ジャック 2023-10-06 23:38:18 |
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この先一生なる機会なんかねぇだろ。( 横目に相手を見遣り独り言のような声色で返し / 一瞬意識が逸れているうちに舞台上に現れた軽業師の様子を目で追えば感心したような声で零し )…へぇ、人間でもあんな事できンのか。
そうとも限らねえぞ。事実は小説より何とやらだ。……そうだな。まあアレは人間じゃないかもしれねえけど。( クスクスと笑みを漏らして首を傾げ / 煙の演出と共に仕事を終えた軽業師は舞台上から姿を消し / 演目は再び移り変わり子どもの体格であろう象が連れて来られると長い鼻先で玉遊びをし始めて / ポンポンと空中に投げられる玉をすべて回収し終わるとピエロの格好をした役者が公演の終了が近いことを告げ / どうやら今回は試験公演に近い公演であったらしく近々行われる『投票』に一票をお願いしており / 最後に優秀なパフォーマーがいれば此方に降りて会場を手伝ってくれ、という旨をパントマイム混じりに喧伝して / 観客をぐるりと見回すと男二人と言う組み合わせが目立っていたのか此方にぴた、と人差し指が合わせられ / どちらに合わせられたといったものでもなかったが集まる視線の中座っている相手の背に手を添え / 笑み混じりにすべてを押し付け )お前やって来いよ。得意だろ。
…あァ、なるほどな。( 相手の言わんとする事が分からず片眉を上げるも特に本気にもしておらずぼんやりと舞台を眺めており / 人間ではない可能性に今更思い当れば一人納得したような声で漏らし / 舞台の上で次々に繰り広げられる曲芸と初めて実物を目にする動物に意識を奪われ暫く無言で舞台上を見詰めており / やがて公演の終わりが近い事を知らせる声に舞台へ向いていた意識が逸れ目にした輝かしい光景を脳内で思い返していたが、不意に背を押されれば押し出されるように中途半端な姿勢で腰を浮かせ / 気付けば舞台に立つ者の指先が此方へ向いておりその役者と相手へ視線を行き交わせながら眉を寄せ )はァ?何を。できる事なんかねぇよ。
あれやって来いよ、火ィ出すやつ。そういう芸当は俺より適任だろ。( 先日の街でも披露していたパフォーマンスを思い返しながら適当に返して / ピエロの口にする言葉自体は公演というよりも余興に近いのか話がまとまるまで場を繋ぐピエロの声が響いており / 相手がどう出るか楽しむような笑みを浮かべながら様子を窺い )
何で俺が、( 何の益も無いというのにただ人間に披露するのは些かの反感があるのか不満げな声を上げ / しかし判断を促すためか観客を楽しませる意図があってか挑発的な言葉の後に周囲に仄かな笑いが起これば眉を寄せて舞台上のピエロを睨み / 腰を上げると無遠慮に舞台上に上がり、徐に合わせた掌を左右に開けばその中心に不安定に形を変える青い火炎が現れ / 大きく息を吸った後思い切り吹きかけると立ち上る黒煙が先程目にした獅子の頭部を模し、対峙したピエロの背丈程ある巨大な口を開いてその姿を呑み込み / ピエロの姿を束の間覆い隠した煙は閃く蝶の姿を模し霧散していき )
おお、( まさかこんな芸当を持ち合わせているとは思っていなかったようで観衆からは大喝采が巻き起こり / どの様な原理なのかは未ださっぱりわからないが舞台上の芸術に見入るように身を乗り出し )
( 周囲の喧騒はまるで気に留めずピエロに一泡吹かせる目的を果たし早々に舞台を降り / 相手の前に立つと急かすように苛立ち混じりの声を掛け )もう行こうぜ。
( 促されるまま席を立つと何とか持ち直し公演終了の挨拶を終えているピエロの声を後ろに出口に向かって歩き始め / 仕込みだと思われているのか相手に向けられる視線には大衆の好奇心と感心が寄せられており / 中には相手に向かってくる人々もおりやんわりと跳ね除けながら出口にたどり着き / 入場時にも見た受付から会場を後にしようとすると、どうやら関係者らしき人物が背を追いかけてきており / 相手を熱心に見つめながら勧誘の声を掛けていて )
( 向けられる視線に気が付かないほど鈍感では居られず鬱陶しい事この上無い感覚に終始不機嫌そうに黙り込み / とは言え相手の対応のお陰で特に阻まれる事も無く出口へ向かうも不意に横から声を掛けられれば横目で其方を一瞥し / 無論他人と関わるつもりも無く直ぐに視線を逸らすと言葉を並べ立てる人間に向けているようにも独り言にも聞こえる声色で一言呟き )…煩ぇな。
( 対峙する関係者は相手の様子に狼狽えたように身動ぎしており / 相手とその様子を何処か愉快げに見守っていると話の合間にふと口を開き / 自身と相手が流浪の演者である等嘘八百をでっち上げ / 対応次第ではそちらに居着いてやってもいいと心にも無い言葉を吐いては相手と自身の分の本部優待チケットを貰い / 持ち帰って検討する旨を述べると身を翻し / 上機嫌で足早に場を去って )この先もっといいところにタダで入れるぞ。
( それまで遣り取りを静観していた相手がこの場で口にする事が面倒ながらも悪い話ではない事は経験上何と無く理解しており口を挟む事無くぼんやりと聞き流しており / やがて話が纏まったのか歩き出す相手の後に続きながら問い )良い所?
言ったろ、ここは所詮登竜門なんだ。とっくのとうにこんなところを去った奴等の芸が見れんだよ。…まぁ、其処まで行くのもそれなりに時間掛かるが。( 相手からの問い掛けに片方のチケットを渡しながら答え / チケットに書かれた期限と睨めっこをしながら足は止めずとも道中の計算をし始めて )
またスカウトの声かかるかも知んねえな。( ある程度目処がついたのかポケットにチケットを仕舞い / 相手の頭にぽんと手を置いて愉快げに首を傾げて )
俺は割と嫌いじゃねえからな。…後はまあ、俺の番を自慢したい気持ちもある。( 明け透けに自身の意図を述べてしまうと肩を竦めて / そうこうしている内に宿の近くまで来て / 思い出したように問い掛け )…お前他に買うもんあったか?
…ンなら丁度良いな。俺は誰にも見せたくねぇし。( 互いの性質に反しているようでありながら一概にそうとも言えない妙な状態に片眉を上げ / 損を被っている気がしないでもないが自慢されていると思えば悪い気はせず複雑な心境のままゆるりと首を傾げて呟き / 問い掛けに短く答え )無い。
俺は注目されんの好きなんだがな。( クスクスと笑みを漏らしながら冗談交じりに良い添えて / 相手の答えに頷くと宿への帰路につき / 幾らもしない内に辿りついた宿泊先に足を運ぶと早々に部屋に戻り )
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