女子生徒 2024-04-30 23:32:52 |
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何言ってんだお前は…、
褒めても何も出ねーぞ。
( ニュアンスとしてはこちらが悪いというものだが、言葉としてはただの褒め言葉。どこか照れ臭そうな、しかし呆れたように溜息を吐きながらちぐはぐな彼女の台詞に肩を竦めて。しかし袖先を掴む手に少しだけ力が込められたことに気が付けば、薄く微笑みながら掴まれていない方の手で彼女の頭を優しくひと撫で。今はまだ彼女にストップを掛けられればそれに従う形にはしているが、それを拒否した場合にいったいこの夕陽色はどれほどまで蕩けてしまうのだろうという好奇心が心の奥にあったりするのだがそれはまだ表には出さずに。いつかの未来、彼女に少しだけ耐性がついたところで享受しきれないほどとろっとろに甘い時間を共有出来るかどうかは神のみぞ知るところ。今回のデート…もといお出かけだって彼女がテストで目標点数に達したゆえのご褒美であるにも関わらず、今度は積極的に補習への参加欲を露わにする彼女に目を丸くして。それ即ち"期末テストで赤点取ります"という宣言といっても過言では無いので。間違った方向にやる気を見せる様にやれやれと頭を抱えては「……補習に積極的なのはいいけど、冬休み中にそれで学校来るのたぶんお前1人だぞ。先生も生徒も含めたうえで。…つーか俺は絶対行かないからな、貴重な冬休みにわざわざ暖かい家を出てたまるか。」と、夏休みに比べて随分と短い冬休みはそもそも補習は無いと乾いた笑いを零し。その後には子供のようにイヤイヤと首を横に振りながら、まるで生命の危機に関わるかのように真剣な眼差しで家から一歩も出たくないと何とも不健康なアピールを。 )
だってホントのことだもん…。
( 呆れたような言葉とは裏腹に頭を撫でてくれる手や彼の表情はどこまでも優しくて。みきのちょっぴり困っていたような表情にはふんわりと撫でられて嬉しい!の色が滲んではちらりと彼を見たあとに少しだけ気恥しそうに視線を逸らして。褒めても何も出なくてもいいけれど、もうちょっとだけ手加減をしてくれないといつまで経っても心臓が落ち着かなくなってしまうからそれはなんとかしてもらおう…なんて恋愛初心者な恋する乙女はこっそりと1人胸の中で決意し。もしかして特別に2人だけの補習を…!?だなんて少女漫画よろしくな展開を期待してどきどきそわそわしたのも束の間、残念ながら現実はそう甘いものではないようで彼のきっぱりとした拒否にあんぐりと口を開けて。「 い、今完全に2人で補習の流れだったのに……!?せんせーが居ないなら意味ないじゃん…! 」と一瞬期待した自分がバカみたいだと不満げに唇を尖らせて。もっとも、彼の行きたくない理由については残念ながらまぁ彼はそうだろうな……と納得してしまったのだけれど。 )
お前は補習を何だと思ってんだ…。
───あーあ、そんなにテストのやる気が無いやつにはこの後考えてたご褒美も無しにするしか無いかなあ。
( 何だかんだ言いながらもこうして強請る割にはストップを掛けてくる焦らし上手な無自覚小悪魔に翻弄されているのはどちらかといえば自分の方なのだが。彼女の心臓が鍛えられるその時を待つなんて、気が付けば日が暮れていたというようなレベルでは収まらないだろう。痺れを切らして手加減(当社比)しつつもストップの声に従ってやらない日がくるのはもう少しだけ先の話で。相も変わらず少女漫画的な展開を夢見る彼女に苦笑しながら、補習の意味合いを曲解して捉えてしまっている事に教師としては一応言及を。冬の太陽は帰っていくのが本当に早く、夏はあれほど憎らしいのにその存在を恋しく思ってしまうなんて人間(主に自分)のエゴには驚いてしまう。そんなこんなで陽が傾き始めた頃合いになって、この後彼女を連れて行きたい場所があったのだが。と、あからさまに演技じみた口調でわざとらしく大きな溜息を吐いて。 )
!!
て、テストのやる気はある!せん、…司くんと2人っきりで冬休みに会いたかったの…。
( 彼の言葉は当然のように効果てきめん。“ご褒美!?”と一瞬で煌めいた夕陽色の瞳をまん丸にしながらもやる気はあるけれどただただ彼と冬休みに会いたかっただけだとバカ正直に吐露して。別にみきとしては彼に会える口実が補習でなくても構わないのだ、結果的に彼と2人っきりになれればそれで。みきはきゅ…と眉を下げて彼を見つめては「 ほ、ほんとだよ?テストのやる気はいっぱいあるからね? 」と視線を合わせたまましっかりと念を押すようにもう一度やる気アピールを。冬はずいぶんと陽が短くて、そうこう彼と会話をしているうちに空はぼんやりと夕焼け色から濃紺へと移り変わろうとしており街灯もぽつりぽつりと灯りを付け始め。ご褒美ってなんだろう、もうお家帰らなきゃダメかな、もうちょっとテスト頑張るアピールした方がいいかな、ゆっくりと変わっていく空模様のようにみきの心もぐるぐると忙しなく感情が入れ替わり、だがしかし目線だけはしっかりと大好きな彼を見つめていて。 )
──っ、はは!
お前の行動源ってほんとそればっかなんだな。
2人っきり…は別として、お前のバイト先にまた飲みに行くかもだし何だったら家知られてるし。どこかしらで会う機会くらいはあるんじゃねーの?
( 良く言えば素直、悪く言えば隠し事が出来ないバカ正直。そんな彼女が想像通りの答えを示せば可笑しそうに笑いつつも、本音を言えばそこまでして会いたいと思ってくれている事に悪い気はしなくて。不可抗力によって家の場所はお互いに知っているし、一応歩ける距離ではあるから場合によっては行動範囲が被れば会う事もあるのではないだろうか。…とはいえ諸々をすっ飛ばして家に遊びに行きたいなんて言われたとしたらそれはそれで困るのだが。"ご褒美"の言葉に釣られるように再度やる気の念押しをしてくる彼女にこちらもまた笑いながら「分かった分かった。案外現金なところあるよな御影は。」と、下心ありきではあるがそのやる気に関しても特に否定はせず。太陽がその身を隠そうとすることで周りが薄暗くなってくれば、空気の冷たさも一層引き締まるようなものになってくる。じわりじわりと夜が近付いてくる今、スマホを取り出して時間を確認すれば「んー……まあちょっと早いけど着く頃には大丈夫だろ。じゃあ行くか───って、そういえば御影は帰りの時間大丈夫なのか?その、門限とか…。」と、彼女を伴って目的地へと歩き出そうとしたところでぴたりと足を止めて念の為の確認を。まだ夜というには早い時間ではあるが、これからますます暗くなってくるのに彼女の帰宅事情を聞いておかないとそもそも連れ回すことがアウトかもしれないので。 )
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