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No.4
by 掲示板ファンさん 2023-09-19 00:07:04
【柏葉 立夏】
激痛のあまり、思わず顔を歪める。どうやら鋭い爪で背中を引っ掻かれたようだ。倒れそうになったが、足に力を入れて踏ん張った。ふざけんな、この日のために買った服だってのに! そんな怒りを込めつつ、振り向きざまに反撃のナイフを放つ。しかし、回転しながら飛んでいったそれは、何にも当たることなく地面へと落下した。実体のない獣相手では圧倒的に不利だ。神経を研ぎ澄まし、獣の気配を探る。妙なことに足音も声も聞こえなくなっていた。消えた、あるいは隠れているのか。だけど、蓮なら他の理由が思い当たる。
「……血」
後ろ手で背中を擦る。当然、出血中の傷に触れれば手のひらも真っ赤に染まった。血塗れの手を前方に掲げてみる。
暗闇の中から、くぅん、と弱々しい鳴き声がした。声のする方に向かって、ゆっくり歩いて行く。手を伸ばせば、柔らかい動物の毛の感触があった。見た目は黒い霧みたいなのに、輪郭をなぞるように撫でていくと、ただの大型犬としか形容しようがない。獣の頭から頬、顎まで付着した血液。獣はされるがままだった。ああ、やっぱり、こいつは怯えている。
「そうだよな。お前には殺せないよな」
とりあえず命拾いしたことに安堵する。それから、獣化しても本質は変わらないままの蓮が愛しく思えて不覚にも笑ってしまった。