せんせい、あのね。(〆)

お、まじで？
じゃあ俺もまた飲みに行かないとだなー、御影の勇姿を拝みに。

( 学校の無い日とはいえ、これからもアルバイトを続ける意思が彼女にあると知れば漸く学生らしい青春を送れそうな様子にどこかホッとして。『せんせー来てね！』と誘われての今日ではあったが、初めてのバイトということで親心に近い心配が顔を覗かせていた自分が見に行かないという選択肢は元より無くて。だからこそ彼女が店に馴染んでテキパキと動く姿は見ていて何だか誇らしく思えたし、安心(というには大学生たちの件が少しだけ引っかかるが)もしたわけで。様子を見に行くという体でまた行ってやってもいいかもなと笑っていればふと此方の顔を覗き込まれ、何とも彼女らしいお決まりの台詞に一拍置いて苦笑を零し。「…あー、やっぱりそれか。お前ほんと俺を中心にスケジュール組むなって。」そんな苦言も彼女に対しては今更でしかないが、その実そんな予定を少し嬉しく思ってしまう自分には気付かないフリを。用事があったり学校を休んだり、彼女が準備室にやって来ない日は少しだけその静けさを寂しく思ってしまうこともあったりするのは内緒なので。 )

ほんと！？
…………つ、次はちゃんとお姉さんたちに声かけられても断ってね？


( ぱぁ、と表情を輝かせたのもつかの間。慌てて思い出したかのように彼の服の裾を軽く引っ張ってはきゅう…と眉を下げて不安でいっぱいの夕陽色で見つめて。彼がこうして職場に来てくれるのはとっても嬉しいし喜ばしいのだけれど、お友達含め顔の整った男性二人が男だけで飲んでいたらきっと女の人達は放っておかないはず。勿論みきにそんなことを強請る権利も強制する権利もないのだけれど、それでも毎回あんな場面を見てしまったら心臓が持たないと。やっぱり、ということは彼も少なからず予想していた返事なのだろう、自分がこうして彼の元へ通うことが彼の中でも少なからず当たり前になっているのがとても嬉しくてみきの表情は柔らかく綻んで。「 だって大好きだもん。 」なんの恥ずかしげもなくさらりと言ってのければ知ってるでしょ？と言わんばかりに彼のダークブラウンと視線を絡めてはこてりと蠱惑的に首をかしげ。 )

う……、俺としては今日だってちゃんと断るつもりだったんだけど…。
まあまた誰かさんに泣かれても困るしな。…つーかそもそもそんな毎回都合良く声なんてかけられないって。

( 本日の事件()を思い出せば再び不安げに裾を握る彼女に、今日に関してはノリでOKを出した友人のせいだとぽつり。とはいえ結局その後同じ席に着いていたことに変わりはないのでどこか気まずそうに頬を掻いて。しかしこちらとて別に彼女を泣かせたいわけではないので次回はハッキリ断れるように善処するのは大前提、そして少しばかり楽観的に聞こえる言葉は謙遜でも何でも無く自分自身への評価ゆえのもので。いつも聞き慣れているその単語も今日に限ってはやはり回数がぐんと少なかったように今になって思えば、自信ありげに絡められた視線を何だかそのままにする事が出来ずふいと顔を逸らして。「…っ、はいはい。お前には負けるよ。」と、何度言おうが揺らぐ事のないだろう彼女の予定の組み方には素直に白旗を上げて。 )

絶対かけられるもん。
…………せんせーカッコイイから、今日だって声掛けられたの。もうちょっと危機感持ってくださぁい。

( むす、と拗ねた子供のように頬を膨らませてはどうにも自分の顔が整っている自覚のない困った想い人にぷんすことほぼ八つ当たりに近い文句を投げて。彼が自分のことをどう思っているかは分からないけれど、好きな人という事実を差し引いても彼はかっこいいしモテるんだから危機感を持ってもらわなければ困る。みきはわかってるの？と言いたげに彼の服の裾をもう一度くい、と引っ張っては不満気な夕陽で彼を見つめて。もうすっかり聞きなれたはずの自分の告白になぜだか視線を逸らしてしまった彼に不思議そうに首を傾げては「 んふふ。照れてる？可愛い！ 」と彼の顔を覗き込むようにぱたぱたと彼の前に回り込んではにこにこへらへら幸せそうな笑顔を浮かべながらもう一度目線を合わせようと覗き込んで。他の生徒は知らないだろうけど、酔ってるせんせーはちょっと甘々でそれから可愛いのだ。こういう彼の一面を見れるのも特権だなぁと小さな幸せをまたひとつ拾い上げては仕事終わりでいつもは疲れている体はなぜか今日はとっても元気で。 )

危機感って。
…それを言うならお前の方こそ危機感持って仕事してくださーい。

( 咎めるように再び裾を引っ張られても苦笑を零すしか出来ないのだが、贔屓目があったとしても彼女がそう言うのであればさすがにその心配を無下にするほど無神経ではないので次回以降は流されないよう気をつけなければと内心で自らに喝を。しかし危機感を持ってほしいというのであれば大学生たちに絡まれていた彼女も同様で、仕事上確かに逃げることは難しいかもしれないがやはり目にした以上心配にもなるもの。少し意地悪な返しになったものの、普段はあの店主が目を光らせているのならば安心だろうというのは理解しているのだが。わざわざ回り込んでまで顔を覗き込んでくる彼女に「あーうるさい。勇気もクソもあったもんじゃないなお前の告白に関しては。」と、自分の過去の失態話で盛り上がって(？)いた時を引っ張り出せば小さく溜息を吐いて。彼女曰く＂好きと付き合っては伝える際の勇気が違う＂との事なのだが、自分にはどうにも理解しきれないのはジェネレーションギャップ的なそれなのだろうかと首を捻り。 )

み、みき？
みきは別に…何にも気をつけることなんてないけど…？


( 予想だにしていなかった彼の言葉にキョトン、と面食らったかのように瞳を丸くしてはこてりと首をかしげながら危機感を持たなければならないような人間では無いのだと不思議そうに言葉を返して。危機感を持つほど人目を集める容姿でもないし、そもそも居酒屋に来るような大人たちは自分のような子どもは(大人に片思いをしているので自分で言って悲しいけれど)相手にしないだろうと彼の言葉を理解できないのかするりと彼の服の裾から手を離して自身の顎に手を添えては首を傾げたまま考えるようなポーズを。彼の言葉にへらりと笑ってしまえば「 だって好きな人には好きって言いたいもん。高校は3年しかないから。 」と彼とこうして当たり前のように顔を合わせられるのも3年しかないのだから、その中で伝えられることは全部伝えたいのだと。好きだなんだと言っておきながら未だかつて一度も“付き合って”とは言えないのはまだその勇気がないからなのだけれど、それは彼には言わなくて良いことなので内緒。最後の日に言えれば、それで良い。 )

あるよ、気をつけること。お前は可愛いし愛嬌もあるんだから。
…現に今日は声掛けられるだけじゃなくて掴まれてただろ、腕。

( どうやらお互いに自分の事を棚上げにする辺りは似た者同士らしい。自分ではそう思っていないが彼女がカッコイイだの顔が整ってるだの言ってくるのと同じく、きょとんとした後に真剣そうに考える素振りの彼女に滔々と自らが思っている事を語り。大人でも正直危ない人間はいるし、ましてや大学生ならば歳も近いため何ら気にする事なく声を掛けてくるだろう。彼女の希望で＂消毒＂をしたとはいえやはり気になるのかちらりと腕に視線をやって。彼女のこういった前向きな考え方は素直に尊敬するが、その相手が自分だということだけが目下の問題なわけで。「3年間言われ続けることで俺の方に耐性ができるとか考えないのかお前は…。つーか3年だけじゃ終わる気がしないんだけどな。」やれやれと眉を下げながらもふと考える未来はどうしても彼女が隣にいるものばかり。良くも悪くもこの勇気のいらない告白はこれからも続きそうだと、諦め半分期待半分といったような笑みを浮かべてながら彼女を見る目には優しさが滲んでおり。 )

っ、！
そ、れは…。

( まるで彼の真っ直ぐな瞳に射抜かれたように、どくん。と大きく心臓が跳ねれば自分でも自覚をしないうちにどんどんと顔に熱が集まり更にはその瞳から逃げることも出来ずにただただ見つめ合い。“せんせーったら酔ってる？今日はきっとたまたまだよ”だなんて軽口を叩く余裕もなくて、見つめあっているが故に彼の視線が瞳から腕に移動すればみきの脳裏に蘇るのは大学生に腕を掴まれた感覚よりも彼に消毒してもらったときの感覚。腰に粟肌が立ちそうな感覚に思わずぎゅ、と“消毒”してもらった場所を握っては依然彼から瞳を逸らせないままじわりと潤んだ瞳で見つめる他何も出来ず。3年だけじゃ終わる気がしない、なんてからの言葉に思わずくすくすと笑ってしまえば「 卒業してからもせんせーの隣にいていいってこと？ 」と自分が望んでいたことだけれどそれは自分一人が望むだけでは叶わないからと敢えて口には出さなかった言葉を真っ直ぐにキラキラした瞳で問いかけて。だって当然、彼が許してくれるのであればみきはずっとこうして彼にだいすきを伝えたいしもっと言ってしまえば少しでも彼から同じ気持ちが帰ってくれば良いなと思っているのだから。完全に脈ナシとおもっていたけれど、共にいる未来を少しでも考えてくれるならちょっぴり、1ミリくらいは脈はあるのかも！とその瞳はとても嬉しそうに輝いていて。 )

人のこと散々言うけど、
自覚が無いのはお前も一緒なんだからな。

( もしも彼女に酔ってるかと聞かれたら誤魔化す事なく酔っていると答えるだろう。かといって彼女に可愛いと伝えるそれを酒のせいにするつもりも無く、もちろん心からの言葉で。自分たちが女性2人組に声を掛けられて共に席に着いた状態を彼女がどういう気持ちで見ていたのか知るよしは無いが、声を掛けるに留まらずその細い腕を無遠慮に掴んでいた大学生を思いだせば胸の内にはどろりと黒いものが流れる感覚を覚える気がする。そんな気持ちを表に出さないよう比較的明るめの声色で悪戯っぽくべ、と舌を出しては自覚無しに自分たちは似た者同士だと伝え、何事も無かったかのようにスタスタと帰路へ着くため歩みを進めて。まるでこちらが頷く以外の選択肢は認めませんというように自信と輝きに満ちた夕陽色を向けられれば「お前が飽きるまではその勇気のいらない告白劇に付き合ってやってもいいぞって話。」と、溜息混じりに笑いながら遠回しに卒業後の彼女の立ち位置を肯定。若しくはこっちが折れるまで、とはさすがに口には出さないが、そんな未来も悪くないと思ってしまうのは酒のせいにしておこう。 )

ぅ、……。
……ね、ね、嫌だった？嫉妬した？


( きゅう、と痛いほどに胸がときめいてしまえばこの行きようのないときめきを発散できないのがどうしても苦しくて、スタスタと歩いて行く彼の背中をぱたぱた忙しなく追いかければ彼の服の裾をくいくい引っ張り甘ったるい夕陽色で問いかけて。きっと彼のはただの心配で、決してそれ以上の感情なんてないのだろうけれど。それは分かっていてもこの苦しいくらいの胸のときめきは彼にしか直せないのでちょっぴりふざけるようにしなければときめき死んでしまうので。それから彼の言葉にぱぁ！と瞳を輝かせては「 じゃあずーっと飽きないから、ずーっとみきの傍に居てね！ 」とにこにこきらきら嬉しそうに答えていつものように彼の服の裾をちょん、と掴んで。卒業してからもずっとそばに居てもいいんだ、と当たり前のように飽きない前提で話を進めていけば嬉しそうに細められた夕陽には分かりやすく幸せ！嬉しい！とそんな色が滲んでおり。 )

、んー………ナイショ。

( 再び裾を引っ張られれば、自分が隠しているものを引っ張り出そうとするかのような質問を投げかけられて。普段であれば調子に乗るなと一蹴するところではあるが、今日は何だかそんな気になれないのは現場を見てしまったからか酒のせいか。学校でさえ彼女の事を目で追うような男子は一定数いるのに、やはり自分自身を過小評価しすぎている(自分だって人の事を言えないが)節がある。そんな彼女の期待にはわざと否定も肯定もせず、ただ口角をにやりと悪戯に上げてそれ以上は口をつぐみ。一応言葉では＂飽きるまで＂と区切りをつけたつもりなのだが、それをすんなりと跳ね除けて当たり前にずっと傍にいるのだと嬉しそうに宣言されれば「はは、ずーっとか。ほんと欲張りだなお前。」と楽しそうに笑い。未来のことなんて分かるはずも無いのだけれど彼女が言うならきっと本当にそうなりそうにしか思えず、酒のおかげでいつもより緩んだ頬で柔らかい笑顔を零して。 )

！！
……い、いじわるだ！可愛い生徒いじめちゃいけないんだよ、


( てっきりいつものように“調子に乗るな”と一蹴されると思ったのに、酔っているからかそれともただの気まぐれか、目の前の彼から帰ってきたとのは是とも否ともとれるなんとも意地悪なもの。はっきりと否定してくれればそれでいつもの様に終わったのに、こんなにも宙ぶらりんにさせられてしまっては発散しようと思ったときめきがまた胸の中に渦巻いてしまう。みきは真っ赤な顔でﾑｷｬ!と いつものように怖くもない威嚇をしては“せんせーはいっつもそうやってみきのこと弄ぶんだから！”とブツブツ文句を言いながらぷい！とそっぽを向いてしまい。いつもよりふわふわと緩んだ彼の微笑みはみきだけではなく新たに他の女子生徒まで恋に落としてしまいそうな破壊力。それを真正面から食らってときめかないはずがなく、みきは思わず視線を逸らしながら「 っ、……そうだよ、みき欲張りなんだから！せんせーが振り向いてくれるまでずうっと言い続けるもんね！ 」と半ば脅迫めいた言葉を零して。最も、たとえ振り向いてくれたとしても言い続けるので細かく言えば間違っているのだけれど。 )

人聞きが悪いな、いじめてないだろ別に。

( ぷんすこと可愛らしい威嚇を受ければくす、と小さく笑みを零せば、そっぽを向きながらも文句を辞めない彼女の頭にそっと手を乗せて。そしてそのまま「あー可愛い可愛い。俺の生徒は可愛いなぁ。」と態とらしく棒読み、しかし表情は楽しげなもので指通りのいい艶やかな髪ごと雑にわしわしと撫でて。いじめでも弄るでもなく、言葉通り＂可愛がる＂のならばいいだろうと何処か屁理屈に近いものを掲げて笑い。彼女の言葉を額面通りに受け取るのであれば、自分が振り向かない限り本当に彼女はずっと諦めないのだろうか。そうなれば確かにいつかこちらが根負けする日が来るのかもしれないが──、「俺が振り向く以前にお前がいま視線を逸らしているのは何で？」と、先ほどのお返しとばかりに視線を合わせる為にこてんと首を傾げながら、意地悪い笑みと共に顔を覗き込んで。 )

わ゛！
もおー！気持ちが篭ってなぁい！


( ぽん、といつものように大好きな手が頭に乗せられたかと思えばその手は遠慮なくわしゃわしゃと頭を撫で、棒読みで紡がれる“可愛い”に不満げにぷく！と頬を膨らませてるものの彼から頭を撫でられるのは決して嫌では無いので頭の上の手を退けることはなく。あと彼がどことなく楽しそうだから、何だか自分も段々と嬉しくなってきてしまうのだ。好きな人が嬉しかったり楽しかったりするのを見るだけで自分も同じ気持ちになってしまうものなので。こっちを見ろ、と言わんばかりに意地悪く顔を覗き込む彼と疑問形なのに疑問形じゃなく聞こえてしまう言葉にぐ、と言葉を詰まらせては耳まで真っ赤になってしまった顔をちら、と一瞬だけ彼の方に向けてはまた逸らして「 っ、…よ、酔ったせんせーは心臓に悪いの！ 」と言い訳のようにもごもごと責任転嫁( 視線を逸らした原因ではある )をしては、困ったような甘えるような不思議な色の籠った潤んだ夕陽を恐る恐る彼に向けて。 )

それはお前が気付かないだけなんじゃないかー？

( こんなにも気持ちを込めてるのに！と、どの台詞も押し並べて棒読みなのだが、表情だけは未だ楽しそうに笑顔を携えたままで。…とはいえもちろんその言葉自体は本音そのもの。嬉しそうな顔、期待する顔、照れる顔、そして今のように怒ったり不満げな顔ですら可愛いと思ってはいるのだが、きっとそれを誤魔化しなく真っ直ぐ伝えれば真っ赤になるだろうことは想像に容易く。何処となく落ち着かない視線と言葉にくすくすと可笑しそうに笑いながら「あーあ。酔っ払いは御影に嫌われたぁ。」とこれまた態とらしい台詞と共に、おずおずとこちらに向けられる潤んだ夕陽色に気付かないフリをしては両手を上げて何もしません、のポーズを取って。 )

そんなことないもーん。
それにせんせーの言ってる可愛いとみきの欲しい可愛いは別だし！


( 明らかに楽しんでいますと言った様子の彼の笑顔と彼の言葉につーん。と拗ねたようにそっぽを向いてしまえば、そもそも論彼に可愛いと言われるのであれば“生徒として”ではなく“女の子として”言われたいのだと我儘を。無論生徒として可愛いと思ってもらうのもとってもとっても嬉しいのだけれど、けれど彼の中で生徒の枠に収まりたくないみきにとっては心が籠っていようが籠っていなかろうがその意味合いはとっても重要に夏わてくるのだ。あと友也さんから彼のタイプの話も聞いたから、尚更。降参ですといったように両手をあげる彼に対してんべ、といつもの彼の真似をするように舌を出しては「 みきは嫌いな酔っ払いには消毒なんてしてあげませーん。 」と同じ酔っぱらいでももしも他の人だったら消毒だなんて行動はとらないと返して。つまりは簡単に言うと彼のことを嫌うわけがない、ということなのだけれどそれを真っ直ぐに伝えても目の前の彼はのらりくらりと交わすだけだろうからちょっとでもその隙間を縫うような分かりにくい言葉を選んで。 )

我儘だな……ったく──、
…髪、下ろしてんの可愛いよ。

( ノンデリに定評はあれどさすがに求められてる言葉の意味の違いについて心無いことを言うほど疎いわけではなく。拗ねてます、と見せつけてくるような様子にやれやれと眉を下げて呆れたように微笑めばこほんと一息。愛おしそうにその横顔を見つめれば、明らかに＂生徒＂に対してではなく＂彼女個人＂に向けての言葉をぽつり。もちろんそっぽを向く彼女のご機嫌取りな部分も少しだけあったりするのだが、生徒として見る彼女は大抵いつも髪を纏めているイメージがあるわけで。スポ大や台風騒動で髪を下ろしている状態を見る機会はあったものの、改めてハッキリと言葉にするのは初めてではないだろうか。お返しに、というには余りにも好意の詰まった返しに目を丸くして一拍。「、あはは！そうだな、御影は俺のこと大好きだもんなー？」と破顔すれば、優しげに目を細めたまま彼女の夕陽色を真っ直ぐ見つめて。 )

みきわがままだもーん。
それにせんせーってば、─── へ、？

…っ……も、もう終わり！可愛い終了！

( せんせーってばこういう時いっつも濁すんだから、と言いかけた瞬間。みきの小粒な耳にするりと入り込んできた彼の言葉にぴたりと時が止まったかのようにぽかんとした顔で思わず彼の方を見つめて固まれば、漸くみきが動き出せたのはしっかりと意味を咀嚼して理解して彼が褒めてくれた髪を手で持ちカーテンのように真っ赤な顔を隠したとき。欲しいとは言ったけれどこんな不意打ちでくれるなんて聞いてない、なんでどこまでもわがままにどうしようもなくときめいてくらくらする頭でぐるぐる考えるみきの頭にはどうしようもなく愛おしいものを見るような彼のダークブラウンの瞳がずうっと離れないようで。どうやら此方の遠回しなラブコールはしっかりと相手に届いたようで、お酒の力かみきの力かふにゃふにゃと破顔する彼が可愛くて愛おしくて真っ直ぐに絡んだ視線を逸らすことなく「 そうだよ、みきはせんせーのことだいすきなんだから！ 」と彼の笑顔に釣られるように少し赤らんだ頬を柔く弛めてはそのままこの気持ちが全部彼に伝わるようにトン、と人差し指で軽く彼の胸元を押して。 )

えぇ？お前が欲しいって言ったくせにギブアップはえーよ。
…ま、そうやってすぐ照れんのも可愛いけど。

( どうやら彼女の意表をつけた様子。こちらの言動を先読みしていたのか得意げに語っていた彼女はすべての動きを止めたかと思えば、艶やかな黒髪を上手く使って真っ赤な顔を隠すと同時にあっさりと先程までの意見を変えてしまい。我儘という割には思いの外早く退いてしまった様が面白く、してやったとばかりに笑いを零し。しかし彼女が顔を隠したことで此方が見えていないのをいいことに少しだけ距離を詰めては、耳の近く(もちろんそこもしっかり髪でガードされてはいるのだが)で声色から意地悪い笑みを浮かべているのが分かるようにダメ押しの可愛いをぽそりと囁いて。彼女の想いが乗っているような気がする細い指をその手ごと掴めば「物好きめ。……俺だってわざわざ他の奴には消毒なんてしないけどな。」と、小さく呟いて。もちろん絡まれているのが彼女じゃないにしても生徒であれば助けには入るが、その後今回のように求められたとして他の生徒に＂消毒＂をするかと問われれば首を捻るだろう。「消毒はもう終わってるから上書き。」と謎の宣言をしながら、一度消毒と称して触れた箇所に向かって再びするりと手を這わせ。 )

ぅ、…だってそんな突然言われると心の準備ができてな─── っひゃあ！？


( 髪の毛で顔を依然として隠したままぽそぽそとギブアップの言い訳を零していたものの、それは小さな悲鳴によってあっさりと中止され。顔を隠すのも忘れて彼の悪戯っぽい甘く意地悪な声が残る耳を両手で抑えては今何が起こったのか全く理解出来ていない真っ赤な顔(うそ、理解はできているけれど現実かどうかはちょっと分かっていない)で混乱していますとありありと書いてある夕陽色てわ彼を見つめ。だって可愛い終了って言ったのに、それに耳も擽ったいからだめって言ったのに、とぐるぐる混乱する頭で無意識にぽやぽやと熱っぽい視線向けてはぱくぱくと言葉を失った様子で口を開閉させて。するりと簡単に彼に掴まってしまった手は熱く、けれど今自分の手が熱いのか彼の手が熱いのか分からないほど。「 ！ …っ……上書き、…？ 」ぞわぞわと腰元が擽ったくなるような感覚に耐えながらも、ついでに先程消毒されたばかりの箇所に這う彼の指の感覚に声を出さないようにしながらも、そんなことしなくても消毒だけで全部彼に触れられた感覚しか残っていないのにと火照った頭でぼんやりと彼を見つめて。そんなことされたら勘違いしちゃうのに、という気持ちだけは残り残った小さな小さな自分の頭の冷静な部分が胸の中にしまったけれど、「 どして、？ 」と小さな質問はぽろりと唇から零れてしまい。 )