女子生徒 2024-04-30 23:32:52 |
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っ、……そっか。
( きっと彼女は意図せずだろうが、そうして素直に吐き出された気持ちの方が存外カウンターとしては攻撃力が高かったりするもの。少し赤らんだ頬やいつもと違う服装も相まって、例に漏れず自分も彼女の言葉にどきりと胸が鳴ってしまえば何とか一言だけ返すのが精一杯で。ようやく合った視線と柔らかく笑う彼女が可愛くて、正直その辺を歩いている他人にすら見せるのが勿体無いと思ってしまう。先ほどから自分の視界の中にはちらちらと彼女を通りすがりに見ていく人が何人か映ったりしているのだが、そうやって視線を向けたくなる気持ちが分かると同時にやはり少しだけ独占欲のようなものも湧いてきてしまいそうで。「…とりあえず昼飯にはさすがに早いし先に用事済ませようと思うんだけど、いい?」と、本日のお出かけの名目である自分の欲しい物の買い出しを先に終わらせてしまおうと彼女に問いかけて。 )
ん!
……ね、ね、今日は何お買い物するの?
( 本日の名目である“お買い物”、そういえば何を買うのか聞いてなかったことに気がつけば彼の問いにこくんと深く頷いたあとにそのまま続けて質問を。ふぐ太郎たちのごはんかなぁ、とやっぱり彼と言えば生物準備室にいる小さな友人たちのことを思い出しては不思議そうに首を傾げるも、言い訳にするにしては“一人で十分”とバッサリ切られてしまいそうなのも事実でやっぱり本日の買い物予定のものは特に浮かばずに。やはりクリスマスが近いだけあって家族連れの次に多いのはカップルばかり、もしかしたら自分たちもその中のひとつに見えていたらいいのになぁなんて思ってしまうのは図々しいとは理解しているけれど仕方の無いこと。ブーツのヒールでいつもよりちょっぴり彼の問いにお顔を見つめやすいのが嬉しくて、みきはちらりと彼を盗み見てはまたこっそりと頬を綻ばせて。 )
あー、…完全に私物なんだけどな。
ほら、俺の部屋にあるソファ。あれだいぶ使ってるしそろそろ買い替えようかなって思ってたんだよ。
( 家族連れの小さな子供がそこかしこに置かれたクリスマスの飾りやサンタに喜んでいる微笑ましい様子や、腕を組んで幸せそうに歩くカップルたちを横目に歩く教師と生徒は、今日ばかりはその関係性に見えないのではないだろうか。あわよくばカップル…とはいえ実際、良くても兄妹が関の山かもしれないが。彼女の質問にそういえば伝えてなかったと気付けば、口にしたのは仕事とは関係のない完全な私用の物。彼女は自分の家に何があるか知っているし、実際に使ったことのあるソファのことを指せばすぐに思い浮かぶだろう。まだ見た目は綺麗とはいえ自分が今の学校に赴任されたのと同じ時期に買ったものなので、年季でいえばそれなりにはなっていて。「前からちょっとバネが怪しくなってきたなーって思っててさ。せっかく御影に付き合ってもらうんだから、お前のセンスに任せて選んでもらおうかなって。」と、彼女をちらりと見やってにやり。もちろんお買い上げ後は後日配送してもらうので荷物的にも何の問題も無い。 )
ソファー…、
み、みきでいいの……?!
( あまりに予想外の買い物に思わずぽかん、と間抜け面で彼の言葉を復唱してしまえば、彼が毎日使うようなもの(しかもそんなにぽんぽん買えるような値段のものではない)を自分が選んでいいのかと驚き半分照れ半分といったように頬に淡く朱を散らしながら思わず問いかけて。確かに彼の家に実際に行ったことがあるのでインテリアもわかるしどういうソファが合うかというのも大体想像はつくのけれど、それでも責任重大であるためにちょっぴり胸がそわそわしてしまう。だって2人で家具を見に行くだなんて本当にカップルみたいだし店員さんとかに間違えられちゃうかもだし、けれど自分がチョイスしたものを彼がこれから毎日使うんだと想像したらみきのおっきな独占欲も満たされてしまうような気がするのもまた事実。なんだかくすぐったい気持ちになりながらもぐっ!と気合いを表すべく拳を握れば「 一生懸命選ばなきゃ…! 」と改めて気合いを入れ直してはこくりと深く頷いて。 )
それが今日のお前の使命だからな、
頼んだぞー。
( 狼狽えながらもどこか喜んでいるようにも伺える彼女が可愛くて面白くて、そんな様子を楽しげに見ながら本日の彼女は我が家(といってもとりあえずはソファだけなのだが)のインテリアコーディネーターに大抜擢。そんな彼女の心中まではさすがに察せないが、嫌がっている素振りがないことに少しだけホッとしたのは内緒。薄らと頬を赤らめながらもやる気を見せる彼女が何だか可笑しく、「いやさすがにそんな気合い入れるようなことじゃないだろ。」とくすくす笑いを零し。…さて目的が明確となれば早いところ向かってしまおうと大手の家具屋へ向けて歩き出して。 )
だってせんせーが毎日見るものでしょ?
毎日それを見る度にみきを思い出しちゃうくらい素敵なソファ選ぶの!
( 早速家具屋へと歩き出した彼に倣うようにみきもゆったり歩き出せば、ただ立っていただけの時とはまた違う寒さにぶる。と一度身震い。それからへらへらと柔らかく笑えば自信がどうしてこんなにも彼のソファ選びにやる気になっているかをさらりと応えてはやる気を示すべくにこ!と満点の笑顔を浮かべて。クリスマス間近の街並みはどこを見てもキラキラと素敵に輝いており、もうさすがにサンタさんを信じていないみきですらとわくわくそわそわしてしまうのだから幼い子供たちは全てが楽しみで仕方がないのだろう。両親に買ってもらったのだろうプレゼントを小さな手いっぱいに抱えてにこにこぺかぺか歩く子供を微笑ましく見つめてはその視線に気付いた子どもがちいちゃな手でばいばいと振ってくれた手に「 ばいばーい 」と人懐っこい笑顔を浮かべて同じように手を振り返しては癒された!と言わんばかりに頬を弛め。 )
なーんか選ぶときに変な念でも込められそうな気がしてきた…、
人選間違えたかな俺。
( 小さく身震いをした彼女に気付いたものの、生憎マフラーや手袋といったものは着けていないし自身のコートを差し出せばきっと今度は自分の方が耐えられなくて身震いが止まらなくなるだろう。とはいえただでさえクリスマスで人通りが多いうえに明るいところで、何も無いとはいえ教師と教え子が手を繋いで歩くなんていつどこで誰に会うかも分からない状況ではあまりに綱渡りが過ぎる。少し悩んだ結果、少し歩く速度を緩めて彼女との距離を少しでも近くしたうえで少しでも風除けになればとイマイチ格好のつかない行動に出るのが精一杯で。彼女のやる気に溢れた宣誓を聞けば溜息混じりに笑いながらも、そもそも他に人を選ぶという選択肢は存在していないのだが。いつの間にやら小さな子供とやり取りを交わしていた彼女に気付けば微笑ましそうに笑みを浮かべ、「子供はいいなぁ。大人になると無条件にプレゼントが貰えなくなるどころか配る側にまわんなきゃいけなくなるし。」と何とも夢のない悲しい大人の現実を切り取った一言を零して。──ちなみに彼女に遅れて自分もこっそり手を振ってみたが、残念ながらぷいと顔を逸らされてしまって少しだけショックを受けているのは彼女に気付かれていないことを祈る──。 )
し、失礼なー!
変な念じゃなくて純粋な愛情ですー!
( 少し歩くスピードを落としてくれた彼に“歩くの遅かったかな?“と残念ながら彼の真意は伝わっていないのだけれど、歩くスピード合わせてくれて優しいなぁと結果的に彼の好感度はまたさらに上がり。あとはちょっと距離が近くなって嬉しいな、と思ったり。だがしかし彼の言葉にむ。と唇を尖らせては反論になっているんだかいないんだかの言葉を返しては不満げに頬を膨らませて。好きな人の私物を選ぶ、だなんて滅多にない機会だしその本人から直接指名を受けたのであれば殊更張り切ってしまうのは当然のこと。あとは生徒と教師という垣根が無くなった時にソファどう?なんていった名目でおうちに遊びに行けたらいいななんて下心も正直ちょっぴりあるのだけれど。きらきら未来のあるちびっ子との癒される一幕に心がぽかぽかと暖かくなっていた中になんとも現実的な言葉が降ってくれば、相変わらずな彼にもう!と呆れたように笑いながら「 せんせーも良い子にしてたらプレゼントもらえるかもよ? 」と悪戯っぽく首を傾げて。幸か不幸か、子どもって可愛いなぁと其方に夢中だった為か彼が見事子どもにスルーされたところは見ていなかったのだけれどきっとそんな所もみきとしては可愛いポイントに加算されるのだろう。 )
はは、純粋って。
お前のことだからまあ変な念は無いにしても、ちょっとした下心くらいなら入れてきそうだなって思ってたんだけどな。
( 自分自身が寒さに滅法弱いのは自覚しているため、彼女との距離が縮まることでほんの僅かでも空気の冷たさが和らぐのであれば一石二鳥。結果的に手を繋ぐには近すぎるが、腕を組むにはまだ少しだけ遠いような絶妙な距離感の出来上がり。もちろん真っ昼間の人通りが多いところではそのどちらも出来かねるのだが。可愛らしく頬を膨らませて恥ずかしげもなく言い切る彼女に笑いながら、その心の奥の計画(?)を知らないにしても冗談めいた言葉は偶然にも当たらずとも遠からずといったもの。もちろん本人にその自覚は無く、ある意味これは彼女限定のエスパーといったところだろうか。相変わらずこうしてたまにお姉さんムーブを見せてくる彼女に苦笑いしながら「毎日頑張ってる"良い子"な大人にはプレゼントひとつやふたつじゃ物足りないよな……サンタにはちゃんと見合った報酬を求めるぞ俺は。」と、内容こそ冗談満載だが声色は敢えて真剣に。もっともこの場合のサンタは赤い服と白い髭のおじいさんでは無くもっと現実めいた相手が対象なのだが。 )
う゛。
……………………別になんにもないもん。
( まさにたった今考えていたことをすばり当てられてしまえばぎく、と分かりやすく表情を固まらせながら静かに視線を逸らしては嘘と言うにはあまりにもお粗末な演技で言葉をぼそり。そりゃあ女の子だって好きな人に対してなら下心だって持ってしまうし仕方ないじゃん、と若干責任転嫁をしつつも少し恥ずかしそうにちらりと彼を一度見たあとにまたその夕日はすぐにふい!と逸らされて。ちゃんと見合った報酬、と言葉の冗談さに比べてその声色はなかなか真剣なものでみきは思わず瞳を丸くして。毎日頑張ってるいい大人に送る、ちゃんと見合った報酬。彼に比べたらまだまだ子供なみきにとってその報酬内容というのは簡単には思い浮かばずにゆっくりと首を傾げては「 こ、高校生の財力でも買えるもの……?例えば……? 」と“あくまで自分が買う訳では無いけれど興味本位で聞いています”といったテイストを崩すことなく例えばどんなものかと彼に問いかけてみて。…最も、それが自分があげられるものならば後ほどこっそり買おうと思っているのは内緒(だと思っている)のだけれど。 )
…へえ~~~~?
……俺も大概だけど、お前も結構分かりやすいよな。
( ほんの一瞬こちらを見たかと思えばすぐに合わなくなった目線を追いかけるように、首を傾げて覗き込みながらにやにやと悪戯っぽい笑みを浮かべて。自分の演技に難ありなのは分かっているうえで同じような彼女の演技を意地悪く指摘して。彼女がどんな下心を隠しているのかまではさすがに分からないにしても、純粋な愛情というのもきっと本音なのだろうがやはりそれだけでは無かったのだと分かれば可笑しくて抑えきれていない笑いが零れ。"例えば"と問いながらも"高校生の財力で"なんて言ってくるあたり、何となく彼女が企んでいることが分かるような気がする。きょとんと一拍、後にくすくすと笑いながら「財力は関係無いけどお前にしか出来ないプレゼントもあるぞ。例えば満点のテストとか。」と態とらしく意地の悪い言い方をするも、実際に教え子の成績が良くなるのは教師にとって素敵なプレゼントといっても過言では無いので決して嘘ではなく。 )
っ~…もう!
……だって仕方ないじゃん、……好きな人のおうちに遊びに行く言い訳にならないかなって、思っちゃったの。
( 其方を見なくてもわかる、明らかににやにやと楽しそうな声色にお手上げと言うようにぱっと頬に朱を散らしては彼の方へ羞恥に潤んだ夕陽色を向けつつ正直に考えていたことを答えて。ホントは言い訳やらキッカケがなくても遊びに行ける関係になれるのが望ましいのだけれど、今はそもそも緊急時でない限りは無理だろうし卒業しても自分の頑張り次第でないとそれは叶わないので少しでも保険をかけておくに越したことはないらしく。どうやら精一杯に装った興味本位ですというテイストはどうやらすぐにバレてしまったようで、くすくすと笑う彼からの回答は“満点のテスト”とのこと。ぽかん…驚いたように間抜け面を浮かべたあとにすぐ唇をとがらせては「 そんな点数取れたら最初から取ってるもーん。今60点取れてるのが奇跡なんだから。 」と不満げに彼のチョイスに苦言を呈し。確かに自分にしかできないプレゼントで、高校生にでもできて、彼が喜ぶプレゼントであることには変わりないのだけれど残念ながらそこそこ遠い夢であることもまた事実で。 )
…なるほどね。
ほんと強かだよなお前…。
( うるうると輝く夕陽色が下心を露わにさせられた恥ずかしさを物語っているが、そんな姿すらも可愛いと思ってしまう自分は結構末期なのかもしれない。買い出しに付き合わせることは先に言っていたものの何を買うか、そしてそれを彼女に選んでもらうと伝えたのはまさについさっきなのだが、それをすぐさま自分のチャンスに繋げようとするちゃっかりとした強かさはある意味素直に尊敬できる。呆れたような台詞とは反対に柔らかい視線を彼女に向けながら優しく微笑んで。…とはいえさすがにいち生徒に対して『いつでも家に来たらいい』なんて言えるわけはないので、思ってはいてもそれを口にはできないのだが。きっと彼女が欲しかった回答では無かったのだろう(わざとではあるが)、艶のある唇をつんと尖らせてまたもや不満を零す彼女の様子に「向上心があるんだか無いんだか……。」と小さく苦笑を。まあこうして"ご褒美"の時間が取れているだけ彼女の頑張りはしっかり伝わっていることに違いはないのだが。──そんな会話もそこそこに辿り着いた目的地は、こちらもクリスマスの飾りに彩られているだけではなくちょっとしたツリーや飾りをお勧め商品として販売しているよう。やはりそういったコーナーには家族連れやカップルが集中しており、私服だから周りからは分からないだろうとはいえ生徒を伴って入ることに何だか少しだけ背徳感を覚える気すらしてしまいそうで。 )
ほ、褒めてるのそれ……。
( 声色こそ優しくて愛おしさの滲む温かいものではあるけれどあまり褒め言葉とは言えないその言葉にグロスの塗られたさくらんぼ色の唇はつん、と尖ったままで。だが紛れもなく強かであるという部分については間違いでは無いので否定はできないしするつもりもあんまり無いのだけれど。自分よりも余程自分を理解してくれている彼がそう言っているのだからきっとそうなのだろう。暫くして辿り着いた目的地には大きなクリスマスツリーからこじんまりとした可愛らしいツリーや置物など正にクリスマス商品を前面に押し出しておりキラキラ色とりどりに輝いておりそれに伴いみきの瞳もきらきらと輝いて。「 見て見て!あんなにおっきなツリーも売ってるよせんせー、…じゃなくて、えと、…えーっと……司、くん…? 」自分の身長の倍はあるだろう、売り物とは思えないほどに立派なクリスマスツリーを見つけてはついいつもの癖で彼の服の裾をくい、と引っ張りながら見て見てと強請り─── かけたところで、そういえばあんまりお外でせんせーって呼ばない方が良いのか…?と相変わらず妙なところで気遣いが発揮されればちょっぴり悩んだ後に彼の方を振り返りながらこてりと首を傾げて名前を呼んで。いつも“せんせー”と呼んでいるせいで初めての名前呼びは何だか妙にそわそわと照れてしまいその頬はうっすら薄紅色に染まって。 )
褒めてる褒めてる。
お前にはそのままで居てほしいと思ってるよ。
( 楽しそうに笑いながらも口にする言葉に嘘は無くて。いつかの田中えまのように裏のある強かさもひとつの強みに違いはないが、自分の気持ちに正直で真っ直ぐな彼女の強さはまた違って美しく見える。例えその原動力が恋する乙女の下心だとしてもそれこそ彼女らしさだし、口にはしないがそういった部分に惹かれている自分を否定する気もなく。目的はソファひとつなのだが、こうもあちらこちらがキラキラと輝いていると子供や大人関係無く目移りはしてしまうもの。彼女の言葉にそちらに視線を向けるも、大きなツリーが目に映ったのはほんの一瞬。その次に耳馴染みのある声から出た聞き慣れない単語にすぐさまダークブラウンの瞳は丸く見開かれて彼女を映し。「───っな、…!?……~~~、お前…っ………今のは反則だろ…。」それはあまりにも突然の不意打ち。薄く朱を散らした頬でこちらに顔を向ける彼女を直視することが出来ず、思わず顔を逸らしては三十路の脆い心臓()が早鐘を打つのを抑えようと胸に手を当てて。 )
……なら、いっか!
( 暫くはむむむ、と唇を尖らせていたものの彼の言葉に嘘偽りがないのは声色を聞いて顔を見ればすぐに分かること。みきは安心したようにへにゃ、と微笑んでは目の前の彼がそう言ってくれるのであれば良いのだとすっかり不満気な様子はどこかへ吹き飛んでしまい。どうやら気遣いとして投げかけた言葉は彼に何かしらのダメージを追わせてしまったらしく、驚いたように綺麗なダークブラウンを見開いたかと思えばそのまま視線を逸らして心臓を抑えるような仕草をした彼に今度は此方が驚いたように瞳を丸くしては「 え!?だ、だってお外だし名前で呼んだ方がいいかなって思って…!ごめんね、嫌だった…!? 」と慌てて心配そうに彼を覗き込んでは不安そうに眉を下げて。個人的には本当にデートをしているカップルみたいでちょっぴり彼の名前を呼べたことは幸せだったのだけれど、もしも彼がそれで嫌な思いをしていたら嫌だなぁという風にまさか彼がそれ以外の感情で困っているとは微塵たりとも思っていないお顔で。 )
……、あー…別に、嫌とかじゃ…ない……。
( 良くも悪くも単純な彼女から不満げな様子は綺麗さっぱり無くなり、いつもの柔らかい微笑みにホッとしたのも束の間。まさかの名前呼びという意識外からの不意打ちに悶えていれば、今度はまったくの斜め上な心配を見せてくる彼女に小さく溜息を吐いて。確かに彼女の言うことには一理あって、それゆえの気遣いは素晴らしいとは思う。…が、いかんせん破壊力が強すぎて少々ダメージを受けてしまったのは致し方無し。もちろん彼女が心配するような嫌な感情などあるはずもなく、不安そうな彼女を安心させるべくそれに関してはきちんと否定を。少しして漸く落ち着けば、「…と、とりあえずソファ探すぞ…。」と店内を奥へと歩みを進めて。もちろん名前呼びに関しては咎めることなどせず。 )
?
……ならいいんだけど…。
( 未だに合わない視線には疑問は残るものの、どうやら嫌だとかそういったマイナスな感情ではないらしいことがわかると取り敢えずみきは分かりやすくほっと安堵の表情を浮かべて。ならばどうしてこんな反応なのだろう…と名探偵は顎に手を添えつつ店内の奥の方へと歩みを進める彼の数歩遅れて後ろを歩くこと暫く。─── …もしかして、照れている? !まさにピシャリと雷が落ちたような衝撃と共に名探偵は真相へとたどり着いたようで、みきはにこ!!と今日一番の笑顔を浮かべてパタパタと彼の真横まで駆け寄れば「 じゃあ今日一日お名前で呼んでいいってこと?司くん。 」とちょっぴり彼の耳元に唇を寄せながらふわふわご機嫌な声色で敢えて名前呼びをしながらそんなことをこそこそ問いかけて。だって外で“せんせー”って呼んだらみんなビックリしちゃうもんね?名前呼びなら兄妹かなって誤魔化せるもんね、そんな言い訳を並べたいたずらっぽい夕陽で彼を覗き込んではその表情は楽しそうに綻んで。 )
───!
( 大人しく少し後ろをついてくる彼女に意識を向けつつも、目線は目的の物を見つけるべく店内の案内板やらディスプレイされている家具やらを見ながら足を進めて。まさか後ろでこういう時ばかり能力を発揮する名探偵がまさにひとつの謎を解き明かしたことなどつゆ知らず、隣に駆け寄ってきた彼女が何かを言いそうだったので反射的にそちらへと体を傾けて。そうして掛けられた言葉は何とも楽しそうな声色と表情に彩られた自分の名前。思わず再びぱちくりと彼女を見たものの、さすがに二度目となれば初回の不意打ちよりは耐えることも出来る。悪戯に輝く彼女の瞳が言いたい事がこちらへの気遣いなのも分かってはいるが少しだけ悔しくて、「…いいよ。せっかくみきが気遣ってくれてんだもんな?」とその夕陽色をしっかりと見つめ返してはにっこり笑顔を携えながら小首を傾げて。 )
、……!!!???
( にこにこ、にやにや。今のみきの表情を表すとしたらそんなに擬音がピッタリで。普段あんまり見ることの出来ない想い人ノレアな姿をこの目に収めておこうと彼を見つめていたのだけれど、ようやく目線の合った彼は照れている様子もなく此方を真っ直ぐ見つめるダークブラウンは少しイタズラじみた色が滲んでいて。彼から返ってきた言葉に3秒ほどシンキングタイムがあったあとに漸く彼に反撃されたのだと理解をすれば先程までのにこにこにやにやした表情から一転、大きな夕陽をまん丸にしながら頬を真っ赤に染めて言葉をなくしてしまい。確かに自分の言い訳を使うのであれば彼がこちらを苗字で呼ぶのも随分とおかしな話になってしまうので彼の対応は大正解なのだけれど、突然好きな人からの名前呼びに混乱しているみきはそれに気づくことはもちろんできずに「 ぁ、……う、……。 」とただただパクパクと言葉にならない声を漏らすことしか出来ずに今度はみきが彼から視線を逸らしてしまい。 )
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