せんせい、あのね。(〆)

しないしない。
そもそも教師枠はネタだって決まってんだろ。……まあ1人を除いてだけど。

( 突如として余計な心配を向けてくる彼女に、ナイナイと手を振りながら溜息を吐いて。自分の見てくれに興味が無いゆえの楽観視というところではあるのだが、昨年ぶっちぎりの大優勝を果たした☆先生は別として基本的にこういったイベント事の教師枠はネタでしかないのだと。しかし自分とは違って彼女はその容姿に自信を持つべきだと思う。本人は引き立て役だなんて言っているが十二分に可愛いし好意を寄せる男子が多いのも耳に届いていたりもする。ふ、と薄く微笑んでは「賑やかし？…案外優勝するかもよ。」とぽつり。無責任な言葉に聞こえはするが、そう言ったということは少なからず彼女が1番可愛いと自分の中では思っている証拠なわけで。──とりあえず腹は括るとして、この後勝手に推薦した3年のもとへ文句を言いに(そして結局揶揄われて遊ばれるだけなのだが)行こうと部屋を出る準備を始めて。 )

ネタ枠じゃないもん…。
エントリーしてる人の中でせんせーがいちばんかっこいいもん…。


( こちらの心配をよそになんとも楽観的な様子な彼に納得のいかない様子で唇をとがらせては誰がなんと言おうと自分の好きな人がいちばん格好いいのだと小さな子供のようにもそもそ反論を。いつまで経っても自分の格好良さを自覚してくれない彼には困ってしまうのだけれど、自覚されてそのお顔を使われたらオチない女の子は居ないのでそれもそれで困りもの。みきはぷく、と膨らませた頬をそのままに彼をちらりと見やっては分かってる？と言いたげに腕を組んで。だがしかしその後の彼の言葉に思わずふは、と笑ってしまえば「 まさか。他の子達すっごく可愛い子たちばっかりなんだから！お顔なんてこのくらいしかないんだよ～ 」と自分の握り拳を見せながら出場者会議の時に見た他の女の子たちのことを思い出してはみんな可愛かったなぁとへにゃへにゃ笑い。友人たちに推薦された時は驚いたけれどこうして可愛い女の子たちとお近付きになれると言う点では得かも、だなんてニコニコ緩んでしまう頬に手を添えて。 )

そりゃお前はフィルターがかかってるからな。
……ま、礼は言っとく。

( 自分なんかよりもちゃんと選出された男子たちの方が遥かに輝いているだろうが、困ったことに彼女には1人しか見えていないようで(自分で言うのもなんだが)。とはいえ褒められて悪い気がしないのも事実なのでそこは素直に微笑んで。こちらを咎めるような視線を向けてくるも、その後に続く笑顔と言葉には自分のことを棚上げにやれやれと肩を竦めるしかなく。「ふーん。……俺はお前がいちばん可愛いと思うけどね。」部屋の入り口に立つ彼女に近付いてはその耳元でぽそりと一言。それは『せんせーがいちばん』と言ってくれた彼女へのお返しのようなものだが、お世辞ではなく言葉通りの本音で。どうやら似た者同士、お互い自分の容姿にはたいして執着しないものの、こと相手に関しては本人以上に自信を持っているという何だか不思議な関係性は自分と彼女だからこそかもしれない。 )

！いーえ。
でもフィルターじゃなくてほんとのことだからね。

( 分かってくれた！と彼の笑顔にこちらも釣られるようにニコニコキラキラ微笑んだものの訂正するべき場所はちゃっかり訂正。好きな人フィルターは確かに存在するとは思うけれど、そんなフィルターを追っ払っても目の前の彼はかっこいいので。それはそうと、自分が彼に恋心を抱いていることは2,3年生は知っているにしてもかわゆい1年女子たちは知らないわけで、スポ大同様に今回のコンテストでうっかり彼のことを好きになってしまう女子がいるとは思うのでその点についてはどうにかして解決策を探さなきゃ…とにこにこ笑顔からふと真剣に考えはじめたみきには呆れたように肩を竦める彼には気付いておらず、ふと気がついた時にはいつの間にか彼との距離はぐっと縮まっており先ずはそこでぴたりと動きが止まり。そこから更に彼からの囁きに大きく瞳を見開いては暫くのローディングタイムの後に顔を真っ赤にしてザザザ！と素早く彼から距離取りそのまま扉にぴたりと背中を合わせて。「 かっ、………からかうの禁止！！ 」だなんて彼に囁かれた方の耳を両手で隠しながらｷﾞｬﾝ!と威嚇してはまたそうやっていたいけな生徒をからかうんだから…！と警戒と照れが入り交じった瞳で彼を見つめて。 )

はいはい。
お前はほんっと変なところ頑固だよな。

( フィルターの存在を抜きにしても、と念押ししてくる彼女に眉を下げて少しだけ笑い。そこまで褒められると嬉しいを通り越して気恥ずかしくもなってくるが、ムキになって否定するような事でもないので軽く流しながらも言葉はありがたくいただいて。自分が近付くのに気付かないほど何かを──といってもまた変な事なのだろうが──考えていた彼女は、一瞬の硬直の後慌てて動いたかと思えばやはり真っ赤な顔で。別に(いつもほどは)揶揄ったつもりもないんだけどな、とけらけら笑いながら「ほら扉開けるからそこどいて。つーかお前もそろそろ自分の教室行かないとだろ、いつまでもサボってないで。」と、彼女の後ろに隠された扉を開けるためちょいちょいと手を動かして寄ってくれアピール。彼女本人もそろそろクラスの準備に参加させなければ友人の多い彼女のこと、朝イチに準備室に寄り道をしていると知っている誰かが探しに来てもおかしくはないだろう。 )

っ～…もお！！！いじわる！！
みき今それどころじゃないもん！


( 此方が今どんなに混乱し致死量のときめきと戦っているかを全く介さない彼の様子にまたﾑｷｬ!と威嚇をしたものの、そんな彼の言葉はごもっともで自分もそろそろ教室に行って準備やら何やらをしなければいけない時間なのは確か。ｶﾞﾗｶﾞﾗ!と勢いよく扉を開けてはそのままひらりと扉の向こう側に移動して依然真っ赤な顔のまま「 もう教室行く！暇になったらちゃんと来てね！だいすき！ 」と言葉と様子が一致しないまま再度来店のお強請りといつもの言葉を投げかけてぱたぱた騒がしく己の教室の方へと駆けていき。─── 廊下は走らない！なんて学年主任の怒声が響いたのはその直後のこと。 )

。
。
。


─── いらっしゃいませー！


( いよいよ今年の文化祭が始まり、一般のお客さんも来校していることもありアニマル(中略)カフェはそこそこに盛況。縫製や裁縫が趣味なクラスメイトたちが無駄に凝ったお陰でふんわりと広がるベルラインのメイド服、一人一人それぞれ違う動物の耳やしっぽたち─── みきは鈴の着いたチョーカーと髪とおんなじ黒の耳としっぽ。ちなみにクラスメイトのギャルたちがメイクやら髪を巻いてくれたので髪がふわふわしているのが本人はお気に入りらしい ─── という文化祭にしてはやけにクオリティの高い衣装も相まって客足は今のところ途切れることがなく。ゆらり、と尻尾を揺らしながら店内を忙しなく動き回るみきは飲食店バイトをしていただけあり特に苦労もなく楽しそうでなかなか今にもついている様子。…ちらり、と教室の時計を見てはそわそわと誰かを待っているようなところ以外は。 )

『──…みーき。時計見すぎじゃない？そんな気にしなくても来てくれるってー。』

( 忙しければ時間が過ぎるのは早く感じるもので、時刻は11時半を過ぎた辺り。お昼時に近くなればなるほどカフェや屋台のように飲食を提供するブースが忙しくなるのは仕方のないこと。そんな中働きながらもたまに、いや頻繁にちらちらと時計を気にする彼女に友人がにやにやとしながら＂誰＂とも言わずに声を掛けるのもすでに何度目かになっていて。そうして華の女子高生や男子高生たちが身に纏う衣装のクオリティの高さも相まってガヤガヤと盛況な中、「────うわ、混んでるじゃん。」と教室の中を覗くようにひょこっと顔を出しては目を丸くする教師がひとり。約束通りやって来たものの見回り中に他の生徒たちに絡まれたりしたおかげで遅ればせながらの登場になったわけだが、何とか彼女の指定した時間内に来れたことに内心ホッとして。 )

だってぇ…。
もしかしたら見回り中になんか対応とかしなきゃいけなくなったとかもあるかもだし…指切りした訳じゃないし…。

( 恋する乙女は少し返信が遅くなっただけでも心配になってしまう、とはよく言うけれど今のみきもまさにそんな様子。11時を過ぎてからチラチラと時計を気にするようになり、接客にこそ影響は及ぼさないものの早く来ないかなぁのワクワクがほんとに来てくれるかなぁのそわそわに変わったあたり。どんな人混みの中でも大好きな人の言葉はしっかりと耳に届くもので彼の姿が見えた途端ぱぁあ！と10人が見たら10人がみきが彼にどんな感情を抱えているかが分かってしまうほどに表情を輝かせては「 せんせー！いらっしゃいませ！ 」と尻尾やら髪をふわふわ靡かせ、チリチリ首元の鈴を鳴らしながら彼の方に駆け寄れば満面の笑顔でお出迎え。どこかにやにや揶揄うようなクラスメイトの視線なんて全く気になっていない様子でほんとに来てくれた、嬉しい、だいすき。そんな感情が全部書いてある瞳で彼を見つめて。 )

おー、悪いなちょっと遅く───、

( 教室内には様々な動物の耳と尻尾を付けたメイドや執事姿の生徒たち。また変わった趣向を…とは思ったものの現状の人気がすべてを物語っていて。約束の相手はこちらが先に見つけるよりも気付くのが早かったようで、声をかけられた方へ目をやればその姿にぱちくり目を開いて言葉は止まり。首元の鈴と尻尾から察するに付けているのは猫耳で間違いないのだろうが、一言で言うならば＂あざとい＂。しかし嫌な感じはなくむしろ可愛さの権化ともいえる見た目は人の目を引くようで、営業スマイルとは別の満面の笑顔に席に着く一般客の数人が目に見えて反応を示したりして。「………気合い入ってんなお前のクラス…、すげー凝ってる……。」と、何とか絞り出した言葉はやはりそのクオリティの高さを褒めるものからで。 )

そうでしょー！
せっかくの文化祭だから装飾も小物も衣装もぜーんぶこだわったんだよ～！


( 大好きな彼にクオリティを褒められれば嬉しそうにぺかぺか笑って教室の装飾を指差したり衣装を見せるようにその場でくるりと一回転を。シフォンパニエで膨らませているメイド服は風になびいてそのままふわりと花のように開いてはそのままゆっくりと元の形状に戻り、また首元に着いている鈴もそれに伴いちりん。と可愛らしい音を立ててその存在を主張して。それからちょっぴり背伸びをして彼の耳元に静かに唇を寄せては「 ─── かわいい、？ 」とにゃあにゃあじゃれつくような小さな声で問いかけて。いつも油断している時に言われれば文句を言う割にやっぱり少しおめかしした日は好きな人にそう言われたいのかいたずらっぽい笑顔でこて、と首を傾げては返事を待つように─── または強請るように ─── 仔猫のように甘えた瞳で彼を見上げて。 )

はー……まあ納得の人気だなこれは。

( 教室内を案内するかのように指される指を目で追いつつ、目の前でふわりと広がるスカートには──周りも少し注目したような気もするが──素直に感嘆の溜息を漏らし。まったく此方から可愛いと言えばやれ揶揄うなだの(前提として揶揄っている時もあるが)恥ずかしいだのと拒んでくるくせに、こういう時ばかりは肯定の言葉以外は受け付けないと言わんばかりに強請ってくる。首元で小さく鳴る鈴が殊更仔猫らしさを演出し、こちらとしても肯定以外の選択肢は元より無いようなものなのだが。しかし此処は残念ながら人通りの少ない夜道ではないためいつもの揶揄う距離感で言葉を返すには少しハードルが高く、「はいはい、可愛い可愛い。」と普段通りの流し口調になってしまうのも致し方ないことで。 )

んへへ。せんせーのために可愛くしたもん。
あ！そうだ、席案内するね！─── 一名様ご来店だにゃん！


( 自分が求めている時に言われればいつもの様に照れ拒むこともなくへにゃへにゃと嬉しそうに頬を弛めるものの、何だかいつも不意打ちで可愛いと投げかけてくる時よりも距離感が遠い気がしてそこはちょっぴり寂しいなの気持ちが心を過り。だがしかしすぐにカフェの店員らしく彼の来店を告げる言葉をクラスメイトたちに投げかければそれぞれの動物に沿ったワンだとかコンだとかの擬声語が語尾についた言葉が帰ってきて。実際いつも教室で使っている生徒の机と椅子にテーブルクロスをかけたなんとも文化祭らしいクオリティの座席へ案内すれば、オムライスやチャーハン、カフェラテやコーヒーなど普通のカフェらしいメニューが書かれたメニュー表を手渡しながら「 あのね、全部のメニューにおまじないが付けられるんだよ。学校の人は特別に写真も撮れちゃいます。 」とにこにことシステムの説明をこなしていき。おまじない、というのはメイド喫茶やら執事喫茶よろしくな“アレ”のことなのだけれど、そこはまぁ説明せずとも分かるだろうと説明は省いて。 )

おぉ……コンセプトがしっかりしてる……。

( 可愛らしい語尾のついた彼女の言葉に他の生徒たちもコンセプトに沿った語尾で反応すれば、驚きと感心で目を丸くさせながら案内されるがまま席に着いて。力を入れているのが一目で分かったほど凝っている服装とは別に、用意されている机と椅子は(当たり前なのだが)教室にあるごくごく普通のものであることに内心ホッとしたりして。メニューを見ながら受けた説明はきっとたぶん想像しているもので間違いないのだろう。「あー……えっと、…じゃあコーヒーとオムライスで…。」と、男性1人、一般客ならまだしも教師の来店ではその＂おまじない＂を受けるのは少しばかり気恥ずかしいものがあるが、呼ばれたとはいえこれも一応見回りの一環として生徒たちの提供しているものを見ておかねばという責任から注文を。 )

はーい！
コーヒーとオムライスね、少々お待ちくださいにゃ～


( 彼はただ自分にほぼ無理やり呼ばれたようなものなのだから無理して注文をしなくてももちろん良いのだけれど、そこでしっかりと食べ物まで注文してくれるのはやはり彼の優しいところ。みきはにぱ！と満面の笑顔を浮かべればまたﾁﾘﾝﾁﾘﾝ首元の鈴を鳴らしながらキッチンのクラスメイトの方にオーダーを通しに行き。そのまま他の客(他クラスのお友達)の写真対応やおまじない等々をみきがこなしていれば『 あ、鳴海先生じゃーん！ 』『 みき見に来たの？…あ、わん。 』と犬やらウサギやらの耳やしっぽをつけたクラスメイトがわらわらと彼の周りに集まってきて。『 みき、どー？アタシが髪巻いたんだぴょーん。笑 』『 もう既に3人くらいから連絡先渡されてるわんよー。 』といつものように姦しく人の恋路に首を突っ込んでは雑にコンセプト。遵守しながらもきゃっきゃと楽しそうに言葉を投げかけていき。 )

見に来たとか言うな。
あいつに来てくれって言われたんだよ。無視するわけにもいかねーだろ。

( 鈴を鳴らし尻尾を揺らしながら仕事に戻る彼女の後ろ姿を、頬杖つきながら目で追っていればいつの間にやら自分の周りに集まってきた動物…もとい生徒たち。わざわざ自発的に個人を目当てで来たような言い方をされればそれはさすがに訂正させてもらおう。「へー。…まあ相手が変な奴じゃないかどうかは自己判断だしな。それだけ凝った見た目してたら客もはしゃぐんだろ。お前らも可愛いから気を付けろよ。」親でも無ければ恋人でもない自分が彼女の友好関係に口を出せるような立ち位置にいないことは理解しているので、あからさまに迷惑そうな相手でないなら＂先生＂としては静観する他なく。語尾は心なしか雑だがクオリティの高い衣装を纏っているのはもちろん彼女だけではないので、わざわざ揶揄いにきてくれた生徒たちも一応褒めておく。 )

『 はぁーい、先生やっさしー笑 』『 あ、てか鳴海先生ミスターコン出るんでしょ？ 』『 優勝したらミスコン優勝者からご褒美のキスもらえるって噂らしいよ～。 』『 去年☆先生キスされたっけ 』『 さぁ？おぼえてなーい。 』『 みきもミスコン出るしワンチャンあるかもね笑 』


( わいわいがやがやと好き勝手に物事を話しながらけらけらくすくすと自由に接客へ戻っていくクラスメイトは引っ掻き回し爆弾を落とすだけ落として去っていく嵐のようで。無論、クラスメイトと教師の禁断の恋愛があったらあったで楽しいので一悶着あれば面白いのになの気持ちもあるはあるのだけれど基本的には何も考えていないのかその表情は実にあっさりとしており。それから暫くしてコーヒーとオムライスをトレイに乗せたみきがﾁﾘﾝﾁﾘﾝと戻ってくれば「 ？はるちゃんたち楽しそう。なにかお話してたの？ 」となんにも知らない顔でこてりと首をかしげて。もちろんみきは優勝したらの云々のお話はまだ誰からも聞いていないかつ自分が優勝するとも思っていないので他人事なのだけれど。 )

知らない間にエントリーされてて気付いた時には当日だから逃げられないんだよ…。
ご褒美～？…つーか教師枠で優勝できるのなんか☆先生が最初で最後だろ、ワンチャンも何もねーよ。

( どうやら宣伝ポスターの効果は絶大で件のイベントはこうして話題に上がるくらい盛り上がりを見せている様子なのだが、自分が参加することになっているという実感が未だ沸かずどこか他人事のようにぼやき。好き勝手に話している女子生徒たちに相槌を打ちながら、気になる一言には眉間に皺を寄せて溜息を吐いて。もしも万が一優勝したとして、さすがに生徒からキスを贈られるのはよろしくないのでは…という思いもあるのだが。そんな事など彼女たちには知ったこっちゃないようで、禁断だろうが何だろうが友人の恋模様はさぞかし良いネタなのだろう。ひとしきり話して仕事に戻る生徒たちに何処かげんなりしていれば、少しして注文品を持って戻ってきた彼女は楽しげな友人達の様子が気になったようできょとんとしており。「いや何かミスコンとミスターコンの優勝者が………やっぱ何でもない。飯ありがとな。」と先程まで(自分以外が)盛り上がっていた内容を説明しようとするも、何だかコンテスト参加者の当人たちが話題にするには少しばかり憚られるような気がしては誤魔化すように運んできてくれた料理の方へと話題を逸らし。 )

？？？
いーえ！あのね、このケチャップで書いてあるねこちゃんはみきが書いたの！せんせーは特別にハートも描いちゃいました。


( ミスコンとミスターコンの優勝者が、の後のセリフは残念ながら聞けずにこてりとみきも首を傾げるだけで。後で誰かに聞いてみようかな、と決意をしては優勝者にそんな特典がつくとは知らずに悲鳴をあげるの未来も遠くは無いのだけれど。だがしかし彼の誘導通りにあっさりと店員の仕事へと戻れば可愛らしい猫とハートが描かれたオムライスを彼の前にサーブして。それからコーヒーはいつも彼が飲んでいるブラック。どうやら他のお客さんに出す時はそれぞれの動物やら得意な動物しか書かないらしくみきの独断によって描かれたハートは彼限定のサービス。そうしてちょうど彼を見上げるようにその場に少ししゃがみこんでは、猫のポーズのように両の拳を顔の横に持ってきて「 美味しくなぁれ、にゃんにゃんにゃん！ 」とにこにこ花のように笑いながらおまじないを。本来ならば料理にかけるおまじないなのだけれど、思わず彼を見つめてしまったのはご愛嬌ということで。美味しくなるおまじないだよー、だなんてそのままの状態でへにゃりと頬を緩めればやはり少しだけ気恥しさはあるのか薄紅色に頬を染めて。 )

そりゃどーも。……つーか絵上手いな御影。

( ＂特別＂＂ハート＂という単語に近い席の男性客が何人かちらりと此方を見たような気がするが、その少しだけ棘のある視線には気付かないフリをしておこう。それにしてもケチャップでここまで可愛らしい絵が描けるとは、と感心してはほんの少し食べるのが勿体無く感じてしまう。そんなことを考えていればふとしゃがみこんだ彼女へと視線を向けて「？何───、………っふ、おまじないね。さんきゅ。」突然のにゃんにゃんポーズに暫し固まるも、あざとい程の可愛さとその後に少しだけ照れくさそうに頬を染める彼女が何だか愛しくて釣られるように柔らかい笑みを零し。なるほど、見た目的にも可愛らしい彼女たちが料理を提供するたびにこうして＂おまじない＂をやるのであればこの人気も納得だと頷いて。しかし頭の片隅でほんの少しだけ気になったのは、執事姿とはいえ同じように耳や尻尾を着けている男子たちもこういったサービスをするのだろうか──。とはさすがに口には出さないまま、おまじないを受けてさぞ美味しくなったであろうコーヒーにまず口を付けて。 )

えへへ、猫ちゃんの絵いっぱい練習したの！
……あのね、上手にかけるようになったらせんせーにオムライス食べてもらう時も可愛くできるかなぁって思って。

( やはり普通のイラストとこうしてケチャップで食品に絵を描くというのやはり違うもので、力を入れ過ぎればその分線が太くなったり暴発したりとなかなか悪戦苦闘した中で頑張れたのはやはり好きな人に可愛いオムライスを食べて欲しいから。後半は周りに聞こえないようにこっそりと小さな声で付け足したのだけれど、みきとしてはそれが大本命の理由であることには間違いなく。─── 当たり前のように彼にまた手料理を食べてもらう予定だということについては全くの無意識だけれど。知らない人にやるおまじないよりも、なぜだか彼にやるおまじないの方がずっとずっと緊張してちょっぴり恥ずかしい。けれど柔らかく笑う目の前の想い人が喜んでくれたのならば恥を忍んでやった甲斐もあるというもので、「 おいしい、？ 」とそのまま頬杖をついてはこてりと首をかしげながら彼を見つめて。いつもブラックコーヒーを飲んでいるのは当然のように知っているのでお砂糖もミルクもなんにも聞かなかったあたりはやはり無意識で、気付いているのはどこか暖かい目でそれを盗み見るクラスメイトのみで。 )