アイドル様 2023-09-16 18:48:49 |
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(彼女の瞳からはらはらと落ちていく涙を持っていたハンカチで拭いながら、これからの事を考えて。泣き疲れた彼女の事をまずはソファーにゆっくりと下ろして、朝着ていた上着を彼女の体にかける。とりあえずは休ませることが一番だが、会場内は恐らくザワついているし、握手できなかったファンはきっと何かしら不満を抱いていると思う。その後処理をするべきだろうが、今離れて彼女に何かあったらと考えるだけで。俺なんかよりも女性が着いていた方がいいだろうと判断して、女性のスタッフを呼び出すため、寝ている彼女から少し離れて電話をかけ)
……ん、……。
( かけられた上着をきゅ、と柔く握り、暫く落ち着いて寝息を立ててたと思えばふと先程まであった温もりが無くなったことに気付いたのかぱちりと目を開け。そのまま自分に背を向けてどこかに電話をかけている彼の背中にぎゅ、と抱きつくと「…何処にも行かないって言った、」 と小さな子供が拗ねている時のようにむす、と艶やかな唇を尖らせて。 )
……悪かったって、ちょっと電話してただけだ
(完全に眠っているから大丈夫だろうと思っていたから、彼女のその拗ねたような声と、背中にあたる体温にびっくりしてしまい、振り向くこともできずに、申し訳なさそうに苦笑いをして。さっき来てくれと言った女性スタッフにはメールで「やっぱり大丈夫、そっちの仕事をお願いします」とだけ送って、仕事用のスマホをポケットに直して。彼女にまたソファーに座るように促して「今は落ち着いたか?」と、恐る恐る確認するように聞いて)
……あと五分。そうしたら握手会再開して。
くれぐれも来たお客さんたちには騒動のことは伝えないで。握手会が終わったら公式から注意喚起でもなんでも出していいから。不安にさせたくないの。
( ぽすん、と彼に促されるがまま大人しくソファに座ればそのままこてりと彼の肩に頭を預け、行動こそはいつもと真逆の甘えたがりだが言葉はすっかりいつもの彼女のような勝ち気で可愛げのない声に戻っており。最も、まだ笑顔で握手ができるような精神状態ではないし本来であれば握手会は中止されるのが当然なのだがさくらの中で中止という2文字はないらしく。「 それから2分後にメイク治すから2分経ったら教えて。こんな顔じゃ人前に出られないもの。メイクさんはいらない、自分で直せるわ。 」 とすっかり涙に濡れてしまい赤みを帯びた目元を後ほどメイクで隠すと。未だ震える手はおそらく持ち前の演技力と気合でどうにかするのだろう。どうやら彼女の中でメイクを治すまでのタイムリミットである2分間はスイッチの切り替え時間らしく。 )
…そう言うと思ってたよ、お前なら
(自分の肩に預けられた彼女の頭を自然な流れで撫でて。安心というかやっぱりな、と感じで笑ってみせて。2分たったのを時計で確認して、「準備を始めよう」と手を取って立ち上がる。メイクさんにもそんな顔見せたくないのを察し、自分は少し離れたところで彼女が準備をしている間、会場と対応をしてくれていたスタッフ達に「あと5分で再開する」と伝えると、みんな驚きの声をあげて。普通は中止すべきでは、と言いたいことは分かるが、その主役の彼女がそれだけは許さないからな、とそんな一言で一旦締める。震えている手が自分の視界に入った瞬間、居てもたってもいられず「メイク、俺がしてもいいか?」と提案して)
─── 伊吹さんが、?
( 己で己を奮い立たせようとはしているものの、身体はどうしても正直に自分の恐怖心をアピールしてくる。メイクをして表に出たい心と反するそれらに眉を歪めていれば、ふと彼から思ってもいない提案を受けて思わず大きな瞳を丸くさせて。メイクなんてできるの、なんて軽口を叩けるほど精神が安定していればよかったけれど、どうにもそういう訳にはいかず「 …可愛くして。世界でいちばん。 」と懇願にも似た小さな言葉を零せば、そっと長いまつ毛に彩られた瞳を閉じて無防備に彼に顔を向けて。 )
メイクさんがやるのに比べたら下手だが、少しでもお前の力になりたい
(彼女の前に跪くように屈んで、真っ直ぐと見つめて震えてる彼女の手に、自分の手を重ねて。いつもの彼女だったら「できるの?」くらいは言ってくれると思っていたが、そんなことしている暇じゃないのにと反省して。無防備に向けられた彼女の顔に、メイクさんがしているように、ほとんど見様見真似だがパウダー、アイライン、アイシャドウ、マスカラ、チーク、と重ねていく。自分の好みになってしまうが今回だけはしょうがないと流して欲しい。自分好みに染めていく、こんな行為に少し背徳感を覚えてしまったのは秘密だ。「最後、口紅塗るぞ」と手元にあった赤のリップを手に、彼女に声掛けて)
─── ……ん、
( 優しく宝物を扱うかのようにそっと触れる彼の手に、男性のメイクさんも少なくないこの業界に慣れたさくらはなぜだか少し緊張してしまう。だが彼の手が頬に触れる度、先程まで身体中を支配していた不安やマイナスな感情が分散されていくような感覚も同時に感じ。彼の言葉にぱち、と先ほどまで閉じていた瞳を開けば彼を見上げ、口紅を塗りやすいように唇の力を抜きながらまたあらためてゆっくりと目を閉じて。 )
………よし、できた
一応確認してくれ、直すところがあったら直してもらっていい
(慎重にリップを塗ったあと、目を閉じている彼女に声をかけて。自分の方が年上だが、きっと彼女の方がメイクの腕だって上だと思う。もしかしたらお気に召さないかもしれないと思い、直すように伝えて。そうしていると、さっき言ったタイムリミットが迫っていて。こちらから急かすのはせずに彼女の答えを待って)
─── ううん、かわいい。
( 鏡に映るのは、確かにいつもの自分とは少しだけ違う顔。だがそれはきっと彼にとっての〝春原さくらがいちばん可愛く見える顔〟なのだろう。それもまた自分にとってのお気に入りの自分なのでさくらは先程塗ったばかりの艶やかな口紅が光る唇をふ、と口角を上げてみせて。そうすれば鏡にはいつもの自信に満ち溢れた偶像が映る。これから外に出るのは其れだけでいい。恐らくもう先程のタイムリミットは迫っている。さくらは1度だけ彼にぎゅう、と抱き着いてはぱっと体を離す頃にはいつものアイドルの顔に戻っており、「 いってきます。 」と。廊下や会場で心配そうに話しかけてくるスタッフたち一人一人に握手会を中断させてしまっていた謝罪と対応への感謝を告げつつ定位置に戻ってくれば、先程刃物で切り掛かられた人物とは思えないほどいつも通りの笑顔を浮かべながら着々と握手会をこなし、更には握手会終了後にキャンセル待ちのファンたちの元に顔を出し「? ? ?次は直接お話しようね! 」なんて言葉をかけるほどの徹底ぶりで。 )
そうか、気に入ってくれたようでよかったよ
(鏡に映った自信ありげに笑う彼女に心底安心したように、息を吐いてみて。いつもとちがったようにはなってしまったが、今の彼女はどんな人間よりキラキラとしている。誰もが手を伸ばしてしまう偶像そのものだ。そんな彼女から抱きしめられて目を見張って動けなかったが、なんか変にドキドキしてしまって。行ってきます、という彼女に「行ってこい」と送り出して。まるで戦場へと赴く気迫だ、と他人事に感じて。廊下で謝罪をする彼女の後ろ姿を見ながら、俺もこんな所でぼさっとしてちゃいけねぇな、と警備服からいつものワイシャツとスーツパンツに着替えて廊下へと出て。「さっきはすみませんでした、もう春原は大丈夫です」と頭を深く下げて。攻める様子もなく笑ってくれているスタッフに、自分は周りに恵まれていると実感する。握手会が終わるまではずっと影で見守って。スタッフに「なんかさくらちゃんのメイク、変わりました?」なんて聞かれてドキッとするが「さぁ、見間違えじゃないですか」と誤魔化したあと「そろそろ春原のところ行ってきますね」と、彼女が帰ってくるであろう舞台裏へと移動して)
─── … 。
( いつもだったら、楽屋に帰っても一切偶像を崩さずに車で敷地内から出るまで其れを徹底しているさくら。だが握手会が終わり、スタッフ一人一人に改めてお礼や握手を交わし、予めスタッフの人数分買ってきたケータリングサービスに一言とサインを添えて。それから楽屋に入って楽屋の扉が閉まるなりその場にへなへなと座り込んでしまい。ずうっと張っていた気が抜けたのだろうか、自分でも突然腰が抜けてしまったことに驚いているようでその桃色の瞳はぱちぱちと幾度となく瞬きを繰り返して。…終わった?ぜんぶ、やりきった?そんな疑問ばかりが頭の中を支配して、「 ?── …おわ、った。? 」とぽつりと呟くように言葉を零して。 )
大丈夫か!?
(何回もスタッフに謝り続けて、もういいよと笑って言われるのを繰り返した後、春原を探して。場所を聞くと、楽屋の方に行ったよと言われて足早に楽屋へとはいる。気持ちがはやってしまっていたせいか、ノックもせずに入ると腰が抜けてしまった彼女が目に入る。彼女の肩を優しく揺さぶりながらも頭の中は焦りでいっぱいになって。今日のことがトラウマになったらどうしようとか、もうこの活動をしたくないとか、勿論彼女の意志を1番に尊重したいが、アイドルとしての彼女をずっと見ているから分かるが、きっと辞めたくないと思っている…に違いない、と考えてしまうのは甘えだろうか、とふと思って)
─── …た…?
( 小さく震える声。語尾が若干聞き取れるほどの小さな声で彼に何かを問いかけては、ふるふると小さく震える肩と俯いた顔によって其れは一瞬泣いているのではないかと思ってしまうほどの様子で。だがしかしぱっと顔を上げたさくらの表情は涙に濡れるどころか満面の笑みで。「 見た!?完璧だったわ!アハハッ、やりきったのよ、私!すごいでしょ! 」そうキラキラした瞳で彼を見る様子はまるで幼い子供がテストで100点をとって親に褒めてもらおうと強請る様子にも似ていて。最も、命の危機に面した直後に復活するどころかファンやスタッフたちのアフターフォローまでこなした彼女は褒められるどころの話ではないのだが。 )
ほ、んとうに凄いな、よくやった
(泣いているのかと思い、心配したが彼女の子供っぽい、というか年相応な様子に少し呆気に取られて言葉が出なかった。本当に彼女はどこまでもトップアイドルという存在が似合う。だからこそふと、頭に浮かんでしまうことがある。そんな彼女に俺は相応しいのかと。きっと自分よりも敏腕なマネージャーはいるだろうし、今よりももっと彼女を輝かせてあげられる可能性だってある。俺なんてアフターケアよりも、現状を何とかするのに必死だったのに、そう思ってしまうとマイナス思考は止まらず。嬉しそうな彼女とは裏腹に、段々と顔が曇っていく)
、……?
伊吹さん、?
( てっきり彼が手放しに喜んで ─── もとい褒めてくれるものだとばかり思っていたさくらだったが、自分の高揚していた様子とは裏腹に表情の曇っていく彼に不安げに瞳を揺らしては自分よりもずっと背の高い彼の表情を伺うようにそっと立ち上がれば顔を覗き込んで。「 どうしたの…? 」なにか悪いことをしてしまったのだろうか、となぜだか自分の方が心が痛くなるような心地を覚えながら彼の冬空色の瞳を見つめてはきゅ、と整った眉を下げて。 )
…!ああ、いや、なんでもない
(昔からの癖で、考えれば考えるほどに自分が意図しない方向へと進んでいく。彼女を心配させている場合ではないというのに。顔を逸らして1歩離れてみせる。下手な誤魔化し方で笑ってみせるが、その笑顔も少し濁っていて。話を逸らそうと「今日、打ち上げがあるみたいだが行くか?」と聞いてみて。立て続けに「まぁ今日は疲れてるから帰った方がいいか」と何かを隠すように口数も多くなって)
……帰る。伊吹さん今日も家に泊まるでしょ。
( 彼は何かがあるとそれを隠すようにヤケに饒舌になる。それに気づいたのは彼が自分のマネージャーになってすぐの事だっただろうか。さくらはなにか取り繕っているような彼のぎこちない笑顔にむ、と眉を寄せれば打ち上げには参加せずに帰ると。マア確かに殺されかけたばかりなのに打ち上げに参加してヘラヘラと笑っていられるほどまだ高校生の彼女はそんな精神力を持ち合わせていないようで。まるで当然のように彼が自分の家に泊まると言葉を投げかければ「 ……その下手くそな笑顔の理由聞くまで寝かさないから。 」と白魚のような細く長い人差し指を彼の眼前に突き立てつつツン!とそっぽを向いてしまい。 )
……お前に隠し事はできねぇな
(いつもは彼女の家に送るか泊まるかの二択だったため、自分の家に泊まると聞いて驚いてしまって。饒舌になるくせは本人は自覚してなく、誤魔化せていると勝手に思っている。眉を寄せた顔にうっとしながらも、ぎこちない下手な笑顔を返して。なんとかなった、なんて思いながらの鋭い彼女の一言にかなり慌てた様子を見せるが、観念したように目を閉じてため息をついて。参ったという顔をしてこぼすように。こういう所が俺よりも大人なんだよな、と思いまた顔がくもってしまって。そっぽを向いた彼女に「今日はどこか美味しいものでも食べに行くか?」と、まるでご機嫌取りのような事を言って)
─── んふふ、伊吹さんの奢りね!
( 参った、と言いたげな彼の表情にぱぁっ、と表情を明るくさせてはちゃっかりとした一言を付け加えつつそう答え─── 最もただ奢られるのは嫌いなのでその後何か必ずお返しはするのだが ─── そのご機嫌取りに乗っかり。きっと優しい彼のことだろうから、今日のことで自分を責めたりマネージャー業を降りるなんてことすら考えているのだろう。だが残念ながらそんなことはさくらは絶対に許さない。…否、彼が辞めたがっているのならば止めないけれど。今回はきっとそうではないので。さくらはちら、と彼の方を見れば「 チャック。降ろして? 」とくるりと彼に背中を向ければ衣装のチャックを降ろして欲しいと。私服ならば自分で下ろせるのだけれど、如何せん今回は装飾が多く髪型がツインテールなのでチャックに巻き込むのが怖いのだ。あと今から女性スタッフを呼ぶのも手間だし、何よりお腹が空いているのでさっさと着替えてご飯に行きたいので。 )
( すみません遅くなりました…!! )
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