女子生徒 2024-04-30 23:32:52 |
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……もう、?
─── じゃあ、最後に1回ぎゅってする。
( 自分から距離を取ったくせに、いざ本当に終わりが告げられるとそれはまた寂しいと思ってしまうのかしゅん…と捨てられた子犬のように彼を見上げて。だがしかし触れ合っている時間が伸びれば伸びるほどまた離れがたくなってしまうのも事実なので、最後に1度だけ心臓の音も聞こえてしまっていいやと首に手を回して彼にぎゅう、と甘えるようにちょっぴり背伸びをしながら体を密着させて。そうして彼からゆっくりと離れてはにこ!と満足したらしく笑顔を浮かべ。自分が苦し紛れに提案したご褒美があっさりと通ってしまえば想像していたよりもずっとずっと手軽なご褒美に「 ほ、ほんとにそんなので良いの…? 」となぜだかこちらが驚いてしまい。否、作るとなればもちろん気合を(言わずもがな愛情も)入れるし栄養等もしっかり考えて作るのだが。好きな人にお弁当を作ったことなど人生で初めての経験なのでちょっぴりどきどきそわそわしてしまうのも本音で。 )
はいはい。
───…ったく、俺が言い出した事ではあったけどまさか本当に目標を達成するとは……。
( 最後のハグ、身長差を考えて彼女が抱きつきやすいように少しだけ前屈みになって今回のご褒美は終了。いつも通りの朗らかな笑顔を見せる彼女に苦笑しながら、採点を済ませた本人ではあるが未だに信じられないとばかりにぽつりと呟き。密着している間中遠くから聞こえてくる生徒や他の教師の声に少しだけ緊張していたことは敢えて言わないが、これが次回も次々回もとなるとこちらの心臓が持ちそうにない。もし次があるとするならご褒美の内容をもう少しマイルドにするか、彼女の目標点数を上げるかを頭の中でうっすらと考えて。逆にこちらが貰える(予定の)ご褒美は彼女からすれば相当マイルドなものだったらしい。提案した側から驚いたように問われれば、「一人暮らし満喫中の独身男性は手料理なんか滅多に作らないし食べる機会もないからな。むしろ大喜びなんだけど、それ。」と自嘲気味に乾いた笑いをこぼして。簡単な料理ならもちろん出来はするのだが、地産地消だとどうしてもやる気が起こりづらいのも事実。教師が生徒に弁当を作ってもらうなど自分が知る限りは聞いたこともないが、調理実習の延長線みたいなものだと思えば案外セーフなのかもしれないと。 )
恋する女子高生は無敵ってことー。
( 彼の呟きに悪戯っぽく笑ってしまえば、ただでさえ最強の女子高生は恋をすることによってもっとパワーアップできるのだと。最も、今回は下心パワーで頑張ったのが大きいのはあれど彼が勉強を出来る限り見てくれていたのが目標達成への近道となったようで。閉めていたカーテンをシャッ、と勢いよく開けては少し暗い2人きりの空間もいつもの準備室に早変わりし、今回のご褒美タイムは無事に終了。我儘を言えばもうちょっと堪能していたかったな、というところではあるけれどいつまでも〝転び掛けた生徒をたまたま正面にいた教師〟が抱き留めておくわけにもいかないので我慢。どうやら手作りのお弁当は充分に一人暮らしの独身男性にはご褒美になり得るようで、それならまぁいっかと1人納得すれば「 じゃあせんせーへのご褒美はおべんと、……あ!つまり愛妻弁当ってこと…!? 」と相も変わらず突拍子もなく閃いたことをそのまま口に出してはそれなら喜んで!とにこにこ了承。何入れようかなぁ、ハンバーグとかかなぁ、と手が込めば込むほど苦手な早起きをしなければならないということは取り敢えず端に寄せておいて愛妻弁当のメニューを今から悩み初めているようで。 )
そういやそうだったな。
……ま、俺からしても御影の成績が多少は上がったことで安心したよ。
( 何だか前にも聞いたことのあるような台詞を出されては納得する他なく。とはいえこちらとしても赤点常連から一歩前進した彼女に安堵しているのは間違い無いので、仮に原動力が下心であったとしても結果良ければすべて良しなのだ。勢い良く開かれたカーテンから差し込む西陽の眩しさに目を細め、その明るさと変わらず外から聞こえてくる運動部の声でいつも通りに戻った部屋の雰囲気を感じながら自分の椅子に腰を下ろし。彼女からすれば素敵な閃きだろう単語をきらきらとまた口にされては、「誰が愛"妻"なんだ誰が。」と逆に真顔でぴしゃり。そんなツッコミが彼女の耳に届いているのかは分からないが、すでに弁当箱の中身を練ってくれている様子の彼女に優しく微笑んで。「…ご褒美も決められた事だし、諦めて今年は参加するよ。──出来るだけ楽なやつに。」一言余計に付け加えては、一応はっきりと参戦の意を示し。 )
次も同じ点数取れって言われたらちょっと不安だけどねぇ。
でもせんせーのために次も頑張る。
( もうすっかり専用になってきたような気がする予備の椅子にかたん、と腰掛けつつ残念ながら彼の言葉には次があるかどうかをほどよく濁して返せば、勿論この点数を継続していけるのであればそれが最良ではあるのだがそれを誤魔化すようにへらりと笑って。でも彼がこうして教師として安心してくれるのであれば、ここまでの点数ではなくともせめて平均点くらいはコンスタントに取れるようにななければと次のテストへのやる気は上がるもの。こて、と首を傾げながら彼を見あげては人懐っこく微笑んで。ツッコむべき場所にはキッチリと指摘してくれる彼へてへ、と愛嬌で誤魔化しながら彼の参加表明にぱちぱちと拍手を送り。だがしかし最後に付け足されたなんとも彼らしい一言にブレないなぁと思わず笑ってしまえば「 せんせーが頑張る競技に出るなら、お弁当はせんせーの好きな物尽くしにしようかなぁって思ってたんだけど。 」と、どう?と首を傾げて。 )
その時は俺もまた一緒に頑張ってやるから大丈夫だよ。
( 一難去ればまた弱気に戻ってしまった彼女にふ、と笑いかけては、次回以降もテスト勉強を手伝うことをふんわりと。もちろん友達同士で勉強会でも開くのであればそっちで頑張ってもらいたいのは山々だが、彼女のやる気次第で力を貸すことは決してやぶさかではなく。何だかんだとこうしてほぼ毎日放課後に話をするのを楽しく感じている自分がいるのも事実なので、彼女との勉強会を開くことは正直こちらとしても有意義な時間だと思っていることは内緒で。お褒めの拍手を受ければ心なしか得意げな表情を見せるも、せっかく作った逃げ道を塞がれてはぐぬ…と悔しげな顔に変わり。しかも手料理に飢えている人間にはとても魅力的かつクリティカルヒットになりえる一言で。「……暑い中での生徒の応援も、俺的には結構頑張ってる競技とも言えるんだけど。」と、ただの駄々でしかない最後の足掻きをしてみるも現状の敗色は濃厚で。 )
……んへへ。せんせーやさしい。だいすき。
( 教師然とした彼の優しさにふにゃふにゃと蕩けるように笑っては思わずいつものように気持ちを吐露し。一緒に頑張ってくれるんだ、とお世辞にも賢いとは言えず何度だって回答を忘れてしまう自分にもめげずに付き合い続けてくれる彼の優しさにきゅう、と苦しいくらいにときめきながらもぽわぽわと心が温まり。本当は友達と勉強会を開いても良いのだけれど、学生の勉強会というのはいつだって脱線してしまうのがセオリーなので結局は彼の元に通った方が効率的というのもまた事実で。恐らく彼もダメ元で言っているであろう駄々も可愛いと思ってしまうのだから恋心は厄介。みきはふふ、と柔らかく笑いながら「 せんせーが頑張って〝競技に出る〟なら、ピリ辛の美味しいおかずも作るのになぁ~。ちゃんと1から作るだし巻き玉子とかも付けちゃおうかな~。 」と彼の顔色を伺うようにそっと覗き込んで。最もメニューは彼が好きなものにするつもりなのだけれど、みきは知っているのだ。だし巻き玉子をちゃんと1から作るとかなり面倒臭いということと、一人暮らしで自炊をそこまでしない人は消費期限の早い卵で料理をそもそも作らないということを。 )
はいはいどうも。
…手がかかる生徒ほど可愛いって言うしな?
( まったく、調子の良い彼女に悪い意味ではない溜息を吐きながらもその視線は優しく。日頃特に勉強する事を好きと言わない彼女が、テスト前で下心ありきとはいえ頑張っている姿を見ると応援したくなるのは教師心か親心か。どうしても避けられない道とはいえ苦手な事に取り組む彼女を純粋に尊敬する気持ちはもちろんあるのだが、にやりと口角を上げながら言葉にしたのはわざと意地悪な言い回しで。テスト前にこちらから提案した飴と鞭のお返しなのか、まったく退く様子のない彼女に笑いが込み上げてきて。「──っふ、分かった分かった。俺の負けだよ。教師チームとして頑張りますよ。」眉を下げて諦めたような笑顔ではあるが、ここまで激励されればもうこちらも退く気は無い。ただ懸念があるとすれば、件の熱血体育教師の参加は当たり前に決まっているのでやる気MAXの彼主催で練習やら何やら参加させられそうだなぁということだ。 )
、
…………みき可愛いってこと!?
( 手のかかる子ほど可愛い。その言葉をゆっくりと咀嚼して頭に入れては、きらきらと瞳を輝かせながら決して自分一人に向けた言葉では無いことはさておきいつものように自分の都合の良いように解釈。…つまり自分が手のかかる生徒だという自覚が無自覚にあることについては一旦置いておくとして、自分を可愛がってくれているというのはいつも感じているのだが改めて言葉にされると矢張り嬉しいのかにこにこぺかぺか輝く笑顔を浮かべ。どうやらスポーツ大会の競技へも無事に参加してくれるらしい彼へウンウン!と満足気に頷けばせんせーのカッコイイところ沢山見られるといいなぁと近い未来に思いを馳せ…………たところで、ふとそういった活躍系のイベントの後にはいつだって女子たちは男子に向けて桃色の空気を纏うことを思い出せばむん、と眉を顰めながら「 やっぱりあんまり頑張りすぎちゃだめ…女の子がきゃあきゃあならない程度にして… 」と神妙な顔つきでゆっくりと首を横に振り。 )
そうだなぁ、御影はある意味いちばん手がかかる分可愛さ倍増ってとこかもな。
( 相変わらず言葉をポジティブに受け取ってぴかぴかと満面に輝く笑顔を浮かべる彼女を可笑しそうに見つめながら、うーんと悩む素振りをしつつ再びその燃料になりそうな台詞を送って。コロコロと表情が変わり、いつも自分の想像する斜め上あたりに飛び込んでくる彼女は本当に見ていて飽きない。わざわざ揶揄うような事を言ってしまうのも自分が楽しんでいるだけなのかもしれないが、こうして自分の行動や言動にまでちゃっかり影響してくる彼女には何だかんだいつも白旗を挙げてしまうなと薄く微笑んで。先程まで激を飛ばしてくれていた彼女が急に難しい顔をしたかと思えば、応援してるんだかしていないのか分からない事を言い始めたので芽生え始めた勢いは急ブレーキをかけざるを得なく。「えぇ……?…──そんな心配しなくても、大半は☆先生への黄色い声援になるんじゃねーの?」自分より年下の、きらきらと爽やかな笑顔が一部女子に好評な例の先生。教師なのでもちろん彼も生徒に手を出すようなことはしないのだがどうやらちやほやされるのは好きらしく、自分と違って生徒の好意を正面からきちんと受け止めているらしい。そこも人気の秘訣なのかもしれないが、運動神経も良さそうなのできっと注目の的だろうと肩を竦めて。だからといって自分が運動神経に自信がないかと言われたらそういうわけでは無いのだが。 )
!
な、なんでせんせーたまにデレるの…!読めない…!!!
( てっきりまたいつものように〝 お前だけじゃなく生徒はみんな可愛い 〟が返ってくると思っていたため、なんのプロテクターも付けていない心にするりと彼の言葉と優しい微笑みが潜り込んでくればあっという間に真白の頬は桃色に染まり。なにだか最近彼の前で照れてばかりな気がしては妙なきはずかしささが買ってしまったのか両手で顔を隠しながら半ば八つ当たりのようにぱたぱたと地団駄を踏んで。欲しい!と強請る時はくれないのに油断している時には致死量を与えてくる悪戯な彼に散々心を振り回されてもそれでも好きなのはどう考えても手のひらで踊らされているような気もするが、それもそれで悪くないなと思ってしまっているのもまた真実でみきはうー、と唸りながらちらりと指の隙間から彼を見つめ。此方の言葉に呆れたように肩を竦める彼にむす、と柔らかな頬を膨らませてはせんせーは全然わかってない!と背中を丸めて膝に頬杖を。「 ☆せんせーが運動できるのなんてみんな知ってるもん、こういう時にモテるのは普段運動しないイメージのある人が活躍しちゃった時なの!ギャップ萌えなのー! 」と学生恋愛あるあるな今まで意識してなかったけれどよく見ると…のようなパターンは教師も適用されるのだと丁寧に説明を。最も、みきは☆先生に1ミリも興味が無いので彼が本当に運動が出来るのかは知らないけれどマァああいうタイプの先生って昼休みに男子生徒とバスケしてるでしょ、というなんとも雑なイメージ像でしかないのだが。 )
残念ながらお前に読まれるほど単純じゃないんだよなぁ。
( まったく意図してないところでいつの間にやら読み合い合戦が始まっていたようで、どうやら自分は彼女に勝っていたらしい。淡く染まった頬は残念ながら隠されてしまったが、隙間から覗く目とぱちり、視線を合わせればにやりと笑い。別に心理戦が得意だとかいうわけではないけれど、そういう勝負事に真っ直ぐ素直な彼女の性格は不利でしかないだろう。たまにこちらを揶揄うような素振りを見せてくることは確かにあるが、力技でなければこちらにだって充分勝率はあるもので。こうして自分のちょっとした一言で色んな表情を見せてくれる彼女を愛しく思うも今はまだそれを口には出さずにいて。まるで少女漫画でよくありそうな内容に怪訝な顔をしながら聞き捨てならない一言に一応ツッコミを。「おいこら、俺はギャップがないとモテないってか。……そもそも暑いのが分かってるのに、俺が注目を集めるほど活躍すると思うか?参加するだけで褒めてほしいくらいなのに。」彼女の心配をよそに、こちらは手作り弁当に釣られて参加するだけのやる気のない教師なので大丈夫だと、まったく格好良くない台詞で締め括っては何故か少し誇らしげに。…とは言ったものの、余りにもやる気が無さすぎて彼女の興味が自分から☆先生へと移ることを考えると、それはそれで何となく面白くない気がしなくもない。 )
みきはせんせーに全部バレてるのに……。
( ぱち。とバッチリ彼の目線が絡めばにやりと悪戯に笑う彼にあさましくときめいたその瞳は素早く両手によって隠されてしまい。もごもごと手中で悔しげに言葉を零しては何をどうしても自分の気持ちが彼に筒抜けになってしまっている現状に疑問を。否隠しているつもりは毛頭ないのだけれど、それにしたって猫が猫じゃらしに弄ばれるが如く彼にこうしてずっと遊ばれているのは〝彼に見合う大人のお姉さん〟を目指す自分にとって課題。 どうしたら保健室のまりあちゃんや友人のあきちゃんのように男を手玉にとれるのだろう……と真剣に考えても出てくるのはムリの二文字。みきはむ、と唇を尖らせながら両手で頬杖をつきながら不満げに赤い頬で彼を見上げて。彼からの鋭いツッコミやお世辞にも格好良いとは言えない言葉で締めくくられた返事に「 違うよぉ、ギャップが見えたらもっとモテちゃうから嫌ってこと。 」とバカ正直に答えながらため息をひとつ吐いては彼の白衣をちいちゃな指先で掴みながら「 ……でも☆せんせーよりかっこいいせんせーも見たいから困ってるの。 」と小さな子供が駄々をこねる時のようにむす…としながらもそもそと言葉を重ねていき。好きな人のかっこいいは見たいけど、他の人には見て欲しくない。そんな難しいふたつの気持ちがぐるぐると胸の中を渦巻いてはみきはちらりと彼に視線を送り。 )
お前は特に分かりやすいからな。
ま、下手に駆け引きをし合うよりちょっと不器用なくらいが可愛げがあって俺は好きだけどね。
( 彼女の目指している高みはさておき、素直な方が可愛らしいと思うのは紛れもない本音。というのも大人になればなるほど恋愛やらで相手と深く関わることにおいて、どうしても譲れない駆け引きのような物が出てきてしまう。結婚願望も特に持ち合わせていない自分にとって、押したり引いたりを繰り返す大人の恋愛はちょっとばかり疲れてしまうものがあり。それに比べて良くも悪くも真っ直ぐで分かりやすい彼女は、一緒にいるだけで自分も自然と素でいれるのでとても楽。同じように…ではなく、こちらは片手で頬杖をついて微笑んだまま彼女を見つめ。"もっと"の一言に、現状彼女以外にモテている自覚をまったく感じられないため頭を捻りながら疑問符を散りばめて。向けられた可愛らしい我儘への答えは、失礼ながら彼女がテストで満点を取るよりも難しい気がする。「それは難題だな……。…んー………、──とりあえずかっこいいかどうかは置いといて、単純にお前が他の子に負けないくらい応援してくれれば俺はそれでいいんだけど?」どれだけ悩んでも何が正解か分からない。そもそもモテたいがために頑張るわけじゃないしな。と思考するのを放棄しては、拗ねたままの彼女の機嫌を直すべく小首を傾げながら覗き込むように彼女に視線を合わせ。 )
……すき?
( 片手で頬杖をつきながら此方を見つめる彼の眼差しがとても優しくて、どこかそわそわとくすぐったいようなそんな感覚に胸をざわつかせながらも子犬のような声で思わず問いかけて。〝そういう子が好き?〟なのか〝みきが好き?〟なのか、主語のない質問は少し意地悪だったかもしれないけれど、彼から好きという言葉が出てくること自体が珍しいような気がしてみきのふたつの夕陽はちょっぴりの期待と甘えが混じった色で彼を見つめ。何だか今日の彼は甘々だ、とぼんやり感じるのはテストの結果が良かったからかそれとも本当に今日は甘々なのか。結果は神のみぞ知ること。応援、そんな簡単なことで彼は良いのかなぁと思ってしまうもののこちらを覗き込むダークブラウンの瞳が嘘をついていないことはよく分かっている。そっか、他の子の声が聞こえないくらい応援したらそもそもせんせーが他の子を見ることもないのか、と納得してしまえば「 …みきがいちばんだいすきなのはせんせーだけだもん、いちばん応援するよ。 」と、へにゃへにゃ笑いながら約束ね、と小さな小指を立てて指切りをしようと彼に差し出して。 )
……………ん、すき。
( 小さな声でぽつりと呟くように聞こえてきた一言に少しの間をおいて、主語が無いのをいいことに敢えてこちらもそのままオウム返し。期待の色が見え隠れする夕陽色の瞳と目が合うと、答えてやったぞと言わんばかりに頬杖ついたまま目を細めてにやりと微笑み。普段ならばしれっと流すところだが、ちょうど良く主語が付けられていなかったのと僅かに顔を覗かせた悪戯心の賜物だろうか。彼女から柔らかな笑顔を向けられれば、どうやら不安な気持ちを軽くできたようで一安心。「はいはい、俺もいちばんの応援をしてもらえるよう頑張るよ。」差し出された小指にサイズの違う自らの小指を絡ませては彼女の指切りを受け入れて。もしも仮に彼女の懸念通り注目されたとしても、それこそギャップありきの一過性のものだろう。放課後まで追いかけてこられるのは目の前の彼女だけで充分なので、やはり☆先生には普段以上に目立ってもらわねばと溜息混じりの笑いがこぼれ。 )
、………………あのね、みきもすき。
( 好きかどうかを先に聞いたのは自分なのに、いざ彼から求めていた返答が来ると驚いしまうのはきっと日頃の彼の意地悪のせい。大きくまん丸に見開かれた瞳は、彼の〝すき〟 かじわりじわりと頭の中で噛み砕かれていくにつれて優しく蕩けて。みきはゆっくりと彼の耳元に唇を寄せては、ぽそぽそとまるで恋人たちが眠る前にする内緒話のような小さな囁きで己も〝何に対してとは言わないけれど〟同意をひとつ。そうしてまた彼から離れては程よく朱色に染まった顔で花がほころぶように微笑んで。だがしかしお姉さんの顔も長くは続かないようで、すすす、と机の上に放置していた62点のテスト用紙で顔を隠せばやっぱりいつもの反撃の弱いウブな少女に早変わりし。するりと絡まった小指の爪たちで約束を丁寧に作り上げていけば、どうやら応援があれば(そしてお弁当もあれば)頑張ってくれるらしい彼に満足気な笑顔を送り。「 ほかの女の子がせんせーのこと好きになりませんよーに!ぜんぶ☆先生にいきますように!ゆーびきった! 」とゆらゆら手を揺らしながらなんとも自分勝手な願いで締めくくれば小指の約束もおしまい。あっさりと離れた小指の効果が果たしてどこまで効くのかはまだ未定だけれど、とりあえずは明日の☆先生の授業でスポーツ大会頑張ってもらう旨を話そう…と手回しの予定も組み立てていき。 )
……主語は大切にって国語で習ったはずなんだけどな。
( やれやれと溜息を吐きながら終始主語を無視した会話にひと段落。顔を真っ赤に染めて"またデレた!"ときゃいきゃい騒ぐ彼女を予想していたのだが、悪戯心で仕掛けたその単語はどうやら彼女の中で大切に優しく砕かれたらしい。拍子抜けしたような気持ちが湧き上がるも、耳元で擽ったく言葉を囁いてきた彼女がやはり照れていることに可笑しくなって。「62点の自慢はもーいいよ。」と、わざと揶揄うようにテスト用紙の端をつんつんと指でつつき。指切りとは確か互いに約束を交わすものだったはず…と、約束というより願い事を口にする彼女に乾いた笑いを向けては「お前それ色々間違ってないか?」とツッコミを入れつつもしっかりと終わりまで指切りを交わし。にこにこと満足そうな笑顔が見られただけでまぁいいか。なんて思っては、彼女の根回しに関してまったく気付くはずもなく。 )
今お顔見せられないから62点見てて……。
( 自分が好きとハッキリ言われた訳でもないが、それでも彼からの〝すき〟はあまりにも膨大な破壊力でテスト用紙をアピールする手までなんだか赤みを帯びている始末。自分でも顔が赤い自覚が流石にあるので、テスト用紙の端っこをつつく彼に返事をするようにテスト用紙の向こうでいやいやと首を振り。こっちは入学してから今日まであしらいにも負けずほぼ毎日彼に愛を投げてきたのだ、返事があるというのはなんとも心臓に悪い。絶対今意地悪な顔してる、知ってるよ。ときっとテスト用紙の向こうで口角を上げているであろう彼を今見たらまたさらに好きになってしまうので断固として62点を掲げ続け。「 いーの。願い事は口にした方が叶うって言うから!それにせんせーのこと好きなのはみきだけでいいから。 」彼のもっともなツッコミに絶妙に使う場所を間違っているような気がしないでもない言葉をウンウンと頷きながら返せば、にこにことした向日葵のような笑顔を浮かべながらも淡い嫉妬心に花を咲かせて。 )
見てるだけでこの数字が100になるならいくらでも。
( 可愛らしい字に◯と×が半々ぐらいの割合で付けられたテストは、残念ながらその数字を変えてくれることはなく。朱色の62を見るより、さらに赤く染まっているであろう彼女の顔を見た方がよっぽど面白そうだ。しかしここでテストを剥ぎ取ってまで隠しているものを晒しあげるなど大人気ないことはさすがにしない。これは熱が冷めるまで時間が掛かるなと判断すると、待ち時間用にコーヒーを淹れるべく椅子から立ち上がり。いつから指切りは七夕の短冊のような扱いになったのだろう。願い事はどちらかと言えば誰にも聞かれないようにした方がいいのでは…と思うも、彼女があまりにも堂々と言い切るので何だかそちらの方が良いような気がしてしまって。「だからそんな物好きはお前しかいないから安心しろって。……もし仮にいたとして、またお前みたいなのが増えても困るからその時は何とかしてくれ。」彼女が懸念に思うほど現状モテている実感、そしてこれからも生徒にモテる予定も無いため能天気に構えているのは否めない。が、もしも本当に御影2号や3号が現れればそれはそれで頭を抱えることになるだろう。ただでさえ流せどあしらえどめげない彼女に押し負けている自覚はあるので、これ以上面倒なことにならないよう彼女に盾役を任せて。 )
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