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No.7
by 掲示板ファンさん 2023-09-20 17:08:19
【柏葉 立夏】
「えっ、あー……うん」
と、彼がしばし逡巡した後、確かに頷いたのを見逃さなかった。階段を上り、三階へ。住み慣れた我が家だというのに、蓮がいるだけでこうも気分が高揚するものなのか。引かれたら嫌だし、表情には出さないけれど。
「ただいまー」
「お邪魔します…」
鍵を開けて部屋の中に入る。蓮がウチに来たのは今回で二回目だ。彼は少し緊張しているみたいだったが、リビングまで移動したところで違和感に気がついたらしい。
「立夏のお父さんとお母さん、いないんだね」
「そ。父さん、休日のはずだったんだけど大型の獣が出たとかで急に呼ばれてた。母さんはまだ海外だな。インド? エジプトだっけか」
鞄を床に置きながら答える。父は獣を討伐するハンターで、母は海外で活動しているカメラマン。二人とも大忙しで、一家団欒の時間など滅多にない。
「…? 立夏、背中の傷」
突然蓮が俺の背中にぽんと手を当ててきた。
「なに? 血が怖いならあんま見るなよ」
「こ、怖いけどそれよりも! 傷がもう塞がってるよ!」
なんで、なんでと繰り返しながらペタペタ体に触れてくる蓮。こいつ、わかってんのかなぁ。単なる好奇心以外の感情は……ないだろうな。
「だから言っただろ。すぐ治るって。もういいから、シャワー浴びてこいよ。お前にも俺の血がついてるから。ほら、頭とか顔とかさ」
「立夏がつけたんだよ! うー、わかった。先にお風呂行くー」
蓮は渋々というように浴室へ向かった。そういえば、髪や頬、手に血が付着していても、パニックを起こさなくなったな。完全に克服とまではいかなくても、少し気分が悪くなる程度で済んでいるようだ。
俺も手についた血を洗い流そうと、キッチンの流しに向かう。そこで手を洗うと、赤く滲んだ水が排水溝に吸い込まれていく。
「B細胞保持者の獣化は、強いストレスやショックによって引き起こされるんだよな……」
蓮の場合、ただ血を見ただけではない。考えられるのは、あの時目撃した交通事故だ。