2024-01-04 23:14:52 |
通報 |
(夢の海を一人歩いていた。流れは穏やかで、水面には淡い月の道が浮かび上がっている。この道の向こう側に彼女は行ってしまった。笑いながら、もうリグレットではいられないと口にして。行かないで、とは言えなかった。自分の形が歪む苦しさを知っているから。行かないで、とは言いたくなかった。誰かの形を意のままに歪めたくなどないから。自由の為に魂を放り投げたことを今でも悔いているから。バランスを崩しかけた瞬間、何とか体勢を立て直して顔を上げる。――自分の足で立たなくちゃ。夢の海は相変わらず冷たくて月が無ければ一面の黒だ。それでも、歩いていかなくちゃ。澄んだ世界で見た星と音楽と物語がある。きっと、大丈夫にして見せる。怒りも涙も笑顔にももう許しは必要ないのだから。)
(春の星を宿す詩人。度々名を変えている。瞳は夜色。星言葉は「君の願いを纏う」。寿命は100年ほど。筆跡には少しの銀の煌めきが宿り、綴った詩は死したあと川の記憶に刻まれる。)
https://shindanmaker.com/1180332
『 海の揺り籠 』
(神の終わりを見た。神の亡骸が花弁に変化して教会の壁に一斉に吹き荒れた。穏やかに散った姿が暖かくて、眩しくて、羨ましいと思った。
皆の理想の神になりたい。誰も苦しめない。誰も傷つけない神様。誰かを祝福する為に尽くそうと思った。誰かが告げた。お前の神は穢れている。抗って、力尽きて、覚えのない罪を受け入れた。一人だけ、私を信じると主張した者もいた。私は真偽を見極められずに杖を下ろした。穢れた神が去ると聞いて、幸せに笑う村民たちの声に目を伏せた。
北の海岸で、花冠を籠に乗せて海へ流す人々を老神と眺めていた。あの神は、きっと幸せだった。沢山の人間に愛され、祝福を授けていた。心底村民を愛していた。讒言を憎み、村民を軽蔑しながら願いを叶えた神とは違う。村民の声を遠ざけた神とは違う。誠実な神様。
躊躇った末に淡い花冠を編んだ。乗せた籠が荒い波に攫われて姿を消したとき、小さな子供が空に花冠を掲げて叫んだ。かみさま、ありがとう――と。八つにも満たない子供の叫びに、胸が締め付けられた。
数々の花冠が静かな海を彩る。私も人々に惜しまれて愛された神のように、人を愛し、自分自身を愛し、信じたいと思った。自分の心に、正直に。)
トピック検索 |