僕の内側 〆

──…全然いいけど、っていうか、これぐらい普通でしょ。そんなに僕心狭く見えてる？
(もう既に半分寝てしまっているような、寝ぼけた様な口ぶりの相手には小さく笑いながら、凭れかかってきた頭をくしゃりと撫でた。
だが、このまま寝ても寝づらいだろうか、と少しばかり思案すると、撫でた流れでポンポンと軽く触れ、ちらりと自らの寝台を視線で指しながら更に声を掛け。)

僕のベッドで良ければ使ってもいいけど…、僕ソファでもよく寝るし。

…そう言うのじゃあ、ないけど。…でもこういうイメージもない。…フフ、

（明確なイメージを伝えることもままならずぼんやりとした答えを紡ぐ中あやすように撫でられてくすぐったげに目を伏せながら喉を鳴らした。
促されるまま視線を滑らすが流石に家主を差し置いてベッドで寝れるほど神経は太くなくて、残り少ない気力で緩々と首を振って）

大丈夫…、動きたくないし俺がソファで寝る。…そこまで寒くもないしここで十分だよ。（映画も気付けばエンドロールが流れ終わる頃合い、声は未だ潜めたままに。ふと顔を持ち上げれば口許を彼の耳の側に添えて、「…気持ちはでも嬉しい、…有難う」、と──言いながら背凭れに後頭部が沈んでいく。）

何それ、生意気。
(尚も寝ぼけながら発せられる言葉に、わざとらしく眉をひそめてからまた可笑しそうに笑って。
そして、首を振る彼の言葉を聞くと、確かにこの状態でわざわざベッドへ行けと言うのもなぁ、と考えつつ、既に限界らしい相手の提案に合わせることにして。「なら、いいけど」と渋々受け入れる。)

…危ないから、せめて横になりなよ。
(耳元で礼を言われると少しくすぐったくなりながらも視線を逸らし。背もたれに沈む相手の様子を見ては慌てて身体を支えてソファへ横になるように促し、映画の再生を停止しては画面を閉じる。自分はゆっくりソファから立ち上がり、自らのベッドから裏起毛の大きなブランケットを1枚引っ張り出すと、ふわりと相手へかけてやって。)

（うつらうつらとした脳にも文句くらいは反映されるらしいが意にも介さない様子で「知ってたでしょ、」とヘラり笑うんだろう。了承を得られた様な言葉には首肯して、）

──…君にもお礼を考えないと。…ダチのターやんがね、…この前フルーツ大福の、美味しい店を教えてくれて、……

（微睡み、ほぼ寝言に近いような音を溢しながら上体を彼にされるがままソファに倒していって仰向けに寝転がり。睡眠の導入は早いらしく、毛布を掛けられたことに気付かぬうちに寝息を立てて、そのうちに朝を迎えるだろう。ギリギリまでならないアラームで目が覚めて、「あああ一限またギリじゃないのこれ」と慌ただしく出ていくのは、数時間後の話。/〆）

(うんうん、と適当な相槌を打ちながら寝言のような発言を聞いていれば、それも次第に聞こえなくなり、気が付かば相手の小さな寝息だけが部屋の中に響く。
ちらりと、気持ちよさそうに眠る相手の顔を見て柔らかく微笑み、顔にかかる髪をそっと退いてやると「フルーツ大福、楽しみにしてる」と呟いた。
暫くして自らにも睡魔が襲い掛かってきて大きな欠伸をすると、ベッドの中で団子のように丸くなりながら就寝する。
─数時間後、慌ただしい声と物音に少しばかり身じろぐものの、さほど気にはせず、薄めを開けて出ていく相手の後ろ姿を見送り、もう一度目を閉じた。/〆)

(大学も終わり夕暮れ時、作りすぎたポトフを黒のスープジャーにギリギリまで詰め込みキッチリと閉めたものを荷物に仕込みながらバーへと赴こうとしたら遅番で上がったカフェ店員から「リンさん具合悪いって…暫く来ないそうですよ？」と何気なく聞いた後その辺のコンビニの前に移動してからスマホ取り出し)

「早速心配掛けてる悪い子にポトフお裾分けしたいんだけど行っていい？」

(以前聞いた連絡先を初めてこんな形で活用するとは思わず、ショルダーバッグを持ち直しながら少しばかり返信を待つかと、音楽アプリ立ち上げながらSNS巡りなどして時間を潰し)

……ん、
(真っ暗な部屋の中、寝巻きと寝癖だらけの顔でモゾモゾと布団の中から顔を出し、今は何時だろうと携帯を手に取る。そして1件の未読メッセージを確認すると、画面の眩しさに目を細めながら一文だけ返信を。)

「鍵空いてる」

(少し待った後に届いた返信に程なく既読を付けたものの文面の素っ気無さに体調不良も加味するものの口端引き攣らせて)
…かっわいくねえなあもう…！！
(唸るような独り言零しながらもスマホをポケットにしまい込めばそのままコンビニに立ち寄り、幾らか買い足して)

…っ、ああもうきっつい…(買い物も住んでコンビニ袋片手に小走りで彼のアパートへ真っ直ぐ向かい、さして体力自慢でもない為息を切らしながらそれでもたどり着いた扉前。数度呼吸を繰り返し、整えてからドアノブに手を掛け中に入り)…リンリンー？…ってまあ、…あっちか、(遊びに来た際に把握してるベッド位置へ視線向け、スマホの照明アプリを弱めに点灯させながら進んで)…具合どんな感じ？

……慧？、ごめん…、食べ物無かったから、助かる。
( 玄関の方から聞こえてきた物音と聞き覚えのある声に、再度目を開けるとゆっくりと上半身を起こしてベッドからよたよたと起き上がる。口調だけはいつもの様に淡々としているものの、その声は掠れきり、熱があるのかほんのりと肌を赤らめて。
風邪の具合を聞かれれば、はじめ「最悪」とだけ返答し、少しばかり機嫌も悪いのか眉間に皺を寄せる。)

…熱、下がらなくて、咳も酷いし、声は枯れるしで最悪。

…や、ほんとにタイミング良かったね。…食う物ないのは何故…、…って聞くのもなんかあれだなあ…生活力感じないんだもんなリン。（じわりと額にまとう汗拭うように利き手じゃない方の手で前髪掻き上げてベッド傍で胡座をかいて、スマホの照明はそのままにして近くに置き。声の調子で大部分の容態察すると「だろうね、」と前置き呟いて）…色々買ってきたよ。…これに冷却シートと経口補水液2本入ってるから、とりあえず。（不透明のコンビニ袋の内容そのままを説明して軽く掲げるが、眉を顰めたまま彼を眺じ、と眺めて）
…どっちなんだそれ。…物置いて帰るでもいいんだけどさ、…いた方がいいんだよね？（その辺の自信はまるでなくて、不安を混じらせながらもどちらかと言えば心配が勝つ為に。確認するように出来る限りの平静を繕い静かに訊いてみて）

（／どんな間違いしてんだ… 眺じ、の部分は外して。普通に打ち損じ…）

…失礼な。僕だって、冷蔵庫が豊かな時もあるｯｺﾞﾎｺﾞﾎ
(確かに今は冷蔵庫の中も家の中の活気も閑散としているが、節約のために自炊はしている方だと思っているし、作り置きなんかをしている時もあったが、今は家に居ないことも多いため食材も無駄にできず、食べる分だけその都度作ったり買い足したりしているようで、相手の言う通りタイミングが良かったと言わざるおえない。ましてや、声も掠れこれらを実際に伝えることも難しく更に眉間の皺は深くなる。
口元を隠しながら数回咳き込み、それが落ち着けば色々買ってきてくれた事へ礼を伝え、またふらりと倒れ込むようにして上半身をベッドに沈める。)

……僕のわがままを言えば、いてほしい。
(ぼんやりと端に座る相手の姿を見つめれば、一瞬視線を泳がせて言葉を思案するものの、ここは白状したように上記を述べた。)

──…病人にする物言いではないな。…うん、ゆっくりしてていいから。

（事情は定かには分からないものの一息吐き出せば冷静さを欠いた言い方をしたことを自省し、小さく息を吐き出すと眉を下げた。限界そうにベッドに沈んでいく様の一連を視界に収めるとコンビニ袋を手前に置いて冷却シートを一枚取り出せばフィルムを剥がして。腕を伸ばすと彼の額にゆっくりとした動作で貼り付けてやって）

…邪魔って言われないか心配した。…なら良かった、…水もあるけど、経口補水液とどっちがいいんだろうね。…飲める？ていうか。…飲ますってなると触ることになるけど。
（安心した様に破顔して微笑し、瞳を伏せて。袋の中身を片手で漁りながら看病慣れはあまりしていなくて、どうしたものかと戸惑い残る調子で。「…答えづらかったら首縦か横に振って、…それで判断する」と付け加えながらそのまま、彼の動向見守るように顔を上げて）

(額に冷却シートのひんやりとした感触を感じると、その冷たさが心地よくて一度目を閉じる。大きく息を吸って深呼吸をすると、ゆっくりと閉じた瞼を開け、「とりあえず、水飲む。自分でできるから」と再度上体だけを起こし、なけなしの意地なのか飲むのは自分でできると付け加えつつ)

…邪魔なんて言わないよ。嬉しいもん、来てくれて。誰かが居てくれるだけで安心するし。

─…でも、僕は割とちょろいからさ、あんま優しくすると勝手に好きになっちゃうよ。だから、僕からいて欲しいって言っといてなんだけど、慧も、少しゆっくりしたら帰りなよ。
(未だに思考はぼんやりとしているのか、開いた瞼も重そうにしつつ、相手の言葉に正直な気持ちを小さく呟くものの、そのままポロリと胸の内の一片を吐いた。)

(容態を静かに見守りながら矜恃がきっと彼にもあることを汲み取れば表情はあまり変えないままで水のボトルを取り出し、キャップを緩めた状態にしてそちらへ差し出し)

…何処までオーナーが君の事情知ってるか分からないし、…俺しか動けないならちゃんと行動したかったんだよ。友達だし。

……、…？……マジか。(「好き」という2文字聞いてから幾らか思考停止し、整理が着くまでかなりラグが発生した結果唯一出たのがそんな言葉。薄暗い中で天井を仰ぎながら胡座かいてる膝に両肘付け背を丸くし)
…俺より頼れる大人を好きになりなよ。……今は恋愛出来ない、…出来る気がしない俺は君に相応しい人間じゃないから。(情けないとは思いながら弱く吐き出すそれは彼に答えれる精一杯の本音の様で。見えるかは定かではないけど片眉下げながら淡く苦く、繕うよう笑みを作り。帰るのを勧められるがそれは首を横に振り、「寝るまではいるよ」と付け加えて)

…あぁ、オーナーとはちゃんと話したことそんなに無い気もするけど、コーサカさんには話したっけ？…あんま覚えてないや。
(オーナーについての話題が出れば、小さな声量でポツリポツリと記憶を頼るが、やはりそれも虚ろなもので。
そして、僅かな明かりの中で彼が動揺しつつも本音を明かしてくれるのを静かに聞くと、ふは、と小さく笑って。)

─…大丈夫。別に、僕だって今すぐアンタとどうにかなりたいって思ってる訳じゃないし、恋愛はこりごり。
ただ、弱いんだよ、優しくされる事に対して、だからダメな奴にもひっかかるし、元カレの事もきっぱり切れてなかった訳だし。
恋愛はこりごりなのに、勝手に好きになって追いかけちゃうし、頑張っちゃうから、そんな自分が嫌になるだけ。
(「見返りを求めないなんて、健気で可愛い僕ー」なんて、台詞とは裏腹に可愛げもなく、そしてうんざりしたような声音で言いながらゴロリと寝返りを打てば、寝るまでは居てくれるという相手には礼を言って、もう一つだけ言葉を付け加える。)

驚きかせてごめんね。
……だからさ、僕がまた危ない奴にひっかかりそうだったら止めてね。友達でしょ？

──…困った時とかちゃんと頼れるようにしときなよ。…もう。
（いつでも対応できるわけでは無いから余計に心配募ったが強く言うことはせず、ただ目前の彼に呆れたように肩を竦めて。一度立ち上がるとソファの方から机をベッド側に移動してくる。その上に経口補水液と水のボトルと、荷物から黒のスープジャー取り出して其々置いていって。その間も静かな部屋に響く声には耳を傍立てて）

…熱出た方が饒舌だね。…好きになっちゃうこと自体は否定しないけど、…やっぱり自分を大事にしてくれる人を選ぶべきなんだよ。…俺からすれば献身なんて余程良い奴にしか返し甲斐がないもんだし。…リンは自分可愛いって言う割に自分を蔑ろにしてるのが勿体無いよ。（自分を大切に、なんて綺麗事は性格上到底吐けないけど、言えるだけの言葉を紡ぎたい気分で。寝返りうつ動作の最中、腕の位置把握すれば徐に掌伸ばして彼の手を握ろうと試みて）

全然。…まあ想定外だったのはガチだけど。…んー、俺の話をちゃんと聞く前提なら、いいよ。俺は俺を見てくれる人の方が好きだから。

返し甲斐ね…分かってはいるんだけどさ。面倒くさいし難しいね、人間関係って。……あぁ、考えすぎたらまた熱出そう。やめた。
(彼がテーブルを移動してきて品々を並べてくれるのを薄暗い中眺めていると、スープジャーに気が付いた。食欲も湧いてきたが、それよりも人と会って安心したのか睡魔が再度襲ってきて、欠伸がてら面倒くさい考え事はやめようと言葉と共に首を軽く振って。
そして、自分を蔑ろにしていると言われれば、多少自覚はあるのか、変に口答えもせず押し黙ってゆっくりと瞬きを数回。それぐらいしか自分の中で取り柄がないから、なんて言ったら、また困らせてしまうだろうか。)

…心配しなくても、ちゃんと聞くよ。聞く方がまだ得意だって、前にも言ったでしょ。
(ふと、此方に伸びてくる手が見えれば、抵抗する訳でも避ける訳でもなく、静かに受け止めては、息を吐くように小さく笑って上記を応えて。)

…君はそれでも接客するのが好きだって言ってるんだから結構天邪鬼だよね。…て言うかそういやなんで風邪引いたの…寒暖差？（ありきたりな理由になりながらも忘れていた質問を思い出し、一通り取りやすいように配置し終えたら仕事をしたとばかり座り直し。沈黙は肯定とも取れるけれど合わせる瞳の含意までは汲み取れず不思議そうに見つめるのみで）

──…そうだね、今日もちゃんと答えてくれてるか、そういえば。…リンは可愛く無いけど可愛いね。（握ることを許される様だとか、笑ってくれたりだとか何気ないことに嬉々とした感情覚えながら同じように穏やかに微笑めば軽い力で彼の手を握ったりなどして）

…言われてみればそうかも。あんまり深入りするのは嫌だし、ムカつくとすぐ喧嘩もしちゃうけど…色んな人の話聞いたりするのは楽しいし。
………寒暖差、もあるけど、多分、疲れ？ここまで悪化するのも久しぶりなんだけど..。
僕、バーでバイト始めたのと同じ時期から、もう一個バイト掛け持ちしてて、そっちは慣れない事で結構バタバタしてたから。
(相手からの話を聞いていると、確かに、と自分のことで再発見できることが沢山あって飽きない。自分の中で自身に関するデータをアップデートしながら、風邪を引いた理由に関しては少しばかり思案する間を置いて、うーん、と低い声を発してから回答を。食事も睡眠も取れる時に取っているつもりだが、心体的な疲労というのは多分気付かぬ間に溜まっているものだろう。)

……なにそれ。喧嘩売ってんの？褒めてんの？
( 手を握られれば、此方も同じような力で握り返し、どちらとも取れるような言葉に対して笑いながら、揶揄うように質問をする。そして、もう一度目を細めて欠伸をすると、ごろん、とその手は繋がれたまま仰向けに寝直して。)