女子生徒 2024-04-30 23:32:52 |
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それは先生冥利につきるなぁ、
これからも頑張ってくれたまえ。
( 彼女の行動原理が恋であろうが先生の為なんて言われてしまえば教師として嬉しくないはずもなく。応じるように繋がれたままの小さな手を優しく握り返し、いやに演技じみた言い回しでにやりと口角を上げて。彼女がいつだかに語ってくれた将来の夢、やってみたい仕事。それを選んだ理由に自分が関係しているのであれば教師という職をしていてこれほど喜ばしい事はないので、いつか教鞭を振るう彼女が見れるかもしれないその日を見てみたいという気持ちは紛れもなく本物で。こちらの希望的観測をまったく意に介さない彼女に「…言ったな?後で目に物見せてやるから覚悟しとけよ?」と、逆にやる気が出たようで自分でも謎の自信に溢れた顔でこてりと首を傾げて。舞台の上で用意されたシチュエーションに応じて台詞を言うだけ。"演技"だから辿々しくなってしまうのなら、そうしなければいいわけで。 )
ふふふ!
なにそれぇ。
( もうすっかり体温の混ざりあった手はほんのりと暖かくて、彼のやけに芝居がかった口調にまたみきはくすくすと楽しそうに微笑んで。いつだかに話した、まだなりたいと胸を張って言えるほどではないけれどほんのりと気になっている彼とおんなじ職業になるにはやはり勉強は不可欠。彼のためにも、そして自分のためにも、未来のためにも、これからももうちょっとだけご褒美目当てじゃなく頑張ってみようかななんて思ったり。なぜだか先程よりやる気に溢れちょっぴり何かを企んでいるようにも見えなくもない彼の様子に未だ楽しそうに頬を緩ませるみきは残念ながらその真意に気付いておらず。「 楽しみに待ってまーす。 」なんて余裕の顔でにこにこ微笑めば実行委員からミスコン出場者のお呼び出し。行かなきゃ、と名残惜しそうにずうっと繋いだままの手をするりと離せば「 じゃあ、いってきまぁす! 」とやはりあまり緊張していなさそうな…もとい緊張感の無い様子でチリチリと鈴を鳴らしながらコンテストのステージの方へとかけていき。 )
ん、頑張ってな。
俺も舞台袖で見てるから。
( コンテスト前の僅かな一時、何気ない自分たちのいつも通りの会話のおかげか変な緊張を覚える事なく落ち着いて舞台に上がれそうで。…とはいえお互いにもともと緊張などしていない様子ではあるのだが。繋がれていた手が離れればその温もりもすぐさま手から抜けていくようで何だか寂しい気すらしてしまいそうだが、軽やかな鈴の音を鳴らしながらステージへと駆けて行く彼女の後ろ姿を見送って。それから少しだけ移動して舞台袖へ。やはりこれがメインイベントと言えるほど人気らしく、すでに客席側はたくさんの生徒や一般客が千客万来。今年の優勝は誰だろうと予想や噂話に花を咲かせる生徒もいれば、昨年の覇者&殿堂入りの☆先生がいかにかっこよかったを思い出話として語り合う生徒など様々で。 )
─── こんにちは!2-Bの御影みきです!
たくさん人がいてちょっぴり緊張してるんですけど、好きな人が他の誰かにご褒美を貰うのを見たくないので頑張って優勝しに来ました!
( 猫耳しっぽにメイド服、やはり他の出場者と比べて比較的目立つその格好は観客の目を引くのかそれとも他の理由なのか、他の出場者よりもちょっぴり多いざわざわを受けながら、目の前にはそこそこたくさんの観客たちがいるにもかかわらずあまり緊張はしていない様子でいつもの様ににこにこきらきらと微笑んで。首元には『2-B メイド&執事アニマル喫茶』と書かれたプラカードをぶら下げておりついでの宣伝もバッチリ。それからなんと言っても自分が今日優勝をめざしている理由をなんの恥ずかしげもなくサラリと告げては、みきの片思い相手が誰だかわかっている在校生はいつものように冷やかしたり盛り上がったりと様々。ミスターコンとは違いミスコンは基本的に自己紹介と花道のウォーキングのみで構成されるため、自己紹介が終わればみきもスキップしながら花道へと歩き出し知り合いからの声やお客さんからの声にちゃっかりファンサやら反応をしたりと緊張よりもむしろ楽しんでいるようで。それから最後の出場者までウォーキングが終わればいよいよミスターコンの番。ミスコン出場者は1列になってステージの端の方で待機になるので、「 楽しみだね 」「 あたし??くんの相手役誘われちゃった! 」とひそひそこそこそ女子トークを行いつつミスターコンが始まるのを待ち。 )
──、あいつ…っ、何言って……!
( 舞台袖から彼女の様子を見守っていれば、舞台の上に立ってもなおハキハキといつもの調子で自己紹介を進める彼女に安堵したのも束の間。自らが優勝を目指す理由を当たり前のように発表していることに目を丸くして。案の定客席側では、冷やかす声や応援する声、一般客や詳細を知らないであろう1年生はもしかしたらロマンチックな場面が見れるかもしれないときゃいきゃい盛り上がっていたりと様々。この後何だか出にくくなってしまいそうだが、過ぎた事を言っても仕方ないので溜息を吐くに終わり。1年生から3年生まで、さらにミスコン教師枠の保健医までもが終わればいよいよミスターコンの開催。ミスコンにも教師枠があるなら自己PRの件は保健医に頼んでも良かったのでは。とふと思いはしたものの、それはそれ(独身男性×バツイチ女性)でめんどくさい事になる気がしたのとやはり演技とはいえ甘言を送る相手を別にすれば彼女の悲しむ顔が容易に想像できてしまうため、ふるふると頭を振ってこの案は撤回。教師は最後だし、他の生徒のPRがどんなものか先に見れるのは昨年を見ていない身としてはありがたい。そうして順番待ちがてらぼーっとミスターコンが進むのを見ていれば、あっという間に次は山田の出番らしい。選ばれるお題が何か分からないが、やはり大衆の前で想い人を相手にすると緊張があるのか先程よりも幾分か顔が強張って見える気がして。『…に、2-Bの山田、です。…その、俺こういう所に立つの初めてなんでかなり緊張しているんですけど…、どうしても頑張りたい理由があったので優勝目指しています。よろしくお願いします…!』と、本来大人しい性格であろう彼は最初こそ少しおどおどしているように見えたものの、最後はハッキリ自分の気持ちを前に出せたようで。そしてついにPRタイム。他の誰にも分からないようなほんの一瞬、山田がこちらを見て目が合ったような気がした後、『…俺と同じ2-Bの御影みきさん、お願いします。』と事前に承諾をもらっていた相手役に声をかけて。 )
はぁーい!
( いよいよミスターコンの開幕。去年のミスターコンを知っている2,3年生はこの自己PRカップルが誕生したりしなかったりすることを知っているせいかきゃあきゃあと盛り上がっていたりミスコン出場者の美少女が他の男に口説かれるのを嘆いていたり。みきや他の出場者もヤジにくすくすと笑っていたりちょっぴり手を振ってみたり、はたまた相手役の子はステージ中央に赴いたりしていればいつの間にか同じクラスの山田くんの出番。少し前に告白してくれて、残念だけれどお断りしてからも仲良くしてくれるとっても優しくて良い子。山田くんに呼ばれれば元気に返事をしてニコニコ笑顔でステージ中央までやってくれば山田くんと瞳を合わせて「 がんばろーね。 」とこっそり囁いてはふわりと微笑んで。 )
『───御影さん。入学してすぐに誰とでも仲良く話せる君を見てその明るいところにいつの間にか惹かれてました。
勉強くらいしか取り柄のない俺にもいつも話しかけてくれて……君のおかげで俺の高校生活は輝いて充実したものになったんだ。
前に一度想いを打ち明けたときは残念だったけど、その後も今まで通り友達として変わらなく付き合ってくれる君のことが、今でもずっと大好きです。
……卒業して会えなくなるなんて俺には耐えられない。これから君と一緒にいろんな思い出を作っていきたいんだ。
───どうか、俺と付き合ってください。』
( 柔らかく微笑みかけてくれた彼女のおかげで張り詰めていた緊張の糸が解けたように、山田の表情も柔らかくなったように見えて。そんな彼へのお題は"卒業式、好きなあの子に最後の告白"。しかしその内容は誰がどう聞いても演技には到底思えず、本当に卒業の日に告白しているシーンを見ているような錯覚を覚える。それもそのはず、今の山田は優勝云々よりもただ真っ直ぐ目の前の好きな人に想いを伝えただけ。一度はフラれてしまったもののそんなに簡単に無くなってくれないのが恋心の厄介なところ。ましてや彼女の想い人が分かっているからこそ諦めることができず、言葉通り一世一代の大勝負にこの舞台を選んだ山田は台詞の最後は彼女の手を取ってその場に跪き。その様子は告白どころかさながらプロポーズのようなもので、そんな真剣さが漂うステージに皆が見入ってシーンとした中、一気にワッと盛り上がった客席から山田への賛美でその静けさは打ち破られて。 )
─── … 。
( 真っ直ぐに見つめられた瞳と、それからふわりと優しく手をとられればまるで絵本の中の王子様のように跪いたクラスメイトに思わず目が離せなくてみきはぱちりと大きな夕陽をまるくして。山田くんってすっごく演技得意なんだ…、とこちらが勘違いしてしまいそうなくらいの真剣な表情と事実を織りまぜたアドリブの台詞にみきも思わず言葉を発するのも忘れて頬を淡い桃色に染めることしか出来ずに。だがしかしすぐにワッと割れるように盛りあがった観客の歓声に我に返れば、ほっと息を吐いて目をぱちぱち瞬きさせながら「 ほ、本気にするとこだった…!!! 」と思わず本音を零してはその呟きを拾った客席がまたドっと沸いて。『 山田ぁー!!かっこいいぞー!! 』『 本気なんじゃなーい? 』『 みきどーだったー!? 』と観客からヤジが飛べば繋いだままの手をぱっと観客に見えるように上げて「 ときめいたー!! 」と高校生らしく悪ノリしてはきらきら笑って。残念ながら“ときめいた”と笑顔で言える止まりなのはみきが山田の言葉を本気にしていないからかそれともそもそも自分の想い人以外見えていないからか、そこは神のみぞ知ることである。「 …すごいね、山田くん!みんなこんなに盛り上がってる! 」とするりとなんの躊躇いもなく手を離せばいつも通りの顔をして笑って、戻ろ!と観客からの大きな拍手と声援の中先程の定位置に戻って。 )
──……すごいな、山田。
( 思わず口からぽろりと零れた賛辞は心からの本音。あれだけ真っ直ぐ伝えてなお本気だと思われていない様には同情するが、そもそもこの大舞台でしっかり気持ちを伝えられるほど肝の据わった相手だとは思ってもいなかった。あれだけ真剣な想いを伝える相手に煽られたとあれば、こちらが彼女の好意に胡座をかいているわけにはいかなくて。せっかく舞台が用意されているのだ、相手が客席でも彼女自身でもそこにどんな気持ちが隠されていようがそれを表に出さなければいい。あくまで"演技"に見せられればそれでいいわけで。────当の山田は想い人がいかに鈍感かを重々承知しているよう。さすがに打てども響いていない様子には少し肩を落としているようにも見えたが、彼女が定位置についたその時に一瞬だけだが離れた手を再び掴んでは「御影、俺本気だから。……御影が誰のことを好きなのか分かってる。けどもし俺が優勝できたら…ちょっとだけでいいから考えて欲しい…です。」そう言い残し、するりと手を離して彼も自分が戻るべきところへと戻って。 )
、……山田、くん。
( 素敵だったなぁ、なんだかどきどきしちゃった。ふわふわと浮き立つような、少女漫画を見たあとのような気持ちで勝手に緩んでしまう頬をそのままにしていればふと手の握られる感触。それに釣られてそっちに瞳を向ければ先程と同じくらい真剣な瞳の─── さっきよりもちょっといつも通りの山田くん。続けて告げられた言葉に瞳を丸くしてはそのまま彼の名前をぽつり。自分が今誰のこと好きかを全部分かった上でまたこうして想いを告げてくれる彼の気持ちが、そして彼がこのミスターコンに出場し優勝した後に欲しているものも。全部がわかってしまった今は先程のようにへらりと能天気な顔で彼に笑いかけることが出来ずにただただ定位置に戻る彼の背中を見送って。『 ね、ね、みきちゃん。超お似合いだったよ、ほんとに付き合っちゃえば? 』『 そうそう!ちょーかっこよかったあ! 』一方ミスコン出場者にからかわれればみきも困ったように笑うことが出来ずに呆然と次のミスターコン出場者の自己PRを眺めて。 )
────『いやー、今年も盛り上がりましたミスターコン!いよいよ最後の出場者です!」
( 山田のPRタイムは大成功で、その後何組かのPRを終えたはずなのに客席では未だに山田の件が話題に上がっている様子。『さっきの人かっこよかったぁ…!』『御影先輩と山田先輩お似合いだよねぇ。』など様々な声が飛び交う中、満を辞してトリを飾るのは教師枠。最後の最後で山田が彼女に声をかけていたのは分かったけれどもその内容はもちろん聞こえていない、しかしその後の彼女の様子からして何か重要なことを言われたことには違いないだろう。教師として生徒の恋愛を邪魔するような気は毛頭無いのだが、その生徒が煽ってまでこちらに勝負を挑んできているのだ。それを無下にするようでは教師として、いや男として格好がつかないだろう。他の参加者たちと違い、何の飾り気も無い普段通りの状態で舞台の上に立てば「──生物担当、鳴海 司です。えー、何が何だか分からないままここに立ってるようなものなので、勝手にエントリーした奴は改めて俺に謝ってください。」と緊張のきの字も無いようなやる気のない雑な自己紹介は適度に客席の笑いを取った様子。続けて例のPRタイムがやってくれば「2-B、御影みき。呼び出しでーす。」とまるで生徒指導か何かのように声をかけるのは教師枠=ネタ枠としての最後の軽口。この後はシチュエーションかはたまた台詞指定か、何が選ばれるのか分からないがすでに腹は括っているので。 )
『 いいなぁ、御影先輩。最後なんて言われたんですか? 』
─── …ナイショ。
( みきが未だに山田から告げられた頭から離れないのと同じように観客たちも次々にミスターコン出場者が登場しているにも関わらず山田の話題が尽きないよう。ステージ上のみきにももちろんその声は届いており、叶わない恋が胸に燻り続ける片思いの辛さは充分によく理解しているためその表情はちょっぴり辛そうで。だがしかし次はいよいよ自分の想い人の番、他の生徒達のように着飾ってはいないいつもの白衣姿なのに誰よりもキラキラと輝いて見えるのはやはり恋する乙女のフィルターがかかっているからだろうか。きゅうと胸を締め付けるような痛みもそんな彼を見つめているうちにだんだんと小さくなり、終いには彼の自己紹介でくすりと笑えるほどには無事に回復。大好きな人からお呼びがかかればはぁい、と返事をした後にぱたぱたと彼に駆け寄って「 ─── …せんせー、優勝してね。 」と周りに聞こえないような小さな声でそっと彼に囁いて。山田はとっても素敵な人だし、山田を好きになれば今よりもずっとずっと幸せで苦しい思いをすることなんてないのだろう。だがしかしそんなことは分かっていても走り出した恋心は止まらなくて、どうしようもなく目の前の彼に惹かれてしまうのだから仕方がない。演技が苦手な彼のことだから、シチュエーションじゃなくて台詞指定がいいな。そんなことを思いながら司会役からランダムのお題たちが入ったボックスを受け取れば彼に引いてもらうようにそれを差し出して。 )
……ま、出来るだけやってみるよ。
( 彼女のクラスメイト達は、山田の気持ちを知っているからこそそちらを応援する者と彼女の気持ちを知っているからこそ教師枠に呼び出された今の方を応援する者とで分かれているように見える。自分だって彼女の気持ちを知っていてわざわざ相手に選んだのは大人として狡いかもしれないが、山田が望んでいるのはきっと真っ当な正面からの勝負。ここで自分が彼女以外を選んでいれば、それは彼からの挑戦状を無視するのと同じだろう。教師として教え子の道を示してやるのは最もだが、障害として立ちはだかることでそれを乗り越えてほしいという思いもあるわけで。またひとつ大人へと近付こうとしている山田に頼もしさと尊敬の念を抱きながら、彼女からの応援には同じように小さな声で返して。差し出されたボックスに手を入れて軽く一混ぜ、手に取ったお題を抜き取って見てみればそこに書かれていたお題は───"卒業式、好きなあの子に最後の告白"。確認しにきた司会の生徒が慌てて『何が出ましたか……えっ、あれっ?…あ、ごめんなさい!間違えちゃった、これ生徒同士用のお題箱です!先生たちに使ってもらう方持ってきますね!』とお題の引き直しを行おうとしたが、「…いや、いいよこれで。大丈夫。」と引いたお題を承諾。奇しくも山田と同じお題を引いたことでなおさら逃げる事は出来なくなったが、それでこそいい勝負になるだろうと。 )
!
……ほ、ほんとにいいの…?
( 彼の引いたお題はどんな因果か山田くんと同じもの。よりにもよってシチュエーション指定のものだし、先程正解に近いのではないかというほどのものを山田が見せてしまった後に同じお題をやるのはあまりにもハードルが高いのではないかとその瞳は心配そうな色がじんわりと滲んでおり。折角引き直しても構わないって言ってくれてるのに、本当に大丈夫かな…。そわそわとざわめいてしまう心をそのままに、みきはじっと彼を見つめて。……もっとも、確かに自分は彼ならば何をされてもときめいてしまうしどんなに棒読みでも演技じみていても彼から甘い言葉を吐かれては浅ましくて単純な心臓はどきどきと高なってしまうのだろうし何よりもお題が自分が待ち望んでいる“卒業式”を迎えた時のものなのだから、不安の中にも淡い期待が混ざっていることは間違いなく。 )
ん。
────卒業おめでとう。
ほんっとお前は色んな意味で手が掛かる生徒で…まあおかげで俺も楽しかったってことには違いないんだけど。
いつも俺のとこ来て馬鹿正直に好き好き言ってくれるお前のこと、最初はどう扱うのが正解かよく分かんなかった。…でもお前が休んだ日とか、いつもなら会えるのに声が聞こえないだけで何ていうか……物足りない、んだよな。その日の満足感?みたいなもんが。
……まあつまり、俺も少なからずお前に惹かれてたわけで…ちゃんと卒業してくれてホッとしたよ。
( 彼女からの確認にこくりと頷けば、一拍置いて出されたシチュエーションの中でのPRタイムの始まり。メイド姿の彼女と執事姿の山田は正直絵になっていたが、こちらは普段着と称しても違和感のないいつも通りの白衣姿。少しばかりロマンチックさに欠けるのは致し方無くとも客席側はヤジを飛ばすこともなく静かに見守る方へと変わり、静かになったステージの上で自分の瞳には今彼女しか映っていない状態。まっすぐと夕陽色の瞳を見据えてはゆっくりとした口調で、いつだかに見せたボロボロの演技とは程遠いほど自然に言葉を紡いでいき。時折目を逸らしたりするのが演技なのか素なのか自分でも分からなくなるほど世界に没頭している中、締めに備えて先ほど山田が取ったのと同じ方の手をそっと取れば「これで晴れて教師と生徒じゃなくなったんだよな……、…やっと言える。──好きだよ御影。」と、優しく取った彼女の手を口元に近付けてはその小さな手の甲にちゅ、と口付けて。その行為は昨年の☆先生の顎クイがセーフとみなされたから出たものなのか、はたまた山田がこの手を取っていたからこその行動だったのかは誰にも分からないままで。 )
っ、─── 。
( それはあまりにも自然で、演技だとは到底思えない真剣味を帯びた言葉たち。みきの中のエスパーがこの言葉は本心だよ、と囁いているようで先程は驚いていただけの真っ白な頬がみるみるうちに赤くなっていくのはもちろん本人でも無意識。早く卒業しろ、と言っていた彼の言葉の答えが今ここに有る様な気がして ─── 勿論それはそうだったらいいなというみきの希望に過ぎないのだけれど ─── 周りの観客の存在なんて忘れてしまうほどに目の前の彼しか見えなくなってしまう。演技と本音の境目が分からなくなってしまうほどの彼に混乱しているうちにふと手が取られたと思えば、入学した時からずっとずっと彼から、彼だけから欲しかった言葉が心の中にすとんと落ちて。あのね、みきもせんせと会えない時はすごく寂しいの。早く卒業して、先生と生徒じゃない関係になりたかったの。これがあくまで演技だということも忘れて口を開きかけた時、手の甲に柔らかくて暖かな唇の感触が振ってきてみきの潤んだ瞳は零れ落ちそうなくらい大きく丸くなり。─── ちゅう、された。手に。同級生の男の子とは違う、もっと大きくて優しい大好きな手に包まれるだけで幸せなのに、本当はもっと違うところに欲しいけれど、ずっとずっと欲しかった感触。ぐ言葉にならないみきの頭の中にぐるぐると巡る考えたちに翻弄されていれば、少しの沈黙の後に今日いちばんの笑顔を浮かべて「 ……みき、も。…みきも、だいすき! 」と先程の山田くんの時には何も無かった“好き”に対する答えを。一瞬の静寂の後、先程とは比べ物にならない観客の歓声と黄色い悲鳴たちにびく!と漸く我に返ってはぱちぱちと驚いたように瞬きを繰り返して。 )
『………っは、はい!ありがとうございました!!…えっと、以上で全参加者のPRタイムが終わりましたので、集計の済んでいるミスコンの結果発表に移りたいと思います!』
( 文化祭とは思えない一瞬の静寂の後、割れんばかりの歓声に彼女共々びくりと肩を跳ねさせて驚けば「うるさっ。」とその大音量に目を丸く瞬かせながら自分もいつも通りの雰囲気に戻り。司会役の生徒もその歓声でハッと我に返った様子で再びイベントの進行を。彼女の反応も、見ていたであろう山田の反応も気にする様子なくするりと手を離しては「ほら、終わったから戻るぞー。」と彼女に声をかけて。PRタイムを終えて、きっと誰もが予想だにしていなかったであろう先ほどの自分の行為は周りの目からきちんと"演技"に見えていただろうか。その真意は自分自身にしかもちろん分からないし、それをわざわざ紐解いて説明するつもりも無いのだが。 )
っせんせー、……い、いつからあんなに、上手になったの…。
( するりと離れてしまった彼の手を追いかけるようにきゅ、ともう一度彼の手を捕まえては混乱でいっぱいですと言った様子が全て目に書いてあるままに依然とは比べ物にならないほどの彼の自然で違和感のなかった先程の演技に言及して。だって、あんなに上手なんて聞いてない。ほんとに告白されたかとおもった。そんな気持ちがダダ漏れな夕陽色の瞳は彼なら逸らされることはなく、だがしかし私情でコンテストの開催を遅らせるわけにはいかないと捕まえたばかりの手を静かに離せば「 …いっぱい、どきどきした、 」と真っ赤な顔を逸らしながらぱたぱたと逃げるように自分の定位置に走っていってしまい。─── ミスコンの結果発表の時間になってもさきほどの彼の自己PRの熱が冷めやらずに会場はざわざわとざわめいており、『 なにあれヤバくない!?!? 』『 ねー鳴海先生好きになりそう! 』『 せ、生物選択してなかったけど来年からとろうかな… 』と特に女子生徒の黄色い声はずっと囁かれており。一方のみきは未だ頬の熱が取れずにぽやぽやと頬を赤らめたままで、先程まで客席の方へにこにこと手を振っていたのに今はすっかり大人しくなってしまっている様子から“彼女の優勝を目指す理由は誰か”なんて明白で。 )
だから言ったろ?
覚悟しとけって。
( 驚いたような照れているような何とも言えない様子の彼女から問いかけられれば、にやりと口角を上げてしてやったり顔。自分にやれる事はやったし、これで優勝を逃したとしても(元々固執していたわけでは無いが)悔いもないだろう。何よりも彼女の言葉通り、ドキドキさせられたのであればもはやそれだけで大成功。真っ赤な顔で逃げるように駆けて行く彼女の背中を薄く微笑みながら見送れば自分も定位置へと戻っていき。ざわざわ、がやがやと観客が思い思いの感想を口にする中、一転して心ここに在らず状態で静かになった彼女には隣の1年生ミスコン参加者が『…み、御影先輩……大丈夫ですかぁ……?』とその様子を心配する様が見て取れて。 )
─── あんまり大丈夫じゃないかも、
( まさか本当にこんなにしてやられるとは、とあの時の演技が嘘だったかのように俳優顔負けの演技をして見せた彼にむむむ。と悔しそうに唇を尖らせていたものの、ふと隣から聞こえた小鳥が囀るような可愛らしい声は1年生の中でもいちばんと言っても過言では無い、お姫様のように可愛らしい後輩。男の人ってこういう子が好きなんだろうなぁこ代表格のようなその後輩へへにゃ、と眉を下げて微笑めば冗談交じりに乙女のハートはドキドキと限界なことをさらりと答えて。だって大丈夫じゃないもん、2年間ずっと好きだった人に演技でも好きだって言われたんだから。このままじゃミスコンどころじゃないよ。と、未だバクバクと収まらない心臓を収めようと必死に集中して深呼吸をしていれば『 ─── 2-B、御影 みきさん! 』と司会の生徒に名前を呼ばれてはハッと我に返り。心臓を落ち着かせることに集中していたが故になんも話を聞いていなくて、「 あ、えと、はい! 」と一歩前に出ればそのきょとんとなんにも理解していない表情を察した仕事のできる司会役の生徒がもう一度改めて『 今年のミスコン優勝者は、御影みきさんです!! 』とマイクを通していなくてもよく通る声で宣言を。ワッと盛り上がったり会場やにこやかな表情で拍手をしてくれる隣に並んだミスコン出場者とは裏腹になんにもついていけない様な顔で瞬きを繰り返しては、「 ……え!?!? 」と今日いちばんの大きなリアクション(正確にはいちばんはお化け屋敷の中での反応だけど)。 )
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