始めているという現実を認識せざるを得なくて。とはいえ今はまだお互いの立場上どうしても進める限界があるので、そんな現状にひとり小さく溜息を吐きつつ他愛の無い話を彼女としながら歩いていれば、案の定あっさりと人だかりが出来てしまい。コンテストのおかげで一躍時の人のような扱いになってしまっているのは仕方がないとして、とりあえず写真を撮られればその代償にきちんと宣伝活動をこなして。『うちらのクラスの宣伝もしてよー!』『別の衣装用意しとくねー(笑)』なんて声も聞こえるが、「俺が宣伝するのは相棒の特権ありきだから無理でーす。」と、隣で別の対応をしている彼女(もちろんその胸中は分からないが)の肩に手を回してはくい、と自分の方へ引き寄せて。コンテストの優勝者が2人揃って歩いている、というのが宣伝効果として抜群なのは言わずもがななので。 )
『 御影せんぱい、いいなぁ。先生とお揃いですね! 』
えへへ。いいでしょ、せんせーとお揃いにしてもらったの!
( 彼の方をちらちらと気にしつつ知らない後輩とお話したり写真を撮るのはちょっぴり緊張するけれど、やっぱり彼とお揃いのチャイナ服に言及されてしまえばふにゃふにゃとその笑顔は嬉しそうで。そのまま後輩にチャイナ服を見せようと一回転 ─── しようとしたところはなんとか踏み止まり。今日のみきは派手に動かないお淑やかさんなので。そんなこんなで周囲の生徒たちと会話をしていればふと彼の手が方に回り、完全に油断をしていた上にもちろん相手が彼なのでそのまま彼に引き寄せられれば周囲からちょっぴり歓声が。きょとん…!と何が起こっているか分からない顔で瞬きを数回した後にパッと頬に朱を散らしては“い、いっぱい人いるのにいいのかな…!”とあわあわ混乱したあとに「 せ、せんせー専門の相棒です(?)!! 」とみき自身あんまり言葉の意味をよくわかっていないのだけれど取り敢えずは相棒アピールを。本当は相棒じゃない存在として誰かに紹介して貰えるようになれたらいいのに、なんてわがままは(彼にはバレているだろうけれど)胸の奥にこっそりしまい。 )
『昨日のミスコン見ましたぁっ!御影先輩かわいすぎてめっちゃファンですっ!』『先生との絡みやばかったですー!』『優勝した次の日にお揃いコスとかみき最高じゃーん!』『御影ちゃん、先生に飽きたらいつでも俺らのとこおいでー!』
( 1年生から3年生まで、歩けば歩くほど人に囲まれて絡まれる彼女の人気っぷりに純粋に感心しつつも危うく回りそうになった彼女が目に入り。何とか思い出したように踏み止まった彼女が可笑しくてくすくすと笑いながら、引き寄せたのはその後すぐ。つい動きそうになっていた彼女を抑えるためとあとはちょっとした虫除けのため。コンテストで見せた"禁断の愛ロールプレイ"の余韻がまだ残っている生徒たちからはまるで少女漫画を見るような目できゃっきゃと騒がれ、続く彼女の少し謎めいた宣言には男子たちから『専門!?先生ずりー!』とブーイングが多少なりとも飛んできたりと大変賑やかで。薄らと頬を染めた彼女が何を考えているかなんてあまりにも簡単な問題には笑いながらも敢えて何も言及せず。──こうして人前で彼女を紹介する際に別の言葉が使われるのはそう遠くない未来の話。 )
わ、わ……ありがとう…!!
でもみきはせんせーに飽きないから大丈夫…!
( 様々な賛辞の声にぽやぽやと頬を染めながらも拒否するべきところはちゃっかりやんわり拒否をするあたりちゃっかりしていると言うかなんというか。けれど嘘でもなんでもなく言葉通り彼に飽きるなんてことはないだろうし、彼以外の人のところに行く自分がそもそも想像できないのでその瞳は嘘偽りのないしっかりとした色で。専門の相棒、は無事に(?)彼から訂正されることはなかった為に無事に周囲に浸透していそうでざわざわと賑やかな周囲に思わずくすくすと笑ってしまい。だがしかしハッと思い出したかのように「 せ、せんせーもみき専門の相棒だから…!! 」 と彼の服の袖をキュ、と握りながら自分が彼の、ではなく彼も自分の専門なのだと付け足して。だってそうでも言わないとまためそめそ泣きながら薬指に頼らなければならなくなってしまうので、周囲への牽制はとても大切である。……えまちゃんへの対応はちょっぴり考えなければいけないのだろうけれど。 )
、……はは。いつの間にか俺も専門になってたんだ?
( あまりにも一途で真っ直ぐ、そして真剣さしかない瞳を見ればその言葉の信憑性も増すというもの。さらにはわざわざ相手を専門と言っておく様が可愛らしかったのか、周りからは囃し立てるような声やずるい!という声(こちらは主に男子)など多種多様な反応を頂き場は盛り上がり。しかし宣伝隊としてはいつまでもここで足止めを食らっているわけにもいかず、ついでに言えば慣れてきたとはいえ自分も出来るだけ元の服に着替えたいのは事実。「───ほらもう写真終わり、通行の邪魔でーす。さっさと宣伝して戻りたいんだよ俺は。」と、彼女が通りやすいようにまず自分が率先して人の波をかき分けて。一応は宣伝ということでぐるっと校内を一回りする予定ではあるのだが、その進路にはもちろん1年生の教室もあるわけで。だが何だかんだと楽しく賑やかな雰囲気に流されてそんな懸念など頭に残っているはずもなく。 )
じゃあ、他のとこでも宣伝してきまーす。
いっぱい褒めてくれてありがとう、2-B来てね!
( 宣伝隊はいつまでも同じ場所で立ち止まっている訳には行かないのでそろそろ移動の時間。彼が人の波をかき分けてくれたおかげで無事に自分も人混みに埋もれることがなく脱出ができ、くるりと振り返ればそのままひらひら手を振ってしっかりと宣伝を。これをしなければクラスメイトに宣伝に任された意味がなくなってしまうので、みきにとってはデートのついでの宣伝だけれども仕事はしっかりこなして。いっぱい褒められちゃった、とにこにこほくほくしながら彼に並んで廊下を歩いていれば、鏡に映る自分たちの姿でさえ今のみきにとっては心がふわふわとときめく材料のひとつ。大好きな人とお揃いの服を着て並んで文化祭(後夜祭)デートをしているだなんて、1年前の自分からは考えられなかった進歩だと機嫌よくニコニコ笑っては「 ね、せんせー。文化祭デートたのしいねぇ。 」と隣にいる彼を見上げてこっそり囁いて。本当は手を繋いで歩きたいのだけれど、でもそんなことはテストで100点をとっても“今は”叶わないだろう。それにそんなことを言っても彼を困らせてしまうだけだと分かっている物分りの良いみきはただ隣に並んで歩けているだけでも幸せなのだと未来に期待を抱いて今は我慢し。 )
宣伝ついでの散歩な。
…って言いたいけど。ま、今日はそういう事にしといてやるか。
( 彼女のお誘いにはーい!と元気な声が返ってくるのを背に再び昨日とはまた違う装いで賑わう廊下を歩き出して。足を止めないため再び囲まれることは無いとはいえ、歩く先々では声を掛けられ写真を撮られというのはまだまだ続いてしまうもので。『後でうちのクラスも来てくださいねー!』なんて逆にお誘いされることもしばしば。そんな事もありながら歩いていれば彼女から何とも可愛らしい囁きが。すかさずピシャリと言い直しを入れるも、今日ばかりはお祭り気分でいてもバチは当たらないだろうということでいつもより数倍良さそうな機嫌に釣られてこちらの口元も緩みながら彼女の意見に頷いて。そうしてお揃いコーデ(コスプレ)でデートを満喫していれば次に辿り着いたのは1年の教室が並ぶエリア。…ともなれば、先日の問題児ももちろんいるわけで。『──あっ、せんせー!…と、御影せんぱーい!』ミスコン準優勝の彼女が、ハロウィンの仮装としてはある意味王道ともいえるナースのコスプレで手を振りながら小走りでこちらへと向かってきて。 )
!
……せんせー優しい、だいすき!
( すかさず彼からきっぱりと訂正が入るのはいつもの事だけれど、今日はそれに続きがあって。どうやら今日はデートとして扱ってくれるらしい彼の言葉にぱぁ!と瞳を輝かせてはいつものように彼に愛をストレートに投げ掛けて。本当は人の視線がなければこのまま彼の腕に抱きついていたのだろうけれど、さすがに今は人の視線もあるしこうして抱きついてばかり居たら彼の精神的心労も耐えないだろうということで我慢。ただ自分が彼に一方的に好意を寄せているだけというのはいつだって忘れてはいけない。そうこう彼と他愛もない話に花を咲かせていればいつの間にか到着したのは1年生のエリア。彼しか瞳に入っていないみきは残念ながらそのことに気がついておらず、ようやく気が付けたのは“問題の”と言っても間違いではない1年生に声をかけられてから。「 !え、えまちゃん、…。 」どんな男でもころっと不治の病に陥ってしまうだろうというくらい可愛らしくもセクシーなナース服に身を包む彼女は文句の付けようがないくらい可愛くて、どうしようせんせーも好きになっちゃう…!と思わず隣の彼を見上げてはちょっぴり焦ったように無意識に彼の服の裾をきゅ、と握って。 )
あー……と、田中か。
『うふふ、はぁい。…お2人ともお揃いなんですねぇ!』
( 周りが1年生ばかりになれば、先生はまだしも先輩である彼女には少しばかり声を掛けづらくなるようで先ほどまでのように囲まれて足を止めなければならない事はなく。どちらかと言えば『あっ、ほらあの人昨日のミスコンの…!』『えっ!?御影先輩!?先生も一緒だ!』と周りだけで盛り上がっているような声がちょこちょこ耳に入ってくる程度。しかしそんな中で物怖じせず声をかけてくるのは先日初めて話したばかりの1年生。元々懐っこい性格もあるのだろうが、慣れ親しんだ様子でにこにこと話しかけてくる彼女は陽キャやらコミュ強といった言葉がよく似合うのだろう。『御影せんぱい可愛いですねぇ。ちょっぴり足元がセクシーですけど、そこも素敵です。せんせーも似合っていてかっこいいですよぉ!』と、着ている彼女本人が気付いてなかったであろうスリットの魅力をさらりと告げればくるりと向き直り、彼女がいる側とは反対側の教師の腕にきゅ、と抱き付いて。いつもは猪突猛進な彼女が人の目と相手の心労を気にして我慢していた事を易々としてしまうこの1年生は相当心が強いらしい。 )
あしもと、…!!!!
( 足元、と指摘された場所へとちらりと視線を落としたその一瞬。たった油断したその一瞬でいつの間にか目の前の可愛らしい後輩は自分の想い人の腕に抱きついており思わずみきは言葉を無くしてしまい。自分が人目を気にして(人目が無かったら良いというものでは無いのだけれど)出来なかったことを易々とやってのけた目の前の後輩に対抗して彼の腕に抱きつくことは出来るけれど、でもきっと間違いなく彼を困らせてしまうしさらに周囲の視線を集めてしまうだろう。でもどうすれば、と顔に困惑と嫉妬のもやもやが全部書いてあるまま彼とえまを交互に見つめては「 っ、……えまちゃん!その、…えっと、みきとも、ぎゅってしよ! 」とあまりにも強行手段であるけれど真剣な表情でえまの方へと両手を広げて。彼女を無理矢理彼から引き剥がすなんてそんなことは出来ない、でも彼に抱き着かれているのはすごくモヤモヤするし嫌だしそれを止める権利もない。けれどこのまま見ているだけは絶対に嫌なので、誰も傷つかずに何とか彼からえまを引き剥がせるのではと思いついた方法がこれなのだ。自分でも馬鹿げたことをしている自覚はあるけれど、今はとにかく彼から離れて欲しくて精一杯で。 )
『えー?…もう、仕方ないですねぇ御影せんぱいは。』
( 彼女のファインプレー(?)によって抱き付かれたのはたった一瞬、早々に離れた1年生は可愛らしく唇を尖らせながらもくすくすと笑って広げられた先輩の手の中に収まって。…2人のやり取りに流されて抱き付かれた当の本人だけが何の反応も出来なかったことはとりあえず置いておいて。仮にもミスコンの優勝者と準優勝者が2人揃い踏みで、お互いにハグをしている状況は周りの生徒(特に男子)にとっては眼福極まりない光景だろう。見目は愛らしくともタイトなチャイナ服とスリットから覗く生足が少しの色気を演出している御影みきと、王道のナースだがハロウィンらしく付けられた申し訳程度の血糊と所々破かれた白いタイツがいやに色っぽい田中えま。仲良くハグし合う光景はまさに仲睦まじく、水面下で女の戦いが行われていることなど誰もが知り得ないことで。『──そうだ。御影せんぱい、えまのクラス来てくれませんか?ミスコンで優勝した御影せんぱいの事が気になってるって子いっぱいいるんですよぉ。…あっ、もちろんせんせーも一緒に!』ハグしたまま上目遣いでこてりと首を傾げる様は、自分の可愛さを理解しているうえでそれを利用する事がもはや自然と出るほどに染み付いている動作で。 )
、…あ、ありがとう…。
( こうして改めて女の子(しかも後輩)とハグをすることもなかなか無くて、彼からあっさり離れてくれたことに安堵しつつも彼の感触が早く彼女の腕から消えるようにきゅ、と優しく彼女を抱きしめて。ふんわりと香る強すぎず弱すぎない甘い香水の匂いや小さくて華奢なお人形さんのような体、男の子の好きと女の子の憧れを全部詰めたようなえまの自分の可愛さを完全に熟知しているような仕草は女であるですらころりと騙されてしまいそうになる。─── …どうしよう、せんせーも好きになっちゃったら。嫌だなぁ。そんなモヤモヤとした気持ちを抱えつつもふと投げかけられた誘いにぱち、と瞳を丸くしては「 え、と…みきはいいんだけど…。 」と困ったように返事を濁して。きっと彼は直ぐにでもいつものお洋服に着替えたいだろうし、それならば 自分一人で行った方が良いのではときゅ…と眉を下げながら助けを求めるように彼を振り返り。 )
『ミスコンでえまが御影せんぱいと知り合ったって羨ましがられちゃってー。みんな御影せんぱいとお話してみたーいって!』
( 彼女が拍子抜けするほどあっさり彼から離れたのはもちろん考えの内。ここでごねることで、周りから見て嫌な女という印象を持たれることを何より避けたかったのだろう。先輩のお誘いに嫌がる事なく反応してすぐさま乗るのが"可愛らしい後輩(女子)"として最善だと考えているようで。にこにこと花のような笑みを顔いっぱいに浮かべながら果敢に先輩を誘うも返事としては少し渋めなのだが。── 一方助けを求められることで漸く会話に入る余地が出来たと察したこちらは「…まあ宣伝ついでだし、俺も別にいーよ。後はうろうろして最終的に2-Bまで戻るだけだしな。」と、彼女が行くならば共に誘われた自分も行こうと。出来れば早く着替えたいのは本音ではあるが、ここまでコスプレ衣装で闊歩してきたのならば少しくらい寄り道をしてももう一緒だろうと。 )
、…ん。じゃあ行こっか!
─── あ。でもちょっとだけ先に行ってて!すぐみきも中入るから!
( 彼が大丈夫なのであれば当然みきも断る理由がないため、可愛い後輩の頼みならばとこくりと頷いて。勿論今えまが心の中でどう言った作戦を企てていたかなんて気が付くはずもなく、みきの警戒心も直ぐに離れてくれたことによりちょっぴり薄まったようでその表情は先程よりも穏やかなもの。だがしかしえまの教室に入る前にぴたりと立ち止まれば、えまや他のクラスメイトたちが先に教室に入ったのを確認してなおかつ周囲にいないのを見ればそのまま真っ直ぐに先程えまが抱きついた方の彼の腕をぎゅう、と抱きしめて。「 ─── …消毒。 」とちょっぴり申し訳なさそうに眉を下げながら小さな声でぽそりとそう呟けば、彼が何かを言う前にするりと腕を離してぱたぱたとそのまま案内された教室にすぐさま駆けていき。 )
!
───っ……、はー… 変なこと覚えたなあいつ……。
( 彼女が足を止めたのを見て疑問符を浮かべながら同じように止まれば、周りの目が無くなったほんの一瞬。僅かなその間に先ほど捕まった腕が再び、今度は違う相手に捕まったかと思えばいつだかに聞いた事のある言い回しがぽつりと聞こえたもののその温もりはすぐさま離れて。反応が一拍遅れたことで何も声を出せなかったが、先に教室へと入った彼女の背中を見ながら溜息を吐いて。こうしたほんの少しのことでヤキモチを妬いてくれることに対して可愛いと思ってしまうことはあれどもちろん嫌な気持ちなど無く。───田中えまが連れてきた優勝者コンビの登場に1-Aは大盛り上がり。特に彼女の方は部活等をやっていないため中々こうして後輩と繋がる機会がないので尚更この際にお近づきになろうとする1年生が男女関係なくわらわらと集まってきて。『えっ、御影先輩!?』『待って鳴海先生も一緒!?』『2人揃ってとか尊すぎるんだけど!』『えまちゃんヤバッ!』と、何だかついていけないほどの盛り上がりに気圧されていれば当の本人──田中えま──だけがどこか得意げで。『コンテストのよしみで御影せんぱいと仲良しになったの~!ねっ、せんぱーい。』人懐っこく、どこまでも甘い笑顔でまずは御影みきの腕にきゅうと抱き付いて。仲の良い2人を引き裂くように割り込むのではなく、あくまで"懐いた後輩"ポジションから。将を射んと欲すればまず馬を射よ。なんてことわざがあるように、狙った相手への印象操作のためまずは恋敵になっている先輩へとすり寄る所から始めるらしく。 )
わ、わぁ………………。
( なぜだかとても不思議だけれど、高校生の一学年違いというものは大人から見て5歳ほど違うほどにテンションの差が違うように見える。自分たちの学年もきっと大人たちから見たら似たようなものなのだろうけれど、みきからしてみたら自分たちの倍は賑やかできゃぴきゃぴとしている1-Aの雰囲気に思わずパチリと瞳をまん丸にして圧倒されてしまい。いつもの女子トークで慣れているおかげで何とか1-Aのマシンガントークにはついていけており、へにゃへにゃと少し緊張気味に笑いながらありがとお、と当たり障りなく言葉を返していきつつも彼の方は大丈夫かとしっかり想い人の動向も確認をして。だがしかしふと気が付けばえまが先程彼にしたように自身の腕にきゅっと抱きついており、あたかも最初からそのポジションにいたかのような敵対心のない笑顔と甘ったるい言葉に一瞬だけ意識が停止したものの“もしかしてえまちゃん悪い子じゃない…?”と人のことを疑うということを知らないみきはあっさりとその罠に引っかかりかけており。「 う、うん。仲良しになったよ、ね? 」と若干疑問形ではあるもののなんとかいつもの笑顔と共に言葉を返せれば、見目の良い女たちの友情というものは外聞がいいので周囲の人間たちも盛り上がっており。 )
『ね、ね、先輩って彼氏いるんですかー?』『鳴海先生との絡みやばかったですー!』『山田先輩と付き合ってるのって本当ですか!?』
( 普段話す機会の無い先輩、ましてやコンテスト後ということもあって時の人となっている彼女の人気は凄まじく。矢継ぎ早に繰り出される質問や言葉に圧倒こそされてはいるものの、四方八方から投げかけられる声を拾い答えていく彼女のスキルはさすが今時の子と言えるべきか素直に凄いと思い。一方こちらは「あーもういっぺんに喋るなって!」という注意を何度かしてやっとひとつふたつほど言葉が拾える程度。『先生似合ってますよー!』『授業のときもそっちの方がいいんじゃないですかー?(笑)』と、まだ敬語が出る辺りはやはり1年生らしいのだが何だか威厳に欠ける気がするのはどの学年を相手にしても共通意識らしい。──『えま羨ましいー!』『先輩っ、私たちもお友達になりたいです!』『うちのクラス、昨日お菓子売ってて!余りで申し訳ないんですけど食べてくださいっ!』…と、しばらく経っても盛り上がり(特に彼女周り)は収まることを知らず。しかしその状況を待ってましたと言わんばかりに動き始めるのはやはり田中えま。『……ね、せんせー。御影せんぱい忙しそうですし、良かったらこの後えまとまわってくれませんかぁ?』いつの間にか彼女の側を離れていたらしく、抱き付きこそしていないもののさり気なくボディタッチを織り交ぜつつ小悪魔の誘惑は始まったようで。 )
あ、えと、好きな人はいるけど、お付き合いしてる人はいなくて…それからね、山田くんとはお付き合いしてなくてね ─── へ?お友達?みきで良ければ……!
( ひとつひとつ丁寧に、けれどあまり関わることの無い後輩たちへの対応はちょっぴり緊張気味に後輩たちからの様々な言葉たちに答えていくみきに対し、一方の彼はいつも通り一斉にではなくちゃんと1人ずつ喋らせていくスタイルを維持しており何だかいつもの自分たちのクラスメイトと彼を見ているようで思わずくすくすと柔らかな笑顔を零して。だがしかしそんな彼の様子を気にしていたのもつかの間、もう彼の方へ気を向ける余裕が無いほどに矢継ぎ早に言葉が飛んでくればもうすっかりえまへの警戒心も忘れてみきは後輩たちの対応に付きっきりになってしまい。もちろんその隙に小悪魔が巧みな技術で彼を誘惑しようと自分の元から離れていることにはすっかり気づかずに「 お菓子、いいの?じゃあみきたちのクラスのも後でお礼に持ってくるね。 」とニコニコ嬉しそうに後輩たちとの会話を重ねており。─── 一方、えまたちは。勿論そもそものえまの狙いは彼一択なのでもうみきの方へと目もくれることもなく、なんならクラスメイトたちがみきを捕まえている今のうちにとグロスで艶やかに彩られた唇を釣り上げては『 良いですよねぇ、せんせー?えまと並んで歩いても宣伝になると思いますよぉ。 』と彼の目的が“宣伝”なのであればミスコン準優勝の自分も視線を集めるには十分だろうと。 )
んー……まわってやりたいのは山々なんだけどな。
とりあえず宣伝を任されてんのはあいつのクラスの分だし、御影がいないと2-Bが何を売り出してんのか良く知らないから俺には荷が重いっつーか。
( にこやかに手早く、しかし丁寧に後輩たちの言葉に答えている彼女を見ていれば周りに好かれるのも納得するほど鮮やかで。後輩女子たちからの信頼も上がれば、きっとまたこれで彼女に恋する後輩男子も生まれることだろう。だがしかし皆が皆純粋な気持ちで彼女に接しているかと言われれば実は違っていて、えまの取り巻きとも呼べる子たちが数人ほどそちらに混ざっており、先輩の意識を先生から逸らしておいてね。なんて友達のお願いを実行していることなど罠に掛かった2人が知る由なく。甘い毒のようにじわりじわりと的確に距離を詰めてこようとする相手の誘いには眉を下げて困ったような笑みを浮かべて。自分から見れば目の前の1年生はやはり子供にしか過ぎず、女としての策略を企てられているなんて微塵も思うはずも無い。変なところで鈍感なのもあり、口にする断り文句は裏のない本音。そういった用事が無いのであれば、可愛い生徒の頼みなら一緒にまわることなど容易いのだが今自分がまわっている相手は"彼女"なので。 )
『 …。え~、御影せんぱいだけずる~い。
えまもせんせーと“後夜祭デート”、したいですぅ。御影せんぱいにこっそり行けば、きっと怒られませんよう。 』
( 想定していたよりもずっと手強い彼に一瞬だけ天使のような笑顔から光が消えたもののそれは本当に瞬きの間のみ。直ぐに完璧に計算され尽くした笑顔を浮かべ直したあとに可愛らしい頬をふくらませた顔にしてみせればそのまま彼の耳元に唇を寄せて周りに聞こえないように後半部分をヒソヒソと囁いて。まるでそれが2人だけの秘め事であるように、共犯者を作るように甘美な声色でこっそりと彼を誘惑していけばおそらく自分だけが気付いているであろう揃いの薬指の黒い線をカリ。とよく手入れされネイルの施された指で軽く引っ掻いて。 本当はここら辺で軽く体を寄せてみたらコロッと行く男が多いのだけれど、残念ながら目の前の彼はそう簡単に絆されてはくれなさそうなのでそれ以外の自分が知り得る手段を使って落としてやろうとその瞳は虎視眈々と目の前の獲物を狙っていて。 )
いや別に怒られたくないからとかいう訳じゃ……、
( 彼女に手綱を握られているかのように思われているのかと、田中えまの思考からは若干ズレていることになど気付くはずもなく渇いた笑いを零し。たった1学年違うだけなのに彼女よりもいやに蠱惑的な仕草や声色にある種の感心を覚えるも、やはり目の前の相手はただの可愛らしい"いち生徒"でしかなく。更には薬指に刺激を受けたことで黒い線の存在を思い出せば優しい目でそれを見た後そのまま相手に視線を向けて「──悪いな。昨日も言ったけどコレがある限りは予約されてんだ、俺。」と、むしろ相手にとっては悪手となり(此方にそんな意識などもちろん無いのだが)。子供のお誘い…もとい小悪魔女子の誘惑()をあっさりと切り抜ければ「御影ー。そろそろ教室戻るぞー。」と未だ後輩たちの輪の中にいる彼女へと声をかけて。 )
『 !
─── やっぱりせんせーって一途で素敵ぃ。じゃあそれが早く消えちゃうようにえまはお祈りしておこうっと。次はえまが予約させてくださいねえ。 』
( どうやら他の男だったら流されてくれるような内緒のお誘いはどうやら彼にとっては効果的どころかむしろ真反対。此方に見せたことの無いような慈愛に満ちた瞳は誰がどう見てもその黒い線で予約をした“相手”に他とは意味の違う愛情があるのなんて明白、えまは1度だけ彼に聞こえないように舌打ちをすれば直ぐに天使の仮面を被り直して変わらずあまったるい声で次の黒い線を引かせてとねだって。だってソレ、明後日とかには消えちゃうでしょう?そう言わんばかりに細められた瞳はわかりやすいみきとら違い感情の読めぬ不思議な色をしており。一方のみき、ようやく後輩たちとの会話に緊張も抜けていつものようにきゃっきゃとはしゃいでいたけれどそんな時でも好きな人の声はするりと耳に届くもので、彼から声をかけられれば「 はぁい!……またね、お話してくれてありがとう!とっても楽しかった! 」と人懐っこい笑顔で後輩たち(もちろん女子のみ)をぎゅ!と抱きしめてからぱたぱた彼の方へ駆け寄ってきて。「 ただいませんせー、待っててくれてありがと! 」と後輩たちに見せる笑顔とも同級生に見せる笑顔とも違う、彼にしか見せないだいすきの詰まったキラキラした笑顔を浮かべ。 )
はいはい、来年覚えてたらな。
( 時折現れる仮面を脱いだ相手の本性は、隠すことに慣れているだろうおかげで此方が気付くことはなく。この黒い線、あくまで彼女の不安を少しでも拭えればと思って書かせただけのもの。それをわざわざ次書かせてくれだなんて、三十路のおっさんの予約なんかして何が楽しいんだか。と呆れたような溜息を吐くもそれを躍起になって拒否するのもおかしな話。仕方なく流すように来年(きっと自分は忘れているだろうが)の文化祭で機会があれば、という体でこの1年生のおねだりはここまで。もちろん来年自分が異動になるかもしれないし確約というわけでは無く。小気味良い返事と共に自分の元へ戻ってきた彼女を「どういたしまして。楽しそうで何よりだよ。」と、微笑みながら迎え。いつの間にか側を離れて教師の横に立っている1年生に気付いているのかどうかは分からないが、無事に後輩たちと楽しいお喋りを終えた様子には慈しむような視線が自然と向けられて。 )
うん!…あ、みんなにお菓子もらったの!
あとで一緒に食べよ。
( いつだって恋する乙女は大好きな人しかその瞳には入らないもの。優しくこちらを見つめるダークブラウンに嬉しそうにきらきらとした笑顔で先程後輩たちからもらったばかりの焼き菓子たちを彼に見せては、今日は昨日の文化祭よりもゆっくり出来る時間が多いだろうと貰ったお菓子は当たり前に彼と食べようと思っていたようで。そうして漸くえまに気がつけばさっき心の奥に遠のいたばかりの不安がじわじわと心が侵食してきたけれどそれを一生懸命に心の中に押し込めて「 えまちゃんも、連れてきてくれてありがとう!色んなお友達ができてたのしかった! 」となんにも知らない人畜無害な笑顔を浮かべて。もちろんえまはそんなこと面白くないだろうからこてりと可愛らしく首を傾げて見せれば『 いーえ。えまもせんせーとお話できて楽しかったですぅ。その“流行ってる薬指の線”、次はえまが書いてもいいって言ってくれましたし~。 』と敢えて彼のではなくみきの方の左手を指させば見る人が見たら悪意すら感じるだろう満面の笑顔でさらりと告げてはこれ以上話すことは無いのかひらりと手を振ってまたクラスメイトたちの輪の中に戻っていき。 )
はは、ちゃっかり餌付けされてんじゃん。
( この短時間ですっかり手懐けられた(語弊有り)様子の彼女を可笑しそうに見つめながら、貰ったお土産は当たり前のように自分と食べる予定だという彼女の頭を優しくひと撫で。田中えまこそ綿密に練られたボディタッチを駆使しているが、こうして自分から触れるのは彼女だけだという事実は無意識ゆえに本人すらも気付いておらず。しかしそんな相手が去り際に放った一言は内容こそ間違ってはいないものの伝え方のせいで変な誤解を生んでしまいそうなもの。「なっ……、いやそれは…!…ら、来年覚えてたらって話だしそもそも絶対ってわけじゃ……!」なんて自分でも驚くほど慌ててしまったのは彼女にあらぬ誤解を抱いてほしくないがため。もちろん無自覚ではあるのだが、その慌てっぷりは本来えまからすれば色仕掛けしたときに見たかった反応で。のらりくらりと余裕そうに躱していた相手が慌てるのは、やはりその根本に恋敵の先輩がいる時だけ。だが決して悔しそうな顔なんて見せるはずもない小悪魔ナースが友人たちの所へと戻っていけば、後に残されたのはお揃いチャイナの2人組。『先輩、また遊びに来てくださいねー!』という後輩たちからの純粋な笑顔に押されて漸く賑やかな1-Aから廊下へと出て。 )
、─── … 。
( 彼に頭を撫でられて幸せにへにゃへにゃと頬を弛めていたものの、えまから告げられた衝撃的な一言にその瞳からはするりと幸せが抜け落ちて残ったのは驚きと悲しさと、ちょっぴりの落胆。そっか、みきだけじゃないよね。…みんなに予約する権利があるし、せんせーは不安がってたみきを励ますために書かせてくれたんだんね。言葉にはしないけれど心の中でどこか冷静な自分がそう囁いてくれたおかげで慌てた彼のフォローに対して何かを言い返すわけでもなく何事も無かったかのようににこ!と笑えば「 せんせー、帰ろ! 」とその件については何も言わないまま…否、言えないままに後輩たちにばいばいと手を振って1-Aの教室をあとにして。自分のクラスへの帰り道、“昨日1-Aはストラックアウトをしていたらしい”だとか“成功者が多すぎて途中でルールを厳しくした”だとか、出来るだけいつも通りにできるように話を絶やさずにぺらぺらと先程後輩から教えてもらったことたちを彼に話していけばあっという間に自分たちの教室。もちろんクラスメイトたちは2人の様子がずっと気になっていた為わらわらと集まってきて『 みき、先生おかえりー!デートどうだった? 』『 あ、お菓子持ってる、知らない人から貰っちゃダメって言ったでしょー 』『 先生お疲れー、着替えパーテーションの向こうにあるよー 』「 1年生がくれたのー、色んな人とお喋りしてしたよ!宣伝もしてきた! 」とみきは驚くほどいつも通りでクラスメイトと話し、男子生徒たちは『 、…あれ。御影レースのやつつけてなかったっけ 』『 さあ、そんなんつけてた?先生。 』とか話をしながら着替えを手伝おうとやはり彼の方に集まって。 )
───…はー、やっと着替えられる…。
お前ら向こう1年は俺に感謝しろよ。
( 道中ひたすら喋り続ける彼女はいつも通りかそれ以上の勢いで口を挟む隙は与えてもらえず。しかしその様子がおかしいのは長く彼女を近くで見てきたからこそ明らかに分かるもの。あの年頃は大人を揶揄いたいだけ、子供の諍いみたいなものだと田中えまを少しばかり軽く見ていた自分の落ち度なのを今になって理解すれば、あれだけ特別だと喜んでいた薬指の線をもしかしたら来年は違う相手とお揃いにするのかもなんて彼女の心の中に重くのしかかっているのはいくら鈍感ノンデリに定評のある自分といえど分からないはずもなく。ただ残念ながら帰りの道中というのは早く感じるもので、タイミングを掴めないままあっさりと2-Bに帰ってきてしまい。こうなってはわざわざ彼女を連れ出して誤解を解くのもまた変に生徒たちが揶揄うだろうと今は諦め、労いの声に軽く返事をしながら『いや1年は長すぎだから!』とツッコミを受けながら指示されたパーテーションの向こうへと。手伝おうとしてくれている男子生徒の指摘に一瞬どきりと心臓が跳ねたが、「…最初っから着けてるじゃん。ほら、手首に。」と初期位置を微妙に操作しつつそれ以上は黙って着替え始め。 )
『 デート満喫してきた? 』
…。うん!たのしかった!いっぱいお写真も撮ってもらったよ。
( 確かに満喫は“していた”のだけれど、ラストはちょっぴりそうでは無かったかも。そんな事は絶対にこうして送り出してくれたクラスメイトに言える訳もなくみきはただただにこにこと笑って誤魔化して。だって楽しかったのは事実だし、デートということを彼に否定もされなかったし、それならデートは満喫してきたは嘘では無いので。相も変わらずきゃいきゃいと友人の恋愛事情にはしゃぐ女子たちと変わって男子たちのいるパーテーションの向こう側。彼の指摘に『 あれー、足じゃなかったっけ 』『 それお前の妄想じゃね?脚フェチじゃん 』『 まあ御影足綺麗だもんなー 』 『 チャイナ服スタイル見えるからいいよな、メイド服より俺好き。 』とわらわらと思春期男子的な会話を繰り広げつついつもの服装に着替える彼を適当に待っていて。 )
『………みき、あんた何かあった?』
( きゃいきゃいとクラスメイトの恋愛トークに花を咲かせる中、彼女があきちゃんと呼ぶ恋愛上級者(らしい)ただ1人が少しの違和感に気付いたようで。散々盛り上がって周りが少し離れたところでこっそりと彼女に耳打ちを。日頃から相談に乗っていたりしているからこそ分かるほんの少しの機微を感じ取ったのだろう。一方パーテーションの裏側では華やかさや不穏さなど欠片も無く、ただひたすらにお年頃の男子たちが各々の感想を語り合っていて。着替えている自分はその話題にこそ混ざってはいないものの、男子たちの案の定と言った焦点の合い所にほら見ろ。と心の中で彼女に対して呟いてみて。男同士ということで気兼ねなくそんな会話を繰り広げているのだろうが、懸念していた視線が彼女に向けられていたのだと改めて分かると胸の内にはもやりとしたものが。「お前らそうやってはしゃいでられんのも今日までだぞ。…文化祭が終わって少しすれば、楽しい楽しい期末テストが待ってるからな?」着慣れた白衣に袖を通して着替えは終了、それと同時に意地悪い笑みを男らしく盛り上がる彼らに向けて。 )
、あきちゃん……。
─── …んーん、なんでもないの!お腹空いたなーって。
( 友人たちとこうして会話をしていればなんとなくさっきの出来事が脳の片隅に追いやられるような気がして、でもきっと彼を見る度に切り裂かれるようにずきずきと心が傷んでしまうんだろうなと思うと先程お菓子一緒に食べようなんて誘わなきゃ良かったかも、なんて考えてしまう始末。そんな自分が嫌でどうしようもなくなってきた時に声をかけてくれたのは自分がいちばん仲良しと言っても過言では無いあきちゃん。みきは驚いたように瞳を丸くさせた後にへらりと笑えばなんでもないとふるふる首を振って。だって今口を開いたら絶対にえまのことを自分の主観で悪く言ってしまうかもしれないし、ヘタをすれば彼にだって酷いことを言ってしまうかもしれない。あと泣いちゃうかもしれないし。そんな嫌な子には絶対なりたくなくて、みきは誤魔化すようにサラリと嘘をついて。─── そういえば忘れていた期末テスト。彼の言葉にぎく、とわかり易く男子たちの表情が固まったり嫌そうに歪められれば『 楽しんでる時に嫌な話禁止だろせんせー! 』『 期末テストなんてたのしくねーよ! 』『 あー今ので現実戻ってきちゃった折角チャイナ堪能してたのに! 』『 まじでやだ次赤点だったら塾行かされるんだよ 』とブーイングの嵐で。だがしかし彼が着替え終わったのならばもういいだろうとわらわらパーテーションから出てきては『なー御影聞いてくれよ鳴海先生がいじめてくんだけど』『 文化祭中にテストの話って禁止だとおもわねー? 』とみきの異変にはもちろん気が付かずに会話に巻き込んで。 )
『……そう?…なんかあったら言ってね。』
( 違和感を感じているのは確か。しかし友人本人が何でもないと言うのであればそれ以上に深掘りなんて出来ず、踏み込んで欲しくないことだってあるだろうと眉を下げつつも何かあった時は頼ってほしいと小さく伝えて。黒い感情を吐き出せないのは彼女がどこまでも優しすぎるせいだが、今この教室にいる誰もがそんな事分かるはずもなく(先生はもしかしたら心当たりはあるかもしれないが)。パーテーションの後ろから突如として聞こえてくる盛大なブーイングに教室内のクラスメイトが何事だと目を向ければぞろぞろと出てくる男子+教師。男子たちの会話の種が彼女のコスプレ関係からテストに対する阿鼻叫喚の嵐となったことで、爆弾を投げつけた本人は至極満足そうに笑っており。しかしこういう時に限ってわざわざ彼女を会話に巻き込むあたりは此方にも少々今は気まずいものがあって。「…人聞き悪いな、誰がいじめたって?散々楽しんだんだからそろそろテストの話題も織り込んで現実に戻してやろうっていう先生の優しさだろーが。」と、彼女の方には何だか視線を向けられずに未だ文句タラタラの男子たちの肩に手を回してだる絡みを。 )
……ありがとうあきちゃん。
あきちゃんの優しいところだいすき。
( 今はただ友人の優しさと気遣いがとても嬉しくて、みきは眉を下げながらふにゃりと笑えばちょっぴり泣いてしまいそうな顔を隠すためにぎゅ!と彼女に抱きついて。こうやって優しい人たちに囲まれて愛されているのだから、尚更心配をかけさせる訳にはいかないなぁなんて思ってしまうのはせめてもの強がり。本当は今にでも泣き出してしまいたいけれど、誰も困らせたくないのでせめて1人になるまでは我慢しようと。だがしかしそれから直ぐに聞こえてきたパーテーションの向こう側のブーイングにびく、と驚いたように肩を跳ねさせれば出てきた男子たちの言葉に困ったように苦笑いを浮かべ。「 みきも禁止だと思う~。 」なんて軽口を返しながらも気になってしまうのはどうにも此方と目が合わない彼のこと。男子たちに対してはいつも通りに見えるけれど、一緒にいる時間が長いからこそどこかギクシャクとしているのは伝わってきてしまい自分が最初に変な態度をとってしまったのがきっかけだけれど今の彼の様子で傷つかなかったと言えば嘘になるだろう。『 まだはえーよ!せめて明日でいいって! 』『 夢の国に遊びに行ってる最中に次の日の学校とか考えたくないのと一緒だって! 』『 ちょっとせんせー、あたしたちも巻き込まないでよー 』だなんて変わらずわちゃわちゃと彼と戯れてる男子や途中で野次を投げる女子を眺めながら、今の様子ならこっそりと教室を抜けられるかもとタイミングを見計らってみきはするりと教室を抜け出して。 )
───『あれ?みきは?』
( だる絡みをすれば絡み返してくる男子たちとわちゃわちゃやり取りをすること数分、彼女の方を見られなかったことが仇となったのかいつの間にかいなくなっていた事に気付いたのはそんな女子の一言。彼女の元気が無くなってしまったのは間違いなく田中えまと話した後なので原因を知っている分すぐさまフォローできなかった自分がやるせなくて。…否、フォローしようとはしたが普段は猪突猛進なくせにこんな時だけ身を引こうとする彼女に踏み込めなかった。「…じゃあ俺もう行くからな。しっかり宣伝してきてやったんだからこの後も頑張れよお前ら。」と周りに群がる生徒に声を掛けて自分も教室を後にしようと。────彼女がいない事に気付いて教室を出る少し前。『あれ、御影?』ひとり抜け出した彼女と別に元々教室に居なくてちょうど今戻ってきたのはヴァンパイアのコスプレに身を包んだ山田。言わずもがな先日のミスターコンにてこちらも一躍時の人状態、クラスメイトからいやに気合の入ったコスプレを施されていたらしい。 )
─── ……山田、くん。
( 少しだけ期待をしていた。もしかしたら少しでも彼も自分と同じ感情を持ってくれてるんじゃないかって。けれどやっぱりそれは自分の都合の良い妄想でしかなくて、あんなに特別だと思っていた左手の薬指が彼にとってどの生徒にでも書かせられるものなのだと気付いてしまった今は自分のそれすらもなぜだか凄く色褪せて見えてしまう。こんな単純な自分すらもとても嫌で、今にも涙がこぼれそうに鼻の奥がツン、とすればふと自分にかけられた声に顔を上げて。少し気弱で優しそうないつもの雰囲気とはまた違う、夜を総べるヴァンパイアの格好をした山田くん。クラスの女の子たちが今日の朝きゃあきゃあはしゃぎながらメイクアップを施していた甲斐があり、10人が見たら11人がメロメロになってしまいそうな完成度だ。みきは慌てて出かけていた涙を拭って「 山田くんも宣伝しに行ってたの?ヴァンパイア似合ってるね! 」と先程まで教室にいなかった理由を問いかけつつもにこにこと相手の様相を褒めて。 )
『宣伝ついでにちょっと他のクラスの友達のところにね。……それよりも御影、何で泣いてたの?』
( いつも通りの笑顔で相手を褒める彼女に特に変わった様子など無いように見えると多数の人間は言うのだろう。しかし彼女を想い、見続けてきた山田には彼女の親友に近しいほどの目が備わっているのは当然のことで。更にはほんの一瞬だけだが、目元を拭うような仕草のとき少しだけ目に光るものが見えたような気がする。そうなればもちろん気にならないわけがなく、先日見事に玉砕して"友達"としてまた一歩を踏み出したとはいえそう簡単に消えてくれない厄介な恋心がまたその存在を主張してきているようにも思えて。チャイナ服の彼女もとても可愛らしいが、自分だってガラにもなくこうしてコスプレ衣装を纏っているのはやはり少しでも想い人によく思われたいからという下心が無きにしも非ずなので。 )
、……。
……あのね、みき、バカだから。勘違いしちゃってたの。もしかしたらみきは特別なのかもって、……でも、違った。特別でもなんでもなかったの。
( いつも一緒にいる親友のあきちゃんに加えて、きっと自分が気がついたら彼を目で追ってしまっているのと同じように山田くんもそうして変化に気づいてくれているのだろう。自分勝手に告白を断ったくせにこういう時には頼るだなんてなんとも自分勝手だと思うけれど、ぽろりと出てしまった本音は留まることなく唇からこぼれ落ちていき止めることが出来ずに。彼も、それからえまも悪くない。ただ自分が一人で舞い上がっていただけ。ただそれだけのことなのに堰を切ったように零れ出した言葉たちと共にはらはらと瞳からは涙の粒が零れ、笑おうとしても表情筋はどうしても言うことを聞いてくれない。「 全部、みきが1人ではしゃいでただけだったの。……それに気付いちゃって、ちょっと悲しくなっちゃった。ごめんね、…こんなこと言っても、どうしようもないのに。 」きっと山田くんのことだから誰のこと、なんて直ぐに分かってしまうだろうけれどどうしても彼のことは悪く言いたくなくて、みきの口からは誰の名前も出てこない。ごし、と乱雑に涙を拭っては何とか動いた表情筋で笑顔を作り出しては、このまま山田くんの傍にいたらきっと自分勝手に甘えてしまうだろうと山田の横を通り過ぎようと歩き出して。 )
『勘違いって……。…俺には、そんな事ないように見えたけど……。』
( 先ほどまでの可愛らしい笑顔はもはや見る影もなく今やぽろぽろと涙の溢れてしまっている彼女からは、特定の相手に向けられた普段の自信たっぷりな"好き"という感情に逆に押し潰されそうになっているのではないだろうか。自分の口から言うのは何だか悔しいが、件の相手は第三者から見る限り彼女の想いには特別に応えているように見える。しかし彼女の口から出てくるのは自分自身に対する戒めのような言葉ばかりで。それはどこまでも優しい彼女ゆえにかもしれないが、それだと苦しいのもどこまでいっても彼女だけになってしまう。そんな事を思っていれば無理矢理動かしたであろう表情筋でぎこちない笑顔を作った彼女はこの場を後にしようとしていて。『──っ、御影…!』と、咄嗟にその手を掴んでしまい。 )
!
…………山田くん、…。
( これ以上ここにいたら自分を取り繕えなくなってしまうし、きっと山田くんにも迷惑をかけてしまう。その一心でこの場から抜け出そうとした体はその張本人によって引き止められ、みきの大きく開いた夕陽からはまたぽろりと一粒涙がこぼれ落ちて。この手を今すぐに振りほどいてしまえば良いのに、何故だかそれが出来ないのは今自分の心が弱っているからなのだろうか。それとも無意識に目の前の彼ならば確実に自分の味方になってくれると思ってしまっているからなのだろうか。そうだとしたら本当に最悪の子になっちゃう、とせめてもの強がりでふるふると首を振れば「 だ、だめ。……今、いつものみきじゃないから、…今は、ワガママな嫌な子だから、……山田くんを、困らせたくない。 」と、今すぐにでも助けを求めたいだなんて本音は言えるはずもなくただぼろぼろ涙を零しながら目の前の心優しい友人を困らせたくないのだと小さく答えて。 )
『…俺は御影のこと嫌な子だなんて思わないし、困ったりもしない。むしろ御影がこうして悲しんでいるなら俺は相手が先生でも──!』
……────俺がなに?
( 止まる事なく彼女の頬を伝う涙を見ていれば握る手には無意識に柔く力が込められて。しつこいと思われてもいい、好きな気持ちは持つだけならタダなんだから。そう自分に言い聞かせながら潤んだ夕陽色を真っ直ぐ見据えては、彼女の心をここまで乱している相手が誰であれ自分が彼女を幸せにしたい。だがその言葉が口から出るより先に聞こえてきたのは、ドアが開く音と同時にきょとんとした顔でこちらを見る件の相手で。───教室からいつの間にか居なくなっていた彼女がどこへ行ったかは分からないが、変な誤解を生んでいることは確か。とりあえず探し出して弁明を、と思ってドアを開ければ思いの外近くにいた彼女ともうひとり。最後の部分しか聞こえなかったが、彼女を前にして"先生"という単語が出たのならば十中八九(自意識過剰かもしれないが)自分の話題だろう。しかしほんの少し前まで何も無かったはずが今は涙を流している彼女を目の当たりにすれば、どこかバツが悪そうな顔を浮かべながらも「あー……山田悪い、ちょっと御影借りていいか。」と伺いを立てて。 )
っ、─── …せんせ、……。
( いつも声が聞こえれば心臓が浮くようにふわふわと心が暖かくなるのに、今だけは大好きな彼の声が心臓を締め付けるように痛くて。思わず繋いだままの山田の手にぎゅ、と力を込めては大好きだけれど今一番顔を見られたくないのも間違いではなくて思わず顔を逸らしてしまい。さっきみたいにへらへら笑える自信はもう無いし、今彼から“特別じゃない”といった意味合いの言葉が降ってきたとしたら立ち直れる自信がない。そんなみきの変化を山田も感じ取ったのかみきの手をそっと握り返しながら『 ……でも、御影泣いてます。…もし先生が泣かせたんたまとしたら、御影を先生の元に行かせる訳には行きません。 』とどこか吹っ切れたような真剣な瞳で彼へと返して。 )
───…ま、そりゃそうか。
悪かったな。お前らのクラスに貢献はしたし後は楽しんで適当に頑張ってくれ。
( 明らかにいつもと違う彼女の反応と、そんな彼女を守るように立ちはだかる山田。お互いに手を握り合っている同い年の2人はどこからどう見てもお似合いでほんの一瞬、僅かに寂しそうな色が瞳にちらつくもすぐさまパッといつもの調子に戻し。元凶と呼べる事が他にあったとはいえ、その元になったのは自分である事に間違いは無いので山田の言葉を否定するつもりはないしそもそも出来なくて。くるりと背を向けてひらひらと手を振りながらその場を後にしては、着飾ったコスプレ衣装から普段の装いに戻った事で比較的歩きやすくなった廊下を進んで。──彼女との宣伝行脚で他のクラスも一通り見たし、何だか少し疲れてしまったような気もするので足は自然と準備室の方へと向かい。 )
、…ま、ッ…………。
( 待って、なんて今は言えなくて。けれど彼が否定もせずに去ってしまったというのならばもしかしたら本当にそういうことなのかもしれないとまた一粒涙を零しながらひらりと手を振る彼の後ろ姿を見つめることしかできず。本当にえまちゃんにも予約させるの?それは特別じゃなかったの?なんて。みきだけがせんせーの予約をしたいから他の子には触らせないで、なんて。ただでさえわがままばかりなのにこれ以上の我儘なんてきっとただの一生徒には許されるはずもない。なのにどうしてか、心が引き裂かれそうなくらいに痛くてみきは思わずその場にしゃがみこんでは一向に収まらない雫をぼろぼろと瞳から落とし続けることしか出来ず。きっと呆れられたし、嫌われてしまった。あんなにキラキラ輝いて見えた左手の薬指の宝物は、もうなんの効力もない黒い線に姿を変えてしまい。─── 一方、暫くして準備室の扉を叩いたのは今回の騒動の原因と言っても過言では無い田中えま。ちょっぴりヒビが入れば良いなぁくらいに叩いた結果思っていたよりもずっと関係が壊れてくれたので非常に上機嫌である。ぱたぱたと走ってきて、それから扉の前でちょっぴり止まって、それから扉を開ける。まるで誰かさんの移しのような流れで準備室の扉からひょっこりと顔を出しては『 ─── 失礼しまぁす。 』 とにっこり可愛らしい笑顔を浮かべ準備室に足を踏み入れて。 )
『……御影…………、』
( 手は繋いでいても彼女の瞳はこちらを見ていない、涙に塗れた夕陽色に映るのは段々と遠ざかっていく白衣のみ。こんなに悲しんでいてもやっぱり彼女の心は他に助けを求めるような事をせず、きっと自分では彼の代わりになんかなれないのだろう。改めて気付かされてしまえば、それでも尚消えてくれない恋心の厄介さに眉を顰めながら崩れ落ちる彼女に何て声を掛けたらいいかも分からない山田には名前を呼ぶのが精一杯で。────がやがやと賑やかな廊下でもこちらに向かってくる足音はよく聞こえる。しかし良く聞き慣れたいつもの足音ではないと気付くのは容易で、扉が開いた先で顔を覗かせたのはやはりいつもの相手では無く。ふぐ太郎たちに餌をやりながら甘ったるい声に相手を認識こそすれどそちらを見る事なく「何か用か?」と一言返して。 )
…山田くん…。
─── … ごめんね、ありがとう。みきが困ってたから、庇ってくれたんだよね、
( しゃがみこんで暫く。小さな声で隣に居続けている心優しい友人に改めて感謝と謝罪を述べては涙に濡れた赤い目元でへらりと笑って。きっと山田くんが止めてくれなかったらきっと彼に感情のままに酷いことを言ってしまっていたかもしれないし、もっと傷つくことになっていたかもしれない。今でも傷ついていないと言ったら嘘になるけれど、想い人に真正面から“特別じゃない”と言われるよりはよほどマシだ。すり、と特別ではなくなってしまった宝物を擦るように指先で撫でては「 これも、……消さなきゃ。 」と小さく呟いて。ただの黒い線が予約と虫除けになって、それから特別になって、昇格して。お風呂に入る時に消えないように毎回慎重に薬指を保護していた努力もなにだかとても愚かしいものになってしまった。それでも今直ぐにこれを消すような気持ちにはなれなくて、結局自分の弱さを自覚してしまえば苦しそうに眉を下げて。─── 合わない視線と、それから簡潔な言葉。てっきり足音で騙されてくれるかと思っていたけれど想像していたよりも二人の関係は深いものだったよう。…それを壊すのが楽しいのだけれど。えまはにこ!とそんな黒い心を誤魔化すように改めて笑顔を浮かべ直しては『 昨日作ったマフィンがまだ余ってて~、せんせーに差し入れに来たんですぅ。さっきは人がたくさんいて渡せなかったから。 』と可愛らしくラッピングをされた甘そうなマフィンを取り出しては彼の隣に遠慮なく近付いて。いつも餌をくれる人間とはまた違う人間だと認識しているのだろうか、パクパクと先程まで餌を食べていたフグ太郎たちはふいと水槽の奥に泳いでいってしまえば興味なさげにそれを見下ろしながら『 可愛い~ 』と適当な感想を零して。 )
『…え、と……いや、大した事したわけじゃないからさ……。』
( 向けられる笑顔は普段であれば心が温かくなるような素敵なものなのだが、今はただただ痛々しくて。さっきのだって、庇ったといえばそうかもしれないが本当は2人の間に何があったのか聞きたかった。ほんの一瞬だったが先生が見せた陰りのある瞳に、きっと深刻なすれ違いが起こってしまっているのではと勘付いてしまったので。自分の気持ちを知っている友人たちからすれば、想い人がこうして傷心しているのなんてまたとないチャンスだと言ってくることだろう。しかし二度フラれたうえでまだ好きだという気持ちを手放せない自分が言うのも何だが、そんなのはフェアじゃない。昨日はあれだけ嬉しそうに見ていた薬指の線を、決して望んでいないような声色で消そうと呟く彼女の隣にしゃがみ込んでは『…ダメだよ御影。それ、すっごく大切そうにしてたじゃん。……もし本当に消したいなら止めないし、その時点で俺は御影が先生のことすっぱり諦めたと思ってまた告白するから。…でも、もしもそうじゃないなら、1回ちゃんと話をしてみた方がいいと思う。先生と生徒なんてもちろん許されることじゃないけど、それでもこの2年間ずっと見続けてきたんでしょ?…諦めるにしてもそうじゃ無いにしても、俺は御影が後悔しないやり方を選んでほしいと思ってる。』優しく、しかし芯は強い言葉を目の前の彼女に投げかけて。相手が例え自分の好きな人でも、"恋する友人"を応援しないなんてそんなの友達とは呼べないので。────「そっか。机の上に置いといてくれ。俺ちょっと忙しいから。」蜂蜜のようにねっとりとした甘ったるい声で近付いてくる彼女に淡々と返事を返せば、やはりそちらを見る事なく次はふろすけの方へと餌やりを。普段聞く"可愛い"と違って何とも中身の無い感想は、その言葉を向けられたふぐ太郎たちが凍えてしまうのではというほど冷たいもので。 )
、っ~……。
だ、って。他の人にも書いていいって言ったんだよ。みきにとっては特別でも、…せんせーにとってはそうじゃなかったんだもん。
( 山田くんの言葉が心に真っ直ぐ突き刺さってきて、そして抉ってくる。心の奥底では彼がそんなことを簡単に言うような人では無いとわかっているのだけれど、でもあの時に慌てていたということはやっぱり言ったのかもしれないと不安になってしまう。しゃくりあげて涙を零しながら苦しげに言葉を吐いている姿はどこからどう見ても消すことを良しとしている姿ではなく、けれど結局は想定している最悪があった時に傷つきたくないから逃げているだけなのもわかっているのだ。これを山田に言ってもどうしようもないことも。みきは左手の薬指をギュ、と握っては消え入るような小さな声で「 ……でも、ほんとは、消したくないの、…せんせーは、違うかもしれないけど。……みきにとっては、宝物なの。 」と何かに縋るようにも感じる震えた声で呟いて。─── 想定していたよりもどうやら彼の精神的にもダメージがあったようで、ちらりと横の彼を見やってはにっこりと笑って『 はぁい。……忙しい時に来ちゃってごめんなさぁい、忙しくない時ならまた差し入れに来てもいいですかぁ?料理部、作ったものたまに余っちゃうんです~。 』まるで相手の神経を逆撫でするようにゆったりとした喋り方と、自分の可愛らしい部分を全部理解しているような首の傾げ方。この場合はワザとやっているのだけれど、取り敢えずはどんな形であれ彼の頭の中に自分の存在を刻み込めれば良いと作戦立てているのだろうその瞳は蠱惑的に彼を見つめ続けて。 )
『そ、れは………う~ん…──でもあの先生がそんな事はっきり言うかな?…例えばだけど、他はダメだけど御影だけOKってそんなあからさまに贔屓しちゃうとどうしても変な風に見られちゃうだろうし、本意は違っててもその場ではそう言うしか無くてやむを得ず、とか。』
( 教師と生徒の恋愛なんてドラマチックで憧れる人もいるだろう反面、少女漫画の題材としてもよくあるという事はあくまでそれを憧れとして消化しているから。本来は難しいどころか御法度なので、そういった関係にあった2人が異動や転校によって引き裂かれたりするのが悲しい現実だろう。恋敵として見てきた相手は目の前の彼女のことをきっと誰よりも想っていて、立場上どんなに動きにくいことになっても何かあれば守ろうとしているように見えていたのだが、と首を傾げて。耳を寄せないと聞こえないような小さな声で漏らす彼女の本音は、聞いている立場としては複雑ではあれどそれでこそ本来の彼女だと何処か安堵するものもあって。『うん、御影がそう思うならそれでいいんだよきっと。』と優しく微笑んで。────少しばかり冷たいような気もする言い回しも気にする様子のない相手はどうやらまた理由を作って来ようとしているらしい。小さく溜息を吐いては「…あのな、昨日も言ったけど此処は遊びに来るところじゃないんだよ。差し入れも別に迷惑とは言わないけど、仕事してたらゆっくり食べることも出来ないしダメにするのも悪いから、俺に差し入れはもういいから自分で食べるか誰か他の人に渡してくれ。」と、漸くこちらを見つめる相手の瞳をしっかり正面から見据えて抑揚のない声で淡々と告げて。相手に向けた言葉は、彼女が此処へ来る日常を思えばすべてが正反対。しかし本来は教師のいる所などそういう使い方なのだとどこか自分に言い聞かせるようにもしながら、とりあえず今目の前にいる相手の願いは聞き入れられないと示して。 )
─── …そんな、みきに都合のいいこと……あるのかな。
……ばかだから、勘違いしちゃう……。
( ずび、と鼻を鳴らしては心優しい友人の意見に不安げに眉を下げて小さくぽそり。彼はいつだって自分を守ろうとしてくれていて、自分の立場が危ないのに家にだって入れてしまう優しい人。それはよくわかっているけれど、あくまでそれは“学校の生徒だから” だとずっとずっと勘違いしないように自分に言い聞かせてきた。そうでなければ今のように勝手に期待をしてしまうから。みきは少し薄くなってきている黒い線をぼんやりと眺めたあとに涙に濡れた瞳で隣の山田を見つめては困ったようにへらりと笑って。こんなこと親友にも言えないのに、不思議と目の前の友人になら言えてしまう。きっとそれは自分が彼のことをずっと見ているように山田くんも自分のことをずっと見ていてくれたという自信があるから。みきは山田の優しい笑顔に釣られるようにふにゃりと微笑んでは「 ……うん。消さない。大切な予約だもん。 」と今度は大切そうに指で線をそっとなぞり。─── もう少し濁すかしらと思っていたけれど、どうやら目の前の彼も少しピリピリしているよう。うんうん、そうやってマイナスでもいいからえまが刻まれればいいんだわ。そんなふうにぼんやり考えながらえまは漸く自分を真っ直ぐに映したダークブラウンを満足そうに見つめては相も変わらずふわふわとしたような口調は崩さずに「 なのに、御影せんぱいは良いんですねぇ。毎日のようにここに来てるし、せんせーも来ない日は“物足りない”んですよね?……アハッ、差し入れも。御影せんぱいが調理実習のときにここに持ってきてるのえま知ってますよぉ。─── … まあでも?その黒い線、来年はえまも書く権利があるみたいですし。まだまだ入り込む余地ありそうで安心しましたあ。 」とくすくす笑って。 )
『誰かを好きになるのってさ、ばかになるくらいでちょうどいいんじゃないかな。…俺だって今なら先生から御影のこと奪えるかもなのに、こうやって励まして応援しちゃってるあたりばかだなーって思うもん。』
( 少なくとも自分が見てきた限りの話にはなるのだが。人が大勢いるところであからさまに彼女だけを特別扱いするほどあの先生は考え無しではないらしい。とはいえお互いの立場を考えて立ち回るくせに肝心なところは上手く伝えられないあたりがばかなんだろうなぁと、自分たちより遥かに年上の恋敵を自分でも驚くほど冷静に分析して。自分自身に呆れたような溜息を吐きながら、もはや隠す必要のない彼女への恋慕を交えてへらへらと笑って。そうして黒い線を再び大切そうに撫でる彼女に心から安心したような笑みを浮かべては『……先生のとこ行かなくていいの?文化祭終わったら打ち上げあるし、御影は今年すっごく盛り上げたんだから絶対クラスのみんなに連れて行かれるんじゃないかな。』時間は有限で、きっと文化祭が終わればクラスメイトたちは悪気なく彼女を捕まえて連行していくだろう。時間が経てば経つほど仲直りは難しくなっていくし、もしも動けるのならば早いうちがいいのではと小さな声でアドバイスを。────ツッコまれてもおかしくないよな、と自分でも先ほど出た言葉には違和感しかなかった。しかし焦るような素振りもなく「あいつは赤点常連の問題大アリ娘だからな、放課後はここで勉強教えてんだよ。差し入れも勝手に持ってきて勉強の合間に"あいつが"食べてるし、水槽洗ったりとか他の手伝いをしてもらって内申調整してるだけだよ。」と、よくもまあペラペラとよく回る口だなと自分でも感心してしまいそうで。まあ実際に勉強を見る事もあるしあながち嘘というわけではないのでセーフだろう。どこか挑発めいて聞こえる彼女の言葉は間違いでは無い。人の指に線を引きたいだなんて権利は確かに目の前の彼女にもあるが、だからと言って相手の為に空けておくという必要もこちらには無くて。徐に机の上から黒いペンを拾い上げてはキャップを外し、少し薄くなっていた自分の指の黒い線をキュ、となぞれば再び存在感を増したその線を見せるように「……そもそも書くにしてもこれが消えればって話だよな。残念だけどまだまだ消えなさそうだから、来年必ずって確約は出来なさそうだ。」と初めて田中えまに対する笑みを──にやりと意地悪い笑みは普段彼女を揶揄うときに向ける愛情の込もったものではなく、黒くてどこか敵意が込もったものとなり。 )
山田くん…。
……っ…みき、きっと山田くんのことバカだって思わないよ。すっごく優しくて、すっごくお人好しで、すっごく真っ直ぐで、すっごく大好きだもん!
( さっきまで泣いていた涙に濡れた夕陽色は真剣で、心からのありがとうと友人としての大好きを。彼の言うとおり、この流れに任せて彼のことを酷く言って自分を奪うだなんて至極簡単なことなはずなのにそれをしないのはきっとみき自身が心の底では彼を求めているということを彼が理解しているからこそのこと。どこまでも優しくてお人好しなこの友人は、そんな自分を馬鹿だと思っていても味方をしてくれるのだから本当に感謝をしてもし足りないほど。親友にすら見せられない涙を見せてしまったのはきっとそんな彼に心を許しているからに違いなく。そうして小さいアドバイスにハッと顔を上げれば、行かなきゃ。と小さく呟いた後に改めて山田の両手をぎゅ!と握っては「 ……みき、行ってくる。けど、…が、頑張れるように、頑張れって言って、? 」と力強い言葉始まりから段々尻窄みに言葉が小さくなっていけば、彼からしてみたら酷い事なのは分かっていてもどうしてもあと一歩の勇気が出せずに眉を下げて。─── 彼の言葉はマァ理屈は通っているし実際勉強を見ている日もたまにあるのだろう。まるで用意されていたかのようにぺらぺらと出てくる彼の言葉にもニコニコと可愛らしい天使の笑顔を崩すことはなく、だがしかしその笑顔が崩れたのは彼自身がペンで線を上書きした瞬間。自然に消えるという至極真っ当な自然の摂理に逆らって書かれたそれでは、まるで“御影みき以外に書かせるつもりはない” と言っているようなもの。更には生徒に向けるものではないであろう笑顔にさすがのえまもぴく、と眉をひそめては『 …何それ。また消えそうになったら書くつもり?馬鹿馬鹿しい。 』 といつものふわふわとした甘ったるい声では無い、恐らくこれが素なのであろう棘のある言葉を返してはもうすっかり興味は失ったのかくるりと踵を返して『 御影せんぱいの手もそうやってまたペンで汚すつもりなんですかねぇ、……山田せんぱいとか、そんな洗ったら消える線じゃなくて安物でも指輪とかくれそぉ。“高校生同士のカップル”なら、周りに配慮する必要ないですから。今頃御影せんぱいを慰めてるうちに付き合えちゃったりして~。 』とせめてもの仕返しなのか準備室を出る前にハッ、と先程までの天使の笑顔と同一人物とは思えないバカにするような笑みを浮かべてはそのまま準備室を出ていき。 )
『お、お人好し……。はは、ありがとう…。』
( 彼女からの熱い言葉に胸が高鳴るも、お人好しという一言だけはどうにも素直に喜んでいいのか分からなくて。がっくりと肩を落としはしたが、その後に続く"大好き"という言葉に再びどきりとしてしまう自分の単純さが少しだけ悔しくて。もちろんそういう意味では無いのは分かっているのだが、それでも好きな人からのその一言は大変な力を持っているものなので。柔らかな手に力が込められれば、次いで投げかけられたのは相手が想い人ゆえに何とも残酷なもので。しかし応援側として甘えるように頼ってもらえるのは恋敵には絶対選ばれることはないポジションだろう。こうして彼女の背中を押す相手を自分に選んでくれたのは少しだけ複雑ながらも名誉なことに違いはなくて。ふう、と短く息を吐けば優しくも芯のある声色で『……御影なら大丈夫。頑張って、ちゃんと仲直りしておいで。』────ようやく甘い砂糖のような仮面が剥げたらしい目の前の彼女は、今までの可愛らしさに全振りしたようなキャラを保つことなく攻撃的になり。確かにやっている事自体は人から見れば馬鹿馬鹿しいことだろうが、此方としては一種の覚悟のつもりなので何を言われても響かない。「あいつの分をどうするかはあいつ自身が決めることだよ。俺は自分の分だけどうにかできりゃそれでいいからな。──ははっ!確かに山田ならバイトなりでちゃんと貯金して用意する漢気はありそうだよなぁ。…安物勝負でいいなら、公務員の給料でも何とか格好つけられるくらいの物は用意できそうなんだけど。……ま、あいつらが上手くいったらいったで"先生"としては応援するさ。」散々言いたい事を言って出て行こうとする相手の背中に向けて、吹っ切れたかのように自然な笑顔と少しだけ明るくなった声色で返す言葉は傍から見れば痛々しい空元気かもしれない。けれど思いの外その目論見が透けて見えるほどしつこく絡んできた相手を退かせることが出来たのならば結果としては上等だろう。去って行く背中をもちろん引き止める事はなく、再び生き物たちの世話へと戻って。 )
─── …ありがとう、いってきます!
( 優しくて真っ直ぐな芯のある声で紡がれた友人の言葉は背中を押すには充分。みきはこくん、と深く頷けばまだ目元は赤らんではいるけれどキラキラした夕陽色で廊下を迷いなくぱたぱた駆け出して。ひらりと捲れるスカートも、前髪が崩れてしまうことも気にならない、ただただ早く彼の元に行きたくて、気持ちを伝えたくて、みきは振り返ることなくただただ彼の元へと走り。これで玉砕してしまったとしても悔いは無い、どんなに面倒くさい生徒だって思われても彼が好きなことはどうしようもないし今更こんな性格だって変えられない。 だって嫌だもん、好きな人が自分以外の女の子に触れさせるのも予約をさせるのも、全部全部嫌だし気に食わない。彼に恋をするまで自分がこんなに嫌な子だと知らなかったし知りたくもなかったけれど、けど知ったしまったのならこんな自分もまとめて愛せるように生きていくしかない。そんな気持ちが溢れるように零れ出した涙を拭うことなく漸くいつもの準備室までたどり着けば、いつもの前髪を治す時間すら惜しくてそのまま扉を開け「 ─── っ…みき以外の子に予約させるのやだ!消えちゃうならまたみきが書くから、ずっとみきだけの予約にして! 」と自分の決心が揺らぐ前に兎に角これだけは伝えようと決めていたことを第一声に投げて。聞く人が聞いてしまえばプロポーズのように聴こえるこの言葉も本人は完全に無意識。走ってきたから前髪はぐちゃぐちゃし、涙はボロボロ溢れてるし、目元は真っ赤だし、服のスリットも乱れてる決して可愛いとは言えない今の自分でも後悔だけはしないようにとその瞳は真っ直ぐに彼を見つめていて。 )
───っ!!?、
( 軽やかに駆けて行く想い人の背中を見送る男子、企てが潰されて不機嫌に自分のクラスへと戻る女子。もちろん廊下にだって沢山の生徒がいる中、涙を溢れさせながら走るチャイナ服の女子はきっと1番異質に見えるのではないだろうか。聞き慣れた足音に近い気がするが、いつもより慌ただしく扉の前で止まる気配もないそれに油断してしまうのは仕方のない事で。過去かつてない程に勢い良く開いた扉と、挨拶や先生と呼ぶ声でも無く飛び込んできた言葉に驚きすぎて声は出ず、肩は大きく跳ね心臓は痛いほどばっくんばっくんと脈を早めて。そんな心臓を治めるように服の胸元をぎゅうと握りしめながらまん丸く見開かれた目はこぼれ落ちそうなほど。「──………はっ?……え、みか…え?なに、……つーかびびった……ちょ、待って…心臓いって……。」いったい何が起こったのか理解するのに時間が掛かるのは、彼女が今目の前にいる事をまったく予想していなかったから。ついさっきまで山田と手を繋ぎ、自分から隠れるように山田の後ろで悲しそうな顔をしていたはずの彼女がなぜ今ここにいるのか。考えようとする頭よりも、とりあえず先に鼓動が周りに聞こえるのではというほど煩く鳴る心臓を抑えるのに必死な様子でタイムを唱えて。 )
!!
……ご、ごめんなさい……。
( どうやらあまりに自分の“伝えたい”という気持ちを優先しすぎてしまったせいで彼を驚かせてしまったらしく、タイムを唱えられれば先程までの勢いはどこへやら小さな声で謝罪しながらすすす…と開け放した扉の廊下側へ隠れてしまい。びっくりさせちゃった、伝わってないかも、もう一回言わなきゃだめかな、もう言えないかも、と先程あんなに勇ましく飛び出した割にやっぱり好きな人のことになると小心者になってしまうのは恋する乙女として仕方の無いこと。彼の心臓が落ち着くまで……もとい自分にまた勇気が出るまではここに居ようとその場でようやく自分の格好が酷いことに気がついたのか慌てて前髪やら服装を治していき。─── ……もしかして、迷惑だったとか。ふと浮かばないようにしていた不安が一度浮上してしまえばもうそこからは自分との戦い。今度はみきが扉の向こうから出られなくなってしまい、その場でしゃがみこんだままぐるぐると混乱する頭でこれからどうしようかと悩みこんでしまい。 )
────……はー………、
( 少しして漸く心臓は落ち着きを取り戻し、ゆっくりと息を吐けばちらりと彼女の方を見て。先程の勢いはしおしおと萎んでしまったようで、扉の向こうにしゃがみ込んで動かなくなってしまった様子。ペタペタとサンダルの音を響かせながら扉の方へと近付けば「…ったくお前は……。廊下は走るないきなりドア開けるなって何回言えば分かるんだか。」と、いつもの調子でいつもの注意を。最初の勢いがあまりにも凄すぎたおかげで彼女が何を言っていたかを今になってやっと頭が処理してくれたらしく、眉を下げて呆れたような笑みを薄らと浮かべながらとりあえず立ち上がる手助けをするべく手を差し伸べて。 )
!!!
( こちらにぺたぺたと近づいてくるサンダルの音にびく!と肩を跳ねさせては“怒られるかも” 、“我儘だって思われるかも”と一度芽を出した不安の種は留まることなく成長していき。だがしかし当然怒られると言うよりは普段と同じような調子で普段と同じような注意をされただけ。表情だって呆れたように笑っているだけだし此方に差し伸べられた手はいつもと全くおなじ優しいもの。みきはたっぷり時間を使って迷った後におずおずと遠慮がちにその手に小さな手を重ねれば「 ……ご、ごめんね…、心臓だいじょぶ…? 」と不安でいっぱいの赤みの残る瞳でちらりと彼を見上げては先程驚かせたしまった謝罪をぽそり。否、謝らなければいけないのはこれだけでは無いのだけれど、今のみきはひとつひとつ消化していくのが精一杯なので。 )
何とかな。
三十路の心臓は大事にしろっていつも言ってんだろーに。
( 己の心臓の脆さを前面に出しては溜息混じりの笑いを零し、重ねられた小さな手を優しく握ればくい、と軽く力を入れて彼女を引き起こして。そのまま腕を伸ばして開きっぱなしだった扉を閉めれば、手を離してまたペタペタと水槽の前へ戻り。無意識とはいえさっきまで此処にいた1年生に対しての声色とはまったく違いすぎて、自分自身がいかに単純かが浮き彫りになるようで何とも言えない気持ちになる。そんな事を考えながら「…髪振り乱してまで慌てて来てくれたとこ悪いけど、お前に書かれた線ついさっき自分で引き直したばっかりなんだよな……。」と、どこかばつが悪そうにひらひらと左手を掲げては色濃く復活した薬指の黒い線を見せて。こうして彼女が来てくれるとは思わなかったので、自分で線を濃くした事により何だか未練がましい男みたいだと自嘲気味に引き攣った笑みを浮かべて。 )
、─── …!!!
( 大好きな手に優しく引き上げられ、そのまま室内に誘われれば大人しくついて行く他なく。ただその途中にふと目線が言ってしまった彼の左手の薬指の指輪は色濃く復活しており、自分の薄まった黒い線とは明らかに黒色の濃度が違うと理解してしまえばみきの顔からサッと血の気が引いて。もしかしてえまちゃんが?そんなモヤモヤが生まれてしまえばするりも離れた手すらも不安で、嗚呼きっと私これからフラれちゃうんだと嫌にドキドキしている心臓をどうすることもできずに─── 当然彼の心の内は知らないので ─── ただただ死刑宣告を待つような気持ちで次の彼の言葉を待っていれば、漸く告げられた言葉は予想だにしないもの。「 ……へ、 」とただ一言間抜けな声と共にまたひとつ涙がこぼれ落ちては、彼の言葉の意味が全く分かっていない顔で呆然と彼を見つめて。それって他の誰にも書かせないように?そんな質問は頭の中でしか呟けなくて、みきはただただどこか自嘲気味な笑みを浮かべる彼から目を離すことが出来ず。 )
──な、何だよ……、
いくらやってる事がキモいからって、泣かれるとそれはそれで傷付くんだけど…さすがに……。
( いつもと違った緊張感を持った彼女の様子に気付くことなく、ただいつもの調子で話しかけただけ。その結果、目の前の彼女が何とも間抜けにこちらを見続けてはくるものの何故だか流れる涙にぎょっとしないはずも無く。彼女が書いた線が消えそうだからといって本人の許可無く自分で引き直す、なんて確かによくよく考えれば痛いしキモいしいくら相手が彼女とはいえ怖がらせてしまっただろうか。気まずそうにぽつぽつと言葉を零しながら目を泳がせてはこちらを見つめる夕陽色に耐えられなくなったのか、くるりと背を向けて誤魔化すように水槽のメンテナンスを始めようと。 )
っ~…………!
( 彼の言葉の意味が全て頭の中で繋がっていけば、辿り着いたのはやっぱり“みきの予約を彼自身の意思で延長した”ということ。それを理解した瞬間先程の不安なんてどこかに飛んでいってしまい、今度は不安の涙でも恐怖の涙でもない涙と大好きの気持ちが溢れてそれをぶつけるようにそのまま彼の背中にぎゅ!と抱きついて。嗚呼もういいや、だって好きだもん。そんな気持ちを込めて彼の腰に手を回して全部の気持ちを押し付けるように彼を抱きしめては「 違うの、…嬉しいの。……すき。せんせーだいすき! 」と彼の言葉を否定しながら、やっぱり彼を嫌いになんてなれないしこの好きを諦めようだなんて出来るわけがなくて口から出るのは彼への愛情表現ばかりが溢れて。ガヤガヤと賑やかな学校とは隔離された、フィルターの音が響く準備室。色んな人に囲まれながら彼といるのも好きだけど、やっぱりこの場所がいちばん落ち着くし大好きな場所で。 )
…──っ、あぶねっ!
わ、分かった。分かったから一旦離れろって…!
( 掃除のためふぐ太郎の水槽からフィルターを取り出そうとしたところで後ろから抱き付かれれば、その勢いで危うく水槽に自分の体が当たりそうになったところを何とか踏み止まって。しかし腰にしっかりと手を回されているので、首だけ回して後ろの彼女に慌てて声をかけ。とりあえずはキモいと思われていたわけではないようでホッとしたが、何だか久しぶりに聞くような気がする彼女からの"大好き"に心がそわそわとしてしまう。じんわりと彼女の温かさを背中で感じながら、どうにもこうにも動けない体勢なのでそのまま固まるしかなく。 )
……ん゛……。
( ぎゅ。と暫くは大好きな彼を堪能していようと思ったけれど残念ながらやっぱり突然背後から抱きつくのは危なかったらしい。一旦、という言葉にさえ嫌そうにむむ、と眉をひそめながら渋々といったように離れたもののすぐにまた直ぐに抱きつけるように両手は広げたままで、まだ涙のあとがありありと残る夕陽色で“まだ?”と言ったように彼を見上げながら大人しく一旦が終わるのを待って。だってこっちは先程まで心臓が凍りついてしまうくらいに不安だったのだから満足するまでくっつかせてもらわないと困るので本来ならば彼の方からぎゅっと抱きしめられなければ満足ができないのだ。 )
──ったく…、
………え、俺から?
( ようやく離れた温もりに、やれやれと今度はきちんと体ごと振り向けば何やら手を広げたまま動かない彼女。その瞳は散々涙に濡れたおかげで未だにうるうると輝いていながらも、相変わらず口以上にその考えを語っており。普段であれば自分からなんて立場を考えれば絶対に選択肢としてありえないのだが、今回に関しては自分の言葉足らずが招いた事件といっても過言ではない。少し悩む素振りこそ見せたものの、いつもよりは比較的早い時間でお悩みタイムは終了させて広げられたままの彼女の腕の中へ。その小さな体を、まるで壊れ物でも扱うかのように大切に抱きしめて。 )
……ん!
( 彼の言葉にこくん!と深く頷き願うがままに手を広げ続けたはいいけれどちょっぴり心の中ではホントにいいのかなぁなんてワガママになりきれない自分もいたりして。だがしかしそうして悩んでいる間にいつもよりもずっとずっと早い時間でお悩みタイムは終了したらしい彼にふわりと優しく抱き締められればぱぁあ!と分かりやすく表情を綻ばせてそのまま自分も嬉しそうに抱き締め返し。「 ………あのね、他の子に予約させるの、すごく嫌なの。みきだけがいいの。 」暫くそうして彼の腕の中を堪能していたと思いきや、彼の胸に顔を埋めたままもごもごと小さな声で零したのは先程準備室に入ってきたと同時に言い放ったわがまま。だってせんせーのこといちばん好きなのはみきだもん。そんな言葉は口にこそ出さないけれどきっと彼には伝わっているだろうし普段あれだけ恋心を露わにしているのだから分かりやすいだろう。だがしかしやっぱり想いは言葉にしなければ伝わらないもの、みきは顔を上げずにきゅ、と少しだけ腕に力を込めては彼からの“YES”をドキドキと待ち続けて。 )
!
……あー、…うん。あれは俺が悪かった。
まあ…俺的にも面倒なのはお前だけで充分だし、他はいらないかな。
( 再びお互いの温もりを感じられる状態になれば、ドアの向こうから聞こえる賑やかな声とフィルターがコポコポと空気を出す音がいやに耳に響く気がして。言ってしまえばそれ程までに今ここには彼女と自分だけの空間が出来上がっているということなのだが。顔を埋めたまま、少しくぐもったような声で聞こえてきた台詞はついさっき聞いたばかりのもの。しかし勢いに任せてといったさっきのものとは違い、念を押すようにしっかりと一言一言を伝えてくれているようで。彼女が涙を流していた理由はやっぱりそれだよなと改めて腑に落ちれば、またふつふつと元凶となった田中えまに対する黒い気持ちが湧き上がってきそうで。…しかし色々手間を掛けさせられたとはいえ仮にも生徒。そもそもあの時は大勢がいる場で彼女だけをあからさまに特別扱いするわけにはいかないと曖昧に答えてしまった自分にも非があるのは確かなので、いくら問題をややこしくした相手だとしても憎むような気持ちを持つのはお門違いだと頭を振って。ぽんぽんと優しくその背を叩きながら彼女に対して言葉にした"面倒"には決して悪い意味は込められておらず、そもそも面倒臭いこともやる気が削がれるようなことも、彼女が絡んでいるならばひとつとして嫌だと思うようなことは今までもこれからも無いと言い切れるのだが。 )
…あのね、えまちゃんみたいに、可愛くなるから。
いっぱい勉強もして、素敵なお姉さんになって、せんせーがこんな素敵な子に予約されてるんだぞって自慢できるような子になるから。
( ぽんぽんと優しく背を叩いてくれる手にも、言葉を紡ぐ声にも、抱き締めてくれる体温も、全てが優しくて愛情の籠った暖かいもの。“面倒”だなんて言葉も決して悪いニュアンスで使っているものでなく彼なりの照れ隠しだと言うことはみきもよく分かっているので嫌な気持ちになるどころか彼の唯一になれていることがすこぶる嬉しくて、先程までいやにどきどきと存在を主張していた心臓の音はトクトクと心地好いものに変わっていき。そうして少しの沈黙の後、みきは相変わらず彼の胸の中でもごもごくぐもった言葉を紡ぎつつ ─── 大変今更だけれどやっぱり髪はボサボサだし目元も真っ赤なので好きな人に見られても良いお顔では無い ─── 彼にとっての唯一であるために努力をするのだと決意を。今回だってもっと自分に自信があったらきっとこんなことにはならなかったし、彼のことだって信じられたかもしれないのだから。みきは一瞬だけ躊躇するように沈黙したあと、おずおずと顔を上げれば「 せんせーの方がみきのこと大好きで、めろめろで、だからほかの子はいりませんって、言わせてみせるから。 」と、次こそは“面倒”ではなく“お前が好きだから”と言う理由にしてみせるのだと、へにゃりと彼にしか見せないような柔らかで安心しきった笑顔を浮かべて。 )
……ばーか。
お前はお前だし、…そんな誰かと比べるようなことしなくても充分可愛いだろ。
つーかお前が思うほど別に俺は立派な人間じゃないよ。…だからあんまり"素敵なお姉さん"になられすぎても逆に困るけどな。
( 彼女はどこまでいっても誰かを責めることはせず、自分が相応しくあるよう努力するつもりらしい。何であんな事言ったの。だとか、いっそのことそうやって責めてくれる方が良かったと思うほどに。確かに見た目だけでいえば田中えまは整っている方だと思うが、あくまで個人的な好みでいえば自分は断然彼女の方が可愛らしいと思っている。もちろん内面や、これまで一緒に過ごして来た時間というアドバンテージがあることは承知の上だがそれを抜きにしても、彼女に向けられた"可愛い"の一言は紛れもない本音で。彼女は少し…いやかなり自分の事を高く評価し過ぎている節があるのは前々から分かってはいたが、今でさえ彼女に言い寄る異性は多いのにこれ以上素敵になられたら見合うどころか完全に置いてけぼりにされてしまうと渇いた笑いを零して。どこか遠慮気味に顔を上げるのは赤くなった目元を見せたくないがためなのか。そんな雰囲気とは反対に彼女の台詞は強気な自信に溢れた宣戦布告のようなもので。「──…はは、そりゃ頼もしいな。そんな日がくるのを楽しみにしとくよ。」とからから笑い。しかし無警戒で無垢な笑顔を浮かべる彼女の、赤くて柔らかで美味しそうな唇をこのまま奪ってしまえたら。なんて、すでに彼女の言う通りにほぼなっているというのはさすがに内緒で。 )
!……ふふふ。
みきは困らないもん。今はみきの方がいっぱいやきもち妬いてるから、その分せんせーがやきもち妬きになるくらいのお姉さんになるの。
( 恋する乙女はあまりにも単純で、好きな人に“可愛い”と言われただけで先程のモヤモヤも黒い気持ちも悲しい気持ちも全部吹き飛んでしまうもの。みきはうふうふと嬉しそうに笑えば、ちょっぴり擽ったそうな気持ちを隠すことなくそのまま彼に改めてぎゅうと抱きついて。きっと猫ならゴロゴロと喉が鳴っているし犬だったらブンブンとしっぽが揺れているだろうと簡単に想像できるくらいリラックスし甘えているその様子は間違いなく両親にも友人にも見せない顔で、ちょっぴり悪戯っぽく笑う顔も“嫉妬して欲しい”だなんて我儘を言う顔も彼限定であることは違いなく。決して此方の決意表明は否定することなくからからと笑う彼に満足気に笑えば、ふと思い出したかのようにくるりと身を翻して今度は彼に背中を預けるように体勢を変えて「 みきのも新しくして、? 」と先程新たに書き足したばかりの彼の薬指に比べれば比較的薄くなってしまった左手の薬指を見せて。だってみきもせんせー以外の予約は要らないし、これからもずっと彼を好きでいる自信があるので予約を更新してもらわなければ困るので。とちらりと振り返った瞳は当然のように彼に描いて貰うつもりのようで。 )
はは。
"素敵なお姉さん"になりすぎて、こんなおっさん相手にしなくても良くなるくらい選り取り見取りになるかもよ。
( 改めて力を込めて抱きついてくる彼女とは逆に脱力したように笑えば、彼女が素敵になればなるほど年齢がハンデになるのはこちらの方だとぼやいて。…そもそもヤキモチを妬くということであれば、教師としては烏滸がましいがすでに経験済みではあるのだがさすがにそれは黙っておくとして。こうして甘えてくる彼女を誰の目にも触れさせたくないし、自分の腕の中にこのまま捕まえていられたら。なんて邪な気持ちは隠したまま、すりすりと甘える彼女の頭を優しく撫でて。彼女に背中を預けられたことで自分としては再び身動きの取れない体勢になってしまったのだが、振り返ってこちらを見つめてくる瞳には勝てなくて。「…、はいはい。我儘なお姫様だなほんと……。」と笑みを浮かべながら溜息を零せば、自分の指に書いた後ポケットに入れていたままだったペンを取り出して。今度は彼女を後ろから抱き締めるように手を回してそっと左手を取れば、その薬指にある少しだけ薄くなった線をペン先で丁寧になぞっていって。 )
…、
でもみきはもうせんせーしか見えてないから、他の人が選択肢にあっても関係ないでーす。
( 彼の言葉にキョトン…と不思議そうに瞳をまん丸にしたものの、すぐにへらりと笑えばどんなに選り取りみどりになろうともそもそも彼一筋なので関係ないのだと恥ずかしげもなくサラリと答えて。頭を撫でてくれる優しい彼の手にごろにゃんと甘える瞳は確かに間違いなく彼ただ一人を映しており、もう他の人が入る余地はなく。彼はいつも年齢を気にするけれど、みきは例え彼が年下でも同い年でも同じように恋に落ちたと思うし女の人でも好きになったと思うけどなぁなんて常々考えているのでそんな物は本当に些細な問題で。……だがしかし彼がそれで不利益を被ってしまうのであれば、ちょっぴり抱きつくのも甘えるのも我慢するつもりではあるのだけど。無事に断られることなくするりととられた左手に満足そうに─── 背後から抱きしめられるのは慣れていないのでそれはちょっぴり恥ずかしいのか耳をほんのりと染めながら ─── 微笑めば、「 んふふ、くすぐったい。 」と改めてペンが指を滑る感覚にちょっぴり身を捩りながらくすくすと笑ってしまい。 )
わざわざそんな難儀な道選ぶなんて物好きお前くらいだよほんと…。
( 田中えまが言っていたように"周りに配慮する必要のないカップル"ならば山も谷もない順風満帆に平和な恋愛が出来るのに。こちらとて彼女が普通に幸せになれるならそれでいいと考えたこともあるのだが、そうやって色んな道を示しても結局はこうして自分のところへと戻って来てしまう。今だって悩んだり迷ったりするような素振りはこれっぽっちもなく、至極当たり前のことを言うように即答する彼女にはやはりこれから先も勝てなさそうで。諦めたような、しかしどこか嬉しさの滲む笑みを浮かべては愛おしそうに腕の中で甘える彼女を見つめて。モゾモゾと擽ったさに我慢しきれず動いてしまう彼女に「こら、動くな。線が曲がる。」と声を掛けながらも何とか書き終えれば、白くて細い指の根元に再び黒々とした線が綺麗に引かれており。片手で器用にペンの蓋を閉めれば、改めて復活したその線を確認するかのように小さな左手にするりと指を絡めれば指先で彼女の薬指を大切そうに撫でて。 )
んー……そうかなぁ…。
……例えば??
( 彼の言葉を聞いてふむ。と考え込めば“それならいっそのことなんにも難儀じゃないよアピールをすれば良いのだ!”と思いついたらしいみきは彼にとっての順風満帆で平和な高校生の恋愛の例を問いかけてみて。そもそも今まで彼氏どころか恋をするのすら彼が初めてなみきにとってどれが普通かなんていまいちよく分かっていないのだから(少女漫画の知識はあるけれど)、彼にとってはみきに我慢をさせていることでもみきとしてはなんてことないなんて事柄はきっとたくさんあるだろう。こて、と彼を見上げながら首を傾げては早く早くと視線で急かしてみて。どうやら無事に予約更新を終えたらしい彼の言葉にふと左手を見ればそこには綺麗な黒線の引かれた薬指が。ありがとう、と口を開こうとすればいつのまにか左手に彼の手が絡められており思わずびく、と体が固まったのも束の間、そのまま引いたばかりの線を確かめるような彼の指付きに「 っ、…せんせ、……くすぐったい、… 」と先程とはまた違う甘みの含んだ声が漏れてしまえば腰元にぞわぞわと粟肌の立つ感覚を感じながらも決して彼の手からは離れようとすることはなく。 )
例えばって……、うーん…そうだな……、
学校帰りとか休日にデートしたり…とか……?
…ていうかそもそも『好きです付き合ってください』が通用しない時点で彼氏だ彼女だって立ち位置には絶対立てないしな。
( 答えを急かすような圧を放つ夕陽色に押し負けるように空を仰いで少し考えて。とはいえ自分の学生時代を思い出してみても、四六時中そばに居るとかイベント事は一緒に楽しんだりだとか。あからさまなデートと呼べるものでなければ何やかんや彼女とは経験しているな…?と考えれば考えるほど逆に首を傾げることになってしまいそうで。だがしかしあくまでそれはカップルとして成立してからの話で、今のお互いの立場上ではそのスタートラインに立つことすら許されないのが現実なのだと言う他なく。お互いの左手同士が絡み合う中、右手は彼女の腰に回して少し自分の方へ引き寄せるように緩く力を入れて固定を。そのまま後ろからほんのり赤く染まる耳元で「……俺だって、コレが消えなければいいのにって思うよ。」と小さくぽつり。田中えまに言われたらしい"早く消えればいいのに"という言葉を彼女の耳から、記憶から消すように、薬指の線だけではなく声でも上書きをしようと。 )
、……付き合ってくださいって言って付き合うの、そんなに大事かなぁ…。
言っても言わなくても、好き同士なら一緒にいる時に“この人のこと好きだなぁ幸せだなぁ”って思うのは変わらないでしょ?ならみきは好きな人と一緒にいてにこにこできればどっちでもいいなぁって思うの。
あ゛!でもお付き合いしなきゃ堂々とこの人は私の!って言えないのは困るかも……。
( 彼の言葉は最もで、そもそも“交際をする”という第一前提ができないのだからこういった話のスタートラインにすら立てていないというのは確かに一理あると頷いたのだけれどみきとしてはそのそもそもの前提が疑問らしくこてりと首を傾げて。交際をしてもしなくても、想い人と共にいる時に感じる愛情や幸せや楽しさは変わったりはしないだろう。交際をしていなくてもカップルイベントに便乗をしたっていい。だがしかしハッと途中で何か気がついたような表情を浮かべれば、むぎゅ…と彼の胸元に顔を埋めながら自身の独占欲と戦っているらしく─── そもそも今でも充分公認のようなところはあるしこんな会話をしている時点で両思いだということには気がついていないのだけれど ─── 周りにそうして主張するためには確かに交際が必要かと頬を膨らませて。そもそも逃げようとは思っていないのだけれど、まるで逃がさないとでも言うように腰に回されて彼の体に縫い付けられてしまった体にみきの頬や体はさらに火照り、ぽつりと囁かれた彼の小さな囁きに彼に捕まったままの小さな体はぴくりと跳ねて。「 せん、せ…、 」と自分でも驚くほどどろりと甘い声で彼を呼んではまるで夢の中にいるかのようなぽやぽやと蕩ける頭でも彼の言葉はするりと入り込んで反芻し、彼のその気持ちに答えるようにきゅ、と握られた左手に力を込めて。ずうっと互いを縛るこの予約が消えないように。みきはどうしようもなくときめく心を誤魔化すように彼に体を預けることしか出来ずに。 )
まあお前の言うことも分からなくはないし、実際そういう形だって有りだとは思うけどさ、
……付き合っていない相手にはさすがに手は出せねーし。
( 人と人の繋がりの形なんて千差万別十人十色。それぞれが納得できるような形にさえなっていれば問題なんて確かに無いようなものではある。…あるのだが、だからと言って曖昧な関係というのは男として少し物足りなく思ってしまうのも事実。世の中にはそういったしっかりした関係性を結ばないまま互いを求め合う人たちがいるのは分かっているし別に咎めるつもりもないが、こと彼女に関してはやはり誠実でありたいと思ってしまうのは共に同じ未来を歩けたらと思ってしまっているからだろう。今はまだハッキリと口に出して言えるはずもないのでこの付かず離れずのような関係性(と言っても分かる人にはお互いの気持ちなんてバレてしまいそうだが)のまま、彼女が教え子じゃなくなるその日を待つ以外に出来ることは無くて。自身の胸元で自らの考えと葛藤している様子の彼女を見て可笑しそうに笑いながら、最後の台詞だけはさすがに聞こえないよう顔を背けて小さく呟くに終わり。ただでさえいつも着ている服より生地が薄めのチャイナ服なのにそのタイトさも相まって、これほど密着すればお互いの体温が混ざり合って暖かく、じんわりと頭の中まで熱に浮かされそうな感覚を覚えてしまう。回した右手でさらにぎゅうと彼女を抱き締めるようにしてその首元に顔を埋めれば、「………、泣かせて悪かった。」と、甘い彼女の声とは真逆に静かに謝罪を零して。厳密に言えばわざわざ彼女にナイフを突き立てるようなことをしたのは田中えまだが、場合によってはそのナイフを渡したのが自分だと言われても反論のしようもないので。 )
、?
せんせ、今なにか言った?
( やっぱり付き合わなきゃこの人は私の!って言う資格ないのかな…告白っていう勇気のいることをしたご褒美みたいなものだもんね…だなんて彼の腕の中で悶々と考えていたせいか、彼の最後のセリフは上手く聞き取れずにキョトン、となんにも知らない無垢な夕陽で彼を見上げては不思議そうに首を傾げて。好きな人の言葉はぜんぶ取りこぼしなく受け取りたい恋する乙女は当然のように聞こえなかった言葉も教えて貰えるものだと思っているので、彼の腕の中でふわふわ幸せそうに笑いながらもまさか彼がどんなことを悩んで困っているかも知らずに大人しくその言葉を待って。生地の薄いチャイナ服は彼の手の感触だとか暖かさだとか、鼓動だとか、体温だとか、そういったものがいつも以上にダイレクトに伝わってきてしまいまるで酩酊しているようにくらくらしてしまう。ぎゅ、と抱きしめられたかと思えば首元に顔を埋めた彼から静かな謝罪が落とされて、みきは思わず目を丸くした後に思わずゆるゆると幸せそうに頬を弛めてはすり、と彼に顔を寄せては「 ううん、みきの方こそ。せんせーの“大切”を信じてあげられなくてごめんね。……みきと同じくらい、せんせーも大事にしてくれてたんだもんね。 」と暖かくて柔らかい声で自身も謝罪を零して。そもそも、みきが彼の言葉を信じていられればこんなに揺らぐことは無かったのだと、嗚呼人前だからそう言ってあげたのねなんて理解の早い女ならば良かったのだとそう宥めるように繋いだ手に柔らかく力を込めて、右手でそっと彼の頭を優しく撫でて。 )
……………内緒。
( こちらを見上げる夕陽色は余りにも純粋無垢で、だからこそ余計に自分の考えが邪なものに思えてきてしまい。しっかりその瞳を見つめ返してたっぷりの間を置いて、薄く口角を上げるいつもの意地悪な──田中えまに向けたものとは天と地ほどの差がある──笑みで一言だけ返し。…とはいえもしも彼女の卒業後に晴れて交際関係に発展したとして、"元"教え子相手にすぐさま手が出せるほど肝が据わっているような人間ではないのだが。ふわりと鼻腔を擽る彼女の落ち着く香りと声色、そして頭を撫でてくる手の温度に心の中がぽかぽかと暖かくなれば漸くお互いの中のわだかまりが溶けたような気がして。ヤキモチを妬いてくれる彼女はすこぶる可愛らしいのだが、泣かせてしまうとなると話は別。「…ちゃんと伝わったようで何よりだよ。」と安堵したように声を漏らし。特別扱いは良くないと分かっているし生徒は皆平等に可愛いと思っているのは本当だが、他人に対してひどく個人的な理由で明確な悪意を向ける相手を生徒だからといって手放しで可愛がれるほど生半可に教師をやっているつもりは無い。すでに脅威は去ったとはいえ、改めて彼女を守りたいという気持ちが表れれば自分の腕の中にすっぽりと収まる彼女を大切そうに優しく抱きしめたままで。 )
……え!?
今教えてくれる顔してたのに…!!
ね、ね、なんて言ったの?誰にも言わないから教えて?
( 彼に恋に落ちたきっかけとなった優しくて愛おしさに満ちた暖かいダークブラウンはたっぷりと時間をかけてこちらを映してくれ、彼の瞳の中に映る自分も期待に胸を躍らせてきらきらと瞳を輝かせている。なんて言ったんだろう!とそわそわわくわくしていたもののいつの間にか彼の表情はいつもの意地悪な笑顔に変わっており、あんなに時間をたっぷりかけたのにあっさりとした内緒とのご回答が。てっきり教えて貰えるものだと高を括っていたみきは衝撃に瞳をまんまるにしながらも彼に甘えるようにきゅ、と抱きついては一生懸命おねだりしては誰にも言わない!のアピールで口を結んで。何だか今日の彼はとても甘えん坊で、自分に甘えるように抱きつきながら安心したような声を漏らす彼がとても可愛くて可愛くてしょうがなくて。みきはへにゃへにゃとめろめろ頬を緩めながら「 うん、いっぱい大切って伝わった。……せんせー、だいすき。 」とえまの甘ったるい声とはまた違う、柔らかで穏やかな声でいつものようにだいすきを伝えてはすっかり体温の混ざりあった彼の温もりを心地よさそうに享受して。優しく抱き締めてくれる手も、柔らかい声も、さらりとした髪も、簡単に自分を包み込んでしまう体も、ぜんぶぜんぶだいすきで愛おしくて、ずっとこうしていたいと彼も同じように思ってくれていたらいいななんてひっそり祈ってみたりして。 )
嫌でーす。
内緒っつったら内緒。
( くすくすと悪戯を成功させた子供のように笑いながら、んべ、と舌を出して彼女のお願いはシャットアウト。普段ならばこれほど甘えられては何だかんだで押し負けて教えてしまうのが常なのだが、こればかりはさすがに口を噤まざるを得なくて。いくら相手が自分に対して好意的とはいえ、まだまだ汚れを知らない彼女にそれを教えるには早すぎる気がして。…どちらにせよ、今はまだいち生徒の彼女がちゃんと大人の女性になってから(といっても彼女のことだから、きっとキス辺りが想像上は限度だと思うのだが)。いつものように暖かくて柔らかな"大好き"が耳に心地良く届けば、彼女の首元に顔を埋めたまま「…………ん。」と、じんわり満足そうに微笑んで。だがその言葉を自分もお返しに言うわけにはいかないので、ただ彼女から紡がれるそれを受け取ることしか出来ない今の自分が少し歯痒く感じてしまうのは仕方なく。ただ言葉には出来ずとも彼女を抱き締める手や繋がれ絡んだままの指先に少しだけ気持ちを乗せて彼女に触れることくらいは許してほしい。 )
う゛ー…。
せんせーたまに内緒が多いんだから。
( いつもなら大抵ここら辺で折れてくれる彼もどうやら今日は内緒の日らしく、ぷく!と頬を膨らませては不満げにぽそりと零しながらも彼の胸元に顔を埋めて追求は諦めて。こういう時の彼は大抵これ以上何も教えてくれないのでこちらが折れるしかないのだ。けれどそんな彼のいたずらっぽい笑顔もべ、と舌を出す姿すらも可愛くてかっこいいと思ってしまうのは惚れた弱み、みきは彼のこういう顔にすこぶる弱いのでめろめろと流されてしまう。もちろんいつかこの問いの答えを実際に自分の体に答えられていっぱいいっぱいになりながら白旗をあげる未来があるのだけれど、今はまだもう少し先の話。首元に顔を埋めたままの彼がこういう時になんにも答えないのは彼の立場やらを考えれば当然のこと、さらに言ってしまえばその声色や触れている箇所から彼の気持ちがじんわりとこちらに伝わってくるのでわざわざ言葉にしなくたって感じることが出来る。ただその彼の“愛おしい”の気持ちが自分とおんなじものだと気付くことができるようになるにはまだ恋愛レベルが足りないのだけれど。「 今日のせんせーは甘えんぼうですねぇ。 」と慈愛に満ちた声色で零した言葉は実にふわふわと嬉しそうで、たまにはこうやって沢山甘えて欲しいななんて思ってしまうのは生徒の立場では望むべきじゃないのだろうけれどこうして互いの体の境目が分からなくなるくらいに体温が混ざりあうのが心地好くてみきの頬は幸せそうにふわりと自然に綻んでしまい。 )
ま、いつか教えてやるからそれまではお預けだな。
( 不満そうに再び顔を埋める彼女の頭を、くすくすと笑いながら優しくひと撫で。しかし実際に"お預け"されているのはどちらかといえば自分なのだが、まだ見ぬ未来のいつかの彼女の反応を楽しみにしておいても損はないだろう。彼女に触れる指先から此方の気持ちが余すことなく伝わっているかと言えば、鈍感な彼女のことだからきっとそうでは無いとは分かっていて。しかし今はまだそれで良くて、全てのしがらみが無くなった時に伝われば何の問題も無いので。10歳近くも年下の相手に甘えん坊などと言われては大人として立つ瀬がないのだが、彼女の温もりや匂い、伝わる鼓動すべてが心地良くて反論をする気にもなれなくて。───そうしたままどれくらいの時間が経ったのだろうか、ドアの向こうの廊下からは『男子ー!片付け手伝ってよー!』と文化祭の終わりが近づいた事を示唆するような声が聞こえ始めて。 )
また“卒業したら”……?
もー、卒業したらいっぱい教えて貰えてもらわなきゃ。
( いつか教えてやる、お預け、となればまたいつもの“卒業したら教えてやる”なのだろう。くすくすと柔らかく笑う彼とは対照的に不満げに唇を尖らせては、早く卒業の日が来ないかなぁなんて今までの内緒話を全部一気に聞かせてもらう気でいるようで( 当然、一気になんて言われてしまったらきっとオーバーヒートしてしまうのは目に見えているのだけれど )。ただただ穏やかな時間だけが流れているこの時間、もちろんいつまでもこれが続くのがいちばん幸せなのだけれどもちろんそういう訳もいかず先程までの盛り上がりのざわめきとはまた違った騒がしさが廊下から聞こえてくればそれに伴いこの時間も間もなく終了。流石にこんなに長い時間クラスを空けておく訳にはいかず、また手伝い不参加だなんてしたらもっと親友を不安にさせてしまうと最後にもう一度これの温もりを堪能するようにすり、と顔を寄せては「 ……ずっとここに居たいけど、行かなきゃ。 」と普段ならば彼から促されて漸く動き出すのだけれど今日は何だかお姉さんの気分なので、いい?と彼に確認をとるように緩く手を握って。 )
そうだなぁ、お前が卒業した後も教えなきゃならない事がいっぱいあるんだから俺もずっと先生やらなきゃだな。
( その内容は学校の授業とは違うものだが、いつか教えると言った手前いつまでものらりくらりと流して躱すわけにはいかないだろう。立場こそ変われど彼女にとっていつまでも"先生"であり続けることに変わりはないのだが、ふと気になったのは卒業後に果たして彼女は自分の呼び方を変えてくるのだろうかということ。聞き慣れた『せんせー』呼びでももちろん問題無いのだが、もしかしたら名前で呼ばれる未来もあるのかもなと少しだけ考えてみれば何だか擽ったく感じてしまい。どこかお姉さんじみた言い方に年上としては何とも言えない気持ちにさせられてしまうが、そもそも自分が甘えるように彼女を抱き締め続けているがゆえの結果なので致し方なし。「………仕方ねーか。俺も、まだやる事あるしな。」と漸く顔を上げて小さく溜息吐けば応えるようにもう一度きゅ、と優しく、しかし一瞬だけ抱き締める手に力を込めてはするりと拘束を解いて。…今一緒に出ていけばどこかしらの片付けを手伝わされることが目に見えているので、やる事=生き物の世話という小狡い逃げ道ではあるのだが。 )
ぁ、で、でも卒業した後もずうっと“生徒”は……ちょっとやだ、かも……。
( 色んなことを教えてもらう分にはとっても嬉しいし、という事は卒業してからも彼がそばに居てくれるということなのでそれも幸せなのだけれど、いつまで経っても“生徒” だったらそれ以上にはなれないということなのでそれはちょっぴり困ると言わんばかりに眉を下げては呟くような小さな声で反論を。生徒じゃなくて女の子として見て、なんて言う勇気はまだないのだけれどそれでも卒業してもずっと先生をされてしまうとなると此方としても不都合があるので取り敢えずはそれを阻止しなければならないと、瞳にぜんぶ考えていることは書いてあるままにそろそろと彼を見上げて。いつも自分がするように最後の最後にもう一度、と言わんばかりにぎゅうと抱き締められれば自分もそれに応えるように彼に体を預けて2人っきりの時間は終了。自分が終わりを言い出したのにいざするりと解放されるとちょっぴり寂しくなるのは仕方がないことだろう。みきは惜しむように彼から数歩離れれば「 ふふ。うん、仕方ないからね。みきもほんとはやだけど、教室戻る。 」と彼の言葉にくすくすと笑いながら自分もそろそろ教室に戻ろうと身支度を整えて。 )
あー、……まあ、その時はその時だよたぶん。
( 小さな反論はしっかり耳に届き、しかし確かに彼女の言うことは分からなくもなくて。この先どれほど経っても彼女が"教え子"だという事実はもちろん無くならないのだが、いつまでもその認識ではこちらとて大事なときに動けなくなってしまう。どうやら彼女も似たようなことを考えているのだと夕陽色が語っていることに気付けば、少しだけ気恥ずかしそうにふいと視線を逸らして未来のことは未来の自分に託すといういつもの形を取って。しばらく此処で時間を潰したのもあってか、やって来た時には真っ赤だった彼女の目元もぱっと見は分からない程度にまで回復しており。お互いの温もりが離れたことで久しぶりに感じる気がする空気は何だかヒンヤリしていて、それが余計に惜しさを演出している気さえして。身支度を整えている様子を何となく目で追いかけながら彼女が部屋から出ようとする間際に「──あ。ちょっと待って。」と声を掛けては彼女の左手を掴もうと手を伸ばして。 )
………ん、
( どこか気恥ずかしそうに視線を逸らした彼につられるようになんだか此方も恥ずかしくなってしまったのか、ぽぽぽと頬を染めながらもこくりと小さく頷いて。けれど“卒業後も生徒のままは嫌”という言葉に対して否定はしなかったということはもしかして彼もそういうふうに思ってくれているのかななんでちょっぴり思ったりしてはまたそれも恥ずかしくなってしまいそれ以上何かを言えることはなく。教室に帰ったらまず山田くんにちゃんと仲直り出来たよって報告に行かなきゃなぁなんてすっかり意識を教室の方に飛ばしていれば、ふとかけられた声と彼に左手を掴まれれば「 わ、……どしたのせんせー。 」とほぼ初めてなのではないかというくらい珍しい彼からのストップにきょとんと目を丸くしながら改めて彼の方へ向き直り。なにか伝え忘れかな、さっきずっとぼんやりしてたもんねとにこにこ暖かい気持ちで首を傾げては大人しく引き止めた理由を待って。 )
…線、せっかく引き直したんだからこっちもやり直しとかないとだろ。
( 未来の話なんて到底分かることではないが、何となく彼女とは共にいる図が容易に想像できてしまいそうで。その時に自分が彼女を"元教え子"として扱うのか"1人の女性"として扱うのかは今はまだ分からないのだが。先日その黒い線に特別な意味を付加させたばかりではあるが、田中えまの心無い言葉によって一度はそれすらも意味を成さないほどズタズタにされてしまっているはず。薄くなっていた分を上書きすることで再び存在感を取り戻せたのならば、再びその黒々とした線に特別を付与させてもおかしくはないだろう。昨日と同じく、しかし二度目ともなれば少しだけ慣れた手つきで彼女の左手を自身の口元に近付けてはちゅ、とリップ音をたてて薬指に優しくキスを落とし。ゆっくりと唇を離して一度彼女を見れば、「……───あ、俺の方はいいからな。ほら教室戻った戻った。」と掴んでいた手を離して。彼女のことだからきっと自分ももう1回する!と言ってくるのは目に見えているので。 )
っ、……!
( それはまるで先程まであ自分の首元に顔を埋めていた可愛らしい彼とはまた違う顔で、ちゅ。とリップ音を鳴らして唇が落とされればびくりとみきの体が跳ねてその瞳は彼の方へ、彼の唇へ釘付けになり。二度目の、否唇を落とされた数で言えば手の甲も含めて三度目なのだけれど何度されたって一向に慣れないし、先程彼をよしよしと甘やかしていた人物と同一人物とは思えない程に白い頬はあっという間に真っ赤に染まり。これはちゅうじゃなくて、黒い線に特別を付加しただけ。そうやって一生懸命自分の頭に言い聞かせるも心の奥の自分がちゅうはちゅうだと騒ぎ立てぐるぐると頭が混乱する。みきは彼から瞳を離せないままするりと話された左手をよわよわと胸の前まで持ってきて右手で包み込めば「 ず、ずるい……。 」と漸く出た言葉は小さくてなんとも情けない声なのだけれど、けれど言いたいことは本当はもっともっとあって。 )
はは、大人はずるくないとやっていけないんだよ。
( 改めて引いた薬指の線に特別を付与させるためなのはもちろん、先ほどまで年下(しかも生徒)に甘えるような形になっていたことに今になって少しだけ気恥ずかしさと悔しさが滲んできたせい。いつもみたいに真っ赤な頬で上手く頭がまわっていないような素振りの彼女を見て満足そうに口角を上げては、何とも弱々しい反撃の言葉を否定せずむしろ頷いて。そのまま彼女の両肩に手を置いてくるりとドアの方向を向かせれば「はいはい、そろそろ行かないと誰か探しにくるかもよ。」とその背中を優しく押して。 )
( / ……そろそろですか?そろそろ私の出番ですか?(チラッ)
ハリー◯ッターにも負けず劣らず(?)の大長編となりましたが、改めてありがとうございました…!
でろっでろに甘いものを食べた後は塩辛いものを欲してしまうがゆえにちょっとね…えまちゃんというスパイスが効きすぎてしまったかもしれませんね……!でもそうなるとまた甘いものが欲しくなるのでこれは幸せ太り待った無しです最高です!!
山田も予定外に良いキャラに成長してくれて……彼にもいつかきっと幸せが訪れる事を祈らずにはいられません……!(号泣)
………あと実はthe・悪女なえまちゃん動かすのちょっと楽しかっt()
そろそろ次の相談の頃合いかなということで顔出しさせて頂きましたが、やり残したことなどあればもう少し後夜祭を続けるも全然良しですので! )
う゛…………こんなお顔じゃ教室戻れない…。
( 満足そうに笑う涼し気な表情の彼とは対照的に頬に両手を添えてしょぼしょぼ眉を下げるみきは、ひと目見ただけで何かあったと察せられてしまうくらいには頬が火照っており。だがしかしどうやら満足をしたらしい彼にくるりとドアの方に体を回転させられそのまま背中を押されれば教室に向かう他無くなってしまい。どうにかして教室に戻るまでにこの赤みを何とかしなきゃ…なんてむにむに頬を揉みながら準備室の扉を開ければそこはもういつも通りの賑やかな学校で。仕方ない、と心に踏ん切りを付けてみきは一歩廊下に踏み出したあとちらりとまだ火照りの残る顔で振り返っては「 またね、せんせー。だいすき! 」といつもの台詞を残してぱたぱたと自身の教室の方向へ走─── ろうとして、お淑やかにしなければならないのを思い出してチャイナ服の裾がめくれない程度にちょっぴり急いで戻っていき。 )
( / きゃ~~!!!私もちょうどそろそろ登場させていただこうと思っておりました!!!やっぱり相思相愛かも…()
こちらこそ本当に大長編をありがとうございました…!!きゅんきゅんしてはゴロゴロ転がったり『アッなんでこんなすれ違いを……心が痛い……』とひとり茶番を繰り返したりはちゃめちゃに堪能させて頂きました…!!!!
えまちゃんも山田くんも突発的に出していただいたキャラクターなのに2人とも本当に良い味がですぎていて…!最高のスパイスで甘さが際立ちました…!!!まだまだ自分、幸せ太りできます!任せてください!!!(?)
いや本当に!山田くん幸せになって欲しいしえまちゃんも動かすの楽しかったです……これが少女漫画だったらスピンオフとかでこの2人が付き合うやつ~~~!!!!と思ってました……へへ……
ぜひぜひこのまま次のご相談をさせて頂ければ幸いです!!
折角だしクリスマスデートとか……イルミネーション見に行ったりとか……やっちゃう……???期末テストとか頑張ったご褒美に…なるんじゃない……????とか密かにニチャニチャしておりましたが、背後様いかがでしょうか…? )
──!
……っはは!律儀なやつ。
( 彼女を見送るのに自身も廊下まで出てくれば、勢いよく駆け出そうとしたものの何かを思い出したようにペースダウンした彼女に気付いてつい吹き出してしまい。そういえば俺が言ったからか。とその不思議な行動が腑に落ちれば、わざわざ気にしている健気さが一層愛おしくて。──この後教室では、突然居なくなったかと思えばやっと帰ってきた親友に何があったかを聞き出そうとする友人や、すべてとは言わずとも彼女に何があったかを知っている山田から心配の声を掛けられたりと彼女がただひたすら忙しくなるのは残念ながら自分には分からないことで。 )
( / やだ……伝わり合っている……。もはや相思相愛や以心伝心は主様と自分のためにあるような言葉ですね!(ビッグマウス)
もうほんとっ……!まさにそれすぎて……!みきちゃんにキュン死させられるかと思いきや甘々に溶けて、はたまたえまちゃんには『きっ、貴様……っ!みきちゃんを悲しませおって…許すまじ!!』と憤慨してみたりと中々に背後も暴れ回ってとても楽しい文化祭でした……圧倒的感謝…(拝)
うふふ……自分もまだまだイケますよぉ………体重計は壊しておきましたからねぇ………(ニチャア)
山田みたいに心が清い男子相手ならさすがのえまちゃんも浄化され…され………されるかなぁ…?
でも愛着湧いちゃってるからぜひぜひ幸せになって2人とも~~~!!!
き、きたーーーーーー!!遂にやってまいりました聖なる夜!クリスマス!!ヘイ!(?)
ご褒美にデートなんてまったく先生ったらどんどんみきちゃんに甘くなるんだから!最高!!
……とはいえ冬休みでしょうし、ご褒美でデートなんて先生があっさり頷くとは思えないんで何かしら買い出しさせましょうかね()
それに付き合ってもらうみたいな名目or街中でバッタリで…??みきちゃんの貴重な冬休みの、しかもクリスマスを……??頂戴しちゃう………???(満面の笑み)
……あ、あの…あと一応なうえに今更のご確認にはなりますが……2人はこのまま清い(?)関係のままで進めていっちゃって大丈夫でしょうか…?
もしくは少女漫画よろしく在学中に恋愛関係に発展させたいなど、主様のご希望があれば改めてですが是非ともお聞かせ願いたく…! )
…お洋服どうしよ……。
でもあんまり可愛くし過ぎると気合入れすぎって思われる…?う゛ー、…。
( 期末テストで三教科平均点以上、生物60点以上。最早すでに恒例となった“テストご褒美”、今回はデート…もとい彼の買い出しのお手伝いである。そんな勝負日はいよいよ明日に迫っており、彼に『明日は何時に集合する?』と絵文字付きのメッセージを送ったはいいのだけれど問題は服装である。クローゼットの扉を開けて散々色んなお洋服と睨めっこを繰り返して数十分、未だに決まっていないのでみきは困り果てており。ワンピース、ミニスカート、大穴でショートパンツ。散々ファッションショーを繰り返しても決まらずにもういっそのこと彼にどんな服装の子が好きか聞こうかな…なんて諦め半分でベッドに腰掛けては悩ましげに唇を尖らせて。 )
( / ですよね!?!?私たちこそがオレンジの片割れってやつ…!漸く片割れに出会えることが出来て嬉しいですうへへ()
まさか大人になってからこんなに文化祭やら季節イベントをアオハル的に楽しめる機会が訪れるなんて本当に背後様には感謝しかありません…圧倒的感謝とキッスを…!送らせてください…!
キャ~~!!体重計なんてね、要りませんから(ガチ)!壊してしまいましょうね!これからクリスマスお正月とガチ太りイベントも控えてますから!太るなら幸せ太りだけでいいんじゃい!
されても「アラ~~(にちゃり笑顔)」になるしされなくても「悪女さいこ~!」になるからやっぱり性格悪計算高女子は最高ですね……2人とも幸せになってくれい特に山田……!!!!
一年で一番のカップルイベント!そうクリスマスです!やった~!クリスマスが今年もやって来る~!!!
せんせーが甘々になる度にみきはあわあわするし私たちはにちゃり笑顔になるの、世界が回っていて最アンド高ですね…!もっとやれ……!!!!
せっかくならね、『デート(買い出し)だから可愛くした!』をさせてあげたいので(無駄親心)買い出しに付き合う形に…しましょうか…!!冬服可愛いのいっぱいだから描写たのちみです…背後のきもおた力を駆使して精一杯おしゃれさせちゃお…!取り敢えず前日(?)くらいから始めようかなと適当に初めてみましたがやりにくい、他の設定等お好みございましたら遠慮なく仰ってください……!
アッアッこちらと致しましてももちろん清い(?)関係のままで大歓迎でございます…!!唇にキッスしたり交際宣言しなきゃセーフだろ、というガバルールで生きてますので……!!すみませんみきはガンガンに攻めていくと思いますがどうぞスルーしてくださいね…!!(???) )
…ん、…。
──『御影の都合良い時間でいいよ。』
( 夕飯(言わずもがな買ってきたお弁当)を食べ終え風呂も済ませた後、煙草に火をつけ一服中。ポコン、と鳴ったスマホに目を向ければ彼女からのメッセージ通知。少し厳しめにしたつもりの期末テストのボーダーラインを超えてきた彼女に驚きを隠せず、しかし約束は約束。今回のご褒美として強請られたのはデート。…とはいえさすがに教師と生徒がハッキリと"デート"という名目で出かけるのは憚られるので、自分の買い出し(完全にプライベートではあるが)に付き合ってもらうという名目に置き換えて今回のご褒美とさせてもらおうと。メッセージを送ってスマホを一旦置くも、何かを思いついたように再びアプリを開いては『一応俺に付き合わせる形だし、昼飯くらいは奢るからその前くらいがいいかもな。』と追加で送信。彼女が明日の服装に頭を悩ませていることなどつゆ知らず、こちらはのんびりと口から白い煙を吐き出して。 )
( / こちらこそ嬉しさ極まれりです……!もう離しませんからね!断面はアロンアルファでくっつけましたから!(?)
何だったらリアル学生時代よりも遥かに楽しく充実して過ごせた説浮上してます……あったけえ…主様のいる世界線があったけえよお……!
すみません、(ガチ)が物凄く迫真で同意しながら笑ってしまいました(笑)
冬はね、寒いですからね!栄養蓄えておかないと!!
分かります……!見て楽しい動かして楽しい素敵なスパイス悪女田中えまちゃん…!果たしてこれからまた活躍の機会はくるのでしょうか…!?
山田もね……まだ諦めきれていないという、案外しぶとい奴ですからね…!みきちゃんは渡せないけどいつか幸せになってくれよな……!
やっほーい!!パジャマを脱いで出かけましょう~!!
みきちゃんのあわあわする姿を見て我々は大変に健康と幸せを噛み締めておりますもんね…なるみきいっぱいちゅき……!
主様もしやオシャレ番長様ですか…!?先生&背後のオシャレスキルの低さが浮き彫りになっちゃう……生暖かい目で見守って、そしてスルーしてくださいネ……。むしろやりやすい導入でいつもいつも助かっておりますありがとうございます!何よりみきちゃんがお洋服に悩む姿を見せて頂けるのこれ一種のご褒美ですので!!()
把握しました~!その2つだけは遵守いたしますね!
は~このくっつきたくてもくっつけない距離が最高of最高すぎて寿命がどんどん伸びていく~~!!
そして手が出せなくて悶えながら己と戦っている先生と背後を、みきちゃんと主様は楽しむんですね……くそぅこの小悪魔ペアめ!!(褒め言葉) )
─── 『 じゃあ11時くらいにしよー! 』
─── 『 バイトしてるから、お昼ご飯はちゃんと自分で払えます!(お気になさらず!と子犬がドヤ顔しているスタンプ) 』
( 長時間悩んだ甲斐があり何とか服装の方向性が決まっていったあたりで丁度彼からの返信も返ってきて、若者らしいスピードでポンポンとメッセージを返していけばいよいよデートが明日なのだとじわじわ実感が湧いてきたらしいみきは思わず寝転がったベッドの上でパタパタと足を上下させて。こうして彼としっかり待ち合わせをして外で会うというのも初めてで、自分から強請ったものとはいえいつもよりしっかりと浮腫み取りのストレッチをしたりちょっぴり良いパックやトリートメントをしたりと精一杯の下準備をしてもどこかそわそわしてしまうのは仕方の無いこと。『 明日楽しみにしてるね、おやすみ! 』と少し遅れて続けてメッセージを送信したけれど、やっぱり当日の朝になって迷わないように方向性だけじゃなくてお洋服自体も決めておこうとみきが眠るのはまだもうちょっと夜が更けてからで。 )
( / 当然ですよ!アロンアルファの上からグルーガンで固定しちゃいますからね!!もう取れません!!
う、う、うれし~~!!!背後様も充実を感じてくださっていたなら光栄の極みです…なるみきありがとう……!!!!
どうしてもね…秋から冬にかけては美味しいものしかないし蓄えのためもあるし、体重計とは疎遠になっちゃいますよね……ヘヘッ(笑い事ではない)
えまちゃん、ぜひぜひまたスパイス投入に現れて欲しいですよね…!動かしやすくて物語も動かしてくれてスパイス的役割も結果的に関係後押しもしてくれるえまちゃん、サイコーの女の子です……!
ほんとに…!こういう子はね、本当に…男の子の親友ポジションのまま恋愛感情引き摺りつつ幸せになってくれ山田くん(わがまま)…!!
2人がイチャイチャしてくれれば我々の寿命が伸び、我々の寿命が伸びれば2人は永遠にイチャイチャできるという最高の永久機関が生まれちゃってますからね……なんて素晴らしいんだ……!
アッとんでもないです当方ただの根暗オタクですので…!!!!こういうお洋服着た恋する女こ子可愛いだろうなウヘヘの気持ちで着せているに過ぎませんのでお気になさらず……!!(???)
良かったー!!!ではこんな感じでよさげなタイミングで翌日に移行出来ればと思います…!ちなみにお洋服はまだ悩んでます!背後が!!()
アア~~~わかりますこの距離感がね、たまんねぇのですよね!! 競馬場にいるおぢさんくらい(エアプ)「いけ!!!おせおせ!!!」言うてます……(ニッコリ)
フフフいつも我々を満足させてくださりありがとうございます……!!!!みきは無意識ですが当方はちゃめちゃに歯茎むき出しスマイルで楽しませていただいております!二チャ!
背後様とお話させていただけるのが楽しすぎて毎回この会話を切るのが本当に本当に惜しいのですが、私のオタクトークがなるみきの邪魔になってはいけませんので此方で一旦背後は下がらせていただこうかと思います…!!
また何かございましたら遠慮なくお呼び立てくださいませ! /蹴可 )
────、
( 昨晩のメッセージは『了解、おやすみ。』で終了。次の日に響かないようにいつもより少し早めに就寝すれば、休みの日は布団とランデブーな自分でも比較的すっきりとした目覚めになって。季節はすでに冬、街もクリスマスカラーに彩られている中でこうした待ち合わせというのは何だか久しぶりに感じる気がする。男友達と会うくらいならば服装も楽でラフなものを選ぶのだが、さすがに本日はそういうわけにもいかなくて。…とはいえビシッとスーツでキメるなんて堅苦しいのは好みじゃない。黒のワイドパンツにニット素材のインナー、アウターはトレンチコートとシンプルではあるが普段のパーカーやジャージといったやる気のない服よりは遥かにマシだろう。冬の空気の冷たさで自然と肩に力が入るが、少しでも暖を取ろうとポケットに両手を突っ込んで待ち合わせ場所にて彼女の到着を待って。 )
( / うぐぅぅ……毎度のことながら主様のお話を蹴るのが本当に惜しくて心苦しくて……!!だって楽しいんだもの!!!(クソデカボイス)
しかしなるみきの邪魔をしたくないのは私も同じ気持ちですので、まだまだ広がりそうなオタトーーークはとりあえずこの辺でセーブしておきますね()
こちらこそ、何かありましたら(何もなくても)いつでも召喚してくださいませ!
これからも共になるみきを享受して楽しめれば幸いです…! /蹴可 )
─── おにーさん。おひとりだったら一緒に遊びませんか?
( いつもよりもちょっと早い時間に勝手に目が覚めて、早い時間に目が覚めたのにも関わらずやっぱりデートの日の朝というものはなぜかちょっとバタついちゃったりして。けれどしっかりふわふわとゆる巻きした髪を白リボンで高い位置にポニーテールにした髪は昨日のトリートメントでふんわり良い香りがしてツヤツヤだし、肌だっていつも以上にぴかぴか。結局服装は精一杯可愛いを押していこう!ということで、黒の薄手ハイネックニットに淡いブラウンチェックのプリーツミニスカート、足元はトップスと同じ黒のロングブーツ。袖先に白いファーが着いた白の膝上丈ノーカラーコートに白のリボン型のファーマフラーを合わせれば完璧なデートファッションの完成。誰がどう見てもデートです!といった風な様相で待ち合わせ場所までぱたぱたと駆けてくれば、待ち合わせ時間まであと15分ほどあるのに既に待ち合わせ場所には彼が。思わずそわそわと悪戯心が騒いでいつかの彼のように他人のフリをしてにこにこと声を掛けては彼の反応を伺うようにこてりと首を傾げて。 )
!…あー、悪いけど可愛い彼女待ってるんでひとりじゃ無いんですよねー。
( 息をするたび口から出る白い息をぼんやり眺めながら待っていれば突如として掛けられた声は、他人のフリというには残念ながらあまりにもよく聞き慣れた声。もちろん反射的にそちらを見たことで目の前にいる人物が誰だかをすぐに頭が把握したからということもあるのだが。いつだかの仕返しのようなことをする彼女に、そのいつだかの彼女の反応とは違ってにやりと口角を上げながらわざと"彼女"という単語を強調すれば、言葉通りとても可愛らしい格好をした相手をしっかりと瞳に映してにこにこ笑い。 )
!!!
……………あ、う、…か、かのじょ、…来ました…。
( てっきり上手に騙されてくれると思っていたいたのに、にやりとした笑顔とわざとらしい言葉に反対に此方が顔をカッと赤らめては恥ずかしそうにファーマフラーに顔を埋めつつ小さな声で到着の報告を。常日頃から彼女になりたいと思っているしなれるのなら当然その座を喜んで受け取るつもりではあるのだけれど、いざそういった風にからかわれてしまうと途端にしおらしくなってしまうのはいつものこと。「 ……ご、ごめんね、待った? 」今ので一気に身体が熱くなってしまったのでみきは全く寒くないのだけれど、先に外で待っててくれていた彼は寒いだろうと羞恥で視線は合わせられないまま小さく問いかけて。 )
はは、待ってました。
( 彼女の様子を見ればこちらの反撃が成功したのは一目瞭然。可笑しそうにくすくすと笑いつつも、改めて彼女の服装を見ればやはり一段と可愛らしいと思うのも本当で。いつもの見慣れた制服姿やたまたま数回見る機会のあった私服とは違い、間違いなく今日この日の為に彼女が考えて選んだものだと思うと何だか一層愛おしく思う気がしてくる。そんな気持ちが込もった視線を彼女に向けるも、残念ながら恥ずかしそうな彼女の夕陽色とは視線が絡むことなく。「や、俺も来たとこ。…つーかお前こそ早くね?まだ集合時間前だぞ。」待ち合わせのド定番、常套句のやり取りに何だかむずむずしそうだが、ポケットからスマホを取り出して時間を確認すれば予定の集合時間よりもそこそこ余裕のある到着。とはいえ自分もさらに10分ほど前に着いたばかりなのでお互い様ではあるのだが。 )
……早く来たら、その分長くせんせーと居られるかなって思って、
( 先程は彼の反撃によって逸らしてしまった視線も、今や私服の彼の眩しさと照れで次は上げられなくなってしまったらしい。以前にも私服は見たことあるけれど、男の人のコート姿ってなんだかいつもよりも何倍もかっこよく見えてしまうものでそれも相まってなんだかとても気恥ずかしくて。時間について言及されればちょっぴり恥ずかしそうに頬を染めながらぽそぽそと“少しでも貴方といる時間を増やしたかったです”と素直に吐露して。そもそもその作戦も彼が早めに来ないと成立しなかったのだけれど、さすが大人は時間前行動が完璧なのでみきの作戦は大成功。約束の時間よりも少し早く合流できたことによって無事デート時間はちょっぴり増えて。それがとても嬉しくて、漸くちらりと顔を上げて彼と目線を合わせれば「 だから、早く来てくれてうれしい。 」とへにゃへにゃ柔らかく微笑んで。 )
っ、……そっか。
( きっと彼女は意図せずだろうが、そうして素直に吐き出された気持ちの方が存外カウンターとしては攻撃力が高かったりするもの。少し赤らんだ頬やいつもと違う服装も相まって、例に漏れず自分も彼女の言葉にどきりと胸が鳴ってしまえば何とか一言だけ返すのが精一杯で。ようやく合った視線と柔らかく笑う彼女が可愛くて、正直その辺を歩いている他人にすら見せるのが勿体無いと思ってしまう。先ほどから自分の視界の中にはちらちらと彼女を通りすがりに見ていく人が何人か映ったりしているのだが、そうやって視線を向けたくなる気持ちが分かると同時にやはり少しだけ独占欲のようなものも湧いてきてしまいそうで。「…とりあえず昼飯にはさすがに早いし先に用事済ませようと思うんだけど、いい?」と、本日のお出かけの名目である自分の欲しい物の買い出しを先に終わらせてしまおうと彼女に問いかけて。 )
ん!
……ね、ね、今日は何お買い物するの?
( 本日の名目である“お買い物”、そういえば何を買うのか聞いてなかったことに気がつけば彼の問いにこくんと深く頷いたあとにそのまま続けて質問を。ふぐ太郎たちのごはんかなぁ、とやっぱり彼と言えば生物準備室にいる小さな友人たちのことを思い出しては不思議そうに首を傾げるも、言い訳にするにしては“一人で十分”とバッサリ切られてしまいそうなのも事実でやっぱり本日の買い物予定のものは特に浮かばずに。やはりクリスマスが近いだけあって家族連れの次に多いのはカップルばかり、もしかしたら自分たちもその中のひとつに見えていたらいいのになぁなんて思ってしまうのは図々しいとは理解しているけれど仕方の無いこと。ブーツのヒールでいつもよりちょっぴり彼の問いにお顔を見つめやすいのが嬉しくて、みきはちらりと彼を盗み見てはまたこっそりと頬を綻ばせて。 )
あー、…完全に私物なんだけどな。
ほら、俺の部屋にあるソファ。あれだいぶ使ってるしそろそろ買い替えようかなって思ってたんだよ。
( 家族連れの小さな子供がそこかしこに置かれたクリスマスの飾りやサンタに喜んでいる微笑ましい様子や、腕を組んで幸せそうに歩くカップルたちを横目に歩く教師と生徒は、今日ばかりはその関係性に見えないのではないだろうか。あわよくばカップル…とはいえ実際、良くても兄妹が関の山かもしれないが。彼女の質問にそういえば伝えてなかったと気付けば、口にしたのは仕事とは関係のない完全な私用の物。彼女は自分の家に何があるか知っているし、実際に使ったことのあるソファのことを指せばすぐに思い浮かぶだろう。まだ見た目は綺麗とはいえ自分が今の学校に赴任されたのと同じ時期に買ったものなので、年季でいえばそれなりにはなっていて。「前からちょっとバネが怪しくなってきたなーって思っててさ。せっかく御影に付き合ってもらうんだから、お前のセンスに任せて選んでもらおうかなって。」と、彼女をちらりと見やってにやり。もちろんお買い上げ後は後日配送してもらうので荷物的にも何の問題も無い。 )
ソファー…、
み、みきでいいの……?!
( あまりに予想外の買い物に思わずぽかん、と間抜け面で彼の言葉を復唱してしまえば、彼が毎日使うようなもの(しかもそんなにぽんぽん買えるような値段のものではない)を自分が選んでいいのかと驚き半分照れ半分といったように頬に淡く朱を散らしながら思わず問いかけて。確かに彼の家に実際に行ったことがあるのでインテリアもわかるしどういうソファが合うかというのも大体想像はつくのけれど、それでも責任重大であるためにちょっぴり胸がそわそわしてしまう。だって2人で家具を見に行くだなんて本当にカップルみたいだし店員さんとかに間違えられちゃうかもだし、けれど自分がチョイスしたものを彼がこれから毎日使うんだと想像したらみきのおっきな独占欲も満たされてしまうような気がするのもまた事実。なんだかくすぐったい気持ちになりながらもぐっ!と気合いを表すべく拳を握れば「 一生懸命選ばなきゃ…! 」と改めて気合いを入れ直してはこくりと深く頷いて。 )
それが今日のお前の使命だからな、
頼んだぞー。
( 狼狽えながらもどこか喜んでいるようにも伺える彼女が可愛くて面白くて、そんな様子を楽しげに見ながら本日の彼女は我が家(といってもとりあえずはソファだけなのだが)のインテリアコーディネーターに大抜擢。そんな彼女の心中まではさすがに察せないが、嫌がっている素振りがないことに少しだけホッとしたのは内緒。薄らと頬を赤らめながらもやる気を見せる彼女が何だか可笑しく、「いやさすがにそんな気合い入れるようなことじゃないだろ。」とくすくす笑いを零し。…さて目的が明確となれば早いところ向かってしまおうと大手の家具屋へ向けて歩き出して。 )
だってせんせーが毎日見るものでしょ?
毎日それを見る度にみきを思い出しちゃうくらい素敵なソファ選ぶの!
( 早速家具屋へと歩き出した彼に倣うようにみきもゆったり歩き出せば、ただ立っていただけの時とはまた違う寒さにぶる。と一度身震い。それからへらへらと柔らかく笑えば自信がどうしてこんなにも彼のソファ選びにやる気になっているかをさらりと応えてはやる気を示すべくにこ!と満点の笑顔を浮かべて。クリスマス間近の街並みはどこを見てもキラキラと素敵に輝いており、もうさすがにサンタさんを信じていないみきですらとわくわくそわそわしてしまうのだから幼い子供たちは全てが楽しみで仕方がないのだろう。両親に買ってもらったのだろうプレゼントを小さな手いっぱいに抱えてにこにこぺかぺか歩く子供を微笑ましく見つめてはその視線に気付いた子どもがちいちゃな手でばいばいと振ってくれた手に「 ばいばーい 」と人懐っこい笑顔を浮かべて同じように手を振り返しては癒された!と言わんばかりに頬を弛め。 )
なーんか選ぶときに変な念でも込められそうな気がしてきた…、
人選間違えたかな俺。
( 小さく身震いをした彼女に気付いたものの、生憎マフラーや手袋といったものは着けていないし自身のコートを差し出せばきっと今度は自分の方が耐えられなくて身震いが止まらなくなるだろう。とはいえただでさえクリスマスで人通りが多いうえに明るいところで、何も無いとはいえ教師と教え子が手を繋いで歩くなんていつどこで誰に会うかも分からない状況ではあまりに綱渡りが過ぎる。少し悩んだ結果、少し歩く速度を緩めて彼女との距離を少しでも近くしたうえで少しでも風除けになればとイマイチ格好のつかない行動に出るのが精一杯で。彼女のやる気に溢れた宣誓を聞けば溜息混じりに笑いながらも、そもそも他に人を選ぶという選択肢は存在していないのだが。いつの間にやら小さな子供とやり取りを交わしていた彼女に気付けば微笑ましそうに笑みを浮かべ、「子供はいいなぁ。大人になると無条件にプレゼントが貰えなくなるどころか配る側にまわんなきゃいけなくなるし。」と何とも夢のない悲しい大人の現実を切り取った一言を零して。──ちなみに彼女に遅れて自分もこっそり手を振ってみたが、残念ながらぷいと顔を逸らされてしまって少しだけショックを受けているのは彼女に気付かれていないことを祈る──。 )
し、失礼なー!
変な念じゃなくて純粋な愛情ですー!
( 少し歩くスピードを落としてくれた彼に“歩くの遅かったかな?“と残念ながら彼の真意は伝わっていないのだけれど、歩くスピード合わせてくれて優しいなぁと結果的に彼の好感度はまたさらに上がり。あとはちょっと距離が近くなって嬉しいな、と思ったり。だがしかし彼の言葉にむ。と唇を尖らせては反論になっているんだかいないんだかの言葉を返しては不満げに頬を膨らませて。好きな人の私物を選ぶ、だなんて滅多にない機会だしその本人から直接指名を受けたのであれば殊更張り切ってしまうのは当然のこと。あとは生徒と教師という垣根が無くなった時にソファどう?なんていった名目でおうちに遊びに行けたらいいななんて下心も正直ちょっぴりあるのだけれど。きらきら未来のあるちびっ子との癒される一幕に心がぽかぽかと暖かくなっていた中になんとも現実的な言葉が降ってくれば、相変わらずな彼にもう!と呆れたように笑いながら「 せんせーも良い子にしてたらプレゼントもらえるかもよ? 」と悪戯っぽく首を傾げて。幸か不幸か、子どもって可愛いなぁと其方に夢中だった為か彼が見事子どもにスルーされたところは見ていなかったのだけれどきっとそんな所もみきとしては可愛いポイントに加算されるのだろう。 )
はは、純粋って。
お前のことだからまあ変な念は無いにしても、ちょっとした下心くらいなら入れてきそうだなって思ってたんだけどな。
( 自分自身が寒さに滅法弱いのは自覚しているため、彼女との距離が縮まることでほんの僅かでも空気の冷たさが和らぐのであれば一石二鳥。結果的に手を繋ぐには近すぎるが、腕を組むにはまだ少しだけ遠いような絶妙な距離感の出来上がり。もちろん真っ昼間の人通りが多いところではそのどちらも出来かねるのだが。可愛らしく頬を膨らませて恥ずかしげもなく言い切る彼女に笑いながら、その心の奥の計画(?)を知らないにしても冗談めいた言葉は偶然にも当たらずとも遠からずといったもの。もちろん本人にその自覚は無く、ある意味これは彼女限定のエスパーといったところだろうか。相変わらずこうしてたまにお姉さんムーブを見せてくる彼女に苦笑いしながら「毎日頑張ってる"良い子"な大人にはプレゼントひとつやふたつじゃ物足りないよな……サンタにはちゃんと見合った報酬を求めるぞ俺は。」と、内容こそ冗談満載だが声色は敢えて真剣に。もっともこの場合のサンタは赤い服と白い髭のおじいさんでは無くもっと現実めいた相手が対象なのだが。 )
う゛。
……………………別になんにもないもん。
( まさにたった今考えていたことをすばり当てられてしまえばぎく、と分かりやすく表情を固まらせながら静かに視線を逸らしては嘘と言うにはあまりにもお粗末な演技で言葉をぼそり。そりゃあ女の子だって好きな人に対してなら下心だって持ってしまうし仕方ないじゃん、と若干責任転嫁をしつつも少し恥ずかしそうにちらりと彼を一度見たあとにまたその夕日はすぐにふい!と逸らされて。ちゃんと見合った報酬、と言葉の冗談さに比べてその声色はなかなか真剣なものでみきは思わず瞳を丸くして。毎日頑張ってるいい大人に送る、ちゃんと見合った報酬。彼に比べたらまだまだ子供なみきにとってその報酬内容というのは簡単には思い浮かばずにゆっくりと首を傾げては「 こ、高校生の財力でも買えるもの……?例えば……? 」と“あくまで自分が買う訳では無いけれど興味本位で聞いています”といったテイストを崩すことなく例えばどんなものかと彼に問いかけてみて。…最も、それが自分があげられるものならば後ほどこっそり買おうと思っているのは内緒(だと思っている)のだけれど。 )
…へえ~~~~?
……俺も大概だけど、お前も結構分かりやすいよな。
( ほんの一瞬こちらを見たかと思えばすぐに合わなくなった目線を追いかけるように、首を傾げて覗き込みながらにやにやと悪戯っぽい笑みを浮かべて。自分の演技に難ありなのは分かっているうえで同じような彼女の演技を意地悪く指摘して。彼女がどんな下心を隠しているのかまではさすがに分からないにしても、純粋な愛情というのもきっと本音なのだろうがやはりそれだけでは無かったのだと分かれば可笑しくて抑えきれていない笑いが零れ。"例えば"と問いながらも"高校生の財力で"なんて言ってくるあたり、何となく彼女が企んでいることが分かるような気がする。きょとんと一拍、後にくすくすと笑いながら「財力は関係無いけどお前にしか出来ないプレゼントもあるぞ。例えば満点のテストとか。」と態とらしく意地の悪い言い方をするも、実際に教え子の成績が良くなるのは教師にとって素敵なプレゼントといっても過言では無いので決して嘘ではなく。 )
っ~…もう!
……だって仕方ないじゃん、……好きな人のおうちに遊びに行く言い訳にならないかなって、思っちゃったの。
( 其方を見なくてもわかる、明らかににやにやと楽しそうな声色にお手上げと言うようにぱっと頬に朱を散らしては彼の方へ羞恥に潤んだ夕陽色を向けつつ正直に考えていたことを答えて。ホントは言い訳やらキッカケがなくても遊びに行ける関係になれるのが望ましいのだけれど、今はそもそも緊急時でない限りは無理だろうし卒業しても自分の頑張り次第でないとそれは叶わないので少しでも保険をかけておくに越したことはないらしく。どうやら精一杯に装った興味本位ですというテイストはどうやらすぐにバレてしまったようで、くすくすと笑う彼からの回答は“満点のテスト”とのこと。ぽかん…驚いたように間抜け面を浮かべたあとにすぐ唇をとがらせては「 そんな点数取れたら最初から取ってるもーん。今60点取れてるのが奇跡なんだから。 」と不満げに彼のチョイスに苦言を呈し。確かに自分にしかできないプレゼントで、高校生にでもできて、彼が喜ぶプレゼントであることには変わりないのだけれど残念ながらそこそこ遠い夢であることもまた事実で。 )
…なるほどね。
ほんと強かだよなお前…。
( うるうると輝く夕陽色が下心を露わにさせられた恥ずかしさを物語っているが、そんな姿すらも可愛いと思ってしまう自分は結構末期なのかもしれない。買い出しに付き合わせることは先に言っていたものの何を買うか、そしてそれを彼女に選んでもらうと伝えたのはまさについさっきなのだが、それをすぐさま自分のチャンスに繋げようとするちゃっかりとした強かさはある意味素直に尊敬できる。呆れたような台詞とは反対に柔らかい視線を彼女に向けながら優しく微笑んで。…とはいえさすがにいち生徒に対して『いつでも家に来たらいい』なんて言えるわけはないので、思ってはいてもそれを口にはできないのだが。きっと彼女が欲しかった回答では無かったのだろう(わざとではあるが)、艶のある唇をつんと尖らせてまたもや不満を零す彼女の様子に「向上心があるんだか無いんだか……。」と小さく苦笑を。まあこうして"ご褒美"の時間が取れているだけ彼女の頑張りはしっかり伝わっていることに違いはないのだが。──そんな会話もそこそこに辿り着いた目的地は、こちらもクリスマスの飾りに彩られているだけではなくちょっとしたツリーや飾りをお勧め商品として販売しているよう。やはりそういったコーナーには家族連れやカップルが集中しており、私服だから周りからは分からないだろうとはいえ生徒を伴って入ることに何だか少しだけ背徳感を覚える気すらしてしまいそうで。 )
ほ、褒めてるのそれ……。
( 声色こそ優しくて愛おしさの滲む温かいものではあるけれどあまり褒め言葉とは言えないその言葉にグロスの塗られたさくらんぼ色の唇はつん、と尖ったままで。だが紛れもなく強かであるという部分については間違いでは無いので否定はできないしするつもりもあんまり無いのだけれど。自分よりも余程自分を理解してくれている彼がそう言っているのだからきっとそうなのだろう。暫くして辿り着いた目的地には大きなクリスマスツリーからこじんまりとした可愛らしいツリーや置物など正にクリスマス商品を前面に押し出しておりキラキラ色とりどりに輝いておりそれに伴いみきの瞳もきらきらと輝いて。「 見て見て!あんなにおっきなツリーも売ってるよせんせー、…じゃなくて、えと、…えーっと……司、くん…? 」自分の身長の倍はあるだろう、売り物とは思えないほどに立派なクリスマスツリーを見つけてはついいつもの癖で彼の服の裾をくい、と引っ張りながら見て見てと強請り─── かけたところで、そういえばあんまりお外でせんせーって呼ばない方が良いのか…?と相変わらず妙なところで気遣いが発揮されればちょっぴり悩んだ後に彼の方を振り返りながらこてりと首を傾げて名前を呼んで。いつも“せんせー”と呼んでいるせいで初めての名前呼びは何だか妙にそわそわと照れてしまいその頬はうっすら薄紅色に染まって。 )
褒めてる褒めてる。
お前にはそのままで居てほしいと思ってるよ。
( 楽しそうに笑いながらも口にする言葉に嘘は無くて。いつかの田中えまのように裏のある強かさもひとつの強みに違いはないが、自分の気持ちに正直で真っ直ぐな彼女の強さはまた違って美しく見える。例えその原動力が恋する乙女の下心だとしてもそれこそ彼女らしさだし、口にはしないがそういった部分に惹かれている自分を否定する気もなく。目的はソファひとつなのだが、こうもあちらこちらがキラキラと輝いていると子供や大人関係無く目移りはしてしまうもの。彼女の言葉にそちらに視線を向けるも、大きなツリーが目に映ったのはほんの一瞬。その次に耳馴染みのある声から出た聞き慣れない単語にすぐさまダークブラウンの瞳は丸く見開かれて彼女を映し。「───っな、…!?……~~~、お前…っ………今のは反則だろ…。」それはあまりにも突然の不意打ち。薄く朱を散らした頬でこちらに顔を向ける彼女を直視することが出来ず、思わず顔を逸らしては三十路の脆い心臓()が早鐘を打つのを抑えようと胸に手を当てて。 )
……なら、いっか!
( 暫くはむむむ、と唇を尖らせていたものの彼の言葉に嘘偽りがないのは声色を聞いて顔を見ればすぐに分かること。みきは安心したようにへにゃ、と微笑んでは目の前の彼がそう言ってくれるのであれば良いのだとすっかり不満気な様子はどこかへ吹き飛んでしまい。どうやら気遣いとして投げかけた言葉は彼に何かしらのダメージを追わせてしまったらしく、驚いたように綺麗なダークブラウンを見開いたかと思えばそのまま視線を逸らして心臓を抑えるような仕草をした彼に今度は此方が驚いたように瞳を丸くしては「 え!?だ、だってお外だし名前で呼んだ方がいいかなって思って…!ごめんね、嫌だった…!? 」と慌てて心配そうに彼を覗き込んでは不安そうに眉を下げて。個人的には本当にデートをしているカップルみたいでちょっぴり彼の名前を呼べたことは幸せだったのだけれど、もしも彼がそれで嫌な思いをしていたら嫌だなぁという風にまさか彼がそれ以外の感情で困っているとは微塵たりとも思っていないお顔で。 )
……、あー…別に、嫌とかじゃ…ない……。
( 良くも悪くも単純な彼女から不満げな様子は綺麗さっぱり無くなり、いつもの柔らかい微笑みにホッとしたのも束の間。まさかの名前呼びという意識外からの不意打ちに悶えていれば、今度はまったくの斜め上な心配を見せてくる彼女に小さく溜息を吐いて。確かに彼女の言うことには一理あって、それゆえの気遣いは素晴らしいとは思う。…が、いかんせん破壊力が強すぎて少々ダメージを受けてしまったのは致し方無し。もちろん彼女が心配するような嫌な感情などあるはずもなく、不安そうな彼女を安心させるべくそれに関してはきちんと否定を。少しして漸く落ち着けば、「…と、とりあえずソファ探すぞ…。」と店内を奥へと歩みを進めて。もちろん名前呼びに関しては咎めることなどせず。 )
?
……ならいいんだけど…。
( 未だに合わない視線には疑問は残るものの、どうやら嫌だとかそういったマイナスな感情ではないらしいことがわかると取り敢えずみきは分かりやすくほっと安堵の表情を浮かべて。ならばどうしてこんな反応なのだろう…と名探偵は顎に手を添えつつ店内の奥の方へと歩みを進める彼の数歩遅れて後ろを歩くこと暫く。─── …もしかして、照れている? !まさにピシャリと雷が落ちたような衝撃と共に名探偵は真相へとたどり着いたようで、みきはにこ!!と今日一番の笑顔を浮かべてパタパタと彼の真横まで駆け寄れば「 じゃあ今日一日お名前で呼んでいいってこと?司くん。 」とちょっぴり彼の耳元に唇を寄せながらふわふわご機嫌な声色で敢えて名前呼びをしながらそんなことをこそこそ問いかけて。だって外で“せんせー”って呼んだらみんなビックリしちゃうもんね?名前呼びなら兄妹かなって誤魔化せるもんね、そんな言い訳を並べたいたずらっぽい夕陽で彼を覗き込んではその表情は楽しそうに綻んで。 )
───!
( 大人しく少し後ろをついてくる彼女に意識を向けつつも、目線は目的の物を見つけるべく店内の案内板やらディスプレイされている家具やらを見ながら足を進めて。まさか後ろでこういう時ばかり能力を発揮する名探偵がまさにひとつの謎を解き明かしたことなどつゆ知らず、隣に駆け寄ってきた彼女が何かを言いそうだったので反射的にそちらへと体を傾けて。そうして掛けられた言葉は何とも楽しそうな声色と表情に彩られた自分の名前。思わず再びぱちくりと彼女を見たものの、さすがに二度目となれば初回の不意打ちよりは耐えることも出来る。悪戯に輝く彼女の瞳が言いたい事がこちらへの気遣いなのも分かってはいるが少しだけ悔しくて、「…いいよ。せっかくみきが気遣ってくれてんだもんな?」とその夕陽色をしっかりと見つめ返してはにっこり笑顔を携えながら小首を傾げて。 )
、……!!!???
( にこにこ、にやにや。今のみきの表情を表すとしたらそんなに擬音がピッタリで。普段あんまり見ることの出来ない想い人ノレアな姿をこの目に収めておこうと彼を見つめていたのだけれど、ようやく目線の合った彼は照れている様子もなく此方を真っ直ぐ見つめるダークブラウンは少しイタズラじみた色が滲んでいて。彼から返ってきた言葉に3秒ほどシンキングタイムがあったあとに漸く彼に反撃されたのだと理解をすれば先程までのにこにこにやにやした表情から一転、大きな夕陽をまん丸にしながら頬を真っ赤に染めて言葉をなくしてしまい。確かに自分の言い訳を使うのであれば彼がこちらを苗字で呼ぶのも随分とおかしな話になってしまうので彼の対応は大正解なのだけれど、突然好きな人からの名前呼びに混乱しているみきはそれに気づくことはもちろんできずに「 ぁ、……う、……。 」とただただパクパクと言葉にならない声を漏らすことしか出来ずに今度はみきが彼から視線を逸らしてしまい。 )
お返し。
( 彼女からの可愛らしい悪戯タイムを強制終了させるかのような反撃は上手く決まったようで、そこら中に飾りのモチーフとして置かれているサンタの服のように真っ赤に染まる彼女の頬と言葉になっていない声が漏れ出る様子に満足そうに笑えば小さく舌を出して。とはいえ彼女から名前呼びをされるのは周りからの邪推を逃れるためもあるので一向に構わないのだが、さすがに自分の方はいざという時以外は苗字で呼んでも差し支えはないだろう。「ほら、固まってないで行くぞ御影。」とくすくす笑いを抑えようともせず、視線を逸らした彼女の頭を軽くひと撫でしては止まっていた歩みを進めようと促して。少し遠くには寝具や机といった家具類が見えており、その一角にいくつか目的のソファを見えているので。 )
い、……いじわる…!
( ついさっきまではこちらがからかう側だったのにあっという間に形勢逆転されてしまったのが悔しくて、其方を見なくても今彼がどんなお顔をしているかなんて一緒にいる時間が長いみきにとっては簡単に分かってしまうこと。ぐぬぬ…!と悔しそうに頬を膨らませて小さく言葉を零したものの彼に頭をひと撫でされてしまえばなにだか怒るにも怒れなくて、未だ赤みの引かない頬をそのままに残念ながらいつもの苗字呼びに戻ってしまった彼について行くようにぷくぷく頬をふくらませたたまま少し先に見えるソファコーナーへと歩き始めて。そうして漸く目的のコーナーまでたどり着けばやはり大型店というだけあって1人用からファミリー用まで様々な形のソファが置いてあるのにみきの瞳は怒っているのも忘れてきらきらと興味深そうにソファたちを映して「 いっぱいある…! 」とキョロキョロと目移りしてしまいながらも1,2人用のソファの方へとしっかり歩を進めて。 )
んー、どれがいいか……
寝落ちしても体痛くならないやつとか……、
( ぷくりと膨らんだ頬と悔しそうに一言だけ零しながらも、こちらが頭を撫でるだけで反撃や反論が出来なくなる彼女が面白くて可愛くて。けらけらと楽しげに笑いながら辿り着いた販売コーナーには様々な色やデザインのソファが所狭しと展示されており。高校生でこういった所に用事があってくる事なんて滅多にない(少なくとも自分は無かった)のだろう、きらきらと瞳を輝かせて目移りさせる彼女を見ては優しく微笑んで。そのまま一緒に求めるサイズのソファが置いてあるコーナーへ赴けば、座面の柔らかさを手で押して確認したりしながら色々なソファをざっと見やって。「御影、気になるやつあったりする?」と、本日コーディネーターに指名している彼女に意見を仰いでみて。 )
あ、ダメだよ司くん。
寝心地いいやつにしたら今日はここでいっかってなるでしょ?
( 座面の柔らかさを手で確認する彼を見てそうやって調べるのか…!とまたひとつ賢くなれば彼の真似をするように自身も手で押してみたり布地の柔らかさを掌で確かめて見たりと数々あるソファの中で吟味を重ねていき。ふと聞こえた彼の言葉にはしっかりちゃっかりツッコんでは続けて重ねられた彼の質問には悩ましげに首を傾げては「 んー…これいいなぁって思ったんだけど、色がふんわりしすぎかなぁって悩んでる…。 」とその中でひとつ、2人用のなかなか柔らかで座り心地の良さそうなアームソファを示して。カラーリングが落ち着いた雰囲気ではあるのだが柔らかなブラウンのものしかないようでどうやそこだけが引っかかっているらしい。みきはむむむ、と眉を寄せてはみきのセンスとしてはアリなのだけれど男性の一人暮らしの部屋と考えると明らかに女性が選んだんだろうなと直ぐに分かってしまうだろうと考えてしまえば自信満々にコレがいい!と無責任に勧めることはできなくて。 )
う゛………………、
…くそ、否定できねー………。
( ただひたすら寝心地の良さそうな物を吟味していれば彼女からピシャリと核心をつくようなツッコミが。かといってそれを真っ向から否定できる自信などもちろん無いので、ぐぬぬと何も言い返せずに項垂れて。寝転がるだけならまだしも、自分の性格上動くのが面倒だとなれば間違いなくソファで寝るだろう。結果どんなに良いものでも所詮ソファはソファ。体を痛めたり風邪を引くのがオチなので、自分のことをよく理解している彼女に従う他無く。そういうストップを掛けてくれる時点でやはり彼女を連れてきたのは正解だと言えるのだが、当の本人はこちらの問いかけに何やら悩んでいる様子。彼女が示した先には、確かに独身男性の部屋に置くには少し柔らかすぎるのだろう色合いのソファが。だがそんな彼女の悩みなど気にすることなく「いいじゃん別に。コレにするか。」と、けろりと一言。過剰なほどミスマッチで無ければ別に色に拘りがあるわけでも無し、彼女が悩むほど(その悩みの種は分からずとも)の物には見えないので。 )
ふふ、もしそれで体調崩しちゃったら「来ちゃダメ」って言わても看病しに行っちゃうから。
風邪引かないようにしてね。
( どうやら自分の指摘はピッタリ当たりだったらしい。何も言い返すことの出来ない彼の様子に思わずくすくすと表情を綻ばせては脅しになっているんだかいないんだか絶妙なラインの脅し文句を。ソファで寝てしまい体調を崩したら看病に行けるし、崩さなかったら崩さなかったで彼が元気ということなのでみきとしてはどちらにしてもウィンウィン(?)なのだ。此方の悩みなど気にせずにさらりと一言返した彼にぱち…と驚いたように瞳を丸くしてはソファを指さしながら「 で、でもこれ女の人が選んだんだなーって色だよ…?いいの…? 」とおずおずと自分が悩んでいる最もな理由を差し出して。例えば、想像もしたくないけれど、自分以外の女の人が彼の家に遊びに来ることがあるとしたらきっと女同士それは伝わってしまうだろうし女の影があるのではと疑わせてしまうだろう。みきとしては適度な牽制となるので全くもって構わないけれど、それで彼の邪魔になってしまったらと考えると素直におすすめは出来なくて。 )
…確かにお前俺の家知ってるし、来るなって言っても聞かない未来が見える気がするわ……。
( どちらが年上なのか分からなくなるやり取りに居た堪れず頭を抱えて。内容的には何とも優しさに溢れているのだが、教え子が家に来るというのは確かに教師にとっては場合によって大変効き目のある脅し文句だろう。前回はやむを得ずなうえきちんと彼女の家族に連絡もしたとはいえ、そう何度も歓迎をするわけにはいかなくて。…もしもそうなったとしてもちろん嫌という気持ちは無いし、むしろ一人暮らしにとって看病に来てくれる相手がいるというのは大助かりではあるのだが。彼女の口からソファを決めかねていた理由が零れれば「?…何か問題あるか?つーかそもそも選んでんのは御影なんだから"女の人が選んだ色"になるのは当たり前なんじゃねーの?」と、きょとんとした顔で首を傾げて。伺うように言葉を紡ぐ彼女と違い、それでこのソファを選ばない理由が分からないといった様子で。自分的には何の問題も無いのでたまたま近くを通った店員に声を掛けては購入する旨を伝えて。 )
だって司くん風邪引いた時“食欲無いしめんどくさいから”ってゼリー飲料とかで凌ぐタイプでしょ。
風邪ひいた時ほどちゃんとご飯食べなきゃダメなんだからね。
( 以前彼の家にお邪魔した際の冷蔵庫の中や調味料の充実具合等々を見ればある程度普段の食生活はどうしても見えてきてしまうもの。普段から料理をしない人が風邪の時にわざわざ料理をするとは思えずにぷく、と呆れたように頬をふくらませながら鋭い指摘を続けていけばお姉さんぶって分かってる?と言わんばかりに彼の顔を覗き込んで。最も、教師である彼にとっては迷惑だということも分かっているのでお家までは押しかけなくとも家の扉にご飯を提げておくくらいのことはしようと思っているのだけど。意を決して自分がこのソファを迷っている理由を素直に吐露したと言うのにどうやら目の前の彼はその深い訳までは把握していないような様子で店員さんに購入意思を伝えてしまい。もちろん店員さんが売上チャンスを逃すわけも無いのでにっこりと柔らかな笑顔を浮かべながらそれを了承し購入準備を進めるべく品番確認をしてさっさとバックヤードへとはけていってしまい。「 ……もう、みき知らないんだからね。初めて来た女の人とかに指摘されちゃえばいいんだから。 」せっかく自分が気を遣ってあげたというのに、と呆れたように息を吐いたもののその実はみきの独占欲は充分に満たされてしまうのでその声色や表情はちょっぴり嬉しそうで。 )
………お前もしかして、前来たとき監視カメラか何か仕掛けていった?
( 彼女の指摘はあまりにも的確で、本当に見られているのではと思うほどまさに調子を崩したときの自分の行動をズバリと当てられればぎくりと固まり。そのままじとりとした視線をこちらを覗き込んでくる彼女に向ければ、冗談ではあるが可能性のひとつとしてそんな問いかけを。とはいえ少し考えれば、これだけ長いこと一緒にいるに加えて心許ない冷蔵庫を見られているのだからそんな推理はきっと簡単なのだろうと当たり前に分かることではあるのだが。にこやか且つ素早く対応してくれた店員さんを見送っては、配達の手続きもしなければいけないのでレジへ向かおうと。そんな中で聞こえてきた彼女の言葉は予想だにしていなかったもので、二度目のきょとん顔を披露した後へらりと笑顔を浮かべては「はは、何だそれ。お前そんなこと心配してたの?……仮に誰か来るとしても、ソファを選んだ張本人が看病だーつって押しかけてくるぐらいだろ。」と可笑しそうに言葉を繋いで。何の意図もなく自然と出たものだが、まるで彼女以外がもう部屋に来ることなど考えていないかのような台詞となって。 )
、
……ふふ!そんなのしなくても好きな人のことくらいわかるよ。
( じとりとしたダークブラウンでこちらを見つめながら冗談交じりの問いをなげかける彼にきょとん、と瞳を丸くしたかと思えばそのままくすくすと可笑しそうに笑い出し、そのままつん。と彼の頬を人差し指で軽く突いては楽しそうに頬を弛めて。監視カメラなんかに頼らなくても好きな人のことならばなんでも分かってしまうのだという恋する乙女はいつだって無敵で最強、みきは彼のダークブラウンを愛おしそうに見つめてはまたへらりと微笑み。きょとんと瞳を丸くしたかと思えばとんでもない殺し文句をさらりと零した彼に今度はこちらが瞳を丸くする番で。きっと彼は気づいていないし無意識なのだろうけれど、好きな人から自分以外の女性を部屋に入れるつもりがないような発言をされてときめかない女は当然居るはずもなく(みき調べ)じわじわと熱の上がってきた顔を自覚しながらもどうしようもないほどのときめきを発散する術はどこにもなくて「 っ、………ぎゅ、ってしていい…? 」と真っ赤になった顔を両手で隠しながらいつものようにダメ元でこのトキメキの発散をしようと小さなおねだりを。最も、断られる前提でいつも言っているのでいざ許可されたら許可されたで慌てるのはみきの方なのだけれど。 )
えぇ……?
そんなの分かるの絶対お前だけだって……。
( 大人しく頬をつつかれながらも怪訝な表情は崩さず、彼女曰くの恋する乙女のパワーとやらを実感するに終わり。お前だけ、なんて言いながら自分も彼女のことならきっと他の人より少しばかり気付くこともあるのだろうが、もちろんそれも無自覚で。彼女の夕陽色が綺麗にまん丸く見開かれたかと思えば、その瞳もすべて小さな両手に隠されてしまい。彼女の手がその顔を覆う直前に見えたのは本日だけでも何度か見る機会のあった真っ赤に染まった頬。そのままぽそぽそと、彼女の中の何かが限界を超えた際にいつも頼まれるおねだりを零されれば「また急だなお前は。…ダメに決まってんだろ、まったく。」と腰に手を当て、呆れたような笑みを浮かべて。そもそも仮にハグをするのに差し支えのない関係性だったとしても、こんな人の多いところではさすがに出来ないのだが。 )
せんせーが分かりやすすぎるのもありまーす。
( 未だ怪訝そうな顔を崩さない彼に対してくすくすと頬を弛めてしまえばそのままふに、と一度だけ彼の頬を指先で摘んで満足したらしくその手は離れて。普段散々わかりやすいと彼にからかわれているのでそれの仕返しのつもりらしい上記の言葉を返せばそれにプラスしてべ、と赤い舌を小さく出してこれもやっばり彼の真似で。案の定断られたハグのお強請りはいつもの事なので特になんにもショックを受けたりはないのだけれど、この胸の中の致死量のときめきはどうにかしなければならない。みきは両手で顔を隠しながら「 だってきゅんきゅんしたんだもん…ときめきで死んじゃう…。 」ともごもごくぐもった声で何度目か分からないこのお強請りの理由を説明し。ちらり、と両手の隙間から顔を覗かせては、困ったような…もとい恥ずかしそうの夕陽色で彼のダークブラウンを見つめて。 )
うっせ。
お前にだけは言われたくねーよそれ。
( 彼女の細い指が離れた後、ただでさえ分かりやすいと日頃揶揄っている相手に同じ言葉を返されるも残念ながら彼女の言っていることはすべて当たっているため反論のしようもなく。細い指の隙間からちらりと覗く夕陽色はどこか恥ずかしそうに熱の込もったもの。そんな瞳に見つめられれば少しばかり絆されそうになる気がしなくもないが、「──、…ばーか。ほらさっさと行くぞ。」と一言だけ返せば支払いを済ませるため踵を返して。道中で季節物の商品として炬燵やら完全に自分がダメになりそうな家具に惹かれてしまいそうになったりしたが、またもや彼女に的確な指摘を受けると考えれば泣く泣く()諦めて。 )
─── ふぅ。
炬燵も人をダメにするクッションも着る毛布も全部阻止!
( 気分はまさにひと仕事終えた後。会計に行くまでの道中、尽く人をだらけさせるのに特化した魅惑の家具たち(冬はそういったものが特に多い)に惹かれる彼を正論パンチで引き剥がす作業を繰り返すこと数回行っていけば、あとは今会計を行っている彼と合流すれば本日の目的である買い出し補佐の仕事は早々に終了するわけで。もちろん彼のお金出し彼のおうちで使うものなのだからある程度は自由に買ってもらって構わないのだけれど、それで体調を崩してしまったり体を痛めてしまったら元も子も無いので本日のみきは買い出し補佐の他にそんな彼の欲望を打ち破る役だったのかもしれない…と知らされざる自分の新たな任務を発見したことに満足気に頷きながらもベンチで彼の買い物が終わるのを大人しく待っていて。─── 本当はちょっぴり夫婦茶碗とか、そういったペアの食器類に目移りしてしまっていたのだけれどそれはきっと彼にはバレていないので良しとして。 )
───『すみません、お姉さんあちらのお客様のお連れ様ですよね?』
( 目的の物はしっかり買えたものの、誘惑に負けるように魅力的な品を見つければあっちへフラフラこっちへフラフラ。しかし何を見ても反論の余地など許されない同行者のド正論に勝てるはずもなく、しおしおとソファのみを購入するためにレジにて手続き中。そんな自分の知らないところで店員のお姉さんが彼女に声を掛けていることなどもちろん気付くはずもなく。──『ただいま当店でお品物をご購入して頂いたお客様にクリスマスのサービスとして粗品をプレゼントしておりまして~。カップルのお客様には、ペアのマグカップかミニクッションがお選び頂けますが如何でしょうか?』とプレゼントの写真が載ったチラシをにこやかに差し出して。マグカップの方は淡いピンクとブルーのペアで、中央から少し下にワンポイントとして白いラインが1本入ったシンプルなもの。続いてミニクッションの方は、彼女ならば抱きしめた際にちょうど良いサイズ感になるだろう。こちらも色合いはピンクとブルーだがマグカップよりは少し落ち着いた色で、デザインは可愛らしいテディベアが小さなハートを胸に抱いているもので。 )
─── へ、?
あ、いや、えっと、……
( 突然かけられた声にハッと我に返ればそこにはにこやかな笑顔の店員のお姉さん。なんだろう、と素直に話を聞いていればどうやらお店のキャンペーンで声をかけてくれたそうで、“カップルのお客様”という部分に思わず否定をしそうになったものの、こうして彼と並んで歩いていて初めてカップルに間違えられたという記念すべき嬉しさとちょっぴりの照れで頬を淡い桃色に染めれば否定の言葉はふにゃりとしたはにかみに変わり。お姉さんが笑顔でシンプルで使いやすそうなマグカップと可愛らしいクッションの写真が載ったパンフレットをじ、と真剣な夕陽色で見つめては少し悩んだ後に「 えと、…じゃあ、マグカップでお願いします! 」と今日のデートの為に昨晩塗ったオレンジ色のマニキュアで彩られた指先でマグカップの方をとん、と指さして。マグカップならばおうちに何個あってもいいし、シンプルなデザインなので別にみき用じゃなくても来客用(ほんとはみき専用してほしいけれど)として使えるのではないかという考えで勝手に選んでみたものの心の奥でちょっぴり“勝手に決めちゃったけどいいかな”、“せんせー使ってくれるかなぁ”と不安もあったりして思わずちらりと彼の方を見ては不安げに眉を下げて。 )
『ありがとうございます、マグカップですね。ではすぐにお持ちしますね~。』
( 可愛らしいお客様の照れた様子に、まだ付き合いたてなのかしら。なんて微笑ましく思っていれば、少し悩んだ後に選ばれたマグカップ。にこにこと了承すれば、店の一角に今回のプレゼント企画を宣伝しているスペースがあるのでそちらへと小走りで向かい。イベント用に広げられた机の上には大量のプレゼントが用意されており、マグカップが2個入っている箱がぴったり入る紙袋にその箱をひとつ入れるとまたもや小走りでお客様の元へ。『お待たせいたしました~。本日はありがとうございました。』と彼女に袋を手渡せばぺこ、と一礼、そのまま次はレジを通ったばかりの家族連れのお客様の方へと向かって。───「悪いお待たせ。明日には届くみたい………って、何それ。」店員が彼女の元を離れて少し、支払いとその他手続きを終えて戻ってくればベンチで大人しく座って待っていたはずの彼女の手にいつの間にか小さな紙袋があることにきょとんと。 )
わ…!
ありがとうございます、大事にします!
( 店員のお姉さんが戻ってくるのを待っている間はちょっぴりのそわそわとドキドキで正直落ち着かなかったのだけれど、いざマグカップの入った袋を渡されればぱぁあ!と夕陽色の瞳はきらきらと輝いて。大切そうに両手でそれを受け取ったあとぎゅ、と胸に抱き締めれば嬉しそうにふにゃふにゃ笑ってお姉さんにお辞儀を。それからしばらくして戻ってきた彼にキラキラした笑顔で紙袋を差し出しながら「 あのね、お店のクリスマスのキャンペーンでカップルの人にってペアマグカップくれたの!だから、……えと、お、おうちで…使ったらどうかなって…。 」とにこにこ元気に話し始めたものの段々と不安も襲ってきたのか声は最終的に小さな小さなものになり。これじゃあまるでペアだからみきの分も置いてね!とわがままを言っているようで、みきは差し出していた紙袋をそっと胸元で抱きしめては「 …お、お客さん用に…とか… 」ポソポソ付け足して。 )
へえ、いいじゃん。
マグカップなんて何個あっても困るもんじゃねーし。
( "カップル""ペア"の2つの言葉に目を丸くしたものの特に嫌がったり言及などしたりせず、差し出された袋を受け取…ろうとしたのだがそれは叶わず。段々と彼女の声は小さくなるし、最後に付け足された言葉が本心ではないことくらいはさすがに分かる。「うちに来る客っていっても友也とか男友達くらいだし、あいつらに出すのにペア物は気持ち悪いだろ。…俺のとこにあっても片方使わないままで勿体無いしお前1個持って帰れば?"カップル"用なんだろ?これ。」自分と男友達が色違いのペアカップを使う様を想像してどこかげんなりとしながら、別にペア物だからといって必ずしも同じ所に置いておかなきゃならないわけではないだろうと。お互いが1個ずつ持っていてもペアはペアだしそもそも貰ったのは"自分たち"だろ?といつもの意地悪な、しかしいつもよりは少し優しさも混ざったような笑みを浮かべてどこか不安そうな彼女の顔を覗き込んで。 )
!!
い、いいの……!?
( ホントはやだけど、でも我儘を言う勇気もなくて。けれど彼から告げられた提案にぱっと分かりやすく表情を輝かせてはきらきらと光る夕陽で彼を見上げて嬉しそうに表情を綻ばせ。置いてある家が違くとも、ペアマグカップはペアマグカップ。カップル用ならば尚更。いつもの意地悪な笑顔の中に優しさと温かさを感じればさっきまでむくむくと湧いていた不安はあっという間に散ってしまい。紙袋を持っている手を口元まで持ってきて緩んでしまう口元を隠せば「 じゃあ、マグカップおそろいしよ?─── …司くん。 」とにこにこふわふわ浮かぶような甘い声色で小さくおねだりを。 )
いいもなにもお前以外に誰が使うんだよ。
( やっぱ分かりやすい。と自分のことは棚上げに、こんな些細なことでここまで嬉しそうに顔を輝かせる彼女が可愛くて柔らかく微笑み。改めてお揃いを強請ってくる彼女の仕草や声色はとても甘く、漸く聴き慣れたはずの名前呼びにその甘さが加わればまた攻撃力は一段と高まって。どきりと胸が高鳴るのを誤魔化すように「っ、…はいはい喜んで。───じゃあ俺の用事も済んだことだしそろそろ昼飯にするか。」と、スマホで時間の確認を。お昼時にはまだ少し早いが、これくらいの時間ならどこの店もまだ混む前だろうしスムーズに昼ご飯を食べられるだろう。小さい紙袋とはいえ荷物は荷物。それ持つから、と声を掛ければ手を差し出して。 )
ふふ、はあい。
─── …ね、せんせーって普段外食するの?
( 未だゆるゆると緩んでしまう頬をそのままに、確かにちょっぴりお腹がすいてきた時間だと彼の言葉に元気よく返事をしてはそういえば大人の男の人ってこういう時どんなお店行くんだろ…と普段は女子高生らしくファーストフード多めなみきはちらりと彼を見上げて純粋な疑問を投げかけて。マグカップがふたつ入っただけの紙袋は決して重くないし全然持てるのだけれど、紳士に紙袋を持ってくれようとする彼にきゅん。とまた単純にときめいては「 ありがと!優しいとこもだいすき。 」と当然のように感謝と共に愛も投げかけて。ハイハイと流されるのを分かっていても好きだと思ったらすぐ伝えなければ気が済まないので、恥ずかしいなんて感情は二の次。伝えられなくて後悔はしたくないので、いつだってみきは自分の気持ち(恋心)に正直で。 )
んー…友達と飲みに行くくらいで滅多にしないかな、
行ってもラーメンとか。
……あ。言っとくけど、オシャレなレストランとか高級フレンチとか俺に期待すんなよ。
( 彼女のように、当たり前に自分の気持ちを素直に伝えられるのは本当に美点だと思う。大人になればなるほど建前やらしがらみが多くなって気持ちを押し殺すことの方が当たり前になってくるもの。もちろん彼女と自分の間には今はまだどうしても超えられない壁があるためこちらから何かできる訳ではないので、こうして好きなだけ気持ちをぶつけてきてくれる彼女に感謝しつつも少しだけ羨ましかったりするのも事実なのだがそれは内緒で。彼女からの質問には少し考える素振りを見せるも、普段は惣菜弁当とごく稀にする自炊ばかり。外食は確かに楽だが、1人だとどうしても大手チェーンの牛丼屋であったりラーメン屋くらいの選択肢になってしまう。仲間内で行くのはだいたい居酒屋ばかりだし…と考えたところで、このクリスマスの雰囲気にピッタリなお洒落ランチを期待されているのではと態とらしくハッとすれば、渇いた笑いを浮かべながら"大人の男性"らしからぬ格好のつかない台詞を零して。ましてや異性とこうして休日にお出かけ(デート)なんて数年ぶり。「御影は何か食いたい物とか無いの?」と、とりあえず本日買い物に付き合ってくれた彼女のリクエストが何よりも先だと首を傾げて。 )
お、男の子のご飯って感じ…。
( ファーストフードやコーヒーチェーン店、ファミレスはよくあれどあまり友人とラーメン屋さんに行くことがない女子高生にとってはなんだか新鮮で、ちょっぴりそわそわした気持ちを感じながらも彼の普段の食生活にぽそりと一言。もちろんみきもラーメンは好きなので食べたくなったら食べに行くことはよくあるのでその気持ちは充分分かるのだけれど。だがしかしハッと何かに気がついたかなような反応の後に付け足された彼の言葉にぱち!と夕陽をまん丸にしては思わず吹き出してしまいながら「 大丈夫だよー、自分で払えるレベルのお店しか行きませーん。 」とくすくす可笑しそうに笑いながらふるふると首を振って。最もそういうところは大人のお姉さんとお兄さんが行くところなのでこんなチンチクリンが言っても1人浮いてしまう未来しか見えないので。それから彼に食べたいもののリクエストを聞かれればうーん…と悩ましげに首を傾げて考えること少し。パッと浮かんだ好物はなにだか彼に言うには子供っぽいような気がしてちょっぴり恥ずかしそうに「 ……オムライス…。 」と小さな声で正直に今食べたいものを答えて。オシャレなレストランでも、高級フレンチでもない、実に庶民的なメニューしか出てこない自分の子供舌には我ながら恥ずかしくなってしまうのだけれど。 )
男の子って歳でも無いけどな。
二郎系なんて食える気しねーもん、胃もたれと胸焼けする自信ある。
( 男の子、だなんて10歳近くも歳下の女子高生に言われてしまえば何だかむず痒くて苦笑いをすれば、実際若い子たちならペロリと食べてしまえるであろう流行りのガッツリ系は少々三十路の胃にはつらいので。そういう些細なところに案外年齢差を如実に感じたりするものなのだが、彼女の手作りを食べたことのある立場から言わせてもらえば味付けや量が余りにも自分に合いすぎていたので彼女とは食の好みの相違が無いのではと思っていたりもして。仮にもデート()だというのにまだ昼代を自分で出そうとしている彼女には悪いのだがもちろん払わせるつもりなんてこちらには毛頭無い。ただそれを先に言ってしまえば変に気を遣うのではと考えているので敢えて口にはしていないが。いつかフォーマルな服装で入るような店に彼女を連れて行ってあげたい気もするのだが、それはきっとまだまだ未来の話だろう。思い付いたものの何だか恥ずかしそうな様子で出してくれた答えは庶民の舌に馴染みのあるもの。背伸びして変わったような物でなく、素直に自身の食べたい物を教えてくれた彼女に何だかホッとしてくすくすと笑いながら「ん、りょーかい。オムライス…ってことは洋食か。えーっと確か……、──ちょっと歩いた先にオムライスが美味いって評判のカフェがあるみたいだから行ってみるか。」とスマホを取り出してぽちぽち検索を。彼女のリクエストが仮に中華であれ和食であれスムーズに店が決まるよう、実は先だって昼ご飯を食べられる店をいくつかピックアップしていて。 )
ふふ!
クラスの男の子たちがそれ美味しいって言ってたよ。みきもまだ食べたことないの。
( つい最近クラスの男の子たちが口にしていたラーメンの種類が出てくれば自分もいつか食べようと目論んでいる最中らしく特に胃もたれも胸焼けも感じぬままにヘラヘラも笑って。だってまだお皿いっぱいの天ぷらも何重にも巻かれて絞られた致死量の生クリームもぺろりと食べられてしまうので。女子高生は無敵なのだ。お店を調べてくれているのだろうかというにはあまりに早すぎるそのスピードにきょとん…と思わず瞳を丸くしては「 もしかして、…調べておいてくれたの? 」と気付きながらも男を立ててスルーするような良い女精神はまだ備わってないので思ったことをそのまま問いかけて。もしかしたら彼も、今日を楽しみにしてくれてたとか。そんな想いがじわじわと湧き上がればやっぱりみきの心はきゅんきゅんとときめいて暖かくなってしまい。やっぱりこの人のこういう優しいところが好き、と何度だって彼に恋に落ちてはにこ!と満面の笑顔を浮かべて「 ありがとう、司くん! 」とだいぶ慣れてきた名前呼びと共に感謝の気持ちを素直に伝えて。 )
まじかよ……さすが男子高校生だな…。
あれ結構量もあるって聞いたけど、さすがに御影はそんな食えないんじゃないか?
( やはり若い力というのは凄まじく、自分も学生時代ならワンチャン……と考えてはみたがもはや想像するだけでお腹がいっぱいになってしまいそうな悲しい大人が年齢を実感しただけに終わり。無謀にも挑戦した同い年の友人(更に少食気味)が小盛りを食べるのすら精一杯だったといつだかに聞いたことがある。若いとはいえ女子には少し敷居が高いのではないだろうかと苦笑いをひとつ。スマホをしまい早速歩き出そうとしたところ真っ直ぐ投げかけられた疑問にぴたりと動きを止めて。そうやって思ったことをすんなりと口にしてくれるところもまた彼女の魅力なのだが、やはり少しだけ格好がつかないなと眉を下げて。「ン………まあ、…ほら、店っていざ探すとなったら案外見つけるの手間取ったりするしな。時間勿体無いだろ。」と、彼女のきらきらとした笑顔に照れ臭さを覚えては、それを誤魔化すようにはいはいと返事をしながら再び歩みを進めて。 )
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