ビギナーさん 2024-02-05 22:29:16 |
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知り合いに変な怪異作家が居て、こういうネタは割と買ってもらえるんだ。
(周りの蛇たちの殺気が先程よりも収まったのを感じ、ボールペンの先をカチリと引っ込めて、誰に言うでもなく呟いて。万が一のことがあれば不精者が袋をペン先で突いて開けるように、その喉元に突き刺すことも考えていたが。「何でもいい、お前の話を。」ペンを出した件は素知らぬ顔をして、ポケットからスイッチの入ったままの記録用ボイスレコーダーを取り出し、ふたりの間に置いた
…ふむ…小生のことかい?
(樒と自身の間に置かれた、これまた見慣れぬ小さな機械。自身が神社に囚われている内に、人間たちの技術とやらは随分進化したのだな─と内心感心しつつ、樒からの問いに首を傾げた。自身のこと。無論、この人間に全て語る気などは毛頭無いが─改めて自身の過去を思い起こす。元の自身は霊能者じみた力を持った人間で、かつてこの地に棲んでいた大蛇に喰らわれたのだった。抵抗せぬようにと四肢を引き裂かれ、想像を絶する苦痛と絶望の中で自身は生命を喪った─筈だったのだが。気付いた時には自身が大蛇の身体を乗っ取り、在りし日のこの神社の本殿、その縁側に腰を下ろしていた。懐かしさに目を細めつつ、手元へ這ってきた眷属の頭を撫でながら、当たり障りの無い発言を)
…小生の名は榊、この神社に住まう"移ろわぬもの"。…彼らを従え、操る力を持っている。
いつ頃から?他に仲間には会ったことは?
(彼の口から飛び出す言葉は不可思議なばかり、実際に怪我もなく火を握り潰した事、蛇と本当に話しているように操っている事、それらを目にしても尚、妄言のように思えるが、その話を有難がって金を払う人間が居るのは事実、話の腰を折ることなく静かにその先を促すように問いかけるのは生業柄。榊の話す声と、蛇が体を滑らせる音だけが耳に入る、聞き手が作り出す空気は蛇達が生んだ先程の殺気と何処か似た、澄んだ静寂
……最早数えるのにも飽きる程、ずうっと昔さ。
(今日は妙に涼しい風と相俟って、何とも心地の好い静寂だ。眷属達も過ごしやすそうに本殿の床を這い回り、自身に寄り添ってきてくれる。─さて、次に思考するのは樒の問うた"仲間"なるもの。この山に棲む"成り損ない"達をそう呼ぶのなら、数え切れないほどに出会っている筈だ。だが、奴らは自身と根本的に─何かが違う。なれば奴らを"仲間"と呼ぶのは憚られた。仲間に会ったことはあるか、との問いには首を横に振り)
…少なくとも今まで、小生と同じ様な存在には会ったことが無いね。
随分曖昧な話だな。
(昔話でも語るように紡がれていく彼の言葉に思わず苦笑を零し。彼が言うずうっと昔、から仲間もなく山の中で過ごしている、気が狂いそうな悠久の時間を想像してふと遠くを眺める、自分だって彼を笑えるような立派な毎日を送っている訳では無いけれど。「でも他に化け物紛いが居ないなら、」自分がこの廃墟へやってきた理由の行方不明案件の犯人はやはり目の前の彼なのだろうか、確かにこんな奴が何人も居たら厄介だなと失礼な事を考えながらに
……信じる信じないは勝手だが─あの青年を隠したのは、小生ではない。
(樒の呟いた言葉に否定の意を込めて首を振り、瞳を伏せて本殿の柱に触れる。騒ぎ出す木々の声に耳を傾け、大方の目星を付けつつも─あの青年を食らった存在を探った。木々、動物。その全てから青年の気配を探り、最後に辿り着いたのは─青年が埋まっている桜の木そのもの。目星を付けていた通りの結果に小さく息を吐き、樒に向き直って)
どっちにしろ面白い方のオチにされるさ。
(神もオバケも生死も遍く平等に人の感情を揺さぶる為のコンテンツ、倫理観など微塵もない発言を零した後ぐっと伸びをして。悲しい事にその中身を綺麗にパッケージングして世に送り出す才能が無い為、ネタ集めのみに奔走しているのだが。「お前も下界に降りてくればいいのに。」レコーダーのスイッチを止めて、保存用の操作をしながらふと榊の話よりも彼自身に儲け話の匂いがある事に気づいたのかそんな提案を
……小生は、この山を降りられない。
(神社から出て、山中を歩き回ることは出来るのに─一歩麓の外、外界へ足を踏み入れようとした途端に弾かれる。まるで、山が自身を繋ぎ止めているようなそれを思い出して自虐的に笑い、何やら先程の機械を弄り回している樒の提案に首を振った。ふと吹き抜ける、また生温くなった風が髪を揺らし)
…まぁ、安酒くらいなら礼に買ってきてやるよ。
(相手の返事に顔をあげる、人の気配のないこの山にずっと縛り付けられたまま、彼の置かれた境遇に同情でも抱いたのか大した慰めにもならない提案を。あの行方不明になった青年も、榊と同じように孤独な誰かに囚われてしまったのだろうか、と思えば単に身勝手な化け物としか思えなかった話も事情が変わってきそうな気もする、
……気遣ってくれているのかい?
(ふと聞こえてきた樒の言葉にぱち、と目を瞬く。言葉よりは親しみと同情が籠もっているように聞こえるそれに、一瞬呆気に取られたような表情を浮かべた後─平常通りの穏やかな笑みを口元に湛えた。相変わらず敵意を向けていた眷属達も少々意外だったのか、徐ろに敵意を鎮めて樒の方をじっと見つめて)
万年金欠だから期待するなよ、
(ふ、と榊の前で初めての、混じり気のない笑みをこぼし。「でもまあまあのお小遣いのネタもできたしさ。」ぽん、とレコーダーを黒いリュックの中に放り込みながら思わず見せた笑みを誤魔化すように付け足す、どうせ根無し草のような生活、話の種ついでに物の怪と近しくなっておいても良いだろうという考えもあるが、自分の提案に一瞬不思議そうな顔をした相手に友人に対するような柔らかな感情を覚えたのも確かで
ふむ、酒か…小生は大吟醸が好みだね。
(自身に釣られるように笑んだ樒を見遣り、暗に買ってこい─と云う意味を込めて顎に手を当て、悪戯っぽく微笑む。眷属達からの、下等な人間に頼むとは、とでも言いたげな、何処か非難するような雰囲気をひしひしと感じるが、肩まで這い上がってきた一匹の眷属の頭を撫でれば─それは途端に収まった。待っているよ、と少しは期待も込めた言葉を樒の背中に掛け、本殿の柱に背中を預けて)
あー…迷ったかな、
(焼ける太陽が半分沈みかけても尚蒸すような暑さが続く夕暮れ時、酒を入れたビニール袋を引っ掛けた指がそろそろ痛くなってきた頃合でスマホの画面と何ら当てにならない木々を交互に睨めつけてはそう呟いて。数日前の約束を果たしに彼の居る社を目指してきたのだがどうにも道程は不明瞭、景気づけ、ではないが缶の発泡酒を音を立てて開ける、喉を流れる泡は温くなりかけていたがそれでも渇きを癒す分には申し分ない
……うん?…ふふ、案内してやると良い。
(数百年ぶりに少し浮き足立ち、境内の中をうろうろと彷徨いていると─木々のざわめきと眷属が一匹、樒が山へ入ってきたことを告げる。どうやら迷っているらしい、との話を聞き─教えてくれたその眷属を指先で拾い上げ、微笑んだ。眷属は従順に自身の指先から滑り、白い着物を纏った幼子の姿に変化した後、鳥居を出て石段を駆け下りる。その背中を見送り、手持ち無沙汰に髪の先を指先で弄って)
こども、?
(缶を煽る視界に、草陰からふいに顔を覗かせた子供が映り自身の目を疑う、祭でもないのに白い着物を来た姿は榊と儚げな雰囲気が似ていて、彼が幼い頃はきっとこんな風だっただろうと思わせるような。付いてこいとでも言いたげに、跳ねるように迷いなく歩いていく童子の後を進めば現代社会で怠けきった大人には少々酷な薮道を抜けて、見覚えのある鳥居がすぐそばに。自制心が敗れて持参した酒を全て飲みきってしまう、もしくは心地よい酔いに眠ってしまう前に目的地へと辿り着かせてくれた少年は此方を見向きもせずてんてん、と階段を登ってゆき
…御苦労様、助かったよ。
(髪や着物の裾を弄って暫しの暇を潰していると、幼子─の姿をした眷属が石段を駆け上がって来る姿が目に留まり、その奥には樒が居るのが見えた。自身に走り寄ってくる眷属の頭を撫でて声を掛ければ、少し嬉しげに頬を緩ませた後、眷属の姿は元の白蛇へと戻る。片足を地面に擦るようにして歩き、樒へと近付いて微笑み掛け)
…やあ、また来たのかい?
取材の謝礼。
(飲みかけの缶の中身をぐいと飲み干して、半透明のレジ袋を少し持ち上げて見せる、巷のスーパーで買ったものばかりでろくな物は入っていないがここまで運ぶ手間も込みという事で勘弁してもらおう、お礼をしにきた、という割にいつも通りの無愛想な面のままで。袋の中身が気になるのかするすると近寄ってきた小さな蛇に一瞥くれるも今回は追い払ったりはせずに
…ああ、わざわざすまないね。
(樒の言葉に、湛えた笑みを一層深くして─その袋そのものをじっと観察する。樒が手に提げる袋の素材は、布でもなければ紙でもない、何とも不思議なものだ。中身を見たらしい眷属がするすると戻ってきては、その中身─縦長の奇妙な容器に入った酒らしきもの、片仮名の横文字が書かれた袋に入った菓子らしきものなど─について教えてくれる。話している眷属にすら何一つ理解出来ていないそれに興味が湧いて、先ずは縦長の容器を手に取り)
分からんだろ、開けてやるよ。(安いカップ酒をまじまじと珍しい物のように見る榊の様子が小さい子のようでふ、と口元が緩む、本殿の縁側に軽く腰掛け、その隣にレジ袋を置いたまま眷属と彼が戯れる様を暫し眺めていたが彼の方に促すよう手を伸ばし。自分が住む下界はじっとりとした嫌な暑さが続くがここの風はいつも清らかな色で吹く、さらさらと榊の銀色の髪が風に流される様子がそう感じさせるのだろうか、とも
…ふむ、ここはお言葉に甘えるとしよう。
(暫しの間、手にした奇妙な容器をじっと見回したものの─全くもって封の切り方が分からない。開けてやる、と樒から差し出された手に大人しくその容器を手渡し、美しい茜色の空を見上げた。自身の肩に這い上がり、同じように景色を眺める眷属の頭を指先で撫でてやりながら、樒が奇妙な容器を開ける様子を観察するように目線を移し)
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