女子生徒 2024-04-30 23:32:52 |
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それじゃあ尚のこと不意打ちに慣れてもらわないとだな。
ちゃんと先生が手伝ってやるから。
( 彼女に名前を呼ばれるどころか、こちらが名前を呼んだ時の反応だけでこうも胸をざわつかせてくるのだから自分からすれば彼女の方が何倍もタチが悪い。頬を赤く染め上げて瞳を潤ませる彼女が恥ずかしがる姿を他の誰にも見てほしくないだなんて、今はまだ口に出せるはずも無いので心の奥に留めておくしかなくて。名前なんてむしろ不意打ちで呼ばれない事の方が珍しい…というより難しい。にこにこと爽やかな、しかしどこか悪戯っ子のような笑顔で彼女の心臓を鍛えるお手伝いをと。会話の内容こそお互いにしか分からない声量だが、どこか甘い雰囲気に少し離れた席のマダムがあらあらまあまあと微笑ましく思ってくれている事など自分はもちろん彼女も気付いていないだろう。「…今日初めて会ったときからずっと思ってるよ、───みき可愛いなって。」瞳も隠されて再び手のシャッターが掛かってしまった目の前の彼女に、ただひたすら優しく甘い声色で素直な気持ちを吐露して。こんなにも思ったことをぽろぽろと告げられるのは、きっとここが学校ではなくて自分と彼女も白衣と制服ではないから。非日常を感じるだけでここまで彼女に甘くなる自分にも驚きではあるのだが。 )
う゛…嬉しいけど心臓もたない…。
─── 、…慣れてもらうってことは、これからも呼んでくれるってこと…?
( 顔を見なくたってわかる、絶対に楽しそうににこにこしてる。彼限定のエスパーでありほぼ毎日一緒にいるみきにとって顔を見なくとも彼が今すこぶる楽しそうな顔で提案してくれているのなんて手に取るように分かるし、からかわれている…!と顔の熱は未だ引きそうになくふるふると顔を隠したまま首を振り。だがしかしぴた、と唐突に何かに気づいたらしく動きを止めては頬を赤らめ瞳が潤んだ状態ではあるのだけれど驚いたように目を丸くしながら顔を上げ、“慣れる必要があるということはこれからも呼ぶ機会があるという事なのでは”と名探偵の頭脳が働いたらしく。だって苗字呼びだったら突然の名前呼びに慣れる必要もないし、不意打ちで苗字を呼ばれてもただなあに?とお返事をするだけなのだから。どこか期待にそわそわと染まる夕陽色で彼を見つめては、どうなの?と問うように首を傾げ。もしかしたら顔を隠すのは早計だったかもしれない、視力をなくしたことによっていつもよりずっとずっと彼の声が甘く優しく聞こえるし、なんだかそわそわと落ち着かない気持ちになる。みきは彼の言葉にぴく、と反応してはいつもより数割増で甘々な本日の彼へ降参するように彼の手元に両手を添えては「 も、……もう、だめ、すとっぷ。 」と真っ赤な顔を小さく振りながら白旗を上げて。たしかに今日は彼に可愛いと思われたくて精一杯オシャレをしたのだけれど、いざ本人に真正面から(しかも名前呼びで)褒められてしまったら供給過多で死んでしまうとみきは周りの様子すら気にする余裕が無いほどいっぱいいっぱいで。 )
───、!
……まあ、気が向いたら………。
( 何とも初々しくて可愛らしい彼女の反応を楽しんでいれば、まさに先ほど自分が口にした言葉が無意識だったと気付かされた様子でぱち、と目を丸くさせて。もちろん生徒のことを名前で呼ぶのなんて別におかしなことでは無いのだが、呼んでも男子であったり同姓の子は苗字も入れてフルネームで呼んだりというのが自分の中で自然に出来上がっていた決まり(というには少しお固い気もするが)。しかし今回指摘を受けた事柄はまるで自分がこれからも彼女の側にいて、しかも自然と名前で呼ぶような関係性になる事を望んでいるかのような──。期待の色を隠すことなくこちらを見つめてくる夕陽色から視線を逸らすのは反撃に負けた証拠になるが、今回ばかりは上手く揚げ足を取られたといっても過言では無くぽそぽそと小さく声を出して。ついに降参の意を伝えられれば「残念、可愛かったのに。」と未だ楽しげに笑いながらも一旦は彼女に従う形に。自らの手に添えられた小さくて柔らかく温かい手を握り返そうとしたところで『──お待たせいたしました。』と店員の声が降ってきたことで結局手はそのまま動かせず。彼女を揶揄うのが楽しすぎて周りが見えていなかったことを少しだけ反省しつつ、運ばれてきたオムライスが机の上に並べられるのを見守って。 )
!
……ふふ、うん。気が向いたらみきって呼んでね。
( 普段女子生徒のことをあたり名前呼びしているイメージのない彼に唯一名前で呼んでもらえる、そんな些細な唯一でもみきは心が浮かんでしまいそうなくらい嬉しいし己の醜い独占欲だって満たされてしまう。逸らされてしまったダークブラウンは照れから来ているものだと分かっているから、反対にみきは愛おしそうな色で充ちた瞳でじっと彼を見つめては柔らかな声で名前呼びを強請って。今は限られた状況下だけで構わない、いつか名前呼びが当たり前になったらいいななんて未来に期待を抱きつつ。どうやらいっぱいいっぱいの状態でかけたストップ(ヘルプに近い)を聞き入れてくれたらしい彼は未だ楽しそうな笑みを崩さないままだがなんとか一旦は止まってくれて。それにほっと安堵していればいつの間にか店員さんが来ていたことにびく!と肩を跳ねさせて姿勢を正せば、見られてた…!恥ずかしい…!とドキドキうるさい心臓はいつの間にか机の上に並べられていくオムライスを見ているうちに「 ……おいしそう…! 」なんて意識は全てそちらに持っていかれてしまい。 )
ほんと美味そうだなぁ。
───んじゃ、いただきます。
( 気が向いたらなんて自分から言ったものの、逆に期待を込めてその台詞を使われてしまえば何だか途端に気恥ずかしくなってくる。彼女に対する自分の気持ちが少しだけ透けてしまったようで少しだけ居た堪れないが、お互いにどうにも出来ない壁があることを彼女も分かってくれているからこそ一定のライン以上は踏み込もうとしてこない辺りは正直助かる思いがあって。まだ見ぬいつかの未来にこんな特殊な場合だけでなく、何ともないいつも通りの日常でお互いの名前を気兼ねなく呼べる日が来ることを自分でも気付かないほど心の奥底で願って。出来立てほかほかのオムライスはふわトロ卵がきらきらと輝き、その上に掛けられた真っ赤なケチャップソース。彼女の方のデミグラスソースはさらにその上から生クリームをひと回し掛けられておりそちらも見た目だけですでに美味しさが伝わってきそうなほど。セットのドリンクをテーブルに置いたところで『ごゆっくりどうぞ。』と一礼してにこやかに下がっていく店員さんにこちらもぺこ、と頭を下げて。さっそくスプーンを入れてみればとろりと流れる卵とケチャップソース。中に入っているチキンもゴロリと存在感があり、一口頬張れば人気の理由が見た目だけでないと分かる絶妙な味加減に瞳を輝かせて。 )
いただきます!
( ふわふわきらきらと黄金色に輝く卵と濃厚なデミグラスの香りがなんとも食欲を唆るオムライス。サーブも終わり下がろうとする店員さんにありがとうございます、とこちらも一礼をすればいよいよお待ちかねのオムライスタイム。早速ひとくち頬張った彼の表情を見ればどんな味かは一目瞭然、オムライスと好きな人の組み合わせってすごく可愛いかも…なんて新たなkawaiiを発見してしまえば、みきも手を合わせた後に早速スプーンで一口オムライスを掬い。ふわりとまるでケーキのような感触で柔らかくスプーンが沈んでいく感覚ととろりと流れる卵はさすがプロとしか言いようがないクオリティで、そのままひと口頬張れば卵の甘みとケチャップライスの酸味になんとも上手に被さったデミグラスソースが絶妙なバランスでマッチしており、むぐむぐと咀嚼している口元に手を添えながら“美味しい…!”と街中のクリスマスの装飾に負けないほどにきらきらと瞳を輝かせて。これは絶対に彼にも食べて欲しい!と純粋な気持ちで早速もう一口スプーンでオムライスを掬っては「 デミグラスすっごく美味しいの!ね、ね、司くんも食べて! 」とそのままにこにこと手皿を添えつつ彼の方へスプーンを差し出して。 )
はは、そりゃ良かっ──、
………ありがたいけどさ、その後俺も同じようにお前にスプーン差し出すけど大丈夫そう?
( 彼女に食べたい物を聞いて良かった。こんなにもキラキラと輝いて美味しそうに食べる彼女が微笑ましくて、ただでさえ美味しいオムライスがそんな彼女を見ているだけで更に美味しく感じてしまうほど。自分のオムライスの二口目をスプーンに掬ったところで彼女からの声に目を向ければ、ご丁寧に自身のスプーンにデミグラスの掛かったオムライスを掬って差し出している様子に咄嗟に反応できず。彼女のことだから本当に美味しいものを共有したいと純粋な気持ちからの行動なのだろうが、このままそれを甘んじて受け入れれば後に自分のした事に気付いてせっかく落ち着いた顔の赤みが復活するのは目に見えているのだが。少し考えればにやりと含みのある笑みを浮かべ、ケチャップソースの掛かったオムライスが一口分乗った状態のスプーンを今まさに彼女が取っている行動と同じように差し出してみせて。 )
!─── …だ、大丈夫だもん。
( 彼に食べて欲しいの気持ちが先走ってしまった結果、いつものように彼に指摘されてから関節キスになってしまうことに漸く気がついては瞳をまん丸にして頬に朱を散らし。だがしかし今回のみきはそれに怖気付いてしまうことなく( 顔は真っ赤なのだけれど )ふる、と首を振ってはそのまま“食べて?”と言うように一度引っ込みかけたスプーンをまた彼に差し出して。本当は全然心臓のドキドキが大丈夫ではないし、このあと本当に彼に差し出されたままだったらオムライスの味を味わうどころではなくなってしまうのだけれど今日はなんだか彼に負けっぱなしなので少しは反撃をしてみようとその瞳はちょっぴり挑戦的。元はと言えばただただ美味しかったオムライスを彼にも食べて欲しかったという純粋な好意だったのだけれど、こう意識をしてしまった後なら“あなたとなら関節キスをしても私は構いません”と言っているようで何だか恥ずかしくて。 )
!………へえ。
──じゃあ遠慮なく。
( こうして指摘さえすれば自分のした事に気付いて慌てて手を引っ込めるはず、いつもなら。しかし今日の彼女はいやに挑戦的で、顔こそ赤く染まったものの一向に差し出したスプーンを引っ込めようとする様子がなく。そんな彼女に面を食らったようにきょとんとしたものの、ここまで腹を括っている彼女に対して"いやそれはやっぱり出来ない"なんて言うのも何だか憚られて。…もちろん相手が誰でも、という訳ではなく彼女だからこそ自分にもこうして挑戦に乗るという選択肢が生まれたわけなのだが。自分から意識するのを促すような事を言ってしまったので、強行されたうえにそれに応えるということはまさに"あなたとなら間接キスをしても構いません"とこちらも言っているようなもの。唇がスプーンに触れる直前に一瞬躊躇はしたものの、そのままぱくりと差し出されたオムライスを口に含み。ほんの少しのドキドキと背徳感はデミグラスの深みのある味わいに溶けて、「……ん、美味っ。さすが1番人気だな。」と瞳を輝かせ。結果的には間接キスでも、彼女がこうして美味しいと思った物を自分にも分けてくれようとする純粋な気持ちが素直に嬉しくて。 )
っ、…。
( 自分からいいよと言ったのにいざ目の前で彼に食べてもらうところを見るのは何だかとても恥ずかしくて、食べてもらったらその感触で何となくわかるだろうと思わず視線は目の前の彼から机の上のオムライスへ移してしまい。だって意識したら彼の唇だけ見てしまうし、今でさえドキドキしている心臓がもっとうるさく跳ねてしまうだろうから。心の中であれこれごちゃごちゃと考えているうちにどうやら彼はオムライスを食べてくれたようで、きらきらと綺麗なダークブラウンを輝かせる彼にほっと安心したように微笑んで。「 生クリームがね、デミグラスソースの酸味をやわらげてくれててオムライスとすごく会うようになってるの。美味しいよね。 」と彼が自分と同じ食べ物に同じ感想を持ってくれたことがとても嬉しくて、まだ少し頬は桃色に火照ったままながらにこにことはにかみながら自分なりの感想を返して。関節キスはもちろん照れてしまうし恥ずかしいけれど、美味しそうにオムライスを食べる彼のきらきら瞳を輝かせる様子はどこか庇護欲のような暖かなものを感じてみきは愛おしそうに瞳を緩め。 )
うん、確かに。
…こういう料理にかかってる生クリームってただの見栄えかと思ってたんだけど、ちゃんと意味あったんだな。
( もぐもぐと咀嚼すれば色々な具材を長時間煮込んで煮詰めて作られたデミグラスソースが口いっぱいに広がり、1番人気の看板を任されるのも納得だと頷いて。余りにも料理に精通していなさすぎる感想が零れたことには自分でも自嘲気味な笑いを漏らしそうになるが、普段料理なんてしないタイプの独身男性なのでそこは多めに見てほしい。酒のツマミになるものは言わずもがなだが、こういうオムライスやハンバーグといった子供が好きそうな料理は大人だってもちろん大好きなもので。口の中から無くなってしまうのが惜しく思ってしまうほど美味しいオムライスをごくんと飲み込めば、「───ん。次は御影の番。」と悪戯っ子のような笑みを携えながら、差し出したままだった自分のスプーンをもう少しだけ彼女の口元に近づけてみせて。 )
ふふふ!
もちろん見栄えのためにかかってるソースもあるけどね。そういうのは具材よりもお皿の縁とかにかかってることが多いかも。
( 普段料理をする自分とは対称的な彼の感想に思わずくすくすと楽しそうに笑ってしまうけれど、そんなところも可愛いだなんて思ってしまうあたりなかなかに恋は盲目なのかもしれない。だが残念ながらこれからも彼は自分が作った料理を食べてもらう予定なので彼自身が料理をする機会には恵まれないかも、だなんて考えはみきの心の中でひっそりと呟かれてはまたみきは頬を緩ませて。そんなことを考えているうちにどうやら先程の彼の言葉は本気だったらしく自身の目の前には間違いなく彼が先程口に運んでいたスプーンが差し出されており。目の前のいたずらっ子のような笑顔は明らかにこちらをからかっているのだけれど、言わずもがな彼との関節キスはむしろみきにとって嬉しいしラッキーだし食べたかったケチャッププソースのオムライスが差し出されているのだからみきにとってはいい事尽くし。ただ恥ずかしいというだけで。ぱっと先程よりも顔が熱くなる感覚がしては、誰も見てないかな…ときょろきょろと当たりを見回した後に意を決したように小さく頷けば「 ─── ん。 」と視線は彼を見あげたまま、左手で顔周りの後れ毛を右耳にかけながら恥ずかしそうに口を開いてそのままオムライスをひと口。そのまま両手で口元を隠しながらむぐむぐと咀嚼するも正直心臓が破裂しそうな今は味がほぼほぼ分からなくて、「 っ、…お、おいしい… 」と彼からの視線を遮るようにふい、とそっぽを向いてしまい。 )
あーなるほど、
それこそ高級レストランとかで出されるやつのイメージだ。
( 呆れられてしまいそうなほど料理に関しては雑なイメージと愚直な感想しか出てこないが、何だか彼女が楽しそうなのでまあ良しとしよう(揶揄われているような感じはしないので)。これを機に少しは料理というものに目を向けてみるか…なんて、彼女が今まさに正反対のことを考えていることなど知る由もなく。そしていつかの未来ではどちらかと言えば彼女の考えていることにすんなりと当てはまってしてしまうのも今はまだ知らない話で。自分のときよりも余程周りを警戒しているように見える彼女が漸く食べる素振りを見せてくれて。しかし髪を耳にかける仕草や少しだけ上目遣いにも見える視線はどこか色っぽく、そんな彼女が自分の使っていたスプーンに口を付けるのを見ていると一度だけ胸がどき、と高鳴って。とはいえ彼女と同じように美味しい物を共有出来たことにホッとしては、「だよな。トマトの酸味がちょうど良くて美味いんだよこっちも。」と頷きながらも何だかぎこちない味の感想と逸らされた顔には可笑しそうな笑みが零れ。 )
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