女子生徒 2024-04-30 23:32:52 |
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──はいはい、
写真撮ったら2-Bに行けよお前ら、今の俺は2-Bの宣伝部長だからなー。
( 過去付き合ってきた相手にここまで嫉妬や独占欲のようなものをハッキリと示した記憶が無い分、どうしようもないくらい彼女に惹かれ始めているという現実を認識せざるを得なくて。とはいえ今はまだお互いの立場上どうしても進める限界があるので、そんな現状にひとり小さく溜息を吐きつつ他愛の無い話を彼女としながら歩いていれば、案の定あっさりと人だかりが出来てしまい。コンテストのおかげで一躍時の人のような扱いになってしまっているのは仕方がないとして、とりあえず写真を撮られればその代償にきちんと宣伝活動をこなして。『うちらのクラスの宣伝もしてよー!』『別の衣装用意しとくねー(笑)』なんて声も聞こえるが、「俺が宣伝するのは相棒の特権ありきだから無理でーす。」と、隣で別の対応をしている彼女(もちろんその胸中は分からないが)の肩に手を回してはくい、と自分の方へ引き寄せて。コンテストの優勝者が2人揃って歩いている、というのが宣伝効果として抜群なのは言わずもがななので。 )
『 御影せんぱい、いいなぁ。先生とお揃いですね! 』
えへへ。いいでしょ、せんせーとお揃いにしてもらったの!
( 彼の方をちらちらと気にしつつ知らない後輩とお話したり写真を撮るのはちょっぴり緊張するけれど、やっぱり彼とお揃いのチャイナ服に言及されてしまえばふにゃふにゃとその笑顔は嬉しそうで。そのまま後輩にチャイナ服を見せようと一回転 ─── しようとしたところはなんとか踏み止まり。今日のみきは派手に動かないお淑やかさんなので。そんなこんなで周囲の生徒たちと会話をしていればふと彼の手が方に回り、完全に油断をしていた上にもちろん相手が彼なのでそのまま彼に引き寄せられれば周囲からちょっぴり歓声が。きょとん…!と何が起こっているか分からない顔で瞬きを数回した後にパッと頬に朱を散らしては“い、いっぱい人いるのにいいのかな…!”とあわあわ混乱したあとに「 せ、せんせー専門の相棒です(?)!! 」とみき自身あんまり言葉の意味をよくわかっていないのだけれど取り敢えずは相棒アピールを。本当は相棒じゃない存在として誰かに紹介して貰えるようになれたらいいのに、なんてわがままは(彼にはバレているだろうけれど)胸の奥にこっそりしまい。 )
『昨日のミスコン見ましたぁっ!御影先輩かわいすぎてめっちゃファンですっ!』『先生との絡みやばかったですー!』『優勝した次の日にお揃いコスとかみき最高じゃーん!』『御影ちゃん、先生に飽きたらいつでも俺らのとこおいでー!』
( 1年生から3年生まで、歩けば歩くほど人に囲まれて絡まれる彼女の人気っぷりに純粋に感心しつつも危うく回りそうになった彼女が目に入り。何とか思い出したように踏み止まった彼女が可笑しくてくすくすと笑いながら、引き寄せたのはその後すぐ。つい動きそうになっていた彼女を抑えるためとあとはちょっとした虫除けのため。コンテストで見せた"禁断の愛ロールプレイ"の余韻がまだ残っている生徒たちからはまるで少女漫画を見るような目できゃっきゃと騒がれ、続く彼女の少し謎めいた宣言には男子たちから『専門!?先生ずりー!』とブーイングが多少なりとも飛んできたりと大変賑やかで。薄らと頬を染めた彼女が何を考えているかなんてあまりにも簡単な問題には笑いながらも敢えて何も言及せず。──こうして人前で彼女を紹介する際に別の言葉が使われるのはそう遠くない未来の話。 )
わ、わ……ありがとう…!!
でもみきはせんせーに飽きないから大丈夫…!
( 様々な賛辞の声にぽやぽやと頬を染めながらも拒否するべきところはちゃっかりやんわり拒否をするあたりちゃっかりしていると言うかなんというか。けれど嘘でもなんでもなく言葉通り彼に飽きるなんてことはないだろうし、彼以外の人のところに行く自分がそもそも想像できないのでその瞳は嘘偽りのないしっかりとした色で。専門の相棒、は無事に(?)彼から訂正されることはなかった為に無事に周囲に浸透していそうでざわざわと賑やかな周囲に思わずくすくすと笑ってしまい。だがしかしハッと思い出したかのように「 せ、せんせーもみき専門の相棒だから…!! 」 と彼の服の袖をキュ、と握りながら自分が彼の、ではなく彼も自分の専門なのだと付け足して。だってそうでも言わないとまためそめそ泣きながら薬指に頼らなければならなくなってしまうので、周囲への牽制はとても大切である。……えまちゃんへの対応はちょっぴり考えなければいけないのだろうけれど。 )
、……はは。いつの間にか俺も専門になってたんだ?
( あまりにも一途で真っ直ぐ、そして真剣さしかない瞳を見ればその言葉の信憑性も増すというもの。さらにはわざわざ相手を専門と言っておく様が可愛らしかったのか、周りからは囃し立てるような声やずるい!という声(こちらは主に男子)など多種多様な反応を頂き場は盛り上がり。しかし宣伝隊としてはいつまでもここで足止めを食らっているわけにもいかず、ついでに言えば慣れてきたとはいえ自分も出来るだけ元の服に着替えたいのは事実。「───ほらもう写真終わり、通行の邪魔でーす。さっさと宣伝して戻りたいんだよ俺は。」と、彼女が通りやすいようにまず自分が率先して人の波をかき分けて。一応は宣伝ということでぐるっと校内を一回りする予定ではあるのだが、その進路にはもちろん1年生の教室もあるわけで。だが何だかんだと楽しく賑やかな雰囲気に流されてそんな懸念など頭に残っているはずもなく。 )
じゃあ、他のとこでも宣伝してきまーす。
いっぱい褒めてくれてありがとう、2-B来てね!
( 宣伝隊はいつまでも同じ場所で立ち止まっている訳には行かないのでそろそろ移動の時間。彼が人の波をかき分けてくれたおかげで無事に自分も人混みに埋もれることがなく脱出ができ、くるりと振り返ればそのままひらひら手を振ってしっかりと宣伝を。これをしなければクラスメイトに宣伝に任された意味がなくなってしまうので、みきにとってはデートのついでの宣伝だけれども仕事はしっかりこなして。いっぱい褒められちゃった、とにこにこほくほくしながら彼に並んで廊下を歩いていれば、鏡に映る自分たちの姿でさえ今のみきにとっては心がふわふわとときめく材料のひとつ。大好きな人とお揃いの服を着て並んで文化祭(後夜祭)デートをしているだなんて、1年前の自分からは考えられなかった進歩だと機嫌よくニコニコ笑っては「 ね、せんせー。文化祭デートたのしいねぇ。 」と隣にいる彼を見上げてこっそり囁いて。本当は手を繋いで歩きたいのだけれど、でもそんなことはテストで100点をとっても“今は”叶わないだろう。それにそんなことを言っても彼を困らせてしまうだけだと分かっている物分りの良いみきはただ隣に並んで歩けているだけでも幸せなのだと未来に期待を抱いて今は我慢し。 )
宣伝ついでの散歩な。
…って言いたいけど。ま、今日はそういう事にしといてやるか。
( 彼女のお誘いにはーい!と元気な声が返ってくるのを背に再び昨日とはまた違う装いで賑わう廊下を歩き出して。足を止めないため再び囲まれることは無いとはいえ、歩く先々では声を掛けられ写真を撮られというのはまだまだ続いてしまうもので。『後でうちのクラスも来てくださいねー!』なんて逆にお誘いされることもしばしば。そんな事もありながら歩いていれば彼女から何とも可愛らしい囁きが。すかさずピシャリと言い直しを入れるも、今日ばかりはお祭り気分でいてもバチは当たらないだろうということでいつもより数倍良さそうな機嫌に釣られてこちらの口元も緩みながら彼女の意見に頷いて。そうしてお揃いコーデ(コスプレ)でデートを満喫していれば次に辿り着いたのは1年の教室が並ぶエリア。…ともなれば、先日の問題児ももちろんいるわけで。『──あっ、せんせー!…と、御影せんぱーい!』ミスコン準優勝の彼女が、ハロウィンの仮装としてはある意味王道ともいえるナースのコスプレで手を振りながら小走りでこちらへと向かってきて。 )
!
……せんせー優しい、だいすき!
( すかさず彼からきっぱりと訂正が入るのはいつもの事だけれど、今日はそれに続きがあって。どうやら今日はデートとして扱ってくれるらしい彼の言葉にぱぁ!と瞳を輝かせてはいつものように彼に愛をストレートに投げ掛けて。本当は人の視線がなければこのまま彼の腕に抱きついていたのだろうけれど、さすがに今は人の視線もあるしこうして抱きついてばかり居たら彼の精神的心労も耐えないだろうということで我慢。ただ自分が彼に一方的に好意を寄せているだけというのはいつだって忘れてはいけない。そうこう彼と他愛もない話に花を咲かせていればいつの間にか到着したのは1年生のエリア。彼しか瞳に入っていないみきは残念ながらそのことに気がついておらず、ようやく気が付けたのは“問題の”と言っても間違いではない1年生に声をかけられてから。「 !え、えまちゃん、…。 」どんな男でもころっと不治の病に陥ってしまうだろうというくらい可愛らしくもセクシーなナース服に身を包む彼女は文句の付けようがないくらい可愛くて、どうしようせんせーも好きになっちゃう…!と思わず隣の彼を見上げてはちょっぴり焦ったように無意識に彼の服の裾をきゅ、と握って。 )
あー……と、田中か。
『うふふ、はぁい。…お2人ともお揃いなんですねぇ!』
( 周りが1年生ばかりになれば、先生はまだしも先輩である彼女には少しばかり声を掛けづらくなるようで先ほどまでのように囲まれて足を止めなければならない事はなく。どちらかと言えば『あっ、ほらあの人昨日のミスコンの…!』『えっ!?御影先輩!?先生も一緒だ!』と周りだけで盛り上がっているような声がちょこちょこ耳に入ってくる程度。しかしそんな中で物怖じせず声をかけてくるのは先日初めて話したばかりの1年生。元々懐っこい性格もあるのだろうが、慣れ親しんだ様子でにこにこと話しかけてくる彼女は陽キャやらコミュ強といった言葉がよく似合うのだろう。『御影せんぱい可愛いですねぇ。ちょっぴり足元がセクシーですけど、そこも素敵です。せんせーも似合っていてかっこいいですよぉ!』と、着ている彼女本人が気付いてなかったであろうスリットの魅力をさらりと告げればくるりと向き直り、彼女がいる側とは反対側の教師の腕にきゅ、と抱き付いて。いつもは猪突猛進な彼女が人の目と相手の心労を気にして我慢していた事を易々としてしまうこの1年生は相当心が強いらしい。 )
あしもと、…!!!!
( 足元、と指摘された場所へとちらりと視線を落としたその一瞬。たった油断したその一瞬でいつの間にか目の前の可愛らしい後輩は自分の想い人の腕に抱きついており思わずみきは言葉を無くしてしまい。自分が人目を気にして(人目が無かったら良いというものでは無いのだけれど)出来なかったことを易々とやってのけた目の前の後輩に対抗して彼の腕に抱きつくことは出来るけれど、でもきっと間違いなく彼を困らせてしまうしさらに周囲の視線を集めてしまうだろう。でもどうすれば、と顔に困惑と嫉妬のもやもやが全部書いてあるまま彼とえまを交互に見つめては「 っ、……えまちゃん!その、…えっと、みきとも、ぎゅってしよ! 」とあまりにも強行手段であるけれど真剣な表情でえまの方へと両手を広げて。彼女を無理矢理彼から引き剥がすなんてそんなことは出来ない、でも彼に抱き着かれているのはすごくモヤモヤするし嫌だしそれを止める権利もない。けれどこのまま見ているだけは絶対に嫌なので、誰も傷つかずに何とか彼からえまを引き剥がせるのではと思いついた方法がこれなのだ。自分でも馬鹿げたことをしている自覚はあるけれど、今はとにかく彼から離れて欲しくて精一杯で。 )
『えー?…もう、仕方ないですねぇ御影せんぱいは。』
( 彼女のファインプレー(?)によって抱き付かれたのはたった一瞬、早々に離れた1年生は可愛らしく唇を尖らせながらもくすくすと笑って広げられた先輩の手の中に収まって。…2人のやり取りに流されて抱き付かれた当の本人だけが何の反応も出来なかったことはとりあえず置いておいて。仮にもミスコンの優勝者と準優勝者が2人揃い踏みで、お互いにハグをしている状況は周りの生徒(特に男子)にとっては眼福極まりない光景だろう。見目は愛らしくともタイトなチャイナ服とスリットから覗く生足が少しの色気を演出している御影みきと、王道のナースだがハロウィンらしく付けられた申し訳程度の血糊と所々破かれた白いタイツがいやに色っぽい田中えま。仲良くハグし合う光景はまさに仲睦まじく、水面下で女の戦いが行われていることなど誰もが知り得ないことで。『──そうだ。御影せんぱい、えまのクラス来てくれませんか?ミスコンで優勝した御影せんぱいの事が気になってるって子いっぱいいるんですよぉ。…あっ、もちろんせんせーも一緒に!』ハグしたまま上目遣いでこてりと首を傾げる様は、自分の可愛さを理解しているうえでそれを利用する事がもはや自然と出るほどに染み付いている動作で。 )
、…あ、ありがとう…。
( こうして改めて女の子(しかも後輩)とハグをすることもなかなか無くて、彼からあっさり離れてくれたことに安堵しつつも彼の感触が早く彼女の腕から消えるようにきゅ、と優しく彼女を抱きしめて。ふんわりと香る強すぎず弱すぎない甘い香水の匂いや小さくて華奢なお人形さんのような体、男の子の好きと女の子の憧れを全部詰めたようなえまの自分の可愛さを完全に熟知しているような仕草は女であるですらころりと騙されてしまいそうになる。─── …どうしよう、せんせーも好きになっちゃったら。嫌だなぁ。そんなモヤモヤとした気持ちを抱えつつもふと投げかけられた誘いにぱち、と瞳を丸くしては「 え、と…みきはいいんだけど…。 」と困ったように返事を濁して。きっと彼は直ぐにでもいつものお洋服に着替えたいだろうし、それならば 自分一人で行った方が良いのではときゅ…と眉を下げながら助けを求めるように彼を振り返り。 )
『ミスコンでえまが御影せんぱいと知り合ったって羨ましがられちゃってー。みんな御影せんぱいとお話してみたーいって!』
( 彼女が拍子抜けするほどあっさり彼から離れたのはもちろん考えの内。ここでごねることで、周りから見て嫌な女という印象を持たれることを何より避けたかったのだろう。先輩のお誘いに嫌がる事なく反応してすぐさま乗るのが"可愛らしい後輩(女子)"として最善だと考えているようで。にこにこと花のような笑みを顔いっぱいに浮かべながら果敢に先輩を誘うも返事としては少し渋めなのだが。── 一方助けを求められることで漸く会話に入る余地が出来たと察したこちらは「…まあ宣伝ついでだし、俺も別にいーよ。後はうろうろして最終的に2-Bまで戻るだけだしな。」と、彼女が行くならば共に誘われた自分も行こうと。出来れば早く着替えたいのは本音ではあるが、ここまでコスプレ衣装で闊歩してきたのならば少しくらい寄り道をしてももう一緒だろうと。 )
、…ん。じゃあ行こっか!
─── あ。でもちょっとだけ先に行ってて!すぐみきも中入るから!
( 彼が大丈夫なのであれば当然みきも断る理由がないため、可愛い後輩の頼みならばとこくりと頷いて。勿論今えまが心の中でどう言った作戦を企てていたかなんて気が付くはずもなく、みきの警戒心も直ぐに離れてくれたことによりちょっぴり薄まったようでその表情は先程よりも穏やかなもの。だがしかしえまの教室に入る前にぴたりと立ち止まれば、えまや他のクラスメイトたちが先に教室に入ったのを確認してなおかつ周囲にいないのを見ればそのまま真っ直ぐに先程えまが抱きついた方の彼の腕をぎゅう、と抱きしめて。「 ─── …消毒。 」とちょっぴり申し訳なさそうに眉を下げながら小さな声でぽそりとそう呟けば、彼が何かを言う前にするりと腕を離してぱたぱたとそのまま案内された教室にすぐさま駆けていき。 )
!
───っ……、はー… 変なこと覚えたなあいつ……。
( 彼女が足を止めたのを見て疑問符を浮かべながら同じように止まれば、周りの目が無くなったほんの一瞬。僅かなその間に先ほど捕まった腕が再び、今度は違う相手に捕まったかと思えばいつだかに聞いた事のある言い回しがぽつりと聞こえたもののその温もりはすぐさま離れて。反応が一拍遅れたことで何も声を出せなかったが、先に教室へと入った彼女の背中を見ながら溜息を吐いて。こうしたほんの少しのことでヤキモチを妬いてくれることに対して可愛いと思ってしまうことはあれどもちろん嫌な気持ちなど無く。───田中えまが連れてきた優勝者コンビの登場に1-Aは大盛り上がり。特に彼女の方は部活等をやっていないため中々こうして後輩と繋がる機会がないので尚更この際にお近づきになろうとする1年生が男女関係なくわらわらと集まってきて。『えっ、御影先輩!?』『待って鳴海先生も一緒!?』『2人揃ってとか尊すぎるんだけど!』『えまちゃんヤバッ!』と、何だかついていけないほどの盛り上がりに気圧されていれば当の本人──田中えま──だけがどこか得意げで。『コンテストのよしみで御影せんぱいと仲良しになったの~!ねっ、せんぱーい。』人懐っこく、どこまでも甘い笑顔でまずは御影みきの腕にきゅうと抱き付いて。仲の良い2人を引き裂くように割り込むのではなく、あくまで"懐いた後輩"ポジションから。将を射んと欲すればまず馬を射よ。なんてことわざがあるように、狙った相手への印象操作のためまずは恋敵になっている先輩へとすり寄る所から始めるらしく。 )
わ、わぁ………………。
( なぜだかとても不思議だけれど、高校生の一学年違いというものは大人から見て5歳ほど違うほどにテンションの差が違うように見える。自分たちの学年もきっと大人たちから見たら似たようなものなのだろうけれど、みきからしてみたら自分たちの倍は賑やかできゃぴきゃぴとしている1-Aの雰囲気に思わずパチリと瞳をまん丸にして圧倒されてしまい。いつもの女子トークで慣れているおかげで何とか1-Aのマシンガントークにはついていけており、へにゃへにゃと少し緊張気味に笑いながらありがとお、と当たり障りなく言葉を返していきつつも彼の方は大丈夫かとしっかり想い人の動向も確認をして。だがしかしふと気が付けばえまが先程彼にしたように自身の腕にきゅっと抱きついており、あたかも最初からそのポジションにいたかのような敵対心のない笑顔と甘ったるい言葉に一瞬だけ意識が停止したものの“もしかしてえまちゃん悪い子じゃない…?”と人のことを疑うということを知らないみきはあっさりとその罠に引っかかりかけており。「 う、うん。仲良しになったよ、ね? 」と若干疑問形ではあるもののなんとかいつもの笑顔と共に言葉を返せれば、見目の良い女たちの友情というものは外聞がいいので周囲の人間たちも盛り上がっており。 )
『ね、ね、先輩って彼氏いるんですかー?』『鳴海先生との絡みやばかったですー!』『山田先輩と付き合ってるのって本当ですか!?』
( 普段話す機会の無い先輩、ましてやコンテスト後ということもあって時の人となっている彼女の人気は凄まじく。矢継ぎ早に繰り出される質問や言葉に圧倒こそされてはいるものの、四方八方から投げかけられる声を拾い答えていく彼女のスキルはさすが今時の子と言えるべきか素直に凄いと思い。一方こちらは「あーもういっぺんに喋るなって!」という注意を何度かしてやっとひとつふたつほど言葉が拾える程度。『先生似合ってますよー!』『授業のときもそっちの方がいいんじゃないですかー?(笑)』と、まだ敬語が出る辺りはやはり1年生らしいのだが何だか威厳に欠ける気がするのはどの学年を相手にしても共通意識らしい。──『えま羨ましいー!』『先輩っ、私たちもお友達になりたいです!』『うちのクラス、昨日お菓子売ってて!余りで申し訳ないんですけど食べてくださいっ!』…と、しばらく経っても盛り上がり(特に彼女周り)は収まることを知らず。しかしその状況を待ってましたと言わんばかりに動き始めるのはやはり田中えま。『……ね、せんせー。御影せんぱい忙しそうですし、良かったらこの後えまとまわってくれませんかぁ?』いつの間にか彼女の側を離れていたらしく、抱き付きこそしていないもののさり気なくボディタッチを織り交ぜつつ小悪魔の誘惑は始まったようで。 )
あ、えと、好きな人はいるけど、お付き合いしてる人はいなくて…それからね、山田くんとはお付き合いしてなくてね ─── へ?お友達?みきで良ければ……!
( ひとつひとつ丁寧に、けれどあまり関わることの無い後輩たちへの対応はちょっぴり緊張気味に後輩たちからの様々な言葉たちに答えていくみきに対し、一方の彼はいつも通り一斉にではなくちゃんと1人ずつ喋らせていくスタイルを維持しており何だかいつもの自分たちのクラスメイトと彼を見ているようで思わずくすくすと柔らかな笑顔を零して。だがしかしそんな彼の様子を気にしていたのもつかの間、もう彼の方へ気を向ける余裕が無いほどに矢継ぎ早に言葉が飛んでくればもうすっかりえまへの警戒心も忘れてみきは後輩たちの対応に付きっきりになってしまい。もちろんその隙に小悪魔が巧みな技術で彼を誘惑しようと自分の元から離れていることにはすっかり気づかずに「 お菓子、いいの?じゃあみきたちのクラスのも後でお礼に持ってくるね。 」とニコニコ嬉しそうに後輩たちとの会話を重ねており。─── 一方、えまたちは。勿論そもそものえまの狙いは彼一択なのでもうみきの方へと目もくれることもなく、なんならクラスメイトたちがみきを捕まえている今のうちにとグロスで艶やかに彩られた唇を釣り上げては『 良いですよねぇ、せんせー?えまと並んで歩いても宣伝になると思いますよぉ。 』と彼の目的が“宣伝”なのであればミスコン準優勝の自分も視線を集めるには十分だろうと。 )
んー……まわってやりたいのは山々なんだけどな。
とりあえず宣伝を任されてんのはあいつのクラスの分だし、御影がいないと2-Bが何を売り出してんのか良く知らないから俺には荷が重いっつーか。
( にこやかに手早く、しかし丁寧に後輩たちの言葉に答えている彼女を見ていれば周りに好かれるのも納得するほど鮮やかで。後輩女子たちからの信頼も上がれば、きっとまたこれで彼女に恋する後輩男子も生まれることだろう。だがしかし皆が皆純粋な気持ちで彼女に接しているかと言われれば実は違っていて、えまの取り巻きとも呼べる子たちが数人ほどそちらに混ざっており、先輩の意識を先生から逸らしておいてね。なんて友達のお願いを実行していることなど罠に掛かった2人が知る由なく。甘い毒のようにじわりじわりと的確に距離を詰めてこようとする相手の誘いには眉を下げて困ったような笑みを浮かべて。自分から見れば目の前の1年生はやはり子供にしか過ぎず、女としての策略を企てられているなんて微塵も思うはずも無い。変なところで鈍感なのもあり、口にする断り文句は裏のない本音。そういった用事が無いのであれば、可愛い生徒の頼みなら一緒にまわることなど容易いのだが今自分がまわっている相手は"彼女"なので。 )
『 …。え~、御影せんぱいだけずる~い。
えまもせんせーと“後夜祭デート”、したいですぅ。御影せんぱいにこっそり行けば、きっと怒られませんよう。 』
( 想定していたよりもずっと手強い彼に一瞬だけ天使のような笑顔から光が消えたもののそれは本当に瞬きの間のみ。直ぐに完璧に計算され尽くした笑顔を浮かべ直したあとに可愛らしい頬をふくらませた顔にしてみせればそのまま彼の耳元に唇を寄せて周りに聞こえないように後半部分をヒソヒソと囁いて。まるでそれが2人だけの秘め事であるように、共犯者を作るように甘美な声色でこっそりと彼を誘惑していけばおそらく自分だけが気付いているであろう揃いの薬指の黒い線をカリ。とよく手入れされネイルの施された指で軽く引っ掻いて。 本当はここら辺で軽く体を寄せてみたらコロッと行く男が多いのだけれど、残念ながら目の前の彼はそう簡単に絆されてはくれなさそうなのでそれ以外の自分が知り得る手段を使って落としてやろうとその瞳は虎視眈々と目の前の獲物を狙っていて。 )
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