斎藤 悠介 2023-09-13 21:51:55 |
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( 自分の幸せなんて考えた事が無かった。そんなのを考え始めてしまったら彼が傍に居てくれる以外に思い浮かぶものがなく、先程の自分の発言とは矛盾したものになってしまう。脳内に思考が絡まって綺麗に流れていかない。自分なしの幸せが考えられないだなんてそんなの、と考える中で外れるシートベルトの音、去ろうとする声が聞こえると咄嗟に彼の手首を強く掴んだ。無意識の行動ではあったが手を通して伝わる彼の久しい体温に胸が酷く苦しくなって、胸の内を感情的に吐き出してしまいそうになるが一度目を瞑って軽く息を吐くと、握った手は離さぬままの力だけを緩めてゆっくりと口を開き )
…俺の幸せを、語るのならば、唯織さんと一緒に居たい。傍にいて、何気ない会話をして、一緒に食事をして…特別なものは何も要らないんだ。ただ唯織さんがいてくれれば、俺は、
…一緒だよ。俺も。
悠介くんの家の事も何も聞いてない俺が言うのは変だけど、守られるだけの立場は嫌だし、悠介くんといられるなら俺はどんなことでも耐えられるから。悠介くんがいなくなる方が俺は辛いよ。
悠介くんと2人で幸せになる道を考えたいって思うのはダメなの?
( 引かれた手に彼の方へ視線を再び向ける。その力の強さと裏腹に静かな彼の言葉は胸に響いて泣きそうになり。彼の家の事情をよく知らない自分が言えたことでは無いが、いまはそんなことはどうでもよく、彼が幸せになれる道はないのかと柔らかく微笑めば自分の手首を掴む彼の手にそっと包み込むように触れて。)
……ダメじゃない。
( 温かな手が重なって、辛さが緩和されたかのように穏やかな気持ちが胸を掠める。今まで一人で何でもしてきて、解決してきた為に彼と共に考えるなんて選択肢は頭に浮かんでいなかった。そう思えば今までの行動は自分勝手過ぎたんじゃないか、嫌われるのを恐れて嫌な事を避けて彼に理由を告げることなく遠ざけた。申し訳なさや後悔が襲ってくる中で未だに自分を想って歩み寄ってくれている彼に対する愛おしい気持ちが湧いてきて、首を左右に振り、呟くように言った後にしっかりと目を合わせて )
もう、隠し事はしないから…傍に居て、一緒に考えて欲しい。
うん、勿論。
…悠介くんのこと教えて。俺も隠し事はしないから。
( 穏やかな微笑みと共に頷き。きっと何かこの先も問題はあるかもしれないが、彼となら乗り越えられるだろう。もう絶対に離れたくないという思いで相手の手をぎゅっと、しかし優しく握り。無理をしない範囲でゆっくりとでいい彼のことを知って行けたらと思う。)
…ありがとう。
なんか、一人で何でも出来るなんてああだこうだ考えて思いながら、結局は昔から唯織さんに凭れかかってばかりだな。
( 彼が頷いてくれた瞬間、背負っているものが幾分か楽になった気がした。漸く解けた緊張の糸、彼の手首を離して握ってくれた手を握り返す。この綺麗な手も、穏やかな雰囲気も、微笑んだ表情も昔と変わらず好きで堪らない。礼を言い、彼の手の甲に触れるだけの口付けを落とせば少し困ったような、だが幸せそうな表情でふっと笑って )
そんなことないよ。
俺は悠介くんに助けられてるんだから。
( 突然の言葉と、手の甲に落とされた口付けにくすぐったそうに笑う。自分にもたれかかってばかりだというが、そんなことはなく。むしろ彼といることで自分は精神的に安定しているし、彼には助けられていることが多い。これからこんなふうに彼といられると思うと本当に幸せな気持ちに満たされていて。)
…明日起きて夢とかないかな、これ。
……怖い事言わないで。夢だったらきっと気が狂う。
取り敢えず、帰りながら話そうか。まだ唯織さんの家までは距離あるし、俺の事情を話すには十二分に時間がある。
( 傷付けてばかりで、彼の助けになっているなんて思ってもなかった。次いで言われた言葉に一瞬動きを止めて苦笑いをしながら話すが、彼に見えないだろうもう片方の手で密かに自分の太ももを思い切り抓る。普通に痛い。大丈夫だ、いつものような目覚めた時に絶望に落とされる幸せな夢では無いと安心しつつ微笑むとゆっくり手を離して )
たしかに。
…ん、分かった。
( 自分の方こそこれが夢だったなんてことになったら、絶望でしかない。それこそ今まで夢の中で彼が出てきて、目が覚めたときの1人だったときの虚しさと寂しさは、もう耐え難いもので。それももう無くなると思うと今は穏やかな気持ちで前を向いていられる。再びシートベルトを着用すると、頷いては彼が話し始めるのを待ち。)
唯織さんはもう気付いてると思うけど俺の家系は俗に言う暴力団の組織の上で、俺の父さんが二代目の業界ではまだ若い分類なんだけど今では関東一の組織になってる。抗争時以外の犯罪には手を出すなと下に言い聞かせて、上層部も目を光らせてるから警察の世話にはなってない…向こうはこちらを警戒してるが、それは仕方ない事で。
( 車を発進させながらどう説明しようかと考えるも変な遠回りをしても、と結論を出せば口を開く。話しながら窓を少し開ければ運転している片手間に煙草の箱を取り出すと一本咥え、オイルライターで火を灯す。揺らめく紫煙、前から後ろへと流れて行く街灯を横目に流しながら運転席側に設置されている灰皿に灰を落とし )
勢力を抑えようとする者、うちに恨み辛みを抱いている者はどれだけ潰し納得させても後を絶たない。組長の子であり、今や組長代理も務めていて若頭である俺は格好の的で、傍に居たら内密にしていてもいずれ何処からか情報が流れて唯織さんも危険に晒される事になる。
…なんとなく、そうなんだろうなって思ってた。
いまいちぴんとこない話だけど、悠介くんがお父さんの跡を継いで立派に頑張ってることは凄いと思う。
( 再び走り始めた車の中、過ぎてゆく街並み。彼の口から出た話は、これまでの事柄から薄々知っていたことではあったが、やっぱり一般人の自分にはドラマや映画の中の話のように思えてしまう。以前両親が海外にいる、と聞いていたので、日本で父親の跡を継いで立派にここまで頑張ってきた彼はすごいなと思いつつ、かなり力を持っていても、常に危険は傍にあるのだと知ればこれまで彼が自分をそこから遠ざけようとしていたことが理解できる。以前のように自分が狙われて彼にあんな思いをさせたくないとは思っていたが、同じようなことにならないとも簡単に言いきれないし、自分が気を付けようもないことだというのはわかるが。話を聞きながらどうしたらよいのだろうか、と少し考え込み。)
…そっか。俺が何かに巻き込まれる可能性はゼロじゃないし、悠介くんも命を狙われることだってあるわけだよね。
前は全く家の事情を知らなかったから、その辺りは考えてなかったし、警戒心もなかった。
これが普通の会社であれば、胸を張れる事なんだけど。…そう、俺はもう幼少期から危険と隣り合わせで生きてきたから備えがあって大丈夫だけど唯織さんはそうもいかない。
……こうやって、ちゃんと話しとけばよかったな。
( 今の立場で"凄い"なんて純粋に言われた事は無く、どこか擽ったい気持ちになりながら苦笑いすると煙草を吸って、窓際に煙をゆるりと吐く。彼に軽蔑されたらと心配していたのが杞憂に過ぎなかったのだと知ると微笑んで呟くように言い、その後に同じく少し考えるが最善の解決策はパッと出てくるようなものでは無く、取り敢えずの案を )
取り急ぎで緊急時に位置情報を俺や上層部に直ぐに送れるような物を作らせるよ。場所さえ分かれば今なら何とでも出来る。…そんな状況にさせないのが一番なんだけど。
いや、簡単に人に話せる内容じゃないのはわかってるし。
教えてくれてありがとう。
( 人様に堂々と言える職でないことは確かだが、若いうちから自分の組のために頑張ってきたであろうことは話から分かるし、本当にすごいことだと思う。話が聞けてよかったと伝えると、解決策について聞き今はそれくらいしか自分もいいものは思いつかず。 )
…俺も気を付けるよ。
此方こそ、受け入れてくれてありがとう。
…それはそうと、学校はどう?
唯織さんを困らせたりする問題児や教員はいない?
( 少しだけ短くなった煙草を消すとハンドルに手を戻す。礼を言いたいのはこっちの方で、その後の言葉にも軽く頷くと丁度赤信号に捕まったタイミングでそちらを向いて近況を聞く。2年も経てば生徒も様変わりしているだろう、元問題児の自分が言えた口では無いが彼を悩ませる人物が湧いていたら許せない気持ちがあってOBとして教育をとも考えてしまう。そんな考えとは裏腹に穏やかに微笑んで )
学校はすごく平和だよ。
ヤンチャな子はいるけど、生徒指導の先生も健在だから、授業にはちゃんと出てるし。あぁ、生徒指導の先生が会いたがってたよ。
( 彼から近況を聞かれると少しばかり考えてから答えて。彼が卒業してからも生徒指導の先生は変わらず熱のこもった指導をしている。そのおかげで、大きな問題を起こす生徒はおらず、先生同士もそれなりに中は良好で。ふと先生で思い出した話をひとつ。)
そっか、なら良かった。
あの先生まだ健在なんだ、当時は随分と世話になったな…面と向かってぶつかって来たのあの人くらいだったから印象深い。手のかかる生徒だっただろうに、寄り添ってくれる良い先生だった。…そうなんだ、じゃあ今度挨拶にでも行こうかな。「連絡もせず何してたんだ!」って叱られそうだけど。
( 彼の仕事は問題なく順調なようで、安心すれば信号が変わったのを確認してアクセルをゆっくりと踏む。"生徒指導"懐かしい単語に過去の記憶が蘇って話し、会いたがっているだなんて聞いて少し驚くも世話になった分、手土産でも持っていくべきだろうと考えるが顔を合わせた瞬間に当時と変わらない様子で取り敢えず挨拶のように怒鳴ってくるんだろうと思えばつい笑ってしまう。今の立場になってから自分にそんな態度をしてくる人間なんて居らず、逆に楽しみなくらいで )
ふは、想像出来るから面白い。
うん、是非遊びに来て。
( 生徒指導と彼のやり取りを想像するとすんなり頭にその光景が浮かぶのだから面白いと、くすくす笑って。信号が変わって暫くすると自分の家の近くに辿り着いたらしい。あの頃と外観も中も変わっていないが、変わったことかひとつ。4歳になった飼い猫の海も相変わらず元気だが、海以外にも合わせたい子が実はいて。)
…あ、悠介くん家入っていく?
実は会わせたい子がいるんだよ。
唯織さんにも会えるし遊びに行くよ。
叱責を承るのはいいが、彼相手に大人しくするのは少々つまらないな。…会う時だけ久方振りに問題児に戻るか。
海に挨拶はして帰るつもりだよ、…会わせたい子?気になるな、是非紹介して欲しい。
( 幾分か大人になった今は生徒指導に何を言われても反発する事も気もないが、敢えて当時と同じように戯れるのも愉しいかもしれないと悪戯心が擽られると口端を上げる。見慣れた道を走り、もうすぐ到着するという所での話に興味を持ちつつ返答していれば昔と変わらない、彼の家に着けば空いているスペースに駐車をし )
はは、生徒指導の先生も喜ぶだろうな。
…どうぞ。ただいま。
( 大人になった彼の姿を見て成長を喜ぶ先生の顔が浮かぶ。車から降りれば、玄関の鍵を開けて中へ。すると何か察したのか、少し大きくなった海が勢いよく玄関へ飛び出てきては彼の方を見て一声鳴き。その様子を微笑ましげに見つめていると、その後ろから小さな茶色のくせっ毛をまとった子猫が警戒心を顕にしながらこちらを伺っていて。)
向こうも当分刺激が無かったと思うから最高のサプライズを用意するよ。
…お邪魔します。
久しぶり、海。元気にしてた?少し大きくなったな、一層美人に磨きがかかってる。…──と、初めまして。…紹介したい子ってこの子?
( 煙草の匂いが濃くついたコートは脱いで運転席に残し、車を降りると彼の後を付いて玄関に入る。その瞬間に聞こえた鳴き声に軽く表情を綻ばすとその場で片膝をついて視線を落とし、彼女の頭を一撫でしながら話しかけていたが可愛らしい子猫が視界に入ると柔らかく微笑んで挨拶を、毛質や色が似ているからか親近感を勝手に抱きつつ彼を見上げれば尋ねて )
うん、この子は最近拾ってきた子で、空っていうんだ。
( 彼に久々に出会えて嬉しそうな様子で鳴く海。空の元へ行くと怯えながらも自分に腕の中に抱き相手の元へ。家の近くに捨てられており、彼の髪質と重なって気が付けば家に連れてきてしまった。まだ小さい子猫でミルクを与えている。)
悠介くんに似てるよね。
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