女子生徒 2024-04-30 23:32:52 |
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おー。
多分そろそろ来るとは思う、俺のが先に着いただけだから。
( 声の主を認識するやいなやいつも通りの笑顔で嬉しそうに駆け寄ってくる彼女に、同じく笑みを返しながら片手をひらりと上げて。スマホで時間を確認しては連れは後で来ると告げ、彼女に案内されるがまま用意してもらっていた席へと促されれば、おしぼりを渡すまでの手際の良さに「ちゃんと仕事してんじゃん。」と笑みを浮かべて。何だか参観日に来る親のような気持ちになりそうだが、余りにも彼女の態度と声色が顕著すぎたせいか店内にいた常連らしき客数名がこちらを見てくるおかげでほんの少しだけ恥ずかしさを覚えて。席についてすぐに再び入り口の扉が開く音と共に聞き慣れた声が聞こえてくれば、「お、来た。」と呟いて友人が到着した旨をちらりと彼女に目線で示して。 )
えへへ。
お客さんにもよく褒めてもらえるんだよー。
( 待ち合わせに早く着いても待ち合わせ場所で大人しく待っている自分にとって、先に目的地に一人で行くという大人の男性のフランクな友情になるほど…!と若干のカルチャーショックを受けつつもて接客の手際を褒められればふにゃふにゃと嬉しそうに笑って。ちらり、と常連さんたちの方を振り返れば皆ちょっぴり不自然に視線を逸らすけれどもみきは今それどころでは無いので特に言及はなく。自分が普段働いている場所に彼がいるというのが何だか不思議で気恥ずかしくて、普段よりちょっぴり緊張してしまいそうになるけれど入店音が聞こえればふとそちらに顔を向け。彼の説明と同時に卒業アルバムで見た人だ!とぱたぱた駆け寄れば「 いらっしゃいませ!お待ち合わせですよね、鳴海先生の教え子の御影です!はじめまして! 」と営業スマイルではない純粋な満面の笑顔でしっかり挨拶をしてから席へご案内。やはり外堀から埋めていくには彼の友人ともしっかり仲良しにならねばならないので。 )
『おー!本物の御影ちゃん!司から聞いてたけどほんと可愛い子だね~。俺は友也っていいます、初めまして。御影ちゃんってさー、──』
( 席に着いても尚にこにこと彼女に向かって話し続ける友人はそのままに、しかし話を遮るように「御影、とりあえず生2つ。あとお前のでも店長さんのでも、オススメを3つ4つ頼む。」と悪びれもせずに割り込んでは友人のいらないマシンガントーク(になりそうだったもの)を力技でストップさせて。相手だって席に案内されてからまだ一言も自分と言葉を交わしていないし、お互いにこういう雑な扱いが出来るのも長年の友人として良く知った間柄だからこそ。半ば強引に話を遮った自分に『お前なー。』と不満そうなものが本日ようやく友人から自分に向けられた一言目。と言っても相手もさほど気にしている様子もなく会話の矛先はすでに自分に向いているため、彼女も仕事に戻りやすいだろうと。 )
友也さん…。
─── ぁ。はぁい!ちょっと待っててね!友也さんも、ごゆっくり!
( どちらかといえばお喋りという訳では無い彼とは対象的な彼の友人のマシンガントークに思わずぽけ、と呆気にとられてしまったけれど彼からの注文にハッと我に返ればへらりと微笑んではパタパタと厨房の方へと。何を言おうとしてたんだろう…と“御影ちゃんってさー”の続きが全く思い浮かばずに首を捻りながらオーダーを店長に通せば取り敢えずはお通しとファーストドリンクを持っていかねばとビールサーバーでビールを注いでいき。今日がそこまで店内が混んでいる訳では無いのでバタバタせずに彼に接客できることにラッキーだと頬を弛めつつもふと『司から聞いてたけどほんとに可愛い子』という単語がフラッシュバックすれば彼がどう友也さんに自分のことを説明していたのかが気になりそわそわと胸が高鳴って。「 ─── お待たせしました!生ビール2つとお通しです。今日のお通しはみきが作ったんだよー。 」とそんな胸のソワソワを抱えながら生ビールをふたつ丁寧に彼らのテーブルに置けば、自信作です!と言わんばかりににこにこ笑顔を浮かべながら本日お通しとして作った胡麻ナムルと砂肝や塩昆布を和えたものも続けてことりと机上に置いて。 )
…ったく、お前は来て早々うるさいなほんと。
( はいはーい、と去っていく彼女にひらひらと手を振る友人に、頬杖つきながら溜息吐いて。今回は教え子のバイト先に誘われたからということで、いつものスパンより大分短めに彼とこうして会って飲む事になったわけだがやはり気兼ね無い関係はいいものだと自然に頬は緩み。確かに彼に教え子のことを話したことはあるのだが当時特に他意はなく、それを本人に伝えられた事で彼女の内心がそわついていることなどもちろん知る由なく。──少しして彼女が戻ってくればその手にはビールだけではなく彼女お手製とのお通しが。何ともツマミに最適なそれに、先日の家で振る舞ってもらったものを思い出せばなるほど。こうしてここで腕を磨いていたのかと改めて納得して。『え、御影ちゃん作ったの!?美味そう、凄いね料理もできるんだ。』とニコニコ絡んでいく友人に「美味そうじゃなくて美味いんだよ実際。ハイお疲れ。」と乾杯を促せば、箸をつける前から彼女の腕前をよく知っているらしい友達にきょとんとした視線を向ける彼に気付かずキンキンに冷えたビールを喉に通して。 )
エヘ。
花嫁修業中ですから!
( どちらかといえばコミュニケーション能力や順応性が高いみきも同じようににこにこ笑いながら人見知りすることなく会話のキャッチボールを交わしていけば、“実際美味い”だなんて実際に自分の手料理を食べたことがある人にしか言えないセリフをさらりと述べた彼に思わず頬が緩んでしまい。……言わずもがな“誰の花嫁か”なんて分かりきってることなのだけれど、今は彼の友人もいるのでそれについては特に人物の名前が続くことはなく。失礼します、とまた仕事に戻っていき暫くすれば彼からのリクエストであるオススメたちが出来上がっており、刺身の盛り合わせ、枝豆、もつ煮、串焼き盛り合わせ、軟骨の唐揚げと頼んだよりも多いメニューは店長からのサービスだろう。「 お待たせしました!……あのね、店長からちょっぴりサービスだって。あとで挨拶来るって言ってたよ。 」とそれらを彼らのテーブルに運んでいけばほかのお客さんに聞こえないようにこそこそと囁いてはいたずらっぽく笑い。 )
『へー、花嫁!なになに、彼氏いるの?』
( どうやらお互いにコミュニケーション能力が高い者同士、早々に打ち解けた様子。気心の知れた友人ではあるが、"特定の生徒に懐かれている"くらいは伝えたもののそれが"恋愛的な意味で"とはさすがに言い出せず。…もちろん知れたところでそれを小馬鹿にしたり非難するような相手でないことは十二分に承知しているのだが。少しばかり押しの強い友人の質問には「俺の生徒にセクハラすんな。」と(それだけの意味では無い)牽制を。暫くして彼女が運んできた料理は頼んだ品数より多く、その理由を聞けば「まじで?忙しいだろうに店長さんに悪いな。」と粋なサービスに素直に喜んで。写真でしか見たことはないが後で実際に顔を合わせるとなると少し緊張する自分とは反対に『え、店長さんめっちゃいい人じゃん!こりゃお礼に飲みまくってお店に貢献しないとだなー!』と、店主の強面を知らない友人は呑気にビールを呷って。 )
─── ううん。今ね、必死に振り向いてもらおうと頑張ってるんです。でもなかなか上手くいかなくて。
( こて。と緩く首を傾げては続けて悪戯っぽい声色で言葉を紡いでいけばたった一瞬だけちらりと自分の想い人の元へと夕陽色の瞳を向けて。あなたの友人、高校の先生に片思いをしています。だなんて言ってしまったら困ってしまうのは彼の方なのでそれは内緒にするとして。それから少しすれば、店内もどうやら落ち着いてきたらしく身長180後半はあるであろうスキンヘッドの店長(とてつもない強面)が現れれば『 どうも、いらっしゃいませ。みきがいつもお世話になってます。 』とその顔面から想像できないふんわりとした柔らかな笑顔を浮かべて挨拶を。一方のみきは慣れているためにこにこと笑顔を崩すことなく「 店長です! あのね、こっちが鳴海せんせーで、こっちがお友達の友也さん! 」と隣の強面の大男を2人に紹介しては店長にもおんなじように2人の紹介を。なんだか少し親戚の人に自分の好きな人を紹介しているようで(実際似たようなもの)ソワソワしてしまうのだけれど、恐らく店長もそのそわそわを感じ取っているのか暖かな目線で彼とみきを交互に見つめ。 )
『え、そうなの?大丈夫だって、御影ちゃんみたいに可愛くて料理上手な良い子ならすぐ相手の男も落ちるって!
な、司?』
( ほんの一瞬とはいえ彼女の視線がこちらに向けられた事に気付かない訳が無く、素知らぬ振りでツマミに手を伸ばしつつビールを呷っていれば友人から突然振られた矛先に僅かに体が固まって。しかし"いやそんな事無いだろ"なんて言ってしまえば余りにも冷たすぎてさすがに彼から不審に思われるだろう。となれば自分の答えは必然的に絞られて、「あぁ、うん……そうだな。そうなるといいな、うん。」と彼女の恋路を肯定せざるを得なく。友人と、そして時折自分たちの席にやってくる彼女と話をしながらビールも3杯目になったあたりでのしのしとこちらへ向かってくる大きな影に気付かない訳がなく。立ったままの相手と席に座っている自分たち、高さに差があるせいで余計にその威圧感を感じる事になってしまい。その巨体に似つかわしく無い柔らかな物腰は確かにギャップではあるが、やはりそのギャップを感じられる暇が無いほどの圧に飲み込まれては「あ、えっと、どうも……。あの、生物を担当しています鳴海といいます…。御影がいつもお世話に…あぁ、あとさっきその、サービスだとかで頂いちゃいまして……あの、ありがとうございます…。」と、何処か暖かな雰囲気を纏う彼女と店主の視線のやり取りとは正反対にしどろもどろになりながら何とか挨拶を交わして。先に写真を見た事で予備知識を付けられていた分何とか対応できたが友人にはやはり店主の強面の刺激が強かったらしく、先程までのマシンガンな勢いは静かになりを潜めており。 )
ふうん……?
( 年上の男性の意見とは実に心強いものでほっと表情をやわらげたのも束の間。そうなるといい、なんて彼の言葉に含みのある笑顔を浮かべてはまるで他人事のように(そうせざるを得ないのだけれど)言ってのける彼に“それはせんせー次第なんだけどなぁ”と言わんばかりに視線を送り。若しかしたら彼からこの恋路について肯定的な意見を聞いたのは初めてかもしれない、なんて若干情けない現実にガッカリしてしまうけれど少なくともみきはこんなことで挫けるわけもなく。いつもの彼とは違うまた新たな彼の顔に「(緊張してる…!かわいい!)」 と若干ズレているときめきポイントを加算しているみきと同じく、店長もにこにこへらへらと笑いながら『 いえいえ~。みきはね、娘みたいなものですから。普段お世話になっているでしょうし、いっぱい食べていってください。ご友人さんも。 』と自分がまさか怯えられているとは一切思っていないような和やかな口調で会話を交わせば、ぺこりと一礼をしてキッチンへ戻っていき。「 ね、話したら怖くなかったでしょ? 」とのそのそキッチンへ戻っていく店長の後ろ姿を見ながらこそこそと彼に囁けば、なぜだか静かになってしまった友也に不思議そうに首を傾げて。 )
……何だよ。
( あからさまに裏のある笑顔とこちらを見る夕陽色に小さくぽつりと呟いて。けしかけた(但し何も知らないので自覚無しの)友人は気分良さげにビールを飲み進め、『──っは~!御影ちゃんのお通しはもちろんだけど料理全部最高だね…あ、ビールおかわりで!司の分も!』とぐいぐいとジョッキを呷っては連れの分まで勝手に頼む始末。とはいえ自分のジョッキもほぼ空に近いので頼んでくれる事に関しては一向に構わないのだが。「悪いな御影、こいつ今日ペース早いわ。」と、簡単に謝罪を述べる自分自身も少しずつ酒はまわってきているようで、テンションの高い友人に釣られるように頬が緩み始めることが多くなってきていて。強面な顔と圧のある巨体に似合わず終始丁寧に会話を終えた店主にペコペコと頭を下げることしかできず、去っていく大きな背中を見る瞳には薄らと安堵の色が混ざっており。彼女の言う通り話してみれば普通どころか優しすぎるくらいではあるが、やはりその見た目のおかげで怖くないと言えば嘘にはなる。固まっていた友人の金縛りも漸く解けたようで、『……す、すごい人だね…。』と何とか絞り出した感想を述べるのが精一杯のようで。 )
ふふ。なにも~?
( 彼からの追求するような目線から逃れるようにへらりと笑って見せてはその身をひらりと躱すようにそっと逃げ道を作り避けて。あっという間に水のようにビールを飲んでしまう2人に驚いたように瞳をまん丸にしつつも「 あんまり飲みすぎないでね…。 」 と居酒屋の店員としてはあまり推奨されない一言を置いてからドリンカーの元へ向か ─── おうとしたところ、比較的治安が良い店とはいえやはり此処は居酒屋、大学生ほどの若い酔っ払い客がみきの腕を掴み名前や年齢等々を聞き始めてしまいビールを注ぐどころかオーダーすらも通せずに立ち往生してしまい。どうやら目の前から威圧感の塊が居なくなったことにより安心したらしい彼らに思わずくすくすと笑ってしまえば「 うちのお父さんの幼馴染なんです。ああ見えて恋バナ好きの可愛いおじさんですし、なんかね、若い頃は総合格闘技やってたんですって! 」とまぁなんともキャラクター性の濃い店長のことをさらさらと紹介していき。自分の担任では無いが故に彼が自分の身内と話しているのをあまり見た事が無いためか、ちょっぴり心の奥がそわそわとくすぐったい感覚がしてどうやら照れ隠しで店長のプロフィールをぺらぺら話しているというのは彼らには内緒で。 )
あの店長さんと恋バナで盛り上がれる自信ねーよ…。
『き、キャラ濃いね~…強そう……いや実際に強いのか…。』
( 朗らかに大柄強面店主の紹介をする彼女とは正反対に少しばかりトーンダウンした大人2人。良い人なのは分かっていても、下手な事をすれば自分達なんて簡単に捻り潰されそうだと考えてしまっては身震いするしかなく。彼女の内心はもちろん知らず、ましてや彼女の両親より先にほぼ身内と言っても過言にならない色んな意味で強い店主との邂逅に変な緊張から喉が更に乾く気がしてはやはりビールに助けを求めて。そうして色々な話をしながらもこちらの追求だけはひらりと上手く躱せた彼女だったが、物理的に捕まってしまってはさすがに避けることも出来ないようで。『あ。』ツマミに目を落として箸を進めていれば友人のぽつりと零した一言、それに何だと目を向ければ先程までより随分と盛り上がっている大学生グループに捕まる彼女が目に入り。咄嗟に席を立てばきょとんとしている友人を置き去りに楽しげ(但し大学生側だけ)なそちらに近付いていき「───御影。トイレの場所教えてほしいんだけど……おにーさん方、悪いけど店員さん借りてくね。」と、肩に手を回し彼らと彼女の間に入るように優しく引き剥がしてはちらりと大学生に目をやってにっこりと微笑んで。 )
!せんせー。
( 夏休み時期の居酒屋、それはもちろん大学生のたまり場になることも少なくは無いのでこうして絡まれるのは初めてではない。故に困ったなぁどうしようかなぁ、とへらへら営業スマイルを浮かべながら対応をしていたのだけれどふと目の前に現れた影と肩に回された手にキョトンと目を丸くしてそちらを見ればなんと自分の想い人。どこか威圧感すらも感じるその微笑みと“先生”という単語に思わずみきの腕を掴んでいた大学生の手が離れれば「 あ。えと、ご案内します! 」と我に返りその状態のまま御手洗の方へと歩き出して。店内の喧騒が少し遠く聞こえる御手洗の前まで無事にたどり着けばいつもはこういった時店長が目を光らせて対応してくれるのだけれど、なぜだかそんなに忙しくもないはずの今日はそれが無くて正直困っていた所だったので「 せんせー、ありがとう。 」ときっと素直に御手洗の場所を聞く為だけでは無かったのだろう彼を見上げては嬉しそうにふにゃりと微笑んで。 )
…ん、まあ俺はトイレの場所知りたかっただけだから。
( 大人しく手を引いた大学生たちの視線を背中に受けながら彼女に案内されるがまま御手洗いに辿り着けば、漸く肩から手を離して小さく溜息を吐いて。彼女から柔らかい笑顔と共に礼を述べられれば、あくまで言葉通りのスタンスを貫き通すようで。その割にはすぐにトイレに入ることはせず、「居酒屋だから仕方ないかもだけど……やっぱあーいう事よくあんの?」と視線を少しだけ逸らしながらどうしても気になってしまう先程のやり取りに対しぽつりと問い掛けて。娘のようだと言っていた店主が見過ごすとは思えないので、もしかしたら今のはたまたまだったのかもしれない。相手が生徒だからかそれとも彼女だからこそ余計になのかは自分の中でも細かく噛み砕くことはしないにしても、現場を目にしてしまったからにはやはり心配する気持ちが大いに湧き上がり。 )
ふふ。
でも結果的に助けてもらっちゃったもん。だからありがとう。
( やさしい嘘をつく時の彼はちょっぴり分かりやすい。とはいっても普段から彼をつぶさに見ているが故の気付きなのだろうけれど、彼がそういう名目で突き通すのならばそれをわざわざ重箱の隅をつつくようにする必要も無いだろうとみきはただただ嬉しそうにふわふわ笑うだけで。それから続けて投げかけられた彼からの質問に瞳を丸くしては、視線は合わないけれど此方を心配しているんだろうという優しさが十二分に伝わってきて丸まった瞳はゆるゆると蕩けていくように細められ。「 たまにね。でもいつもは店長が助けに来てくれるの。……今日は手を掴まれたからびっくりしちゃった。 」 と困ったようにへらりと笑いながらふと彼の手をそっと手に取ればそのまま先程まで大学生に掴まれていた自身の手首を掴ませるように誘い、消毒ー。なんて言って笑って見せて。基本的にはこうして客に触れられることなどは滅多に無いし、掴まれそうになっても大体店長や他のバイトの人達が助けてくれるので本当はちょっと怖かったらしくそんな人の手の感覚が残ったまま仕事に戻るのはちょっぴり嫌だったので。 )
まあ酒の入ってる人間相手だし、
今のはたまたま店長さんが忙しかっただけかもな。
( 彼女の言葉にはとりあえずまあ良かったと小さく頷いて、やはり普段は店主の助けが入っているのだと返答を貰えればその点は少し安心。今回は稀な方だと知れば、自分が今日店内に居て良かったと少なからずホッとして。大学生なんて尚更、飲酒が解禁される年齢でもある故に羽目を外しやすいのだろう。しかし先程のグループに関してはナンパをしようとした相手の"先生"が同じ店内にいると分かればこれ以降は手を出しにくいはず。そんな事を考えていればふいに手を取られ、ついさっきまで大学生にしっかりと掴まれていた細い手首に伸ばされて。冗談めいた言い方と笑顔ではあるが心の内で何処かまだ怖がっているように感じては、「ん、消毒。」きゅ、と優しく手首を握ればそのまま指先ですりすりと汚れを払うかのように撫でて。 )
!!!!
っ~…………しょ、消毒終わり!みきは仕事に戻ります!
( 冗談半分(半分は本気)だった“消毒”にまさか彼が乗ってくれるとは思わずに暖かくて大きな彼の手に手首を柔く握られてそのままするりと指が這えば、びくりと大きく肩を跳ねさせて思わず唇から漏れそうになった声をなんとか耐えて。大学生に触れられた時には不快感こそあれど何にも感じなかったのに彼に触れられた途端熱を持ち始めた単純な体に自分でも呆れてしまうけれど、このままこれを続けてしまったら仕事が手につかなくなってしまいそうで。みきは片方の手で彼の手をピタ、と止めてはゆるゆると彼の拘束を抜けてそのまま真っ赤な顔でぱたぱたとホールの方へと戻って行─── くかと思えばくるりと振り返り「 ありがと! 」と最後にもう一度お礼を告げては今度こそホールへ戻り、そのまま彼が戻る前に超特急でビールをふたつテーブルに持っていき「 ビールお待たせしました! 」と赤い顔のままビールを提供し、ぺこりと頭を下げてまたぱたぱた忙しなく厨房の方へと戻っていき。 )
………逃げられたか。
( ぴくりと跳ねる肩、見知らぬ大学生たちに掴まれていた時とは明らかに違う表情。彼女の見せてくる全てが愛しく思えて、いつかの時のような悪戯心が──…湧く前に、真っ赤に染まった顔で慌てて距離を取る彼女にきょとんと。最後にわざわざもう一度礼を言うあたりがまた可愛らしく、くす、と笑いながらぽつりと零し。とはいえ彼女は仕事中なのであまり長く引き留めておくわけにいかないのは分かっているため、案内された御手洗に入り。─── 一方でひとり残された友也は、戻ってきた友人の教え子が赤い顔で慌ただしくやってきたかと思えばまたそのまま去っていく勢いに負けて何も声を掛けることが出来ず。ホールの方では常連と見られるおじさん達が『みきちゃん大丈夫だったかい?それにしても彼氏、かっこいい事してくれるねぇ。』と少し見当はずれな言葉を純粋な心配と感心から馴染みの店員に投げかけていて。…暫くして戻ってきた友人に経緯を聞こうにも、席を立った時とは違って何処か機嫌良さげにしている相手には『……お前ちょっと酔ってきてるよな。』と呟くに終わり。「全然。まだ余裕。」と返したものの友也の見解の方が正解に近いが、強いて言ってもまだ軽いほろ酔いくらいなので自分が居ない間に運ばれてきていたビールに口を付けて。 )
『 ─── って、いつもの田中さんが。 』
あ、あの人は彼氏じゃなくて学校の先生で!…………み、みきが、勝手に片思いしてるだけ…ですから、
( 一方厨房にて。バイトのお姉さんが常連のおじさんが言っていたことをそっくりそのままみきに伝えては、みきも未だ熱の引かない頬に更に朱色を散らしてぶんぶんと首と両手を横に振りながらもそもそと事実を呟いていき。いつの時代も禁断の恋というものは第三者から見ても色めき立つものでホールからお客さんに呼ばれないことを良いことにきゃいきゃいとホール担当の女子たちが女子トークに花を咲かせ始め。次わたし注文とりにいきたい!みきちゃんの片思いの相手見たい!とはしゃぐ女子たちをよそに耳をそばだてながらにこにこと強面の店長もご機嫌なのは調理されている魚のみが知ることで。─── そんなこんなで店員たちが盛り上がっている最中、ふと『 すみませぇん、よかったら一緒に飲みませんか? 』『 ボトルで焼酎頼んだんですけど飲みきれなくなっちゃって~。。 』と恐らく女子大生か新卒あたりの若い女性2人組がほろ酔いで頬を赤らめた状態で彼らへと話しかけて。言わずもがな焼酎が飲みきれなくなってしまったというのは話しかける口実であるのだけれど、まだ学生であるみきよりも余程彼らにお似合いの成人済みの女性2人、見目の良い男性2人に逆ナンするというのもおかしい話ではなく。 )
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