ジャック 2023-10-06 23:38:18 |
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知識は財産っての、あながち比喩でもないよな。( 相手の挙動にクスクスと笑みを漏らして / 次の相手の行動に従うつもりで傍らの壁に凭れ )
そうだな。後でお前に読んでもらうのが楽しみだよ。( 小さく笑いながら頷き / 当然のように告げてはまじまじと図解を眺め始め / 好きなだけ居座った後に漸く相手へ声を掛け )次のとこ行こうぜ。
……俺の喉が血に塗れる前に字ィ覚えてくれよ。( 分厚い頁数を思い返しては肩を竦めて / 無言で相手の行動を眺めた後掛けられた言葉に頷けば相手の元へと歩き出し )
( 次のエリアに進むと自身では何のものやらさっぱりわからない薬草やら毒草やらが商品として並べられており / 広いホールのそこかしこに自身の背丈よりも高い薬棚が所狭しと立っていて / 呆気にとられながら棚の中の小さなガラス戸の向こうにある草を眺め )…すげえなおい、
( 目の前に現れる薬棚と目にした事も無い薬草の数々に言葉も無く瞠目し / 湧き上がる興奮を露わに相手の腕を掴んで引っ張りながら並べられた薬棚へ歩み寄り / 幾つかの瓶を順に指差し )すげぇ…、あれ欲しい。あとこれ、
…足りっかな…( ぶつぶつと算段しながら相手の指差す瓶を取って行き / 幾つかは相手に持たせると首を傾げて )これで全部か?
あと茶葉。( 数種類を手にしても目の前にはまだ大量の薬草があるものの全てを手に入れる事が不可能であるのは理解しており名残惜しげに眺めながら足を進め / 問い掛けには端的に答え )
…お前の目利きは確かだから、それなりにするだろうなぁ。( 茶葉がずらりと置いてあるブロックの方へ足を進め / 独り言を零しながら頭の中で算盤を弾いており )
…一つだけにする。( 相手の声が耳に届けば考え込むように眉を寄せ / 歩みを進めつつ呟くように述べ / 茶葉が並ぶ一角に足を運ぶと綺麗に並んだ小瓶を一つ一つ手に取り蓋を開けて漂ってくる香りに目を細め )
( 自身では詳細の分からないそれを横目に見遣っては大人しく相手の選択を待っており / 腕の中の小瓶の一つを片手にかげ光に透かして眺め )
んー?おう、( 生返事をした後に気が付いたように相手の方へと目を向け / 片手に瓶を纏め相手の手元を覗き込み / 人差し指で瓶の側面を突付き / 瓶に向かって独り言のように冗談を漏らして )…お前、コイツの眼鏡に適うなんてやるな。
( 相手が持っている物も含めればそれなりに大量の薬草に思わず目を細め / 不意に聞こえてきた言葉に笑みを零し )やり手ってならお前以上のモンはねぇだろ。
どうだかな、お前の手腕に比べりゃボンクラも良いところだぜ。( クスクスと笑みを零しながら会計窓口へと歩き出し / 会計を済ませると相手の方を振り返って / 順路通りに行けば次である休憩所のほうを親指で示し )休憩がてらそれに解説してくれよ。
…どう思ってくれても構わねぇけど、俺が今まで手に入れたモンの何よりもお前が一番上等だって言ってンだよ。( 相手の言い分に片眉を上げると歩き出す背に付いて歩を進めながらも不満げに零し / 示された方へ視線を遣れば頬を緩めて頷き )あァ、そうするか。
( 荷物を抱え直すと次のエリアへと歩いていき / 植物の展示場所程ではないにせよそこそこの広さを兼ね備えた庭園といった雰囲気で / 設置されているいくつかのガゼボの一つに歩み寄り / 机を挟んで2つ置いてあるベンチに腰を落ち着けて背凭れに身を預け )
( 相手の後に続きベンチに腰を下ろし / 鞄の中から幾つか瓶を取り出しテーブルの上に並べ / 何処と無く嬉しげに頬を緩ませながら独り言のように告げ )…これすげぇ珍しいンだよ。初めて見た。
その理屈なら、上等品の対価になったお前も相当なもんだな。( 荷物を抱え直すと次のエリアへと歩いていき / 植物の展示場所程ではないにせよそこそこの広さを兼ね備えた庭園といった雰囲気で / 設置されているいくつかのガゼボの一つに歩み寄り / 机を挟んで2つ置いてあるベンチに腰を落ち着けて背凭れに身を預け )
───
悪い、抜けてたところがあるからこっちで頼む。
どうだか。単に目が狂ってた可能性もあるからな。( 軽口を叩きながら笑を零し / 相手の後に続きベンチに腰を下ろして / 鞄の中から幾つか瓶を取り出しテーブルの上に並べ / 何処と無く嬉しげに頬を緩ませながら独り言のように告げ )…これすげぇ珍しいンだよ。初めて見た。
──
あァ、了解。俺の方も前のは無視しといてくれ。
俺の目利きにケチ付けんのかよ。( 態とらしく肩を竦めて相手に目を遣り / 下ろした荷物とともに相手の取り出した瓶へ顔を近づけ / 独り言のような言葉に目を瞬かせると首を傾げて )んな珍しいのか、俺にはシケた草にしか見えねえ。
──
重ね重ね悪いな、日が空いて悪いと言うのも先に伝える。それからまだしばらく忙しいんで頻度は元のようにはいかねえと思う。伝達は以上だ、一応聞きたいことがあれば答える努力はするんで、見るだけ見ておいてもらえるとたすかる。
ケチは付けてねぇよ。薬草の違いも分かンねぇのかと思っただけだ。( 愉快げな笑みを零し / 首を傾げた相手の言葉へ意趣返しとばかりに告げ / 取り出した瓶を順に指差しながら簡潔に効果を述べ )これとこれは神経毒。こっちが血流を良くするやつで、これが消炎、んでこれが解毒作用があるやつだ。
──
あァ、連絡ありがとな。別に謝らなくて良い、たまにでもお前の顔が見れれば十分だ。体には気ィ付けろよ。
付くわけねえだろ、どれも萎びた草にしか見えん。( いくら観察した所で己に植物を判別する能などなく肩を竦め / 身を乗り出すと興味深げに相手の話を聞き / 草の入った小瓶の一つをつまみ上げては首を傾げて )へえ……俺からすりゃこっちが魔法みたいなもんだな。
酷ぇ言い様だな。俺がこんなに可愛がってンのに。( 芝居がかった仕草で肩を竦め / 眉を下げると片手で瓶を撫で / 口元に笑みを湛えて相手の様子を眺めては愉快げに告げ )そんなんじゃねぇって。まあでも、これでお前が万が一にも酔うような事があったら魔法かもなァ。
…そんなもんより俺を可愛がれよ。( 眉を顰めると摘み上げていた瓶を置き / 瓶を撫でる相手の手を掴んで自身の指を絡め / 当然とばかりに告げて )お前の手腕なら楽勝だろ?期待してるぜ。
…ふ、…何だ、こんなモンに妬いてンのか?( 不意に絡む指先と告げられる言葉へ僅かに瞠目し / 堪えきれず笑みを零すと空いている手で相手の顎の下を擽るように撫で / 相手の物言いに苦笑混じりに肩を竦め )どの口が言ってンだ。
当たり前だろ。俺より優先されるものがあってたまるか。( 否定するでもなく手を柔く握り / 僅かに身を乗り出して相手の唇と己の唇を重ね / 口角を歪めて嘯き )この口。
別に優先なんかしてねぇよ。心配しなくたって俺の一番はお前だ。( 小さく笑いながら指先で軽く手の甲を撫で / 相手の言動に笑みを漏らすと目を伏せて幾度か唇を啄み )
一番も二番も百番も俺だ。( 触れる感覚に目を細めて / 此方からも下唇を食むと満足したのか顔を離して / 不意に顔を上げると明後日の方角に目を向け )……、
分かってるって。お前だけだよ。( 傲慢さを感じさせる言葉が何やら愛おしく感じられ目元を緩めながら頷き / 大人しく離れると顔を上げた相手の様子に尋ね )…帰るか?
( 満足そうな様子に笑みを零しつつテーブルに並べた小瓶を鞄に放り込み / 同様に立ち上がると掛けられた言葉へ口角を上げ )楽しみにしてな。
──
( 施設を出ると既に日は暮れかけており / 停めていた車に細工されていない事を確かめると乗り込んで / 相手が乗り込むのを待って独り言のように呟き )…何か見られてたな、さっき。
そうだ、主にお前を見てた。男二人が珍しいのかと思ったが、んな感じでもなさそうだ。( 視線の先を思い返しながら首を傾げて / 車を発進させると道なりに進んでいき / サイドのミラーに映る後続車両に目を向け )……そんでまだ居る。
…尾けてンのか。( 思考を巡らせるもまるで心当たりが無く眉を顰め / 相手の言葉にミラー越しに後続車を一瞥して呟き / 背凭れに頭を預けながら横目に相手を見遣り )どうする?
一回ツラ拝んでやろうぜ。( 車を細い路地へと進めると此方を尾行する黒い車体を誘い込み / 器用に車をバックさせると入口を塞ぐように止め / 懐の銃を確かめながら車を降りて / 銃口を運転席の窓に突き付け / 席に座る男は無表情に此方を見据えており顔立ちからして東洋人のような風貌で / 相手の方にちらりと視線を遣り )……お前の元お仲間だったりするのか?
( 相手の物言いに愉快げに口角を上げ / 車体を器用に操り入口を塞ぐのを見れば思わず眉を上げ / 相手に続き車を降りると此方を見る男の顔をまじまじと眺めた後肩を竦め )…知らねぇな。顔なんか覚えてねぇし。
……お前が知らねえならお手上げだ。( 頭を降ると軽く車体を蹴り / 僅かに車体が揺れて数秒、運転席の窓が開かれるとその窓からぐっと身体が乗り出され / 不意を突かれた刹那に胸元へ名刺らしき紙片が押し付けられており )
( 名刺を押し付けると其方の用は終わったとばかりにもう片方へ向き直り / その指の入れ墨をまじまじと見つめるとその視線自体が脅しのように顔を上げ )…店主の遣いで来た。悪いようにはしない、だと。
……は、お前からの口説き文句くらい当てになンねぇな。( 窓が降りたかと思えば不意に横にいる相手の元へ伸びる腕に一歩反応が遅れ / 害は無かったようだがその荒っぽい手付きで相手に触れられた事が些か癇に障ると無言で顔を顰め / 次いで此方を向いた男の視線の先に気付き目を細め / 何をされる物か検討もつかない台詞は凡そ信用には値せず、会話をする気すら無いと態度で示すように男の言葉が聞こえて居ただろう相手を横目に見遣り口角を上げ / どうやら刺青の意味を知る者が存在するらしいと判断すれば警戒心を隠そうともせず隣に居る相手へ短く問い )殺すか?
商人サンのセールストークには負けるね。( 冗談のように返しながらも銃口は下げないままで / 片手で押し付けられた紙片を目の高さまで摘み上げて / 簡素な名刺にはタトゥースタジオの文字が印字されており住所らしき場所が小さく隅に記され / 横からの視線を感じ取ると同じく視線を返して / 特に動揺もしておらず押し黙っている男の姿に目を細めながら考えるような素振りを見せて )……いや、蜥蜴の尻尾切りになりかねん。こいつの言い分を信じるなら、あくまで遣いらしいからな。
( 相手からの返答に状況にそぐわない呑気な笑みを零し / 相手の言葉に片眉を上げると不満げに告げ )まさかこのまま帰してやるつもりか?
いや?案内してもらうんだよ。親玉の所までな。( 運転席のドアをいきなり開くと瞬間の内に男の足へ鎖の長さにいくらかの余裕がある枷を掛けて / 車内の様子を軽く確認すると相手に向けて顎でしゃくり )俺後ろで見てっから、お前こいつの隣の席に乗れ。適度に圧掛けといてくれ。
はァ?本気で言ってンのか?( 選択肢にすら無かった返答に瞠目すると非難すら含んだ声色で問い / 口にする間にも早々に男の足へ枷を掛けてしまう様子に止めに入る隙も無く溜息を吐き / 肩を竦めると指示のまま助手席へ乗り込み )ッたく何考えてンだか。
よく分からんままにしとくのは尻の据わりが悪ィだろ。……まぁ、お前が気に食わなかったら殺して良い。( 特に気にした風でもなく飄々と肩を竦め / 自身は乗ってきた車に再び腰を落ち着けると来たときと同じ様に小回りさせて相手の車の背後へと回り込み / 前方の車が発進すればその背にぴったりと着く形でタイヤを転がし )
( 指示に従う様子を見せて車を発進させ / 迷いのない手捌きで道を進んでいき / 隣席にも構う様子は見せず )
( 相手の言い分が腑に落ちたわけでもないがそれ以上何を言うでも無く / 不服を隠そうともせず窓枠に頬杖をつき窓の外へ視線を遣り / 不意に口を開くと母国の言葉で問い / 言外に指に彫られた文字を示し )…お前、これが何だか分かってンのか。
知らない。俺は命令に従っている。( 淡々と応えるとその後は無言でハンドルを握っており / 幾らもしない内に細い路地裏の奥にある白い車庫らしき場所へと辿り着き / 目的地であることを知らせるように同じく無言で降車を促し )
( 相手と得体の知れない男が乗る車の後ろを一定の距離を保ちながら着いていき / やがて目的地らしき場所に到着すると停車して / 片手に鞄を持ち懐に忍ばせた銃を確かめながら車を降り / 眼前の車へと歩み寄って相手の姿を待ち )
( 何とも簡素な返答に此方から言葉を返すでもなく思考を巡らせ / 幾つかの最悪を想定した仮定を立てておき心積りをする中不意に車が停車すると素早く周囲へ視線を走らせ / 促されるまま車を降り )
( 相手と一緒に降りてきた男の方へ歩み寄りその頭に銃口を突き付けて / 特に何も言わないまま鎖で繋いでいるために少し歩きにくそうな男の背中を片手で押し / 案内しろと言う意図はそれで察せられたのか車庫中央に取り付けられた扉へとのろのろ歩き / 相手が着いてきているかどうか視線で確認しながら男が扉の鍵を開けるのを気配で察し )
( 開いた扉の先は地下空間に繋がるような階段が視認され / 踏み入らないまま男の動向を見守っていると不意にその姿が眼前から消え去り / 次の瞬間には自身と同じような背丈の黒髪の男が階下からのっそりと姿を表して / 咄嗟に銃口をそちらへと向け )
( 銃口にも構わず視線は背後へと素通りして / 長い前髪の奥から指の入れ墨に視線を向けると遠慮もなく人差し指で示し / 淡々とした単語を並べるような喋りで目的を話し )久々にそれを見た。よく見せろ。報酬は払う。
( それまで目で追っていた男の姿が不意に消えると反射的に周囲へ視線を走らせ / そうしている間にも現れた男へ視線を戻せば告げられた言葉へ僅かに眉を顰め / 元来他人から無遠慮な視線を向けられる事を好まず警戒も拭えなければ至極素直に短く答え )…嫌だ。
……『逃げてきたんだろう?その指、見つけられるのも時間の問題だ』( 慣れては居ないが聞き齧っただけではないような言葉の使い方で『組織』特有の言語を口にして / 長袍を翻すとそのまま階下へと降りていってしまい )
( やり取りに対して何もピンと来てはいないがそろそろ始末を考え出した段階で相手に視線を向け / 再び姿を消した男の後を追うでもなく相手に耳打ちし )……何て言ってた?
な、っ、( 耳馴染みのある独特な響きの言語を聞き取れば僅かに瞠目し / 戸惑いと脳裏を埋めるあらゆる仮説に束の間言葉を無くしていればあっという間に男の姿は消え / 立ち尽くしたまま手の甲の入れ墨に視線を落としては束の間逡巡するように黙り込んでおり / 思案の最中聞こえた問い掛けには端的に答え )…見つかンのも時間の問題だってよ。色々知ってるらしいぜ、コレの事とか。
……どうする?( 相手の言葉に無言で片眉を上げると男の消えた先に視線を落とし / 幾つかの可能性を脳裏で推敲しては相手に選択肢を委ねるように顔を上げて尋ね )
……まあ大抵の事はお前が何とかすンだろ。( 暫し顔を顰めて無言で思案しているも不意に表情を和らげると投げ遣りな物言いで告げ / 後ろ手に指の背で相手の胸元を軽く叩くとそのまま階段を降りていき )
…俺の責任重大すぎねえ?( 苦笑しながら相手の後に続き / 銃口は降ろさないまま階下へと下って )
( 降りた先は銀色の道具が散らばるコンクリート調の無機質な部屋で / 中央に手術台のようなベッドが置いてあり / 傍らにあるソファに浅く腰掛けるようにして先程の前髪の長い男が座していて / 男はちらりと目を上げたきりで独り言のように呟き )……来たか。
…お前誰なんだ。公社と何の関係がある。( 階段を下った先にある室内の様相に素早く視線を走らせた後傍らに座る男へ目を遣り / 属していた組織の幾つかある通称の内表向きの名称から取った呼び方で引き合いに出せば端的に問い )
( 無言で相手を見遣るとその手に視線を向け / 投げかけられた質問にはこれもまた端的に答えて )彫り師。公社は取引先だ。それ以上でもそれ以下でもない。
( 相手と男の動向を見守り / 話の成り行きが自身の意識外で進んでいくことに不満そうな表情を浮かべながらも言葉は発さないままで / 代わりに男の背後に忍び寄るとその頭に銃を軽く押し当て )
理由は最初に言ったはずだ。よく見せろ、と。( 相手の言葉に肩を竦めると視線は指に流れ / そのまま相手の身体に掘られた刺青を辿るように目を動かし言葉の意図を滲ませて )
……さっきから聞いてりゃお前、俺のモンを勝手にジロジロと…( そろそろ面白くなくなってきたのかあからさまに表情を歪ませて / 制止がなければほとんどトリガーを引きかねない調子で指に力を込めて )
…こら、殺すなよ。( 続けようとした問いは相手の声に気を取られ声にならず / 鋭く男に向けていた視線を和らげて半ば困ったような表情を浮かべると軽い口調で窘め )
…( 如何にも不満そうに渋々銃を取り下げて / 代わりにソファの脚をガンと蹴り / 本当に珍しく殺意さえ滲ませて眼の前の男に耳打ちし )…おい、指先一本でも彼奴に触れたら撃つからな。
( のんびりとも取れる調子でやり取りを聞いており / 脅しにも動じた風はなく緩く首を傾げると服の内側から一枚の紙を取り出して / 座ったまま机の上に差し出し )此方の目的はお前のタトゥーを研究すること。…それで、割の良い取引を提案するのはここまでだ。拒むなら、対価の前にお前の情報を組織に差し出す。
( 男の奥にこれまで目にした事の無い様子の相手の姿があればつい物珍しげな視線向けるも意識は直ぐに取り出された紙へ向き / 自分の代わりに紙面を確認するよう無言で相手へ目配せし / 淡々と告げられる言葉に口元を笑みの形に歪め )…随分強気だな。この場でお前を殺す事だってできるんだぜ。
( 未だ不満げながらも相手の指示に従って机から紙を取り上げ / どこから取り出したものが赤いペンを走らせ書面の幾つかの文に訂正を施して / 相手の言葉を待とうと再び顔を上げ )
殺して何になる?我が殺された所で、情報の流出は止められない。…お前達が選べるのは、取引か、さもなくば挽肉だ。( 表情には全く出ないものの指で机を叩く仕草から苛立ちをにじませており )
…俺はどっちでも構わねぇよ、お前の後ろに居る奴に聞いてくれ。其奴が嫌だってンなら挽肉になる他ねぇからな。( 幾ら仮説と目算を立てた所で状況が好転する事も無く、不意に肩を竦めると相手の方へ視線を遣り / 契約内容を知るのも此方の身の振り方に関し物言いたげなのも相手の方であるのを思えば判断は一任してしまおうと笑みを浮かべて告げ )
お前を挽肉にさせる訳ねえだろが。( 相手の言葉に些か眉を寄せて苦言を呈し / 赤色でペンを入れていた箇所を示して男に淡々と示し / 赤いペンを挟んでいた片手に新たに黒いペンを差し挟むと男の方へ突き出し )…この文は絶対に除かせてもらう。それとここもだ。契約にはこのペンを使え。疑うなら俺が先にサインをする。
……( 溜息をつくと特に否を発するわけでもなく諾々と署名して / 変わった形の印章を取り出すと早々に契約書に捺印し / 朱雀の紋様が紙面に出現すると後ろ手に突き返して / 皮肉げな調子で片眉を上げ )契約成立だ。…お前の保護者は過保護だな。
( 苦言に対し場にそぐわない愉快そうな笑みを返して / 笑みを噛み殺しながら遣り取りを眺めており / 揶揄の響きのある言葉に何処となく満足げな笑みを浮かべると訂正も兼ねて平然と告げ )可愛いだろ、俺の番だ。
…ソドムか。まあ何でも良いが、お前の墨は我の観察対象になった。期間が終了するまでは指示に従え。( 片肘をつくと呟くように言葉を発し / 変わらず淡々と受け答えて / 目線は相手の首筋から見える刺青へと向き )…そっちも研究したかったが、お前の番からは手しか許可が降りなかった。
( 不快そうに眉を顰めたまま契約書を受け取り / どうにか飛んでしまえないかと考えながらも自分の感情を除けば一先ず男の指示に従うのが最善手と理解し歯噛みして / 駄目押しとばかりにまたソファを蹴り )
…ジャック。( 契約書にサインをしてしまった以上は男の言葉に従う他無く肩を竦め / とは言え何かと言いたい事やら疑問はあるがそれよりも何やら先程から不服そうな相手の様子が気に掛かれば徐に名前を呼んで手招きし )
んだよ。( 相手に呼びかけられれば最早条件反射のように其方へと近付き / 介入するつもりはないのか静かに見守っている男を背後で警戒しながらもなにか言いたいことがあるのかと相手の元で少し身を屈め )
( 此方へやって来た相手が直ぐ傍で身を屈めれば其方へ片手を伸ばし機嫌を取るように顎の下を擽り / まるで動物を愛でるような手付きで空いている手で髪を撫でながら男へと横目で視線を遣り )言う事聞いてやる分には構わねぇが、その期間とやらはいつまでなんだ。
( 顎に手が伸ばされれば一瞬驚いたように目を開くも直ぐに受け入れて眉を下げ / 髪に触れる手に擦り寄り喉を鳴らすような調子で目を細め )
一年。その後は交渉だ。( 眼の前の光景に呆れたように首を振り / やがてゆっくりとソファから立ち上がると裾を翻して隣の部屋へと入り / 入室直前に振り向いて相手の指へ目を向け )今日の所はそれを撮るだけで勘弁してやる。来い。
( 此方から問い掛けたにも関わらず男の声は果たして耳に入っているのか否か判然としない調子で相手の様子を見詰め / あまりに可愛らしい表情にうっとりと目を細めれば束の間男の存在も忘れ目元へ口付け / ソファを立った男が隣室へ消えるのを横目に見届けてから軽く唇を食むと触れ合わせたまま不満げに零し )…一年もあの辛気臭ェツラ見ンのか。
( この状況にも関わらず触れる体温が心地良く鼻先を擦り合せ / 相手のされるがままになっていたが不満げな声が聞こえれば顔を上げ / バツが悪そうに謝罪を告げて / 身を翻して先に男の入っていった部屋へと歩を進めて )…悪い。俺のせいだ。
( 触れ合う鼻先の感触に思わず笑みを零すも随分と素直に告げられる謝罪と自責的な言葉に思わず瞠目し / 部屋の方へと歩き出す相手の腕を唐突に掴み力づくで引き寄せると勢いのまま再度唇を重ね / 一言告げると相手の腕を掴んだまま部屋へと向かい )…お前のお陰で退屈してる暇もねぇよ。
( 唐突に重ねられる唇に思わず目を見開き / 目を瞬いている間に半ば引きずられるようにして部屋へと踏み入り / 部屋の大まかな間取りは先程と大して変わらないものの隅には仰々しい活版印刷の機械が並べられており / 中央に鎮座している手術台の前には男が無言で佇んでいて )
来たな。そこに座って腕を出せ。( 顎で相手に向けて手術台をしゃくり / 右手にルーペ、左手に小型のライトを持っており )
( 踏み込んだ部屋の内装へ無遠慮に視線を走らせ / 何とも独特な雰囲気に居心地の悪さを感じながらも示されるまま手術台へ歩み寄り / 腰を下ろすと両手の甲を男の方へ差し出して )
( 相手の直ぐ傍で監視するように仁王立ちして / 先ほど仕舞い込んだ銃を再び取り出すとこれみよがしにチラつかせ / 男に向けて牽制するように鋭い眼差しを注ぎ )
邪魔だ。( ライトで手の紋様を照らしながら何事かぶつぶつと呟いており / 隣に仁王立ちしている為か陰になっている部分を鬱陶しそうに見るとそのまま一言零して / やがて観察し終えたのか此方を見ないまま何やらルーペを弄りだして )まあ良い、大体わかった。後は一年以内にレッドキンジアのスタジオに来い。……どうせ、旅人は一度其処を目的とする。
( 今更男が何かを仕出かすとも思えず警戒心剥き出しな相手の様子に視線を遣り / 男が何やら呟いているのが耳に入るも聞くでもなく明後日の方をぼんやりと眺めており / 気付けば作業を終えたらしい男が口にした耳慣れない地名に目を瞬くと問うように相手の方へ視線を向け )
……飛行船の離陸場がある国だ。一言で言えば技術大国、…向かおうとしていた地点だな。( 相手から視線が向けられれば訥々とした調子で言葉を並べ / 用が済んだならこんな場所はさっさと後にしようと相手の腕を掴んで軽く引つ張り )
報酬だ、必要なら持っていけ。( 後は興味を失ったというようにぶっきらぼうに言い放ち / カルテらしきものに何やら記入しながら横目で机の上に無造作に置かれた札束を見て促し )
あァ、飛行船か。楽しみだな。( 相手からの解説を聞けばあまりにも呑気な様子で呟き / 腕を引かれるまま立ち上がり / 不意に男を見れば札束に目を向けるでも無く端的に尋ね / 自らが組織に居た頃に関わりのあった男の名を挙げ )…公社の実権はまだ清祥が握ってんのか。
( 目を眇めると片腕を伸ばして机上から無造作に掴み取り / ふと相手の口から零れ出た名前に意識が向けば微かに口元を歪めて / 引き止められないのであれば腕を引っ張ったまま元来た道を戻っていき )
知らん。ただの取引先だと言っただろう。( 一瞥もくれないまま作業を続けており / 変わらず淡々とした物言いながらこれ以上の情報を差し出す気は無いようで )
( 何事もなく外に出ると相手の腕を離し / 後ろから腰に腕を回すと肩に顔を埋め / そのまま分かりきった問いを低く呟き )……清祥ってお前の元ボスか。
( 先程から虫の居所が悪いらしい事は察しており腕が離れるのと同時に口を開くも腰に腕が回されると言葉を呑み込み / 肩口に柔い重みを感じればほぼ無意識に後ろ手に髪を撫で / 思いも寄らない問いに目を瞬かせて頷くも一瞬の間の後弁明のように告げ )…あァ、…別に聞いたのに意味はねぇよ。今の組織がどんなモンか知れたら動きやすくなると思っただけだ。
…それだけか?( 髪に触れる手に僅かに表情を緩めながらも声音は鋭いままで / 不意にするりと腕を解くと次の瞬間手近な壁に相手を押し付けて / 壁に後頭部が当たらないよう咄嗟に片手で相手の頭を覆いながら、鼻先が合わさるほど近い距離まで顔を近付け / 眉を下げて意味の取れない一言を零し )……名前、
そうだよ、別に何も、っ、( 重ねられる問いへ心外とばかりに肯定し更に言い募ろうとするも不意に目の前に相手が現れたかと思えば壁に背を押し付けられ咄嗟に口を閉ざし / 眼前の相手へ問うような視線を向けるもその表情が目に留まれば胸の奥が疼くような疼痛を感じ / 口にされた一言の意図が分からず問いながら片手で相手の髪を梳くように指を通し )…何だ。
……もう其奴の名前呼ぶな。( 常に無く拗ねたようにぼそぼそと一言の意図を付け足し / 変わらず髪を撫でる指に表情を和らげつつも片腕を相手の腰に回してきつく抱き / 肩に顔を埋めると首筋に擦り寄せて )
…分かった。( 相手の言葉を聞き届ければ小さく頷き / どうやら不貞腐れているようであるらしいとは思いながらも先程の様子と言い寧ろ弱っているようにすら見えれば相手の髪に頬を寄せ / 片手を背に回し宥めるように撫でて )…どうした、何をそんな気にしてンだよ。
お前は俺のものだ。( 質問には一切答えること無く背を撫でる手を甘受して / 言い切ってしまうとややあってゆっくりと身を起こし / 身を翻しここに来るまでに乗ってきた車の方へと歩きだして / 細工をされていないか軽く確かめた後車内へと乗り込み )
お前だって俺のモンだよ。( 聞こえた声に同様に返しては相も変わらず背を撫で続け / 相手が体を起こすのに合わせ手を解き / 離れて行く背を眺めて束の間思案するもののやがて相手の後に続き車に乗り込み )
……、( 何も答えることなく肩を竦めて同意を示し / やがて相手が車に乗り込んでくれば早々に車を発進させ / 日も暮れ掛け薄暗い道を走らせながら独り言のように呟き )……いっそ潰しちまうかな。
お前の過去。( あらゆる言葉を端折って短く告げ / 先に耳にした相手の過去が今も関わっていると考えると不愉快で仕方なくアクセルを踏み込んで急加速し )
( 嫌な予感も大方的中していそうだと思えば物言いたげに口を開くも不意に車が加速すれば僅かに表情を引き攣らせ / この状況では宥める事もできなければ現時点で何を口にしようと無駄に思え小さく息を吐き )
( アクセルをベタ踏みしたまま道を進んで / どれほど車を走らせたのか街道に一つ建っていた宿屋らしき建物の傍へと車を止め / 車から降りると荷物を片手に持ち早々に中へと入り / 内部は至極簡素な様相で受付には年を召した老婆が新聞を読んでおり )
( 窓外の景色があまりにも速く流れ行くのを眺め少なからず危機感を抱きながらも途中から考えるのを止め只管何事も起きないよう祈る思いで居り / 周囲の様相を確認するのを止めて暫く経った頃車が停車すると傍らの建物に目を向け / 若干の気疲れを感じながら荷物を手に相手から少し遅れて宿に足を踏み入れ )
( 必要最低限の言葉で手続きを済ませるとルームキーを受け取り / さして高くもない建物の二階へと歩を進めると早々に部屋に入り / 荷物を投げ出すと一直線にソファに向かって地図を広げ出し )
( 終始無言のままただ相手の後に続いて歩を進め部屋へ向かい / 荷物を傍らに置き相手の座るソファの背凭れに手をつくと背後から地図を覗き込みつつ声を掛け )…怒ってンの?
……あぁ、のこのこ着いてった上に過去の男の話なんて引き出させた俺にな。( 背後の相手にちらと目を向けると明け透けに口にして / 以前相手から聞いた地点に丸を付けると其処からまた目を細めて場所を探り )
…悪かった、考え無しな事言っちまって。( 相手が気分を害している原因の一端は自身の配慮不足にあると理解して眉を下げて告げ / 背凭れを跨ぎ隣に腰を下ろすと相手の方眺めながら問い )どうしたら機嫌直してくれンの。
…別に謝るような事じゃねえだろ。( 下げられた眉に気付けば相手の眉間に親指を軽く添えて顔を覗き込み / 相手からの問に目を瞬くと少し考えた後小さく零して )…茶飲みたい。
…あァ、さっき買ったやつ飲むか。( 眉間に親指が触れると目を細めて相手を見遣り / 相手の返答に同様に目を瞬かせると思い出したように呟き / 立ち上がり鞄とテーブルの上に置かれていた茶器を手に取ると再度相手の隣に腰を下ろして先程購入したばかりの茶葉を取り出し / 掌に茶葉を乗せ低温の熱を加えると微かな花の香りが広がり / 茶葉をポットに入れカップで温めた湯を注ぎ / 少しの間を置いてカップへ深い赤紫に色付いた紅茶を注ぎ / 茶葉を一摘み手に取り軽く熱を通すと花に仄かな塩味の混じる香りを立ち上らせる紅茶の上にふりかけてから相手の方へ差し出し )…ほら。
( 一連の動作を何となく見守っており/ 差し出されたカップの持ち手に指を添えると口内に液を流し込んで / 相手が淹れた故か上等であるが故か口内に広がる香りに目を細めて )…美味いな。
そうだろ。この淹れ方が一番美味い。( 得意げに頷き / カップを手に取り一口飲むと頬を緩め / 再度カップを口元に運びつつ半ば茶化すような声色で尋ね )どうだ?機嫌の方は。
( 相手の言葉に僅かに笑みを漏らし / カップの中の液をぐいと飲み干して / 返事の代わりに少し身を乗り出すと片手にカップを持ったまま相手の唇に己のものを重ね )
( 言葉の後にカップに口を付け一口飲んだ後一度テーブルに置き / カップの中身を飲み干す様子を眺めているも、不意に唇が重なると目を細め / 仄かに感じる紅茶の香りに頬を緩めて唇を食み )
( 暫く重ねるだけのキスを繰り返しては満足したのか相手から離れ / 先の出来事を思い返しながらカップを見つめて呟き )向かうしかねえよなぁ。
( 甘やかな触れ合いにうっとりと目を細めていたが唇が離れれば同様に身を離し / 相手の言葉に地図上に描かれた丸へ視線を遣りながら釘を刺し )…そこには行かねぇからな。
…元々近寄らねぇって言ってあっただろ。( あからさまな声や視線に気付きながらも当然ながら束の間返答に窮し / 結局明確な返答ができないまま視線をカップへ逃がし言葉を返しながら一口飲み )
…まあ、どっちにしろスタジオには行くからな。( 大して諦めたようにも無いがそう呟くと相手の手からカップを攫おうとし / 成功するならそのままぐいと飲み干して )
もっと味わって飲めよ、せっかく淹れてやったンだから。( 相手の口振りに何とも言えない懸念を抱きながらもそれ以上は何を言うでもなく / すんなりカップを手放すと中身を飲み干す様子を眺め / 呆れたように告げながらもカップの中身が空になったのを良い事に相手の首元へ両腕を回し )
なんだ、抱いてくれっておねだりか?( カップを置くと相手の腰元に片手を回し、もう片手を相手の頭の後ろにやって / 軽く鼻をすり合わせては茶化した調子で問いかけ )
…何をどう聞いたらそうなンだよ。( 鼻先が触れ合う感触に目を細め / 直接的でないにしろ否定に近い言葉を返しつつ口元に笑みを浮かべては唇を柔く食み )
なんだ、俺に言葉を信用させてくれんのか。ならこれから先、お前の口約束は全部守られるってことでいいな?( クスクスと笑みを漏らしながら相手の唇に片手の親指を添え / 笑みを浮かべたまま瞳を見据えて確約を取るように首を傾げ )
俺を前にして簡単に約束しちまっていいのか、ってことだよ。( 肌に突き立てられる感触に小さく笑み / 空いた口内へ指を捩じ込ませて上顎を柔く押し )
( 口内へ割入って来る指先に簡単に意識を絡め取られれば然して抵抗もせず唇を開き / 触れられる場所からじわっと熱が上がるような感覚に返答の無いまま目を細め )
…、どっちにしたってお前に約束して、って言われちゃ俺は断れねぇよ。( 重ねられる問いに意識を引き戻されると顎を引いて顔を離し / 問いへ暗に肯定しては片眉上げ相手を見据え )
…ふ、( ぱっと手を離すと吐息だけで笑み / 視線を受け流すと遠慮なく全体重を隣に掛けながら戯れに呟き )お前も約束取り付けていいぞ。清廉潔白な手段を使って叶えてやるよ。
…なら、俺の前から一時間以上居なくなんねぇって約束しろ。( 肘掛けへ背を預け此方へ傾いて来る体を受け止め / そのまま相手の肩に手を掛け引き倒すと上から顔を覗き込み無理難題に近い要求を口にして )
…五十九分五十九秒までは許してくれんの。優しいこった。( 押し倒されるままソファに身を預け / 笑い声を上げながら相手の?を指の背で撫でて )
…五十九分五十九秒までは許してくれんの。優しいこった。( 押し倒されるままソファに身を預け / 笑い声を上げながら相手の頬を指の背で撫でて )
あァ、それ以上は一秒も待たねぇからな。( 頬に触れる感触に目を細め / 相手の髪に指を通しながら笑み混じりに答え / 強請るような声色で短く告げ相手を見据え )…あともう一つ。
びた一文負けねえってか。( 引き続き笑みを漏らしたかと思えば続く言葉へ意外そうに瞬き / 首を傾げながら問いを重ね )……なんだ?
負けるわけねぇだろ。出るモン無くなっても搾り取ってやる。( 口角上げ相手の頬柔く掴み / そのまま相手の頬を柔く揉みながら答え )勝手に俺より先に死なねぇ事。
へぇ、大した自信だな。俺が音を上げるまで頑張れよ。( 掴まれた頬に横目を遣って / 見上げた体勢のまま相手の腹に緩く拳を押し込み )安心しろよ。死ぬ瞬間にでもちゃんと引きずり込んでやるから。
俺が頑張らなくたってお前は勝手にそうするよ。( 根拠も何も無いながら口角上げ断言し / 相手の頬から手を離すとその手で腹にある拳を解き指を絡め / 徐に身を倒し相手の胸元に耳を付けると聞こえて来る心音に目を細めながら短く訝るような問いを投げ )…そうか?
( 緩く首を傾げると相手の言葉には何も応えないままで / 不意に相手の頭が傾げば自身の胸に触れる感覚に小さく笑みを零し / 片手を相手の腰に回すと疑うような言葉に少し頭を持ち上げて )……んだよ、何か文句でもあんのか?
お前は意外と考え無しに行動するし、感情的になる時があンだろ。( 先程の相手の様子を思い返しながら揶揄い半分に答え / 布越しに体温を感じ目を伏せながら続け )…あと、俺のためなら何でもする。
人間だからな。( 全ての免罪符のように言葉を使いながら手持ち無沙汰に絡められた手を柔く握り返して / 肩眉を上げ相手の様子を伺っては真意を探ろうと口を開き )なんだ、えらく弱気だな。不安になっちまったのか、紹君。
( 投げ遣りな返答に顔を上げると眉を寄せて相手を見遣り / 問い掛けに反論を口にしかけるも言葉を呑み込み脱力するように再度胸元へ耳を付けると短く答え )…なった。
……、( 相手の言動に驚いたように目を瞠り / 腰に回していた手を相手の頭に乗せると柔い力で撫でて / 聞こえるか聞こえないかの声量で呟くように問い掛けて )……何でだ?
…お前が俺の言う事を聞く気あンだか分かんねぇし、彼奴の事も信用できない。組織が俺の存在を知って動くなら、真っ先にお前を狙う。( 頭を撫でる手に目を細め / ぼそぼそと不明瞭な声で口にし )
…悪かった。お前にそこまで思い詰めさせて。( 撫でる手は止めないまでも眉を下げて / 絡んでいた手を解くと相手の身体を片腕で抱き締めて / 解決策が思い浮かばないという珍しい事態に曖昧に問い掛け )なあ、俺はどうすりゃいい。
…だから、俺から一秒も離れなきゃ良いンだって。( あまりにも素直な謝罪の言葉に瞬き一つ落とし / 顔を上げると片手を其方へ伸ばし指の背で相手の頬を擽るように撫で / 先程までと異なる台詞を並べては柔く口角上げ )そしたら万が一の時に俺が直ぐ殺してやれるだろ。
…お前が四六時中くっつくってことか?背中に負ぶさっててくれりゃ簡単だがな。( まじまじと相手の顔を見ながら冗談でもなさそうな調子で呟き / つられたように緩く口角を上げると腹筋だけで僅かに身体を起こして唇に軽く口付け )お前はどういう風に殺してくれんのかな。
…本気で簡単だと思ってンのか?( 何やら本気にも見える様子に眉を寄せると低く問い / 僅かに触れ合う唇を追うように此方からも軽く唇を食み / 胸元に肘を置き僅かに上体を起こすと相手の首筋に片手を添え親指で喉元を撫で )切羽詰まってたら動脈噛み千切るし、時間あんならお前のお望み通り俺の毒を試してやっても良いな。
勝手にしがみついててくれるだろ?鬼の筋力には期待してるぜ。……ああ、それとも抱っこが良かったか。( クスクスと笑みを漏らしながら揶揄を含んだ声で問い掛け / 触れ合う唇に目を細めて相手の動向を目だけで追い / 首筋の感触にふと思いついたように悪戯げな表情を浮かべ / 何処から取り出したものか簡易的な注射器を取り出し、針の先端を添えられた掌とは反対側の己の首筋に押し当て )毒の方は今試してみるか?
…俺は本気で言ってンだからな。( 不貞腐れたような表情浮かべ / 突拍子の無い提案に瞠目したのも束の間何処からか現れた注射器の針が相手の首筋に触れるのを見ると殆ど反射的にその手首を掴み首元から遠ざけ )はァ?…それで万が一お前に何かあったらどう責任取るつもりだよ。
俺も本気だぞ。実際有効な策だろ。( 何処まで本気なものか悟らせないまま首を傾げ / 相手の詰問には答えず不満そうに並べ立てながら注射器の中にある少量の液を揺らし / 視線を斜め上に向けて思い出すようにつらつらと零して )俺だけお前の毒を味わえないっての、不公平だろ。さっきの植物園でもちゃんと調べてたんだぜ。煙が効くようになるかどうか、ええと──ヒューマンの人体における機能停止の効果を発揮し、
…それなら俺が鬼になってお前を担いだ方がいざって時に逃げやすいだろ。( 暫く不満げに黙りこくっていたがふと首を傾げると視線を虚空に遣りながら言葉を返し / 注射器が相手の手中にある事が何と無く落ち着かず鷲掴みにするとその手から奪い取り / 相手の言い分には大いに不服があり口を開くも告げられる内容には単純に興味を唆られ無言のまま耳を傾け )
…それも悪くねえな。( 何となく相手の額に目を遣ると小さく笑みを零し / 自身の手中から注射器が奪い取られれば止めるでもなく視線だけで追い / 好奇心を多分に含んだ目を相手に向けながら唇の片端を上げて )まあ要するに、自衛機能が並の人間程度に落ち着く可能性があるってことだな。多分一時的だろうが、試してみる価値はあるだろ。
…好きだよなァお前。( 相手が反論しないのは大方予想しており呆れの混じる笑み零し / 手にした注射器に視線を遣り束の間思案し / 問い掛けに未だ肯定はできないものの興味があるのも事実で曖昧に頷き )……まあ、…価値が無いとは言わねぇけど。…でも毒は試さない。
好きだよ。いつかあの姿でも抱きてえなと思ってるくらいには。( 相変わらず笑みを浮かべながら下卑た意図を口にして / 注射器のほうへ手を伸ばして軽く突くと態とらしく片眉を上げ )毒じゃなくて何なら試すって?
…力加減し辛ぇンだ。お前の体に穴開けちまうかもしれねぇぞ。( 思わず表情引き攣らせると半ば本気で懸念している様子で告げ / 問い掛けへ滔々と選択肢を挙げ )媚薬か麻薬か筋弛緩剤。どれか好きなの選ばせてやるよ。
なら細心の注意を払ってくれ。……ああ、お前の手を縛りゃ解決するか。( 自分一人で納得したように頷き / 選んでいるのかどうか曖昧な言葉を告げながら至極楽しそうに笑みを零し )そうだな、理性保ったままお前のこと可愛がれるヤツ。
お前の身を気遣ってやる余裕があるように見えた事があンのか?…その辺の縄じゃ切っちまうからな。( 無茶としか言いようのない要求に片眉上げ / 溜息混じりに告げ / 予想外の言葉に瞠目するも嫌な予感しかせず一も二も無く言い切り )そんなモンは無い。
無いな。……鬼用のリードと首輪、手錠が必要か。( 大して考えるでもなく頷き / しれっと必要物を増やしながら悪戯げに口元を歪め / 遠慮も無く直截的に言い切ると結局何も選ばす相手に判断を委ね )んだよ、融通効かねえな。じゃあお前のお勧め。
…この俺を犬扱いするつもりか?( あからさまに嫌そうに顔を顰め / 相手の体の上に寝転んだまま鞄を引き寄せ片手を突っ込むと探るように暫く中身を掻き回した後一つの袋を探り当て / 微かに光を反射する青い粉末の入った袋を目線の高さに掲げ )…ならコレだな。
暴れるワンワンは放し飼いしちゃ駄目だろ。なあ?( 同意を求めるように片手で相手の顎の下を擽り / 相手の動作を見守っていれば掲げられる袋に僅かに頭を傾けて / 知識のない己では見当がつかず疑問を口にして )……んだそれ。
…俺が暴れンのはお前のせいだろ。( 僅かな擽ったさに口元を歪めるも表情は幾分か和らぎ先程よりも覇気の欠いた声で告げ / 問い掛けに滔々と答えては何やら得意げに口角を上げ )麻薬だ。快楽物質を出すのと思考制止作用がある。簡単に言やァ面倒な事は忘れて気持ちイイ事だけ考えてられますよ、って奴だな。
お前がさっさと気持ちいいのを受け入れれば良いんだよ。いやいやって駄々こねるからそんなことになるんだぜ。( 一切を相手に責任転嫁した言葉を堂々と告げて / 顎の下をくすぐっていた指を首筋に当てると相手の鼻筋に向かってなぞらせ / 得意げな顔に何となく微笑ましさを覚えつつも言動には引っかかり首を傾げ )…へえ、お前のことは考えられるのか?
…人のせいにすンじゃねぇよ。これでも大分聞き分け良くしてやってンだ。お前は俺が嫌がれば嫌がる程喜ぶらしいからな。( 肌に触れる指の感触に目を細めながらも棘のある声音で言い返し / 問い掛けにゆるりと首を傾げれば確証には欠ける物言いで告げ )…考えるンじゃねぇの?お前の脳が俺と諸々の快楽物質を出す回路を結び付けてンならそうなる。一番手っ取り早くイイ思いができるモンに反応するからな。
お前が俺のせいで乱れてるのが好きなんだよ。嫌がっても悦んでも同じなら後者のほうがお得だろ?( 笑みを漏らしながら鼻先を人差し指で軽く叩き / 些かの疑問は残るもののそうと聞けば突っ込むまでもないかと脱力して )…なら確実だな。やれ。
お得、( 鼻先を叩かれると眉を寄せ / 言い回しが気に入らないのか不満げに反芻し / いざやれと言われると最悪の事態が脳裏を過り注射器に視線を遣り )…コレは本当に毒にならねぇンだろうな。
…お前案外子供っぽいよな。( 寄せられた眉に思わず笑い声を上げると眉間の間を親指で柔く撫で / つられて注射器に視線を向けながら平然と告げ )もう試したから安心しろよ、俺が何ともなってねえのが答えだな。別に打たなくてもいいぜ。
俺の何処が子供っぽいンだよ。( より一層表情を曇らせながら不満げに零し / 思いも寄らない言葉に俄かには信じ難い様子で瞠目し / 声音に動揺を滲ませながら早口で捲し立て )はァ?…お前何を、勝手にこんなモン試すンじゃねぇよ、何かあったらどうすんだ。少しは俺の番って自覚を持て。
よしよし。良い子良い子、( 茶化すような声音で繰り返しては頭を撫でて / 何が悪いのか分かっていない調子で僅かに頭を傾げ )あの施設内で試した方がリスク無いだろ。専門家が常駐してんだし。
やめろ。( 不機嫌そうに相手の手を払い除け / 此方の懸念どころか心情すら理解されていない様子に思わず深い溜息を吐き / 呆れすら感じながらも殊更丁寧に言葉を選び告げ )……何処で試してもリスクはあンだろ。何があるかわかんねぇし、処置ができるできないじゃなく、お前の身に何かが起こるのは堪えられねぇんだ。それと、俺の与り知らねぇモンがお前の体ン中にあんのも気に食わねぇ。それをどうこうできんのが俺じゃねぇのも、俺以外の奴がお前に触ンのも不愉快だ。これは何回も言ったよな?
…ああ、なるほど。( 相手の言葉を聞けば眉を下げ / 頬に掌を添えると相手の瞳を覗き込むようにして鼻先を触れ合わせ / 謝罪の言葉で再びソファに頭を沈めようとしたもののふと口を噤むと付け足すように告げて )悪かった、不快にさせて。もうしない。…つってもやらかすかもしれねえから、やっぱ監視しといてくれ。
( 鼻先が触れ合えば目を細めるも依然として不機嫌そうな面持ちで相手を見据え / 不意に告げられた言葉に瞬き一つ落とすと短く問い )…何だ、監視って。
俺から一秒も離れないって奴。( 先程の相手の言葉を引用するようにそのまま口に出し / 機嫌を窺うように相手の首筋に顔を埋めると髪を擦り付けて )…許せ、お前に嫌われるのは耐えられん。
俺じゃなくてお前が俺から離れねぇンだよ。( 細かいニュアンスを訂正しては仏頂面浮かべ / 甘えるような仕草と許しを乞う言葉に簡単に不満も霧散してしまえば小さく溜息を吐き / 片手で相手の髪を撫でながら呟き )そういう事をするから不安だって言ってンだ。
どっちだって同じだ。( 呟くように反論して / 言葉を黙殺すると相手の首筋に顔を埋めたまま腰に手を回し遠慮の無い力で抱き締め )
( これ以上言い返しても水掛け論になるのは目に見えており溜息を吐いて言葉を呑み込み / 不意に強く抱き締められると相手の肩を軽く叩き )…苦しい、
( 相手の表情からその心境が手に取るように分かると思わず言葉を失いぐ、と堪えるように眉を寄せ / あまりに珍しいその様子に見慣れない上にとっくに怒りも消えているお陰でただ愛おしさに胸が軋むばかりで小さく息を吐き出し / 相手の髪に指を通しながら短く問い )…反省したか?
…した。( 相手の表情の変化を見やりながらバツの悪そうに視線を反らし / 告げられた言葉に躊躇いがちに呟くと相手の掌に擦り寄って / どうやら怒りが撓んだらしいと判断すれば安堵から僅かに表情を緩め )
…お前そんな分かりやすかったっけ?( 相手の仕草や表情の何から何まで胸の内を擽ると目元を緩め / 変わらず相手の髪を撫でながら目尻へ唇を触れさせつつ揶揄い混じりに問い )
…流石にお前を不安にさせすぎだと思ったんだよ。( ぼそぼそと視線を合わせずに告げ / 自省には矢張り慣れておらず目尻の感触に目を伏せ )
…言っとくけどそれは結構前からだからな。言わなかっただけで。( 一向に此方を見る気配が無ければ痺れを切らしたように両手を相手の頬に添えて強引に此方に向け / 相手を見据えて噛んで含めるような物言いで告げ )
( 言葉と触れる感覚に驚いたように目を開き / 流石にそのまま逸らすこともなく瞳を合わせると先程の言葉を繰り返し )…悪かった。
( 繰り返される謝罪の言葉に堪え兼ねたように小さく笑み零し / そのまま何度か唇を啄むと触れ合わせたまま小さく呟き )…可愛いなァお前。
…前も言ったが、お前の基準は謎だ。( 何度か繰り返される口付けに此方も食み返して / 感触に瞬くと心底不思議そうに呟いて )
…俺の言動があからまさにお前の事が好きそうだったら可愛いって思うだろ。( 唇が食まれる感触にうっとりと目を伏せ / 再度瞼を開くと遠回しなようで明け透けに心境を吐露しながら口角上げて問い / 相手の頬や鼻先へ口付け )
…思う。俺はお前が好きだからな。( あっさりと肯定すると目元を緩め / 顔中に落とされる口付けに僅かに笑みを漏らし / ふと思い出したように瞬いては相手の唇に再度口付けて下唇を食みながら呟き )お前のそれでこんないい気分になれんだから、薬も要らねえな。
( 告げられる言葉に満足げに目を細め / 相手の髪に指を通しながら繰り返される口付けに目を伏せ / ふと聞こえた言葉に笑みを漏らすと囁くような声色で返し )…そうか?じゃあこれは次の機会までお預けだな。
まあそれまでにはお前のも改良されてるだろうしな。( 顔を離すと断定するように言い切り / 人差し指で相手の頬を撫でながらふと視線を斜め上にやって眉を寄せ )……にしても、考えることが多いな。
───
相談だ。次、何処かの国まで場面転換していいか?要するに移動時の描写を省略して、現在地―目的地を直接繋ぐヤツ。
もちろん長距離移動する時の場面は事前に告知させてもらう。分からんこととか納得行かないことがあれば言ってくれ。
お前は求めるモンが多いからなァ。( 呆れの混じる声で呟き / 頬に触れる指先の感触に目を細め / 脱力するように相手の肩口に頬をのせながら聞こえてきた言葉へ短い問いを返し )…例えば?
──
あァ、構わねぇよ。任せちまって良いンならお前の好きなタイミングで声かけてくれ。
じゃねえとただ不味いだけの葉っぱだろ。( 大して気にした風もなく嘯いて / 相手の言葉に瞬くと指を折り始め / 数えている内に嫌になったのか顔を顰めて息を吐き )お前の組織がまだ何かしらあるかもしれねえって所、入れ墨消さねえとならん所、さっきの取引、……やめた。キリねえわ。
───
了解した。とりあえず次は飛行場のある国行って、前言った俺の弟と遭遇するってのどうだろうな、って考えてるわ。異論なければそこまで飛ばす。
失礼な奴だな。これでも多少は改良してンだぞ、まだ実用に向かねぇだけで。( 不満を露わに顔顰め / 先程あれだけ騒いでおきながら列挙される事柄には然程興味無さげに耳を傾けており / 言葉が途切れれば小さく笑み浮かべ何とも呑気な呟き落とし )まあ取りあえず1年以内に何とかってとこに行けば良いンだろ。お前と世界渡り歩くのも悪くねぇ気分だな。
──
あァ、了解。色々ありがとな。俺はその流れで構わねぇよ。
客は現金なもんだろ、実用品にしか興味ねえんだ。( 不満げな顔に思わず笑みを噛み殺し / 並べ立てる事例に何を思うでもない様子には形だけ肩を竦め / 無責任に相手に全権を投げ出すとそのまま相手の身体を引き寄せてソファの上に引き倒し、目を閉じて眠りに落ちる体制を整え )お前ちゃんと覚えといてくれよ。じゃねえとまた逃避行する羽目になる。
──
( 数週間後、この大陸最大の国であるレッドキンジアの大地を踏みしめており / 車での移動とは言え長旅で若干凝った肩を片手で解しながらドアに凭れ / 雑多な人混みに紛れて目の前に聳え立つ白亜の殿堂を見上げながら独り言を呟き )……図書館と、博物館と、飛行船だったか。
──
とりあえず移動地点まで飛ばした。なんかありゃ言え。特に何もなければこっちは蹴ってくれ。
まあ良い、そのうちハマらせてやる。( 小さく溜息吐き / 告げられる言葉へ愉快げに笑みを浮かべて言葉を返すとソファの上で目を伏せ )逃避行も悪くなかっただろ。
──
…すげぇな。( 車から降りると目の前に聳える建物を眺め / まじまじと眺めながら小さく呟き / 聞こえた言葉に相手の方へ顔を向けると優先順位の高い物を嬉々として告げ )飛行船だ。早く行こうぜ。
…ふ、( 相手の様子に微笑ましげに口角を上げると飛行船の方向に顔を向け / 顎の下に手を当てては独り言のように呟き / やがて得心したらしく一つ頷くと後ろ手に車の鍵を締めて / 当然相手も着いてくるものと勝手に判断しながら歩き出し )確かそこまでは乗り合いのバスが出てるはずだ。買って…いや、ちょっと芝居してくるかね。
……( 気配もなく相手へ近付くと手首を掴み / 強い力ではないがするりと近くの路地裏へ引き込むと兄そっくりな顔を相手に近づけてまじまじと見詰め / 呑気ささえ感じられる調子でマイペースに零し )…へえ、…あんた、現地の奴じゃないな。…またあの兄貴がクソな手で引っ掛けてんのかと思った…
( 相手の言葉に耳を傾け自然と頬を緩めながらその背に続き足を踏み出し / あまりの気配の無さに反応が遅れ気付いた時には手首を掴まれており、まるで誘導されるように路地裏に引き込まれれば瞠目しつつ警戒心を剥き出しに其方へ視線を遣り / 反応ができなかった事に我ながら驚きながらも他人に触れられた嫌悪感も相俟って鋭い視線を向けたが、目の前にある見れば見る程覚えのある面立ちに言葉を失い / 呑気に零される声の半分は耳に届かなかったものの辛うじて意識の内側に入り込んだ単語に気を引かれると僅かに警戒心を緩め )は、……兄貴?
そう、……兄貴。この顔見たら大体分かるな、( 少し顔を離し、片手で眼鏡を外すと相手の言葉を復唱するように呟いて / 鼻先を相手の肩に近付け何かを確認するようにすん、と嗅ぎ / ぱっと顔を上げると途中から独り言のようになりながら首を傾げてのんびりと推測し続け )…ん?あんた、…どういう経緯でジャックの毒手に引っかかってるんだ?ギャンブル?人身売買?まさか色恋沙汰か…?
…紹?( 相手の姿が見えないことに気付くと途中で足を止め慌てたように振り返り / はぐれたのかと人混みを分けながら来た道を戻り / 流石にすぐには見つけられず周囲への聞き込みを優先する方針に変えて / 相手の特徴を通行人に伝えては焦ったように姿を探し )
…あァ、まあ大体はな。( 相手の言葉に至極適当に返しながら感心したような様子でまじまじとその面立ちを眺め / 相手が肩口に顔を遣ることで視界から消えれば然して抵抗もせず動向を窺っていたが独り言のように零される言葉には肩を竦めて答え / 直ぐに意識は飛行船と姿が見えなくなった相手の事へ傾き路地裏から僅かに顔を出して周囲にその姿を探しながら告げ )大した経緯じゃねぇよ、俺のモンになって、って言われたから了承してやったンだ。…もう良いだろ、これから飛行船乗ンだよ。
…へえ、アレがそこまでストレートに。興味が湧いたな……、( 相手の言葉に驚いたように目を見開いて / 再びぐっと顔を近付けて全身を眺め / 表の道へと向いた相手の顔に両手を伸ばしては此方へ向けさせようとして / 成功するならば互いの唇に触れる直前まで鼻先を近付け )
んだよ、はぐれ……( 路地裏の一つから顔を出している相手を目敏く見つけると小走りで駆け寄り / 身勝手な文句を口にしようとした直後、背後から見ても己によく似ていることが分かる背格好に気付けば苦々しく顔を歪め / 相手の手首を掴んでそのまま背に庇おうとし )…ジュード。どういうつもりだ?
…おい、離れ…ッ、( 直ぐに見つかるものと思っていた相手の姿が人混みによって容易には探し当てる事ができず、思えば脱獄をしてからと言うもの相手の所在が分からない状況自体が初めてでその事実を認識した途端得も言われぬ不安に駆られ / 此処に至り漸く焦りを感じ始めた時頬に触れた手によって行動を妨げられれば不機嫌さを露わに其方へ目を向け / 想像以上に互いの距離が詰められている事に気づけば反射的に身を引くもつい先刻と同様に手を引かれるのと同時に聞こえて来た声に安堵を覚え大人しくその背の後ろへ引っ込み / 早鐘を打つ心音を鎮めるように細く息を吐き出し )
…兄貴の毒牙を心配してただけだ。…それとも何だ、柄にもなく真剣交際ですとか抜かすか…?( 背に引っ込んだ相手の顔を覗き込むようにしながら挑発するように口角の片端を上げ / 兄の顔と見比べながら近くの壁に片方の肩を預け / ふと視線を上げると相手にだけ見えるように口元で『紹』と象り )
…うぜえな。俺がどうしようと勝手だろ。コイツにはもう関わるなよ。( 相手を掴んだままの手に力を込めて弟を睨み / もう話すことは無いと言うようにくるりと背を向けるとそのまま相手を引っ張って路地裏から出ようとして / 背に視線を感じながら通りに出ると独り言を呟き )…予約の時間、逃しちまったわ。
( 相手の物言いに流石に反感を覚えるものの口を開く雰囲気でない事を察し不快そうに顔を顰めるに止め / とは言え血縁者でありながら一体どういった関係性なのかと双方の遣り取りを半ば傍観する思いで眺めていた最中、ふとその唇が自らの名の形に動くのを目に留めると片眉を上げ / 早々に歩き出す相手に合わせ手を引かれるまま路地裏を出ながらも肩越しに横目で路地裏を見遣り / 既に意識は飛行船よりも初めて見た相手の血縁者の事に傾いており揶揄とも冗句ともつかない声で述べ )…お前と違って随分親切心溢れる奴だな。
親切心?野心と征服欲と略奪欲、それに性欲の間違いだ。( 路地裏から出ると相手の言葉に低く返しながら繋いだ手を離さないまま近くのベンチに座り / 相手にも座ることを視線で促して / 手を解くと相手の唇に親指の腹で触れ )どこも触られてないだろうな。
────
遅くなって悪い。一ヶ月弱も留守にしていたし、お前はもう居ないかもしれない。そうなっていても当然だとは思うが、謝罪と返事の言葉を残させてもらう。
もしお前がまだここにいるのなら、もう一つ付け加えたい。前までのペースで返事をするのはもう無理そうだ。一ヶ月に一度のペースになるかもしれないし、下手をすればもっと期間が空くかもしれない。それに、前までみたいに展開を運べるかどうかもわからない。
そんな不安定なスケジュールしか伝えられないんだ、すまん。だからこの文を見たとしても、そのままスルーしてこの場所自体を忘れてもらっても構わない。もちろん、お前に疑問や不満が残っているならそれには答える。
お前と大差ねぇだろ。( 場の空気にそぐわない軽口を零しながら促されるまま隣に座り / 唇に触れる手を鷲掴むとその掌に頬を添わせるように寄せ / ぼんやりと記憶を辿りながら問いを返し )触られはしたよ。何か問題あんのか。
──
別に良い。俺もそれなりに忙しくしてたし、お前が居なくてもまァある程度気は紛れたからな。
ンで、諸々了解した。別に返事なんかいつになっても良いぜ、どうせお前から離れる事を選ぶなんて無理な話だ。
ただ、お前がもうこの場所に然程楽しみを見出してねぇなら立ち去るのも吝かじゃねぇ、って事だけは言っておく。義務感やら義理みてぇなモンでお前に負担掛けてンだとしたら、それは俺としても本意じゃねぇからな。
どっちにしたって俺が此処を終わらせる決断はできねぇし、終わらせンならお前から終わらせてくれ。嫌な役回りを押し付けちまって悪いな。
( 聞いた途端にあからさまに眉を顰め / ?に触れる手はそのまま、相手の身体を抱き締めて / 不満を露わにするようにきつく締め上げ )……ある、触らせんな、俺のだろ
─────
どっちにしたって……のあたりから言えるのは俺も同じだってことだ。ただ、楽しみと言うよりも展開を考え辛くなってきたのが多少ある。これからどう言う風に舵を取っていくか、とかそういうのにちょっと手詰まってんだ。俗に言うスランプってやつかもしれないんだが、こんな状態でやり取りしてんのもお前に負担をかけるかもなぁ……ってことで、身を引くかどうかは迷ってる。情けなくて悪いな、これが今の正直な俺の心境なんだ。
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