せんせい、あのね。(〆)

─── せっ、！？……ん゛ん。
せんせーなんで居るの…！？


( いっその事弟にはこのよく分からない抹茶サイダーなるものを買っていこうかな…と模索していたのも束の間。隣から聞こえた声はたとえ一言でもすぐに分かってしまうほどに大好きな人の声。それに釣られるように其方へと視線を上げれば、まさか本当に当人がいるとは思わず大きな声を出しかけたものの何とかギリギリで耐え。ほぼ部屋着ですっぴんということも忘れて滅多に見ることの出来ない想い人の私服にキラキラと瞳を輝かせながら「 もしかして運命…！？ 」と相も変わらず乙女心はフルスピードで駆け抜けていき。ほんのりと色付いた頬はちょっぴりセクシーで、お酒飲んでたのかなぁなんて普段学校では見ることの出来ない彼のオフの姿を堪能しようと夜でも夕陽色の瞳はじっと彼を見つめて。 )

はは、やっぱり御影だ。
俺は飲み会の帰りで──って、お前こそ何してんだよこんな時間に。

( 酒のせいで緩みがちな頬は、いつもの意地悪な笑みではなくへにゃりと柔らかい微笑みを見せて。彼女の問いかけに素直に答えかけるがそれよりもと、自分の生徒(しかも女子)が夜に飲兵衛たちの闊歩する街にあるコンビニに居ることに首を捻りながらも教師の顔がちらりと覗き。ただでさえ私服なだけでいつもと雰囲気が違う彼女の格好は、生脚効果もあってかどこか色っぽさも伺えて。すらりと伸びた脚から目を逸らすように彼女の顔に視線を向ければ、先ほども目に入った猫耳フード。それを見てはふと思いついたように「………あ。なあなあ御影、お揃い。」と、自分の着ているパーカーの胸元に付いてる小さいワンポイントの猫マークを指差しながらへらりと笑い。こうして突然脈絡のないことを言い出すのも酒を飲んだ後ならではだが、いかんせん意識はハッキリしているので本人的にはそんなに酔っていないつもりらしく。 )

！？！？！？
み、みきは弟とコンビニじゃんけんに負けたから買い出し…。

( へにゃへにゃと柔らかく笑う姿に夕陽色の瞳は真ん丸に丸められ、だれぇ…？？と言いたげに彼の可愛らしい笑顔をぽかん、と凝視しつつ当然教師としては聞くであろう彼の質問に答えて。せんせー酔ったらこんな風になっちゃうの…可愛すぎて誰かに持ち帰られちゃう…と大真面目に素っ頓狂な心配をしていれば、ふとかけられた声に顔を上げたものの彼からの予想外な攻撃(もといお揃いアピール)(でもみきにとっては殺傷能力の高い攻撃なのだ)にｷﾞｭﾝ!といつもは一本しか刺さらない恋の矢が数十本にもなってみきの胸に突き刺さり。ぐ、と痛いくらいにときめく心臓を抑えながらも、こっちの気を知らずにへにゃりと笑う彼の顔から目を逸らしつつ「 ね、ねこちゃんお揃いでかわいいね……。でもせんせーも可愛いすぎてみき困っちゃう… 。 」と怒涛のように己に降りかかる萌えとときめきと無防備な彼への心配がごちゃまぜになりむぎゅ、と顔をしわくちゃにして。 )

優しいお姉さんじゃん、偉いな。
…で、何買わされてんの？

( じゃんけんで負けたからとはいえわざわざ弟の為に買いに出た彼女を素直に褒めては、我が家の姉と妹ならば勝ち負け関係なく自分が買いに出ることになるだろうなと考えると乾いた笑いが零れ。弟くんがいくつかは知らないが、何となくそのおつかい内容が気になったのか彼女の前にあるドリンクの棚を覗き込むように顔を近付けて。同意の言葉と裏腹に何とも複雑な彼女の表情に、何かおかしな事を言っただろうかと疑問符を浮かべるも続く台詞にきょとんと一拍。「……───っはは！何だソレ。こんな三十路の飲み会帰りのおっさんより、お前の方が全然可愛いだろ。」けらけらと可笑しそうに笑ってはよほどツボだったのかうっすら滲んだ涙を拭いながら、制服以外の新鮮な彼女の装いの方が、という意味合いを込めて。学校であれば＂可愛い＂の枕詞にはほぼ必ず＂生徒みんな＂を付けることが多いだろうが、今の言葉はしっかりと目の前の彼女にだけ送った言葉で。 )

！
アイスと、あと折角だからジュース…。

( 不意に近付いた彼との距離は、いつもとは違う大人の匂いのする彼の匂いを感知させるには充分の距離。ぽぽぽ、と頬を桃色に染めながら緊張で上手く回らない頭で結局は抹茶サイダーの横にある普通のサイダーを手に取ってしまい。これではただ弟を喜ばせてしまう良いお姉ちゃんになってしまうだけなのだが、今のみきはそんなことを気にしている余裕はないので仕方がないとして。けたけたといつもより笑いのツボが浅く無邪気に笑う彼が発した言葉にまたみきの瞳は丸められ、普段見ることの無い表情も相まってどきどきと心臓が高鳴りだし。いつもは必ず着いてくると言ってもいい枕詞が無いのはきっとお酒のせいだろうとは理解しつつも、折角だし…いやまさかな…と期待半分諦め半分で「 …みき、かわいい？ 」と薄紅色に染った頬で問いかけてみてはそわそわと彼の返事を待ってみて。 )

へー…そのアイス美味そうだな、俺も後で買お。

( 視線はサイダーを持つ手を追いかけて、カゴの中にあるアイスが目に入ってはにっこり笑って真似っこを決意。とりあえず先にと、酔い覚ましのお茶と帰ってから少しだけ飲み直すため350mlの缶ビールを1本自分のカゴに入れて。しかしそうなるとツマミも必要だな…と呟いては、ジュースコーナーから少し離れてお菓子類が置かれた棚へ向かい。普段の彼女より幾分か大人しめな気がするのだが、酒の入った頭は残念ながらそこまで回らず。無意識に畳み掛けている自分の言葉のせいで淡く染まった彼女の頬が余計に可愛らしさを演出しており。「そうだなぁ……、俺の生徒はみーんな可愛い………けど懐いてくれてる分、御影がいちばん可愛いかもな。」うーんと仰ぎながらいつもの枕詞はここで登場。しかし酒の力は恐ろしいもので、続く言葉で彼女の問いかけに答えを返してはいつもの意地悪な…というよりは、どこか悪戯っ子のような笑みを向けて。 )

ま、まだ飲むの…。
ちゃんとおうち帰れる……？？？

( ただでさえいつもと真逆な彼がビールを手に取ったのを見ては、彼がもう成人してから５年以上経っていることは知っているけれどなぜだか心配になってしまいぺたぺたサンダルの音を立てながら彼について行き。お酒っていっぱい飲むと二日酔いになっちゃうんじゃ…と未成年ながら明日の彼の事を心配しつつ、でも普段滅多に見れないような様子の彼はもう少し見ていたいなと相反するふたつの意識にみきの心はｶﾞﾀｶﾞﾀ揺らいで。いつもならここで、『俺の生徒はみんな可愛い』あたりで言葉が終わって意地悪な顔で笑うのだけれどどうやら本日の彼は違うようで。自分で聞いた癖に、しかもなんとなくこういうニュアンスを答えてくれるんじゃと期待していた癖に、あさましくもその言葉と悪戯っ子の笑顔にときめいてしまった心臓はあまりに単純。「 っ～、……もお、お酒飲んだせんせーずるい…。 」と遂には両手で顔を覆ってしまい。 )

家に帰って飲む分だから大丈夫だよ。
それに明日も休みだしな～！

( 彼女の心配を他所に上機嫌な様子で久しく経験していない二日酔いを甘く見ているが、明日の朝トイレとお友達になるのは今はまだ知らずに。とは言っても明日も休日、少しくらい体調を崩すのは覚悟の上での飲み会だったのも事実で。いかゲソと小袋のスナックをひとつずつカゴに放り込むと、彼女の足音を確認しながら次は甘い物を摂取するべくそちらのコーナーへ向かい。「ずるくなーい。ていうか聞いてきたのそっちだろ？……あ、でも贔屓みたいになっちゃうから他の奴らには内緒な。」ひどく照れた時に彼女が顔を隠すのはよく知っている。その様子に笑顔を継続させては、あくまで自分は問いかけに答えただけだと主張。しかしふと何かを思いついたようにぴたりと動きを止めては、口元に人差し指を当てた＂内緒のポーズ＂を彼女に向けて口止めを。 )

もう…。
せっかくのお休みに具合悪くなっても知らないんだからね。

( 上機嫌でおつまみを追加しスイーツコーナーに向かう彼の足取りはいつもの数倍軽やかで、ほんとに大丈夫かなぁと呆れながらもやっぱりこんなに可愛かったら他のお姉さんに逆ナンされちゃうかもしれないので彼の後を離れることはせず。何故だか見ると買いたくなってしまう不思議な魔力を持つコンビニスウィーツたちはどれもきらきらぴかぴかと華やかで、あんまり甘いもの食べてるイメージのない彼が何を買うのかと様子を伺って。もうどれだけ此方の心にハートの弓矢を刺されば良いのかというくらいに着実にキュンポイントを重ねていくほろ酔いの彼は、此方の気も知らずににこにこと内緒ポーズ。みきは指の間からきゅるんとした夕陽色の瞳を覗かせては「 今日のせんせー心臓に悪い。ばか。だいすき。 」と八つ当たり半分照れ半分でぽそりと呟いて。 )

休みだからこそ1日寝てても問題ないからセーフ。
…御影こそ、休日だからってあんまり夜遅く出歩いたりすんなよ？会ったのが俺だったからいいものの、不審者とか結構いるんだから。

( まるで子供のように次から次へと言い訳を述べるも、その顔は一旦引っ込めすぐさま注意をする側へとまわり。実際こんな時間にお世辞にも治安が良いようには見えない場所へ女子高生が1人だなんて、アブナイ思考を持った大人には格好の獲物だろう。彼女がこちらへ向けている心配と少し似たような考えもあるにはあるのだが、純粋に事件のようなものに巻き込まれてしまわないかという心配を。そうして少しだけ真剣そうな話をしながらも、一口サイズのビターチョコが入っている小さめの小袋をひとつと、コンビニスイーツあるあるの可愛らしいクマさんの見た目をした丸いカップケーキを手に取ってカゴに入れてはそのまま足はレジの方へ向かい。彼女の呟きが耳に届くと、「この前はお前にやられたからな、心臓に悪いこと。おあいこだ。」べ、と舌を出しながら、ご褒美とはいえ先日のハグの件を引き合いに出して。 )

はぁーい、気をつけます。
、……かわいい。意外。

( 教師と出会った時点でそれを言われるのは分かっていたのか、特に反抗することもなくゆるゆるとした敬礼をしながら素直にそれを受け入れて。だがしかし学生らしいそんなふんわり流すような台詞もそこそこに彼が手にしたなんともファンシーで可愛らしいクマさんのカップケーキにぱち、と夕陽色の瞳を見開けばまた彼の新しい一面を知ってしまったと心はときめいて。またぺたぺたと産まれたてのひよこのように彼に着いていきレジにたどり着いたものの、現代っ子は何故だか空きやすいセルフレジかつキャッシュレス決済であっという間に会計は終わらせてしまい。彼の言葉にきょと…と該当の『心臓に悪いこと』を頭の中の引き出しをしばらく探っては、ハグのことだとようやく分かったのか「 あれはせんせーからもOKが出てたからノーカンだもん。 」と静かに頷いて。だけどやはり教師としては心臓に悪かったのか……と絶妙にズレた勘違いをしてはハグは黒寄りのグレーだと自分の中の『せんせーにして良い事リスト』を更新して。 )

あ、家まで……は逆に良くないか、
せめて近くまで送っていくからちょっと待ってな。

( ぱちくりと夕陽色を更に大きくさせてこちらのチョイスに驚きを隠さない彼女に対してくすりと笑みを零し。しかし共にレジに着いたと思いきや、前にいた人の会計が終わる頃にはすでに彼女の会計も済んでいることに今度はこちらが目を丸くさせて。さすがにひとりで帰すわけにはいかないと慌てて声を掛けては、レジの店員に向き直りタバコの銘柄を数字で伝えて追加購入。彼女のことだから正直気にしないような気はするのだが、やはり生徒とはいえ異性の家まで着いて行くのは憚られるものがある。担任であれば知っている情報だろうし問題無いかもしれないが、自分はあくまで担当教科を教えているだけなので。確かにOKは出したが、本音を言えば目標点数に少しだけ届かず慰めて終わると思っていた。それをクリアしてきた彼女に文句を言うのはもちろんお門違いなので、正論で返されるとぐぬ…と悔しげに口をつぐみ。「…今度からはご褒美の内容、ちゃんと審議するか。」と、顎に手を当てわざとらしく考える素振りを見せて。 )

え。
…………いいの？！

( ちゃんとバイバイをする為に待っていようとは思っていたものの、まさか彼に送っていってもらえるとは予想外でばち。と丸くした目はだんだんときらきら輝いていき。嬉しい、夜デートだ。と部屋着とほろ酔いというなんとも奇妙な2人ながらももう少しこの可愛らしい様子の彼と共に居られるのが嬉しくてにやにやと緩んでしまう頬に手を添えて大人しく待ち。いつも負かされっぱなしの彼を見事に打ち勝ってはむふ！と自慢げに笑っていたものの、うっかりご褒美の内容に再審査が入りそうになれば「 やだやだ審議しちゃだめ！甘々判断がいいとおもいます！ 」と慌ててふるふると首を振りながら両手でバツを作って再審議反対のポーズを。 )

こんな時間に御影を1人で帰せる訳ないだろ。
……───悪い、帰る前に1本だけいいか？

( お待たせ。と彼女の方へ近付きながら当たり前だろうと言わんばかりの口ぶりで、買い物袋片手にコンビニを出…た所で立ち止まり。最後にタバコを買ったのは飲み会の終盤で切らしてしまったせい。普段そこまで吸う方ではないのだが酒が入るとやはり口寂しくなってしまう。疑問系で彼女に投げかけたものの、答えを聞く前に入り口から少し離れた所に設置された灰皿の側へと向かい。得意げな顔から一転、墓穴を掘ったと慌てた様子の彼女を見て可笑しそうに吹き出して。「…っふ、反論はっや。でも俺すでに結構お前に甘いからなぁ、これ以上は贔屓みたいになっちゃうしな～。」無意識のうちとはいえ、ふとした時に彼女を特別扱いしてしまっている自分に気付くときはある。それもこれも好意を向けてくれている彼女が可愛いのが悪いのだと雑な責任転嫁を頭の中で繰り広げて。ひとり反対運動を起こしている彼女がやけに面白く、その反応を楽しむかのように笑いながらさらに悩む素振りを。 )

もー。
どうせダメって言っても吸うつもりでしょ？

( こちらに質問を投げかけつつももう既に足が喫煙所へと向いている彼へくすくすと笑いながら呆れたように言葉をかけては、それはそれとして普段吸っている姿を見たことがないのでちょっぴりソワソワドキドキしてしまいながら灰皿の隣に設置してあるベンチにちょこん、と座って。既に彼に甘やかされている自覚はあるのかぎく、と眉を寄せては更に悩んでいるような彼をきゅるん、と見上げながらぱしぱしと何度も瞬きをさせて精一杯の可愛い生徒アピールを。これが彼に効果があったことは体感的にあんまり無いのだけれど。「 可愛い生徒のおねがいだから！ね、せんせー。贔屓バンザイだと思います！ 」と両手の指を組んでこてりと首を傾げては次は反対運動から懐柔作戦に乗り換えたらしく、飼い主に甘える子犬のような夕陽色の瞳で彼をじっと見つめてみて。 )

当たりー。
…ま、ほんとは生徒の前で吸うもんじゃねーんだろうけど……。

( 彼女の指摘にくすくすと同じように笑い。今や当たり前となった電子タバコではなく紙タバコに慣れた所作で火を付けて一吸い。ぷか、と煙を吐くときは絶対に彼女の方へ煙が流れないよう顔を背けて。自分が出した白い煙が夜に溶けていくのをぼーっと眺めながら、生徒に見せる姿としては相応しくないなと乾いた笑いを零し。大袈裟なほどあざとい甘え方は少し可笑しく、つい吹き出してしまい。「っ、ぷは、なにバンザイって。…贔屓ついでにコレやるからそれで勘弁な。」いくら可愛い生徒の頼みでも残念ながらあからさまな贔屓はできかねる。裏を返せば、分かりにくければ正直少しくらいなら…とは思っていたりもするのだが、それを口に出してしまうのは教師としてはいかがなものか。代わりにと、可愛らしくこちらを見つめてくる彼女にガサガサと自分の袋から取り出したクマさんケーキを差し出して。 )

─── …せんせー、なんか大人の男の人みたい。かっこいい。

( 煙草の先に火をつけ、吸い込み、白い煙を吐く。たったそれだけの単純作業がやけに手馴れていて、タバコを咥える薄い唇だとか、横顔だとか、宙に登っていく煙を見つめる瞳だとか、自分が知らない彼が詰まったその様子に思わず見惚れてしまえばふにゃふにゃと笑いながら小さく呟いて。彼が大人の男性で、更にかっこいいのも入学初日から知っている事なのだけれど、今日はなんだか初めて見る彼の顔がたくさんあるのでちょっぴり新鮮にそれを改めて実感したらしくその夕陽色の瞳にはすき！と分かりやすく書いてあり。彼から不意に差し出されたのは先程彼が買っていた可愛らしいくまさんのカップケーキ。みきはきょとん…と瞳をまん丸にしながら数秒たっぷりフリーズしたあとにﾊｯと漸く状況を理解したのか「 こ、これ、もしかして、……みきのために買ってくれたの…！？ 」と、彼の好みにしては甘すぎるカップケーキを両手で大切そうに受け取ればきらきらと期待に光る瞳で彼を見上げて。 )

何だそりゃ。
いちおー大人ですよ、お前よりは。

( 想像以上に素っ頓狂な感想がぽつりと聞こえきては半笑いのままがく、と肩を落とすような仕草を。確かに自分より大人っぽいという言葉が似合う人は周りにいくらでもいるだろうが、彼女からすれば自分もその内に入っているだろうと思っていたのだが。実際他の生徒たちからも敬語を使われることなどほぼ無いしもちろんそれを注意することもしない。そんなちょっとした事の積み重ねで生徒との距離が近すぎるため自分から＂大人らしさ＂とやらを失わせている…？とほんのちょっぴりだけ悩んでみたりもして。口に出さずとも言いたいことを語っている気がする夕陽色にぱちりと視線を合わせては何となくべ、と舌を出して。思いのほか状況を飲み込むのに時間を要した彼女に笑いかけ、「ジャン負けとはいえ、弟のためにおつかいしてあげてる優しいお姉さんに俺からのご褒美ってことで。」たまたま目に入ったクマさんケーキ。自分が食べる気など最初から更々無かったのだが自然とそれをカゴに入れていたのは、元より彼女へ渡すためだったのだと暗に伝えて。 )

だって、今日のせんせーはお酒も飲んでるしタバコも吸ってる。
…いつも大人だなぁって思ってるけど、今日はみきの初めて見るせんせーなんだもん。

( 恋する乙女の瞳は好きな人の一挙手一投足を見逃さないようにうっとりした瞳で彼を見つめ続けていれば、きっと此方の心をいつものように読んだらしい彼に舌を出されてしまいくすくすと笑って。だがそれと同時に彼との年齢の壁を痛いほどに痛感してしまったのも事実で、サンダルから覗く大人っぽいと思って塗ってみた赤色のペディキュアがひどくチンケな物に見えてしまいそれを見下ろしてはまた笑ってしまい。卒業まではあと１年と少しだけど、自分が彼と同じように飲酒ができる年になるのはあと3年、されど3年あるのだ。古今東西夜はセンチメンタルになるのはどの年齢の女も変わらないようで、みきはぷく。と小さく頬をふくらませ。こちらをつぶらなチョコレートの瞳で見つめてくるクマさんケーキと、それから優しい顔で笑う彼のダークブラウンの瞳を何度も交互に見つめては嬉しそうにふにゃ、と笑っては「 ふふ。んふふ。せんせーありがと！大事にする！ 」とゆるゆるの顔で大切そうに、落とさないようにカップケーキを両手でしっかりと持ち。……大事に食べる、よりも大事にする、なのはちょっぴり眺めてから食べようと思っているからで、決して食べ物って冷凍庫とかに入れたらずっと保存出来ないのかなぁと思っていた訳では無い。はず。きっと。恐らく。 )

そりゃまあ学校で見せるもんじゃないしな…。
──つっても俺は俺だし、何も変わんねーよ。

( 見慣れさせるどころかそもそも見せたこともない姿なのは重々承知のうえで、しかし別に人が変わった訳ではもちろん無い。いつもと変わらず彼女からの好意はだだ漏れなのだが、その裏にうっすらと寂しさのようなものが見え隠れした気がして。歳の差に関しては日頃どちらかといえば自分が苦言を呈している方なのだが、どうやらその壁の高さを彼女が改めて認識してしまった様子。そういう状態を心のどこかで望んでいたとはいえやはりいざ目にすると気になってしまい、ベンチに座っている彼女の頭にぽんと優しく手を乗せて。年齢の差は縮まることは無いがこれ以上に開くこともないと、安心させようと眉を下げて薄く微笑み。ふにゃりとした柔らかい笑顔で数百円のコンビニスイーツを大切そうに包み込んでいるその姿に微笑ましさと愛しさを覚え。「いや食えよ。」とツッコミを入れては彼女なら保存もやりかねないと苦笑を零して。 )