女子生徒 2024-04-30 23:32:52 |
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( わなわなと反論をしてくる彼女だが、移動を促せば親の後を追う子供のように大人しく着いてくるのが(何とも言えない表情ではあるが)また可愛らしくて。彼女をひとり部屋に置いてから風呂に入ってしばらく──…と言っても男の一人暮らしなんてシャワーで終わらせるのがほとんど。彼女を差し置いて自分だけ風呂に入る事が少しだけ申し訳ないような気もするが、元々ここで一晩を過ごすつもりなど無かったのだから仕方がない。比較的早い時間で浴室を出てはまだほんのりと濡れた髪のままリビングへと戻り。テレビの中ではタレント達が面白おかしく話をしているのだが、そんなガヤガヤとした音の中でもソファで寝てしまったらしい様子の彼女に目を丸くして。そっと近付いてはベッドに移動してもらう為に一旦起こそうと、少し遠慮気味にその肩を優しく叩いて。 )
───…ったく。
…御影、寝てもいいけど布団でな。風邪引くぞ。
─── …ん、…。
( 好きな人の香りに囲まれた部屋というものは、いくら初めて入る異性の部屋だとしてもとても心穏やかで落ち着くもの。わいわいと程よく賑やかなTVの音も相まってすやすやと寝息を立てていたものの優しく肩を叩かれればきゅ、と眉を寄せた後に薄らと夕陽色の瞳を開けて。ふわりと鼻腔を擽るシャンプーの香りとまだ髪が濡れたままだからなのかいつもよりも少しだけ幼い印象の彼がその瞳に映れば寝起きでぽやぽやとした頭のまま自身の肩を叩いた手を優しく捕まえてすり、と頬に手を添えて。「 ……んへへ。おふろあがりのせんせーだ。 」と彼の言葉に答えることなくふにゃふにゃしたひらがな喋りで思ったことをそのまま口に出せば、愛おしく蕩けた夕陽に彼を真っ直ぐに映してうふうふ笑い。おうちのせんせー、家事をしてるせんせー、お風呂上がりのせんせー、今日だけで初めて見る彼の色んな顔を見られちゃった。と、浅い睡眠明け特有のぼんやりとした頭で満足そうに考えて。 )
っ──、
……あーもー、勝手に運ぶからな?
( 雷や竜巻の注意報が出ているほど外は激しく騒がしいのに、何だか今この部屋の中はとても穏やかな雰囲気さえして。きゅ、と柔らかく掴んでくる小さな手は眠気からか暖かく、そのまま頬擦りされれば庇護欲に近い感情が湧き上がってきそうで。しかし薄く目を開けてくれたかと思えば寝惚けているのか会話のキャッチボールは返ってこず、かと言ってこのまま彼女をソファで寝かせるのは忍びない。夢心地のように柔らかく笑う彼女を見て少し考えた後小さく溜息を吐いて、仕方ないとばかりに掴まれた手を優しく引き抜いては横抱き──何度目かのお姫様抱っこで彼女を運ぶべく、持ち上げようと体を近づけて。 )
、?
ぎゅー。
( 寝ぼけた頭では彼の事を考えるので頭がいっぱいで当の本人の言葉は右から左、そんな中突然彼が自分に近づいてくれば抱きしめてもらえるのかも!とぼんやり頭脳が勘違いをしたらしくそのまま彼の首元に腕を回してぎゅっと抱きしめ。まだ覚醒しきらず、なんなら瞳を閉じたら今すぐにでもまた夢の国への扉を開けてしまう程の意識の中、テストで良い点数を取って訳でもないし転んだ訳でもないのにぎゅーしてる、いい匂い、お風呂上がりだからあったかい、とぼんやりとした頭の中でも好きな人のことに関してはよく頭が回るのでそんなことを考えつつも上機嫌にふわふわ微笑んでは、まだ少し濡れたままの髪を指で梳きながら「 ぬれてる、ふふ。かわいい。だいすき。 」とよしよしと頭を撫でて。ちなみに濡れてる、可愛い、だいすきというのは髪が濡れていると幼く見えて可愛いね、そんなところもだいすき。の略であるのだけれどそれはさておき。風呂上がり特有の体を抱きしめていればだんだんと瞼が重くなり、次に彼の頭を撫でていた手も動きが緩慢になっていけば彼に抱きついたままころっとまた夢の中へと落ちてしまい。 )
はいはい、掴まっ──、!?
( いくら寝惚けているとはいえ持ち上げる際に軽く掴まる程度だろうと思っていれば、思いの外しっかりと回された腕に柔くとも力を込められれば体はぴったりと密着して。一瞬固まるも、形としてはちゃんと掴まってくれているので持ち上げるにはこれ幸い。何とか体勢を整えてベッドへ運ぼうとしていると不意に髪を撫でられて少し肩が跳ねてしまい。「っ。…~~~み、御影…頼むから大人しく……!」と彼女の放つ単語には疑問符を浮かべつつ、何とも言えない擽ったさにぷるぷると体を震わせながらゆっくりとした動きで何とか布団に彼女を下ろし。この短い時間に様々な攻撃()を受けたことで、無防備かつ穏やかな寝顔ですでに再び夢の中へ旅立っている彼女とは正反対に、何処となく険しい顔のまま静かに溜息を吐いて。 )
……ん、…。
( 彼に体を寄せている間は幸せそうにふわふわにこにこ表情も綻んでいたものの、ベッドに下ろされ彼の体が離れていけばその眉はむむ、と顰められ離れていかないでと言わんばかりに無意識に彼の服の裾を掴み。ガタガタと窓を揺らすほどの風とどこかの地域では道路が冠水したらしいほどの大雨のなか、不思議とこの部屋だけが(みきにとっては)穏やかで安心感のあるもので。顰められた眉は少しすればふっと穏やかな寝顔にころりと変わり、「 …せん、せ……だいすき……。 」と無防備な唇から小さく零れ落ちた言葉はどうやら夢の中でも彼に求愛をしているらしいみきらしい言葉。ただこれが別の異性の家だったとしたならばこんなにも警戒心なしにころっと寝落ちしてしまうようなことは決してなく、しっかりとした大人、教師である彼を信頼 ─── もとい残念ながら自分の事をなんとも思っていないのだろうという日々の彼からの対応によるもので。 )
ふう………、!っと、
あー…こいつはもう……!
( やっと寝かしつけた子供を起こさないように頑張る母親とはこんな気持ちなのだろうか。そろそろとその場を離れようとした所で寝ているはずの彼女の眉間には不満げに皺が寄せられ、服を掴まれればくん、と突っ張ってしまい危うく体勢を崩しかけて。何とか保てたもののそれ以上に離れることは出来ずに立ち尽くしていれば、こちらで起こっている静かな戦いなど知らない彼女はへらへらといつもの台詞を。夢でも現実でもやっている事が変わらない彼女が可笑しくてつい笑みが零れては、その穏やかな寝顔に掛かった髪を指先でさらりと除けながら「…警戒心無さすぎ。俺も一応男なんだけど。」と、ぽつり呟いて。もちろん彼女の(ひいてはご両親の)信頼を失うようなことは絶対にしないと言い切れるが、好きだ何だと日頃言う癖にここまで無防備だと少し複雑な気もするようで。とはいえ、彼女のそこ無警戒さを磨き上げてしまったのは紛れも無く自分なのだがそんな事にはこれっぽっちも気付かずに。 )
─── せんせ、…それは食べちゃダメ……それは、……ふぐ太郎の……ごはん……ふふ、……スゥ…。
( 親の心子知らず、とは言うけれどこの場合は教師の心生徒知らずといったところだろうか。一体どんな夢を見ているのか、彼の心中やら葛藤やらはなんにも気付くことなく寝言をむにゃむにゃと零せば楽しそうに頬を弛めて、だがしかし彼の服を掴む手はなかなか緩むことはなくしっかりと握ったまま。数分ほどその状況が続いたうち、だんだんとみきの眉がむむむ、と寄っていけば「 だめ、…食べちゃ、 …お腹壊しちゃッ─── ゆ、…夢か……。 」と恐らく夢の中の彼がとんでもない行動に出たのだろうか、ハッキリと拒否の言葉を零しながら飛び起きて。ぜぇはぁと深呼吸を繰り返した後にそうして隣の彼を見つけるなり彼の頬に両手を添えて「 せ、せんせー!大丈夫?お腹壊してない?痛くない? 」と夢か……。と先程自分で呟いたばかりなのだけれど若干寝ぼけているのか念の為なのか、不安そうな色の滲む夕陽色の瞳で真剣に彼の無事を問いかけて。 )
────おい。
どんな夢見てんだこいつは…。
( こちらの心中を他所にさぞ楽しい夢を見ているのだろう、頬を弛ませる彼女を微笑ましそうに眺めていれば何とも聞き捨てならない寝言が飛び出て。つい反射的にツッコミを入れてしまえば、夢とはいえ彼女の中の自分像に一抹の不安を覚えてしまう。そのまま楽しそうにしていること数分、台詞と表情が段々と渋いものになっていったかと思えば慌てた様子で飛び起きた彼女に頬を両手で挟まれたままじとりとした視線を向けて。「おかげさまでな。さっき食った晩飯はちゃんと人間の食べ物で美味かったし。」と、夢と現実の狭間を未だうろうろとしている彼女に、先ほど食べた現実のご飯をわざわざピックアップしては口元だけにっこりと。 )
よ、良かったあ……やっぱ夢だった…。
びっくりしたよぉ、せんせーが突然ふぐ太郎の餌食べちゃうんだもん。
( 彼の無事を確認しては、はぁあ…と大袈裟にため息を吐いてはじとりとした彼の視線にも負けずに漸くじんわりと覚醒してきたのかその頬をふにふにと触りつつ夢の中の彼の行動をぽつりぽつりと話し始めて。あくまで夢の話なので現実の彼はお腹を壊すどころかどうやら自分の作った夕食に満足してくれているようでみきの表情は嬉しそうに緩められ。だがしかし、そういえばさっき寝たはずのソファよりも随分今自分が座っている場所が柔らかい気がする…と改めて下を見てみればそこは紛れも無いベッドで、みきは思わずピシャリとそのまんまの状態で固まって。今、私、好きな人のベッドに座ってる。と自覚してしまえばじわじわと顔に熱が集まってきて、外の大荒れの天気と同じくみきの心もワッと荒れ始め。「 み、みき、せんせーのベッドで、ね…寝ちゃった…! 」と、ちょっと考えてみればソファで寝ていた自分を彼がベッドに運んでくれたのだと分かるけれど混乱した頭ではそれどころではないのか、はわわ…!と赤くなったり大丈夫!?と焦ったりくるくる表情を変えながら自分の今の状況になぜだか目の前の彼に見れば分かることを報告して。 )
お前は俺を何だと思ってんだ…。
例え飢えても魚の餌は食わねーよ、腹膨れないだろあれじゃ。
( 両手に挟まれた頬はされるがままに、漸く現実へとしっかり着地した様子の彼女へじとりとした視線を投げかけたまま。同じように大きめの溜息を吐くも返す言葉は何だかズレていて、聞きようによってはきちんと腹に溜まるようなものは食べるのではと思わざるを得ないだろう。しかし彼女自身が今いる場所を確認した途端に固まったかと思えば、次いで忙しなく変わる表情に可笑しくなって小さく笑みを浮かべて。「ソファよりは寝心地いいだろたぶん。ていうか今日はお前ここで寝ていいから気にしなくていーよ。……嫌じゃなければだけど。」元々今日は彼女にベッドを使ってもらうつもりだったので心配する言葉には大丈夫だと頷いて。とはいえ勝手に運んだのもそうだが、他人の布団で寝る事に抵抗があるならば話は別。そうなれば残りはソファしかない為、彼女が少しでも快適に寝られるように工夫しないといけないわけで。 )
お、お腹膨れなくても食べちゃダメだよ……。
( 頬に添えた手は特に外されることもなく、どうやら今日は人の目が確実にないせいかちょっぴり彼の警戒心が薄いような気がしてこれ幸いと柔らかな彼の頬をちいちゃな手でしっかりと堪能して。だがしかし想い人の言葉はちゃんと耳ざとく聞いているのか困ったように眉を下げて笑いながら例え腹が脹れたとしても食べないでほしいとやんわりと諭して。家主からの気遣いや優しさにキュ…とときめいてしまうけれど、それはそれとして突然押しかけた身でありながら堂々とベッドを独り占めできるほどの図太さはさすがに持ち合わせておらず「 だ、だめだよ。ソファで寝たら体痛くなっちゃうよ! ……それに、おっきいベッドで1人は寂しいもん。 」と彼の両頬からするりと手を下ろせば高校生にもなってこんなわがままを言うのも恥ずかしいのか小さな声で本心を付け足して。ついでにさらに追記するのならばいつ来るか分からない雷鳴に1人で怯えるのも怖いので彼にそばにいて欲しいのだ。それに好きな人のベッドで眠れるなんてイベントが嫌なわけがなく、ベッドで眠りたいのは山々なので。 )
じゃあ俺が飢える前に御影にまた作ってもらわなきゃだな?
( 実家以外で食べる誰かの手料理というものは存外心に染みたようで、晩ご飯はしっかりと食べ終えたにも関わらず自分の舌はまた彼女の手料理を求めているらしい。こてりと小首を傾げてはにぃ、と口角上げて。まったく普段はどれだけ諫めようがぐいぐいとくるくせに、こういった所は変に律儀な彼女が余計に可愛らしく感じて。「別に1日くらい平気だよ。──…寂しいって言われても……うーん…、じゃあお前が寝るまでここにいるからそれでいいだろ?」窓の外では今か今かと雷が待ち構えている事など知らず、やれやれと溜息を吐いてはベッドの横に腰を下ろして。御影母の"一線を超えなければ"という台詞が妙に耳に残っていて、もちろんそれが無くとも同じ布団で寝るなんてそもそも考えてはいないのだが。 )
!
……えへへ。しょーがないなぁ。
( ぱち。と彼の言葉に大きな瞳を丸くしてはまるで雪が解けていくようにじんわりと頬を緩め、仕方ないだなんて言いつつもその声色は心の底から嬉しそうで愛おしそうで。もしかすると、でもなくどうやら自分は作戦通り好きな人の胃袋を掴むことが出来たようで作戦は大成功。普段からの家のお手伝いやバイト先で店長から料理を教わった甲斐があるというもので、彼が望むのであればいつだって手料理を作ってあげようと幸せにぽかぽか暖かい心でひっそりと決意をして。こんなに我儘を言っても何やかんや彼は甘やかしてくれ、ちょっと子供っぽすぎたかな…なんて小さく自分の狭量さに後悔しつつも決して同じ布団に入ろうとしない彼の気遣いはみきにとってはちょっぴり不満なのか小さく唇を尖らせながらも「 …… ん。 」と誰から見ても納得していなさそうな様子でこくりと頷き。それから渋々と言ったように布団に横になっては、少しでも彼と触れていたい乙女心で先程離したばかりの彼の手を取ってそのまま自分の頬にぴとりと添えさせて。 )
そういやバイト先でも料理してんの?
てっきりホールだけだと思ってたんだけど。
( すでに結婚して家庭を持っている友人の奥さんは料理が上手だと、彼本人か嬉しそうに話しているのを飲みの席でよく聞かされることが多く。そんな友人から『お前なんか普段料理しないんだから、絶対に料理の上手い嫁さん見つけろよ!』なんて言われれば余計なお世話だと笑い飛ばす所までがお決まりの流れ。そんなことを思い出しながら、ふと先ほど作ってくれた料理にしっかりと酒のつまみに最適なものが入っていたことに改めて気付けばそのレシピの出所が気になったようで。こちらの心中など彼女には関係ないようで、一応は頷きながらもむすりと不満げな様子に眉を下げて小さく笑いを零し。そばに居るだけのつもりだったのだが、まさか手を取られたうえに頬に添えさせられる形になるとは。彼女の行動にぱち、と目を丸くしては「…寝にくくないか?」とくすくす笑いながら、手を退けることなくその様子を見守り。 )
んーん、ホールだよ~。
ちょっと早めに行って仕込みとかお手伝いしてる時に教えてもらうの。
( 彼の言葉にふるりと首を横に振っては業務時間外に習っているのだと答えて。お陰様でメニューにはない料理だったりお通しとして出しているようなちょっとしたアテの作り方まで教えて貰えるので個人的にはとても助かっているらしくその表情はどこか自慢げで。普通の料理ならばお母さんから教えて貰えるけれど、さすがにお酒のおつまみならばその道のプロに聞いた方が確実に胃袋を掴めるだろうという悪知恵が働いた結果らしく。彼の為、だなんて言うだけ野暮なのでそこは黙っておくけれどその瞳は真っ直ぐに彼を見つめているためそんな考えはきっと彼にはバレバレなのだろうけど。未だ不満げな表情のまま簡単に自分の顔を覆えてしまう彼の手に頬をすり、と擦り寄らせては「 だってぎゅってできないから…。 」と仕方なく手だけで我慢しているのだと言いたげな瞳で優しげな瞳でこちらを見下ろす彼を見上げ。だって少女漫画なら一緒のお布団で寝れるもん。なんて彼に恋してからというもの何故だかよく選ぶようになってしまった教師と生徒の恋物語たちを思い出してぷく。と頬を膨らませ。 )
へえ、そういうとこ真面目だよな。
…じゃあ御影が作るおつまみは店長さん直伝ってことか、美味いわけだ。
( 動機はどうあれ、時間外に学ぼうとする姿勢は素直に尊敬できるので感心して。ましてや教えてくれる相手が本業なので信頼度は抜群、彼女の料理の腕も更に高まるのだろう。友人の言う"料理の上手い嫁さん"という立ち位置に彼女が収まるのかは神のみぞ知るところではあるが、もしもその腕を奮う相手が自分じゃなければ正直羨ましいという気持ちは持ってしまうかもしれないなと、顔を出した気持ちに対し彼女にバレないよう苦笑を零し。膨らんだ頬で何故だか譲歩していますとでも言わんばかりの彼女に、「だってって言われてもなぁ……つーかそもそも何で当たり前に一緒の布団で寝る前提なんだお前は。」と溜息を吐いては、誘導された手はそのまま彼女の柔らかい頬をむに、と痛くない程度に摘んで。 )
えへ。
店長直伝なのもあるけど、せんせーへの大好きの気持ちもいっぱい入れてますから。
( ふふん、と自慢げに口角を上げては隠し味の愛情も彼が美味しいと思ってくれる理由のひとつなのだとこっそり答えて。ただのプラシーボ効果かもしれないけれど、それでもやはり何も考えずに作った料理と誰かを想って作った料理では圧倒的に後者の方が美味しく上手に作れる気がするのもまた事実。そもそも料理の上達を求めた理由が彼のお嫁さんにいつなっても平気なように、なので当たり前かもしれないけれど彼に作る料理には等しく彼への愛情がこもっているようで。むに、と頬を柔く挟まれれば勿論それに抗う訳もなく自動的に唇を突き出しながら「 んむ。だって雷の日はいつもはつばさをぎゅってして寝てるし、少女漫画ではよくあるもん……。 」 と不満気な瞳でもそもそと答えて。これが冬だったらこう…寒いとか何とか理由を付けてぎゅってできるのだけれど、残念ながらまだまだ夏真っ盛りなので寒いどころかくっつくと弟には暑いと文句を言われてしまうようなレベルなのでなかなか思うようにはいかないらしく言い訳を重ねていき。 )
はは!食べ過ぎたら胸焼けしそうだなそれ。
( 恥ずかしげも無く胸を張って堂々と隠し味を答える彼女が可笑しくも愛しくて、抑えきれず破顔してはくすくすと笑い。彼女がそこまで上達を目指す理由がまさか自分だとは思っておらず、きっと普段から料理が好きだからこそなのだろうと的外れの納得を。自分の舌に慣れ親しんだ実家の味とはまた違い、紛れも無く自分の為だけに作ってくれた料理は彼女からの愛情の味がする。そう考えれば何だかほわほわと心が暖かくなるようで、笑みを浮かべたまま優しい眼差しで彼女を見つめて。突き出された唇のまま器用に言い訳を述べる彼女に「漫画は漫画だし、お前が普段抱きついてんのは弟だろ?……ったく、こっちの気も知らないで…。」と、ひとつひとつ丁寧にその言い訳を潰していけば最後は小さく小さく呟いて。教師という枷のおかげで御影母の言う"一線"を超えることは無いだろうが、それでも一応はひとりの男。色々と我慢せざるを得ない状況を無邪気に押し付けようとしてくる彼女はやはりタチの悪い小悪魔だと眉を下げて。 )
む、胸焼けなんてしないもん!
いっぱい食べたらそれだけみきのこと好きになっちゃうの!
( 彼の笑顔にきゅん。とみきの心の柔らかい部分に改めて恋の矢が突き刺さってしまえば、薄らと染まった頬を膨らませながら照れ隠しに隠し味の効能を嘯いて。残念ながらみきは魔法使いでは無いので手料理にどれだけ愛情を込めてもそんな効能は無いのだけれど、あくまで彼が自分のことを好きになっちゃったらいいなの気持ちである。信じれば夢は叶うって夢の国も言ってるし、それが叶うにしろ叶わないにしろ願うだけならタダなので。丁寧に1つずつ此方の言い訳を潰していく彼にみきの不満気な眉間のシワは更に深まっていくものの全てが正論なのでなんにも言い返すことは出来ず、だがしかし最後の彼のつぶやきだけは上手く聞き取れなかったのか「 ?なあに、? 」その状態のままきょとん、と瞳を丸くすれば全くもって彼が今何と戦っているかもなんにも知らないような真っ直ぐな瞳で不思議そうに彼を見つめるだけで。 )
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