せんせい、あのね。(〆)

みきはせんせーのこと大好きだけど、大好きだからこそ現実見せてあげてるの。

( 演技じみた彼の言葉に釣られるようにくすくすと笑えば、語尾にハートが付きそうなきゅるんとした言い草でウインクを付け足した言葉を返し。だがしかし冗談とはいえ自分が彼の味方という事を疑っていないことが嬉しくてその表情は自然と緩んでしまい、日頃の愛情を伝えていることが実を結んでいる実感にこれからもたくさん愛を伝えていこうと秘密裏に決意して。両手を広げておいで！のポーズをしたけれどどうやら彼にその意味は伝わって居なかったようで、笑顔のまま静かに首を傾げては「 よしよししてあげるねって言ったから……おいで？ 」と今度はちゃんとこのポーズの意味を説明しながらもう一度改めてぱっと両手を広げてお姉さんの顔をしてにこにこ笑い。 )

そういうとこだけスパルタなの何でなのお前…、
もっと俺に甘くしてくれていいんだぞ？

( 可愛らしい仕草とは裏腹にまさに面倒見の良いしっかり者といったような台詞に脱力するも、首を少しだけ傾げることであざとさを演出してはいつぞやに彼女が言ってたような言葉を返し。とはいえ流されるがままにただ甘いだけの人間になってしまうとそれはそれで心配なので、彼女のこういう一面は教師として安心できる部分でもあるのだが。まさか実行に移されるとは思っていなかった目の前の状態に固まって。「──…ったく、ばーか。あいつの言うこと真に受けて変なことするもんじゃありません。…そもそもいい大人が女子高生にそういう事されるって絵面はやばいからな…。」大きな溜息をひとつゆっくりと吐けば、姉気質な笑顔の彼女に近づいて優しめのデコピンをこつんと小さな額に当てて。件の3年男子は今頃得意げにしているのだろうか、今度課題を増やしといてやろうなんて考えながら目の前の彼女には苦言を。…というより、大半は三十路のおっさんが女子高生の胸でよしよしされるという辱めに耐えられる自信が無いという思いの方が大きく。 )

あまく、……。
うーん…。……バスケたくさん頑張って偉いねぇ、ソフトボールは休んでも良いよぉ。疲れちゃったもんね、みんなには内緒でみきと一緒に涼しいところで休憩しようね。

( いつか自分が彼に言った言葉をそのまま投げかけられては、なるほどこれはたしかにちょっと難しいかも。と思いつつ脳裏に過ぎったのは手を優しく撫でられながら〝甘く〟お勉強をした時のこと。みきは少し考えるような仕草をしたあとに徐に彼の手をそっと取っては、以前のマッサージとは違うように片手の甲で彼の手の甲を撫でたり手の指と指を絡ませてみたりと優しく触れながら彼の耳元に唇を寄せて甘く(当社比)囁いてみて。基本的には長女なので甘やかすのは実はお手の物なのだ、みきはこれでどう？と言いたげににっこりと微笑んでは彼のお気に召したかとその表情を伺って。こつん、とだいぶ手加減のされたデコピンを受けては反射的にあいた！と額を両手で抑えては不満げに唇を尖らせては「 だから不在にしたんだと思ってたのに…。よしよししたかった……。 」と彼が扉にかけた不在札の意味がどうやら自分の想像していたものと違ったと残念そうに言葉を落としていき。 )

っ……、…。
──…いいね。2人でどこ行く？

( どこで覚えてきたのか彼女の手つきは前のマッサージ()よりも進化しており、ぞわりとした擽ったさにぴくりと眉を顰めては更に挑発するような囁き。ただ純粋に甘やかされた＂だけ＂とは言い難いおまけ付きに、最後に向けられた彼女の微笑みはどこか自信ありげに見えて。しかし思った以上にしてやられた感が出てしまった事が少し悔しかったようで、絡まったままの指先を逃がさないよう緩やかに力を込めてはそのままくいと優しく彼女を引き寄せて。続けて今度はこちらが彼女の耳元に唇を寄せて静かに呟き。顰めっ面で不満そうにぼやく彼女に「あれは静かに昼飯食いたいから念の為に掛けただけで……ってお前、俺がそれをされたいがために掛けたと思ってたのか……？」と説明しつつも札の存在がその残念そうな様子に拍車をかけているのだと察すると、想像以上に期待していた彼女が可笑しくも愛おしくてつい笑みが零れて。 )

ひゃ、
─── …え、えと。きゅうけい、だから…ほ、保健室…？

( 今回ばかりはこちらが優勢だと思っていたのも束の間、わざと絡めていた指先には簡単には離れないように緩く力を込められて手を引かれるがまま彼の方へと引き寄せられてはそれに驚く間もなく耳元で囁かれたことにより小さく声を漏らし。運動をした訳でもないのにだんだんと火照っていく体と顔をそのままに、2人で休憩をする場所を問われたことに遅れて気が付けばまさか聞かれるとも思っていなかったのか辿々しく実に学生らしい健全な休憩場所を答えて。札の真の意味を彼から丁寧に説明をされれば、彼が自分によしよしをされたかった訳ではなくむしろ自分がしたかったのではという事実にだんだんとみきの頬は朱に染まっていき。「 だ、だって、…みきがいるときいっつもかけないし、……もおぉ！紛らわしい！ 」言い訳じみた言葉をぽつぽつ小さく零していたものの、今回ばかり(毎回)は此方が不利だと気が付けば恥ずかしそうに両手で顔を覆っては八つ当たりじみた言葉を零しながらふるふると首を振って。 )

………ふ、
待機してる保田先生に怒られそうだな。

( こちらからの反撃に先程までのどこか得意げな笑顔から一転、辿々しい口調で出された答えは確かに休憩には適した場所で。とはいえ健康な2人組が休憩に、なんて明らかなサボり行為を保健医は許してくれないだろう。何とも健全で彼女らしい答えにくすくすと可笑しそうに笑いながらするりと手を離し、昼食の邪魔にならない程度に机の上を片し始めて。顔を赤く染めながら頑張って言い返してくるも、最終的に開き直った様子で顔を隠してしまった彼女はとても可愛らしく。「いやだってお前がいるってことは俺も居るわけだし、不在じゃ無いのにあの札掛ける必要無いだろ…？──ほら、とにかく飯にしよう。」笑いを堪えているせいかぷるぷると小さく肩を震わせながら当たり前だろうというトーンで返し。片付け終えたらしい机の上は、どちらかと言えば＂端に寄せた＂という言い方が正しいような気もするがまあ食事をするのには邪魔にならないだろう。午前中に自分でも予定外に動いてしまったため腹の減り具合も良い感じで、久しぶりの手料理にどこかワクワクが隠し切れない様子で。 )

ｯ、……せんせーのいじわる！

( 果たして保健室という回答はあっていたのか。それはそれとして彼のくすくすと楽しそうな笑顔を見ればからかわれたというのは一目瞭然で、するりと離されたまだ熱の持った手を胸の前で握ればいつもの事ながらギャン！と照れ隠しに吠えて。だがしかしやはり彼が机の上を片し始めれば、いそいそと冷蔵庫からお弁当バッグ─── 予め二人分のお弁当がちゃっかりまとめて入れてある ───を取り出していろんな書類等々が端っこに纏められてスペースの空いた机の上に広げ。「 あのね、せんせーの好きな物が分からなかったからさっぱりめにしてみたの。でも午後も頑張れるようにスタミナがつくものにして、デザートは凍らせた牛乳寒天のゼリーだよ。 」とお弁当の蓋を開けてみれば、海苔部分がハート型にくり抜かれた1口大の巻きおにぎり(昆布/鮭)が数個と塩麹のからあげ、ハート型のだし巻き卵に野菜炒め、さっぱりした味付けのミニハンバーグと少々ラインナップは子供向けだが味付けは彼の年齢に合わせたようなお弁当を披露して。 )

言いがかりは良くないですよー。

( 仕掛けてきたのは彼女の方だが、仕返しをすれば十中八九そのカウンターを喰らって照れたり慌てたりする彼女の様子が面白く。自分の言葉や行動ひとつでこんなにも色んな表情を見せてくれる彼女は本当に飽きなくて、照れ隠しの威嚇すらも小動物のようで愛おしく。しかしその威嚇状態も長くは続かず、またころっと様子が変わればいそいそと手作り弁当のプレゼンを始めたようで。パカっと開かれた蓋の下には、おにぎりの海苔ひとつ取っても手の込んだものだと分かる出来栄えのお弁当。さらに言えば暑さで食欲があまり湧かなくなる可能性も見越してか、さっぱりめの味付けにしてくれたのも気が利いていると素直に感心して。「──……凄いな…！これ全部、御影が作ったのか？………っと、見てたら腹減ってきた。いただきまーす。」目を輝かせてひとつひとつを丁寧に見ていけば、早く食わせろと胃に急かされた気がしては慌てて手を合わせ。可愛くハート型になっているだし巻き卵をまず取ればそのまま口に運び、咀嚼するやいなや冷めても美味しいお出汁がじわりと滲み出て。「！……美味っ！」ともぐもぐ口を動かしながら耐え切れなかった感想が飛び出て。 )

そう、みきがぜんぶ作ったの。召し上がれ！

( 一生懸命に作ったし自分はもちろん家族にも味見をしてもらっているけれどそれでも本人から〝美味しい〟を聞くまではやはり緊張と不安があったのか、彼のその言葉を聞いた途端安心したように「 良かったぁ……。 」と表情を綻ばせて。本当ならば出来たてのお料理を食べて欲しかったというのも事実だが、冷たくてもどうしたら美味しく食べてもらえるかという創意工夫を頭の中で組みたてていくのもまた楽しかったので自身も1口大の巻きおにぎりを咀嚼しながら満足気な表情で彼を見つめて。「 〝料理上手な嫁さん〟になる準備はばっちりです。 」と先程の彼の言葉を引用してふふん、と自慢げに笑えばおにぎりで手が汚れた時用に用意していたウェットティッシュを彼の方へすすす、と差し出しながらぱちりとウインクをひとつ。 )

お前ほんと器用だなあ…。

( 簡単なものならば一人暮らしが長い身としては作れるが、それでも滅多に料理をしない自分でさえ見て分かるほど彼女の弁当の中身はすべて手作りで。しかも味も好みだとハッキリ言えるほど自分の舌にぴったりで素直に感嘆の意を漏らし。こちらの言葉のあと安心したようにふにゃりと緩んだその様子に、弁当のお披露目からにこにこと笑顔だった彼女もやはり緊張していたのだろうかと気付いては釣られるように柔らかく口角上げて。噛むほど脂の染み出すからあげ、続いて程良いサイズのおにぎりを一口で食べると可愛らしいウインクが飛んできて。「…はは、そうだな。さらには気も利く。」弁当の次は自分自身をプレゼンしてくる彼女にくす、と笑えば、満更でもなさそうな雰囲気で差し出されたウェットティッシュを1枚取って。 )

あのね、みきのお母さんすっごくお料理が上手なの。
だからみきもお料理の上手なお母さんになりたいなってたくさん練習したんだぁ。

( 柔らかな彼の笑みにちょっぴり照れたように頬を火照らせながらも実は昨日の夜からお肉やらを仕込んでいたお弁当に視線を落としては、自分が密やかに目標にしている母のことをぽそりと零して。家族が美味しそうに食べてくれる顔が好きなのだと語った母の言葉通り、確かに自分の作った料理を美味しそうに食べてくれる彼はずっとずっと見つめていられるほどに愛おしく感じ。彼の言葉にくすくすと笑っては「 そうでしょ？せんせーのお嫁さんにとってもオススメなんだから。 」といつものようにちゃっかりとアピール先は彼なのだと明言して。今まで自分がやりたくてやってきていたことが結果的に彼へのアピールポイントになっているのは実にラッキーで、みきは自慢げにふふん。と笑いながらもたまにはまたこうして彼にお弁当を作ってきて点数を稼ぐのもいいかも！の乙女の悪知恵を働かせ。 )

へえ、
目標にされてるって知ったらお母さんも喜ぶだろうな。

( 彼女の腕前の高さはいちばん側にお手本にしている相手がいるから、そしてその相手をリスペクトして背中を追いかけているということに頷きながらそんな彼女の話に耳を傾けて。とはいえすでにここまでの腕前ならば食べる側としては胃袋を掴まれたといっても過言ではないのだが。＂料理上手なお母さんになりたい＂と、そんな一言を聞けば自然と頭の中に浮かんできた映像が。彼女の作った料理が食卓に並び、笑顔で美味しそうにそれらを食べる自分と彼女、そして小さな───…。俺は何を考えているんだと軽く頭を振りながら再び目の前の弁当に手を伸ばし。ぐいぐいと自らを売り込んでくる彼女の強かさに「はいはい。……ま、考えといてやるよ。」と、にやりとした笑みを携えて。バスケのおかげで彼女以外に昼食に誘おうと画策していたらしい女子の声が廊下側から聞こえてくるが、不在札の効果で「 あれー？いないのかなー？ 」という声ばかり。しかも名前を呼ばれたわけではないのでまさか自分が探されているとは思わず、何も気にせずに食事を進めて。 )

んへへ。それにね、お母さんよく言ってるの。
〝好きな人の胃袋を掴むのが1番手っ取り早いのよ〟って。


( にへら、といつものように気の抜けた笑顔を浮かびつつもそう言葉を付け足せば、今目の前で自分の手料理を食べている彼の瞳を真っ直ぐに見つめては〝掴めた？〟と視線だけで問いかけて。もしも叶うならば、もっともっとお料理が上手になって出来たてほかほかの手料理を毎日彼が食べてくれるような関係になれたらいいのにな。なんてまだ見ぬ未来への願い事は心の中だけで留めておくとして。どうやら自分のプレゼンは彼に考える余地を与えられるようにはなったようで、ぱぁあ！と分かりやすく表情を輝かせては悪戯っぽい笑顔を浮かべながら「 せんせーが考えてるうちにみきはもっともっと素敵なお姉さんになっちゃう、…… 」と言いかけた所で廊下から聞こえてくる彼の不在に不満を漏らす女子生徒の声にぴたりと言葉を止めては、気付いていないのか気にせず食事を続ける彼と声のした方向を交互に見て小さな独占欲が満たされてしまい思わず機嫌良さそうににこ！と頬が緩み。 )

ん゛っ、……
あー…ドウデショウネー……。

( さっぱりとした味付けのハンバーグを口に運んだ瞬間、心のどこかで考えていたことを読まれたかのような台詞に言葉が詰まり。とりあえず咀嚼してきちんと飲み込んだ後に彼女の視線からすす…と逃れるように目を逸らして片言で答えては、さすが御影母にしてこの娘ありだなと苦笑して。正直冷めていてもこれだけ美味しいのだから、出来立てともなるときっと胃袋は逃れられなくなるだろう。そんな未来を頭の片隅で考えてしまうも決して口には出さず。「 ざんねーん。別で食べよっかー 」と、数人の話し声が聞こえたかと思えばすぐさまパタパタと離れていく足音。気付けば隣の彼女は何故かにこにこと機嫌が良く、「………え、何、どうした？」と当の本人は見事なまでに頭の上に大きな疑問符を浮かべており。 )

！
……せんせーったらわかりやすい！

( 視線だけでの問いかけでも彼には十分伝わるようで、すすす…と静かにそらされた視線にみきは思わず吹き出してしまい。これではしっかりと掴めたと語っているようなもので、彼が此方の考えていることが手に取るように分かってしまうようにみきもまた彼の思っていることが段々とわかるようになってきたのはこの1年と半年の成果だろう。かわいい、と声には出さずともそんな彼への愛しさがまた増してしまえば、こんな彼が見られるのならば早起きのお弁当作りも全くは苦ではないなと頬を弛め。どうやら何も分かっていない当の本人の不思議そうな瞳を見つめ返してはにっこりと笑みを浮かべては彼の瞳を愛おしそうに見つめながら「 んーん、なんでもない。せんせーを独り占めできて嬉しいなって！せんせーだいすき。 」と敢えて何も分かっていないのならば分からないままに、彼へ〝そういった〟好きを抱いているのは自分だけだと思わせたままにしておこうとそっと独占欲の糸を彼に絡めて。 )

うっせ。
元々期待はしてたけどそれ以上に美味かったんだから仕方ねーだろ。

( 溜息と共に拗ねたような口ぶりではあるが、その内容は彼女の腕前を褒めに褒めたもので。そもそも＂掴まれました＂と口には出さずとも、弁当に伸びる手が止まらないということですでに行動で示されている状態でもあるわけなのだが。──運動後なのも相まってかいつも以上に食欲があり、ぺろりと平らげて空になった弁当箱を前に両手を合わせて「ご馳走様。」と一言。食べ過ぎてこれから後は動けなくなりそうだと言いたい所だが、彼女の配分も見事でちょうど気持ちの良い満腹感で終わり。すこぶる機嫌の良い夕陽色の瞳は彼女の笑顔と同じく輝いており、未だに何もピンと来ていない自分だけが取り残されているような気すらして。だがいつもの彼女の決まり文句を投げかけられては「何だそれ。…まあ俺もお前の手作り弁当を独り占めしたみたいなもんだしおあいこだな。」と悪戯っぽい笑みを見せて。少なからず彼女に想いを抱いている男子たちには悪いが、彼女の初めて(たぶん)の手料理は美味しくいただきました。と心の中だけで謝罪しておいて。 )

ふふ。
お粗末さまでした、完食してくれてありがとう！
…ちゃんとご褒美になった？


( 〝元々期待はしていた〟、〝それ以上に美味しかった〟。そんな作り手の褒め殺しのような言葉を受ければほんのりとみきの頬は桃色に染まり、綺麗さっぱり全てを完食してくれた彼に嬉しそうに頬を緩めてはぱちぱちと小さな拍手を送りながらぺこりと頭を下げて。こうして家族以外の誰かに料理を食べてもらうことも立派な成長に繋がるし、さらに褒めて貰えたならば自信に繋がる。またひとつ完璧な花嫁に向けて新たな一歩を着実に踏めば、自分も無事に全てを食べ終わり「 ご馳走様でした。 」と手を合わせ。やはりまだ此方の独占欲には気付いていない彼に何でもない、なんて返しながらもそのあとに続いた言葉には思わず瞳を丸めて。「 この先もせんせーにしか作んないもん、ずっと独り占めだよ。 」といたずらっぽい笑顔の彼に応えるように、ちょっぴり頬を染めながらもふわりと微笑んで。人生で初めて誰かに作ったお弁当の相手も、これからずっとお弁当を作ってあげたいと思うのも彼だけ。そう心の中で付け足しながら丁寧に空のお弁当を片付けていき。 )

…そうだな、
バスケ頑張って良かったとは思ったよ一応。

( 可愛い生徒がわざわざ手作りで持ってきてくれた弁当はこちらとしても想像以上に嬉しいものがあり、これがご褒美だと言われればもうあといくつか競技に参加しても頑張れる気がして(あくまで気がするだけなのでもちろん参加しないのだが)。しかし10歳近くも年下の、しかも生徒からご褒美に手作り弁当を渡されるだけで、今まで出来るだけ避けてきたスポーツ大会への参加を決めるなんて…。と、自身も知らなかった自分の現金さに自嘲じみた笑いが零れるもきっとこれは相手が彼女だからこそ成立した取引だろう。ほんのりと朱を頬に散らしながら笑う彼女の堂々とした宣言に一瞬きょとんとするもすぐさま笑いが零れ。「……っふ。それはまた色んな奴らから恨まれそうだな俺。」今現在、そしてまだ見ぬ未来で彼女に想いを寄せる男子たちには悪いと思う気持ちはもちろんあるが、少しばかりの優越感のようなものが顔を覗かせているのは内緒。 )

ふふ！良かったぁ。
みきもせんせーのかっこいいとこ沢山見られたから嬉しかった！

( 彼の言葉ににこ！と嬉しそうに満面の笑顔を浮かべれば、3年生の先輩たちとコートを駆ける彼や自分の作ったお弁当を美味しそうに食べてくれる彼など普段とはまた違う一面が見られたことに機嫌良く言葉を返して。 このスポーツ大会で彼に心を奪われた生徒たちには申し訳ない(本当は思ってない)けれど、こちとら入学当初からの片思いだし見逃してほしいところ。下校中に手を繋いで歩いている高校生カップルが羨ましくないわけではないけれど、それでもこのもどかしい距離感がみきにとっては心地よく。恨まれそう、と笑う彼にそんな人いないのになぁとまた首を傾げなら「 もし恨まれたらみきが慰めてあげる。 」と、綺麗にお弁当が片付けられた机に頬杖をつけば悪戯っぽく微笑んで。 )

三十路のおっさんでも高校生に混ざってそれっぽく動けばいい感じに見えるからな。

( 普段であれば自嘲気味に使うお決まりの台詞も今日ばかりは実感があるようで、にやりと口角を上げれば彼女の言葉を肯定するように。とはいえ体力的にはもちろん現役高校生に敵うはずも無いのですぐにエネルギー切れにはなるのだが、それもこうして彼女から提供された美味しい昼食でそれなりに復活しており。彼女が危惧していたらしい＂スポーツで活躍するとモテる＂ということも残念ながら特に感じておらず(正確には気付いてない)、応援を頑張ってくれた彼女に良いところを見せられたというだけで自分の中ではとりあえず充分だろう。しかし向けられる好意に鈍いのはお互い様らしく、首を傾げて微笑む彼女に乾いた笑いを返しながら「いやそれ火に油を注ぐやつ……。」とぽつり。そして思い付いたように同じく悪戯っぽい微笑みを浮かべては「…なあ、もし今回の大会で俺が頑張ったからってモテるようなことがあったらどうする？」と、ある意味的外れな質問を投げかけて。 )