せんせい、あのね。(〆)

ね、ね、せんせーのとこと当たるのどこのクラスだろうねぇ。


( どうやらもう彼が出る試合の時間らしく、ぴょい、と軽い仕草で椅子から立ち上がれば学年関係なく対戦表が組まれるスポーツ大会においてバスケ部も居るであろう3年生の強豪と戦うのはどこのクラスなのだろうと首を捻って。1年生とかだったら可哀想だから、2年生かな。実行委員でもないためもちろん知る由はないけれど、うちのクラスだったら面白いなぁなんて他人事のように考えてはにこにこと期待に胸を膨らませて。「 せんせーが競技に出てない時はちゃんと行きまーす。 」とお行儀よく返事をしては準備室から退出し。比較的涼しい室内から廊下に出ればじわりと肌にまとわりつくような暑さがあるものの、やはり行事事の最中はいつもとは違う賑わいを見せるもので、ギラギラにデコったメガホン等を持ってはきゃいきゃいと写真を撮っている女子生徒や無駄にやる気の入った男子生徒などが行き交う廊下を楽しそうに眺めて。 )

くじ引きだから当たってみるまで分からないけど……、もしお前のクラスだったらどっちを応援してくれるわけ？

( エアコンは無いとはいえ扇風機を回しつつ比較的北側に位置する準備室はやはり快適な方なのだと、廊下のむわりとした熱気を浴びれば改めて自室()の有り難さを感じ。初戦の相手は完全ランダム、そこからはトーナメントなので必然的にバスケ部員の多いクラスが上がってくるだろうと予想。数あるクラスの中ピンポイントで彼女のクラスと当たる可能性だってもちろんあるので、にまにまと少し意地悪な笑みを携えながら彼女に向かって小首を傾げるように尋ねて。教室や廊下、もちろん外からも聞こえてくる楽しげに騒ぐ生徒たちの声に耳を傾けながら「はは、じゃあもし俺が勝ち進んだりしたら御影の応援を独り占めすることになるんだな。」にやりと口角を上げては彼女の応援を心待ちにしているだろう男子生徒たちから恨まれるような一言を。とはいえ普段は基本的に動かないイメージを持たれているのは分かっているうえ、大人になってからの運動といえば正直なところ最低限しかしていないのは事実。しかしこれでも若い頃はそれなりに運動はできた方なのでソフトに関してはネタ枠なのだが、助っ人として呼ばれたバスケはさすがに頑張らねば生徒たちに申し訳ないため一応やる気は出すつもりで。 )

…………わかってるくせに。
みきは好きな人の方を応援しまーす。

( ふと意地悪な笑みと共に問いかけられた言葉にきょとん…と面食らったように瞳を丸くすれば、答えの分かりきったその質問に薄く頬を染めながら敢えてハッキリ彼だと明言はせずに、だが誰が聞いても好きな人が目の前の彼とわかるような甘ったるい声で答えて。ざわざわと騒がしい廊下では自分たちがどんな会話をしているかなんてしっかりこちらに意識を向けて集中しない限り分からないだろうと、普段彼にしか見せないようなふにゃりとした笑顔をうかべ。今日な彼はなにだかいつもよりもちょっぴり甘く意地悪で、みきはぱっと恥ずかしそうに視線を逸らしながら「 ！…そうだよ、せんせーをいちばん応援してるんだもん。 」と、彼の言葉は正しいしなんにも間違っていないのでなんの否定も出来ずに素直にそれを肯定して。 )

それでほんとに勝ったら恨まれそうだな俺。

( 明言された訳ではないその答えを肯定するように、はは…と乾いた笑いを零し。『御影の好きな奴って誰なんだろうな？』なんて野暮な事は言わない。なぜならその声と柔らかな笑顔がすべてを物語っているので、むしろ聞き返すのはどことなくいやらしさが出てしまいそうだから。しかしその特別な笑顔を意図せずたまたま見てしまった男子生徒が数人、見惚れるように彼女を目で追いかけていたのはまた別の話。否定こそしないものの何故だか視線を逸らされた事に疑問符を浮かべながら、ふと何かを思い出したかのように何とも言えない表情になり。「……応援は実際ありがたいんだけど、一応3年のクラスの応援になるわけなんだが………、お前ひとりで来る？誰か他に…☆先生のとこ行かないような友達とかさ…。」ふと頭を過ぎったのは、きっと普段彼女が関わる事がないであろう3年生の面々。その中には簡単に言えば＂チャラい＂男子たちもいるわけで。たった1人、3年生の中に混ざって応援でもしようものなら向こうだってここぞとばかりに絡みにいくのではと純粋な心配半分、もやもやとした気持ち半分で問いかけて。 )

応援ひとつで大袈裟だよ～
1人くらいなら変わんないって！

( 彼の様子に思わずぷは、と吹き出してしまえば自分一人の応援如きで恨む恨まないは発生しないとくすくす可笑しそうに笑って。女の子の応援で頑張れる、というのは実際今朝男子が言っていたのでそういうものなのだろうけれど1人2人人数が減ったところでは変わらないだろう。だいじょぶだいじょぶ、と言うようにぽむぽむ彼の肩を叩けばなんにも理解していない顔でへらへらと。だがしかし神妙な様子で投げかけられた彼の質問に不思議そうに逸らしていた視線を戻せば、その質問の真意が分からずに「 ？？ひとりだと困るの…？ 」と、この学校の3年生のお姉様方は後輩イビリをするようなタイプでもないしむしろ一緒に盛り上げよう！な人達が多いのに…と絶妙なすれ違いを起こしつつ不思議そうに首をかしげ。それともひとりだけの応援だと寂しいのかな、それならお友達誘おうかな……なんてクエスチョンマークを頭の上に浮かべながらどういう意味？と目で問いかけて。 )

思春期の男子は怖いからな～…。

( 彼女に応援を求めてきた男子的には本命が応援に来てくれない(かもしれない)という可哀想なことになるうえ、多分だが彼女を除いたほとんどの女子は☆先生の応援にまわるだろう。数だけで見れば1人くらいではあるが、されど貴重な1人。女子にカッコつけたいお年頃の男子たちの気持ちを汲んでやりたいのは山々だが、こればっかりは彼女の意思もあるので自分に出来ることはこれ以上無い。へらへら笑う彼女の無自覚な小悪魔さに小さな溜息をひとつ吐いて。先ほどまで自分の頭に浮かんでいた以上に彼女の頭の上には大量の疑問符が見える気がする。「困……らないけど…、んー………まあ3年と話す機会なんてあんまり無いだろうし、せっかくだから女同士で喋ったりとかいいんじゃねーかな、うん。」いくら件の相手が女好きとはいえ別に悪い奴ではないしむしろ普段は自分も楽しく話したりすることだってある。ましてや彼女だって形式上はフリーな訳だし、そこで自分が目くじらをたてるのはお門違いだろう。…とはいえやはり毒牙にかけられるかもしれないのを黙って見過ごしたくも無いので、少しばかり不自然な気もするが同性同士でかたまっているようにそれとなく促して。 )

クラスにもっと可愛い女の子いるし、その子に応援してもらえれば満足だよきっと！


( 思春期男子の気持ちは思春期女子には残念ながら伝わらないもののようで、みきは他人事のようににこにこへらへらと笑いながらさして問題はないだろうと勝手に判断を。彼が自分に向けられている矢印に鈍感なのと同じように(ちょっと違うかもしれないけれど)みきも同じく自分に向けられている好意には尽く無頓着なようで自分の応援を欲している男子生徒がいるとは微塵とも思っていないようでその表情と声は実にあっけらかんとしており。彼のどことなく歯切れの悪い返事に未だ不思議そうに首を傾げながら「 応援に行くだけなのに……？3年生の先輩たち優しいから好きだけど…。 」と、入学して初っ端に先生に告白をした女として変な知名度のある自分にも偶に廊下ですれ違った時に『頑張ってねー！』 と声を掛けてくれるくらいなので確かに彼の言われた通りちょっとお喋りするのも良いかも、と彼の真意には気付かないまま上手に流れるままに流されて。 )

………お前ってほんとたまに素で小悪魔的なところあるよな。

( きっと彼女に声を掛けた男子にとっては誰に応援してもらえるかが重要だと思う気がするが、残念ながら彼女にその意図は伝わっていないようで。何とも哀れな恋する男子生徒に内心で合掌を送っては、自分の事は棚上げに彼女の鈍感さにぽつりと呟き。どうやら思っている以上に彼女の知名度は少しばかりあるらしい。その理由何となく予想はつくもので、実際良く話しかけてくる生徒たちには当時『先生モテるじゃん(笑)』と揶揄われることもあったので多分それ由来だろう。とはいえ一応そうして話せるような仲の女子が3年にいてくれているならまあとりあえずは彼女の壁になってくれるだろうと一安心。「こういう学年関係無いイベントは貴重だぞー、いい機会だから話しとけ話しとけ。」体育館に近づくにつれ大きくなる、バスケ部員たちのみ履いているであろうキュッというバッシュの音を聞きながら部活に入っていない生徒は必然的に上下関係は薄くなりがちだと追撃。まあすでに可愛がられている(面白がられている？)彼女にはあまり関係無さそうだが。 )

？？？
どこが…？

( 先の言葉は自分的にはむしろ優しさを全面的に出したつもりのものだったので、一体どこに小悪魔要素があったのかと彼の呟きに静かに首を捻って。だんだんと体育館が近付いてくれば賑やかさも一層増していき軋むバスケシューズの音が聞こえてくるとスポーツ大会だなぁという実感が湧くので自分が出る訳では無いけれどちょっぴりわくわくそわそわとした気持ちが浮かんできて。体育館の中をひょい、と覗き込めばそこには見慣れぬ3年生たちと、あまりに見慣れたクラスメイトの姿。「ありゃ。」 と一言零しながら体育館の壁を見れば対戦表には間違いなく自分のクラスと3年生のクラスが記載されておりもしもが現実になってしまったことにみきは一周まわって笑ってしまい。「 みきが入学する前のせんせーのこととか聞いちゃおうかな！ 」といたずらっぽくにこ！と笑顔をうかべれば自分が入学する前 ─── 自分が知らない時期の彼のことを先輩たちにご教授願おうと高校の先輩の集団の中に1人後輩が紛れ込むというなんとも無謀かつ恐れ知らずな行動をする前の割に危機感もなく実にリラックスした様子で隣の彼をニコニコ見上げながら頷いて。 )

あーいい、いい。気にすんな。

( あまりにも天然な彼女の様子が段々と可笑しくなり、笑いそうになるのを堪えながら手をひらひらと振って。続いて体育館の中を覗き込めば、彼女の口から零れた一言の意味を理解。噂をすれば何とやら、ということなのか。そして彼女のクラスメイト達はその姿を認識したようで応援に来てくれたと思ったのか何処となくやる気を燃やしているように見える。何とも居た堪れないような気持ちだが、どちらを応援するかは彼女次第なのでこれ以上は何も言わない。そんな事はつゆ知らず、呑気な彼女はさっそく先輩方との話のネタを考えている様子で。「別に今と何にも変わんねーと思うけど……。───じゃああいつらのとこ合流するわ。…あ、これ持っといて。」彼女の知らない時期といってもたかだか1年だし変わり映えはないはず…と考えていると「先生こっちー！」と3年チームの男子に呼ばれれば、そのよく通る声で何人かの生徒がこちらに目を向ける中やはり彼女の存在を気にかける様子の他学年男子が数人。虫除けというには言い方が悪いかもしれないが、自分が着ていた明らかに男物だと分かるジャージの上着を彼女に手渡して。 )

はぁい。
頑張ってね、せんせー。いってらっしゃい！


( 『 御影ー！ 』と此方に手を振るクラスメイトたちに手を振り返しながら彼から渡された上着をにこにこした顔で受け取ればにぱ！と満面の笑顔で彼を送り出して。ジャージの彼も何だかとても新鮮で、何だか今のやり取りも新婚さんみたい！とるんるん気分で真っ直ぐに3年生たちの集まる応援席の方へ。クラスメイトたちのざわざわとした視線と相手チーム内の彼の姿を見て納得したような諦めの雰囲気を背に受けながら( 本人はもちろん気付いてはいないのだけれど )けたけたと笑いながら此方に手招きをしているお姉様たちの集団に「 お邪魔します！ 」となんの緊張もなく馴染んで。『 こっち応援なのウケる 』『 先生モテてんじゃん！おめ！笑 』『 それ先生の？着ちゃえ着ちゃえ預けた方が悪い！ 』『 彼ジャーしよ笑 』と3年間一緒にいるが故に彼に対して容赦のないお姉様たちによっていつかの白衣萌え袖と同じく、彼から預かったジャージに袖を通して彼ジャースタイルに早変わりして。 )

───で、俺の体力考えてくれよお前ら。
……おーい、応援組はちゃんと応援してくださーい。

( 背丈もほぼ変わらない3年男子たちの輪に入れば小突き小突かれ肩を組まれてと絡まれるも、楽しげに笑いながら少々格好のつかない注意事項を挙げて作戦会議。…をしていれば、応援席から聞こえてくる女子たちのきゃいきゃいと面白おかしく騒ぐ声。女子が集まれば声のボリュームは自然と上がるようでその内容も筒抜け、3年女子たちが予想通り楽しそうに揶揄っている(あくまで彼女ではなくこちらを)のがしっかり耳に届いて。とはいえ彼女が自分のジャージを着ることに関しては白衣の前科もあるので預けた身としてはあまり気にしない所ではあるのだが。それよりもすんなりと3年生に馴染んでいる様子の彼女に少し安心する気持ちの方が大きくて。──それから少しして試合開始の笛が鳴れば、主役の生徒たちを立てつつ自分も軽快に立ち回り。一回り近く離れている生徒たちと青春の汗を流すことは純粋に楽しく、鈍っているとはいえ体は覚えているものでシュートは3ポイントも含めていくつか成功。じわりじわりと相手チームに差をつけ始めて。 )

っ、…………か、かっこいい…。

( 試合が始まれば、散々文句を言っていたのに生徒たちと遜色ない軽快さで見事ゴールを奪いポイントを稼いでいく様子にみきはめろめろとぶかぶかのジャージで口元を隠しながらノックアウト状態で彼だけを夕陽色の瞳で追って。相手チームと点差を離していく─── つまり自分のクラスが負けていくということなのだが、みきはそんな些事も気にならないほどに彼に夢中な様子で、ハッと応援もしなければと思い出せば「 せ、せんせー頑張って！かっこいい！だいすき！ 」と応援がてら思わず自分の素直な感情も一緒に飛び出てしまったけれどマァ気持ちを伝えているのはいつものことなのでそれはさておき。『 みき！俺は！ 』と此方に叫ぶクラスメイトには「 ついでに頑張って！ 」と野次も飛ばしつつ、げらげらと隣で呼吸困難になるほど笑っている先輩とも何とか上手くやっているようで。 )

( 響くバッシュの音と掛け合う声、そして煌めく汗……三十路の男性とは程遠そうなそれらの中に今自分が混ざっていることに何の違和感も覚えなくなるほど試合に集中していると、色んな音の中でも耳にハッキリと届く彼女の声援。最後に少し応援とは違う気のする単語が混じってはいるが、その声援のおかげか直後に再びシュートが決まり。ちらりと応援席に目線をやると真っ直ぐこちらを見つめる夕陽色に対し、声援の礼も込めてにっと笑ってピースを送り。＂ついでに＂応援をしてもらえた彼女のクラスメイト達からは対峙する際に何処となく怨みがましいものを感じたりもしたが、まあまあと宥めつつ試合は進み────激しい攻防を終えて試合終了の笛。バスケ部員はお互いのチームに数人ずつは居るのだがやはりそこは経験の違いか、3年チームが20点近くの差をつけて勝利を飾り。滲んだ汗を肩口で拭いながら同チームの男子生徒たちと共にふらふらと応援席へと向かい。 )

────……つっかれたぁー…！……ちょ、休憩させてくれ…きっつ……。

っすごいすごい！せんせーすごくカッコよかった！


( バスケは男の子を数割増で素敵に見せるなんてものはとんだ冗談で、数倍どころか数十倍数百倍になってすっかり惚れ直した様子で応援席に戻ってきた彼を出迎えて。きっとこれが他の生徒たちが居ない状態だったら勢いのあまりぎゅ！と抱きついていただろうというくらいのキラキラ具合で、流石にタオルこそ持っていなかったけれどハンカチはきちんと所持していた為Mのイニシャルが端に刺繍されたハンカチを手渡しつつ「 お疲れ様！あのね、先輩がお水どうぞって！ 」とどうやら初戦突破祝いとしてお姉さま方が施しのペットボトルのミネラルウォーターを買っていたらしくそれも一緒にどーぞ、と。 )

それなりに活躍してたろ？
いやまじでここ数年で一番体動かした気がするわ…。

( いつも以上に興奮気味な彼女からのお褒めの言葉を頂ければ、自信ありげに、しかしどことなく照れ臭そうな感じにもとれる笑顔を返し。火照った体を冷ますように服の胸元を引っ張ってパタパタと風を送り込みつつ、「先生ナイスー！」と横を通り過ぎていく3年生たちとハイタッチ。手渡されたハンカチは一応受け取ったものの、さすがに汗を拭くために使うのは勿体なく感じてたじろいで。「汚れるからいーよ、そのうち乾くし……、お。水まじで嬉しい…！ありがとなお前ら。」次いで差し出された水は良い感じに冷えており、周りを囲む3年女子たちに笑顔で礼を述べると渇いた喉を潤すためさっそく口をつけて。 )

んふふ。
あんなに動いてるせんせー初めて見た！

( 始まる前は乗り気そうでは無かったのにいざ参加してみたらしっかりと結果を残して活躍した彼に思わず緩んでしまう頬をそのままに彼の言葉にくすくすと笑っては、『 2年生もいぇーい！ 』『 ナイス応援ー 』と此方にも流れてきたハイタッチの流れもにこにこ嬉しそうに受け取りハイタッチを。ふ、と視線をやった自クラスの方はなんだかしょんぼりしているように見えるのであとで自販機のお菓子でも買っていってあげよう、と雑なフォローですませることを決意。「 だめだよぉ、汗ちゃんと拭かないと風邪ひいたら困るよ。たかがハンカチだもん、どうせ帰ったら洗うからだいじょーぶ。 」と水分補給をしている彼にちゃんと使って、と唇を尖らせて。3年生のお姉様方も『 先生めっちゃ動けんじゃん笑 』『 うちらの応援のおかげだわ 』『 みきも頑張ってたしね。 』とすっかり仲良くなったのかみきのお団子をぽむぽむと撫でてはみきも嬉しそうに「 えへへ 」と人懐っこくにこにこ笑って。 )

自分のクラスそっちのけで応援してくれてる奴がいるからな、
たまには良いとこ見せねーと。

( 少し離れたところで肩を落としているように見える彼女のクラスメイト達にはちょっとだけ申し訳ないような気持ちはあるがこれも勝負。にやりと意地悪な笑みを見せながら、彼女に初めてと言わしめた激しい動きの後のじんわりとした疲れに久しぶりに心地良さを覚えて。物珍しさもあってか彼女の周りにわらわらと集まる男子たちは、まさか先程戦った相手が今こうしてハイタッチをしている彼女のクラスだったとは知らないだろう。まるで保護者のような注意を促してくる彼女に「～～、分かった分かった。じゃあありがたく使わせてもらうけどさすがに洗って返すから。」と負けを認めては少し遠慮がちに首元の汗をハンカチで拭い。遥かに年下の彼女にあっさりと従った自分の様子を見て面白そうに笑う3年女子たちには「 先生弱っ 」「 彼女の応援があると違うね～ 」などと揶揄われて。「誰が彼女だ誰が。」と返しながら、いつの間にやら名前呼びをされるほど馴染んだ彼女に目を丸くして。 )

応援したかいがあった！
いっつも良いとこたくさん見てるけど、今日は特にかっこよかったもん！もっとすきになった！

( 現役顔負けの彼のプレイを思い出してはふふふ！とニコニコ緩んでしまう両頬に手を添えながらウンウンと何度か頷いて、普段からすきだけれど今日でまた更に彼のことがすきになってしまったと恥ずかしげもなくさらり。自分も午後からの試合は彼を見習ってちょっと頑張っちゃおうかな、なんて元々あったやる気をさらに向上させつつもハンカチを使う彼に満足気に微笑んで。洗って返す、と言われてしまえばそんなこと気にしなくて良いのにと口を開こうとしたところ、お姉様方から聞き捨てならない言葉が聞こえて「 まだ彼女じゃないけど、未来の彼女の予定でっす！ 」とてれてれ頬をピンクに染めながら否定もせずにちゃっかりピースとウインクをぱちり。〝今ではなく未来〟なのがみき的こだわりだそうなのだが、それはさておきふと考え込むような顔つきに変われば未来の彼女よりも未来のお嫁さんの方が語呂良かったかな……と小さな声でぽそりと呟いて。 )

はいはいありがとな。
でもちょっと飛ばしすぎたからたぶん次はここまで動けねーわ。

( きらきらといつも以上に熱量のある気がするラブコールを受ければ、2人の時なら流せるものも周りで楽しそうに茶化してくる3年たちのおかげでじんわりと恥ずかしくもなってきて。ふい、と視線を逸らせば2回戦以降はきっとすぐに体力が無くなるだろうと溜息吐いて。早すぎるとかもうちょっと頑張ってだとか、男子たちにわらわらと詰め寄られるのをいなしつつ、「ばか、俺が入って初戦突破しただけでも奇跡だぞ。歳を考えて……って、お前も適当なこと言わない。」と先輩方の冷やかしを正面から受け止めてなお倍にして返す彼女の頭に優しくチョップ。3年生にとっては更に茶化しの燃料になったし、男子側の一部からは「 先生ずるくね？ 」「 俺も彼女欲しー！ 」といった声の中に混ざって、彼女に対して「 先生じゃなくて俺の方が良くない？ 」とちゃっかりアピールを仕掛ける者まで出る始末で。 )