乙種七類型調査隔離　──番、〆

事前ね。お前演技出来たのか？( 尤もな苦言にも飄々とした調子で返し / 機材の操作を終えると並べられた夕食に目を遣りそちらへと踵を返して / 演者の要素が強い一帯である為か然程珍しい物は無いものの栄養バランスに加え十分な量が摂れるもので / 席に着くと相手にも視線で促し )

…俺が余計な事言うかもしれねぇだろ。( 演技の可否については言及する事無く不満げに告げ / とは言え何事も無く事が運んだ分には納得し促されるまま相手の正面に腰を下ろし )

どうとでもなる。俺はそこそこ口が上手いんだ。( 自分で言うような事ではあるのかは兎も角としてそれなりに自信があるようでクスクスと笑みを漏らし / 相手が座るのを見届けては何処で手に入れたものか諸々のフライヤーを取り出し / 食事の並ぶテーブル端に置くと相手に指し示し / 大衆演劇からサーカスまで幅広いショーの文言が並ぶそれに首を傾げ )…明日どっか見てくか？色々見世物はあるが、気になるのがあれば言え。

( 相手の自信も尤もな部分が否めず未だ腑に落ちないような表情ながらもそれ以上反論する事はせず / 腰を下ろせばテーブルに並べられるフライヤーへ視線を向け / 手に取り少しの間無言で眺めているも派手な装飾と動物の姿が描かれたサーカスのフライヤーに視線を奪われればそれを相手の方へ向け )これが見てぇ。

…へえ、曲芸が好きなのか？( 相手が指し示したものを見れば緩く首を傾げて / 相手の手からフライヤーを回収するとしげしげと紙面を眺め / 一通り目を通して満足したのか並べられた食事に手を着け始め )

曲芸より動物だな。あんまり見た事ねぇンだよ。( フライヤーが相手の手に渡れば早々に料理を口に運び / 満足げに目を細めつつ食事の傍ら問いへ答え )

…飼い慣らすのは得意そうだよな、お前。( 何となくの印象を口にしながら腹が空いていたのか早いペースで皿を空にしていき / 相手の想定する動物が何の種類なのか考えを巡らせながら問い掛け )その内何か買うか？

どうだろうな。動物飼い慣らした経験なんかお前以外にねぇから。( ゆるりと首を傾げると小さく笑いながら言葉を返し / 問い掛けに料理へ手を伸ばす傍ら当然のように答え )世話できねぇだろ。俺はお前に構うので手一杯だし、お前も俺に構う以外の時間は早々ねぇンだから。

飼い慣らすか。俺はあんまり利口じゃねえから噛み付くけどな。( 言いながら笑み混じりに犬歯を見せ / 話している間に粗方胃に収めてしまったのか酒をグラスに注ぎながら答え )…確かにな。お前が俺よりそいつに構ってんの見りゃ殺しかねんし。

そうかもなァ。けど前よりはかなり利口になったぜ。( くすくす笑いながら相手の口元へ視線を遣り / のんびりと料理を咀嚼する最中冗談が否か判別の付かない物騒な言葉が聞こえてくると片眉を上げ )そりゃ尚更動物なんか飼えねぇな。

前ってのは何時のことを言ってんだ？( つられたように笑みを零しながら緩く首を傾げ / グラスに口を付けなみなみと注がれた液体を一気に飲み干して / 行儀悪く口元を手の甲で拭いながら口角を上げ )まあ俺で我慢しとけ。お前には俺だけでいいからな。

お前が俺のモンになる前。( 漸く食事を終えると満足げな表情を浮かべつつ上機嫌に答え / 相手の仕草を目を細めて眺めつつ口元に笑みを湛え )言われなくても、俺はもうお前以外に大した興味も持てねぇよ。

なるほどな。気を引いてるときってことだ。( 空になったグラスを軽く弾きながら呟くように言い添え / 冗談半分の調子で誂うように目を細め / ふと顔を上げると相手に向かって悪戯げに夜の誘いのことについて釘を差し / 言い終えると相手の返事を聞くより早く身を清めるつもりでシャワールームへと姿を消して )そりゃ俺に夢中にさせて悪いな。…それと、約束は忘れんなよ？

それか俺がお前にとって他人だった頃だな。( 気を引いていると言われれば可愛げすら感じるのだから便利な物だと半ば呆れ混じりに考えながら言葉を返し / 今更言われずとも明らかな事をわざわざ謝られては揶揄と理解して肩を竦め / 不意な言葉に目を瞬かせると言い逃げのようにシャワールームへ去る後ろ姿を眺め / 遅れて意味を理解すると一人になった部屋で苦々しく顔を歪め )

…俺は最初からちょっかいを掛けてたと思うんだがな。良い男には粉掛けんのが礼儀だし。( 過去を思い返しながら笑みを零して / 程無くして、大して普段と変わらぬ様子でシャワールームから出て / タオルで頭を拭きながら相手に示し )お前も入れよ。

良い男になら誰にでもやンだろ。他人と変わンねぇじゃん。( つい最近までは相手の中で自分と周囲の者が差別化されていた事にすら気が付かなかった手前特に変わった様子だったとは思えずゆるりと首を傾げ / この先の事を考え一人鬱々としてた所へシャワールームから出て来た相手に促されるまま立ち上がり一先ずシャワールームへ向かい )…あァ、

他人の中でも特別良い男だったってことだよ。( 既に会話の始まりがどうだったか等意識の範疇外にあり適当な言葉を返して / 相手の様子を気遣うでもなく入れ替わりのように擦れ違うとソファへと腰を落ち着けて / 髪に刷子を当てながら手持ち無沙汰に片手で先程のフライヤーを見始めて )

調子良い事言いやがって。( 相手の言い分に片眉を上げると肩を竦め / 手短にシャワーを済ませると頭からタオルを被り水気を拭うのもそこそこに相手の横へ腰を下ろすとフライヤーを覗き込み / ふと疑問を口にして )…お前はこれ見た事あんの。

( 相手の言葉に何を言うでもなく笑みを浮かべながら肩を竦めて / 隣に座る相手の頭に掛けられたタオルに手を伸ばすと軽く拭い / 相手の問いかけに首を傾げると当時を思い出すような口振りで目を細め )俺？あるよ。そん時引っ掛けたヤツがサーカスの団員でな、見に来いつってチケット渡されたんだ。

( 相手に髪を拭かれるのも慣れた物で当たり前のように身を任せながらその言葉へ耳を傾け / その返答に純粋に驚く一方で意外にも思いながらフライヤーを眺め )へぇ。そういう時行ってやるンだな。