ジャック 2023-10-06 23:38:18 |
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( 代金を手に屋台へ向かえば文字ばかりのメニューを前に例の如くそれなりの時間を掛けて店主との遣り取りを終え / 紙に包まれた商品を二つ受け取り相手の元へ戻れば一つを差し出し )ん、お前の分。
ありがとな、お前もちょっとは慣れたんじゃねえの。( 片手で受け取るともう片手で相手の頭を撫で / 傍らの休憩スペースのような場所へ座ろうと視線で促しては自身もそちらに向かって歩き出し / 道中ついでとばかりにカップに淹れられた水を店の者から貰うと小さなテーブルの前に置かれたベンチに座り / ちゃっかり相手の分も追加で貰うとカップを差し出して )お前のな。
…でもやっぱ字読めねぇと不便だな。( 頭を撫でる手に目を細めながらも監獄を出てからというもの文字が読めずに手間取る機会が増えたように感じ独り言のような声色で呟き / 促されるまま相手に続きベンチに腰を下ろし / カップを受け取ると早々に包みを開き大きく口を開け頬張り )ありがと。
だから言ったろ、教えてやるって。( クスクスと笑みを漏らしながら手を引き / 礼の言葉に肩を竦める事で応え / 自身も渡された包みを開くと食べ始め )
物を覚えンのが得意じゃねぇンだ。( 表情を曇らせると先日から相手の言葉に対し渋っている理由を端的に告げ / 口の中の物を咀嚼し呑み込めば頬を緩めて呟き )…うま。
追い込まれると覚えられるぜ。罰ゲーム付きで教えてやるよ。( 理由を告げられても尚楽しげに言葉を重ね / 相手の言葉に同意するよう頷くと親指の腹で唇の端を拭いながら呟き )…割と当たりの店ばっか引いてるな。
…お前は好きな男を追い詰めンのが趣味なのか?( 不満を隠そうともせず眉間に皺寄せ / 呟かれた言葉へ横目で相手を見遣り )はずれがあンのかよ。
んなことねえよ。お前に文字を覚えさせたいって言う親切心だ。( さも不満そうな表情で応え / 肩を竦めると食べ終わった後の包み紙を傍らの塵箱に投げ捨て )そりゃ不味い店もあるだろ。ろくな材料使ってねえとか。
親切心があンならもっと精神的な負荷を減らしてほしいね。( 片眉を上げると苦言を呈し / 口角を上げて呟くと同様に包み紙を捨て )俺の審美眼がまだナマクラになってねぇってわけだ。
俺と一緒に居るんだから負荷なんてねえだろ。( 口角を上げてなんの躊躇いもなく言い切り / カップの水を一気に飲みきると同様に塵箱に捨て )そうだな、これからも頼りにさせてもらうぜ。
俺もそう思ってンだけどな。何でかお前と居ると心が穏やかじゃねぇ時があンだよ。( 呆れの滲む声色で返し肩を竦め / カップを捨て空腹が紛れれば立ち上がり )あァ、期待してろよ。そろそろ行こうぜ。
何でだろうな。まあそれも慣れりゃ癖になるよ。( 素知らぬ顔で惚けた言葉を返して / 頷くとベンチから立ち上がり目当てであるサーカスのテントの方へと歩き出し / やがて見えてきたのは赤と白の縦線が入った凡そ二階建てほどのテントの入口で / この辺りでは少し大きめの舞台らしいそこで受付を済ませると相手の方を振り返り )結構良い席だな、横からだが最前で見られるぜ。
慣れさせンなって言ってンだろ。( そうなる未来も何となく想像出来てしまい眉を寄せ / 相手の後に付いて行けば前方に見える派手な出で立ちのテントに惚けたような視線を向け / 何処か現実味に欠ける様相のテントの内部は思っていた以上に広々としており周囲へ視線を走らせ / 告げられた言葉へ頬を緩め )へぇ、よく見えそうだな。
慣れずに翻弄されてたほうがいいって?…そうだな、運が良い。( 答えながら内部へと入ると指定された座席の方へ足を進め / 席に着いた時点で既に開演直前なのかテント内は人々で賑わっており / 段々と明かりが落ちていけば並行するように開演前のアナウンスが流れ / いくつかの注意事項と共にざわめきが静まっていき )
( 何処までも憎まれ口を叩く相手を眉を寄せて一瞥するもそれ以上は何を言うでも無く口を噤み / 相手に付いて歩きながらも視線は忙しなく周囲の様子を窺っており / 徐々に暗くなるテント内に響くアナウンスに無言のまま耳を傾け / 動き回りこそしないものの何処と無く落ち着かない様子で舞台の方を眺め )
( 地に足がつかない様子の相手の気配を伺っては人知れず笑みを漏らし / やがて中央舞台にスポットライトが当たり座長らしき小太りの人物が挨拶口上を述べ / またライトが切り替わると舞台の様相が変わり、人の代わりに檻に入れられた獅子と猛獣使いが現れ / もう一つの場所にライトが当たると其処には燃え盛る火の輪が用意されており / 火の輪くぐりの説明の合間に檻から解き放たれた獅子の体を鞭で叩く音が鳴り響くと、地を蹴る音と共に輪の方へと走り出して )
( 舞台に立ち話し出す人間の様子を興味半分に眺めていたが、やがて舞台上に檻に入れられた獅子が現れれば僅かに瞠目し / 猛獣の類を見るのは初めてで食い入るように見詰めており / テント内に響く説明の声は殆ど耳に届かなかったが体を打つ鞭の音に意識が引き戻されれば微かに顔を顰め / しかし次の瞬間には走り出す獅子の様子に再度意識を絡め取られ息を呑んで見詰め )
( 舞台上の様子は極めてオーソドックスと言っても良く半ば観察するような目線を向け / ふと相手の様子を見れば公演より移り変わっていく表情の方に興味をそそられ / 一度目の火の輪くぐりは見事に成功したようで獅子が輪を通り抜けた瞬間拍手喝采が鳴り響き / 器用に鞭を操りその後も何度か輪を潜らせると獅子と猛獣使いは退場していき / 何となく先程鞭の音に顔を歪めた相手の表情を思い返しては耳打ちして )…お前動物好きなのか。
( 恐れも危なげも無く炎に包まれた輪を潜る様子に素直に感心し感嘆の声を漏らし / 獅子が姿を消すまで興味津々に眺めていたが不意に横から相手の声が聞こえてくると先程までの光景を思い返し僅かに眉を寄せ )…別に好きではねぇけど、見てて気分良いモンじゃねぇだろ。
…なら猛獣使いにはならないほうが良いな。( 相手の言い分を理解しながらも鞭で追い立てられる場面は割と見慣れている所為か冷たいとも取れる反応を返して / やり取りしている間に出てきたのは軽業師で天井から吊り下げられるブランコやロープに次々と乗り上げていき / 空中でなんの助けもなくくるりと一回転すると糸を操りながら地上へと着地して )
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