2024-01-04 23:14:52 |
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(思えば、致命的なズレを見つけたのはきっと最初からだった。宝石が放つ光とは裏腹に、不釣り合いに刻み込まれた黒々とした傷。なんだか汚らしく思えて、目を引く鮮烈な色のリボンと豪奢な金具で見えなくした。アクセサリーは飛ぶように売れた。あの手この手で皆欲しがって人が群がった。頬を染めて笑う人々と溢れ出る模造品に弾ける眩暈がした。見下ろしていたから、悪い気分じゃなかった。ある時、隠した傷を前面に押し出すデザインを思いついた。目を焼く色を目を癒す色のリボンに変えてシンプルな金具で控えめに飾った。翌日、以前売り出した華やかなアクセサリーが店の前で捨てられていた。人々はそれに倣って次々と捨てていった。その中に、模造品も混じっていた。看板に書かれていたのは下卑た装飾屋の落書き。見上げていたからか、動揺で胸が苦しくなった。模造品ごと装飾を拾い集め、作業台の上に全てばら撒いた。新しく売り出したアクセサリーが人の目に留まることは無かった。)
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(作業台の上のアクセサリーを一つ一つ改修していく。これまで隠した部分を前面に押し出した。傷があっても変わらず宝石は輝けると主張するようにリボンと金具を引き立て役にした。売れないことが分かっていても、作り続けなければと使命感に突き動かされて止まれなかった。一方で、この商品にどれ程の価値を見出そうとしているのか、拾い集めた時のように冷静な意識も機能していた。人目を引く華やかなデザインも、澱みを押し出したデザインも本当に自分が作りたい物なのか。どちらも違う気がする。分かっていたけれど、止まらずに作り続けた。完成させれば、心を突き動かす答えが見つかるかもしれない。そんな幻想を抱いていたものの。結局のところ装飾品が溢れ返って何も見付かりはしなかった。改修を続けている間も店は評判を落とし続け、立ち行かなくなり畳むことにした。かちゃりとコートのポケットに仕舞い込んだアクセサリーが音を立てて主張するものだから外に出して一瞥すると遂に光さえも放たなくなっていた。それが余りに虚しくて、リボンも金具も捨て去りトランクの中に押し込んでその街を後にした。去り際にあの店は以前ほど良い物を売らなくなった。店じまいして当然さ。そんな言葉がどこかから聞こえた。)
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(そんな、日々だった。──店を畳んでから、土地を転々としながら細々と生計を立てている。装飾屋としての腕と引き換えに、それなりに穏やかな毎日を享受していた。最近では休みの日にこの森で本を読んだり、絵を描くことが日課になっている。今日は本を片手にうたた寝していたらしく、温かな風で意識が引き戻される。一体どれだけの時間が経ったのか、回らぬ頭で周囲を見渡すと不意に意識を奪われた。幼い少女が、独りぽつんと佇んでいた。薄汚れた高価な服と、横顔でも分かる曇り空のような瞳に、気がつけば声を掛けていた。そんな顔をしてどうしたの。少女は驚いたように顔を上げ、しょんぼりとした声で呟いた。大事なブローチをなくしちゃったの。一体どんなブローチなの、と尋ねてみたものの少女は口を噤んだまま。しゃがんで目線を合わせても、うんともすんとも言わぬまま曇り空の瞳で押し黙っている。教えてくれたら、一緒に探せるよ。途中まで言いかけた言葉を遮って、少女はやっと口を開く。見つけられっこない、だって秘密のブローチなんだもん。透明なブローチ、誰も分からないブローチなんだもん。持ち主が必死で探して見つけられないのに、あなたに見つけられっこないわ!
曇り空から、ぽつり、ぽつりと雨が降る。震える少女を前に、私は掛ける言葉を無くしていた。その瞬間だけは、きっと声も無くなっていた。)
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