アイドル様 2023-09-16 18:48:49 |
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お、もう準備はできてるな
配置に着くまであと1時間くらいある、何か食べたいものとかあるか?
(返事を聞いたあとゆっくりと扉を開けて入室して。彼女の衣装を確認してうなづいて。いつもは裏方で仕事をしているため、ワイシャツにスーツパンツなのだが、今日は自分もお客さんの前に出ることになっている。マネージャーだと怪しまれないように警備員の偽装をしていて。慣れなさそうに被っている帽子を外して、白手袋をはめた手で持ち直し。長身のためかその格好もなかなか様になっている。格好は違っていてもオカン気質はいつものようで、心配そうに空腹状態を聞いて)
、……。
ううん、要らない。
( 振り向いた瞬間に目に入った彼の格好はいつもの彼とはまるで違う警備員の風貌で、確かにこれなら隣にいても不自然では無いなと納得してしまい。少し驚いた沈黙の後に彼の問いかけに答えればふるりと首を振って。昨日の夜から妙に食欲がなく、水分しかとれていないのだがそれでもやはり何も喉を通りそうになく血色の悪さを化粧で誤魔化していて。きっとマネージャーである彼にはバレてしまうし言った方が良いのかもしれないが、それで握手会に穴を開けたり少し早めに終了してしまうのも嫌だ。とあうのがプロとしてのさくらの意地で。「 ……客入りはどう? 」とふと何の気なしに聞いてみれば、楽屋からもその賑やかさは聞こえてくるのだがそれでも実際に見ていないことには不安らしく。 )
少しでも何か食べてた方がいい
とりあえず林檎、切ってきたから
(手に提げたトートバッグからご丁寧にうさぎ型にカットされた林檎が入ったタッパーを取り出して。この握手会に不安を覚えているのは見てわかる、顔の血色だって化粧とかで誤魔化しているが明らかに悪い。机の上に用意された水だってほとんど飲んでないようで。今倒れてしまったらきっと彼女はまた自分で自分を責めてしまうと思って。果物なら口に入れやすいだろうと思ったが、いつもの癖で飾り切り何てものをしてしまった。これじゃ食べにくいだろうと後悔していると、客入りを聞かれて「ああ、満員御礼って感じだな、今さっきキャンセル待ちまであるって聞いた」と答え)
、うさぎちゃん、……。
……いた、だきます。
( まさか自分がこうなることを見越していたのだろうか、彼の持っていたトートバッグから出てきたのは可愛らしくうさぎの形に飾り切りされたりんごたち。そういえばいつも彼が剥いてくれる林檎はこうして飾り切りをしてくれているな、なんて大して回らない頭でぼんやりと考えたあとに彼の言うこともご最もだと考えればそのままリンゴに手を伸ばしてシャク、と1口。蜜の甘みと心地よいリンゴの酸味が広がり、なんとなく乾燥していたような口の中が甘く満たされていく。客入りはどうやら上々のようでキャンセル待ちまでいる始末だと聞けばもう少し日にちやら時間を増やすべきだっただろうかと後悔してしまう。最も、此処が唯一のスケジュールの穴だったのでこれ以上は物理的に増やせないのだが。「 …キャンセル待ちしてる人に、最後手を振りに行くくらいしてもいいでしょ? 」なんて、自分のために時間を割いているファンのためにどうしても何かしたくて、触れ合えなくとも顔くらいは見せたいとわがままも理解しつつ彼の方を見上げて。 )
ああ、うさぎちゃんだ
(彼女のうさぎちゃん呼びに触発されたのか、自分も分からないままうさぎちゃんと言って。一応は喜んでくれているのかと少し安心して、咀嚼する彼女を眺めて。言っておきながら自分も朝から水を飲んでないことに気付いて、トートバッグから取り出した水筒を一気に飲み干して。キャンセル待ちが出るとは思ってなく、そこまでかと感じながら。でも彼女の体力が優先だからあまり席を増やすのは難しいと思うが、それを口にしたら私を舐めてるの?なんて返ってくるのは目に見えていて。どこまでもファンのことを考えているのか、と感心して。彼女の提案に一瞬驚いたが、彼女らしいと笑って「わかった、なんとか時間を作ってみるよ」と約束して)
ん、ありがと。
( 自分のわがままにもしっかりと約束してくれる優しいマネージャーにほっと胸を撫で下ろせば、これで少しは頑張ってくれたファンの人たちも報われるだろうと。だがしかしやはり心の中で握手会に対する不安は拭いきれていないのか胸の中のもやもやと妙な胸騒ぎが払拭されることはなくいつもよりも何だかぼんやりしているようで。「 …わたし、いつも通りに見える? 」懇願にも見えるその声色は、きっと今自分がいつもよりも微細ながら顔色が悪い自覚があり彼なら気づいているだろうという信頼の上での質問。気付いているのが彼だけならまだそれでいい、ファンに気付かれない程度ならばまだ演技でごまかせる。完璧な偶像でいられる。さくらはキュ、と形の良い眉を下げながら桃色の瞳で彼を見上げて。 )
………顔色は少し気になる
(彼女よりも燃費が悪いのか、朝食を食べたというのに腹が空腹を訴えてきて。慌てて隠すように腹に手を当て音が聞こえないように抑えて。あとでなんか食べとくかと考えていると、顔色のことを聞かれてじっと彼女の顔を見て、素直に思ったことを伝えて。そりゃそうだ、なんてため息をついてしまうのを堪えて。この握手会では、前に言ったファンが来るに違いない。このファンをどう捌くかを考えるだけで不安になるのだろう。「無理はして欲しくないが、春原なりの偶像を見せてこい」と自分なりの言葉で背中を押して)
─── とーぜん。
( 自分なりの偶像。自分にしか出せないものであり、自分が世間から求められているもの。さくらは彼の言葉にふ、と笑えば他の人には決して見せることの出来ない勝気な彼女らしい笑顔を見せて。そうして椅子から立ち上がりそのまま彼の胸元にとん、と拳を押し当てては「 先に行ってるわ。さっきスタッフさんの差し入れでクッキー缶もらったの。私は少ししか食べられないから食べておいて。 」と先程空腹を訴えた彼のお腹をちらりと見て告げて。食べていいよ、では彼は食べないので。そうしてひらりとフィッシュテールを揺らしながら楽屋を出ては会場の方へ歩き出して。 )
……もしかして聞いてたのか?
悪ぃ、ありがとな
(その偶像がいつか壊れないことを願いながら、彼女の笑顔を見送って。胸元に当てられた拳を握り返そうかなんて考えてしまったが、そんな事許されるはずもなく。少食なことは知っているが、彼女のために送られたクッキーを食べていいものかと思ったが、彼女の言葉にありがたく頂戴することにして。1口かじりながら、お気に入りの手帳を開いて予定を目で追って。彼女はこれからリハーサルをする、その間に自分は会場に例の人物がいるかを見ておくことにして、帽子をかぶり直して部屋を出て)
─── みなさーん!今日は来てくれてありがとうございます!
春原 さくらです。これからみなさんとたくさんお喋りできるのを楽しみにしてます。もう少しお待ちくださいね!
( リハーサルも終えて、いよいよ本番。開始時間が近づくにつれて更に賑やかさを増す会場へ一言だけアナウンスを入れればもう数回目となる握手会もいうこともありスムーズにイベントが開始される。控室では不安だった顔も完璧な演技で隠しいつも通りの偶像を貫き通すさくらではあったが、握手会も中盤に差し掛かった頃。帽子にメガネにマスクと完全に容姿を隠しているようななにやら様子のおかしい男がブースに現れるもさくらは特に何も変わった様子を見せることなくその男と握手を交わして。 )
(思っていた以上にやることが多く、耳元に当てたインカムから飛んでくる指示をずっと聞いては返しての繰り返し。賑やかになっていく会場に焦りを感じながらも、いつも通りのことをすればいいと自分を落ち着かせて、彼女のすぐ後ろに立って。一息つく間もないのは彼女も一緒、だからこそ頑張れてる所もある。帽子にメガネ、それだけで怪しいと思ってしまうのは気の張りすぎか、と思ってみるものの、やはり怪しい。前に注意するように言ったファンはまだ姿を見せてない、今日はいないのかと考えたがこんなに彼女に接近できる機会を逃すわけないと踏んでいる。今は様子を見ることしか出来ず、彼女とそのファンを見て)
こんにちは、来てくれてありがとう!
( 握手をして、一言二言会話をして、そうして終わる。本来であればそうなるはずだった。否、そうでなければならなかった。だがしかし握手をした手を離した瞬間、男が懐から取りだしたのは鈍く光る小型のナイフ。─── どうやって荷物探知や金属探知機を通過したのかとか、私ここで死んじゃうのかなとか、不思議とそのナイフが振りかぶられてそのままこちらに振り下ろされるまでの時間が永遠に感じられて色々な言葉が浮かぶ。だがしかし体は不思議なもので何故だか動かず、さくらはその桃色の瞳を大きく見開いたままぴたりと時が止まっているようで。男が何かを喚いているがそれすらも言葉として認識することが出来ず─── 最も男が叫んでいる言葉が支離滅裂ということもあるのだが ─── スタッフの悲鳴だけが耳にこびりついていて。 )
(声が出なかった。でも自分の周りの阿鼻叫喚にも似た声は耳に痛いほど届いていて。一瞬でも目を離さなくてよかったなんて冷静に思ってしまっている自分がいた。小型のナイフを見つめる瞳は瞳孔が開ききっていて、まるで獲物を捕らえるような視線で、今振り被らんとしている男へと手を伸ばす。首元を掴んでそのままの勢いで背負い投げをする、投げられた男の様子を確認する前に彼女が心配になり、激しく動いた時に頭から落ちた帽子も気にせず駆け寄って。彼女の細い肩を抱いて、心配と焦りが混ざった顔と声で「大丈夫か!?怪我とかないか?」とかなり大きい声で問いかけて)
─── 、。
( 息が、できなかった。目の前で男を背負い投げした彼のことすらも目に映ってはいるのに認識が出来なくて、耳元で聞こえた彼の声と肩を抱く大きな手になんとか答えようとするも震える喉からは声が出ず、その代わりに大きな桃色の瞳からは涙がぽろぽろと零れて。握手するブースはテントのようなもので個室になっているため他の客の目などは一切無いが、何やら騒ぎを聞きつけた待機中の他のファンたちのざわめきが聞こえるせいか〝偶像としてのスイッチ〟を上手く切ることが出来ず「 だい、じょ、ぶ。だ、じょぶ。 」と溢れる涙すらも認識できていないのか震える声でいつもの様に笑おうとくしゃりと顔を歪めて。だがしかし命の危機に直面したばかりの顔は真っ青で、体は小さくカタカタと震えており。 )
怖かったな、本当にすまん
もっと早く動けてれば…
(流れ込んでくるスタッフは男の方に夢中で、きっと自分たちの方には気にも留めないだろうと。笑おうとして歪んでいる彼女の顔に、不甲斐なさを感じてしまい。自分の胸に顔がいくように隠すように抱きしめて。いつもより力が籠ってしまう。こんなマネージャーなんかに抱きしめられるのなんてお断りだろうが、今は泣いてる姿を見られるのは1番嫌がることだと分かっている、だから今はこうして隠すしか出来なくて。謝っても仕方ない事だが、それしか言葉に出なくて。今は落ち着かせるのが優先だと判断し彼女の頭を撫でて。せっかくセットした髪が乱れてしまうが、今は許して欲しい。大丈夫と言う彼女に「今は誰も見てない、怖かったな」と優しい声色で囁いて)
っ、……
( 抱き締められて暗くなる視界と、それから彼の香りに包まれる感覚と、頭を撫でるやさしい手。それだけあればさくらの偶像を溶かすのも簡単なことで、誰も見ていないという彼の言葉で堰を切ったようにくしゃりと顔を歪めて涙を零し。だがしかし大声をあげて泣くなんてことはどうしてもできないのか小さくしゃくりあげながら彼の服をきゅ、と控えめに小さくにぎりしめながらそれに縋るように顔を埋めて。「 こわ、かった…。 」耳を澄ませないと聞こえないような小さな小さな声でそう呟いては、自分を守ってくれる彼の存在を確かめるように小さな子供のように彼に抱きついて。 )
とりあえずこのまま一旦退く
そのあとの話は楽屋でしよう
(彼女の耳元でなるべく怖がらせないように、優しく伝えて。近くによってきたスタッフから彼女を隠しながら「機材トラブルとか言って30分ほど時間を稼いでくれ」と指示をして。きっともう立てはしないだろうと判断して、上着を彼女の頭から被せてそのままお姫様抱っこの状態で楽屋へと向かう。騒動の中で色々なことを聞かれるが全て「後にしてくれ」と断って、楽屋のソファーへと彼女を下ろして)
や、やだ。
( まるで壊れ物を扱うかのように優しく抱き抱えられて移動した先は恐らく楽屋。そのままソファ下ろされたのだが、彼がそのまま離れてしまうと思ったのかさくらは不安そうな声でそのまま彼の首元にきゅ、と抱きついて。普段の気の強い彼女なら絶対にそんなことはしないしそんな勘違いもしないが、命の危機に直面した直後ということもあるのか精神が不安定になっているようで。「 伊吹さん行っちゃダメ、 」とピンクサファイアのような瞳からぽろぽろと大粒の涙を零しながら彼の冬空色の瞳を見つめて。 )
っ、わ、分かった。
(首元に込められた力に一瞬びくつくが、慌てて返事をして。一応楽屋には鍵はかけているし、誰も入ってこないだろうがこんな状況を見られたら懲罰物だ。でも精神面的に不安定なのは分かっているから、彼女を自分の膝の上に置く形で背中を摩って。こんな子供みたいなあやしかた、いつもだったら跳ね除けられているだろうが、今はこうするしかなくて。行っちゃダメ、なんて言葉に「何処にも行かねぇから安心しろ」と、なるべく怯えさせないように。何回も自分を呼ぶインカムに「俺はそっちに行けない、何かあったら俺に聞け」と、向こうでうろたえる部下に伝えて)
……ぅ、ひく、
( ぐすん、となかなか瞳から止まってくれない雫をそのままに。彼ならどこにも行かないと囁かれれば小さく小さくこくんと頷いて。暫く─── と言っても数分程度だが ─── そうしていたと思えば、さくらは泣き疲れてしまったのか彼の胸にこてんと体を預けたまま緊張の糸がぷつりと切れたように静かに寝息を立て始めて。ここ最近の多忙からの睡眠不足も相まったのか、涙の跡の残るあどけない寝顔を無防備に晒しながらも彼の服をきゅ、と掴む手は解けることなくそのままで。)
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