女子生徒 2024-04-30 23:32:52 |
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『…えっ、似合わなっ。』
うっせ。御影いいぞー、もっと先生を褒めろー。
( 普段の様子を問いかけられたにしては少しずるいような気もする解答、どうやらさすがに相手も想像の斜め上だったようで。真顔で出た一言はつい溢れてしまった本音なのだろう。そんな感想にべ、と舌を出しては隣の彼女を抑揚のないトーンでやんやと鼓舞して。友人に言われても他人事のように思えてしまうその思い出に未だ首を捻りつつも、確かに覚えていないとはいえ当時の相手に対して悪い事をしたなと思う。しかし友人の言葉に援護射撃を飛ばして力一杯に頷く彼女をちらりと見ては「……お前には言われたくないけどな、それ。」と隣にしか聞こえない声量でぽつり。普段から好き好きと口癖のように言ってくる彼女の口から勇気がいるなどと言われてもどうにもピンとくるものが無くて。 )
でもその次の日の授業は黒板の半分から下しか文字書けなくて、クラスの子達に文句言われてました!
( にこにこ、きらきら。そんな効果音でもつきそうな屈託のない笑顔を浮かべれば何の嫌味もない無邪気さでさらりと上げて落とすような発言をポロリ。スポーツ大会中のかっこいい彼はもちろん印象的なのだけれどもその後の授業中の彼へのブーイングの嵐もなかなかに印象的だったらしく、脳裏にその光景が蘇ればウフウフと楽しそうに笑って。来年のスポーツ大会も今年同様に頑張ってもらわなければならないので来年も若しかしたらこの光景を見られるかもしれないのが今から楽しみなのだ。ぽそり、と此方にしか聞こえない声量で零された彼の言葉に「 好きって伝えるのと付き合ってってお願いするのはまた別なのー。 」と同じくこそこそと彼に返して。みきの“好き”は伝えようと決意をして出すものではなく口から勝手にこぼれ落ちてしまうものなので、当時のその女の子の告白とは訳が違うのだと。だがしかし今更になって漸く「 …………せんせーやっぱりモテるんじゃん! 」と一瞬スルーしかけた“なのになんでモテるかな”と零した友也さんの言葉をふと思い出せばいつもモテないだのなんだのと言っている彼にほらみろと言ったような夕陽色を向けて。 )
、ばかお前そこは言わなくていい所……。
( 彼女の事だから特に何も考えずに発しただろう追加説明は、もちろん悪気や嫌味などが一切含まれていないことはその純粋すぎる笑顔がすべて物語っていて。援護射撃を求めたつもりがまさか味方(?)から撃たれるとは…と頭を抱えていれば、『…っぷ、あははは!!いやーそれでこそ司!』と、腹を抱えて笑う友人は素晴らしいネタを提供してくれたと言わんばかりに彼女に向けてサムズアップ。「だからうっせーって。お前だって筋肉痛に関して言えば俺とダメージ変わんねーだろ。」と一人反論をしつつもこういった取り止めのないようなやり取りはどこか楽しげで。同じく小声で返される言葉にそういうものなのか…?とイマイチ腑に落ちないような顔をしていれば、一度は流れた台詞をわざわざ拾い上げたらしい彼女から少し圧のある夕陽色を向けられて。「モテないって、こいつが勝手に言ってるだけだって。」と少しばかり無理があるような気がする言い訳をぼやきながら、宴もたけなわに近付いてきた(主に彼女の帰宅時間が気になるためだが)ということで先に支払いを済ませるからと話題から逃げるように立ち上がり。友人には元々誘ったのは此方だということで今日は奢りだと伝えてあるし、席に2人を残してそそくさとその場を離れて。 )
ふふ、あはは!
だってあの時のせんせー生まれたての子鹿みたいで楽しかったんだもん!
( くすくすけらけら楽しそうに笑う此方の2人とは対照的に頭を抱える彼にさらにみきの笑顔は深まって。でもやっぱり1番は自分の作ったお弁当を美味しそうに食べてくれる彼の姿がいちばん思い出深いのだけれど、それは2人だけの思い出として大切に胸の奥に閉まっておくとして。しれっと支払いに向かってしまい上手に話題から彼が逃げたのを良い事にすすす、と静かに友也さんの方へ寄れば耳に唇を寄せて「 せ、せんせーの前に付き合ってた人ってどんな女の人が多かったですか…?好みのタイプとか、…。 」とここぞとばかりにちょっと踏み入った質問を。これでは自分が彼に想いを寄せているというのがモロバレなのだけれどほぼ学校全体にそれがバレている今今更誰かにバレたところでみきとしては痛くも痒くもない。……その相手が彼の親友だということはさておき。─── 一方の会計、他のバイトの粋な(?)計らいによって彼の会計担当は店長。ずっしりとした胴体で相対的に小さく見えてしまうレジをぽちぽちと指先で操作しては4000円です、とさらりと安すぎる合計金額をなんでもない事のように述べつつ「 あの子は良くも悪くも真っ直ぐでしょう。 」と突然静かに問いかけて。親友の娘の想い人、となれば少なからず店長も彼に思うところがあるのかその瞳はどこか優しさが滲んでおり。 )
『ははは!この歳になって生まれたての子鹿は可愛らしいわ!』
( 彼女の絶妙な例えがまたツボに入ったのか上機嫌に笑い続ける友人には非常に苦々しそうな顔を向けるしかなく。そうして散々揶揄われ、更には面倒なことになりそうな追求から上手く逃れて少し───、ひとしきり笑った後に友人の教え子から予想だにしていなかった質問を受けた友也はきょとんと目を丸くして。しかしすぐに何かを察したようにその瞳が輝けば少しだけ考える素振りを。『…ん~、あいつの元カノかぁ……。年上とか年下とかはあんまり関係無かったけど、イメージでいうと綺麗めな子とか多かったかな。あ、あいつ姉ちゃんと妹いるんだけど2人とも綺麗でさ。目が慣れてるのか肥えてるのか、付き合ってた子は何気に軒並み美人だったなぁ。』と隠す事なく友人の女性遍歴を語れば、確信を得るためなのか目の前の彼女の反応を見るためにちらりと見やって。────レジの前にて、相変わらず威圧感の凄まじい店主がまさか対応してくれるとは思わず本日何度目かの硬直。しかし提示された金額が余りにも安く一瞬固まった後、疑問に口を開きかけた所で先に飛んできた問い掛けにこちらの言葉は再び喉奥へと引っ込み。「え、あ、…そうですね。ほんと良くも悪くもで…まあ大人としてはたまにその真っ直ぐさが羨ましかったり思うときもあるんですけど。」と、その図体に似合わない(失礼)優しい瞳で彼女の事を語る相手に緊張感は少し解けたようで、釣られるようにぽつりと話し。 )
き、綺麗な美人……。
………………そうですか…。
( 今までの人生で“可愛い”はあれど“綺麗”や“美人”とは言われたことがないみきにとって友也さんの答えは衝撃と呼ぶに相応しい威力。まさか反応を見られているとは思いもせずに分かりやすくしょも…と眉を下げて落ち込めば、自分とはほぼ真逆と言っても間違いではないような彼の元恋人たちの傾向をどうやって打破していくかとショックの最中の頭で必死に考えて。彼に“可愛い”と言われたことは過去あれど大体が小動物だとかペットだとかそういうものを見た時の“可愛い”なのでそれはノーカンだろう。手始めに私服の系統から変えてみようかな…と真剣に考えてはやっぱり隣からの視線に気づくことはなく。─── 先程までの緊張は少しほぐれたように言葉を返す彼に店長も思わずはは!と笑ってしまえば一見ただただ明るくて何も考えていない子だと思われがちな親友の娘のことをしっかりと見てくれている彼に好感を抱き。「 もし迷惑でなければ、これからもあの子のこと見てやってください。バイトに来るとね、ずっと貴方の話をしてるんですよ。好きな人が今日ねー、って。 」まるで親のようだ、と自分でも呆れてしまうけれどまぁ生まれた時から見ているのでほぼほぼ第2の親のようなもの。さらりと告げた言葉はみきの片思い相手が彼だと気付いているような口振りで、店長は楽しそうに口角をあげて(顔や雰囲気はめちゃめちゃ怖いのだけれど本人としては祝福してるつもり)目の前の彼を見下ろして 。 )
『…でもね、あいつのこと良く知ってる俺からすると"好きなタイプ"ってなると綺麗系じゃなくて可愛い系だと思うんだよね俺。』
( 友人の教え子と会うのはもちろん今日が初めて、更には会って数時間という浅さでもハッキリ分かるほど彼女の反応はあからさまで。しかしただ打ちひしがれているだけではなく、ショックを受けた様子でも何とか道を模索しているように見えるその強かさは素晴らしいと思う。焼酎の入ったグラスを傾けながら思い出すのは、高校時代とある教育実習生を気にかけていた時の友人の姿。それまでもそれからも彼がお付き合いをした相手とは違い、破天荒で猪突猛進で底抜けに明るくて笑顔が可愛い人。自分と違い恋愛に対してそこまで頓着のない(のにモテるのは少し腹立たしい)友人の口から「好きかもしれない」と聞いたのは今のところその人だけ。 ──もちろん付き合った相手の事も大切にしてはいたようなのだがそれはまた別の話で── そんな相手と目の前の彼女が重なる…わけではないが、好みでいえばきっとこういう子なんだろうなと口には出さず、明らかに自分の友人に対して好意を抱いてくれている彼女に笑いかけて。────「あ、はは。俺が気にかけようとするよりも先に気付いたら隣にいるんで見ざるを得ないというか……って、何しにバイトに来てんだかあいつは…。」冗談めいた口ぶりではあるが、その中身は店主の言葉に頷くのと同義。そもそも迷惑だなんて……と考えるも入学当初はそれに近しい気持ちがあったとはいえ今はもう時効なのでそれは無かったことに。それよりもお世話になってるバイト先でそういう話ばかりだと逆に迷惑を掛けているのではと、相手は第二の親だがこちらとて教師。お世辞にも似合っているとは言えない相手の笑顔に萎縮しながらもぺこ、と頭を下げて。 )
、!
ほ、ホントですか!?
( 髪の毛とかも下ろしてみようかな…なんてところまでしっかりと考え始めてきていた頃、まるで有難い神様からのお告げのようにも感じてしまう友也さんの言葉にしょんぼりしていた表情は途端に輝いて。ずい!と前のめりになって顔を近づけ希望を見出したことによりきらきらぴかぴか輝いた瞳は真っ直ぐに友也さんを見つめており、それならばもしかしたら自分にも希望があるのかもしれないと言わんばかりに優しくこちらに笑いかけている実に頼もしい想い人の友人に確認をするように問いかけて。会った時に好きた人の事を上手に隠し通したのに、本人が目の前におらず尚且つすっかり気を許してしまったが故にもう自分が誰のことを想っているかは誰が見ても明らかなことは本人は全く気づいておらず。?─── 『 アッハッハ、俺が知る限りみきは欲しいものや好きな物を素直に口にしない子だったから嬉しい傾向ですよ。 』天真爛漫に見えて変なところで遠慮がちな親友の娘、長女なのも相まっていつも何か欲しいものがあっても弟を優先したり“みきだいじょうぶ!”とへらへら笑って遠慮するようだった子がこんなにも好きを前面に出して欲を見せているのが何だかとても嬉しくて、身内の欲目もあるけれどそれが可愛くて仕方がない。改めて『 …親にも俺にも我儘を言わない子がこんなに気持ちを出せているのが嬉しくてね。本当に、みきをよろしく頼みます。 』と一言親代わりに真っ直ぐ伝えては大きな大きな手でぽん、と彼の肩に手に手を置いてはそのままぺこりと頭を下げて厨房の方へとまたのしのし戻っていき。 )
『…、まあ俺の予想だから司には内緒で!もし当たってたとしても、あいつの事だから照れ隠しで否定するかもだし俺しばかれちゃう!
──…さっきみたいにたまにデリカシーの無いこと言うけど悪い奴じゃないし、一度懐に入れた…っていう言い方はおかしいかな、でもそういう相手はものすごく大切にするタイプなんだよ。
御影ちゃん、あいつのことよろしくね。」
( ずい、と無防備に顔を近付けてくる彼女に気圧されて目を丸くさせるも、すぐさま人懐っこい笑顔を浮かべてはこの話はここだけの秘密だとウインク混じりに伝えて。しかしふと真面目な顔をすれば明るさ100%といった笑顔は優しさの込もったものへと変わり、親友ならではといった彼への信頼を言葉にして。友人の立場上今はまだ難しいかもしれないが、何となく目の前の彼女とならあいつらしく居られるかもだなんて考えてしまってはにっこりと微笑んで。────豪快に笑いながら彼女の過去を知る店主から語られたのは自分がまったく知らない彼女で。欲しい物はご褒美として強請られるし、好きな物…毎日飽きもせず好き好き伝えてくるが??と酔いのまわっている頭には一杯に疑問符が浮かび上がり。しかしそれを(自分が関わっていると自負したうえで)良い傾向だと言われれば正直なところ嬉しく思ってしまう。確かに最近でこそ少し我儘を言ってくることもあるがそれだって些細で可愛らしい程度のもの。少しずつ彼女本人も知らないうちに心の奥の部分を開いてきてくれているならばそれは教師としてもそれ以外でも大変喜ばしいことで。大きな手がずしりと肩に置かれればまたほんの少しだけ緊張するも「…はは、俺には勿体無いくらいのお言葉ですね。こちらこそ大切なお嬢さんを預けてもらうにあたって信頼して頂いて嬉しい限りですよ。まだ教師として若輩者ですけど、精一杯頑張らせていただきます。」と返すように再びぺこりと頭を下げ、厨房へと戻る大きな背中を見送っては自分も席に戻ろうと。 )
、……ふふ、はい!
任せてください!
( 外堀から埋めるのよ、と年上キラーの友人に言われた通りにしようと絶賛努力中なわけだけれど、いざこうして想い人の親友から彼のことを実際に頼まれてしまえばちょっとだけ擽ったいような照れくさいような、ふわふわと中に浮かぶような幸せな心地を感じればふにゃりと花が綻ぶような笑顔を浮かべてこくりと頷いて。 素敵な人だなぁ、と自分の親友のことをしっかりと理解した上でこうして話してくれる真っ直ぐさにポカポカと心が暖かくなるような感覚がして。「 あのね、みきが花嫁修業してるのせんせーの為なんです。まだ片思いですけど。……きっと素敵なお嫁さんになってみせますから、友也さんのお友達を好きにならせてくださいね。 」こそこそとお会計に立った彼がいつ戻ってきても良いように小さな声で耳元で囁けば、きっとこの人なら大丈夫だろうと“お友達をください”では決してない、好きでいることを懇願するような言葉をぽそり。決して世間から褒められるような恋では無いし、思春期特有の一過性のものだと言われてしまえばそれまでなのだけれど。それでもみきはこの恋は絶対に幸せにさせたいのだと柔らかな瞳で微笑んで。 )
『!…ああ、なるほどね!つーかすでに充分すぎるくらいお通し美味しかったよ。むしろアイツに御影ちゃんは勿体無いくらいだな!』
( 何とも頼もしい返事にどこか安心したような笑みを浮かべれば、始めの方に彼女との会話で出た"花嫁修行"の相手を改めて知らされれば納得したとこくこく頷いて。実際に食した彼女お手製のお通しはとても美味しくて、まだ学生の身ながらに今の恋を成就させたその更に先を見据えたような彼女の行動力は素直に凄いと思う。懇願するような台詞を否定する権利など此方にはもちろん無いしそもそも否定する気も無い。友人が間違いを犯すような人間で無いことは知っているし、たぶんこの子もその辺は理解しているのだろうと第三者ならではのどこか楽観的な安心を覚えて。こんな良い子がね~と腕を組んで大袈裟にうんうん唸っていれば「……なに、今の間にお前らそんな仲良くなってんの?コミュ力高い組はすげーな。」と、席を立つ前よりも近い距離にいる友人と教え子にきょとんと目を丸くさせて話題の人物が帰還して。 )
ふふ!良かったあ。
……でもね、まだメロメロにできるくらいじゃないのでもっといっぱい花嫁修業してせんせーの方から離れないでって言わせるのが目標なんです。
( 親友ならではの厳しい言葉に思わずくすくすと可笑しそうに笑ってしまえば、まだ彼が帰ってきていないことを確認するように夕陽色の瞳をキョロキョロ彷徨わせたあとにまた密やかな声で自分の中でひっそりと立てていた目標までも友也さんに暴露して。ちょうどその暴露をした直後ほどに彼が帰ってくれば、確かに彼が席を立った時よりも随分と物理的にも距離が近くなった自分たちの状況とダークブラウンの瞳を丸くさせる彼を交互に見つめてはぷは!と吹き出してしまい「 あのね、みきの将来の夢について話してたの! 」と嘘では無いけれど事実と言うにはあまりに言葉足らずな回答を。嫉妬した?なんて聞けるほどの関係では無いしそもそも聞いたところで彼はしれっとした顔で首を横に振るだけだろうと言うことがあまりにも簡単に想像できてしまうために残念ながらそれは諦め、いつか嫉妬とかもしてくれるようになればいいなぁなんて片思い少女の淡い願いは心の中で静かにとけて。 )
将来の夢ぇ?
どーせまた俺の──じゃなくて、えっと…あぁそうだ、教師だっけ。お前の夢。
( 彼女の立てているらしい目標は何とも強かで明確なもので、ましてや仮に目標達成となれば友人のそんな姿今までに見た事が無いとの好奇心から『それ面白そう!俺御影ちゃんのこと応援するわー!』と声を出した直後に戻ってきた渦中の人物のきょとんとした顔に彼女と同じく吹き出して。── 一方、戻ってきたばかりで何も分からずに笑われている自分としては少し複雑な気がしなくもない。彼女から話の内容を聞かされれば、「俺のお嫁さんとか言ってんだろ」と言葉を紡ぎそうになったところで友人の存在が口にストップをかけて。すでに彼女本人によってその心の内が暴露されているとは思っておらず、席に座りながら誤魔化すように以前一度だけ聞いた夢を話題に上げて。『えっ?そうなの!?』と先にその話題で盛り上がっていたはずの友人が彼女に向き直ることには少し首を傾げたが。 )
!
わ、わー!!!もうこんな時間!みき帰らなきゃ!!
( うっかり将来の夢とこぼしてしまったが故の指摘に大人2人たちの中で齟齬が出始めたのを見ては、まずい!とあわあわ慌てながら腕時計も無ければ店内に壁掛け時計も無いのだが時間について言及をしながらガタ!と立ち上がり。「 大変だー、まだ話したいけどお父さんに怒られちゃうなあ! 」若干演技力に問題はあるものの“自分はまだこの話題で話したいけど時間が無いです”をアピールしながらテキパキ机上を片付けて自分の賄い皿と一緒に殆どの空食器を器用にぱたぱた厨房に持っていき。そうして再度戻ってくれば「 せんせーたちは二次会?に行くの? 」と言い慣れていないからこその疑問符のついた質問を投げ掛けて。いくらみきの恋心を知っている( ことを彼は知らない )とはいえ、せっかくの親友との飲み会。このまま解散ということはないのだろうと“途中まで一緒に帰ろ?”というお強請りを飲み込んでこてりと首をかしげ。 )
?……あー、まあ俺らも結構居座ったしそろそろ出るか。
『そうだなぁ。御影ちゃんご馳走様!あ、司もな!』
( 自分も人の事を言える程で無いにしても彼女の演技も相当あからさますぎて。訝しげにしながらも、彼女の言葉に自分のスマホを見れば確かに夜も更けてきているのも事実。ほとんどの空いた皿をテキパキと片付けられればそれまで怪訝に考えていたことなどすっかり頭から飛んでしまい、そろそろ退店かと声を掛けて。店員としての彼女へ礼をひとつと奢ってもらったことで自分にも笑顔を向けてくる友人。ついでのような言い方はわざとだと分かっているのでそこは特に問題無し。戻ってきた彼女から二軒目を問われれば少し悩む素振りをするが、友人の反応を見るに彼もどちらでも良さそうなので「んー……いや、今日はここだけでいいよな。こんな時間だし御影送っていくわ。」と、友人に向けて確認を。これまでのバイト終わりは1人で帰っているのかもしれないが、今日はさすがに手放しで解散というには教師として後ろ髪を引かれそうで。『おっけー。さすが酔ってても"先生"なんだなお前。』と揶揄われながら席を立って。 )
えっ。
いいの…?
( どうやら本日の親友飲み会はこれで解散のようで、さらに送ってくだなんて言われてしまえば嬉しさ半分驚き半分で丸い瞳をさらにまん丸にさせて。彼の言葉に賛同する友也さんの方にも本当にいいのかな、というような視線を向けては、だけどその瞳の奥では一緒に帰れる!嬉しい!というわくわくとそわそわが隠しきれずに「 ひ、1人で帰れますか……? 」と混乱のあまり成人男性にはおおよそ聞かないであろう質問をぽつり。絶対に自分よりは1人で帰れるはずなのだとはちゃんとわかっているし、どちらかと言えば“せっかく2人でご飯なのにここで解散でいいんですか?”ということを聞きたかったのだけれどそれはさておき。酔っていても教師、との言葉にそうなんです!せんせーはいつだってちゃんとせんせーなんですよ!と同意もしたかったのだけれどそれもやっぱりさておき。不安そうに揺れながらもどこかその奥で期待のまじる夕陽色で彼と彼の親友を見つめてはこて、と静かに首を傾げ。 )
こんな時間に1人で帰すわけないだろ、俺が知らない時ならまだしも。
( 店を出れば飲み屋街の賑やかな声のほとんどは同じように帰路に着く人たちの物が多くなっており。嫌な意味ではない溜息を吐きながら当たり前だろというトーンで語るも、本音を言えば知らない時ですら1人でこの夜道を帰っているのではと考えるとどうしても不安は湧いてくるのだが。出会って間もない友也ですら向けられた瞳にどんな感情が入っているのかが分かってしまうほど彼女の夕陽色はその気持ちを雄弁に語っているようで。しかし突如として投げかけられた突飛な台詞での質問にピタリと動きが止まれば、先に吹き出してしまったのは自分の方。「──っぷ、あははは!と、友也も1人が危ないなら、"先生"が送ってやってもいーぞ?」と腹を抱えて笑いながら彼女の言葉に乗って友人を揶揄えば『いらねーよ!お前が先生なら俺は校長だわ!』と意味の分からない低学年男子のような返ししか出てこないのは彼も酒で上手く頭が回っていないのだろう。そうして一頻り笑った後ようやく落ち着けば目に滲んだ笑い涙を拭い、「……はー…んじゃ帰るか。御影行くぞ…あ、店長さんに改めてよろしく伝えといて。友也も今日さんきゅ、またな。」と彼女の家方面へ足を進めて。その様子を見た友人は『おー。御影ちゃんも今日ほんとありがとねー!』とその場でしばし2人の背中を見送るために立ち止まったまま、片想い、ね。と呟いた一言は周りの喧騒に溶けて。 )
……えへへ。
せんせーやさしい。ありがと。
( いつもこの後に続く“だいすき”の言葉は今日は我慢。嬉しそうにふにゃりと頬を弛めながらその代わりに感謝の言葉を零せば、混乱の最中でありながらもなんとか投げかけた質問がどうやら彼のツボに入ったらしく、親友同士ならではのまるで自分と同級生のような軽いやり取りをぽけ、、と眺めては仲良しだなぁなんて当たり前のことをぼんやり思ったりして。お酒を飲んだ親友同士のやり取りは男子高校生のように軽やかで何だかちょっと羨ましさすら感じてしまう、男同士の友情というものは女の友情とは形やタイプは違えど少しキラキラ楽しそうに見えるので。お疲れ様でーす、と厨房の人たちに挨拶をすればそれぞれおつかれーだとかばいばーいだとか常連の人たちにまでわいわいと声をかけられながら店から出ては友也さんへと大きく手を振りながら「 こちらこそありがとうございました!また来てくださいねー! 」とすっかり仲良くなった様子でにこにこと別れの挨拶を交わしながら帰路につき。 )?
─── はー…風きもち……。
( 友人と別れ駅前の繁華街からも抜けて住宅が立ち並ぶ通りに入れば、人は疎らで時折吹く風が酒で熱った顔を撫でるのが気持ち良く。ちょっとした植え込みから虫の声が聞こえたりすれば夏も終わりに近付いて秋が近付いてくる気配を薄らと感じる夜、「そういや御影、バイトは夏休みの間だけなんだっけ?」と、隣を歩く彼女のバイトも終わりが近いのではとふと思い出し。仕事中の生き生きとした姿、帰り際には従業員同士どころか店にいた客からも声をかけられるというちょっとした人気っぷりを見た後だと少し勿体無いような気もしてしまう。とはいえそもそも彼女は普段から家事を担っているらしいので、それを蔑ろにしてまでバイトを勧めるということはもちろんしないしする権利も無いのだが。 )
うん、普段はおうちのお手伝いとかしなきゃいけないから。
でもお店の人手が足りない日とか学校の無い日は出ようかなぁって思ってるよ!このバイト楽しいもん!
( まもなく秋が近づいていることを示唆するように夜になると少しだけ冷たくなった風がとても心地よく、夜空を照らす星たちと閑静な住宅街の中で聞こえてくる虫たちの声以外は自分たちしかいない2人きりの帰り道。幸せだなぁとるんるん気分で歩いていれば、ふと隣からなげかけられた質問にこくりと頷いては本当はこの夏休み期間でぱったりと辞める予定だったけれど思っていたよりも楽しくてやりがいのあるこのバイトを続ける意思があることを答えて。元々人見知りも全くしない性格だし知らない人とのコミュニケーションも特に不自由はしない為か店にも常連さんたちにも溶け込むのがとても早かったようで、最低週一という少ない頻度ではあれど社会勉強や花嫁修業の一環としてこのバイトを続けるように親や店長たちと相談中らしく。それにね、とふわふわ機嫌良さそうな様子でひょっこりと彼を覗き込めば「 学校ある日にバイトあるとせんせーと過ごす時間短くなっちゃうもん。 」と自分が何よりも楽しみにしている準備室への通い妻 ─── もといせんせーとお話する時間が無くなってしまうのが嫌なのだと真っ直ぐに彼の瞳を見上げて微笑み。 )
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