女子生徒 2024-04-30 23:32:52 |
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お小遣い……、
バイトしてないのに偉いな御影。
( 微妙な勘違いはあれどなんとか会話の歯車は噛み合っており、その結果彼女がしっかり者だという再認識に感心の溜息をひとつ。話ぶりから元から新調する予定だったように聞こえるとはいえ、やはり決して安い物とはいえない浴衣を買わせてしまったのではとどこか拭いきれないものがあるのも事実なのだが。薄らと赤い頬でこちらに差し出された手に首を傾げては「じゃあって何だ。…ていうかお前友達と来てんじゃねーの?」と辺りをキョロリ。彼女にナンパ撃退の文言を教えたということはきっと合流する予定があるのではとの推測で、見回りで動く自分に着いてきてはダメだろうと。──彼女の表情が一瞬明るくなったのには気付いたがそれが友人からのジェスチャーによるものだとはもちろん知らず、今更周りを見渡したところで例の"年の差のプロ"はすでに姿を消していて。 )
お、御影もついに働くのかー。…まあ夏休みの間だけっていっても普段やらない事だと疲れも出やすいからあんまり無理するなよ。
………ちなみにだけど何やんの?
( 彼女の努力の結晶だともいえる浴衣は実に良く似合っていて何度見ても愛らしく感じ、それを広げるどこか得意げな様子にはいはいと笑いながら返事を返し。次いで彼女の口から出た言葉に目を丸くしては、態とらしくしみじみとしながらも応援する気持ちと、しかしやはり少しだけ心配するような言葉を続けて。どんな所で働くのだろうと、少し間を置いてから興味深そうに問いかけ。言葉に詰まりながら話す姿は正直怪しさMAXに見えなくもないが、こうしてしばらく待っていても一向に帰ってくる気配のない彼女の友人たちのおかげでその理由は信憑性を増しており。「ふーん……。で、別行動ってなったはいいけどお前は相手が居なくて1人でこんなとこに突っ立ってたんだ?」と意地悪な口ぶりで揶揄うもその内心では、仮に今の発言が本当だった場合に危うくナンパが取っ替え引っ替えやってきそうな状況に何故かこちらが危機感を覚えていて。 )
駅前の居酒屋さん!
昼間は定食屋さんでね、すっごく美味しいんだよ~!
( 教師らしい年上然とした彼の言葉にはぁい、とお行儀よく返事をしながら楽しそうにバイト先の情報をぺらぺらと話していき。補習や学校に彼に会いに行く用事がない日は昼間も働くけれど、基本的にはやはり夕方からの方が店としても人手が欲しいらしく主な勤務は定食屋よりも居酒屋としての勤務が多いのだと。本来の人懐っこさや器用さから特に不安や緊張は無いのか心配そうな彼とは裏腹ににこにこと楽しそうに初出勤を待っている様子で。まるで警察の取調べのように深いとこに突っ込んでくる彼にぎく、と分かりやすく体を強ばらせては「 だ、だってみきが好きなのせんせーだけだし…待ってたら会えるかなって……思って……。 」と、視線を泳がせながら小さな声でごにょごにょと彼の追撃に耐えて。彼に会えるかなとソワソワしていたのは本当だし、彼だけが好きなのも本当なので嘘では無いのだ。嘘では。 )
居酒屋……って、夜も働くのか?
( コンビニやカフェのような所だと勝手に思い込んでいたのでまさかの居酒屋という選択に再び目を丸くして(昼間は定食屋というのも理解はしているが)。駅前ならば人通りが多いし明るいので帰りが遅くなってもそこは比較的安心なのかもしれないが、その分酔っ払いが量産されるという懸念もあるわけで。そんな自分と正反対に楽しみだという感情が分かりやすく漏れている彼女に、頼もしさのような危なっかしさのようなものを感じ。誤魔化すような小さな声が夏祭りの喧騒の中でもしっかり耳に届くのは彼女の声だからだろうか。あちらこちらへと泳ぐ視線にやれやれと溜息を吐いては、「お前なぁ……約束すらしてない相手を…って俺だけど、待つのはさすがに無謀だろ…。───ったく。とりあえず今から出店の方見回りに行くけど?」と、"どうする?"ではなく"行くんだろ?"という目線を彼女に送り。とはいえさすがに手を繋ぐ訳にはいかないので、差し出されたままの手には自分の服の裾を掴む形に収まってもらうわけだが。 )
?うん、夜の10時までだけど…。
あ!店長さんの写真見る?お父さんの幼馴染なの!
( 他にも居酒屋で働いている生徒は何人が居るはずだし、校則で禁止もされていない。彼もそれを知っているはずなのにダークブラウンの瞳を丸くする彼に不思議そうに首を傾げれば、やはり彼の心情を察することは出来ずにマイペースに店長の写真を見せて。にこにこ笑顔のみきと共に映っているのは傭兵帰りと言われても遜色ないガタイの良いスキンヘッドで強面の男性で、恐らくみきの両親もこの風貌の店長のいる店ならば悪さをする酔っぱらいも居ないだろうとの判断らしく。当たり前のように自分が着いていくことをわかってくれる彼に先程までキョドキョドしていた視線はぱぁ!と輝きいつもの様に彼の服の裾をチョン、と指先で掴んで。「 んへへ、今日は夏祭りデートだ。 」 とにこにこるんるん呟けば、きっと仕事でもなければこんなに人混みが暑苦しい場所には来ないであろう彼とこうして夏祭りを歩けなかったと考えれば普段ならば厭わしいと感じる教師陣の巡回も悪くは無いなと隣の彼をちらりと見上げて。 )
へー、知り合いの店なん──こっ…!、…………つ、強そうな人だな…。
( 親御さんの幼馴染と聞けば心持ちが少し軽くなったような気がして。ほ、と小さく安堵の息を吐いて出された写真に目をやれば、余りにも想像の斜め上の見た目につい"怖っ!"と出そうになったがぐっと言葉を飲み込んで。一拍置いて何とか当たり障りの無い感想を返すに留まれたが、やはりその風貌は物珍しいのかまじまじと写真を見続けて。さすがにこの人混みの中を歩くのにどこかしら繋がっていないとこちらが不安になるので、裾を掴んでくれたのを確認してからゆっくり歩き出し。「見回りだから何の色気も無いけどな。」と、彼女ならばそう言うだろうと思っていた単語がやはり出ればへらりと口角を上げ、しかしデートと呼ぶには色々と足りない現状に乾いた笑いを零して。こちらを見上げる夕陽色の瞳にふと気付くと視線を絡ませては「なに。」と首を傾げつつ返し。 )
でしょお。実際すっごく強いってお父さんが言ってた!
でもね、かわいいぬいぐるみとかあげると喜ぶんだよ~。好きな物はいちごタルトなんだって!
( みきは充分に懐いているのか、彼の心を知る由もなくへらへらと笑いながら意外と少女趣味な強面店長のことを説明していき。この店長の強さを自分の父親が知っている不思議についてはそもそも気付いていないのか、みき自身もこれなら怖い人に絡まれても安心だ~ぐらいにしか思っていないらしくいつも通りのほほんとマイペースで。彼の言うとおり本来の仕事は見回りなので浮かれているのは自分ただひとりなのだけれど、それでも浴衣で彼と夏祭り会場を歩く夢は叶っているので「 みきは楽しいからいーの。 」とるんるん答えて。さっきまでずうっと羨ましそうな視線出おっていた手を繋いで夏祭りを楽しんでいるカップル達も自分が満たされた今は不思議と目に入らないもので、じっと彼の横顔を盗み見していたことに気づかれてしまえば「 んーん、好きだなぁって見てただけ! 」と恥ずかしがることもなくさらりと答えて。それと同時に彼の服の裾を掴んだ指先に緩く力を込めては、こうして2人きりにしてくれた友人たちに心の中で多大なる感謝と今度お菓子買ってあげようと小さな決意を。 )
そういうギャップは漫画でしか見たこと無いんだけど…。
……まあ何か、うん、色々と安心したわ。
( 見た目もさることながらその中身まで非常に濃いキャラをお持ちのようだが、これ程までに屈強という言葉が似合う人の元ならば変なことに巻き込まれることはないだろう。そんな知り合いを持つ彼女の父親が自分の中で少しミステリー枠に寄ったこと以外は特に気にすることも無さそうだと二度目の安堵の溜息を。デートとは到底呼べないただの見回り(の付き添い)ですら喜んでくれる彼女はやはり愛しくて、憂鬱でしかなかった仕事に対する気持ちも少し上向きになる気がして。こうしてさらりと告白じみた台詞を聞くのは何度目になるかもう数えてすらいないが、「はいはいありがと。ほんっとブレないなお前は。」と流せるくらいにはこちらも慣れてしまったもので。行き交う人々はそれぞれ自分たちのお喋りやお祭りの雰囲気に夢中で、教師と生徒が一緒に行動しているうえに好きだなんだと会話をしていても誰も気付かないまま夏祭りの楽しげな喧騒に混ざり合って消えていき。 )
ね、ね、せんせーも今度来てくれる?
まりあちゃんたちは女の先生たちで来てくれるんだって!
( 昼間ならばともかく、居酒屋というにはなかなか高校生は入れない場所なので他のバイト先よりも友達を呼べないのが難点。早速仲良しの女性教師たちは来てくれる(酒豪の集まりらしい)が、本命は彼なのできらきらとした瞳で誘いかけ。この間飲み会してたしお酒もそこそこ好きなはず!とあたりを付けてのお誘いなので〝来てくれる?〟というよりは〝来てね?〟というおねだりに近いそれは、意外と自分もバイトくらいできるんだからという大人アピールの為と先日のほろ酔いの彼が可愛かったのでまた見れたらラッキーだなの下心も含まれており。何十回何百回と言われたらさすがの彼も慣れているようでハイハイといつもの様に受け流してくれ、入学当初は丁寧に断ってくれてたなぁと少々懐かしさを感じつつも今の距離感の方が自分としても気が楽なのでそれは特に気にしておらず。「 今年で2年目だもーん、…あ!屋台増えてきたよ、せんせー何が好き? 」 と様々な種類の食べ物屋台を指さしながら首を傾げ。去年生徒から押し付けられたのであろうキャラクターわたあめを片手に巡回している☆先生を見かけたし、禁止ではないのだろうと思いつつ(推奨もされてないだろうが)折角ならば彼の好きな物が食べたくてふわりとこちらまで様々な食べ物の良い香りが漂ってくる屋台たちにまた視線を向けて。 )
ちゃっかり営業してんのかお前は。
気が向いたらなー。
( 働くと決まった矢先にこうしてすでに客を引っ張っている彼女の商売人な一面に可笑しそうな笑いを零せば、お伺いというよりお願いのようなその言い方にわざと曖昧な返事を。しかしすぐに、この夏休み中に友達に声掛けてみるかと頭の中でメンバーをピックアップしているのは内緒。彼女の下心にはもちろん気付く事もなく、それよりも先に声を掛けられているらしい酒豪の女子会と日程が被らないことを祈らなければいけなくて。今年で2年目。しれっとした口調ではあるが想いの強さはその一言すべて詰まっている気がして、諦めと呆れの混ざったような笑みを浮かべ。「飽きずによくもまあ2年も……──あ、俺イカ焼き好き。つーか醤油とかソースの焼ける匂いは総じて反則だろ美味いの確定だし。」指差されたその先に視線を向ければぞろりと立ち並ぶ屋台の数々。音と匂いで客を惹きつけるのは屋台ならではの魅力で、好きな物を聞かれれば同時に鼻腔を擽ってくるイカ焼きや焼きもろこし等の香ばしい香りに言葉が出たのはもはや反射のようなもので。 )
えへ。
待ってるね、店長にもみきの好きな人来るって言っとくから!
( 気が向いたら、だなんて言うけれどこういう時の彼はだいたいみきのおねがい事を叶えてくれることはよく知っている。敢えてそれには言及はせずにただ彼の来店を待っているとだけ返せばいつ来てくれるのかなぁとそわそわわくわく心が踊り。…バイト先をわざわざ酔っ払いに絡まれるリスクのある居酒屋にしたのは、彼にまた料理を作ってあげたい一心で少しでも店長からお酒のアテや料理の作り方を習いたったから、というのは言わなくても良いのでこれも内緒。イカ焼き、と聞けばお酒を飲む男の人らしいチョイスに思わずぷは!と吹き出してしまい、お酒飲みたくならないのかなぁなんて未成年にはまだ分からない大人の葛藤を一応心配してあげたりなんかして。くい、と彼の服の裾を緩く引っ張っては「 じゃあみきイカ焼き食べるから半分こしよ。生徒から1口あげる、は☆先生もよくされてるからいいでしょ? 」 と首を傾げ。去年とか☆先生プリキュ〇のわたあめ持ってたし…と思い出せば今年は果たしてどんな貰い物…もとい貢ぎ物を得ているのかは少し気になるところで。 )
はいは──…いや待って、
それは言わなくていいから。
( せっかく暈した言い回しにしても彼女には真意が伝わっているようで、機嫌良さげに来店を待つ気満々の様子に眉を下げて微笑みながら返事を。…しかけた所で気付いた。バイト先の店長に好きな人が来ると伝えれば、必然的に彼女の父親の耳にも入るのではないだろうかと。娘の恋のお相手が学校の教師だなんて父親の心境としては複雑極まりないはずだと慌ててストップをかけて。彼女の口から思いもよらぬ提案が飛び出せば、先程の質問の意図に遅ればせながら気付き。「ばーか、そんなとこで気遣わなくていいよ。それにイカ焼きなんか食べて万が一浴衣が汚れたら困るし、もっと食べやすくて…ちゃんとお前の好きな物選んできなさい。」ふ、と笑いかけながら彼女の優しい心遣いにはそっと遠慮の意を。実際タレまみれのイカ焼きが浴衣を汚してしまえば困るのは(心境的に)こちらも同じなので。もちろん彼女も食べたいというのであれば別だが、甘い物が好きならば綿飴やりんご飴などの方が良いのではないかとそれらの屋台の方を指差して。 )
へ、?
……???なんで…??店長恋バナ好きだよ…?
( 突然かけられたストップに思わず瞳を丸くしては、特に必要のない店長のプチプロフィールをもう一つだけ披露しながら不思議そうに彼を見つめて。こんなにかっこいい人に片思いしてるんです!と店長に自慢するつもりだったので、彼のストップ理由がどんなに考えても分からずにやっぱり大人の考えることは難しい…と首を傾げ。あっさりと大人の気遣いによって避けられたイカ焼きは、確かに前方にいる浴衣にタレを零して嘆いている女の子を見て確かに自分もやりそうだと妙にその子に親近感が湧いてしまう。それならば、と彼の言葉に甘えて「 じゃありんご飴たべる! 」 と屋台の中でもいちばん大好きなりんご飴を指さして。昨今のフルーツ飴ブームによって別にお祭りじゃなくてもりんご飴を食べられる機会は少なくないけれど、やっぱり浴衣でお祭りで食べるりんご飴はまた格別なのでにこにことみきの表情も嬉しそうで。 )
そういう事じゃ……ってどんだけ出てくるんだよ店長のギャップ。
…とにかく紹介するにしても普通に"学校の先生です"でいいだろ?
( 追加で放り込まれた新たなギャップにもう腹一杯だとツッコミは忘れずに、その追加要素が恋バナ好きなら尚更よろしくないのではと逡巡。こほん、と一拍置けば当たり障りの無い無難な紹介文を提案して。女性陣も行くのであれば自分が行ったところで同じく仲の良い教師の枠に入るだろう。娘を持つ父親の気持ちはまだ分からないが、こちらの心境の面でも彼女の父親に外部から伝わってしまうような事は出来るだけ避けておきたくて。ちょうどよく(その子にとっては良くないが)浴衣を汚してしまった子がいた事ですんなりと考えを変えてくれた彼女に内心安堵し、指された先にあるりんご飴の屋台を見て頷き。「ん、そうしといてくれたら俺も安心する。───すいません、りんご飴ひとつ。」スタスタと屋台の方へ足を向ければポケットからシンプルな小銭入れを取り出し色とりどりのフルーツ飴を並べている若いお兄さんに声をかけて。 )
えー。
好きな人なのにぃ。
( むぅ、と不満げに唇を尖らせたものの、でも彼がそう言うならば仕方が無いと渋々彼の提案を承諾し。彼にとっては『学校の教師であり、好きな人』の認識なのだろうけれどみきにとっては『好きな人であり、学校の教師』 なのでどちらかと言えば好きな人が先なので。それならば彼だということは内緒で店長と恋バナしよう、と結局恋バナをすることには変わりないらしくその瞳は不満の色は残るもののあっさりとしていて。すたすたとりんご飴の屋台へ導かれたのも束の間、みきが口を開く前にりんご飴を注文した彼に「 !み、みき自分で買えるよ? 」 と慌てて可愛らしい白色の三つ折財布を取り出せばちゃんとお金もってる、と表すようにそれを彼に見せて。だがしかし屋台の若いお兄さんは『 あいよ、600円ねー。一個好きなの取ってくださいねー。 』とへらりと少々やる気のない営業スマイルを浮かべつつ彼の方にのみお金を受け取るべく手を差し伸べ。 )
じゃあちょうどで。
───ん。見回りに付き添わせるから給料代わり。
( 不満げながら何とか了承してもらえればホッと一息。しかし恋バナが好きな店主が相手に対する従業員の様子に何かを察するのはそう遠くない話なのだが今はまだ知らずに。威勢の良い…とはお世辞にも言えない屋台のお兄さんに言われるがまま600円ちょうどを手渡し、そのままキラキラと並ぶフルーツ飴の中からりんご飴を1本手に取れば彼女に差し出して。せっかく取り出してもらった財布には、いいから、というようにひらひらと手を振って仕舞うように指示を。特に何をする訳でもないのにただ見回りに着いてきてもらうだけなのが心苦しいのも本音だが、少しだけでも彼女曰くのデートらしい気分だけでも味わってもらえればという気持ちもあったりなかったり。とはいえりんご飴1個で果たしてデートらしくなるかと言えばそれには疑問が残るところではあるが。 )
!
……えへへ、ありがとう。
( 給料代わりだと手渡されたりんご飴は、毎年欠かさずにお祭りの日に食べているりんご飴と同じもののはずなのにどこかきらきらと輝いて見える。幼い頃は美味しそうだからと言って毒りんごを食べてしまった白雪姫のことをずっと不思議に思っていたけれど、確かにこんなにきらきら輝いていたのならば何の警戒もあなく一口くらいは齧ってしまうかもしれない。みきはほんのりと頬に朱を散らしつつ花が綻ぶように微笑んではこんなにひとがおおいなかで離れないようにとまた彼の服の裾をきゅ、と当たり前のように掴んで。カリ、と1口齧れば口いっぱいに飴の甘みが広がりきらきらと瞳を輝かしては「 おいし…!せんせーも一口食べて。 」と自分が齧ったところと反対側を差し出して。 )
っ、だからお前そういう──……はぁ、
…ん。
( 離れていた手が再び裾を掴むのをこちらも当たり前のように受け入れては(むしろ逸れられる方が困るので)、りんご飴に負けず劣らずのきらきらと輝く瞳でその甘さを堪能する彼女を優しい眼差しで見つめていて。しかしふと差し出された齧りかけのりんご飴にぱちりと目を丸め。何だか似たような事が前にもあった気がするがそれを覚えているのかいないのか、未だに無防備な彼女を咎めようとするが続くはずだった言葉を止めて。いっそのこと一度だけでも誘いを受ければ少しは彼女も気にするだろうか。そんな考えがふと頭を過れば、まさに白雪姫の毒りんごと化した目の前の真っ赤なりんご飴に顔を近づけて。…とはいえりんごを齧ることはせず上部、申し訳程度に平らに伸びた飴の部分をカリ、と齧り「…甘っ。」と一言だけ零して。 )
んふふ。
飴のとこだけ齧ったらそりゃ甘いよ。
( なぜだかりんご部分ではなく飴部分のみを齧った彼にくすくすと可笑しそうに笑ってしまえばりんごの気分じゃなかったのかなぁなんて彼の心情など知る由もなく自分が齧った方をもう一口。だがしかし齧ったあとでふとこれは関節キスになってしまうのでは、と今更ながらようやく気が付けばみきの歩みはひたりと止まり、りんご飴と同じように顔を真っ赤に染めて。「 っ、……。 」と周りの人達の喧騒も耳に入らないほどにぐるぐると混乱し、どうしよう、の考えが頭の中を支配していき。否、嬉しいしラッキーではあるのだけれど、心の準備がそもそもできていなかったので。ばくばくと煩く鳴り始めた心臓をそのままに、ちらりと彼の唇の方に視線を向けてしまえばまた耳まで紅くして視線を逸らし。 )
…りんご齧ったら困るのはたぶんそっちだけどな。
( ひどく甘い誘惑に悩んだうえでの気遣いを可笑しそうに笑われてしまえば、小さく溜息を吐きながら更に小さな声でぽつりと零し。やっぱり何も考えてなかったのか……と彼女の無防備さに改めて頭を抱えるも、突如として隣の下駄の音がぴたりと止めばそちらを振り返り。すでに視線を逸らされた後だが、漸く察した様子で真っ赤に顔を染まった彼女の顔を態と覗き込めば「どうした?」と、問い掛けの言葉はその答えを確信しているようにいつもの意地悪な笑みを携えて。行き交う人々はそれぞれが自分の楽しみに夢中なうえにこうしてひとつの食べ物を分け合う男女や友達同士などそこら中にいるわけで、敢えて他人の様子を意識するような時と場所では無いことが唯一の救いだろう。 )
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