人もをし、人もうらめし。(〆)

人もをし、人もうらめし。(〆)

匿名さん  2024-01-05 19:35:07 
通報
御相手様決定済み

コメントを投稿する

  • No.33 by イナリ  2024-01-11 18:14:25 

(愛が欲しい──その願いに二、三回目を瞬きをゆっくりとする。御多分に洩れず、やれ「億万長者になりたい」だのやれ「あの人間を不幸にしろ」だの強請られると思っていたので、すっかり驚いてしまった。想い人と結ばれたい。運命の人と出会いたい。そう願う人間はいても、愛そのものを願った人間はそういない。彼女は性愛ではなく、愛情が欲しいのだろうか。暫時その場で思案していたイナリは、腕を広げると彼女をその中で包み込む)

……。

(これで良いか。お主と釣り合う者を与えてやろうか。そんな言葉が出掛かったが、ぐっと飲み込む。実の所イナリは愛というものがよく分からなかった。五百年も生きていれば、妻もできたし情事もした。だがそれは愛ではなかった。相手に乞われたから。イナリがイナリの意志で誰かを想い、存分に愛したことはなかった。ぎゅうと身体を抱きしめたはいいものの、イナリはすぐにでも離れたかった。彼女に触れてから違和を感じていた。まるで身体の奥に火が灯っており、じわじわと焼かれている感覚。それでも、一度初めてしまったら彼女が満足するまで続けなければならない。加減を間違えないように優しく抱きながら、自身の身体の違和感とも対峙しなければならない。そんな中でイナリはじっと彼女からの言葉を待った)

  • No.34 by 日向 静蘭  2024-01-11 20:48:14 


………。

(“愛”なんていう抽象的で曖昧な願いなど、きっと彼も困惑するし叶えようが無いはずだし、また「気にしないで」と簡単に流すつもりだった。それなのに、ぼんやりと彼の動きを目で追っていると、落ち着くような草木の香りを感じ、いつの間にかその腕の中に包まれていた。
直ぐには状況が理解出来ずそのまま固まっていたが、段々と伝わってくる相手の体温と鼓動の音に、つられるようにして鼓動も体温も上昇していくような感覚になる。
出会ったばかりの自分に愛情なんてきっとある訳ではないし、彼にあるのは同情心や責務感なのだろうと分かりきっているはずなのに、それでも、今1番欲しい温もりをくれるものだから…。またも不敬な事をしてしまうな、なんて考えるが、その手はゆっくり相手の背に控えめに添えられていて、思わず彼の肩に縋るように顔を埋めた。)

…イナリ様は、大変ね。
こんな、願いも…叶えなければいけないなんて。

( ゆっくりゆっくりと言葉を発するが、その声は段々と震えを含ませ、その目からは静かに涙が流れる。自分の願いを運良く叶えて貰えただけなのに、早く離れなければいけないのに、その温もりがあまりにも暖かくて嬉しくて、離れたくなくて…また、そんな事を思う自分が浅はかで情けなくて、涙が溢れてくる。
最後に少しだけぎゅと力を入れて抱き返すと、直ぐに相手を解放し、「…ありがとう」と涙を拭いながら優しく微笑みを向けた。)

  • No.35 by イナリ  2024-01-11 23:14:02 

……!

(ようやく聞こえてきた彼女の言葉に返答をしようとするが、様子がおかしいことに気付いた。声が震え、彼女は泣いていた。イナリは涙が嫌いだった。人間は何かにつけてすぐに泣く。泣いていても始まらないのに。全く鬱陶しかった。だが彼女の涙は少し訳が違う。何故かはイナリにも分からないが、彼女の涙を見ているとイナリまでも苦しくなってくる。泣くな。我の体調がおかしくなる。そう言いたかったが、口が言うことを聞かない。この人間は先程からイナリを苦しめるが、本当にただの人間だろうか。まさか超自然的な力を持った存在では無いのか。なんて疑念を抱いてしまう)

……我には愛の何たるかは分からん。我は誰かを愛したことがない。故にお主の願いを真に叶えられたかも分からん。

(微笑みを向けられると、暫時逡巡した後に正直に打ち明ける。彼女の涙と微笑みは紛れもなく真実なのに、自分だけが隠し事をしているのは気分が良くない。何だか気まずくなって、そそくさと本殿の中に入っていく。彼女も後から入ってくるだろうからと無意識に閉めなかった。本来本殿の中に人間を招くのは良くないが、社の主が気にしていない以上は問題ないだろう)

  • No.36 by 日向 静蘭  2024-01-12 17:25:02 


…気にしないで。そもそも、私自身、愛される人間ではないもの。誰かの温かさに触れられただけでも充分冥土の土産に──…、って、こんなことを言ってはまた貴方に怒られるわね。

( 身体を離した後、言葉を残してそそくさと本殿へ入ってしまった相手の背を見送ると、少し遅れて立ち上がりながら返答の言葉を。もともと叶うわけが無いと割り切って願ったものだったし、抱きしめて貰っただけでも叶ったと等しい。
そして、外で出会った時に“死”を仄めかす発言をした際『不愉快だ』とはっきり言われたことを思い出すと、片手で口を抑えながら失言を反省したような素振りを見せる。
そして、自分も入って良いということだろうか、と開いたままの戸に手を掛けると、なんとなく気まずそうに去っていった彼が気になって、追いかけるように数歩中へと入っていく。
辺りを一頻り見渡すと、今度はそこで膝を折り腰を下ろして。まるで独言を呟くように自身の思う“愛”について少しばかり語り始めた。)

私は、人が好きだった。…他人を愛したかったし、他人の力になりたかった。だから、こんな私でも大勢の役に立てるような職に就きたくて、努力したの。でも、此方が幾ら誠心誠意尽くしても、努力しても、返ってくるのは憎悪や罵倒ばかり。
…女は愛嬌、なんてよく言ったものだわ。本当にその通りだもの。人から愛されるのは、もっと可愛くて、明るくて、愛嬌のある者よ。それでも、だからって、本当の自分を隠してまで無理に笑いたくなんてないじゃない。

  • No.37 by イナリ  2024-01-12 21:35:51 

(またもや彼女の口から死を連想させる言葉が聞こえると、ぎろりと目を剥こうとしたがすぐに訂正が入ったため不問にする。本殿の奥には本来本尊が安置される場所が空白となっている。元々は本尊が安置してあったのだが、激昂したイナリが自身の手で破壊してしまった。傍らの蝋燭に火を付け、元々本尊が安置してあった繧繝縁の上にどっしりと座ると、彼女の語りに耳を傾ける)

……己を偽らなかっただけ、人間にしては賢明じゃの。己が誠を尽くしても仇で返す者は古来より居る。そういう者には必ず罰が下る。

(だから気にするな、とは言わなかった。気にするなと言われて気にしないような人間なら、このような場所まで来ていなかっただろう。ただ一つ異を唱えたかったのは、自分が人から愛されない者であると断じていること。お主を愛する人間だって居るだろう──そう伝えようとしたが、五百年以上生きてきても、イナリにその類の言葉を忌憚なく伝えられる術は身に付いていなかった)

  • No.38 by 日向 静蘭  2024-01-14 10:16:20 


…私、正直なところだけは取り柄なの。
まぁ、おかげで疎まれたのだけど。

( 返ってきた返答にそれだけ言うと小さく肩を竦む。自身の感情などに関してはあまり表に出すことは無いが、思ったことは割と率直に口に出してしまうため、そこが長所でもあり短所であると自分自身でも分かっていた。変なところで意地を張り意見を言うものだから、同じ職場の人とは良い人間関係は築けなかったし、生徒からは陰気臭い教師と思われ馬鹿にされていた。要は自業自得でもあるのだ。
彼の言う通り、天罰が下ればいいのに、と思ってあの雨の中願い事もしたが、…それでも、未来ある生徒たちに罰を与えるのは正直気が引けた。子どもたちにあんな態度を取らせたのも、紛れもなく自分の所為だと思うから。
そう考えながら、暫く下げていた視線をちらりと上げて相手を見る。繧繝縁の上に座る相手をじっと見ると、本尊が無いことに気が付きはするが、そこに触れて良いものかどうか少しばかり考える。加えて、社の中なんて細かく知る由もなかったのだが、とても静かで物寂しいところだとは思う。
視線を彼から傍で揺れる蝋燭の炎に移しながら、既に不敬な事を散々したのだから、と妖に対して気を遣うことはやめたらしく、その持ち前の正直さで質問を。)

………愛は分からない、と言うけれど、“寂しさ”はなかったの?イナリ様は、500年以上もずっと、ここに居たのでしょう?

  • No.39 by イナリ  2024-01-14 12:30:54 

…我は妖ぞ。そのような感情を抱く訳なかろう? 昔は人間がひっきりなしに訪れて退屈はせんかった。今は訪れる人間はおらぬが、おかげで書を読む時間ができて退屈はせん。

(彼女の長所が正直さならば、イナリは嘘つきなのが短所だ。正直なことが原因で疎まれるのなら、自分は嘘をついて疎まれるだろうか。今イナリが語ったことに真実は一つもない。妖にも感情はある。寂しさだって何度覚えたことか。愛こそなかったが妻が病死した時も、赤子の頃から知っていた男が天寿を全うした時も、イナリを崇拝していた武士が討死した時も、イナリの心には広く、それでいて深い傷が付いた。人間は弱い。弱いからすぐにいなくなる。折角イナリの傷に瘡蓋が出来て治癒できそうだったのに、また傷を付ける。弱いのに争い、すぐに命を散らす人間に嫌気がさして、一切の交流を絶とうとしてもイナリの傷は癒されなかった。そんなことを彼女の前で打ち明けられる訳もないので、わざとらしく懐から出した書物をひらひらと扇ぎながら鼻を鳴らす。尊大な性格故に弱味を見せることを殊更に嫌がるのが、イナリの悪癖の一つだった)

  • No.40 by 日向 静蘭  2024-01-14 14:02:14 


…そう。貴方、意地っ張りなのね。それは私と一緒だわ。

(そんな本、とっくの昔に読み終わっているでしょう、一体何度読み返したの、喉元まででかかった言葉を何とか飲み込み、代わりに別の言葉を口にした。妖だろうと、それほどまでの年月を生きて寂しさを感じないなんてあるのだろうか。妖だろうと人間だろうと同じ生き物には変わりなく、きっと、生きた年月の分だけ様々な経験をしたに違いはない。だからこそ、彼の寂しさや辛さ、その心に染み付いた感情は計り知れない。
自分の事となると、その気持ちに蓋をしてしまうことは自分もよくあるし、その事に関しては‘一緒’だと小さく笑ってみせる?こんな人間と一緒にされたくは無いだろうが、そう思ったのだから仕方がない。
ふと、何やら思い出したのかゆっくりと立ち上がり、一度本殿から出て、置き去りにしていた鞄を持って戻ってくる。
膝をついて鞄の中を漁ると丸めた書類を取り出し、その手をまた鞄の中へ。小さなポーチを1つ出すと、その中から飴玉を2つ取り出した。包みを剥がして1つを自分の口の中へ放ると、彼の元へと歩み寄ってもう1つを差し出した。)

あげるわ。いちご味よ。

  • No.41 by イナリ  2024-01-14 17:00:15 

…我はお主とは違う。一緒にするでない。不敬じゃ

(イナリが張った虚勢はいとも簡単に見破られてしまった。ただ不思議と激しい嫌悪感はなく、掛けられた言葉も抉られるような鋭利さは伴っていなかった。それでも多少の不快感は抱いたため──一緒にされたことではなく、主に意地っ張りだと言われたことに対してだが──眉間に皺を寄せながら答える。思えば彼女とイナリは何処か不思議な存在だ。正直な彼女に嘘つきなイナリ。愛されたことがない彼女に愛したことがないイナリ。そうやって全て対になっているかと思えば、このような共通点が出てくる。そんなことを考えていると彼女が急に本殿から出て行った。そしてすぐに鞄を取りに戻ってきた。鞄の中からまた小さな鞄を取り出し、何かを口にした。服毒か──なんて腰を浮かし掛けたが、直後にいちご味だと告げられてはそれが飴玉だったことが分かる)

…飴玉か。我は童では無いが…まぁ良い。

(差し出された飴玉を受け取ると興味深そうに観察し口中へ放り込む。二、三回舌で転がしてみる。口中にいちごの味が広がり優しく甘い香りがする。「美味い…!」と無意識に呟くと、目を輝かせると同時に耳がピンと立った。昭和の時代に人間が置いていったドロップ以来の甘味。現代の飴はこんなにも甘いのかと感嘆する。気が付けばイナリはまるで犬のように九つの尻尾を振りながら口中の飴の味を楽しんでいた)

  • No.42 by 日向 静蘭  2024-01-14 17:36:30 


気に入ったなら残りもあげるわ。あと幾つか入っている筈だから。

(此方からの返答に眉間へ皺を寄せたかと思えば、飴玉1つで目を輝かせる様子に小さく笑みを洩らす。呟かれた言葉と振られる尻尾を見た限りどうやらお気に召して貰えたようで、再度飴玉の入っているポーチを拾うと今度はそれを差し出す。疲れた時や考え事をする時によく食べていた様で、中にはあと5つほど飴玉が残っていた。捧げ物とするには物足りないが、彼も甘味を食べるのは久しぶりなようだし、少なからず無礼を働いてきたお詫びのつもりらしい。
ポーチを差し出した後は傍の壁沿いへ移動し、壁に凭れかかってその長い髪を手梳いた。その最中、癖なのか、口の中で転がす飴を無意識に噛み砕いていた。それと同時に微量な痛さと鉄の味が口の中に広がり、この状況が夢では無いことを改めて実感させる。舌先からじわりと滲む生暖かな感覚に身震いしながら、砕けた飴を飲み込み肩の力を抜くと、なんだか一気に疲れた出てきたような気がして、ゆっくりと瞼を閉じながら呟く。)

……イナリ様、私、少しうたた寝しても良いかしら。なんだか眠くなってきたわ。

  • No.43 by イナリ  2024-01-14 19:23:58 

真か?! お主は気前が良いの! では残りは我が貰うぞ!

(ポーチを受け取ると中をちらと見て、飴玉が5つもあることを確認するとぴくぴくと耳を動かす。チロチロと舌で飴を転がしながらふと彼女が飴玉を噛み砕く音に気が付く。こんなにも甘い飴玉を噛み砕いてしまうとは贅沢の極み──そう思ったが折角残り5つもあるのだからと彼女に倣って飴玉を噛み砕いてみる。ガリガリと心地よい音を立てて飴玉は砕け散ったが、あの優しく甘い香りは一瞬で無くなってしまった。こんな食べ方のどこが良いのじゃ──イナリは彼女が好んでそういう食べ方をしているのだと思い込んでいた。仕方がないからポーチからもう一つ飴玉を出して口に放り込む。やはり舌で転がすのが一番だと気付いた)

眠るのか? …少し待て。

(彼女が眠りたいと言うと立ち上がり隅に畳まれていた布団を引っ張り出して、彼女の目の前に広げる。今朝までイナリが使っていた布団だ。年季は入ってはいるが清潔に──特に換毛期は──しているため問題は無いだろうとイナリは判断した。壁に凭れ掛かってはうたた寝も心地良くないだろう。飴玉を5つも与えてくれた彼女への最低限の返礼だった。布団を広げると彼女の返答も聞かずに、飴の入ったポーチを大事そうに抱えながら繧繝縁の上に座り、飴をチロチロと舐める)

  • No.44 by 日向 静蘭  2024-01-14 20:10:51 

(ポーチを受け取って嬉しそうに耳を動かす相手を見ると、いつかあの耳や尻尾に触れてみたいわ、なんて願望を抱きつつ、喜ぶ姿にクスりと笑って。口元に手を当てて小さく欠伸を漏らすと、飴を噛み砕く音が聞こえたので、その時に初めて自分が無意識に噛んでいたことに気付く。
自分を模倣して飴を噛んだとするとなんだか申し訳ないな、なんて考えつつ、そのまま目を閉じてしまおうかと頭を壁へ擦り寄せた時、部屋の隅に置かれていた布団をわざわざ引いてくれたのを見て、ぱちぱちと2回ほど瞬きを行った。社に客人用の布団があるとは考えにくいし、これはきっと彼自身の布団だろうと思考を巡らせ少しばかり躊躇したが、折角用意してくれたのだし、と布団へ手をかけて。)

……ありがとう。少し借りるわね。

(早々に繧繝縁へ戻っていく彼の背に礼を述べながらゆっくりと横になる。ごろりと横を向いて口元まですっぽり布団に包まると、草木の──先程と同じ落ち着く香りに包み込まれ、あっという間にうとうとと瞼が重くなっていく。
今の状況への喜びと、不安と、…様々な感情に自分でも気付かぬ間に疲れていたようで、数分も経たないうちに小さな寝息を洩らし、すっかり寝落ちていた。 )

  • No.45 by イナリ  2024-01-14 22:11:52 

……

(一頻り飴を楽しむと残りの2つは残しておく。別に何か特別な理由がある訳でもないが、ただ何となくこんなに美味な飴玉を一人で楽しんでしまうのは勿体ないように思われた。チラと彼女の方を見遣ると、既に眠りに就いていた。黙って寝ていれば存外良い女子では無いか──一瞬そんなことを思ったがぶるぶると首を横に振り、邪な考えを振り払う。ふと鞄の傍に置かれていた丸めた書類が目に留まった。彼女が訴えと共に潰した書類だった。ポーチを取り出す時に置いてからしまい忘れたのか。木箱の中にポーチを仕舞うついでに書類を拾う。破かないように手で丁寧に広げてから、そこに書かれた文字を読む。正直言っていわゆる旧字体しか馴染みがないイナリにとっては、新字体の複雑怪奇な現代機械で作られた文書などは読み辛くて仕方がなかったが、好奇心が先行し何とか解読を試みる。どうやらそれは人間一人一人の記録と、授業の構成表らしかった。それを読んでいくと、彼女が学問を教える者であること、彼女は高等学校で学問を教えている。そしてここに書かれている者は彼女の誠意を仇で返した者達ということが分かった。なぜ生徒たちの名を見て不愉快になっているかは当のイナリにも分かりかねた。書類を丁寧に折って懐に仕舞うと、腹立たしい気持ちを抑える為に随筆でも作って心を落ち着かせようとする。和紙と筆、台を用意し彼女が目覚めるまで筆を走らせる)

  • No.46 by 日向 静蘭  2024-01-14 22:46:02 


──ッ、……。

( 寝落ちてどれくらいの時間が経っただろうか。ふと生徒たちや同僚に名を呼ばれた気がして、冷や汗と共に飛び起きた。上半身を起こして目の前に広がる馴染みのない景色に一瞬困惑するが、直ぐに思い出しては乱れた息を整えようと深呼吸をする。もう、仕事へは行かなくていいんだ、と思い返すとため息を1つ吐き出して。それにしても、何だか身体が熱い気がするのは、悪い夢でも見ていたからだろうか。
汗で張り付いた髪を払っていると、ふと、何やら執筆しているらしい相手の姿を発見して、少しばかりふらつきながらもゆっくりと立ち上がってその傍へと歩み寄る。)

……何をしているの?

(手元を覗き見ようとしながら小さく訊ねると、ふと、視線の先に自分の鞄が見え、近くに置いていた書類が無くなっているのに気が付く。鞄に戻した記憶も無く、ポーチを取り出したあと無意識に何処かへやったのだろうか、なんて考えながら僅かに首を傾げて。)

  • No.47 by イナリ  2024-01-15 00:27:16 

ん…? ああ、ようやく起きたか

(視界の隅で飛び起きた彼女を捉えると視線をそこへ移し、鼻で笑いながら深呼吸をしている彼女に声を掛ける。悪い夢でも見たのか彼女は少し衰弱しているようだった。睡眠は強者にも弱者にも与えられた癒しだ。休息になるはずの睡眠を逆に衰弱させるものへと変化させたのは、あの生徒たちが原因だろうか。そう思うとようやく静まり掛けていた火がまた付いてきそうになる)

随筆じゃ。人間ごときには到底理解できぬ我の高尚な考えをしたためたものじゃ。人間に披露してやれば、清少納言も吉田兼好も鴨長明も霞む程の名作となろうぞ…ふはは!

(得意そうに笑ったが内容は油揚げに関しての自身の欲望が半分。もう半分は先程堪能した飴玉に関する欲望という主に食に関することばかりだった。しかし古き良き草書体を肉眼で解読できる人間はもう数少ない筈なので、イナリが高尚だと言えば高尚なものに見えるのだ。ふと、彼女の職業のことが気になった。あの紙を読んだだけでは全貌は分からなかった。暫くは自分の元に置いておくのだから彼女の素性を知っておかなければ。二回目の言い訳を心の中でして、ただ直截的に聞くのも憚られるので遠回しに尋ねてみる)

…お主、いつもあのように起きておるのか? 労働はそんなに苦痛か?

  • No.48 by 日向 静蘭  2024-01-15 19:43:26 

(得意げに笑う相手を見て手元にある和紙に視線を落とすと、何やら沢山の文字が書かれており、自分は随分と寝ていたんだなと感じる。いくら高校教師といえど、草書体は専門外らしい読めはしないが、自信満々な彼の様子から察するに立派なことが書いてあるのだろうかと憶測する。
そして、彼から投げかけられた問いにはゆっくりと首を振りながら「いつもって訳では無いわ」と口を開く。)

…ただ、今日は初めて仕事を休んだから、罪悪感でもあったのかしら…悪い夢を見ただけよ。
…私は高校で教師をして大勢の子ども達と向き合ってきたけど、最初は、仕事が好きだったわ。子ども達の将来に携われる仕事だし、色んな人達と関われるから。

(他人のことに興味があったし誰かの役に立つ職業に憧れ教師を目指した。大学卒業後から約3年間勤め、受け持ったクラスだけでも100人ほどの生徒とは関わった事だろう。生徒に慕われ、やりがいのある仕事ができると思っていたが。現実はそう甘くはなかった。若さとこの性格故にベテランの先生からは嫌われ、生徒たちからの尊厳を得ることも無く。真面目にやればやるほど、生徒や同僚からも距離を置かれ、自分の首を締める結果となった。
─ふらりと一瞬視界が歪み眉間に小さく皺を寄せながら、ちらりと自身の鞄へ視線を移すと、尚も止まらぬ汗を拭い、あの紙切れを必死に書いていた自分を思い返しながら言葉を続ける。)

……今年は、3年生の担任をしていたの。大学の受験とか、就職とか…あの子達にとって大きなことだから、私も一人一人の評価を怠らなかった。
でも、「なんでこんなことしてるんだろう」「なんであんな子達の為に」って一度思ってしまったら…、なんだか全てに疲れてしまって。

  • No.49 by イナリ  2024-01-15 20:25:39 

…ああ。成程。"シボウに落ちる"とは望みの進路に進めなくなってしまえ、という意味じゃったか。

(彼女の最初の願いの意味に得心がいくと大きく首を縦に振る。イナリの好きな類の願いでは無いが彼女がそう願ってしまうのも無理もない。人間は弱いから仕方がない。願うだけなら、命を尊重しているのならば咎める必要は無い。それよりも気掛かりなのは彼女の体調だった。先程から収まらない汗といい、眉間の皺といい、彼女の身体に異変が起きているのは確かだ。筆を置いて彼女の方に向き直る)

労働によって心身を削るは愚か者のすることじゃ。そういう意味ではお主は特大の愚か者。今日はもう休め。如何なる時代も不養生で人間は簡単に没する故な。

(イナリの脳裏にはこれまで出会い、そして死んでいった人間達の記憶が悉に浮かんでいた。彼女のことは何とも思っていないが──勝手にイナリはそう思い込むことにした──自分の手元に居る人間が身体を壊して死んだとしたら、些かイナリの寝覚めが悪くなる。イナリは超人的な力を持ってはいるが、病を完治させることはできない。もっと上級な妖に成りたいと願ったことは何度もあったが、どうやら今の立場がイナリの天命らしく願いが叶うことはなかった。彼女には安静に過ごして貰わなければ。イナリは目の前で人間に死なれるのが何よりも嫌いだから)

  • No.50 by 日向 静蘭  2024-01-15 20:56:48 


…そういう事。まぁ、私のせいであの子達の将来が滅茶苦茶になってしまっても後味悪いし、本気ではないわ。

─…確かに、私は愚か者よ。人間って単純だから、あるかも分からない少しの見返りのために頑張ってしまうものなの。

(何やら納得したように首を縦に振る相手には、少しばかり気恥しそうに笑い、あの願いは本気ではなかったと誤魔化しておく。全て引っ括め、自分が最も落胆したのはあの子達や同僚にではなく、他でもない自分自身だったから。
そして、筆を置いた彼の瞳と視線を合わせれば、愚かだと言われた言葉には納得して肩を竦める。先程からどうも調子が可笑しいと思っていたが、どうやら熱があるらしい。あの雨に打たれ、仕事から解放された気の緩みと、現実離れした状況への疲弊に少しばかり休憩を挟んだことで、今まで張っていた糸がプツリと切れてしまったようだ。これまで体調なんて崩さずに─というよりも、気付かないふりをして耐えてきた─為に自分でも自覚がなかった。これが、不調というものだったか。
一頻り話終えると、休め、の言葉に「そうさせてもらうわ」と呟くように返答する。先程起きたばかりだし、どこか散策できる場所でも無いものかと思っていたのだが、今回ばかりはその言葉に甘える事にしたらしい。
再度身体を布団の中へと滑り込ませていたが、ふと、甘えるついでに思い出したことがあったようで、ダメ元で尋ねてみる。)

…イナリ様。愚かな人間から1つお願いごとがあるのだけど。
その耳か尻尾、触らせて貰えないかしら?

  • No.51 by イナリ  2024-01-15 22:08:43 

(少しの見返りのために頑張ってしまうもの。聞き覚えのある言葉に眉をぴくりと動かす。確かイナリを崇拝していたとある武士が同じようなことを言っていた。その時は度重なる戦を経験して感覚が麻痺したのかと思ったが、平和な世で同じようなことを聞くと、その言葉は人間特有のものなのかと推察する。弱者は常に非合理だ。だから小さい、それも得られるかどうか分からない見返りを求める。かと言ってイナリが常に合理的な生き方をしているかと問われれば否なのだが。布団に潜り込む彼女を目で追うと、念の為に薬など作らねばと思い小さくため息を吐く。緊張の糸が解けたからか風邪など引きおって。確か社務所に薬研があったな、と立ち上がった時だった。彼女から今日一番の爆弾発言を受け取る)

……な、何を馬鹿なことを申しておるかっ! さ、さっさと眠らんか! そういうのをな「せくしゃるはらすめんと」と言うのじゃぞ!

(やや顔を赤くしながら即座に反応すると、逃げるように本殿から出て行く。九尾の狐にとって恥辱以外の何者でもない。最近の人間は風紀が乱れているのだろうか。どたどたと足音を立てながら社務所に向かう。外の雨は小雨になっていたがイナリの心は大雨のように荒れていた)

  • No.52 by 日向 静蘭  2024-01-15 22:54:21 

(此方からの発言を受け、顔を赤くしながらどたどたと本殿から出ていってしまう彼の後ろ姿をぼんやりと見つめると、ふふ、と口元に手を添えて笑った。耳や尻尾は動物にとってとても過敏で繊細な所だと知ってはいたが、やはり触れるのは駄目だったらしい。)

……セクシャル ハラスメントなんて、一体何処で覚えたのかしら。

(そんなことを呟いてまた小さくクスクスと笑うと、柔らかそうな毛並みに触れて見たかったのになぁ、なんて内心残念そうにする。またごろりと横を向いて寝る体勢になると、行く場を失った手で布団の端をぎゅうと握り、ゆっくりと目を閉じた。
こうして横になるとしんどさはマシになるが、この静かな時間は様々な雑念が脳内を駆け巡るのであまり好きではなかった。熱に侵されているからといって特別悲観的になる訳でもないが、自分が社会に出て何の役に立てたのだろうか、なんて下らない事ばかりが頭に浮かぶ。
それに、彼は私を封じたと言っていたけれど、本当に此処から出さないつもりなのだろうか。今でこそ、目の前にいる彼は自分とああやって会話をして様々な表情を見せてはくれるが、いつか、本当につまらない奴だと見切りられてしまったら。その時は、一体どうしたら良いのだろう。
瞑った瞼の隙間から一筋の粒が落ちてくると、小さく鼻を啜りながらそれを拭い。針を刺されるような痛みを心の奥底に感じながら、またも気付かないふりをして眠りについた。)

  • No.53 by イナリ  2024-01-16 00:12:06 

(荒れた心で社務所に入ると物の多さに目を剥く。神社が建設された当初は社務所にも神主がいて巫女がいた。だが時代と共になり手がいなくなり、ただでさえ神社の周辺の集落は規模が大きくなかったので昭和が訪れた頃には既に神社には人はいなかった。仕方がないからそれ以来、土間の台所周辺を覗いて物置のようになっている。本殿の木箱とは違いガラクタばかりだ。そのガラクタを暫時漁ると、ようやく目当ての薬研が見つかった。薬研を抱えたまま、神社裏の森に入ると手早く薬草を摘んで本殿へと戻ってくる。
戻ってみると彼女は既に眠っていた。何となく気になって寝顔を覗き込む。がどこか苦しそうな顔をしていた。寝苦しいのか。思えば可哀想な人間である。真面目が取り柄なのであろうが、その取り柄で自らの首を絞めているのだから。この弱者をいつまでも手元に置いておくつもりは無い。だがこのまま帰すつもりもない)

…この上位存在たる我が、お主を社会で生きやすいよう改造してやろう。感謝するが良い。脆く弱い日向静蘭よ。

(上から目線で小さく呟くと彼女の頬をつぅーと指でなぞる。やはり発熱があるので熱かったが柔らかさの方が印象に残った。ふっと笑うと少し距離を取って薬研に薬草を入れ、細かく挽き始める。時折眠っている彼女の方を見ながら、食事はどうしようかなんて考え始める。「全く何の道理あって我が人間の世話なんぞ…」などと呟いたイナリの心中には密かに充実感があったが、イナリはまだ自覚していない)

  • No.54 by 日向 静蘭  2024-01-16 18:50:36 

(─思い返せば昔から不器用だった。不器用と云うのも手先の器用さや効率云々の話ではなく、人付き合いや信頼関係の構築に携わる話だ。勉強は人よりできたし、運動もそこそこ、無口な訳でもなく自分なりに普通に過ごしてきたのだが、自分が不器用だと自覚したのは中学に進学したあたりの頃。なんとなく人との距離を感じるようになり、友人だと思っていた人々がコソコソと陰口を言っているのを聞いてしまった。自分の何がいけないのか必死に考えたし、直そうともした。それでも上手くはいかず、自らも距離を置くようになった。男子からは好奇の目でみられ揶揄われるし、女子からは敵視された。
いつからか開き直るようになったが、変なところで意地を張る癖がついてしまい、重要なところでだけあまり素直になれずにいる。“愛”が欲しいと言えたはいいが、本当はどんな“愛”を心から望んでいるのか、それは、決して口には出せないだろう。

再度眠りについて約1時間ほど経っただろうか。自身の熱で目が覚めてしまうが、今度は飛び起きることもせず、静かに瞼を開いた。まだ意識がはっきりとしていないのかぼんやりと天井を見つめながら、彼は何処かにいってしまっただろうか、と小さな声で名を呼んでみる。)

…イナリ、様。

  • No.55 by イナリ  2024-01-16 19:43:24 

……なんだ、起きていたのか。丁度良い。粥を作ってやった。少しだけでも腹に入れろ。

(諸々の準備などを終えて茶碗と箸片手に戻ってくると彼女の顔を覗いて起きていることを確認する。まだ意識がはっきりしていないのだろう。瞳に憂いが感じられなかった。とりあえず何か食べさせなければならない。自力で起きて貰うのも気が引けたので、頭の後ろに手を回すと、そのまま上体を起こさせる。手で背中を支えながら茶碗と箸を彼女の前に差し出す。が、すぐに引っ込める。よく考えてみれば彼女が意識がはっきりとしていない。そんな彼女に渡して万が一零されれば大変だ。布団を汚されれば、洗濯をするとしても新しい布団が必要になる。そのためには人里に降りなけれなならない。イナリは人間は好きだが人里に降りるのは好きではなかった。完全な人間への変化は意外と疲れるものだし、何よりイナリは現代的なものに疎かった。車に驚き信号機に驚き、挙句にはスマホに驚いた。イナリが人里に降りる度に人間たちの社会には常に新しいものが取っかえ引っ変えと供給される。
「ふー…ふー…食えそうなら食え」と箸で粥を掴むと何回か息を吹いて冷まし、彼女の口の前に持っていく)

  • No.56 by 日向 静蘭  2024-01-16 20:28:18 


( ひょいと視界に入ってきた彼の顔に安堵しながらゆっくりと息を吐く。未だ頭はぼんやりとしているが、お粥と聞けば何だかお腹が空いて来たような気がして、手を貸されるがままに上半身を起こし、「ありがとう」と小さく礼を伝える。そういえば、朝から何も食べていないことを思い出すと、差し出された茶碗と箸を受け取ろうとするが、一度引っ込められて首を傾げる。
大人しく待っていると、彼が粥を口の前まで持ってきてくれるものだからその状況に少しばかり困惑しつつも、それを拒む理由も特にないため、彼に甘えて口を開け粥を迎えいれることにした。体調の悪い自分の為に用意してくれたのだと思うと、素朴ながらも優しい味の粥も相まって、胸の奥が温かくなるのを感じる。思えば、学生の頃から両親は忙しい人だったし一人暮らしも長いため、誰かが作ってくれた温かいご飯を食べるのは久しい事だった。
彼は口先ではつれない事ばかり言うが、十分過ぎるぐらい気を遣ってくれているのが分かる。柔らかな粥をゆっくりと飲み込むと、目の前にいる彼の頭に─ちゃんと耳には触れないようにしつつ─ぽんぽん、と触れるとそのまま手を左右に動かして、口元で優しげに弧を描く。)

…とっても美味しいわ。貴方はとても優しいのね。

  • No.57 by イナリ  2024-01-16 21:50:06 

……お、お主は不敬な上に痴れ者じゃな!これは優しさではなく、強者が弱者に与える憐憫じゃ!
(一口食べてくれた相手に安堵したも束の間、彼女の手が自分の頭に載せられたかと思うと、そのまま左右に動かされる。優しげな表情と共に褒められると一瞬だけ顔の変化が解けて。すぐに元に戻すと今日だけで何度したか分からない抗議をする。イナリはこのように褒められたことがなかった。人間たちはイナリを神にも等しい存在だと錯覚し殊更に有難がった。願いが叶えば一様に平伏し、叶えなくても平伏する。気分は良かったが正直窮屈でもあった。それでもそんな扱いが慣れていたので「気にするな」とか「造作もないことよ」とか定型文が用意できた。しかしまるで母親に褒められる子供のように扱われるとどうしたら良いか分からなくなる。ふと左右に動こうとする尻尾に気付くと片手で必死に押さえる。何故動く。斯様な言葉は侮辱以外の何ものでもないぞ! 自分に言い聞かせて何とか尻尾を押さえると「馬鹿なことを申さずにさっさと食わんか!」と再び箸を彼女の口の前に持って行く。
日向静蘭め。覚えておれ。必ずお主にも恥をかかせてやる。子供じみた対抗心をメラメラと燃やしながら、彼女に粥を与え続けた。)

  • No.58 by 日向 静蘭  2024-01-16 22:19:02 

(頭を撫でていると一瞬狐の顔が現れて肩をビクッと跳ねさせる。突然の事で驚いたが、その一瞬でも毛並みに触れることが出来たので少しばかり嬉しそうで。しかし、またも抗議の言葉を聞くと、粥のお陰もあってか段々と思考がしっかりしてきたようで、小さく笑いながら此方からも物申しておく。)

……褒めただけで痴れ者なんて、失礼しちゃうわ。
それに、憐憫の類語には“思いやり”の意もあるでしょう。そんなに照れなくてもいいじゃない。

(肩を竦めながらも『さっさと食わんか』の言葉にしぶしぶ口を開けて粥を食べ進めていく。文句を言いながらも尚のこと食べさせてくれるのはやはり優しさなのだと思うのだが、また怒られるだろうから口にするのは止めておこう、と心に留め、時間をかけて粥を完食した。
─まだ熱っぽさとだるさはある為に布団の上に座ったままだが、大分気は持ち直し、寝起きのような漠然とした意識からは回復したように思う。
ふと、彼の姿をちらりと見やると、そういえば初めて見た時も狐の姿をしていたなぁと思考し、本来は狐の姿なのかと改まる。自分自身も人間故その姿にすっかり慣れてしまっていたが、彼にとっては負担では無いのかと純粋に疑問に思う。)

……イナリ様、その姿は変化してるのよね。ずっと人間の姿をしていて疲れないの?

  • No.59 by イナリ  2024-01-16 23:36:41 

(彼女からの物申しを聞くと眉間に皺を寄せる。そして心の中で『いきなり頭を撫でて照れるななどと無理を申すな』と抗議する。自分は彼女に掛けているのは哀れみであって思いやりではないし、第一彼女のような人間に撫でられれば照れない者などいないだろう──そこまで考えてハッとした。我は何を言ってるのだ──自分の思考にまで入り込んでくるとはどこまで不敬なやつだ、と彼女に八つ当たりする。彼女が粥を完食すると茶碗と箸を下げ、薬を飲ませなくてはと立ち上がる。薬包紙の上に薬研の中の薬を移しながら彼女からの質問に答える)

疲れないと言ったら嘘になる。じゃが完全な変化ではない故、大した労力では無い。
…一番疲れるのはな、既に存在している誰かに化けることじゃ。ほれ、このようにな。

(薬と水の入った湯呑みを彼女に手渡すと、彼女の眼前で自身の顔を彼女の顔に変化させる。変化はイナリの得意中の得意な術だ。通常の人間体のようにオリジナルが存在しない姿に化けるのは簡単だ。自分で自由に作れば良いのだから。だがオリジナルが存在する人間に化けるのは難しい。細部まで再現しなければならないから。だから体力の消耗も激しくなる。
彼女の顔に変身すると憂いを帯びた表情を作って見せながら「あなたにそっくりだと思わない? 日向静蘭さん」と彼女と同じ声で言ってみせる)

  • No.60 by 日向 静蘭  2024-01-17 21:57:09 

(茶碗と箸を下げる相手へ再度礼を述べてから、何やら準備をしている背を眺めつつ彼からの返答を聞いていて。その後差し出されたものはどうやら薬のようで、湯呑みと共に粉を溢さないように受け取る。しかし、彼の言葉をそのまま聞きながら顔を上げると、そこにあったのは自分の顔で、思わず、わ、と小さく声を上げて驚く。だが、自分の顔がこうして目の前にあるのはなんとも不思議で、変化の能力を目の当たりにして心做しか目を輝かせる。)

私って、そういう風に見えているのね。
…それにしても凄いわ、声まで変化できるなんて。

(憂いを帯びたその顔はなんともつまらなさそうで、客観的に見るとこんな感じなのか、と少しばかり恥ずかしく思う。しかし、声までもそっくりに変化できるなんて、労力を使う理由がよく分かる気がする。しかし、先程のような人型ではあまり労力を使わないと言っている所を見るに、“誰か”に化けるのが大変だと言うことだろうか。とにかく、あまり疲れないのなら此方がとやかく言うことではないな、と納得する。
そして受け取っていた薬を口の中に含むと、現代で調合された薬と違って薬草の苦さやエグ味がそのまま味覚に伝わってくるためやや眉間に皺を寄せるが、そのまま湯呑みの水を流し込んでなんとか薬を飲み込んだ。)

……お粥に薬まで、本当にありがとう。手間を掛けてしまってごめんなさいね。これできっと、すぐに良くなるわ。

  • No.61 by イナリ  2024-01-17 22:33:57 

(些か彼女の目に輝きができたのを確認すると、変化を解き、ふんと鼻を鳴らしながら高らかに言う。人間を化かして驚かせるのは妖の中でも狐、狸や一部の猫妖怪の特権だ。イナリは特権という言葉が好きだった。人間であっても妖であっても特権を持つ者は優遇され、権威として尊敬される。イナリはあまり誰かに褒められたことが無かったから尚更上を目指した。そして他の追随を許さない程に精巧な変化を得られた。イナリが心から自慢できる数少ない取り柄だった)

お主の看病ごとき眠っていてもできるわ。手間なぞ感じん。それにこの我が看病してやったのだから治るのは当然じゃ。
じゃが…些か疲れたな。湯に浸かって眠るとする。

(礼を述べられると満更でもない表情を浮かべながら、尊大な態度を全面に出す。折角話し相手ができて退屈しなくて済んだのに、熱に侵されていてはまたぞろ退屈になってしまう。これはイナリの本音だった。何だかんだ言えどイナリは人間が好きだ。だから彼女の訪問も十分に歓迎している。直接口に出さないだけで。とはいえいつもは大した活動もせずに一日を終わらせているので、久しぶりに今日は疲れたというのも本音で。大きく息を吐くとぐいっと伸びをする)

  • No.62 by 日向 静蘭  2024-01-18 20:34:47 


…あ、それなら私が準備を…──。いや、…そうね。
何でもないわ。私は本でも読んで、また眠気がきたら適当に休んでいるわ。

(相手の尊大な態度にも、それはそうね、と軽く頷きながら相槌を打つと、疲れたという彼に看病のお返しも兼ねて何か出来ることは手伝おうと考える。しかし、すぐさま考えを改めて首を横に振ると、大人しく本でも読もうと言い、鞄に入った書物を取り出そうとゆっくり布団の上から出てくる。
よくよく考えれば此処での勝手が分かったものではないし、下手に手伝おうとして邪魔をするより、病人は病人らしく静かにしていた方が良いだろうという結論に至ったようだ。
看病なんかに手間を感じないとは言っていたものの、それでも他人の世話はやはり疲れるだろうし、余計なことをしてまた体調が悪化するのも忍びない。
ただでさえ先程から彼の布団を占領してしまっていた訳だし、自分はまた適当に寝床を見つければよいなんて思いつつ、鞄から取りだした小説の頁をペラリと捲り始める。)

  • No.63 by イナリ  2024-01-18 21:41:35 

ふん。賢明な判断じゃ。大人しくしておれ

(小説を捲り始めた彼女に言葉を掛けると、本殿を出て行く。雨はもう止んでおり、空に掛かっていた分厚い雲も散っていた。本殿のすぐ裏の森を一直線に進むと開けた場所が見えてくる。そこにある露天の温泉がイナリの自作の風呂だった。この辺りに温泉は無いが、張った水をイナリの妖術で温泉へと変異させているのだ。周囲に結界が張っており、イナリや彼が許可した者にしか存在は感知できない。おかげで誰の視線を気にすることなく入浴を楽しめる。着物を脱ぐと変化を解いて、静かに湯に身体を沈める。湯に浸かりながら大きくため息を吐く。イナリは星を見ながら、この解放的な湯に浸かるのが好きだった。ここでは何も考えることなく疲れを癒せる至上の空間。普段なら小一時間と入っているが、今日は病人がいるのであまり長湯はできない。小説を読んでいる途中にパタリ。そんな状況が脳裏を過ぎる。イナリが目を離すと人間はすぐに命を散らす。彼女もそうだったらどうしようか。いっその事、そうなる前に妖にしてしまえば──そこまで考えて首を激しく横に振る。何を考えている。人間を妖にするなんて禁忌中の禁忌だ。自分の中の恐ろしい考えを振り払うと湯から上がり、身体を左右に揺らして水を払う。着物を咥えると本来の姿のまま、本殿に瞬間移動する。着物を置くと、繧繝縁の上に座りぼそっと呟く)

…お主のせいで心休まらんかった。

  • No.64 by 日向 静蘭  2024-01-18 22:19:14 

(本殿から出ていく後ろ姿を静かに見送ると、そのまま視線を落として読書に勤しむ。静かな空間で本を読むのは昔から好きだったし、何より物語の世界に没頭することで余計な考え事をしなくて済んだ。
暫くして幾つか頁が進んだ後、ふと、繧繝縁の上から声が聞こえた気がして視線を上げる。すると、そこには変化を解いた彼の姿があった。いつの間に帰ってきてたのかしら、と小さく首を傾げるも口には出さず、一旦本を閉じて代わりの返答を。)

…九尾様を困らせるなんて、私ってばなかなかの罪人みたいね。そんなに気にしなくても、大分調子も戻ってきたし、もうその尻尾を触らせて欲しいなんて言わないわよ。

(くすりと揶揄うように笑みを含みながらそう言うが、彼が何を想って心が休まらなかったのかは検討がついていなかった。さしずめ、厄介な人間の相手に苦悩が尽きないのだろう程度にしか考えてはいない。凡そ、その考えも間違いでは無いのだろうが、あまり勝手な憶測はしないようにしてもう一度本の頁を捲って視線を落とす。…正直なところ、あの尻尾にはまだ触りたい気持ちはあるが、直接口に出すことは控えようとは思う。)

  • No.65 by イナリ  2024-01-18 23:39:49 

…次、我に「せくしゃるはらすめんと」をしたら祟ってやるからの。将門も道真も崇徳院も真っ青になる程の祟りじゃぞ

(九つの尻尾を大きく広げて凄んでみせる。実際のところイナリには祟りを起こせるほど抱えている恨みはないのだが。一応凄んでみせたがきっと彼女にはノーダメージだろうなと思い、すぐに辞める。此方が禁忌に触れる寸前だったというのに当の本人は涼しい顔で小説を読み耽っている。何も知らないとはめでたいことだと少し口角を上げる。イナリの感情をここまで振り回すとは並の人間ではない。まさに罪人だ。まさか……彼女は本当は人間ではなく妖なのではないか。イナリよりも上級の位を持つ妖が人間に変化し、イナリを惑わそうとしているのではないか。そんな邪推をしてしまう。まだイナリが幼く下級の妖だった頃、よく他の狐妖怪に化かされて揶揄われたものだ。あの頃の仲間はもうこの地にはいないが、今でも時々別の妖の気配を感じることがある。一瞬、お主は本当に人間か、なんて尋ねそうになったが冷静に考えて非現実的過ぎるので黙っておく。クシクシと手──今の場合は前足だが──顔の辺りを毛繕いすると大きな欠伸を一つ。繧繝縁の上で丸くなると遠目からは普通の狐にしか見えないだろう。暫く丸くなったままでぼーっとしていたが、もう一つ大きな欠伸をすると目を閉じながら彼女に告げる)

我は眠る。体調が悪うなったら遠慮なく起こせ。ぽっくり逝かれても迷惑じゃからな…。

  • No.66 by 日向 静蘭  2024-01-19 20:26:59 



あら、祟られたら困るわ。

(尻尾を大きく広げ凄む彼の言葉には再度視線を送りつつ、眉尻を下げながら祟りは困ると短く返す。実際に祟られたら一体どんな事が起こるんだろうか、なんだか少しばかり興味もあるが、本当に祟られたらやはり堪ったものではないので、許しがあるまではあまり近づかないでおこうかと考える。…そもそも許しを得られるかは分からないが。ただ1つ微かに分かっているのは、差程嫌われてはいないはず、と言うことだけだった。しかしこれも単なる勘でしかないので彼の本心は謎のままだ。
そして、眠る、に続く発言には「そうね、分かったわ」と頷き、瞼が閉じられる様を静かに見守っていた。本来ならばあの布団で寝ているのだろうが、恐らく自分に遠慮をして繧繝縁で丸まっているのであろう。その姿だけ見ればなんとも可愛らしい狐の子のようである。
そのまま暫く小説を読み進め、彼の寝息が深くなるのを感じると静かに立ち上がり、布団を手に取っね繧繝縁まで上がるとそっと彼の体に掛けてやる。自分は大分休んだからかまだ眠気は来ないようだし、とその後も読書に勤しむが、幾つか時間が経った頃、少しばかり身体を動かしたくなり、興味本位で本殿から出ていく。
社に封じたと言っていたが、果たしてどこまで行けるのだろう、とこれまた自由奔放にも散策するつもりらしい。)

  • No.67 by イナリ  2024-01-19 21:35:45 

……ん?

(彼女が出て行く足音で耳がピクリと反応する。ゆっくり目を開けると本殿から出て行った彼女の背中を確認した。一瞬連れ戻そうか迷ったが大丈夫だろうと判断して再び目を閉じる。鳥居より先へは行けないだろうし、裏に回ってもイナリの温泉より先へは行けないようになっているはずだ。それに彼女はきっと身体を動かしたいだけで脱走の意図などないだろう。もし無理に鳥居を越えようとし続けたならば、並の人間なら形状を保てなくなってしまう。彼女のことだ。一度越えられないと分かったら大人しく帰ってくるだろう。ふと自分にかけられている毛布に気が付く。きっと自分に気を遣ってのことだろう。此方が繧繝縁の上で寝ているから寒そうに見えたのだろうか。湯上りの自分の身体は毛布など無くても大丈夫だというのに。つい頬が緩む。なぜかは分からない。彼女から毛布を掛けて貰えたことが無性に嬉しかったのだろうか。一体なぜ? と考えても考えても答えの見つからない問答をしている内にすっかり眠気が逃げてしまった。折角だからと起き上がると社の屋根へ登り上から彼女の様子を観察することにする。)

  • No.68 by 日向 静蘭  2024-01-19 22:41:58 

(雨もすっかり上がり、夜空に輝く星たちを眺めながら、ゆっくりと外観にも視線を動かしつつ周囲を巡ってみる。朝はあの雨のせいで全く周囲へ目を配っていなかったので、今までずっと中に居たのに、初めて訪れたようで不思議な感覚に陥る。
暫くして正面へ戻ってくると、ぴたりと鳥居の前で足を止める。鳥居の先に見える景色はなんら変わりなく見えているはずなのに、何故かこの先へ行ってはいけないという気がしてくる。恐らく結界か何かがあるのだろうかと頭では理解するものの、一歩、また一歩と歩み寄っては鳥居の先に向かって右手を伸ばす。しかし、それもまたすぐにダラりと下ろせば、その場でゆっくり腰を下ろす。
冷たく流れる風に膝を抱えて腕を擦りながら、暫く変わらない体勢のままじーっと鳥居の先の景色を眺めていた。)

──…みんな、大好きよ。

(相変わらずその顔は憂いを帯びていて可愛げのある笑顔とは無縁の表情だったが、それでもその声音は優しさに満ちていた。
この言葉は勿論、あの憎たらしい教え子たちに向けられた本心でもあるし、同じ教壇に立っていた同僚たち、昔の同級生たち、両親、みんなに向けた言葉だった。色々な事があってすっかり心身ともに疲弊してしまって霞んでいたけれど、元々自分は人が好きだった。寂しかったり、辛かったり、悲しかったりと嫌な事ばかりだったし、自分は人に嫌われるタイプだった。しかし、自分に“嫌いな人”は居なかったのだ。
鳥居の向こうへ戻れないと悟り、今更ながらその事に気がつくと、表情は変わらず涙だけがぽろっと流れていく。
袖で流れた涙を静かに拭うと、そのまま立ち上がり、何事も無かったかのように本殿へ戻っていく。)

  • No.69 by イナリ  2024-01-20 13:17:33 

(イナリは人間の感情が苦手だった。人間の感情を理解するのがイナリは不得意だから。イナリにも感情はある。だが人間が感じるそれとは違うことをよく知っている。人間が寿命を恐れる感情をイナリは理解できない。長寿な妖だから。人間が人間を嫌う感情をイナリは理解できない。人間はとても興味深い生き物だから。人間が悠久の時を生きたいと願う感情をイナリは理解できない。長寿が時には苦痛であることを知っているから。要は複雑な感情が理解できないのだ。好きなら好きだと言葉で言えずとも行動で示せばいい。嫌いなら嫌いだとはっきり主張すればいい。だって嫌いなのだろう? 単純明快に主張するために言葉を得たのだから。イナリならそうする。だから人間たちもそうすればいい。こういった一種の傲慢がイナリの悪癖の一つだった。実際はイナリだって複雑な感情を抱いているはずなのに。500年以上生きていても、それに気付けないのがこの妖の哀れな所だった。
だから彼女が涙を流しながら呟いた言葉で理解が及ばず暫時フリーズしてしまった。なぜ? なぜ泣いているのに「好き」だという? 自分は人から好かれてないと言ったでは無いか。なのに、なぜ人を好く? 到底理解の及ばない領域にまで思考が発展してしまうと首を傾げることしか出来ない。
やがて彼女が本殿へ戻り始めると慌てて瞬間移動して繧繝縁の上に戻り、寝たフリをする。なぜそんな小細工をと問われれば、女子の後を一々着いて回る不埒な妖とのレッテルは貼られたくなかったから。姿勢も毛布の位置も先程とはえらく違っていたが、寝たフリを貫いていれば寝相が悪いだけだと思い込んでくれるに違いないと楽観して、スースーと寝息を立てる)

  • No.70 by 日向 静蘭  2024-01-21 12:25:42 

(夜風に当たった為か少しばかり咳き込みながらもゆっくり歩みを進めて本殿へ戻ってくると、ちらりと繧繝縁の方へ目線を動かして歩みを止める。
明らかに先程とは違う寝姿を気にするようにじっと凝視するが、 寝相の事を考えると何ら違和感はないかと心の中で思う。
だが、毛布がズレたまま放置するのは頂けないようで、足音を立てないよう静かに近付く。毛布を直そうと手を伸ばすが──右手は狐のおでこを捉えて軽くデコピンをかまして。)

…“狸寝入り”は感心しないわね。
寝息を聞けば、本当に寝ているかどうか分かるのよ?

(上記を述べて毛布の位置を正しながら小さく笑うと、その傍らに座り込む。
寝息なんて一見変わらないように聞こえるが、よくよく聞けば睡眠状態になった瞬間から寝息のリズムや音が微妙に変わるのだ。本殿から出る前、小説を読みながら静かな部屋に小さく響く寝息を聞いていたものだから、それが変わったのに気付くことが出来た。流石に外まで付いてきた事には気が付いていないが、人を観察して来た結果身に付けた見分け技らしい。)

  • No.71 by イナリ  2024-01-21 14:31:50 

……てっ!

(額に一撃食わせられると小さく声を上げてビクンと尻尾が跳ねる。しまったと思い何とか取り繕おうとするが、彼女の"狸寝入り"を耳がぴくんと感知すると、観念したように目を開けるとまるで悪戯を咎められた子供のように呟く)

あんな下品な者共と一緒にするでないわ…"九尾寝入り"と言わんか。
…お主が居なくなったから目覚めてしまったんじゃ。お主が悪い。だのに我に狼藉を働くとは。最近の女子は斯様に乱暴なのか。

(イナリは狸が嫌いだった。狐妖怪の中でも小柄なイナリは狸達の格好の揶揄いの対象だった。子狐妖怪だった時分には落とし穴に落とされ、尻尾を掴まれ、欠伸をした時に口に中に唐辛子を入れられ、年がら年中悪戯されていた。極めつけはイナリの変化への熱意を見た狸が「この変化バカ」とイナリに軽口を叩いた。以来イナリは狸が嫌いだった。だからこそ彼女の狸寝入りには、そこそこ不機嫌そうに抗議する。狸と名のつくものは、たぬきうどん以外全て消す。それがイナリの密かな野望だった。
彼女のデコピンは軽かったが痛みを感じなかった訳では無いので尖った口をもっと尖らせて抗議する。妖であるイナリにデコピンまでしたのは彼女が初めてだ。この人間は本当に自分を妖だと思っているのだろうか)

  • No.72 by 日向 静蘭  2024-01-21 17:31:29 


あら、それはごめんなさい。
ちょっと散歩したくなって…、雨が止んでいて良かったわ。

(狸を下品だと話すところを見るに、狸と狐の仲の悪さが伺えた気がして妙に納得出来た。というのも、なにかとこの両者は対で描写されることが多く、これもメディアなどの影響で印象付いているだけかと思っていたが、あながち間違いではないようだ。…どちらかと言えば彼が一方的に嫌っているように見えなくも無いが。
自分が悪いと言われたことに対しては足音が煩かったのだろうかと素直に反省しつつ謝罪をするが、その他の小言に対しては慣れてきたのか特に触れることも無く無反応を決め込む。此方としてはわざわざ寝たフリをする必要があったのか問いたいが、それは胸の中に秘めておくとして、ゆっくり立ち上がると繧繝縁から降りていく。
そして、床に置きっぱなしにしていた小説を手に取り鞄へと仕舞うと、1つ質問を。散歩と言っても外周しかしておらず、建物の中までは散策していないらしい。)

…そうだわ、朝食ぐらい作ろうと思うのだけど、台所ってあるのかしら?……そもそも、イナリ様って人間と同じ食事を摂っているの?

  • No.73 by イナリ  2024-01-21 19:13:14 

…我は妖ぞ。人間と同じものを喰っていると思うか?我が喰っているのは…

(すくっと起き上がるとゆっくりと彼女に近付く。その眼光は鋭く、彼女の瞳だけを捉えている。瞬間、九つの尻尾を巧みに使い、彼女を動きを封じる。後ろ足で立ち上がると鋭く長い爪を彼女の肩へ置き、まるで刀のように尖った牙をその首筋へ──)

…なんてな。我は永く人と共に生きてきた故、人と同じものを食える。外に出たのなら分かったと思うが、本殿より出て左に社務所がある。中は散らかっているが奥が土間になっていてな。そこが台所じゃ。お主が使っている台所とは、ちと違う故、注意せよ。食材や調味料などは壺に入っている物を使え。それと飯を作る時は我を呼べ。火を起こす手間を省いてやるでな。

(首筋に牙を立てる寸前で、ふっと口角を上げると何事も無かったかのように質問に答える。彼女を解放すると繧繝縁の上に戻り、再び丸くなる。一方的に此方が揶揄われているみたいで癪だったので此方からもちょっとした"冗談"を。イナリは人間を捕食対象とする類の趣味は無いが、できないことは無い。幼い頃に一度だけ食べさせられたことがあるが、とてもイナリの口には合わなかった。口にした途端に迫り来る嘔吐で苦しみ、一週間は水しか喉を通らなかった。おかげで周りの妖からは変わり者のレッテルを貼られたが)

  • No.74 by 日向 静蘭  2024-01-22 19:07:29 

( 九つの尻尾に囲まれ身動きを封じられると、鋭い爪や牙にさっと視線を逸らし。しかし、直ぐに解放され彼の冗談だったと知ると、静かに息を吐いてまた視線を戻した。一見すると相変わらず涼し気な顔をしていたかもしれないが、内心驚いていた。彼が人を食べる訳は無いと思ってはいたが、爪や牙が迫ってくると本能的に恐怖感を煽られるのだろうか。)

……社務所の奥ね、分かった。
少し覗いてくるわ。また料理を始める時にお願いするわね。

(台所の場所や勝手を聞くと素直に頷き、一度どんなものか見てこようと考える。料理は人並みにできると自負はしているが、彼の言うとおり現代の台所とは大分違うだろうし、何かあれば再度彼に確認しようと思う。
それからまた一人で散策がてら社務所に向かえば、言われた通り奥の方へと進んでいく。その時、着物の袖が散乱していた荷物の山にぶつかってしまったらしく、近くにあった小さな壺が落下し割れてしまった。慌ててしゃがみこみ壺の欠片を集めていると、指先からピリッとした痛みが走る。みてみると、鋭く尖った破片の先端が刺さってしまったらしく、痛みと反比例して鮮血だけが垂れていて。
そのまま破片を1箇所に集めてゆっくり立ち上がると、掃除道具も借りなければ、なんて呑気に思っていて。)

  • No.75 by イナリ  2024-01-23 18:39:35 

(彼女の言葉にこくりと頷くと社務所に向かう彼女の背を見送りながら先程の"冗談"を少しだけ悔いていた。表情には出ていなかったが彼女は自分に少なからず本能的な恐怖感を抱いていただろう。視線の動きで察しがついた。"目は口ほどに物を言う"と謂われているが、全くその通りだ。それでなくてもイナリは人間の負の感情を察知することに長けていた。永く人間と時を共にしてきて得たものが、人間の脆さと愚かさを見せ付けられたことと、負の感情ばかりを見抜けるようになったことでは、割に合わない。もっと人間の明るい感情を見抜ける力が欲しかった。
彼女は自分の冗談に驚いたことだろうな。やはり首に牙を寄せたのはまずかっただろうか。些か真に迫り過ぎたか。なんて見当違いな反省をする。イナリは時々ピントがズレていたり気が付かなかったりすることがある。だから初めて社務所に入った彼女があのガラクタの山を難無く抜けることができない、なんて想像もしなかった。イナリが行けるのだから彼女も行ける。この妖の傲慢さが出ていた。
数分経ってようやく彼女のことが気になり出す。上体を起こすと人間体に変化し着物を着用する。まさかガラクタの下敷きになってはいまいな。そんな不吉な妄想をしながら社務所へ向かい入口を覗き込んでみる)

お主、覗くだけでどれ程、時を費やすつもりじゃ?

  • No.76 by 日向 静蘭  2024-01-23 20:41:02 

(荷物が散乱していようと少しばかり気を付ければ抜けられるものだと思っていたし、実際そうだった。しかし、普段着慣れていない小袖を着ているだけでもどうも狭いところでの身動きがしづらく、壺を割った後も資料の山を崩したり、踏みそうになったりと散々だった。おまけに大昔の道具や資料が残っている為、そこに興味が移りだしついつい台所までの短い距離で寄り道ばかりをしてしまう。
ふと入口の方から声を掛けられると、ちょうどこの社務所の地図なんかが記された冊子を見つけて拾い上げた頃だった。)

……面白いものがたくさんあってつい。というか、掃除しなきゃ駄目ね。
…あと、ごめんなさい。そこの壺を割ってしまったの。

( すぐさま手にしていた冊子を近くへ放ると、肩を竦めつつ言い訳を。そして、先程壊してしまった破片の山を指差すと、先程切ってしまった指先はさっと背の後ろに隠した。ただでさえ情けない姿を見せてばかりだし、次は怪我をしたなんて知られたらまた呆れられるだけだと思ったらしい。
そこまで言うと、やっとのこと土間まで辿り着き、彼の言う言っていた調味料や食材の入った壺はどれだろうかと辺りを見渡す。)

  • No.77 by イナリ  2024-01-23 21:19:19 

うん? …ここにあるのはガラクタばかりじゃ。お主が割ったのは京で有力だった公家が名のある職人に作らせた壺。乱世の動乱の中で略奪され、流れ流れて我の許へ献上されたものじゃ。お主らからすれば年代物の高価な壺かもしれぬが、我は壺には興味無い。

(さっと後ろに隠された指が気になったが、それよりも派手に割れた壺の方に意識がいった。これを献上してきたのはいけ好かない武士だった。これをやるから我が宿敵の一族郎党を滅ぼせ、と言ってきた。生を司る神社で何を言うかと怒鳴り、その場で妖術を使って強制的に神社から追い出した。壺を大切そうに抱えて恩着せがましく献上してきた様を思い返し、愉快そうに笑う。不謹慎を言うから何百年越しにバチが当たったのだ、ざまあみろ。イナリは心の中で舌を出した)

…料理用の壺はこっちじゃ。これは割るでないぞ。それと…何故指を隠す。

(いつの間にか辺りを見渡す彼女の隣に移動していると、壺の場所を指で指す。薄暗かったので指先に火を灯らせ、明かり代わりにする。壺は台所横の棚に置いてある。少し暗いのと、辺りがゴチャゴチャしているため分かりにくい。なるほど彼女の言う通り、掃除は必要だ。いくらガラクタばかりとはいえ処分も必要だろう。
壺に向けられていた意識はすぐに彼女の指に向いた。隠していた指を掴むと目の前に突き出させる。血が、流れていた。一瞬イナリの動きが止まる。イナリは血が大嫌いだった。血は死の象徴だから。刺され、殴られ、撃たれ、病に侵され。過程は千差万別だったが、この赤い液体を身体から流したものは皆死んだ。人間達が死んでいった。じゃあ彼女も──嫌な記憶が甦り目から光が消えかけたその時、ハッと我に返る。彼女は壺を落とした。その時の破片で切っただけだ。何も夜討ちに遭った訳では無い。第一、こんな指先程度の出血で死ぬものか。自身を落ち着かせるように大きく息を吐くと彼女の指を解放し気まずそうに言う)

…些かガラクタを溜め込み過ぎたな。我が処分しておく。

  • No.78 by 日向 静蘭  2024-01-23 21:46:30 

(割れた壺の出処を聞くと、そんなに年代物だったなんて、と内心少しばかり焦る。しかし、言われてみれば此処にあるのは同様に歴史あるものばかりだろうが、実際表に出されることが無いのならば彼の言うとおりガラクタ同然なのかもしれない。まぁ、それでも多少罪悪感は残るが。
それにしても、これだけの物が献上されていたのかと考えると、昔は大層人で賑わっていたのだろう、と当時の光景を想像してみる。だが、そんな想像もいつの間にか隣へ来ていた彼に腕を捕まれた事で現実へと引き戻された。)

…だって、貴方皮肉ったらしいから怪我したなんて言ったら─……、。
ねぇ、ただの私の不注意よ。片付けなら私も手伝うわ。

( 何故隠すのかと問われれば、思っていた事を正直に白状するものの、指の出血を見て動きを止めた彼を不思議そうに見つめた。何やら考え事でもしているのか、じっと鮮血を見る彼に何やら不安を感じ、名を呼ぼうとした。しかし、その刹那気まずそうに掴まれた指は解放され、開きかけた口が閉じる。
しかし、すぐにまた口を開くと、彼の手に怪我をしていない方の手でそっと触れると、彼の気持ちを暗示してか否か、小さく微笑みかけた。)

  • No.79 by イナリ  2024-01-23 23:33:36 

…そうか。好きにせい。ただ怪我はするな。面倒じゃ。

(彼女の微笑みを見てようやく冷静さを取り戻すと、いつものように人を見下したような表情で鼻で笑う。口ではこういったが、手伝わせる気など更々ない。彼女が眠った後にでも一人で片付けを済ませる。その方が安全だ。あの血を見てイナリは人間が脆いことを改めて再認識した。油断していた。こんなことを言えば大袈裟だと彼女は笑うだろうか。でもイナリは恐ろしくて仕方がない。これまで自分が気に入った人間はすぐにいなくなってしまったから。そこでようやく気付く。我はこの女子を気に入っているのか──ここまでイナリに物怖じしない人間は初めてだ。自分はそういう人間に会ったことがなかったから新鮮さ故に彼女を気に入ったのか。なんて呑気に自己分析をしながら彼女の方へ向き直る)

夜も更けた。お主はもう眠れ。夜更かしは万病の元じゃ。それでなくともお主は患いの身。人間は元々が脆くか弱い。まるで赤子じゃ。今のお主は赤子の中でも産まれた刹那の赤子じゃ。ちょっとの外圧で傷が付く。

(標準語に訳すると『病気なのだから体調のためにもう寝なさい』になる。彼なりに一応は気遣って言葉を紡ぐ。ただし一々尊大な物言いをしなければ死ぬ病にでも掛かってるのかと疑いたくなる位に素直に言わない。彼女の皮肉ったらしいという評は全くもって正鵠を得ているが、当の本人は褒め言葉だと受け取っている節があるから厄介だ)

  • No.80 by イナリ  2024-01-25 20:20:30 

(/ 上げておきます)

  • No.81 by 日向 静蘭  2024-01-28 07:41:10 


……そうね。分かったわ。

(──大袈裟だと思った。きっと、彼は口ではあぁ言っているが自分が寝静まった後にでも一人で片付けを済ませてしまうのだろう。それに、尊大な事を言うなとは思っていたが、赤子とまで言われるとは思っていなかったので少しばかり面食らった気分になる。おまけに風邪を引いた自分は産まれた直後らしかった。自分の傷だって、外気に触れ、鮮血はもう止まっていると言うのに。そんなに繊細でも脆くもないと言い返そうかと思ったが、きっと彼にとって、人間とはそれほど脆い印象が強く残っているのだろう。そう考えると短く、素直に返事をしておく。
長年生きていて、沢山の者を看取ってきたのだとしたら、彼の遠回しに向けられる優しさが何処と無く切なく感じられる。やはり、彼は人間が好きなのだろう。まぁ、大袈裟だと思うのに変わりは無いが。
「戻っているわ」と更に一言付け加えると、またも何かを倒してしまわないように慎重に歩きながら社務所を後にする。

本殿に戻ったあと、ふと、思い出したように鞄の中を探ると、シンプルな黒の手帳型ケースに収まったスマホを取り出す。ケースの内側に備わっているカード入れには、ICカードが入っており、これらを見ると一気に現実に戻ったような気分になる。
なんとなく今まで手にしていなかったが、単純に機能しているのか気になって電源ボタンを点けてみる。
暫くすると、綺麗な海と浜辺の写真が映し出される。遠くに何人かの後ろ姿が写っているその画面を眺めると、幾つか着信が来ていたらしい通知にも視線を移し小さく笑う。恐らく職場から何度も連絡が来たのだろう。開いて見ようかと思ったが、何故かこの画面を表示する他操作ができなかった。
静かにケースを閉じると、何となく手にしたまま布団の中へと潜り、枕元にスマホを置いておく。此処では持っていても仕方ないはずだし…、彼に見せたら喜ぶだろうか、なんて考えながらも目を閉じる。)

  • No.82 by イナリ  2024-01-28 12:54:09 

(彼女が社務所を後にするとガラクタの山を見て大きく溜息を吐く。自分はこの山を妖術などを使って越えていたから問題なかったが、彼女に指摘されると確かに些か多すぎる。普段なら妖術を用いて一瞬で、この山を消すことが出来るのだがイナリには彼女の言葉が気になっていた。面白いものがたくさんあってつい──イナリにしてみればここにあるものなど取るに足らないものばかりだが、彼女は興味津々という様子だった。自分の所有物はもう誰の目にも止まらず朽ちていくとばかり思っていたから、イナリもそのつもりでここに放っておいたので、彼女の言葉は実は嬉しかった。彼女がこの神社から居なくなる時、ここで見たもの聞いたものを外で後世まで伝えてくれるだろうか。そんな淡い期待を抱いてしまうと身体は勝手に散乱した資料を掻き集めていた。村人の日記、武将の将軍への報告書、戦地へ行く者の最期の恋文。そしてイナリの日記など。数々の資料を掻き集めると丁寧に積み重ね、何個かの山にする。今度は倒れてもすぐに修復できる程度の大きさに。彼女が手にしていた冊子は懐に仕舞う。きっと持っていれば役に立つから。残りの物は全て残しておけないから選別する必要がある。ふと外に出てみると東の空が白み始めていた。久しぶりに徹夜をした。イナリは二日三日眠らなくても問題ないが、やることがないのでいつも人間と同じように眠る。何だか普段と違うことをして新鮮で少し気分が良い。社務所に戻るとガラクタを山を漁り、彼女が興味を惹かれそうなものを選別する。そうして作業を終わらせると、要らない物は妖術で一瞬で消してしまった。すっかり綺麗になり足の踏み場が十分にある社務所を見て満足そうに頷くと外へ出て本殿へ。既に太陽は昇っていた。彼女を一瞥すると枕元に置いてある手帳のようなものが気になったが、勝手に触ると顰蹙を買うと思い、彼女が起きるまでは何もしないでおく。その内起きるだろうと、社務所から持ってきた冊子を取り出して読み返す)

  • No.83 by 日向 静蘭  2024-01-28 13:50:40 


──…あら、おはよう。イナリ様。
……それ、社務所にあったもの?

( 熱もすっかり引き、今度は嫌な夢を見ることも無くすやすやと眠っていたが、突然ぱちりと目を開けてゆっくりと寝返りを打ってみる。外からは暖かそうな光が差しており、太陽もとっくに昇っているようだった。そして、上半身を起こしてやや寝癖がついてごちゃついた髪の毛を撫で付けながら彼の姿を確認し、とりあえず挨拶の言葉を。ついでに彼が持っている冊子に目が止まれば、やっぱり大掃除したのかしら、と思いつつ質問を。
枕元に置いてあったスマホを再度手にして画面を開いてみるが、自分が社に封じられた瞬間らしき時刻から表示が止まったままで、もはや本来の使い所を失った其れをまた枕元の位置に戻しておく。)

…今って何時ぐらいなのかしら。起こしてくれても良かったのに。

( 彼は寝ずにずっと冊子を読みふけっていたのだろうかと首を傾げる。朝食を作るといいながら呑気に眠りこけてしまった事に少し罪悪感を感じながら上記を述べると、のんびりとした動作で立ち上がり乱れた布団を整え始める。)

  • No.84 by イナリ  2024-01-28 14:52:05 

…ん、起きたか。
お主が手にしていたからの。社務所を綺麗にするついでに持ってきた

(冊子を作った人間たちの顔を浮かべながら、よくも適当を書いてくれたな、なんて抗議を内心でしていると隣から声が聞こえてきた。チラと目を移すと彼女が起きていたので質問に答える。寝起きの彼女は寝癖も付いていて人間だから当たり前なのだろうが、それが普段の言動とのギャップで面白い。ふっ、と小さく笑うとやはり彼女の傍の手帳に興味がいくが、冊子を閉じて台の上に置く)

今は辰の刻…いや、8時じゃ。さして遅くもない。我は寛大じゃからな。人間がどれ程眠ろうと寛大な心で待っていてやることができるのじゃ

(大嘘だった。本当は冊子に書かれていることに腹を立てていた。冊子には社務所の地図や神社の情報が乗っている、いわば神社のパンフレットのようなものなのだが、イナリについて言及した章に『油揚げ一つで何でも叶える』と記されていた。まるでこれではイナリが安い妖みたいではないか。そんなことに腹を立てていて寛大の「か」の字もなかった。彼女には悟られぬように相変わらず恩着せがましい口調で言うと、さっと立ち上がる。彼女が朝食を作ってくれると言っていたことを思い出したのだ。体調次第ではどうしようかとも思っていたが、見た所彼女の身体に不調は見られない。顔色も良いし何より魘されることなく眠っていたから)

  • No.85 by 日向 静蘭  2024-01-28 15:13:50 


…そう。なら良かったわ。朝食作りの約束は守れそうね。
……あぁ、その冊子、後でまた私にも見せて貰えないかしら。この神社のことが書いてあるんでしょう?

(まださほど遅くない時刻だと知って安堵しつつ、彼が冊子を台に置く様子を見て、後で見せて欲しいと言っておく。社務所で見つけた時は地図らしき頁しか眺めていないし、もっとよく読めばこの神社の事や彼のことについて何か記載されているかもしれない、と興味を示しているらしい。古いものに違いはなかったが、簡単に見かけた感じ自分でも十分に読めそうなものではあったし、良いだろうか、と首を傾げてみて。

首を傾げた際に落ちてきた髪の毛をまたかきあげると、朝食を作る上で邪魔になるな、なんて考えが頭に浮かぶ。髪を伸ばすのは好きだが実際に鬱陶しい事も多いため、念の為いつも持ち歩いているものがあった。
最後に布団を畳みながら枕元に置いていたスマホを持ち上げ鞄の近くへ戻すついでに、今度はヘアゴムと髪留めを取り出す。
寝癖のついた髪をせっせと手櫛である程度整えると、高い位置で1つに結い上げ、更にそれを団子状にする。また、7:3で分けていた前髪部分の髪も垂れてこないように、形を整えながら髪留めを使って耳元で固定させた。)

  • No.86 by イナリ  2024-01-28 17:11:55 

…ああ。勿論好きなだけ読むが良いぞ

(私にも読ませて、なんて言われて断るのも怪しまれるために素直に頷く。先程の頁を見られたら実に都合が悪い。後で筆で消しておこう。隠蔽工作の段取りを考えていると彼女が髪を結ぶ光景が目に入った。瞬間、イナリの身体は金縛りに遭ったように動けなくなった。長く艶やかな黒髪も着物と合っていたが、団子状にまとめられた髪型もよく似合っていた。美しい──彼女の着物姿を見た時に思ったことを再び今度は強く感じた。イナリは女子の髪型なんて気にしたことがなかった。そもそも人間の容姿なんて何でも良いと思っていた。しかし彼女を見ていると容姿を気にしてしまう。何故だ。イナリにもようやく人間のような美的な感覚が備わって来たのだろうか。それにしては違和感がある感情が胸に生まれる。ハッと我に返るといつまでも彼女を見つめている訳にもいかないので、硬直を誤魔化すように告げる)

…社務所に参るぞ

(一言だけ告げるとスタスタと社務所へ向かう。やはり妖とはいえ睡眠は取るべきなのだろうか。人間を美しいなどと自分は寝不足故に疲れているのかもしれない。そんなことを思いながら社務所の扉を開けると、我ながら綺麗に整頓できたと鼻を鳴らす。こんなに広かったのか。土間の台所まで余裕を持って歩いて行かれるようになったおかげで無駄に妖術を使わずに済む)

  • No.87 by 日向 静蘭  2024-01-28 17:54:57 

(髪を結い終わるのと同時に顔を上げ、好きに読むといいと言ってくれた事へ短く感謝の言葉を述べるが、ふと彼からの視線を感じて再度首を傾げた。何か顔に着いているのだろうかと軽く頬に触れてみるが、原因は分からないまま。足早に社務所へ向かう相手を慌てて追いかけていく。)

…すごい。あれを一晩で片付けたのね。

(社務所の中を覗いた途端、驚いたように声を洩らす。あれだけの荷物があったのに一晩にして見違えるように綺麗になっていた。…やはり自分に片付けを手伝わせる気はなかったか、と思いつつも、一人でここまで片付けを済ませてしまった所には感心する。よくよく考えれば妖術なんかを使ったのかもしれないが、これで大分自分も身動きが取れやすくなったし、自由に土間へと出入りできる。
綺麗になった社務所を隅々まで見渡しつつ土間へとたどり着けば、彼に教えて貰っていた料理用の壺を見つけて中身を確認する。調味料や食材などは確かに十分置かれており、保存食用に加工されている魚や寝かされた野菜や香草なんかもあった。
何を作ろうかと頭の中で考えつつ、小袖を捲りながら問いかける。)

ここにあった物や食材は、お供え物なの?

  • No.88 by イナリ  2024-01-28 18:42:47 

資料などは一切合切残した。好きに読むと良い。いくらか使えそうな物も残した。それも好きに使え。

(資料や捨てずに残した物は社務所の隅に置いてある。そこを指差しながら好きにしろと伝える。とは言ったものの、資料の中でも自分の日記などはあまり目を通さないで欲しいものだが。それでも歴史的な記述も存在するのできっと興味は惹かれるだろうと思い、やむなく残したのだが。
料理用の壺を覗いている彼女を後ろから眺めながら、この女子は何を作ってくれるのかと密かに期待する。自分で作った料理などは飽きてしまっていたので、他人が──しかも現代を生きる人間が──作るものは一体どんなものなのかと興味があった。イナリは現代人の食事情には全く疎かった。以前人里に降りた際に「ふぁーすとふーど」と呼ばれるものがあったことは記憶しているが、それが何なのかはいまいち分からなかった)

いや、供物は終戦の時を最後に一切されておらん。魚は我がこの辺りの川で捕った。香草は山に自生しておる。野菜や米だけは街まで行って買っているがの。

(以前は野菜すら自給自足していたのだが、最近は天候も不安定で、この辺りで作物を育てるのは──しかもイナリは現代的な方法を知らないので尚更──困難だった。そこで野菜や米などは街に繰り出して手に入れることにした。だがイナリが街に行く度に人間社会は急激に変化している。まるで此方が化かされているのでは無いかと疑う位に、文明の発達は恐ろしく早い。以前図書館で読んだ本には「ぐろーばる化」という術を用いて文明の発達が進んだと書いてあった。いつか街でその術を体得しなくては。イナリは街に出る度にビクビクしながらもそんなことを考えているのだった)

  • No.89 by イナリ  2024-01-31 20:00:54 

(/上げです!)

  • No.90 by 日向 静蘭  2024-01-31 20:31:52 


( 彼が使えそうな資料は残しておいたと聞いて、表情に出はしないが意外に思った。てっきり全て要らないだろうと処分してしまったかと思っていたからきちんも分別されていたのは嬉しかった。昨夜軽く覗いただけでも歴史的価値がありそうな書物もあったし、時間がある時に読みたいと考えていたので「嬉しいわ」と簡潔ながらも率直な気持ちを述べて。
魚や野菜、小壺に入った味噌など、使いたい食材や食器具なんかをせっせと準備しながら、これらは自給自足や彼の買出しで揃えられているのだと知り、これまた意外そうにちらりと視線をやる。供物がされていない事は現代の神社離れなどを考えれば確かに納得が行くが、まさか妖自身が人里に降りているなんて考えてもみなかった。)

…貴方も街まで降りるのね。
そういえば前の事だけれど、自動精算機の前で困っている人を見たことがあるの。印象的に若そうだったから不思議だったのよね…。もしかして、その人も人間じゃなかったのかしら。

(鍋に水を汲み火元に置けば、包丁とまな板を見つけ出して野菜を切り出す。そうしながら、ふと2年ほど前の出来事を思い出す。仕事で疲れきったままスーパーで買出しをしに行くと、自動精算機の前で固まったまま動かない男性がいた。あまり覚えていないし、その人の顔もロクに見てはいないけれど、彼のように高身長で同い年ぐらいだったような気がする。
不審に思いながらも操作方法を教えてあげたのだが、その時は疲れていたし、教えた後に自分もさっさと帰ってしまったから…親切にした割には自分の印象もあまり良くなかったかも、と今更ながら思い返す。あの時の男性は元気にしているのだろうか…。)

  • No.91 by イナリ  2024-02-01 19:00:10 

…じどうせいさんき…? ……あ、ああ。アレか。まあ……環境に適応出来ぬ者は居るからの。我とは違って…。

(彼女の発言でピンときた。我はこの女子と会ったことがある──。忘れたくて蓋をしていた記憶が悉に蘇る。あれは数ヶ月ぶりに買い出しに行った日。いつも以上の人混みに酔いながら、時々変化が解けて尻尾が見えそうになりながら、必死で歩きスーパーまで行った日。普段買っているものを手早くカゴに入れ、脇目も振らずレジへと一直線に進んだ。そこで問題が起きた。品物をレジへと通し、いつものように金銭を払おうとした際、店員は「お会計は1番の精算機です」と自動精算機を指さして言った。今までそんなものなかったでは無いか。聞きなれぬ言葉に見慣れない機械。イナリは立ち尽くすより他なかった。かつて人間たちが自分たちの知識や説明などが及ばない領域に対して、それを超自然的現象として扱ったように、イナリにとって機械は人間が生み出した妖怪のように思える。イナリには永遠に理解できない構造で作られているから。呆然と立ち尽くしていた時、一人の女性が操作方法を教えてきた。突然のことに戸惑い、言葉を探している内に女性はさっさと行ってしまったので礼を言うことも叶わなかった。あの時の女性が目の前にいる彼女なのだ。まさかの再会に目を丸くするも平静を装うと、ぎこちなく応答する)

…にしても。そんな瑣末事をよく覚えているものじゃのう。お主、存外ヒマなのじゃな。さっさと忘却の彼方へやってしまえば良いものを。

(二、三回指を擦り合わせると人差し指の先にライターの火程度の大きさの火が灯る。それを火元へ近付けると、あっという間に火の加減が変わった。彼女が料理を作っている内に米を炊こうと釜に米を入れ二、三回水洗いし、竈にセットする。薪を放り込みながら少しばかりの抗議を。いつ彼女が自分だったことに気付くか分かったもんじゃない。彼女のことだからクスリと笑うか、それとも気にしない旨の発言をするか、などするのだろうが、どちらにしても知られたくない。これは尊厳の問題なのだ。自動精算機ごときに良いようにされる九尾の狐。そんな風に思われては沽券に関わる。竈に先程と同じように火を付け、強火で釜の様子を見ながらイナリは自分のプライドを何とか守る方法を考えていた)

  • No.92 by 日向 静蘭  2024-02-01 21:27:40 


(要するに“早く忘れてしまえ”と言われながら、フフ、と小さく笑うと肩を竦める。確かに、そんな些細な出来事、普通なら意識せずとも自然と忘れていくだろうが、男性の姿は不明瞭ながらも、その時の情景や心境は明確に覚えているのだから不思議なものだ。
彼が灯してくれた火元を有難く思いながら、先程水を張っていた鍋に昆布を沈めておく。ゆっくりと沸騰を待つ間に魚の切り身へ下味をつけながら、うーん、と僅かに思考を巡らせたあと口を開いた。)

…忘れたくはないわ。あの人の事、なんだか好きなの。
確かに不審だったけれど、後から考えたらなんだか可笑しくって。私も初めての店で精算機を触る時は少し戸惑うなーとか、ちゃんと顔を見たら良かったかな、笑顔で話せばよかったな、とか、お店で人を助けるの久しぶりだったな、とか色々とね。
……あの時、本当に疲れていたのに、不思議とリラックスしたのを思い出したわ。

(今でこそ自動精算機が主流だが、普及し始めた頃は自分も勿論戸惑ったし、店によっても精算機のタイプが違ったりする。そんな時の自分の姿と重ねてみたり、立ち尽くす男性と無愛想に手を貸す自分の姿を客観視したらなんとも滑稽で。非常に単純な事だが、たったそれだけでその日の夜は少しだけ気持ちが楽になった。今思えば、それほどつまらない日常が常態化していたのだと思う。
『好き』というのも勿論恋愛がどうこういう話では無いが、いっその事一目惚れでもしていればもっと忘れられない出来事だっただろうか。とにかく、なんの変哲もない出来事のようで妙に印象深かったあの人とは──なんとなくに過ぎないし目の前に本人がいるなんて考えてもいないので言えることだが──楽しくお話して仲良くなれるような気がする。)

  • No.93 by イナリ  2024-02-02 19:00:05 

(「好き」という言葉が聞こえると動揺して思わず火の威力を強めてしまう。慌てて火の威力を元に戻しながら、そのニュアンスが恋愛的な含みがないものだと自分に言い聞かせ冷静を装い、彼女の言葉に耳を傾ける。そんな些細なことでリラックスしたのか──喉まで出かかった言葉を飲み込む。彼女の表情もしっかり見ていなかったが、恐らく此処に初めて来た時のような疲れきった表情をしていたのだろう。そんな些細なことでも彼女の癒しになったのだとしたら正直悪くない気分だ。それに自分もあの時ばかりは大いに助けられたから。あの後は神社に帰るなりいつも以上に変化術で体力を使ったので死んだように眠ったのだ。あともう少し変化している時間が長かったらきっと途中で解けてしまっていただろう)

仮にじゃ。その者が…人間では無い存在だとする。我のように人間社会に溶け込んでいる妖じゃ。
…だとしてもお主は『なんだか好き』だと言えるのか?

(なぜこんな質問をしたのか自分でも分からない。ただイナリの中に彼女に対して心境の変化があった。この変化の末に抱いた感情をなんと言うのかイナリは知らない。二年越しの恩人である彼女にこんな質問をするのもどうかと思ったが何故か質問しなければならない義務感のようなものがあった。ピンと立っている耳はいつも以上にピクピクと小さく動き、彼女からの答えを欲している。そうやって待っている間にもイナリは釜に視線をやっていて、彼女の方を向こうともしない)

  • No.94 by 日向 静蘭  2024-02-02 21:59:11 

(ふつふつと鍋の水が湯だって来たのを確認すると鍋の中から昆布を取り出そうとする。しかし、その刹那火力がいきなり上がるものだから肩をびくりと跳ねさせつつ、ちらりと彼の方を見る。下らない話で怒らせたのかと思ったがどうやらそういう訳では無さそうで、不思議に思いながら次は鰹の薄身を投入して。
次に準備を終えた魚の切り身を焼き始めながら、彼の仮話に耳を傾けて少しの間考える。魚の皮がぱちぱちと焼けていく音を聞きながら一度手を洗い、置かれていた手拭いで手を拭くとゆっくりと口を開く。)

…どうかしら。
寿命も違えば妖術も使えて、私とは比較にならないぐらい存在価値があるんだもの。…妖と知っていて好意を抱くなんて烏滸がましいのではないかしら。
───でも、想いを胸に秘めるぐらいは、するかもしれないわね。例え許されない事だとしても、口に出さなければ同じでしょう?

( そう言って再度ちらりと相手の顔を見ると小さく笑い、そのまま火元に視線を戻す。
“愛がほしい”と彼に願ったほど、自分が愛に疎く縁がない事はとっくに分かっているし、それ故かそもそも自分が誰かに好意を抱いていいのかも分からない。ただでさえ同じ人間相手にそんなことを考えるのに、妖相手なんて勿論気が引けるのは確かだ。
でも其れは、妖が恐ろしいから、同族じゃないから、という理由ではなく、口から述べたように自分にそんな価値がない、不釣り合いだも思っているからだ。
ただ、不毛な想いだと自分自身よく分かっている分、それをわざわざ曝け出そうなんて思わない訳で、自分の中にその思いを仕舞っておくぐらいは許して欲しいと思う。)

…まぁ、小難しいことは置いといて簡単に言ってしまうのなら、妖だろうと人間だろうと関係はないわね。好きなものは好きよ。

  • No.95 by イナリ  2024-02-03 19:07:51 

…好きならば口に出せば良いものを。

(苛立ったように呟くと釜を開けて予定より早く炊けた米を確認するために釜の蓋を開ける。一連の動作は普段と変わりない落ち着いたものだが、表情は不快感を隠そうともしない。「私とは比較にならないくらい存在価値がある」。彼女の言葉はイナリを苛立たせるには十分すぎる力を持っていた。なぜ、自分の価値を安易に断ずるのか。なぜ、好意を烏滸がましいと言うのか。言いたいことは山ほどあったが、敢えて口にしなかった。その考えを我が直々に変えてやる。二度と存在価値云々などという妄言を吐かせない。そんな企みがイナリにはあったからだ)

米は炊けた。一々本殿へ配膳するのも面倒じゃ。ここで食おう。我は皿を探してるでな。

(先程までの苛立ちが嘘のように上機嫌に告げると、夜通し整理したガラクタ達に目を移す。こういうこともあろうかと和食器類は残してあったのだ。茶碗になりそうなものや、おかずを乗せれそうな大きさの食器を適当に見繕う。中には金継ぎされたものや、伝統的な手法で作られた希少なものもあったが、イナリはそういうことは全く気にしなかった。使われるためにあるのだから使えば良い。ただ値打ちばかりが上がって鑑賞用にされるなぞ本来の用途からすれば、食器が可哀想だ。選んだ食器達は彼女の近くへ置いておく。土間から上がると社務所の奥へ進み、卓袱台を持ってきて真ん中に置く。これで食事処は完成した。綺麗になった社務所で久しぶりの食事。しかも同席する人間がいる。この事実だけがイナリを上機嫌にさせている理由だった)

  • No.96 by 日向 静蘭  2024-02-03 20:23:01 


…そう、簡単にはいかないものよ。

( なんだか苛ついている彼の言葉を聞きながら肩を竦めると、焼き魚の具合を見ながら、鰹を掬い取り出汁のとれた鍋へ野菜を投入し、小壺の味噌を溶き入れる。
恐らく、彼は自分自身を無下にするような考え方が嫌いなのだろうか。しかし、自信に満ち溢れている彼と自分とでは自己肯定感に酷く差があり、他人に受け入れて貰おうなんて思ってもいないのだから、自分としてはこれが当たり前になっていた。
美味しそうなお米の香りに思わず腹の虫が鳴りそうになりながら、食器等を準備する背中をちらっと見る。不機嫌なのかと思ったら何やら上機嫌になったり、コロコロと表情が変わるので見ていて飽きないな、なんて考えつつ、見つけてきてくれた食器を受け取る。見たこともないような上質な和食器達を静かに眺めながらお米をよそい、魚を一切れずつ分ける。)

イナリ様のお口に合えば良いのだけど…。
私、料理はよくするけど、誰かに食べてもらったことってないから。

(茶碗とおかずを乗せた平皿なんかをちゃぶ台の上に並べながら、眉尻を下げて少し不安そうに呟く。偉そうに朝食は作ると言ったが、今更ながら口に合わなかったらどうしようか…。
最後に箸と具沢山の味噌汁をよそって配膳を済ませると「とりあえず…食べましょうか」と未だ不安そうにしつつもゆっくりとした動作で腰を下ろした。)

  • No.97 by イナリ  2024-02-04 09:05:40 

案ずるな。口に合わんでも腹には入れる。

(不安そうな彼女を他所に言い放つと椀を片手に味噌汁を一啜りする。ピクンと耳が真っ直ぐに立つと、椀を置いて箸を取る。焼き魚に箸を付けると身を一口食べる。今度は尻尾がぴくんと立つ。白米や魚、味噌汁をテンポよく口に入れながら、イナリの尻尾は左右に揺れる。ただの味噌汁。ただの焼き魚。何のことは無い。だのに何故こんなにも美味なのか。イナリは上述の言葉を後悔した。いくらだって腹に入る気がした。イナリは妖として生を受け以来、様々なものを口にしてきたが、料理で感動をしたことがなかった。別に不味い訳では無い。大抵は美味だった。しかし美味であっても感動はしなかった。イナリが食べ物でこれ程の反応を示したのは、昨日の飴玉とこの朝食だけだ)

お主…かくの如く美味なものをいつも作っておるのか? 何故この才能を活かさない? 我は斯様に美味なもの食ったことがないぞ!

(まるで幼少に戻ったように節操なく尻尾を動かしながら熱弁する。破顔しながら料理を口に運ぶ様は、傍から見れば子供のように映り威厳なんて微塵もないだろう。ただ今のイナリは体面や外聞などというものが瑣末事に思える程、彼女の料理に熱中していた。そんなこんなであっという間に朝食を平らげてしまうと、満足そうに小さく一礼する。恐らく後々になって自分の振る舞いを後悔することになるのだろうが、今はそんな将来のことなど考えもせず、只々朝食の感動の余韻に浸っていた)

  • No.98 by 日向 静蘭  2024-02-04 11:29:40 


(手を合わせて恐る恐る味噌汁から口にする。ごくりと一口飲むと──良かった、いつもと同じ味だわ──と安堵する。が、自分のいつも通りが彼にとって美味しいかどうかは分からないな、とちらりと向かいに座る姿に目をやるが、左右に揺れる尻尾と当然熱弁を繰り広げる彼の姿に呆気に取られ、茶碗を持ったまま固まっていた。
不味くても食べてくれるのは嬉しいが、どうせならば美味しいと思ってもらいたいとそう考えていただけに、予想以上に喜んでくれた姿に此方も嬉しそうに目を細めて、少しばかり照れが混じったように笑う。)

…フフッ、褒め方も大袈裟よ。だけど、良かったわ、喜んで貰えて。
良ければまた作らせて貰えないかしら?買い出しも行きましょう。材料が色々あれば、イナリ様が食べたことのない料理もきっと作れるわ。

( やっとのこと箸を動かして朝食をゆっくり口に運びながら、こんなに喜んで貰えるならまた作りたいと感じる。誰かが自分のした事で喜んでくれるのは久しく無かったが、やはり気持ちが晴れるものだ。もし、彼と共に買い出しへ出掛けても良いのなら、あれを買って、これを買って…と頭の中で次は何を作ろうかと吟味する。その表情はいつにも増して楽しそうに映るが、きっと本人は気が付いていない事だろう。
暫くして此方も朝食を平らげれば、手を合わせて挨拶し、空になった食器を重ねて後片付けをしようと腰を上げた。)

  • No.99 by イナリ  2024-02-04 14:14:51 

真か?!
…では暫くしたら出発しよう。今日買い出しが必要なのじゃ。随行するが良い。それと片付けは任せた。少しやることがあってな

(また料理を作ってくれると聞いて一瞬再び破顔するが、すぐに咳払いしていつもの威厳ある表情──だと本人は勝手に思っている──に戻る。彼女の料理が食べられると思うだけで口角が上がりそうになるが、それよりも前にやるべき事を思い出し、後片付けは任せさっさと本殿へ向かう。朝食の感動で忘れそうだったが、例の冊子を改竄しなければならない。本殿へ入ると彼女が後を付いて来ていないことを確認し、筆を片手に冊子を開く。頁をパラパラとめくっては自分にとって都合の悪い記述を片っ端から黒塗りしていく。ここも。ここも。それからここも。一通り黒塗りを済ませると冊子を閉じて筆を置く。これで良い。満足そうに呟くと立ち上がり彼女の許へ戻ろうとした時、彼女の鞄の近くに置いてあった黒手帳が気になった。枕元にも置いてあったし、大事なものなのだろうか。勝手に触ると顰蹙を買うと思い無視していたが、当の本人は社務所で後片付けをしている。見られて困るようなものを此処に置いておく方が悪い。咎められたらそう言えば良いか、なんて言い訳を考えながら、手帳を手に取り開いてみる──中には何も書かれていなかった。それどころか紙ですらない。四角い鏡のような物体がそこにはあった。内側には何やら模様のある札が納められている。新手の鏡だろうか。何も映ってない画面に反射している自分を見てそう考えたが、ふとボタンがあるのが気になった。何の気なしにボタンを押してみると、いきなり画面が明るくなった。いきなり画面が点くものだからうっかり落としそうになる。映し出されたのは海と浜辺の風景だった。よく目を凝らしてみると人間の後ろ姿も確認できた。綺麗な風景には似つかわしくないフォントで時刻が表示されている。現在の時刻からは大きくズレているため、きっと彼女がここを訪れた時刻のまま止まっているのだろう。携帯電話を知らない訳では無いが、イナリの認識はガラケーで止まっているため、今手に持っている四角い端末が携帯電話だとは夢にも思わなかった。好奇心を掻き立てられ、スマホを持ったまま社務所に戻ると、スマホを彼女の前に突き出しながら口を開く)

こ、これはなんじゃ? 新手の時計か何かか?

  • No.100 by 日向 静蘭  2024-02-04 14:54:33 


…えぇ、分かったわ。

(話を聞くと素直に頷き、やることがあるからと社務所を後にする背を見送れば、特に気にする素振りもなく洗い物を進めていく。それにしても、また作ると言った時に見せた彼の表情がなんだか可愛くて──そんなこと言ったら絶対怒るので面と向かって言えないが──思わずまたフフと笑みが溢れる。それに、不味くても腹にいれる、と彼はさも当たり前のように言っていたが、やはり彼は優しいと思う。
そんな事を心中で考えているとあっという間に洗い物を済ませてしまい、濡れた手を拭って自分も社務所へ向かおうかとしていた時、彼が戻ってきたかと思えば自分のスマホを突き出され、あぁ、と特に怒ったりせず静かに受け取った。)

…携帯電話よ。今は“スマートフォン”って言って、“スマホ”と略されているわね。
時間も表示されるから時計とも言えるし、地図もあるし、メモも出来るし、インターネットも使えるしゲームも出来るし、本も読める…これ1台でなんでも出来る便利なものよ。
まぁ、ここではこの画面しか表示できないみたいだけど。

( 新手の時計、と言われてもあながち間違ってはいないが、その他色々な機能があると手短に説明すると、画面をスクロールして見せる。届いていた通知の画面と時計の表示が切り替わるが、背景の写真は変わらないままで、やはりホーム画面への切り替えはできないらしかった。
日付や時間もそのままだが、買い出しに出る時にまた表示が変わったりするのだろうかと肩を竦めて思考しながら「見るのは初めて? 」と聞いてみて。)

  • No.101 by イナリ  2024-02-04 18:55:10 

す、すまーとふぉん…? 今の携帯は斯様に奇っ怪な形をしておるのか…。

(聞き慣れない言葉に戸惑いながらも名称をたどたどしく復唱する。携帯電話だと聞き、まじまじと見つめる。指で直接画面を操作できることに驚き目を見開く。未だに現代的な言葉は言い慣れない。この間ガラケーを問題なく言えるようになったばかりだと言うのに、もう新しい横文字が登場する。変化が早い現代社会にイナリは柔軟に対応できないので少しばかりストレスだ)

我が知っている携帯はガラケーという奴じゃ。斯様に奇っ怪な携帯全くもって知らなんだ。これも「ぐろーばる化」とかいう術のせいなのか。
…のう、お主。買い出しに行く時は我から片時も離れるでないぞ。その…お主の魂は此処に封じられてる故、その姿は我以外には見えぬ。迷子になったら面倒じゃろう?

(思えばイナリは街に行く度に、その変化の凄まじさに圧倒されてきた。また未だに現代社会に馴染めないので走っている車が以前と違うものだった時すら戸惑ってしまう。だからじっくりと人間社会のトレンドや最新技術というものに目を向ける余裕が無かった。昔は政変などはあっても文明の利器が急激に変化する時代ではなかったから、変化が苦手なのだろう。「ヘンゲ」は得意中の得意なのに。未だにイナリのような妖怪を恐れる人間もいるのだろうが、イナリからすれば絶え間なく進化を続け高度化や多様化を実現している人間の方が余程恐ろしい。恐るべし「ぐろーばる化」。そんな恐ろしさの現れか、彼女に自分の傍に居続けるように忠告する。ただし名目上は迷子にならないようにと)

  • No.102 by 日向 静蘭  2024-02-04 19:48:44 


ガラケー…懐かしいわね。私も中学生の頃までガラケーが主流だった気がするわ。スマートフォンも進化が早くて…私でも最新版はよく分からないもの。凄いわよね。

(懐かしい携帯の呼び名を聞けば肩を竦めて笑いつつ、確かに現代社会の技術というか、進歩には驚くことが多い。携帯電話の歴史だって、“平成”の時代だけで見ても30年ほどしかない筈なのに、その間の進化が著しかった。…とはいえ、自分もいつかのテレビ番組で見た知識しか頭にないが。
それに、グローバル化という言葉を聞くところによると、彼は現代にも興味があって、自分なりに現代のことを理解しようとしているのだろう。まぁ、術…ではないのだが、これはなんと説明しておこうか。
そんなことを思いながら小さく笑っていたが、次の言葉には少しばかりショックを受けたようで、顔をぱっと上げると少しばかり間をあけて。)

……私、見えないのね。…良かったわ。途中で生徒とか職場の人達に見られたら厄介だし。
そうね、離れないように、気を付けるわ。

( 口ではそう言うが、その視線は明らかに動揺しているようだった。自らこの社に囚われるよう願い、その後の運命なんて分かりきっていた筈なのに、いざ、周りから存在を認知されないと知ると何とも言えない哀しみが駆け上がってくる。彼が何を理由に離れないように忠告したのか、その本意を知る由もなく、ふらりと歩みを進めると「ちょっと、本殿に戻っているわ」と彼の顔を見ることなく社務所を後にした。)



  • No.103 by イナリ  2024-02-04 21:22:03 

(彼女の話を聞いて再び驚く。彼女の口ぶりからして彼女が持っているスマホは最新のものでは無いのだろう。では最新のものは一体どれ程の進化をしているというのか。まさか四角か形状が変わっているのか。画面に触れることなく念力で動かせるようになっているのか。実際そんなことは無いのだが、イナリは意外に怖がりな性格でもあった。一度警戒したものはこの目で現実を確かめるまで疑い続ける。そういう性格だから突飛な妄想をしてしまう。そんな下らないことを考えている内に彼女が口を開いた。
イナリは掛ける言葉が見つからなかった。彼女の視線は明らかに泳いでいた。そして自分の反応を確かめることなく社務所を後にしてしまった。残されたイナリは何か彼女の気に障ったかと考えるも全く分からなかった。自分は事実しか言わなかったはずだが。いや事実を言われたから動揺していたのだろうか。自分の姿が認知されないことにショックを隠せなかったのだろうか)

…人間とは難儀じゃな

(複雑な人間の心境にぽつりと呟くと、ここは一人にしておいた方が良いだろうと考え、その場に腰を下ろす。今回の件と言い、鳥居前での涙の件と言い、人間と接することが好きな彼女のことだから、やはりショックだったのだろう。イナリのように人間に忘れられた状態が永く続けば別に何も思わないのだろうが。そう考えると自分にはデリカシーが欠けていたかと僅かながら反省する。放っておくとは決めたものの、やはり気になって立ち上がって本殿へ向かう。いきなり声を掛けると吃驚させてしまうかと思い、音を消して本殿まで近付くと少しだけ顔を覗かせ中の様子を伺う)

  • No.104 by 日向 静蘭  2024-02-04 21:57:18 


(本殿に着くや否や、壁に背をくっ付けて縮こまったまま座り込む。髪留めやヘアゴムを外して肩から垂らした黒髪を撫で付けながら気持ちを落ち着かせ、なぜ自分がショックを受けたのか自問自答を繰り返す。自ら愛されることを諦め、孤独でいる道を望んでいた。いっその事みんなが自分の事を忘れてしまえばいいのにと思っていたはずなのに。
受け取ったまま持ってきていたスマホの画面をもう一度開き、そこに映っていたかつての同級生達の後ろ姿を眺めた。そして深い溜息をつくと、昔の思い出に蓋をするように手帳型のケースを閉じた。
自分は何一つ、諦められていなかったのだと気付かされる。心の奥底で、いつか誰かに認められて愛されるのではないかと淡い期待を秘めていたのだ。だからこそ、その期待が報われることは無いと知ってショックを受けたのだ。そして何より、勝手に期待して勝手に失望している自分が情けない。全て、自分の所為なのに。
…未だ哀しい事には変わりないが、涙を流したりすることは無かった。自分の中で気持ちを整理することで幾らか落ち着いたし、哀しんだところで何も変わらない。少なくとも、先程言ったように周りから見えないことで助かることも事実だし、単純に彼と出掛けるのも少し楽しみだし。いつまでもウジウジと済んだ事を嘆いても時間の無駄だと自分を奮い立たせる。

「大丈夫よ」そう自分に向けて呟くと、ゆっくりと立ち上がる。何やら帯を解き始めたかと思うと、彼が覗いているとも知らずにそのまま小袖を脱ぎ出す。彼が気を使ってくれたのか、雨で濡れていたはずの衣服も綺麗にされていた事だし、見えないとはいえ外に出るならば現代の衣服に着替えようと思ったらしい。)

  • No.105 by イナリ  2024-02-04 22:23:52 

……ッ!?

(幸いなことに涙を流していたり嗚咽を漏らしていたりすることがなかったので、一先ずは安心した。自分の想像していたようなショックの受け方はしていなかったことを確認できたので本殿へ入るタイミングを計っていた時だった。徐に立ち上がったかと思うと小袖を脱ぎ始めたでは無いか。あまりに唐突の事だったので、暫くその場に立ち尽くしてしまっていたが、ハッと我に返り屋根の上へ瞬間移動する。万が一にも想像していなかった彼女の行動に八つ当たりの苛立ちを抱きながらも、わざとでは無いとは言え女性の着替えを盗み見てしまった罪悪感と、羞恥心とで心の中は乱されていた。女子の裸体など今更見ても何とも思わなかった筈なのだが、唐突の事だったからか動揺してしまったのだろう。彼女なりの気合いの入れ方なのかもしれないが、後で境内での振る舞いについて遠回しに注意しておくことにしよう。尤も注意をしたとて彼女はイナリが術を掛けなければ境内から出ることは叶わないのだが。暫く屋根の上で気持ちを落ち着かせていたが、やがて屋根の上から降りる。十分程度は時間を置いたので恐らく着替えが終わっているであろうと信じて、本殿に何食わぬ顔を作りながら入る)

  • No.106 by 日向 静蘭  2024-02-05 17:12:35 


(着替え終えると、小袖は丁寧に畳んで鞄の傍へ置いておく。たった1日ほどスーツを着ていなかっただけなのに、えらく久しぶりのような感覚を得るのは、恐らく働いていた頃は毎日朝から晩まで着ていたからだろう。流石に窮屈なのでジャケットは着ないが、白のYシャツとタイトなスーツスカートよりも断然小袖の方が動きやすい事に今更ながら気がつくと、帰ってきたらまた其方に着替えようと内心思う。
ついでに、この2セットの服で過ごすというのもなんだか味気ないので、買い出しの時に洋服も買ってしまおうか…なんて、そんな事を脳内で考えながら自分の財布を取り出していると、ふと本殿に入ってくる彼の姿が見えた。すると、じーっと彼の顔を見てからなんの遠慮も無しに言葉を発する。)

…どうしたの。なんだか顔が変よ。

( 自分のせいで彼が気を遣っているとも知らずに平然とそんなことを言えば、疑わしい目をしたまま尚も彼の顔を見つめた。
変とは言え、その言葉通り変顔なんかをしているのではなく、ただ単に無表情とはまた違った取り繕ったような顔に見えた為、違和感を感じたようだ。まるでやんちゃな男子生徒がやましい事を隠しているかのような顔。
まぁいいわ、と首を小さく振ると相手へ歩み寄り、黄色のシンプルな長財布を手渡して。)

私は居候のようなものだし、買い出しの時は使って頂戴。

  • No.107 by イナリ  2024-02-05 18:00:49 

…誰のせいじゃと思っておるのだ

(彼女から取り繕っていることを見抜かれ、それが此方に落ち度があるような物言いをされれば聞こえるか聞こえないかの小さな声でぼそっと呟く。此方にも過失はあろうが、8割方は其方の責任じゃろう。抗議したくなったが追求されるとイナリが覗きのレッテルを貼られるため、尚も取り繕った顔を続ける)

折角じゃが…これは使えぬな。お主を封じた際にお主の私物も我以外には認知できぬようになった故な。
それに我は富を増やすことなど朝飯前。欲しいものがあれば遠慮なく言うが良い。異論は言わせぬ。我は絶対じゃからな。

(手渡された長財布を暫く眺めていたが、彼女に押し付けるように返す。本当は彼女の私物は問題なく使用できるのだが、嘘をついた。一つは居候の金で買い物をするなぞ名誉に関わると考えたから。もう一つは彼女を解放した後のことを考えていたから。 イナリは彼女をずっと手元に置いておく気はなかった。以前に街へおりた際図書館で読んだ本には、現代人は過酷な労働の割に収入を得ていないと書いてあった。彼女の経済事情は分からないが、何にせよ今ここでイナリが使ってしまっては今後の彼女の生活に差し支えると考えたからだ。イナリは金を稼ぐ苦労を知らない。元よりその手中で富を生み出すことができる妖術を持っていたし、人間たちがお布施もしてくれてたから。その身も心も擦り減らしながら労働の生贄となっていた彼女の苦労は分からない。だからこそ多少の引け目を感じてつまらない嘘を言った。
やはり尊大な物言いをすると、パチンと指を鳴らす。すると耳と尻尾が消え、完全に人間の姿になる。久方ぶりの人間への完全な変化に少し違和感を覚えながらも、彼女の方を向いて問い掛ける)

街までは歩いて行きたいか? それとも我の術で一瞬で行きたいか? 選ぶが良い。

  • No.108 by イナリ  2024-02-08 19:25:04 

(/上げです!)

  • No.110 by イナリ  2024-02-11 12:34:19 

(/上げです!)

  • No.111 by 日向 静蘭  2024-02-11 16:23:35 


( まるで自分の所為と言わんばかりの発言をする彼に、若干眉をひそめながら首を傾げるが、未だ着替えを見られたことには気付いておらず、まぁいいかと肩を竦めた。
次いで差し出した財布を押し返されると、「そうなの?」と短く返して大人しく財布を仕舞った。財布までもが認知されないなんて今まで稼いだお金がある意味無駄になってしまったと少しばかり残念な気持ちと、何も役に立てない情けなさが入り交じる。富までも生み出せる彼には、人間が苦労に苦労を重ねて手に入れるものも、きっと、何でも手に入るのだろうか。
便利だけど、不便だわ、なんて胸の中で呟いていると、指を鳴らす音につられ、完全な人間の姿となった彼を見る。)

………、折角だし、貴方と歩いていきたいわ。
それと、薄々思っていたけれど、貴方ってかっこいいわよね。可愛らしい耳と尻尾がなくなるのは残念だけれど。

(相手のことをじーって見つめていると、移動手段を問われ少し考えた後に歩きを選択する。元々歩くのは好きだし、折角天気が良いのだからのんびりと外の空気を味わいたいらしい。
それとついでに思っていた事を告げると、トントンと自分の頭を指して耳や尻尾を惜しむと、くすりと笑って見せた。)

  • No.112 by イナリ  2024-02-11 17:48:28 

へ…?

(かっこいい、なんて初めて言われた言葉を耳にすると間抜けな声を出して硬直する。かっこいい? 誰が? 我が? なぜ? 理解が追い付いていない頭に耳と尻尾が可愛らしいなどと言われると、頭の上に大きな「?」が浮かび上がり。徐々に言葉の意味を理解するとやや頬を赤らめ、そしてボフッという大きな音と共に変化が解けてしまい。狐の姿で彼女をキッと睨みながら再び人間体へと変化する)

馬鹿な物言いをすると置いてくぞっ!

(変化が終わると言うが早いか飛び出すような勢いで本殿から出ていく。乱暴に指を鳴らすと結界の力が弱まり、彼女が境内から出れるようになる。九尾の狐に対してかっこいいなどという女子なぞ見たことも聞いたこともなかった。彼女は自分が言われ慣れていない言葉を平気で言うのが趣味なのか。此方の反応を楽しんでいるとしか思えない。恐ろしい女子だ。一頻り心の中で彼女を論うと自分も自分だ、と自省する。人間の女子に何を言われようと堂々と受け流す位の余裕を見せつけてやれば良かった。そうだ、自分は妖なのだから。人間の良いようにされて堪るか。決意を新たにするとずんずんと進めていた歩みを鳥居を潜った所で止め、彼女が追い付くまで待つ)

  • No.113 by 日向 静蘭  2024-02-11 19:41:44 


(一瞬変化が解ける彼の様子を、またも肩をビクつかせながらも眺めていれば、飛び出すように本殿を出ていく背中を慌てて追いながらまたもくすりと笑いを溢した。また怒らせただろうかと思いながらも、実のところ容姿を褒められるとどういった気持ちになるのか分かっていなかった。同性からも異性からもロクに褒められたことが無かったし、自分にとってはただの正直な褒め言葉でしかない。恋人は…いたに等しい時期が一度だけあったが、振り返ってみれば何一つ褒められたことは無かった。
 ぼんやりと数年前のことを思い出していると、鳥居の前で一度立ち止まり、向こう側にいる彼を見る。ゆっくりと一歩を踏み出すと、ほんの少し、空気が変わったように感じた。ふと自分の両手をかざしてみると、確かに自分の目にはしっかりみえるのにここからは幽霊同然かとこれまた不思議な気持ちになる。)

 …ごめんなさい。行きましょうか。

(小走りで彼の隣へ追いつけば、上記を述べて歩き出す。妖である彼と、人間であるにも関わらず他者からは見えない自分、未だに現実味はないのだが、清々しい晴空が心地よいのは確かで、無意識に深呼吸をすると静かに息を吐き出す。そして、もう一つ買いたい物があったんだと思い出すと、前を向いたまま問いかけてみて。)

 そうだわ。…私、洋服が欲しいのだけれど、寄り道してもいいかしら?

  • No.114 by イナリ  2024-02-11 20:52:07 

(彼女が追い付くと小さく頷いて歩みを進める。今までは自分一人で歩いていた道も隣に彼女がいると、また違った景色が見えてくるようだった。女子と肩を並べて歩くのは百年ぶりだろうか。女子でなくても人間と歩くのは本当に久方ぶりだった。だからイナリはこういう時、どういう話しをすれば良いのか分からない。百年前であったら雑談も問題なく出来ていただろうが、今となっては雑談のやり方すら忘れてしまった。ましてや横に歩いているのはイナリを惑わす魔女のような人間だ。どう接すれば良いのか。僅かに気まずさを感じていた時、彼女が口を開いた)

うん? 洋服? …構わんぞ。好きなだけ買うと良い。お主がどのような衣を好むのか興味があるでな。

(イナリは現代人のあれこれについて全く知らなかった。街へ買い出しに行っても現代人の服装は目には入るが、いまいちよく分からない。それに、一々服装に気を配る余裕もない。イナリにとって街への買い出しは、平和な世での唯一の乱世であり、自分の正体が露見するかもしれない危険な行為なのである。だから彼女のような現代に生きる女子がどのような服を好むのか知りたい。"幽霊の正体見たり枯尾花"という言葉があるが、いい加減に現代人や現代の技術に驚くのは辞めたい。だから現代人をよく知ることで恐怖心を無くそうとしたかった。いくらでも買っていいという気前のいい発言には、そういう裏が隠されているのだった)

  • No.115 by 日向 静蘭  2024-02-12 09:45:30 

…ありがとう。でも、私、お洒落ではないから…あまり見ていて楽しいものではないと思うわよ…?

(ついでの買い物を了承されれば、小さく礼を述べて。しかし、あまりお洒落に関心がある方では無いし、恐らく現代のファッション というか洋服に興味があるであろう彼の期待に応えられる自信はないとおずおずと言葉を付け足して。実際にはシンプルな服装を好んでいるだけでセンスが無いとかそういう訳ではないのだが、本人曰く、こういう服装を着る自分はオシャレに無頓着なんだと思っているらしい。
兎にも角にも、まずは目的を達成するべくスーパーへと向かい、時々すれ違う人に目を向けていた。知人がいるのでは無いか、と内心複雑な心境になりつつも、他者から見えないのであれば此方から視線を向けてもバレないので気を遣わなくていいな、なんてこともちらりと思ったり。
そんなことを考えながら歩いていると、思いのほかあっという間にスーパーへ着いてしまって。カゴぐらいは自分が持とうと小走りでカゴを取りに行ったはいいが、実体を掴めず、その手は空を握るだけだった。)

……ごめんなさい。私、役に立てることは無さそうだわ。

( 一間、その場で固まるがその手を背に隠して特に表情も変えずにそう言った。実際は何故か手が震えて止まらないのだが、知らないフリをした。
魂は社に封じられ、周りからは見えない。よく良く考えれば物を持てないのも納得がいく訳だが、それでも、映画や漫画などにあるように、自分が死んだと自覚した幽霊のように、動揺が表れる。それでも表情も変えず、震えを背に隠すのは、これ以上情けないところを見せて彼に憐れみを向けられたくはなかった。
「早く済ませてしまいましょう」と涼し気な顔をしたままそそくさとスーパーの中へと進もうとする。)

  • No.116 by イナリ  2024-02-12 12:37:52 

楽しむためでは無い。知るために見るのじゃ

(お洒落だとかそういうことは全く分からない。イナリは最近の洋服の何たるかも知らない。そもそも「洋」に関する知識が昔のままでストップしているのだから。イナリのイメージは未だに貿易港の異邦人、黒船と共に来た外国人、スーツを着て街を歩く大使など時代錯誤もいいところだ。
しばらく歩いていくとスーパーに到着してしまった。分かっていたことだが人が多く大きく溜息を吐く。しかし今日はいつもとは違う。なんてたって彼女が一緒にいるのだから。ここでは頼りにせざるを得ない相棒を一瞥すると小走りでカゴを取りに行ってしまった。焦ってイナリも後に続くが、カゴを握ることができない彼女に後ろから声を掛ける)

いや、大いにある。買うべき物を伝えよ。それとじゃな…その、我から片時も離れるでないぞ

(表情は変わっていないが不自然に背に隠された手はきっと震えているのだろう。彼女に代わってカゴを持つと彼女にやって欲しいことを伝える。それと恥を忍んで改めて傍に居るようにお願いする。彼女は気付いただろうか。彼女が小走りでカゴを取りに行った際、イナリの表情が大きく歪んだのを。境内ではイナリの方が上位であるが、こと文明社会の中では彼女の方が上位だ。だから居てもらわなければ困る。自分本位と言われようが構わない。我はここを無事に脱してみせる──決意をすると彼女の言葉に頷き、横に並んでスーパーの中へ歩みを進める)

  • No.117 by 日向 静蘭  2024-02-12 13:31:32 


…そうね、まずは向こうから行きましょう。

(彼からの声掛けに頷いて改めてスーパーの中を進んで行くと、精肉コーナーから向かおうかと行き先を指さしてちらりと彼の顔を見上げた。するとその時、あ、と小さく声が漏れた。1度離れるなと忠告された時にはその言葉の本意に気が付かなかった。だけれど、今はなんとなく分かってしまった気がする。彼は自分が迷子にならないようにと言っていたが、迷子のような顔をしているのは彼の方だった。はっきりと困ったうな表情をしていた訳では無いが、境内でみる彼とは明らかに雰囲気が違っていた。
しかし、それもそのはずで、変化で体力も消耗している上に、長年生きてきた彼にとって現代人の生活圏は未知で溢れているはず。勝手に現代にもある程度慣れていると思い込んでいたが、携帯の話を思い返せば、自分ですら最新についていけていないのに、目まぐるしく進化していく現代に彼が慣れるのは安易なことでは無いはずだと今更ながらに気がついた。)

…鶏肉と、挽肉も欲しいわ。あと、調味料は向こうね。

( 声が漏れた直後すぐに前を向くと、するりと隣に並ぶ彼の腕に自分の手をそっと添え、そのまま軽く腕を握ったまま歩き出す。傍から見ればカップルが腕を組んで歩いているようだが、自分の姿は見えないし、これはあくまで迷子防止──どちらのとはあえて言わないが── の為だと自分に言い聞かせる。彼が嫌がって此方の手を振り払ったのなら仕方ないと思いつつ、精肉コーナーで肉を選んでは指を指し、きょろきょろと辺りを見渡して他の商品を吟味する。)

  • No.118 by イナリ  2024-02-12 14:09:34 

…ッ
……あ、ああ。これか。…いつもそんなに吟味して選んでおるのか?

(小さく声を漏らしたのが気になってどうしたと問いたくなったが直後に、腕を握られては少しだけ肩が跳ねるも、大人しく受け入れる。いつもだったら「我に安易に触れるとは不敬じゃ!」だの「女子が斯様なことをするとは破廉恥じゃ!」だの言って、さっさと腕を振り払ってしまうのだが、今は状況が違う。例えるなら彼女は異国の地で頼れる唯一の希望の星だ。腕を振り払って彼女が機嫌を損ね、一人帰ってしまったら大変だ──実際には彼女はイナリと違ってそんな短気では無いのだろうが──だから無下にはできない。腕を握ってくれている間は、彼女がどこにも行かないということを確約しているも同然だ。此処は少しばかり恥ずかしいが、周囲にはどうせ見えないのだし、大人しくしておく。それに彼女が触れていると僅かに温もりが伝わり、不思議と心が落ち着く気がする。
とは言ったものの、やはり中々落ち着かない。彼女が指差した商品をカゴに入れ、彼女が吟味している間は、周囲の人間を観察する。相変わらず何をしているのか分からない。耳に何かを挿している者もいれば、四角い時計のようなものを付けている者もいる。「すまーとふぉん」は分かるようになったが、一方で知らないことがどんどん増えていく。いつもは適当に選んで逃げるように買い物を済ませていたから、一つのコーナーに長く留まることがなかった。商品を吟味する彼女の横顔を見つめながら、周囲に怪しまれないように小さな声で訊ねる)

  • No.119 by 日向 静蘭  2024-02-12 14:45:29 


…そうね、野菜やお肉なんかは日によって安いものが違っていたりするから、少し悩んでしまうかもしれないわ。

( 小声で問われた質問に対して言葉を述べながら、尚も商品を吟味してやっとのこと1つを指さした。自分の中では長く居座っているつもりは無いのだが、言われてみれば確かに特定のコーナーでは立ち止まっているかもしれないと思い返し。
しかし、そんな精肉コーナーや野菜コーナーでの買い物を済ませてしまえば、尚も握ったままの腕を引きながら、あとは特に迷うことも無く調味料など必要そうなものをあれこれと指を指す。ついでに彼から直接好物を聞いた訳では無いが、独断と偏見で油揚げも多めに買っておいた。
途中、クセで何度も商品を手に取ろうとしてしまうのが、表情には出ずとも何とも情けなくて恥ずかしく、またも空を掴んでしまった事を誤魔化すように咳払いをした。
そのまま他に何か買うものはあるだろうかと商品案内の看板を見上げたところ、“お菓子”の文字を見て「そうだわ」と何やら思い出したように歩き出した。)

…これ、気に入っていたみたいだし買っておいたら?残り少なかったでしょう?

(そう言って飴玉やグミなどが陳列した棚で指さしたのは、彼にあげたあのいちご飴の商品。元々自分が持っていた分は少なかったし、あの量じゃ物足りなかったのでは、と思ったらしい。「他に買いたいものが無ければ、そろそろレジに行きましょうか。」と他の商品をなんとなく眺めながら言うと、相手の顔を見あげて小さく微笑んだ。)

  • No.120 by イナリ  2024-02-12 17:43:30 

そ、そうか。意外に難儀じゃな…

(やっと彼女が商品を指差すと素早くカゴに入れる。一つのコーナーを離れられると安堵の息を吐く。別に彼女を急かしているつもりなどはないのだが、自然と息が詰まるような感覚に陥るのだ。その後は野菜コーナーや調味料の売り場で次々とカゴに入れていく。テンポよく進んで気分が楽になってきた。また彼女が油揚げを指差した時は破顔しそうな顔を精一杯堪えていた。伝えた訳でもないのに自分の大好物を見抜かれて、しかも多めにカゴに入れられて多幸感に包まれる。いつもは素早く済ませてしまうので、油揚げの売り場には全く見向きもしなかった。早速今日料理してもらおうか。彼女が居なかったらきっと子供のような笑顔を晒していたことだろう。彼女は表情を保つのが上手い。先程から気になっていたが、商品を手に取ろうとして取れないことに気付き咳払いで誤魔化す。こんなことを何度か繰り返しているのに表情は変わってない。恥ずかしさみたいな感情を一切見せない。自分はこんなに表情を変えさせられているのに。いつか彼女の様々な表情が見たい、なんてことを考え出す)

これか! 油揚げの次に好きじゃ!

(お菓子コーナーに着くと彼女から貰ったのと同じ飴があり、またしても目を輝かせる。まだ二個残してあるが、彼女の言う通り買うことにしよう。いちご以外にも何種類かあったので、一通りカゴに入れる。この甘味と油揚げがあればイナリは何でもできる気がする。五百年以上生きてきて、飴と油揚げごときに全能感を支配されるのは傍からみたら情けないだろうが、本人は気にしていない。飴をカゴに入れると彼女の言葉に頷き、少し表情を硬くしながら「…行くか」とまるで合戦の前のような雰囲気でレジへと歩みを進める)

  • No.121 by 日向 静蘭  2024-02-12 18:05:59 


(陳列していた飴の全種類をカゴに入れる様子を見て、可笑しそうにくすりと笑ってみせると、同時に油揚げが好きというのは迷信では無かったかと安堵する。カゴにたくさん入った油揚げも飴玉も無駄にはならないようだ。
いつか洋菓子も勧めてみようかなんて考えながら、レジへ向かう途中でふと彼の顔を見た。その表情は先程よりも固く、殺伐とした雰囲気でレジへ近づいていく姿に、そっと小さく声をかける。)

……カゴを渡して、案内されるまでは待っていればいいわ。精算機の事は私が説明するし、大丈夫よ。そんな顔してたら、店員さんも怯えちゃうわ。

(そう言って握っていた腕を優しくポンポンと叩き、レジの列へと並ぶ。レジでは店員が商品のバーコードを読み取り、テキパキと慣れた手つきで別のカゴへと次々商品を並べていく。袋を貰うよう隣で助言をしながら店員の動きを眺めていると、あっという間にバーコードのスキャンを終え、傍に設置された自動精算機へ案内される。
尚も彼の腕に掴まったまま、ゆっくりと1つずつ操作手順を説明しながら彼が液晶画面を操作する様子を見守っておく。すると、ふと、いつかの仕事帰りにこうして操作方法を教えていた頃をまたも思い出した。あの時の彼の顔は覚えていないが…確か、こんな顔だった…?──気が付くとじっと彼の顔を見あげていて、呟きを一つ。)

…あの時…あれは、イナリ様だったの?

  • No.122 by イナリ  2024-02-12 19:19:03 

そ、そうか。分かった…。
そんなに恐ろしい面相はしてないはずじゃがの…。

(なにかトラブルに見舞われたらどうしよう、身分証なぞ確認されたらどうしよう、なんて普段からは考えられない程のネガティブ思考が止まらないでいると、彼女の声と手で我に返る。自分では自覚していなかったが、そんなに強面なのだろうかと顔をなぞりながら小さく呟く。カゴをレジに置いた瞬間に始まる店員のスキャンは、見事な手際だった。江戸で見た工芸職人を思い出す。何時間でも見ていられるほどの職人技で、イナリに出来上がった品物を無償でくれた。お礼に妖術を披露してやったら腰を抜かして気絶してしまったが。この店員の作業も周りに人間が居なければ、いくらでも見ていられそうなのに。良く考えれば子供の落書きみたいな「ばーこーど」などというもので商品の会計ができるのだから、全く恐ろしい時代だ。以前図書館で見た本では「でじたる化」なる術を使っているのだそうだ。「ぐろーばる化」と違って、会得する必要性はないようにも思えるが、今度彼女に聞いてみよう。そんな彼女の助言通りに店員に袋を求め。その際、なんとか柔和な表情を作りながら「袋を頂けるかな、君」とどこかおかしな日本語で話し掛ける。本人としては上手くできたつもりでいたが、実際は不自然な笑みを浮かべながら不自然な日本語を使う男にしか映ってない訳で、店員もぎこちない愛想笑いをしていた。手際良い商品のスキャンが終了すると問題の自動精算機に通される。彼女からの説明を必死に耳で拾いながら、何とか操作を終える。以前もこうやって──あの時は腕は組んでいなかったが──彼女に教えて貰ったから、意外と苦労はしなかった。懐から丁度の金額を出して精算を済ませる。出てきたレシートを懐にしまいながら、ふと彼女の呟きが耳に入る。
イナリ様だったの──その言葉で分かった。バレた。しかも本人に。一瞬身体の動きが止まるが、すぐにふっと鼻で笑いながら取り繕う)

なんの話しじゃ?
…我は「じどうせいさんき」程度に良いようにやられる妖でないぞ?

  • No.123 by 日向 静蘭  2024-02-12 19:52:03 


……そう、よね。ごめんなさい。気にしないで。

(無事に精算を終えた彼が一瞬、止まるのが見えた。しかし、返ってきたのは肯定の言葉ではなく、とぼける様な、取り繕われたような言葉だった。心当たりはあるのかも、いやでも、本当に違う人だったのかも。そんなことを頭の中でグルグルと考えるが、何方にせよ、過去の事を暴いたところでこの状況が変わるわけでもあるまいし…それでも少し残念なような複雑な心境を抱えながら、静かに視線を動かすと小さく呟いた。
それよりも、店員に袋を要求していたぎこちない姿が不意に脳内再生され、思わず吹き出してしまう。
荷物の入った袋を持つことも出来ず、申し訳なさを積もらせながらもなんとかスーパーでの役目を終え外へ。
店から出てしまえば人混みも大分落ち着き、ゆっくりと彼の腕から自身の手を離した。まだ境内に戻った訳では無いが、街中もこれから向かう洋服屋もスーパー内ほど混んでは居ないだろうし、腕を組まずとも隣にいれば大丈夫だろうと勝手に判断した。
…というのは建前で、彼の温もりに安心していたのは自分の方だった。本音を言えば離したくはないのだが、自分はとことん甘え下手だと思う。いつまでも彼にくっついて、ひ弱で無力だと言われるのが嫌なのだ。それに、今まで誰にも甘えずに自分を律して──強がって生きてきた自分には、この“甘え”が普通になることを恐れていた。其れが普通になってしまっては、自分が本当に弱くなったように感じるから。)

…イナリ様、結構人が多かったし、疲れてないかしら?
洋服はまた今度でも良いけれど…。

( 自分の本意には目を向けず、彼の隣に立ったまま。服も欲しいとは言ったが、そういえば彼は疲れていないだろうかと上記を述べた。久しぶりに人混みを見ると人酔いすることもあるし、服屋はいつでも来れる距離でもある。)

  • No.124 by イナリ  2024-02-12 20:41:03 

(彼女の反応を見て何故だか罪悪感がやってくる。此方はただ体面を守ろうと嘘をついただけなのに、何故そんなに残念そうにするのか。彼女は表情自体は変わらないが視線は変わる。視線の動かし方で感情を判断するとすれば、どこか寂しそうだった。そう思った直後、突然に彼女が吹き出せばギョッとした顔で見つめる。突然笑い出して可笑しくなってしまったか。一瞬そんなことを思ったが、良く考えると先程の自分の振る舞いについて笑っているのかと予想する。自分は普通の対応をしただけなのに。先程の表情が杞憂だと思い込むと、彼女と共に店を出る。
外は来た時よりも人が居なかった。ようやっと落ち着けるようになったことで心の余裕が生まれた。するすると彼女の腕が離れていくと僅かばかりの不安が芽生えたが、この程度の人数ならば大丈夫だろうと高を括る。
ふと彼女から訊ねられると、慢心からか「問題ない!」と高らかに言う。とは言ったものの、いつまでもスーパーの袋を持っているのは疲れるため、一度置きに戻ろうと決める)

暫しここで待っておれ。買った物だけ置いてくる故な

(言うが早いか彼女の返事も待たずに、サッと瞬間移動する。社務所に移動してくると、食品などや野菜を分かりやすい場所にある壺に納める。冷蔵庫がないため、壺の中に入れておくしか保存方法がないが、妖術で腐らせないようにすることも出来るので特に不便さは感じていない。油揚げは壺には納めず、台所に目立つように丁寧に置いておく。彼女には問題ないとは言ったが、実際のところはそれなりに疲労は蓄積されている。だが、あれ以上の人混みに揉まれない限りは大丈夫だろう。買ってきた飴は本殿の木箱の中に納めると、手で顔をぱちぱちと叩き気合を入れる。再び瞬間移動をすると、彼女の目の前に現れる)

ちと待たせ過ぎたか?

  • No.125 by 日向 静蘭  2024-02-12 21:29:57 


( どうやら疲労の具合は大丈夫なようで、高らかな彼の返事を聞けば安心したように頷く。しかし、荷物を置いてくると告げ早々に彼の姿が目の前から無くなってしまっては一瞬動揺を。妖術とは改めて便利なものだと感心するのと同時に、目の前を過ぎ行く人々の姿を視線で追いながらただそこに佇んでいた。
最初はまるで幽霊のようだと、魂を封じられたこの状況に戸惑いこそしたが、誰の目にも留まらないのは以前と同じでは無いかと冷静に考えれば、その戸惑いもゆっくりと落ち着いてきた。それでも心細さは薄まることなく、両腕を自分の手で擦りながら彼の帰りを待っていた。
──ふと、通り過ぎた男性の後ろ姿が昔の友人に重なった気がして背筋が伸びる。スマホのあの写真、あの中にいた一人。本人では無いのだろうが懐かしむようにその背を暫く眺めていた。
すると、戻ってきたのであろう突然現れた彼によって、追っていたあの姿は見えなくなってしまった。少し名残惜しさはあったものの、彼が戻ってきてくれた事に安堵のため息をつきつつ、その言葉には首を横に振った。)

そんなに待ってないわ。…それにしても便利ね、一瞬で荷物を置きに戻れるなんて。

(そんな事を言って小さく笑ってみせると、早速店の方向を指さし再度歩き始める。洋服を買うと言っても実際に買ってくれるのは自分ではなく彼なので、比較的店内も落ち着いていて、静かに商品を選べる店へ向かうようだ。)

  • No.126 by イナリ  2024-02-13 19:30:06 

我に不可能は大抵ない故な。造作もないことよ。
そうじゃ、今日の晩飯は油揚げを出してくれんかの?

(店の方向に意気揚々と歩きながら、余裕そうにベラベラ喋る。また人混みに揉まれない限りはいつもの調子でいるだろう。イナリは大変に気分が良かった。最大の難所を攻略し、残すは彼女の洋服などを購入するのみ──今のイナリなら乞われれば、どこへでも行こうとするだろうが──となり、夕食は彼女の至高の料理が待っている。こんなにも充実感のある日は久しぶりだ。長年神社で独りだったせいもあるのだろうが、かつて人間たちと共存していた時の、あの充足感が再び蘇ったようだ。そんなこんなで今のイナリは気分が良いので、少し鈍感になっていた。どのぐらい鈍感になっていたかと言うと、境内に居る時のような声量で喋っているため、少ないながらも通行人に奇異な目を向けられている。そしてその事に全く気付いていない程に鈍感だった。人間の視線が恐ろしくないのは、やはり彼女が隣に居るからだろうか。他の人間も彼女みたいなら良いのに。なんてことを思う。判断基準がすっかり彼女に移行しつつあることは相変わらず気がついていないが、少なくとも彼女は人間の中でも特異な存在で、イナリ自身は大変興味があることは自覚していた。だから彼女がどんな店で、どんな洋服を買い、どんな表情をするのか、楽しみで仕方がなかった)

…………読めぬ。

(歩みを進めていればいつの間にか彼女が指差した店に到着した。看板に書かれた英語の店名を見て一言呟く。イナリは外国人を見たことはあっても、話したことは無かった。だから外国語に酷く疎かった。唯一知っているのは「あるふぁべっと」という古代文字のような代物だが、ABCは理解出来ても、単語は一つとして理解できなかった。日本なのに日本語じゃない。大丈夫なのかこの店は。文句の一つも言いたくなったが、彼女が選んだ店だから大人しく口を噤んでおく。店の中を一瞥すると恐る恐る中に足を踏み入れる)

  • No.127 by イナリ  2024-02-17 18:40:06 

(/上げです!)

  • No.128 by 日向 静蘭  2024-02-18 12:36:43 


(/ すみません!ちょっと1週間ほど更新が厳しそうなので、ご連絡しておきますね;
既におまたせしているのにごめんなさい!!)

  • No.129 by イナリ  2024-02-18 13:15:49 

(/全然大丈夫ですよ!では更新があるまでスレ上げは止めますので、更新の際は検索などでスレッドを見つけていただけると幸いです!)

  • No.130 by 日向 清蘭  2024-03-02 11:38:49 


( 店内なら出た途端意気揚々と楽しそうに話す彼の姿に小さく口元を綻ばせながら、夕食に油揚げを催促されると頷いて。やっぱり好物だったのかしら、と内心考えながらも料理のメニューをいくつか頭の中で思い浮かべていた。
彼が得意げに話していても特に気にしていなかったが、ふと、周囲の人々の視線が気になり首を傾げる。そして自身の姿が見えていないことを再度思い出すと、まるで独り言を唱えているかのような彼の姿に1つ笑い声を零した。声量を諭すことも出来たが、敢えてそれをしなかったのは何度も尊大な態度を取られていた腹いせだろうか。何にせよ、ちょっと面白がっていた。)

ここの店員さんはあまり声をかけて来ないから、商品を物色しているフリをしておけば大丈夫よ。
…Tシャツと上着、ワンピースと、ズボンと、あと…────ぁ。

( いざ店を前にするとまたも緊張している様子の相手に少しばかり首を傾げながら励ますように言葉をかける。店員が甲斐甲斐しく話しかけて接客してくるような店は自分も苦手なので、そういう所には配慮しているつもりだ。
おまけに長々と服を選ぶと彼の体力も消費してしまうだろうとある程度欲しい物を考えていたらしく、彼と共に店内へ入ってから、お目当ての衣服が置いてあるコーナーへ目線を送る。ラフなTシャツと上着…カーディガンとかがいいかな、それに着やすいワンピースとストレッチ素材のスキニージーンズ…。あと必要不可欠なものと言えば、と考え、下着の置いてあるコーナーへ視線を置いたところで、さて、どうしたものか、と小さく声を漏らす。)

………えっと、下着。買えるかしら?





(/おまたせしました!!お待ち頂いてありがとうございます!!)

  • No.131 by イナリ  2024-03-02 14:20:30 

…そうか。存外種類があるのだな。現代の衣服は。

(店員に声を掛けられる心配がないと分かると、胸を撫で下ろし彼女の忠告通り、商品を見ているフリをしている。彼女が目を付けた商品を手に取りながら、感心したように呟く。「わんぴーす」などという衣は初めて見た。他にもイナリにとっては馴染みにのない服ばかりで、興味が惹かれ、キョロキョロと店内を見回す。彼女のことだから恐らくは自分に気を遣って、テンポよく商品を選んでいるのだろうが、今のイナリはこの空間が物珍しく、己の体力のことなんてさっぱり忘れていた。そうやって観察をしていると聞こえてきた彼女の小声に「どうした」なんて首を傾げ、返ってきた彼女の返答に一瞬、目を見開く)

……必要なもの故、買わん訳にはいかんじゃろ…。
可及的速やかに選べ…良いな?

(イナリは狐であって鬼では無い。生活に必要なものを買い与えない訳はない。それに彼女は女性で、何かと入用が多いことも知っている。だから彼女に耳打ちすると、重い足取りで下着売り場へ歩みを進める。観察していて分かったが、どうも服屋というのは男性用と女性用のものを分けて売っているようだ。例によって下着売り場も女性と男性のは分けられている。性別で分けることで混雑を解消したり、「ぷらいばしー」に配慮したりなど様々な事情があるのだろうが、ことここに至っては、いっその事売り場を混同してしまえと思う。言ったそばから付近を歩いていた人間から奇異な目で見られた。普段だったら女子に化けることなど造作もないが、流石にそんな体力は残されていなかった。己の体力の無さを嘆きつつも、あまり目に入らないように出来るだけ遠くを見ながら彼女が選び終わるのを待っていた)

(/ お待ちしておりました!)

  • No.132 by 日向 清蘭  2024-03-02 14:40:11 


…なんか、ごめんなさい。ありがとう。

( 買わない訳にはいかない、と言ってくれた彼には頷きつつ謝罪と感謝を述べ、言われた通りサイズだけしっかり確認すればあれこれと数着分選んで指を指す。
いくら自分が周りから見られていないとはいえ、男性に衣服を買ってもらうなんて初めての事で。おまけに、最初は仕方の無いことだしやらざる負えないと、彼への申し訳なさと使命感みたいなものだけを感じていたのだが、よくよく考えれば下着のサイズやらデザインやら色々な事がバレる訳で、冷静にそんなことを考えた途端に段々と体温が上昇してくるのが感じられた。
自分の選んだものをさっと手に取ってくれる彼の動作をちらりと横目で見ながら、とりあえずはこんなものだろうと共にレジへ向かう。
この店のレジは有人で、少しばかり怪訝そうにしながらも丁寧に商品を袋へと詰めてくれているが、上昇した体温のせいでこの静かな待ち時間がなんだか落ち着かなくて、手持ち無沙汰の片手で思わず彼の袖をきゅっと掴む。
そして、もう片方の手で自身の頬を包み込むと、耳ばかり赤くなった顔を俯くようにして隠しつつ、小さな声で観念した。)

…やだ。今更だけれど、ちょっと…恥ずかしくなってきたわ。

  • No.133 by イナリ  2024-03-02 16:23:43 

(彼女が選び終わると速やかに手に取って逃げるようにレジへ向かう。実際にはさして時間も取られていなかったのだろうが、こういう時に限って時間が永遠に感じられる。現代の女子は難儀だと思った。昔だったら湯文字一つで事足りたものを、今では一々このようなものを付けなければならないのだから。レジで会計をする際に案の定店員から怪訝な目を向けられた。なんだか良くないレッテルを貼られた気がしたから「妻のお使いというのも大変でございますな」と聞かれてもないのに愛想笑いをしながら言う。すると不自然な日本語のせいで更に怪訝な目を向けられる。気まずそうに咳払いをして店員から視線を逸らした時、袖を握られた。黙っていろという合図なのかと思ったがどうも違うようだ。彼女の方に視線を遣ると、いつもとは違う表情にドキッとした。笑った顔、泣いた顔、驚いた顔。色々な表情を今日まで見てきたが、まさかこんな表情をするとは思わなかった。可愛い──普段とのギャップに心奪われれば、そんなことを思っていた。人間の女子を可愛いと思ったことなんて一度もなかった。彼女はこんな風に恥じらうのか。この表情を見ているのは自分だけ。そんなことを思うと妙な高揚感と胸の高鳴りで頭がパンクしそうだった。ハッと我に返るととっくに袋詰めは終わっていたので、金銭を出して、袋片手に服屋から足早に出ていく)

…わ、我の方が恥ずかしかったぞ。会計の際に恥をかいたでは無いか。
お主は…気にすることないでは無いか。衆人環視に見られる訳じゃなし。我にしか関知できぬのじゃから

(服屋を後にすると恥じらっている彼女に抗議をする。大半は自業自得なのだが、奇異な目で見られることに耐えられなかったのだから仕方がないという論理らしい。皆に見られる訳では無いのだから案ずるなとフォローにもなっていないフォローを入れると「他に用はあるか…?」と首を傾げる)

  • No.134 by 日向 清蘭  2024-03-02 17:11:28 


そ、それはそうだけど。皆から見られない代わりに、貴方に全部見られてる気分で…。
いや、気にしないで頂戴。

(彼と共に足早に店を後にする際も握った袖は離さず、店の外に出て立ち止まるとやっとのことその手を話した。しかし、離したかと思えば今度は両手で自身の顔を覆いもごもごと上記を言い返す。しかし、自分は何を言っているんだとまたも羞恥心に駆られれば、長い黒髪を揺すりながら、気にしないで、と必死に冷静を装おうとする。
次には静かにパタパタと火照った顔を仰ぐような動作を行い、彼の方が恥ずかしかったという話にはそれもそうだと納得できるので、再度「ごめんなさい」と小さな声で呟いた。
はぁ、と少しばかり火照りが落ち着くと息を吐いて、“他に用はあるかと”問われれば、少しばかり考えた後に首を横に振った。とりあえず食料に衣服も買えたし、今のところ急ぎで必要なものもないだろう。また何か必要そうなものが思い浮かんだ時は彼に相談するとしよう。)

… もう大丈夫よ。帰りましょうか。

  • No.135 by イナリ  2024-03-02 22:28:24 

……うぅ

("貴方に全部見られている"なんて言われれば、抗議の一つもしたくなったが、実際自分は知ってしまっているので何も言い返せない。その後も羞恥心に悶える彼女を不覚にも可愛いと思ってしまい、何だか気まずかった。イナリは同じ妖に胸ときめくことはあっても、人間の女子にそのような感情を抱くことなんて初めての事だった。だから自分が抱いている感情が不適切な気がして、それを彼女に隠しているのが背徳な気がして、心落ち着かなかった。
彼女が用が済んだと言うと小さく頷いて、来た道を引き返し始める。来た時のように雑談でも出来れば良かったのだが、勝手に気まずさを感じていたので無言のままで。本当なら先程のように瞬間移動で神社まで帰りたかったが、彼女に心奪われている間に体力まで奪われてしまったようで、妖術を使うことが出来ない。人間たちに奪われるかと思っていた体力が、自分の命綱にも等しい存在の彼女に一番奪われた事実はこれ以上ない皮肉だった。そう考えると何だかおかしくて小さく笑い声を洩らす。一頻り笑うと隣の彼女に視線を向け、つい言ってしまった)

お主があんなカオをするとは思わなんだ。はは…お主、存外可愛いのじゃな。

  • No.136 by 日向 静蘭  2024-03-02 23:07:27 


か…ッ、………な、何を言っているの!

( 特にこれといって話すことも無く、静かに相手の隣を歩きながら段々と平常心に戻っていく。気がつけば神社までもう一息という所で、突然隣の彼が笑い出すものだから何事かと少し怪訝そうに視線を向けると、丁度向けられた彼の視線と交わった。
その時、思いもよらない言葉が飛んできたものだから、思わずまた耳が赤くなる。普段あまり動揺なんてしないのに、先程酷く平常心が崩れたものだからその延長に違いはない。
しかし、“可愛い”だなんて、自分が覚えている限り言われたことなんて無いし、一体自分はどんな顔をしていたと言うのだ、と恥ずかしくなるのと同時に、正直いうと嬉しくて思わずその言葉を鵜呑みにしそうになる。
動揺を隠すように早足になると、近付いてくる神社の境に飛び込むようにして逃げ帰りながら、1つ息を吐き、浮かれそうになる胸のざわめきを追い出すように、自分より少しだけ後方にいる彼へ生意気にも顔を見ず言葉を返した。)

…私が可愛いなんて、貴方、可笑しいわ。きっと疲れているのよ。

  • No.137 by イナリ  2024-03-03 12:03:31 

思ったことを口にして何の問題がある。
…じゃが、そうかもしれぬな。今日は特に疲れた。故におかしなことを言うているのかもしれんのう

(言ってから怒られるかな、と思っていたが予想とは違って彼女は再び赤面した。先程の件もあって、まだ免疫を獲得していないのか、面白いくらいに取り乱す彼女はやはり可愛かった。ただ小動物を愛でる時の"可愛い"とは少し違う。それよりももっと見ていて自分の庇護下に置きたいような、そんな感覚だった。彼女より少し遅れて境内に入ると返答をしながら服屋の袋を手渡す。渡した瞬間、変化を解いて本来の妖としての姿に戻る。本殿へ入り繧繝縁の上に座る。前足でくしくしと毛繕いをしながら九つの尻尾を揺らして動きを確かめる。人間に長時間化けていると耳や尻尾の動かし方を忘れてしまいそうになるため、変化を解いた後は必ず行う。それにしてもこんな風に疲れたのは久しぶりだった。今までは買い出しの時にしか疲れなかったが、今は普段から疲労が溜まりやすくなったかもしれない。イナリは疲れることが嫌いではなかった。疲れたりするのは生きている証拠だから。ただあまりに体力を消耗し過ぎると妖にとっては毒だ。耐え難い眠気が襲ってくることもある。丁度今のように)

のう…我は疲れた。少しだけ…眠る。半刻経ったら起こす…のじゃ……よい…な…。

(大きく欠伸をすると繧繝縁の上で丸くなり、途切れ途切れながら伝える。言い終わると電池が切れたように動かなくなり、すぅすぅと寝息を立てながら眠ってしまう)

  • No.138 by 日向 静蘭  2024-03-03 13:01:36 


( 思ったことを口にした、という彼の言葉には尚も気まずそうな視線を逸らしたままだったが、差し出された袋をみると慌てて其れを受け取った。言い方に多少問題を感じる時はあるものの、彼は確かに感情を表に出すタイプだと思う。…ということは、さっきの発言は本心なのだろうか。
しかし、そんなことをまた考えるとせっかく取り戻した冷静さをまた欠いてしまいそうなのですぐさま追い出し、本来の姿に戻ってしまったその背を静かに見守っておく。
繧繝縁の上で丸くなる彼はよほど疲れているようで、途切れ途切れになる言葉を拾えば「分かったわ」と頷きとともに短い返事を。すぐさま聞こえてきた寝息には、この隙に頭を撫でてもバレないのではないか、なんて邪な考えが浮かぶものの、怒られるのも嫌なのでぐっと我慢しておく事にした。
少しの間だけ近くに腰掛け自分も休息を取ると、すぐにまた社務所へと向かい買ってきた食材を袋から取り出して整頓する。飴玉は本殿に持っていこう、と全種類を抱えては、パタパタとまた戻ってくる。
次に購入した衣服を袋から取り出すと、下着類はさっさと自分の鞄の中へとしまい込んで、一着のワンピースを取り出す。ふんわりとしたシンプルながらも細かな花柄の入ったピンク色の可愛らしいワンピース。可愛らしいものは好みに反して似合っていない気がしてあまり着てこなかったが、これはなんだか気に入ってしまい買ってもらった。せっかくだからと彼が寝ている間に着替えてしまうと、ワンピースの上に薄いベージュのカーディガンを羽織る。新しい服を着ると、少しばかりウキウキしてしまうのは何故だろう。
買い物のお礼にどんな油揚げ料理が良いものかと考えながら、彼が起こして欲しいと言っていた時間までは料理の下ごしらえをしておく。きっちり時間通りになると、また本殿へ帰ってきて、柔らかな毛並に手を埋めると、恐らく彼の肩あたりを揺さぶった。)

───ねぇ、イナリ様。起きて。

  • No.139 by イナリ  2024-03-03 14:51:43 

…ん。

(夢を見ていた。もう百年以上前の日常の夢。神社に人間が訪れてはイナリに供物と共に祈りを捧げる。彼らの供物を受け取りながらくだらない問答に時を費やし、日暮れには娶ったばかりの妻と晩酌をする。イナリは楽しかったが彼らはどうだったのだろうか。「人間様の気持ちなんてお前には分からないよ」いつの日か酒を煽りながら妻が言った。並大抵の女子よりも肝っ玉が据わっていたあの妻が寂しそうに。その言葉はイナリの心を傷付けたが忘れたフリをしていた。そんなことを夢で思い出してしまったからだろうか。彼女の言葉で一瞬起きるが、すぐに眠気が襲ってくる。僅かに感じていた寂しさを紛らわせたくて、彼女の手から感じた温もりを感じたくて、一瞬だけ頭を上げたかと思うと、それを縋るように彼女の身体に預けて再び眠ってしまう。自分の体温で眠っていた時と違って、こちらの方が心地よかった。暫くはどんどん深くなる眠気に支配されていたが、やがてなんの前触れもなくパッと眠気が無くなると、目をパチッと開ける)

ん…? 何しておる…?
…ああ。一刻経ったのじゃな
…お主、十分"おしゃれ"では無いか

(目が覚めると、彼女に自ら縋っていたことなど覚えていないのか怪訝な表情をしながらも、ゆるゆると身体を起こす。眠っている間に体力は幾分か回復したようなので、再び耳と尻尾だけを残して人間に変化する。ふと眠る前と彼女の衣服が違うことに気付くと、慣れないお洒落という言葉を使って感想を述べる。尤もお洒落という状態がどのような状態を指すのかはイマイチ分からなかったが、彼女の服が似合っているのは事実なのできっとこれはお洒落なのだろうと判断した)

  • No.140 by 日向 静蘭  2024-03-03 18:07:24 


(起きたかと思ったが、彼はすぐさま眠りの縁へと落ちていってしまった。おまけに、その体を此方に預けすやすやと。もう一度名を呼ぼうと口を開いたが、心地よさそうに眠る狐の顔を見ると起こすのがなんだか忍びなくて開いた口を閉じる。これは不可抗力だと自分に言い聞かせながら、ずしりと伸し掛る毛並みをゆっくり撫でる。目が覚めたらまた怒られるだろうか、なんて考えながら毛並みを堪能していると、暫くして彼の目が開き、慌てて撫でていた手を退ける。
何をしているのかと問われれば、少しだけ口を尖らせて「貴方が二度寝したのよ」と此方に非が無いことをアピールするが、勿論しれっとその毛並を堪能していたことは黙っておく。)

……そう、かしら。ありがとう。

(ゆっくり身体を起こし変化する様子を目で追っていると、服装について褒められ──勝手に褒めてくれていると思っているのだが── 一瞬視線を外して長い髪を耳にかけた。だが、既に平常心と冷静さを取り戻していたようで先程のように照れることはなく、淡々と礼を述べた。しかし、その口元は少しだけ弧を描き、どことなく嬉しそうで。
自身も立ち上がり、彼の近くへと歩み寄ると今度は此方から口を開いた。)

それはそうと、もう変化して大丈夫なの?

  • No.141 by イナリ  2024-03-03 21:18:51 

この程度の変化であれば少し眠るだけで大丈夫じゃ。それにお主も、この姿の我の方が良いじゃろう?

(元々イナリは治癒能力が高い。例え刀で斬られても、鉄砲で撃たれても、三日程度で傷口が塞がってしまう程だ。それに彼女がいるからか、いつもよりリラックスしていたので変化できる体力が早く戻ったのだ。彼女がイナリの毛並みを堪能していたことなど露知らず、妖の姿のままでは彼女が萎縮すると思って。だから配慮してやったんだぞなんて傲慢な響きを隠そうともせずに言い放つと尻尾を揺らしながら、すくっと立ち上がる)

お主も疲れたじゃろう。風呂の場所を教えてやる故、ついて参れ

(それだけ言うとスタスタと本殿から出て行く。彼女が付いてこれているかは足音で分かるので、特に後ろを振り返ることも無く歩みを進める。買い物中にイナリの言葉通り片時も離れないでいてくれたから、その礼のつもりだった。本殿のすぐ裏の森を一直線に進むと開けた場所が見えてくる。そこにある露天の温泉が見えてくると歩みを止める。"どうじゃ。我の作った湯は見事じゃろう?"とでも言いたげに彼女の方を振り返ると鼻を鳴らす。湯に近付くと手を入れて温度を確かめる。常に一定の温度に保っているはずだったが、少し温かったので指先に術を展開し、少しだけ温度を上げる。尤もこれは自分にとっての適温で、彼女にとってはどうなのかは分からないが。湯の調節を終わらせると顎でしゃくりながら彼女に言う)

ここは我の結界が張ってある故、安心して入るが良い。見ての通り周囲に明かりがない。湯に浸かる時は日が沈むまでに済ませよ。

  • No.142 by イナリ  2024-03-10 11:21:41 

(/上げです!)

  • No.143 by 日向 静蘭  2024-03-10 14:36:58 


………、狐の方が、可愛いわ。

( 大丈夫であるならよかった、と内心安堵しながら、変化した姿の方が良いだろうと言われると少しばかり考える素振りをみせ、ボソリと短く上記を呟いた。
正確には人型だと勿論接しやすいし有難いとは思うものの、狐の方が珍しく毛並みも拝見できるし、動物好き故に可愛い、と言ったまでなのだが。この短い言葉が相手の配慮を諸共せず踏みにじって聞こえてしまうことには気づいておらず。
特に悪びれる様子もなく平然とした態度で言われるままについて行けば、裏の森を進んでいく。
こんな所にお風呂があるのだろうか、と半信半疑ではあったものの、大きな露天風呂を見つけると彼の隣で足を止めて“おぉ”と小さく声を漏らした。表情では分かりにくいものの、これでも感嘆しているらしい。
温度を確かめているのか、湯にそっと手を差し入れる彼の動作を見守りながら続く言葉には頷いて、相手の方を見上げながら小さく微笑んで。)

…ありがとう。とても素敵な湯ね。
タオルや着替えを持ってきて、早速入ってもいいかしら?

  • No.144 by イナリ  2024-03-10 17:53:00 

(彼女が呟いた一言を聞き漏らさず拾ってしまうとゆっくりと首を動かして彼女を見つめる。口には出さないが目で非難の色を浮かべるも、すぐに目を逸らす。彼女のこういう一言は今に始まったことでは無いので、ここは年上の自分が我慢するかと無理やり自分を納得させる)

勿論じゃ。とくと楽しみが良い。
……我は本殿に戻っている故、何かあったら──まあ何も無いとは思うが──呼ぶと良い

("良いかしら?"なんて律儀に尋ねる彼女にクスリと笑うと頷く。背を向けて去る際に、念の為に伝えておく。一帯はイナリの結界のおかげで物怪の類は入って来れないが、万が一ということもある。イナリのお気に入りの場所で何かあったら縁起が悪い、なんて表向きは思っているが、実際のところは彼女が危険に晒されるのが怖いのだ。彼女も人間である以上、脆い存在だろうから。
本殿へ戻ると彼女が持ってきてくれたのか社務所に置いてきた筈の飴玉に目がいく。苺が好きだが、折角なので他の味を試してみることにする。りんご味の飴玉を口に放り込むと、やはり口中に広がる甘味に目を輝かせる。舌で飴を転がしながら、繧繝縁に腰を下ろすと変化を解いて本来の姿に戻る。先程の発言を気にしてか、くしくしと毛繕いを丹念にする。人間の姿の何が気に入らないのだ、なんてぶつぶつ呟きながら前足を巧みに使って毛を丁寧に繕っていく)

  • No.145 by イナリ  2024-03-17 11:16:52 

(/上げです)

  • No.146 by イナリ  2024-04-03 19:17:33 

(/上げです!)

  • No.147 by 日向 静蘭  2024-04-14 14:41:01 


(彼の言葉には引き続き頷いて「分かったわ」と簡単に返事をすると、一度本殿へ戻って2枚のタオルと着替えを手に取る。着替えに選んだのは新しい衣服ではなく彼がくれた小袖で、なんだかんだ着やすいし気に入ったらしい。ゴムで髪の毛を頭のてっぺん近くへ結い上げると、そのまま踵を返して露天風呂へ。
──結界が張ってあるとはいえ、よく考えてみればこんな開放的な空間で洋服を脱ぐのは些か気が引けるが、かと言って洋服を着たまま入る訳にも行かず、1人羞恥心に耐えながら服を脱ぎ、すぐさまタオルを1枚身体に巻き付けた。
荷物を傍らに置いてゆっくり脚から湯の中へ入っていくと、程よい湯加減に小さく息を吐く。大自然の中故なのか空気も澄んでいてとても心地よい。
暫く目を瞑り木のざわめきや風の音を聞きながら温まっていると、ふと姿勢を変えたくなって、湯の縁へ重ねた腕を置いてさらに頭を乗せようとゆっくり目をあける。
すると、遠くではあるが1人の男性の姿を捉えて思わず叫びそうになる。結界の向こう側にいるようなので此方に気付くことも入ってくることも無いはずだが、此方の方向へ近付いてる相手と目があった気がして思わず後ずさる。)

……い、イナリ……ッ!

(恐怖心と羞恥心が入り交じり、思わず彼の名を零した時、湯の中でつるりと足が滑ると次の瞬間には頭の先まで湯の中へ落ちていた。
転んだ衝撃で結び目が緩んだのか、体を離れ視界の端を漂うタオルを見つめながら“私、こんなに鈍臭かったかしら…”なんて冷静な自分が心の中で呟いた。)





(/大変お待たせしておりました;すみません!!)

  • No.148 by 日向 静蘭  2024-04-15 12:02:25 

(/上げておきます)

  • No.149 by イナリ  2024-04-15 18:22:55 

……!
どうした!何事じゃっ!?

(大方毛繕いが終わり、人の姿に戻った時だった。露天風呂の方からバシャンと大きな音が聞こえてきた。一瞬ピクリと耳が反応し動きが止まるも、顔から血の気が引く感覚と共に一目散に風呂場へ向かった。明らかに尋常ならざる事態が起きたと思った。まさか気を失って湯に沈んだか、誰かに襲われて湯に沈められたか、はたまた別の問題が起きたか。頭の中で瞬時に最悪の事態の予想が次々と出てくる。イナリは身なりに殊更気を遣っていた。他の妖から奇異な目で見られる程に。そのイナリが着物が汚れるのも乱れるのも気にせずに必死で走っていた。頼む、何事もなくあれ。力強く祈ると同時に露天風呂へ辿り着いた。着くや否や声を張って彼女の無事を確かめる。
無音だった。争う声も聞こえない。他の存在の気配も感じない。そして当の本人は湯の中にいる。溺れているわけでも気を失っているわけでもなかった。湯に浮かぶタオルをじっと捉えながら、イナリは自分の行動が取り越し苦労であることを知った。途端に張り詰めていた緊張の糸がどっと解けてしまい、その場に座り込んでしまう。仮にも入浴中の女子が目の前にいるのにも関わらず。はぁと大きく息を吐くと暫くしてから口を開く)

…あまり我を驚かせるな。寿命が縮む。何故、風呂に落ちたのだ

(/ お待ちしておりました!)

  • No.150 by 日向 静蘭  2024-04-15 19:22:54 

(水中の中で体勢を整えればゆっくりと水面から顔を出す。すると、今度は見慣れた姿が目の前にあり思わず悲鳴をあげそうになる。慌てて流れゆくタオルを掴んで手繰り寄せれば、目元の水滴を払い深呼吸を1つ。
思い出したようにさっと周囲を見渡すが、先程の男性の姿はそこには無くどうやら去っていったらしい。目の前にあるのは溜息を吐いて心底呆れたように此方を覗く2つの眼だけだった。)

──そこに、男の人がいたの。びっくりして足を滑らせてしまって……。驚かせてしまってごめんなさい。

(何故落ちたのか、という質問にはちらりと視線で方向を示しつつ経緯を正直に白状して。恐らく、驚いて駆けつけてくれたのであろう相手には申し訳なさそうに眉尻を下げつつ謝っておく。
すると、ふと相手に違和感を抱き何故だろうかと首を傾げ、その違和感が着物の乱れと汚れだと気がつくと、そういえば常に身なりには気を遣われていたような、と思案する。ゆっくりと手を伸ばすと座り込む相手の足にそっと触れて)

…着物が汚れているわ。貴方、走ってきたの?

  • No.151 by イナリ  2024-04-15 20:42:24 

男じゃと…?珍しいこともあるものじゃな。
…妖や怪異の類でなくて良かったのう

(この辺りは以前は参拝目的でそれなりの人間が来ていたが、今となっては肝試しとかそういう目的で来る人間が稀にいるくらいだった。自分と同じ妖怪や怪異の気配はしなかったので、そういう人間に違いない。兎も角正体が分かると途端に脳に冷静さが蘇る。そこでやっと気付いた。自分は今入浴中の彼女と相対している。相手はタオル一枚しか纏っていない。それを意識した途端、自分の不埒さに再び冷静さを欠きそうになる。腰を上げてすぐにでも退散したかったが、目敏い彼女が足に触れながら着物について言及すると、平静を装いながら口を開く)

…我の風呂場で逝かれても困るし…他の妖に喰われても面白くない。念の為に走ってきただけじゃ。別にお主を案じての行動では無い。我の風呂を案じてじゃ。
…新しい着物を出さねばな。

(少しバツが悪そうに汚れた部分を手で払いながら早口でまくし立てる。黙っていれば良いのに下手に誤魔化そうしたり、要らない言葉で飾ったりするのがイナリの悪癖だった。妖術で着物の汚れなんて簡単に落とせるが、彼女の為に付けた汚れを落としてしまってはいけないような気がした。着物の乱れを整えながらスクッと立ち上がると、くるりと背を向ける)

  • No.152 by 日向 静蘭  2024-04-15 21:51:31 


……そうよね。
でも、少し怖かったから、貴方の顔を見て安心したわ。ありがとう。

(早口で捲し立てるその言葉には小さく笑い、肯定するように頷くと再度ゆっくりと肩まで湯に浸かった。
発言の裏に隠してある真意を受け取ったのか、はたまた言葉をそのまま受け取ったのか定かでは無いが、此方からは思ったことをその通りに伝え礼を述べる。彼はきっと素直じゃないとなんとなく分かってはいるが、だからといって期待するのは嫌だった。これまでもさり気ない気遣いを与えてくれたが、根拠なく期待するのは、後々自分の首を絞めるだけだとこれまでの経験上 重々承知している。
再度暖かな湯に浸かり気持ちを鎮れば、普段通りの冷静さを取り戻したような気がして大きく息を吸う。)

…もう少ししたら私も上がるわ。
そうしたら夕食の準備をするから…あ、鍋に湯だけ沸かしておいてもらえるかしら。

(背を向ける相手に伝言をとばかりに口を開くと、火元を準備してもらうついでに湯を沸かして欲しいとおまけのお願いも付け加えて。)

  • No.153 by イナリ  2024-04-16 20:03:31 

心得た。
…逆上せたりするでないぞ

(去り際に彼女からのお願いを聞くと、後ろを振り返りながら頷く。同時に少しばかりの嫌味を加えて。逃げるようにその場を後にすると本殿へ向かう。帯を解き、するすると着物を脱ぐと木箱の中から別の着物を取り出す。と言っても黒を基調とした着物で、今まで着ていたのと大した違いは無い。唯一異なっているのは柄が雪輪から藤に変わった位だ。イナリは見た目に気を遣うが、着物のバリエーションは、さして重要視していなかった。されどとにかく黒い着物を好む。一度着物を献上してきた人間がいたが、彼は赤色の派手な柄を持ってきた。イナリは赤が嫌いだ。あんまり気分が悪かったので「次からは黒一色にせよ」と言い放った。
先程来ていた着物は木箱に戻し、社務所へと向かう。鍋に水を入れると指先に火を灯らせ、火を移す。続いて釜に米を入れ、何回か水洗いし、釜を竈に置くとそこにも火をつける。薪を放り込み火の加減を調節する。ぼおっと火を見つめながら、最近は変化ばかりだと考える。彼女の来訪、言われるがままに神隠し、二人での買い物。どれも以前の生活からは想像もできなかった。古く錆び付き、もう動くことは無いと思っていた環境が新しくなっていく。これがイナリの運命なのだろうか。だとしたらイナリ自身も変わることがあるのだろうか──そんなことを考えていた時だった。とっくに米が炊けていたことに気付き、慌てて火を消す。少しばかり米をお焦げができた白米を覗きながら大きくため息を一つ零す)

  • No.154 by イナリ  2024-04-17 18:31:18 

(/上げておきます!)

  • No.155 by 日向 静蘭  2024-04-17 20:01:04 


──あら、お米も炊いてくれたの?

(彼が溜息を零した直後、その背後からひょっこりと顔を見せれば鍋の中身を見て声を掛ける。どうやら、彼が着替えを済ませ考えを馳せている間に、此方も湯から上がって着替えを済ませ戻ってきていたらしい。髪を再度結い直し貰った小袖を身につけているその姿は、充分に温まったらしくほんのりと血色良く頬が赤らんでいた。
そのまま食事の準備に取り掛かろうかと袖が汚れないように折りながら、またちらりと相手へ視線を移す。先程声をかけた時には気づかなかったが、少しの違和感を抱いて着物へ目をやると、風呂まで駆け付けてくれた時の着物とは柄が変わっている事に気が付いた。どれも黒い着物故に大きな違いはないように思えるが、この着物も立派なもので、彼にはよく似合っていた。同時に自分の所為で着物が汚れてしまったことを思い返すと少しばかり申し訳なさそうにして。)

…さっきの着物。本当にごめんなさい。後で綺麗にしておくわ。あと、藤柄もよく似合うのね。

(買い出しでたくさん購入した油揚げの袋を2袋ほど手に取ると、野菜や調味料なんかも取り出して料理の準備を進めていく。)


  • No.156 by イナリ  2024-04-17 21:28:38 

(溜息を零した直後、声を掛けられると少しだけ驚き耳がピクリと動く。いつもならば大層に上から目線で米を炊いてやったなどと言うが、考え事をして米を焦がしたことに気まずさを感じてか、彼女の問いに「ああ」と小さく頷きながら返すだけだった。ちら、と彼女に視線をやると、風呂上がりだからだろうか頬が赤らんでいた。昼間は彼女に怒られてしまったが、やはり彼女は可愛い──イナリは心の中で呟く。女子の容姿を評価するのは不適切な気がしたが、それでもイナリはそう思っているのだから仕方がない。イナリは公では素直じゃない反面、心中では自分の感想には素直な妖だった。公言すると怒られるが、イナリからすれば彼女は可愛いのだ。)

……ん?気にするでない。着物の汚れなぞ術でどうとでもなる。
…知っておるか。藤の花の花言葉は「決して離れない」と言ってな。藤の成長は早く、ツルはあらゆるものに巻き付く。…あまり無防備だと気が付いたら逃げられなくなっておるかもしれんの

(暫く彼女の顔に視線をやっていたが、申し訳なさそうにする彼女に気が付くと首を横に振った。着物が汚れたことなど、これまで何回もあった。その都度、妖術を駆使して新品同然にしてきたから、無問題だ。しかし今回に限っては術で落とすのが憚られる。自分の手で落とすのが道理に合っていて、彼女にやらせるのは気が引けた。
自分の着物の柄を一瞥するとぽつりと呟くように言う。なぜ唐突にこのようなことを言い出したのか、自分でも分からない。ただ、この言葉は彼女を脅かしているようで、イナリが自身にも言い聞かせているような響きを含んでいた。何にも執着するな、と。)

  • No.157 by イナリ  2024-04-20 17:16:38 

(/上げです)

  • No.158 by 日向 静蘭  2024-04-20 18:53:05 


( 着物の汚れに関しては気にするなと言う彼に、申し訳なさは残りつつも他に食い下がることはせずに小さく頷きを返して。続く言葉には、夕食の準備をする手を止めることはなく視線もそのままに、考えているような間を挟んで口だけを動かした。)

──キツく巻かれると息苦しそうね。
でもね、藤の花の美しさを知ってしまったら、私、逃げられなくても平気だと思うの。
…それに植物は、私が傍に居続けても「気持ち悪い」なんて何も言わないから、きっと心地が良いわ。

(藤の花言葉に習った訳では無いが、“決して離れたくない”そう思ったことなら過去に1度だけあった。スマホのホーム画面に映っていたあの海辺を何度も一緒に歩いた思い出がちらりと脳裏に蘇る。複数人の後ろ姿は同じサークルの人達。そこに混ざっていた1人に告白されて、1年ほど付き合った。学生時代から人付き合いが苦手で浮いていた私にそんな縁なんかあるわけないと思っていたし驚いたけど、優しい笑顔を見せてくれる彼に惹かれて行って、私もそれなりに彼が喜んでくれるように努力した。
けれど、付き合って1年が経った時、私と付き合ったのは他のサークル仲間と賭けをして負けた『罰ゲーム』だったと聞かされ、そんな事に1ミリも気付かずに浮かれていた私に、彼は心底嫌悪するような顔でその言葉を吐き捨てて去っていった。
彼の優しさも私の滑稽な姿を引き出すためで、それを裏で笑われて馬鹿にされていたのかと思うと惨めで悔しくて、執着するのは格好悪い事だと学んだ。それと同時に、やはり、自分を本気で好いてくれる人など居ないのだと思った。だけれど、その分羨ましいと言う気持ちも大きくなった。逃げなくても良くて、諦めなくて良くて、自分の中にある愛を受け入れて貰えたらどんなに素敵な事だろうか。
そんなことを考えていると、包丁で野菜を刻みながら呟くようにして質問を投げかけた。)

……ねぇ、イナリ様。貴方は私に、ここに居て欲しいと思う?

  • No.159 by イナリ  2024-04-20 20:21:19 

(イナリには読心術の心得がある訳ではない。人の心ほど曖昧で複雑で恐ろしいものは無い。時には人間自身にも分からないのだから、中級妖怪のイナリには分かるはずも無い。それでもイナリは彼女の言葉を聞いて、誰かに裏切られた過去があるのではと推測した。根拠は薄弱、裏取りもない、全てイナリの主観で考えたことだが、そんな気がした。誰かに裏切られ、それがトラウマになってしまったのでは無いか。だから愛が欲しいと願ったのでは無いか。だとしたら悲しい程に不幸な人間だった。そう考えると、益々彼女を放っておけなくなる。この女子がせめて自分の魅力や利点に気付き、自己を肯定する能力を得るまで、この手に置いておかなくてはならない。そんな使命感にも似た感覚に駆られた。だがイナリは分かっていなかった。使命感とは裏腹に彼女に執着したいという昏い感情が育ち始めているのを。
彼女からの問い掛けに暫時、中空を仰いで思案する。この問い掛けは恐ろしく慎重にならなくてはならない。中途半端なことを言えば、聡い彼女に見抜かれ、信を喪うであろう。しかし本心を吐露しても、それを嫌悪されてしなうやもしれぬ。堂々巡っていく思考に陥る。沈黙が続き、恐らく一分は経つであろうという寸前、どうせ信を喪うのであれば本心を伝えるべきかと決心し、大いなる羞恥心を隠しながら彼女の方に向き直る)

…お主を置いておくか否かを決めるは我次第。その判断基準は、お主が己を好くことができるようになるまでじゃ。己を愛すれば、嫌なことも忘れられる。
それまではここに居ると良い…いや、居て欲し…い……

  • No.160 by 日向 静蘭  2024-04-21 09:39:00 


(流れる沈黙に意地悪な事を言ってしまっただろうかと考える。質問を訂正しようと口を開きかけたが、彼がそれよりほんの少し先に口を開いた。
“己を好くことが出来るようになるまで”その言葉を聞いて、動かしていた手を止めて相手の顔を見る。彼の中でそのような基準があったなんて知らなかったし、彼は、自分に自信がないこんな私を気にかけていてくれたのだろうか。
正直に言うと、自分を愛するなんてどうしていいのか分からないし、それがいつ達成されるかなんて分からない。もしかしたら達成することなくこの命が尽きるかもしれない。
どちらにせよ、達成したならまた厳しい社会の中に放り出されてしまうと思えば、彼は酷く、厳しくて寂しい事を言っていると思う。しかし、それと同時になんとも言えない嬉しさがあった。
いつも尊大な言い方をする彼が、“居てほしい”と此方に願うような言い方をするものだから、思わず2.3度瞬きを繰り返してしまった。言い慣れていないものだから少しばかり歯切れが悪いのもまた愛しいと感じてしまう。)

……ふふ、分かったわ。それまで、ここにいてあげる。イナリ様は私の料理が好きみたいだし。

…私、自分を好きになる努力をするわ。約束よ。

(ふわりと柔らかな笑顔を浮かべると、彼の真似をしているのか少し恩着せがましい言い方をしつつ、料理をしていた手を洗い綺麗な布で水を拭き取ると、“約束”の言葉で右手の小指を差し出した。)

  • No.161 by イナリ  2024-04-21 12:35:21 

嗚呼…約束するが良い。
偽りだったら術で二度と口を聞けなくする

(言葉の途中で羞恥心が顔を覗き、最後で歯切れが悪くなってしまったことを後悔していると、自分の真似をしたような口調で彼女が小指を差し出してきた。一瞬困惑したが、すぐに指切りだと理解すると、彼女の物言いに少し口角を上げながら、自身も小指を差し出し指切りをする。人間と指切りなんて何百年もしていない。最後にしたのはいつだったか、なんて思い出せない。誰かから願いを乞われ、それを実行してやることはあったが、それは約束とは言えない一方的なものだった。対等な立場で互いに約束をしたのは、彼女が初めてかもしれない。
とは言え、イナリに具体的なプランはなかった。何をすれば、どう接してやれば彼女が自分を好きになれるのか。言い出したのはイナリだから、主導する義務がある。このままではイナリの方が二度と口を聞けなくなってしまう。とりあえず褒めれば良いのか? 我ながら浅い考えだとは痛感しているが、彼女を褒めて様子見をしてみることにする)

…お主は…誠に料理が上手いのじゃな。我は古今東西の一級品や珍味なぞはあらかた食ったが…お主の料理の足元にも及ばぬ。何故じゃ?

  • No.162 by 日向 静蘭  2024-04-21 15:45:13 


(口を聞けなくする、という言葉には「それは困るわ」と片手を口元に添えながら小さく笑って。指切りを済ませるとまた自身の手元へと視線を戻して食事作りを再開する。味噌汁に野菜の和え物、そして中を開いた油揚げには細かく切った野菜や魚のほぐし身を入れ、甘辛いタレに染み込ませておく。
ふと、彼に料理のことを褒められると、首を傾げて「知らないわ」と言うように首を横に振った。彼が此方に気を使って褒めてくれていると言うのに、パッとその事に気付けずにとりあえず礼は伝えるが、相変わらず冷めきったような事を言ってしまう。)

そう?ありがとう…。でも、何故と言われても…、貴方の口に合うだけじゃないかしら。高かったり珍しかったら美味しいという訳でもないでしょうし。

(暫くタレに付けていた油揚げに今度は火を通そうと焼き始めるが、そうしている内に、あ、と顔を上げて、今度は「ごめんなさい」と謝罪の言葉を口にした。相手が自分のために言葉を選んでくれていることにやっと気付いたようで、それでいてその心意気を自分が無下にする態度をとった事にも気が付いたらしい。まぁ、それもあくまで約束を守るためであり、イナリの本心にまでは気が付いていないが。)

…もしかして、今の質問じゃなくて、私の料理を褒めようとしてくれていたの?

  • No.163 by イナリ  2024-04-22 18:30:48 

そ、そうか。口に合っているだけか。うん…。それもそうじゃな

(彼女が自分の意図したものとは別の解釈すると、無念そうな表情を懸命に隠しながら小さく何度も頷く。聞き方が悪かったのだと自分に言い聞かせる。彼女はイナリが思っているよりも難しい人間かもしれない。一体どうすれば彼女に気付かせられるのか。当分はこれがイナリの課題だと思っていた矢先、小さく声を上げた彼女の方を何事かという風に見ると、今度は謝罪をされ益々困惑する。怪訝そうに「なんじゃ?」と尋ねると、どうやら自分の意図に気付いたらしかった。自分で質問したはずだが、改めて彼女から意図を晒されると最前より抱いていた羞恥心が一層増す。同時に自己嫌悪に陥る。"お主の料理の方が遥かに美味い"とストレートに言えば良かった。少なくともそれは、イナリの偽らざる本音なのだから)

…難しいものじゃな。
…人を褒めたことが無い故、不慣れなのは許せ。…お主の料理の方が美味いというのは真じゃ。

(皿を用意しながらぽつりと呟く。妖として生を受けてイナリが素直だったのは幼少の時しかない。成長と共に自尊心が膨れ上がり、尊大な物言いを繰り返す中でいつしか"素直"という状態を忘れてしまっていた。妖術だけでなく、こういうコミュニケーション術も学んでおくべきだったと今激しく後悔している)

  • No.164 by 日向 静蘭  2024-04-22 19:01:48 

(彼が用意してくれた皿を受け取り料理をよそう準備をしていると、ぽつりと呟かれた言葉に動きを止めて瞬きを数回繰り返す。小さく笑うと、手に持っていた皿や菜箸を一度置き彼へと向き合い背伸びをして、彼の頭に優しく自身の手を乗せると、まるで小さい子をあやす様に撫でてみて。)

…ふふ、ありがとう。『美味しい』って言ってくれるだけで、こう見えてとても喜んでいるのよ?
私は褒められ慣れていないから、疎いし、上手く反応出来なかったりするけれど、ごめんなさいね。

(上記を述べるとゆっくりと手を離し、食事の準備を終わらせようとまた食器や鍋と向き合うべく身体の向きを戻そうとする。
彼が自分の事を褒めようとしてくれているのは素直に嬉しいし、ましてや人を褒めたことが無いという彼が一生懸命それを行おうとしている姿は愛しいものだ。彼はなんだか申し訳なさそうに言ったけれど、自分だって褒めるのは上手くないし、褒められたからと言って可愛らしい反応ができるわけでもない。
もしかしたら、これまでも素直に褒めてくれていたのに、自分の受け取り方が悪くひねくれた返ししかしていなかったかもしれない。そう思うとなんとなくやるせない気持ちになる。自分も素直に正直に生きているつもりなのだが、この世はどうも正直すぎても生きづらい。)

  • No.165 by イナリ  2024-04-23 18:48:45 

……褒められ慣れていないのに、斯様に不敬なことは出来るのだな。

(彼女の手が頭に乗せられるとビクッとするが、やがて撫でられると耳がぺたりと垂れそうになる。彼女の撫で方は実に心地よく、まるで稚児のようになってしまいたくなる感覚に襲われる。一瞬だけ安心したように目を細めるも、すぐにキリッとした目付きになり、嫌味のように上記を言う。イナリの両親は既に物故しているが、彼女の表情は母親と重なるところがある。先程の彼女の撫で方もそうだが、表情も。だからつい気を抜きそうになる。今にでも幼い頃に回帰してしまいたくなる。だがそれはイナリの沽券に関わるので決して叶わぬ願いだが。
彼女の手が離れていくと少しばかりの寂しさに気づかないフリをしながら、食事の準備に勤しむ彼女の背を見つめる。傍から見れば夫婦か何かだ。実際はそんな単純な関係では表せない程、面妖な関係なのだが。ふと、これを彼女に伝えたらどんな顔をするのか気になった。無表情か照れるのか。思い付いたらやってみたくなるのがイナリの性質だったが、そのまま伝えると顰蹙を買いそうなので、少し言い回しを変えて伝えてみる)

お主はいい母になるやもしれんの。

  • No.166 by イナリ  2024-04-27 18:00:09 

(/上げです)

  • No.167 by 日向 静蘭  2024-04-28 00:37:09 


あら、不敬な事をするのは慣れてるもの。

(嫌味を言う相手対し、肩を竦めて揶揄うような笑みを零すと上記を返す。実際、彼と出会ってから既に何度も不敬なことをしてしまっているし嘘ではない。頭を撫でられるのがそんなに嫌だったのかしら、と思考するが、先程の様子を思い返しても本気で怒っている訳では無い、と思う。
2人分の食事の準備を終え、配膳をしようと盆を両手で持ち上げた時、いい母になる、との言葉を受けて一瞬動きが止まる。料理が作れるからか、はたまた別の理由があるのか、彼がそう言った経緯を詳しくは知らないが、良い意味で言ってくれたことぐらいは分かる。だが、母親との良い思い出があまりない故にいい母親になる自分自身を想像するのは難しかった。)

…いい母親ってどんなものか分からないけれど、でも、まぁ、そうね。なれたら、嬉しいかもしれないわ。

(ただ、想像はできなくても、そうなりたいと感じる。その気持ちをそのまま伝えると、柔らかく口角を上げて少し照れくさそうにして。それでいて「──もし、私に旦那と子供ができたら、ここへお参りにでも来ようかしら。」なんて、それこそ今は想像できないが、有り得るかもしれない未来をただ、何となく口にして。)

  • No.168 by イナリ  2024-04-28 14:02:59 

(意外に素直な反応にぴくりと眉を動かす。別に素直な反応だったから悪い訳では無い。ただ、もっと素っ気ない反応をされるかと思っていた。良き母親が分からない、というのは同感だった。尋ねておいて何だが、イナリ自身も良い母親がどのようなものかよく分かっていなかった。イナリの母親は別に難がある訳ではなかったが、他者の母に興味を示したことがないため、比較してのデータがない。だからイナリの母が誰かと比較して良い母親なのか否かが分からない。さて、彼女の母親はどんな人なのだろう。
そんなことを考えていると彼女の何気ない一言に、用意していた箸を落としかける。一先ずは箸を置いて、その様子を想像してみる。ここを出た彼女が久方ぶりに戻ってきたと思ったら、見知らぬ男と子と歩いてくる。別に彼女はイナリの何でもないのに、些かの嫉妬と心の痛みを覚える。少しばかりの不快感と共に溜息を吐き出すと、取り繕いながら彼女を揶揄う)

その時が来れば、我がもてなしてやろうぞ。
…或いはお主の子だけ隠してしまおうかのう…

  • No.169 by 日向 静蘭  2024-04-28 21:27:05 

(ほんの一瞬、視界の端に見えた彼が動揺したように見えた。単に箸を落としそうになっただけかもしれないし、関係ないかもしれないけれど。もし、ほんの一瞬歪めた顔が私のせいならば、ずるいわ。と胸の中で呟いた。
自分で何となく想像して口走った事であったが、其れは自分自身にとっても違和感しか無くて。出来るならばこの先も隣にてくれるのは彼がいい、なんて、胸の奥で考えてしまった。そんなこと彼自身はきっと望んでいないし、口にするつもりも無いけれど。傍に居てくれるのだって、自分自身を愛せるようになるまでと言っていたはず、なのに…そんな反応をするなんて、ずるい。
思考がぐるぐると回っている時、彼が此方を揶揄うように言葉を返すものだから、つい、真っ直ぐ瞳を見つめて言ってしまう。)

…一度社を出たら。もう、私を連れて行ってはくれないの?

(言い終えて一間して、ハッと視線を逸らすと「なんてね」と惚けるように付け加え、そそくさと逃げるように食器を運んでいく。段々と、無自覚だった気持ちの蓋が少しずつズレていく気がして、なんだかソワソワしてしまう。
期待はしたくない。勝手に期待して裏切られた時、また自分自身に失望してしまうから。そんなことをしたらまた自分を愛せなくなるから。
1度でいいから“愛”がほしい。いつか願った其れは今でも変わらないけれど、彼からの愛は、あの時の抱擁で十分。自分自身を愛せるようにと言ってくれた彼を、これ以上我儘で邪な気持ちを持って困らせたくはない。
大きくズレて中身が溢れてしまわないように必死に気持ちの蓋を押さえ、深く深呼吸をして食事の用意を終わらせる。)

さぁ、冷める前に食べてしまいましょう。

  • No.170 by 日向 静蘭  2024-04-29 17:19:25 

(/上げです)

  • No.171 by イナリ  2024-04-29 17:47:28 

(彼女からの一言に今度こそ動揺を隠せず、「は…?」と声を漏らしてしまった。慌てて咳払いをして、目の前に配膳された食事に目を合わせる。もう私を連れて行ってくれないのか。そんな真っ直ぐな瞳で訊ねられたら、思わず"そんなことは無い"と言ってしまいたくなる。だが言える訳ない。何故ならイナリは彼女を自分自身を愛せるまでという条件の元、ここに置いているのだから。それを破ってしまえばイナリは願いを叶える社の主として失格だ。何より、我が物にしたいという理由で彼女を置いておくのは、あまりに身勝手だ。そこまで考えてようやく分かった。自分はこの女子を我が物にしたい──そう思っているのだ。何百年と生きてきて初めて芽生えた感情だった。つまりそれはイナリがこの女子に恋を──そこまで考えて慌てて思考に蓋をする。莫迦なことを。こういうことは結論ありきで考えてはならないのだ。慎重に考えるべきことなのだ。イナリは大変に臆病者だった。そして単純だった。一度蓋をすると決めたら、容易には開かない。だから彼女が食べようと言うと大きく頷く)

……美味い!

(油揚げに箸を付けると1口大に切って咀嚼する。嚥下すると目を輝かせながら叫ぶように言う。ピコピコと嬉しそうに左右に振る尻尾から見ても分かる通り、先程の思考や動揺はすっかり雲散霧消してしまった)

  • No.172 by 日向 静蘭  2024-04-29 18:23:24 


(早速油揚げを口にし目を輝かせる相手をみて、「それは良かったわ」と小さく微笑んだ。先程までの考えを払拭して箸を取れば、此方も手を合わせてから食事に手をつける。野菜や魚を油揚げで包む料理なんて正直作ったことは無かったのだが、これは確かに我ながら美味しくできたと思う。
片手を口元に添えながら咀嚼を行いそれを飲み込むと、今度はこれまた油揚げの入った味噌汁に口をつけ、温かな味噌の風味にほっと一息をつく。ちらりと目前の相手を見ると、その尻尾が嬉しそうに揺られていて、これまた安心する。)

……1つ気になったのだけれど、妖同士の交流ってやつはあるの?…ほら、社って他にも幾つかあるでしょう?そこにも誰かいるのかしら。

(暫く食事が進んだ頃、ふと、気になったことをそのまま尋ねてみる。この社には彼が居るように、人間に気付かれて居ないだけで他の妖もたくさんいるのだろうか。もし居るのなら、彼らは面識があったりするのだろうか。街にも出れると言うのなら、ふとした時に同種と出会うこともあるのでは…なんて、書物の読みすぎだろうか?)

  • No.173 by イナリ  2024-04-29 21:55:17 

やはりお主の料理は美味じゃ! 我は最早、これ以外は食えぬな

(まるで子供のように夢中で食べると味噌汁を啜りながら大仰に言う。仕草こそ大袈裟だが、言葉は偽らざる本音で。人間の手料理を口にしたことが無い訳では無い。今までが不味すぎたということもない。ただ彼女の料理は、一級品ばかりの豪華絢爛な料理をも凌駕するものがあった。味付けなのか、イナリの味蕾が変化したのかは分からない。ただ彼女の料理はいつもイナリを酷く感動させる)

む…?
ふん…。昔はようおった。社だけでなくどこにでも妖がおった。それが時代の流れと共に多くが没落し、今この辺りでは数える程度しかおらぬ。
…ここより西に荒れ果てた社がある。そこに狸が棲んでおる。無礼千万で礼儀のれの字もなき妖よ。万が一来ても相手にするでないぞ

(味噌汁を啜りながら眉間に深い皺を作る。それはかつてイナリを「変化バカ」と罵って笑い者にした妖だった。イナリと同じ時を生きている妖で、向こうはイナリが好き──揶揄いの対象として──だが、イナリは大の苦手だった。折角の食事で悪友の存在を回想すると、ゾワッと尻尾と耳が逆立つ。悪友の回想を打ち消すように首を振ると、味噌汁を一気に飲み下す)

  • No.174 by イナリ  2024-05-01 17:31:19 

(/上げです)

  • No.175 by イナリ  2024-05-05 11:20:08 

(/上げです!)

  • No.176 by 日向 静蘭  2024-05-07 20:48:45 

(味噌汁を啜る相手に“大袈裟すぎだわ”と呆れたように言うが、その口元は少し綻んでいて、やはり褒められるというのは擽ったい気持ちになるものの嬉しいもので。
再度黙々と箸を動かしていると、相手の口が開いたところで一度動きを止め、味噌汁をこくりと飲んだ。)

そう…。やっぱり減っているのね。
……西の社?もしかしたら、前に行ってたことがあるかもしれないわ、柱に彫られた狸の紋章を見た気がするもの。

(妖の数が減っていると話す相手には小さく相槌を打ちつつ、続けて聞こえてきた社や狸の話には幾つかの心当たりを探る。嫌なことがあったり悩みがあると度々神社を訪ねていた頃があった、その時に行っていたのが確か西の社だった気がするのだが──おまけに、前に彼へ“狸寝入り”という言葉を使った際に嫌悪感を示していたけれど、この狸様の事かしら──なんて考える。
何はともあれ、彼は狸の事を毛嫌っているような口ぶりをするけれど、きっと喧嘩するほどなんとやら、なのだろうかとも思う。実際口にすると確実に否定されるので言わないが。)




(/遅くなりました;)

  • No.177 by イナリ  2024-05-08 19:24:21 

何?! …ケホッケホッ……お主、行ったのか。彼奴の社に。なにか変なことは起こらんかったか。人ならざる者に話し掛けられんかったか。

(彼女から狸のことを聞くと驚きのあまり、飲んでいた味噌汁が気管に入り噎せる。噎せが治まると不機嫌そうに問い掛ける。不機嫌な理由は二つあった。彼女の手料理を堪能している時に悪友の話題が出たこと。もう一つは彼女が自分の社より先に悪友の社を訪ねていたこと。身体が酷く緊張する。あの妖とイナリで馬が合わない絶対的な理由があった。それは人間に対する扱いの差であった。イナリは人間を弱者としながらも、その存在に興味があり共存指向だ。対して悪友は人間を弱者として見下し、徹底的な上下関係を敷きたがる支配指向なのだ。どちらが優れているということは無い。妖の中にも様々な価値観が存在するため、イナリはそれを大した問題だと考えていなかった。しかし悪友は支配指向を持つ中で些か暴力的なところがあった。子狸時代に体得したばかりの変化術を用いて、釜に変化して道行く人々を驚かせて遊んでいたことがあった。そんな折、本物の釜と勘違いした人間に対する拾われ、火に掛けられたり、床に落とされたり散々な目に遭ったのだ。以来、悪友は人間を嫌うようになったのだが、幼少の頃の恨みか、人間に対して暴力的になることがあった。彼女が何かされなかったか、不安が胸中に広がる。彼女の回答を待っている間、不安と緊張を湛えた鋭い目はじっと彼女を捉えたままだった)

(/大丈夫です!)

  • No.178 by 日向 静蘭  2024-05-09 19:29:09 


…別に、何も無かったわ。妖と話したのも貴方が始めてだし…。それに、散歩がてらに少し寄って気分転換していただけだもの。

( 突然噎せ返る相手に此方も驚き、慌てて「大丈夫?」と顔を覗き込む。そして、不機嫌そうに質問をされると、少しばかり首を捻って記憶を辿るが、西の社で誰かに話しかけられたり不思議な体験をした事は無かったように思う。大体仕事終わりにふらりと立ち寄って直ぐに帰路についていたし、こんな人間の事なんて、万が一狸様が見ていたとしても気に留めはしないだろう。
彼が何故、切迫したように質問してきたのかその理由は分からないが、とにかく、心配されるような事は無かったともう一度首を横に振り、残り僅かな白米を口に運んで咀嚼する。)

そもそも、本当にその社かどうか分からないわよ。私の見当違いかもしれないし…。

(だから、大丈夫よ。と鋭く視線を送る相手に言葉をかけると、空になった食器を前に手を合わせ、箸を置く。
相手の様子から察するに、あまり狸の話題を出さない方が良いかもしれないなぁなんて考える。事を知らない自分としては少しばかり会ってみたい気持ちがあるのだが、それも断じて言うまいと胸の中に仕舞っておいて。)

  • No.179 by イナリ  2024-05-11 17:01:46 

…この辺りに狸の紋様が彫られた社なぞ、彼奴しか考えられぬ。
…じゃが何も無いのであれば良い

(何も無いと彼女から告げられるとまずは深く息を吐き、身体の緊張を解く。鋭かった目付きも普段通りになり、安心感からか少しだけ表情が緩む。たまたま眠っていて彼女の存在に気が付かなかったのだろうか。それとも彼女に構う気分でもなくて無視していたのか。いずれにしても悪友の暇潰しのための餌食になっていなければ理由なんてどうでも良い。緊張していたのはほんの数分だけだった筈だが、その間全く微動だにしなかったので身体を動かしたくてたまらなくなる。「我が片付ける」と言って立ち上がると双方の空の食器を下げ、水場で洗い始める。普段ならば妖術で汚れを取ってしまうのだが、今はただとにかく身体を動かしたかった。それに作業に没頭すれば余計なことを考えずに済む。が、食器洗いなど数分もすれば完了してしまい、まだ悪友のことを考えてしまう。
俄に棚から二人分の盃を取り出すと"付いて参れ"とでも言うかのように彼女を一瞥したあと本殿へと向かう。木箱の中から瓢箪を取り出す)

彼奴のことは、これで忘れる。
…お主もどうじゃ。

  • No.180 by 日向 静蘭  2024-05-12 22:02:34 


( 少しばかり表情が解れた相手を見て安堵すると、食器を片付けようと片膝をつき立ち上がろうとする。しかし、それよりも前に食器を下げられると「ありがとう」と呆気に取られながらも礼を述べる。大人しく食器洗いを任せると、布巾で台拭きを済ませて調味料など後片付けをする為に洗い場にいる彼と並んで手を動かした。てっきり妖術で済ませてしまうのかと思った故に、手作業で洗い物をしている姿がなんだか物珍しくてちらりと様子を伺ってしまう。暫くして洗い物を終えた彼は未だ考え事をしているようで、不味い話題を振ってしまったなと尚も反省しつつ、どうしたものかと人知れず首を傾げた。
丁度此方も後片付けが終わった頃、盃を手にした彼と目が合うと、それに含まれた意図を察してか黙って後ろをついて行く。本殿に着くや否や取り出された瓢箪を見ると、盃との組み合わせにこれまた察して。)

…あら、いいの?なんだか申し訳ないけれど
……まぁ、折角だし頂こうかしら。

(晩酌などをする趣味は無く、飲み歩いたりすることもほとんど無かったため飲酒をするのは久しぶりだ。おまけに彼が木箱に入れて大切に保管していた酒を貰うのは些か気が引けたが、折角の誘いを断るのも違う気がして、結局は頷いて盃を1つ受け取った。)

  • No.181 by イナリ  2024-05-13 17:52:09 

質は良いが、さして高級な酒でもない。もう一本ある故、遠慮せずに飲むが良い。

(何だか遠慮がちに見えたので一言言っておく。以前見た本に無理やり飲酒を勧めるのは「あるこーるはらすめんと」になるらしい。いまいち意味は分からなかったが、何やら物騒な響きなので、きっと酷いことなのだろうか。繧繝縁に座り、瓢箪の蓋を開けると自分と相手の盃に酒を並々注ぐ。そしてそれを一気に呷る。そしてまた盃に酒を並々注ぐ。イナリは酒が好きで古今東西の地酒を飲んできたが、今飲んでいるもののように質の良い酒でも機嫌次第で悪酔いしてしまうことがあった。特に今日のように不機嫌で飲み始めた酒は必ず悪酔いする。だが今目の前には彼女がいる。何とか理性を保たなくてはならない。暫くは特に話すことも無く酒を呷っていたが、ふと彼女の経歴について疑問が浮かび口にする。口にして良いものか否か迷うことは一切なかった。とにかく彼女のことが知りたかった)

…そういえばお主は教師をしていたな。何を教えておった?

  • No.182 by 日向 静蘭  2024-05-13 18:53:03 


(相手からの言葉には“それならば”というように肩を竦め、相手と向き合うように腰を下ろせば、並々注がれる酒を眺め、彼が呷るのを見届けて此方も一口酒を含んだ。久しぶりのアルコールに喉が熱くなるのを感じるが、良質なだけあってとても美味しかった。決して酒に強いわけでは無い為、飲む量には気を付けようと思いつつも、その飲みやすさについつい盃を傾けてしまう。
ほんのりと頬が赤くなってきた頃、彼から投げ掛けられた質問に、あぁ、と小さく声を漏らした。)

…そういえば、言ってなかったかしら。
私は、国語の教師だったから国語を教えていたわ。
古典が好きで、神社とか趣のある物が好きになったの。
それに言葉って、深くて難しくて、美しいから好き。…まぁ、私自身、あまり良い言葉をかけられた事はないし、良いことを言えるタイプでもないけれど。

( 上記を告げると盃に残った酒を飲み干して、小さく笑いながら視線を伏せた。文面や言葉から相手の心理を探り知るのは、難しいが面白さもある。昔と今とでは言葉の使い方も言葉自体も変わっているが、その違いを知るのもまた面白かった。しかし、皮肉なもので、現実ではそう簡単に相手の心理は分からない。言葉に騙され、言葉に翻弄されてばかりだ。だけれど、教科書に綴られた様々な物語に触れてその情景に耽っていると、少なくとも自分の乏しい人生からは目を背けられた。
少しばかり酔いが回ってきているからか、普段よりもさらに舌が回るようでそのまま言葉を続ける。)

生徒たちには“言葉は大事”って教えるのに、私は思ったことをそのまま口に出して反感を買うばかり…おまけに肝心な事はなかなか言えないの。

  • No.183 by イナリ  2024-05-14 17:30:23 

ふん…。言葉上手でなければ教育者になれんわけでもなし。
それに、思ったことを口に出して何が悪いのじゃ?

(国語教師で古典に関心があるならば、なるほど彼女が社務所の史料に興味が惹かれた理由も分かる。もっと早く聞いていれば、それなりに吟味して選んだというのに。
空になった彼女の杯に酒を注ぎながら、上記を鼻で笑いながら述べる。心と思考が一致しないのは人間ばかりでなくイナリたち妖も同じだった。特にイナリは妖の中でも口下手な方だった。だから彼女の言っていることは理解できる。自分も思ったことを口にして怒られたことが幾度となくあるからだ。しかしそれを欠点だと思ったことは無い。むしろ思っていることを口にしたことで腹を割って話せたこともある。
過去と現在では言葉も人間の在り方も規範も変わるのかもしれないが、現代人にとって思ったことを言うことは悪しきことなのだろうか。そう考えると無性に腹が立ってきた。彼女の言葉を聞き入れず、彼女が誠を尽くしても揶揄いの対象とした教え子達に。)

  • No.184 by 日向 静蘭  2024-05-14 18:41:25 


…そうね、決して悪いことではないけれど。
使い方によって言葉は凶器に成りうるでしょう?でも、言葉を選ぶのは簡単じゃないわ…面倒くさいなら黙っていた方が楽なのも事実だし。

(注がれた酒の揺らめく水面に視線を落としながら、相手の言葉に返すように上記を述べる。“言葉は刃”という比喩があるように、自分が発した言葉で他人が傷つくこともよくある。思ったことを口に出すことで良い結果が生まれることも勿論多い。だが、自分自身、言葉に傷付けられた経験が多い為、同じように人を傷付けるのは怖かった。
盃を見つめていた視線を外し、またも1口酒を飲むとため息混じりに言葉を続けた。)

……私は、私のせいで誰かを困らせたくないの。
…例えば、私に「好き」だと言われて、喜ぶ人なんていないわよね、とか。そんな消極的なことばかり考えて、言えないの。だって、「嫌い」だと返されたら、きっと立ち直れないわ。

(まるで誰かを想っているかのようにぽつりぽつりと零すように言葉を吐き出すと、もう一口盃に口を付ける。目の前にいる彼へちらりと視線を向けると一間じっと見つめた挙句に「…私は意気地無しなのよ」なんて告げて肩を竦めた。)

  • No.185 by イナリ  2024-05-14 20:08:56 

……言葉は凶器。その通りじゃ。しかしそれが高じるあまり、言いたいことも言うべきことも言えぬは不健全。
それにお主を好いてくれる者も必ずおる。…お主の着物姿、美しい故な…。

(きっとこの女子は傷ついてばかり来たのだろう。言葉で癒される経験をあまりしてこなかったのだろう。時折こうして彼女の口から勝たられる過去に思いを馳せると、胸が痛くなってくる。何故かは分からない。自分にも思い当たることはあるからだろうか。否、彼女と比較して寿命が圧倒的に長いイナリにはまだ救いがある。人の何倍も生きているので、言葉で癒される経験も多くしてきた。だが人間は寿命があまりに短い。その一生では傷付く機会の方が多いのだろう。特に荒んだ今の世では。
盃の酒をまた一気に飲み干すと、また並々酒を注ぐ。その間、彼女の言葉を耳で聞いていたが、視線は酒に向けられていた。だから彼女に向けられた視線に気付くことは無かった。酒を一口飲むと再び口を開く。酔いが回ってきたのか、先程の教え子に対する不機嫌もあって、やや語気が強くなる。しかし彼女の容姿に言及した時だけは、言いにくそうに、それでも弱々しく言う。はっきり言うべきことは言えと講釈をした後に、これでは説得力も何も無いが、そんなことを考える余裕を酒が奪っていく)

  • No.186 by 日向 静蘭  2024-05-14 20:46:15 


……確かに、本当に不憫な世の中よね。

(彼の言う通り、自分こそまさに不憫な世の中に縛られて、言いたいことも言うべきことも避けてきていたのかもしれない。変わりたいとは思っていてもそう簡単に変わらないのが人間の性であるが、それでも、変われたらいいな と思えるようになってきただけ此方としては大きな進歩だ。この社に来て、少しだけ自分の事に対して客観的に、そして余裕を持って考えることが出来ているように思う。それはきっと、彼がこうして話し相手をしてくれて、弱々しくも自分のことを褒めてくれるから。
励ましとお褒めの言葉を受け取ると、数回瞬きを繰り返した後、ふふ、と楽しげに「ありがとう」と言った。普段は見せないあどけた表情を見せたのは、おそらくいつの間にか空になっていた盃の所為。酒に酔っても気持ち悪さはなく、ふわふわと夢見心地で、だんだんと襲ってくる睡魔に抗いながらも欠伸を1つ。
そして、目を細めて相手のほうへ片腕を伸ばすと、ぽんぽんとその頭に手を乗せてぼんやりとした思考の中でボソリと呟いた。)

…イナリ様が、私を好きになってくれたらいいのに 。

  • No.187 by イナリ  2024-05-15 20:24:13 

(盃の酒が空となり、もう一杯と手を伸ばした時だった。彼女の手が頭に乗せられた。ギョッとして彼女に目を遣ると、その顔は夢でも見ているかのように心地良さそうな顔。先程注いだばかりの盃が自分と同じく空になっているのを見れば、意外と酒のスピードが速い彼女に驚く。いつものように"気安く触るとは不敬だ"と言い放とうとした時、彼女の一言で一気に酔いが覚めた)

な、な、な…お主……。

(とても冗談のようには聞こえない言葉に思わず持っていた盃を落としてしまう。酒に酔った勢いで言っているだけで単なる戯言なのか、それとも本音が酒のせいで表出したのか。この女子の真意が分からず、ひたすらに困惑する。もしも、これが本音ならば。自分はなんと返事すれば良いのか。決まっている。彼女の言葉を諾えば良いだけだ。ずっと気付かないフリをしてきたが、イナリは彼女が好きだ。初めてここに訪れた時こそ不信を抱いたが、今では彼女のことばかり考えている。それは初めての経験だった。妻でさえ好意なく迎えたイナリが、初めて自らの意思で人間を好いている。いっその事、本心を伝えてしまおうか──一瞬だけそんなことを考えた。ダメだ。自分は彼女に自己を肯定できるまで、ここに置くという建前で彼女を受け入れている。それを反故にしてしまっては自分の立つ瀬がない)

…なんだ。何か言うたか。
……全く我に触れるとは不敬じゃ。

(言いたいことを言えと彼女に言っておきながら、自分は彼女の言葉を聞こえないフリをした。今日ほど自分の臆病さが憎かったことは無い。情けなくて、申し訳なくて、憎くて。様々な感情入り交じった震え声で頭の上に乗せられた彼女の手を、ぐっと掴む)

  • No.188 by 日向 静蘭  2024-05-15 21:20:31 


………、いいえ。何でもないわ。ちょっとした願い事よ。

( ゆっくりと首を振って、何ともないように小さく笑いながら上記を返す。しかし、その顔は少し寂しそうにも見えて、また1つ何かを諦めたような顔にも見えた。というのも、確かに酔いが回って睡魔に襲われてはいるが、自分が何を言っているのかぐらいはちゃんと分かっている。いつもよりも随分早いペースで飲んだものだからまだ酔いが回り切っていないのか、どちらにせよ未だに理性は働いているらしく、ぐいと掴まれた手に視線を移しながら続けて「ごめんなさい、つい」と毎回の如く肩を竦めて謝罪した。
彼の声が少しばかり震えていたのは何故だろう。盃を零してしまったのは何故だろう。彼は、本当に聞こえなかったのだろうか──と、ぼんやりとした頭の中で考えるが、あれこれ憶測するだけ不安になるし悲しくなる。だから、彼が盃を零したのもきっと不意に頭を撫でた所為だし、声が震えていたのもきっと気の所為、酒の力を借りて口に出た願いもきっと、気の所為。そう思うことにして、ゆっくりゆっくりと立ち上がり、掴まれた手を解放しようとする。)

…ごめんなさい。久しぶりに飲みすぎたみたい…、酔いが回り切る前に少し夜風に当たって来ても良いかしら…?

  • No.189 by イナリ  2024-05-16 17:55:16 

あ、ああ。行ってくるが良い。
…いや、我も行こう。些か暑くなった。

(彼女の反応を受けて再び後悔する。酒の勢いで言っている訳ではなかった。まだ彼女には理性がある。そんな理性の隙間から出た偽らざる本音。それを自分は聞こえないフリをしてしまった。彼女が自分の愚行に気づいているのだろうか。彼女のことだから気の所為とかで済ませてしまうのだろう。いっその事、イナリの愚行を見抜いて、その上で罵倒してくれた方が救いがある。
彼女が夜風に当たると言い出すと一度は掴んでいた手を離す。しかし慣れない酒を飲んだ彼女に何かあっては困ると思い立ち、同行を言い出す。何かあっては困る。実際のところはそんなものは言い訳だった。実際は少しでも罪悪感から逃れたかったから。どこまでも手前勝手な理由付けに我ながら呆れてしまい、僅かに口角が上がる。一度離した手を再び掴むと、彼女を支えながら本殿から外へと出る。イナリは彼女以上に飲んでいて、しかも酒に強い訳では無い。にも関わらず普段と違わず乱れることなく歩けるのは、先程の彼女の"独り言"を聞いてしまったからだろう。外へと出て適度に吹く風に当たっていると、心が晴れそうな気がする)

…今宵は何故か飲んでも酔えん。

  • No.190 by イナリ  2024-05-18 18:30:27 

(/上げです)

  • No.191 by 日向 静蘭  2024-05-22 22:02:50 


……あら、そうなの?何故かしらね。

( 再度腕を掴まれると、そのまま身体を支えられながら共に外へ出た。ひんやりとした夜風に触れるとお酒の所為でかかっていた靄が晴れたように少しずつ睡魔が引いていくのが分かる。隣でぽつりと彼が零した言葉にはまるで何も知らないように肩を竦めながら上記を返す。此方を掴まえているその手に此方からも触れられるならどんなに幸せなことか…しかし、そうはせず、代わりに彼への負担を軽減しようと脚にぐっと力を入れ、頭上に広がる星空を見上げていた。)

…私ね、イナリ様のおかげで思ったよりも早く自分のことを愛せそうだわ。

(夜空を見上げたまま再度口を開き、言い終わると隣へ視線を移して小さく笑ってみせた。尊大な言い方もすれど、自分のことを褒めてくれる時はいつだって正直だった彼は、本当に優しいのだと思う。きっと、今まで長い年月を経て色々な人間を見てきたのだろう。先程の願いも、彼と出会った頃に言ったあの願いも、叶うことは無いかもしれないけれど、彼の優しさを裏切らないために、少しづつでいいから自分のことを認めてあげたいなと思う。──それに、長居すれば長居するだけきっと彼に惹かれてしまうから、これ以上縋って迷惑はかけたくないとも思う。)

  • No.192 by イナリ  2024-05-24 17:49:14 

なに…?
…………それは真か。我の手を煩わせたくない故、欺瞞を言っているのではあるまいな。

(思ったよりも早く自分を愛せそう──それはつまり、彼女が自分の元から離れることを意味している。思わず、彼女の顔を見つめる。自然と眉間に皺が寄る。そして彼女の発言を疑ってしまう。やめろ──理性がそう警告するが、イナリ自身がそれに応えようとしない。最低だ。再び自己嫌悪する。恩着せがましく彼女の自己肯定感を上げると宣言しておいて、いざその時が差し迫ったら、彼女のことを想い始めて手離したくないとごねる。まるで寓話のような滑稽さだ。想いとはこんなにも重く、苦しいものなのか。これまで生きてきた中で初めての経験に、酷く戸惑う。あの妻もこういう気持ちだったのだろうか。彼女が自分のことが好きになる度に、イナリは自分が嫌いになっていく。特に理性が警告しても閉じることの無い口が。)

  • No.193 by 日向 静蘭  2024-05-24 21:00:22 


……本当よ。でも、貴方が言ってることも半分正解。

( ちらりと視線を向けた先には眉間に皺を寄せた彼の姿があり、図星をつかれたことにより思わず目を逸らしてしまう。
彼のおかげで少しは自分に自信がついたし、この先は今までより自分のことを大切にできると思った。…しかし、性格や思念がすぐさま変わるわけでも無いし、すぐに自分のことを真っ直ぐに愛せるかと言われれば正直難しいところも多いだろう。ましてや彼の言う通り、迷惑をかけたくないからという理由も大きかった。
ただ、言葉上は誤魔化してしまえばいいものの、特に取り繕うこともせずに相手の発言も正解だと馬鹿正直に付け足してしまうと、気まずそうに咳払いを1つ。)

でも、別にいいじゃない。
他の理由がどうあれ、私が自分のことを愛して認められたらそれでいいんでしょう。

( 思わず、突き放したような言い方をしてしまう。そんなつもりはないのに、彼に深入りしないようにと無意識に焦ってしまっているようだった。)

  • No.194 by 日向 静蘭  2024-05-26 15:24:51 


(/上げです)

  • No.195 by イナリ  2024-05-26 15:49:00 

(どうやら自分の言葉は意外にも彼女の図星を突いたようで、一瞬だけ喜の感情が浮かぶ。だが彼女の突き放したような言い方で胸が苦しくなる。彼女はイナリに迷惑を掛けたくないから、そういう言い方をしている。大体の検討は付くものの、やはり"イナリを必要としていないのではないか"と思ってしまう。他の人間から必要とされないのは納得できる。だが彼女からそんな風に思われていると考えただけで、耐え難い程の虚無感に襲われそうだった。そんな意図を含んでいる訳では無いとわかっているのに。)

…今のままではダメだ。お主が許しても、我が許さぬ!
こういうことは、ゆっくりと時間を掛ければ良いでないか! 焦ることは無い。今戻っても、お主は失敗する。何故それが分からぬ!

(一度思い込むと不安が徐々に広がって理性を奪っていく。まるで疫病のように。段々と苛立ったような口調になり、とうとういつもよりも大きな声を出してしまう。その瞬間、ふっと我に返る。何の罪もない彼女に苛立ちをぶつけてしまった。我を通そうとしたばかりに、その事実だけが残った。何か途轍もない程のことをしでかしたというように、二、三歩後退りをすると、彼女から視線を逸らし、消え入りそうな声で謝罪する)

………これではお主を傷付けた者どもと同じだな。すまぬ…。

  • No.196 by 日向 静蘭  2024-05-26 16:37:07 

( 相手の言葉にぎゅっと小袖の裾を握った。大きな声を出されるのは好きじゃない。思わず眉間に皺を寄せ、視線を逸らす。自分の為を想っての発言も感じ取れるが、失敗するだなんて断言されたら再び自己を否定されているようで辛くなる。そんなこと分からないじゃない、と思わず反発しそうになる。
しかし、彼はそのまま声を荒らげることは無く、すぐさま我に返ったのか数歩後ずさると小さな声で謝罪を口にした。それを聞いて、こちらも幾つか緊張が解けたのか握った手の力を緩めていく。)

…『好きならば口に出せば良い』って、貴方が前に言ってくれたのよ。最初は、そんなこと言えるわけないって思ってたし、胸に秘めるだけで十分だと思ってたの。
…でも、少しだけ我儘を言うのも悪くないのかなって思えた。

(貴方のおかげよ、と小さく呟くが、それでも視界に彼の姿は映さない。もう一度輝く夜空を見上げると、すっかり酔いも覚めしまい冷たい夜風に小さく身震いした。
このまま知らないふりをして、彼の言葉に今まで通り「その通りよね」って受け入れてしまうことも出来たのに、今それをしてしまうと彼の本心がずっと見えないままになるのではないかと思った。
夜空を見上げていた視線をゆっくりと彼へ向けると、静かな声色で訊ねた。彼の発言に生じた小さな違和感、それが一体何故なのか直接聞いてみたかった。こんな問い詰めるような言い方をして、嫌われるだろうか、それとも悲しませてしまうだろうか。)

──イナリ様、最初から私を“ここ”に置くつもりは無かったでしょう。それなのに、どうして留まらせようとするの?
遅かれ早かれ、私が自信を取り戻すのは良いことだと思ってたのに。
…私の料理が美味しいから?やっぱり1人が寂しいから?

  • No.197 by イナリ  2024-05-26 19:13:41 

……自分で申したこと位、覚えてなくてはならんな。

(貴方のおかげだ。改めてそんなことを言われると、ああ、そんなことを言ったなと今更ながらに思い出す。何気なく言った言葉であったはずだが、彼女はそれを明確に覚えていて、きちんと守ってくれていたのだ。そんな彼女と裏腹に自分で言ったことすら覚えていない不誠実な自分を自嘲気味に鼻で笑う。同時に彼女からの問い掛けに、小さく息を吐くとこれ以上隠し果すことは出来ないと観念する。あの静かな声色で真剣に問いかけられては、逃げることは出来ない。イナリは初めて人間に胸中を打ち明けることを決意した)

…最初はお主の言うように、ここに留めておくつもりなど毛頭なかった。お主を神隠ししたのも我の気まぐれよ。飽きたら何ぞ理由を付けて放り出せば良い。そう思っておった。
…じゃが段々とお主に違和感を覚えた。お主と居ると、今まで感じたことの無い感情や、見て見ぬふりをしてきた思いを具に感じさせられた。料理が美味い。一緒に居ると退屈せん。孤独が紛れる。そうやってお主のことを知れば知るほどな。
…今宵まで分からんかった。否、分からぬふりをしてきたが、先の聞こえぬふりをしたお主の言葉で、ようやっと覚悟した。
…日向静蘭。我はお主に懸想している。

  • No.198 by 日向 静蘭  2024-05-26 19:46:58 


……え?

(てっきり、なんとなく放っておけないとか、それらしい言葉でまた誤魔化されるのかと思っていたのに。真剣に返してくれる彼の事を見つめながら、最後にはどんな言葉を突きつけられるのだろうかと覚悟していたのに。
聞こえてきたのは意外すぎる言葉で、頭の中にある辞書を必死に開いて《懸想》の意味を調べてみる。──異性に思いをかけること、又、恋い慕うこと。──国語の教師だったことにこれほど良かったと思ったことはないが、それと同時に全身が熱くなるのを感じ、目頭にもじわりと熱が伝わり瞳を濡らす。
襲い来る幸福感と羞恥心に思わず力が抜け、両手で顔を覆ったまましゃがみ込む。
彼に想われていたなんて予想外すぎるが故に、未だ理解が追いついていないが、1箇所ひっかかるところがあり、しゃがみ込んだ膝に顔を埋めながら、いじけたように小さく文句を垂れた。)

………なによ、やっぱり聞こえていたんじゃない。酷いわ。嘘つき狐だわ。

  • No.199 by イナリ  2024-05-26 22:00:16 

す、すまぬ…。お主が突然申した故、酔い故の戯言だと思ってしまったのだ。
いや…戯言だと信じたかったのやもしれぬ。

(瞳を濡らした彼女の苦言に眉を下げながら謝罪する。しゃがみ込んでしまうと、一瞬彼女を抱擁しようかと思ったが、すぐに思い直してやめる。今の自分に彼女に触れる権利はないように思った。自分は彼女欲しさに彼女の自律的な成長を妨害しようとしたのだ。自分は最低な妖だ。彼女の言うように嘘吐きだ。いつの日か、かつての妻に言われた「お前に人間の気持ちは分からない」という言葉の意味をようやく解せたように思う。確かに自分には彼女の気持ちを見抜く力がなかった。自分の胸中を打ち明けたというのに、どうしても無い程の自己嫌悪が襲う。今のイナリには、片膝をつきながら彼女の背中を撫でることが精一杯だった)

…我は最低じゃな。お主欲しさに束縛しようとした。お主の成長を妨げようとした。
この上は如何なる罰を与えられても致し方ないのう。…お主にはすまぬことをした。

  • No.200 by 日向 静蘭  2024-05-28 18:57:16 


…まぁ、仕方ないわ。私もお酒の勢いで言ってしまったところがあるもの。ごめんなさい。

(瞼の縁に溜まった水滴を流れる前に拭い取れば、優しく背中を摩ってくれる相手へちらりと視線を向けて上記を返す。苦言は申したが、なにも彼だけが悪い訳では無く、突然あんなことを言ってしまった自分にも非があるのは分かっているようで。実際酒に酔っていたとは言え、彼を困らせてしまった事実は変わらないし、此方も小さく謝罪を付け足した。
そして、尚も申し訳なさそうに片膝をついたまま話す様子を見つめていれば、彼が言い終わると静かに立ち上がり、背中を撫で続けてくれていた相手の手を取って共に立ち上がらせる。)

……貴方も私も生きているんだもの。感情がある以上、色んな想いが生まれるのは自然なことよ。
…私も自分の想いに素直になるのは苦手だけれど、素直なままで良いと思わせてくれたのは貴方よ?
…でも、そうね、正直…失礼な事ばかり言ってしまっていたし、懸想されているだなんて驚いたけれど。

( その手を両手で包み込んだまま、相手の言葉に首を横に振りながら小さく微笑みを向ける。
昔から、自分の中にある複雑な感情は苦手だった、変なところで馬鹿正直に言葉が出るくせに、他人に弱さを見せたり傷ついているところを見せるのは嫌だった。愛や恋など自分には必要ないとどこか強がって何食わぬ顔で生きてきた。“愛が欲しい”という願望は自分にそぐわない哀れな願望だと思っていたけれど、きっと、抱擁してくれたあの時から、少しずつそんな考えを彼に拭われていたんだと思う。)

  • No.201 by イナリ  2024-05-29 20:23:52 

……白状するとだな。お主の言動なぞ、かつてここらに集落を築いていた民ほど不敬でもない。彼奴らの馴れ馴れしさに比べればお主は可愛いものよ。寧ろ…我の方が不届きなことをしていたやもしれぬな

(彼女の私物を見たことや、着替えを覗いてしまったことなどを思い出しながら言いづらそうに、への字口になる。いずれもわざとでは無いとはいえ──前者は多分にイナリの意思が介在していたようにも思えるが──不適切な行為だったと人並みには自省する。ただ今はあまり追求されたくないので、具体的なことは言わないでおく。だが彼女の"不敬"な行為を心底不敬とは思っていなかったのは偽らざる本音だった。むしろ心地よくあったのかもしれない。自分の戯言を宥め、時には子供のように扱われた故に、そこに一種の"愛情"を見出していたのかもしれない。愛が欲しいと願った彼女の前で、イナリは分からないと答えた。その答えを持っていたのが彼女だったというのは、なんとも寓話のようだった)

…我自身もお主を想っていると自覚した時、驚いた。そしてお主が放った一言…それを聞いた時、嬉しくもあった。…じゃが同時に我は恐怖してしまったのだ。
……のう、静蘭。我はこの先もずっと生き続ける。今世紀も来世紀も。じゃが…我は生き続けるのに、お主はおらぬ。この社も、いくら朽ち果てようと我と共にあるのじゃろうが、お主だけがおらぬ。それを思うと……恐ろしいのよ。まこと、人の命は儚きものだと。

(微笑みかける彼女とは対照的に、唇を噛み締めながら心底悔しそうにする。幼少の頃より知っている男、イナリの信者だった武士、そして男勝りな妻。今まで近しい人間を失い続けたが故の恐怖だった。在りし日の思い出と共に彼らの死に様が鮮明に思い出される。そして今度は彼女が。彼女の温もりを感じる度に、いつか訪れる"その日"を想像せざるを得ない)

  • No.202 by イナリ  2024-06-01 17:51:08 

(/上げです)

  • No.203 by 日向 静蘭  2024-06-09 15:49:01 


………、私は、“大丈夫”だとか、“ずっと一緒にいるから”なんて、都合の良い事は言わないわ。貴方の長い人生において、私の生涯なんて本当にちっぽけなんですもの。

( 案外自分のやっていたことは不敬でなかったと知り、「そう?」と少しばかり可笑しそうに笑ってみる。しかし、続く彼の言葉を聞いていると、段々と此方の表情も神妙になり、包み込んでいた手にぎゅっと力が入る。
彼の心情を想像すると、少なからず浮かれていた自分が恥ずかしくなるのと同時に、どうしようも無い罪悪感と、愛しさが同時にやってくる。大切な人をたくさん失くした悲しさは計り知れないが、その“大切”の中に自分が居るのかと思うと、不謹慎ながらも嬉しさも感じてしまって、我ながら馬鹿だと思う。)

…私は、貴方が好きよ。好きな人に想って貰えるのは、これ以上ない幸せだわ。
…でもね、貴方がこの先辛い想いをするのなら、やっぱり私は早く去った方が良いのかしらとも思うの。…貴方に、そんな顔をして欲しかった訳では無いのよ。

( 今思えば、まだしっかりと伝えていなかった気持ちを真っ直ぐ彼の目を見ながら伝える。彼の手を包んでいた両手は離され、眉尻を下げながら、悔しそうに唇を噛む彼の頬へ優しく触れた。
気持ちは伝えても、自分たちはまだ恋人になった訳でもなくて、それらしく“触れ合った”ことも無い。それなら尚更、思い出が増えない内にいなくなった方が良いのではないかと思う。
…恋人らしく過ごす日々が増えれば増えるほど、後が辛くなるのは自分もよく知っている。彼の綺麗な顔がこんなに苦しそうになるのなら、私は、この先の幸せは知らなくても良いと思う──そんなのは綺麗事だし、自分に言い聞かせているだけなのは承知だが──とにかく、この数日間の思い出は、きっと彼の長い人生の中では一瞬で、忘れた方が先の彼の幸せに繋がるのなら、それでも、良い。)

  • No.204 by 日向 静蘭  2024-06-09 23:24:05 

(/上げです)

  • No.205 by イナリ  2024-06-10 17:16:22 

…だろうな。お主は気休めを言わぬ。故に好いた。

(改めて彼女が"ちっぽけな存在"ということを肯うと──イナリとしては全くもって大きな存在であるのだが──胸がちくりと痛む。この女子は自分に関すること以外は、正直に言う。だから信が置ける。尤もそれを表立って口にしたことなどないのだが)

……お主がここを出ると言うならば、我も共に参る。

(早く去った方がいい。そんな言葉を彼女の口から聞くと、暫時黙考したのちに言い放つ。そして言った後に後悔した。自分がどれほど勝手なことを言っているのかは理解している。民に貰った社を、長く住み着いた土地を、好いた女子と添い遂げたいという願いのために捨てると言っているのだ。ここにかつての民がいたら、イナリを面罵したことであろう。どこかで必ず報いが来ることくらい、イナリは分かっている。だとしても彼女を手離したくないのだ。それ程までにイナリの中で彼女は大きな存在となったのだった。イナリの言葉を受けた彼女が見せる表情は呆れか侮蔑か。いずれにしてもイナリは緊張のあまり、その場に凝固して動けなくなり、彼女からの反応をただ待つより他なかった)

  • No.206 by イナリ  2024-06-14 19:02:33 

(/上げです!)

  • No.207 by 日向 静蘭  2024-06-15 21:40:41 


──フフッ、気を遣ったのに。貴方が着いてくるなら意味が無いじゃない。

( 彼が言い放った言葉に瞬きを数回繰り返すと、思わず笑みを零し、上記に続いて「お馬鹿さんね」と目を細めた優しい表情で笑いかけた。結構覚悟していただけに、共に社を出るという思いがけない本末転倒な提案に拍子抜けしてしまって無意識に入っていた肩の力も抜けていく。
そして、それと同時に再度愛おしさが込み上げてきてもう一度小さく笑った。大切な社から離れると言うほど自分のことを想ってくれているのだろうか。そうなら嬉しいなぁ とも、それで本当に良いのかしら、とも思う。恋とは、実に難儀だと、改めて思う。)

…貴方を大切な社から引き離す訳にはいかないわ。
ただ、そうなると、私が貴方の許す限りここに留まる事になりそうだけれど。

( そんなことしたら罰が当たっちゃうかしら、と肩を竦めて見せる。この社は彼にはきっとかけがえの無いもので、それこそ幾多の思い出が詰まっているはずで、突然現れたこんな人間なんかが彼から奪って良いはずもなく。一方、自分はといえばそもそも神隠しを願った側で、自分の生活に未練もろくな思い出も無い訳で─いつか、彼が抱くこの気持ちが誤りだったと言われても─彼が許してくれる限りは傍に居たいと思ってしまう。どちらにせよ、自分が社に留まるなんてそれはそれで如何なものかとも思うのだが。)

  • No.208 by イナリ  2024-06-16 14:26:44 

(彼女から返ってきた言葉は呆れでも侮蔑でもなかったが、別の己への愛おしさを含んだ言葉。恐る恐る顔を窺うと彼女の温容を捉え、胸が高鳴った。以前から思っていたが、自分は彼女の一挙手一投足に反応しすぎでは無いか。理性の自分がそうぼやくも、本能の自分はそれを悪いと思っていない。彼女の言葉と表情のおかげで緊張は解け、どっと肩の力が抜けた)

それで良いではないか。ここにいればお主の望みは何でも叶えてやれる。お主が望むのなら、これまでお主が受けた仕打ちを、我がその相手に返してやることだってできる。
…じゃから静蘭。我と共に居て欲しい。

(未だに自分が場違いだと思っているニュアンスの言葉に食い気味で反論する。相手のことを慮っているように思えるが、実際のところは彼女を手放したくないが故の必死の反論だった。彼女を疑う訳では無いが、彼女がイナリのことを好きというのが未だに実感が湧かなかった。酔った勢いの戯言かもしれない。翌朝、何事も無かったかのように接してくるかもしれない。そういうこともないとは言えないから、だからこそ彼女の望みを叶えると力説する。イナリは慎重を通り越して臆病なのだ。特に彼女の前では。)

  • No.209 by 日向 静蘭  2024-06-16 18:34:58 


…仕返しなんて良いのよ。貴方が、私の願いを叶えてくれたんだもの。それだけで今は十分だわ。

( 共に居て欲しい、その言葉に一間の沈黙を得てくすりと笑い、視線を俯かせながら顔を縦にゆっくりと動かした。上記を述べながら視界に彼の姿を映すと、再び優しく微笑みかける。
初めに愛が欲しいと願った自分が、まさか共に居る事を願われるなんて思いもよらず、そのむず痒さに頬が赤らむような感覚を覚える。自分だって本心を全てさらけ出して良いのなら「一緒にいたい」とその腕の中に飛び込んで縋りついてしまいたいが、今は頷いて肯定を示すだけでいっぱいいっぱいだった。自分も存外、好いている者の前では臆病になるらしい。)

少し、肌寒くなってきたわね。長話をしすぎてしまったかしら…。そろそろ中へ戻りましょうか。

(すっかり酔いも覚め、夜風で冷えてきた体を自ら抱いて両腕を数回擦ると、気恥しさも相まって本殿の中へ戻ろうかと促せば踵を返そうと背を向ける。)

  • No.211 by イナリ  2024-06-23 12:45:18 

(/上げです!)

  • No.212 by イナリ  2024-07-13 18:00:06 

(/久しぶりに上げです)

  • No.213 by 日向 静蘭  2024-07-13 18:46:30 


──…ッ、!

( 慌てた様子で自分の後を追って隣へ並んだ彼の姿を視界の端に捉え、微笑みを向けようとしたその時、腰に添えられた彼の手に身体がびくりと反応し、此方を引き寄せる力強さに一気に体温が上がった気がして、みるみるうちに顔が赤くなっていくのが分かる。ふわりとした彼の尻尾が身体を包み込むように巻き付いてくると、そっとその毛並みに触れながら、ちらりと隣に立つ彼の顔を見上げた。
何度か彼の柔らかそうな其れに触れたいと不躾な事を言って怒られていたくせに、其方から触れてくるなんて予想外で思わず視線に熱が帯びてしまう。)

…ご、ごめんなさい。とても暖かいわ。

( 驚いてしまった事へは小さく謝罪をして、最後にありがとう、と照れを混じえながら呟いた。)





(/暫く戻って来れずに申し訳ございません。
待っていて頂けて嬉しいです。上げて頂きありがとうございます!!)

  • No.214 by イナリ  2024-07-14 10:30:52 

む。そうか。
こういうことをされるのはあまり慣れていないよう……じゃな。

(イナリとしては何気なく、ただ寒いと言うから此方の方が暖かいだろうかと思い付きでやった事だったのだが、彼女があまりにも大きく反応するので逆に此方が気まずくなってしまう。彼女の今までの事を考えると仕方の無いことで、安易にこんなことをするイナリに非があるのかもしれない。
チラ、と隣の彼女に視線を向けると、此方に同じく視線を向けていた彼女と目が合う。そしてドキッとする。彼女の熱を帯びた視線。それが蠱惑的に見えたから。イナリは彼女のこういうところに弱かった。ふと気を抜くと此方が思いも寄らぬ事を言うしやる。大人しいようでいて、言動は大人しくない。そんなギャップも面白くて好きなのだが)

…今宵はもう横になったらどうじゃ。
此処は我が片付けておく故…。

(本殿へ入るとそそくさと彼女から離れる。繧繝縁に座ると気まずそうに視線を逸らしながら言う。これからは自分がしっぺ返しを喰らわないように立ち回る必要がある。そうでないとイナリの心が持たない)

(/いえこちらも戻ってきていただけて嬉しいです! さて今後の展開なんですけど、どうしましょうか? なにかご希望があったら何でも言ってください!)

  • No.215 by 日向 静蘭  2024-07-14 12:14:30 


…な、慣れてる訳無いじゃない。経験豊富な貴方と比べないで。

( 慣れていない、と言われると途端に自分が幼稚に思えて恥ずかしくなり視線を逸らして、尚も熱を帯びている顔を両手で包むと反論するように上記を述べる。大学時代の彼とはそれなりに出掛けたりしたが今思えば触れ合うことはほとんど無かった。後々考えれば「罰ゲーム」だったので当たり前だが、当時の自分はどうにか恋人らしく振る舞いたいとお洒落をしてみたり色々頑張ったものだ。一方的に頭を撫でたり服に触れたりするのは何とも思わないのだが、相手から触れられるのには滅法弱い。おまけにお互いに想い合っているなんて状況が初めてなのだから無理もないだろう。本殿に着くと離れていってしまう温もりに少しだけ惜しいと思ってしまうが、緊張が解けて少しだけほっとする。片付けを済ましておくという彼の言葉には小さく頷いて「ありがとう」と礼を述べると、その言葉に甘えて自分は一足先に布団へと身を潜らせて休むことにした。暫くは胸の高まりがなかなか収まらずに眠れそうに無かったが、だんだんと自然と瞼がおりてきて、数分後には横を向いたまま小さな寝息を立てて眠りにつくのだった。)





(/実は、狸さんのお話が出た時から気になっておりまして(
狸さんと静蘭が出会ってしまったらどうなるんだろうという興味があるのですが、どうでしょう??)

  • No.216 by イナリ  2024-07-14 14:03:59 

(/ なるほどいい考えだと思います!ぜひやりましょう! 狸妖怪はどういう感じがいいでしょうか? 「チャラいイナリ(コメディ5割、シリアス5割程度)」みたいなのを想像してたんですが、狸について希望があれば何でも言ってください!)

  • No.217 by 日向 静蘭  2024-07-14 14:31:24 

(/ ありがとうございます!
私もそれぐらいのイメージだったのでそれでお願いしたいです!人間には高圧的だと思いますが、多分、静蘭ちゃんも負けずに口答えしまくると思うので、お互い『なんだコイツ』となっても楽しそうですし、『口答えする人間面白ろ』となっても美味しい気がしています())

  • No.218 by イナリ  2024-07-14 17:09:02 

(/ 分かりました! 静蘭ちゃんと狸妖怪の出会いはどうしましょう? このままイナリが眠っている間とか、翌朝どこかへ出掛けている間に神社に侵入して…みたいな感じにしますか?)

  • No.219 by 日向 静蘭  2024-07-14 20:29:58 

(/ そうですね…
翌朝、静蘭が早朝に目が覚めてしまって1人で外に出ている時に、社へ遊びにきた狸さんと出くわす、等はいかがでしょう?)

  • No.220 by イナリ  2024-07-14 23:23:11 

(/ いいですね! ではこういうのでいかがでしょうか?)

……綺麗じゃ

(盃と空になった瓢箪を社務所へ片付けへ行き、入浴を済ませ戻ってきてみると彼女は眠っていた。勢いで想いを告げ、そして今こうして夫婦でも恋人でもない微妙な関係になった。こんなにはっきりしない関係は不健全、と思うものもいるかもしれないが、今はただ彼女と同じ想いを共有出来ている事実だけで満足だ。眠っている彼女に近付くと、その頬に手を当て優しく撫でながらぽつりと呟く。ハッと我に返ると一つ咳払いをして、そそくさと繧繝縁へ戻る。変化を解くとその上で丸くなり、これからの彼女との接し方に思案を巡らせながら、意識を夢の中へと手放す)


(久しぶりに訪れてみると、そこはよく整えられた空間だった。建てられてから随分と時が流れたのに、当時の姿をほぼ保っている。あの狐のことだから、きっと活気に溢れ楽しかったあの頃を忘れてしまわないようにしているのだろう。意味は分かるが全く理解はできない。しかし間もなく朝日が昇るというのに姿を見せないとはどういうことだろうか)

『イナリ。
イナリおらんのか?
フウリ様のお成りじゃぞー!』

(フウリと名乗った狸は声を張り上げる。だが待てど暮らせど本殿からも社務所からも出てくる気配はない。おかしい。以前ならフウリが入っただけで飛んできて何をしに来たと睨めつけるのがお約束だったのに。裏の風呂にでも入っているのだろうか。ゆらゆらと身体を揺らしながら裏の露天風呂へと向かう)

  • No.221 by 日向 静蘭  2024-07-15 15:44:02 


( 空が白み始めた頃ぱちりと目が覚めた。静寂の中で小さな寝息が聞こえると、上半身を起こして繧繝縁の上で丸くなって寝ている彼の姿を視界に捉える。目を細めて思わず口元を綻ばせるが、彼の寝顔を眺めていると昨夜の出来事が嘘だったように思えてしまう。しかし、あれは紛れもない事実で、思い出しただけでもまた熱を帯びてしまいそうで、首を横に振って深呼吸をするとゆっくりと立ち上がる。あまり長い間睡眠を取った訳では無いが、熟睡したのかすっかり頭も目も冴えてしまい二度寝をする気も起こらなかった。寝ている彼を起こさないように静かに本殿を抜け出すと、小袖や乱れた髪を手で整えながらまだ薄暗い空を見上げる。)

──…、誰?

( 心地の良い風に当たりながら社周辺を散策し、裏にある露天風呂への道まで来ていた。周囲に咲く花々に足を止め、特に何をする訳でもないがただしゃがみこんで其れらを見ていたが、ふと、背後から近付いてくる音に背筋が伸びる。立ち上がり、音のする方へじっと顔を向けると、呟くように上記を述べた。)



(/ ありがとうございます!
また、改めましてよろしくお願いします!何かあればまたご相談しましょう!)

  • No.222 by イナリ  2024-07-15 18:06:19 

『……やあやあやあ。俺の姿が見えるんだ。今どきの人間にしては珍しいね』

(露天風呂へ行くとそこには見知らぬ女がいた。イナリと最後に会ったのは昭和が終わる頃だが、その時は斯様な女はいなかった。すると肝試しか何かに来ている女だろうか。いずれにしてもコイツは背を向けている。その無防備な背中に飛び付いて驚かせてやろうか、なんて思っていると何とその女はこちらを振り返り、自分の存在を認めたでは無いか。しかもさして驚く様子もない。フウリは一般的なタヌキより二倍も三倍も大きな図体をしているし、顔付きだって狸というより狼のように凶暴で、しかも理知的──これはフウリが自称しているだけだが──で一目で他の狸とは違うと分かるはずなのに。これは久方ぶりに弄べそうな人間だ。一瞬ニヤリと笑うと、すくっと立ち上がり優しい声色で話し掛ける。口調も現代人に親しみ易いように砕けさせて。まずは甘く優しく。そして後に圧を掛けながら支配的に。それがフウリが人間で遊ぶ時の遊び方だった)

  • No.223 by 日向 静蘭  2024-07-15 18:34:35 


………多少、妖は見慣れているので。

( 優しく声音が耳に届くが、此方は一向に顔色を変えずに淡々と上記を述べる。驚いていない訳では無いが、元はと言えば顔に出にくい性格故、未だ冷静を保っているように見えるだろう。
やってきたのは大きな図体をした動物で一瞬何者か分からなかったが、その色味や模様、尾の形から察するに狸の妖だろうかと推測する。となれば、脳裏に浮かんだのは彼が口にしてた西の社の事。目の前にいるのがその社の主なのだろうかとじっと視線を向けるものの、此方から歩み寄ることはしない。確か彼は「相手にするな」と言っていた気もするし、今までの口ぶりからするにあまり良好的でなかったのか否か…此方からすれば不透明な関係性だったはずだ。
とはいえ、既に相手と話してしまったので「相手にするな」という助言はあっさり破ってしまった気がするのだが、少なくとも警戒心は怠らないでおこう、と堂々とした態度で再度口を開いた。)

イナリ様なら居ないけれど、一体どのようなご要件かしら。

  • No.224 by イナリ  2024-07-15 20:05:39 

(妖を見慣れている? それでようやく分かった。この女は肝試しに来ている訳では無い。着ている装束とこの冷静さからして、あの変化バカの新しい妻か妾なのだろう。数百年前に妻を喪ってからすっかり意気消沈していたが、ようやく次の女を娶ったか。しかし今度も人間の女とは。全く人間ごときの何がそんなに良いのだろう。力は無いしすぐに死ぬし。此方からすれば赤子程度の存在でしかない。そんな存在でしかないのに、このフウリを見て顔色一つ変えない。こういう女は嫌いだ)

『不在なんだァ。それは残念。イナリ君とは幼き頃から知った仲でさ。久しぶりに顔を見に来た。あ、俺の名はフウリ。見ての通り狸妖怪』

(何の用件だと問われると一瞬ピクリと尻尾が逆立つ。何かこの女と話していると嫌な気持ちになる。フウリを前にしてこんなにも堂々たる態度をしている女に会うのは二回目だ。変化バカの最初の妻。男勝りで肝っ玉の大きかったあの娘。彼奴もこのフウリを前にこんな態度だった。尤も向こうはもっと乱暴な口調だったが。何故こういう女ばかり傍に置いておくのか。一言物申したくなるがグッと堪えて努めて笑顔で返す。イナリ君だなんて呼んだこともない呼び方をしたものだから毛が少し逆立つ。自己紹介をするとわざとらしく前足を差し出して握手を求める)

  • No.225 by 日向 静蘭  2024-07-15 20:50:56 


私は日向 静蘭。…狸の妖なら、私、貴方の社に何度か行ったことがあるわ。

( 幼い頃から面識がある、と言う相手には「あら、そうなの」と返事をし、お返しにこちらも自己紹介をしておく。
知り合いであることは勿論知っているが、なんとなく無知のふりをしておいた。勝手に彼伝ての話をべらべら喋るのは良くないかもしれないから。その代わりといってはなんだが、昔自分が社によく立ち入っていたことを話し肩を竦める。狸の姿なんて見たことがなかったので、きっと彼自身も自分の存在を知る由もなかっただろうが…、結構あの社にはお世話になっていた。
だが、彼の話し方にはなんとなく違和感を感じる。笑顔が張り付いたその瞳の奥は全く笑ってはいないように思うし、ざわざわと逆だっている体毛はいかにも居心地が悪そうだ。)

…ごめんなさい。妖様に触れるのは不敬だと教わっているの。

( 差し出された前足を暫く見つめ数歩近づいたはいいものの、その手を取るかどうか悩んだ末に出た答えがこうだった。厳密に言えば自分が勝手に触った後によく言われていた言葉なのだが、どちらかといえば今の使い方の方が正しい気がする。)

  • No.226 by イナリ  2024-07-15 22:03:36 

『へえ…日向って姓なのにあんな薄暗い所を好むなんて物好きだねえ』

(何度か来たことがあると言われてもピンとこない。あの社は既にフウリの本拠では無いからだ。今のフウリはもっと山奥の洞窟を根城としている。元より人間が勝手に建てた社だ。情けで住んでいただけに過ぎない。今となっては気まぐれで何ヶ月に一回か降りて来るだけだ)

『……イナリ君からいい教育を受けてるんだねえ。できた奥さんだね。…それとも俺には触れるなとか言われてるのかなあ。イナリ君、俺に意地悪ばかりするから』

(握手を拒否されると暫しの間笑顔を貼り付けたまま硬直する。前足を降ろしながら小さく咳払いすると嫌味のように褒める。今ので決めた。この女を絶対に泣かせる。このフウリにこのような態度を取ったことを後悔させてやる。フウリはイナリの数倍短気だった。そして目的のためには手段を選ばない事を美徳としている。フウリは必ずこの女の泣き顔を見届け、それをイナリの眼前に差し出す事を決心した)

  • No.227 by 日向 静蘭  2024-07-15 22:36:17 


あら、奇遇ね、私も自分の性はあまり似つかわしくないと思っていたの。貴方と感性が似ていて嬉しいわ。

( 自分の性について言及されるとちらりと視線を外しつつも平然と言葉を返し、言い終わった後には小さく笑ってみせる。皮肉な事に初めてこの社で自己紹介をした際、自分でも似合わない、と比喩したことがあったが、目の前の狸に言われる筋合いは無かった。自身の社を薄暗いと表現するあたり、この社を大切にしている彼との違いは明らかだ。それに、相手の話し方はどことなく大学時代の頃を彷彿とさせる…優しかった口調が一変し、あくまで揶揄うようにして段々と此方を高圧的に捉えてくる。この社に来て随分と気持ちが溶かされた気がしていたけれど、再度表情が固まるのを感じる。
次いで自分の事を“奥さん”だと表現する言葉には一瞬眉を動かし、まだ自分たちが名も無い関係性にあることに気付いた。)

奥さんじゃないわ。
…それより、折角遊びに来たのなら温泉にでも入ってきたらどうかしら?イナリ様には私から伝えておくわ。

( 一言はっきりと否定するとその他の言葉には返事をすることなく、誤魔化すようにこの先にある露天風呂を話題に出した。そして「 私はもう戻るから 」と澄ました顔のまま相手の横を通り過ぎようと歩みを進めた。)

  • No.228 by イナリ  2024-07-16 17:07:18 

『まあまあ待ってよ。人間と話すのは久しぶりなんだ。俺も人間が好きでねえ。イナリ君が帰ってくるまでの間、話し相手になってよ』

(横をすり抜けようとする彼女の腕を掴むと尻尾を身体に巻き付ける。簡単には逃がさない。そんな意思を込めて彼女に顔を近付ける。憂いを帯びたような顔。幸薄そうな女だと思った。だが顔が整っているので妙に色気がある。容姿は悪くないが態度は最悪だ。ふと思った。なぜ自分は警戒されているのか。それは自分が妖の姿のままでいるからではないか。こういうタイプは同族には騙されやすいのでは無いか。イナリと一緒にいるのも彼奴が気取っ人間の姿でいるからでは無いのか。自分は変化などは全くしない。イナリのように精巧な変化は無理でも、この女一人を騙せる程度の技量はあるかもしれない。そうと決まれば、とボフという音と共に耳と尻尾を残して人間の男性に擬態する。嫌味のようにイナリの人間体に似せてやった)

『こっちの方が話しやすいでしょう? ねえ奥さんじゃないって言ってたけど。だったらどうしてこんなところにいるんだい?』

  • No.229 by 日向 静蘭  2024-07-16 20:52:59 


( 腕を掴まれ引き戻されたかと思った矢先、相手の尻尾が身体に巻き付いて行く手を阻む。近付いてくるその顔を見つめて少しばかり怪訝そうな顔をするが、特に暴れたり抵抗する気はないらしい。その代わりに「離してちょうだい」と口を開こうとした時、空気の含んだ音と共に軽風が飛んできて反射的に目をつぶってしまった。風が収まったのを感じてゆっくり目を開けるとそこには見慣れた姿があった…というのも、おそらく狸が化けただけだとすぐに理解したが、わざわざ似せて変化する姿に眉間のシワが少しばかり深くなる。おまけに、こっちの方が話しやすいでしょ、なんて言う相手に対し、動物の方が好きだわ、と直球に言葉を返しそうになったけれど何でもかんでも食らいつくのはやめようと出かかった言葉を飲み込んだ。)


色々と嫌になって、この社で神隠しを願ったの、そうしたらイナリ様が叶えてくれただけ。
…言っておくけど、お相手するほど面白い話題は持ち合わせていないわよ。

( しかし、続いて問われた内容に関しては無視してもしつこそうだと感じたのかそのまま上記を答えた。今となってはお互い絆されて離れがたくなった、とまでは流石に言わなかったが、これも決して嘘ではないだろう。)

  • No.230 by イナリ  2024-07-17 18:06:42 

『ははははっ! か、神隠し?! ふはは、そんなものを願ったのか! まるで江戸の世だな!』

(神隠しなどという凡そ現代で聞く機会のない言葉が彼女の口から飛び出し、更にはそれをイナリが叶えてやったと聞けば思わず大口を開けて笑ってしまう。酔狂にも程がある。今どき神隠しを願うこの女もそうだが、それ以上にイナリがたまらなく滑稽に思えた。神隠しをするということは魂を自分の手元に置いておくということ。それはつまり彼女の魂を縛り付けておくこと。人間は身勝手だ。きっとこの女も今にここでの暮らしが嫌になり、イナリから逃れようとするだろう。そんな不安定で身勝手な存在をわざわざ手元に縛り付けておくとは。全く後先考えないバカのすることだと、思わず素で笑ってしまう)

『…静蘭さんは面白い人だねえ。だからイナリ君に相当気に入られてるんだねえ。小袖まで与えてるんだから。良かったねえ。でもイナリ君の相手をするのも大変だろ? 仲間の狐からも疎まれる位なんだから』

(一頻り笑うと咳払いを一つし、すぐに先程と同じ様に取り繕う。嫌なことがあったから神隠しを願った人間とそれを受け入れた九尾。チグハグなようでいて似た者同士だ。面白い話題などないと言っていたが、彼女とイナリを見ていれば話題などなくても十分に面白い。だからもっと話を引き出したくて、彼女に色々とアイツにとって都合の悪いことを吹き込んでやろうと悪巧みする)

  • No.231 by イナリ  2024-07-19 17:53:08 

(/上げです!)

  • No.232 by イナリ  2024-07-26 18:30:22 

(/上げです)

  • No.233 by イナリ  2024-09-01 10:01:04 

(/一ヶ月ぶりに上げてみます!)

[PR]リアルタイムでチャットするなら老舗で安心チャットのチャベリ!
ニックネーム: 又は匿名を選択:

トリップ:

※任意 半角英数8-16文字 下げ
利用規約 掲示板マナー
※トリップに特定の文字列を入力することで、自分だけのIDが表示されます
※必ず利用規約を熟読し、同意した上でご投稿ください
※顔文字など、全角の漢字・ひらがな・カタカナ含まない文章は投稿できません。
※メールアドレスや電話番号などの個人情報や、メル友の募集、出会い目的の投稿はご遠慮ください

[お勧め]初心者さん向けトピック  [ヒント]友達の作り方  [募集]セイチャットを広めよう

他のトピックを探す:1対1のなりきりチャット







トピック検索


【 トピックの作成はこちらから 】

カテゴリ


トピック名


ニックネーム

(ニックネームはリストから選択もできます: )

トピック本文

トリップ:

※任意 半角英数8-16文字

※トリップに特定の文字列を入力することで、自分だけのIDが表示されます
※メールアドレスや電話番号などの個人情報や、メル友の募集、出会い目的の投稿はご遠慮ください
利用規約   掲示板マナー





管理人室


キーワードでトピックを探す
初心者 / 小学生 / 中学生 / 高校生 / 部活 / 音楽 / 恋愛 / 小説 / しりとり / 旧セイチャット・旧セイクラブ

「これらのキーワードで検索した結果に、自分が新しく作ったトピックを表示したい」というご要望がありましたら、管理人まで、自分のトピック名と表示させたいキーワード名をご連絡ください。

最近見たトピック