29340 2023-08-01 10:16:20 |
通報 |
(榊)
─構わない。いつでもおいで、歓迎しよう。
(背中に掛けられた彼女の言葉にふと足を止め、振り向きざまに柔らかな微笑みを向ける。社に戻ると先程の蛇たちが彼の身体を這い登り、甘えるように頭を擦り付けてくる。彼は蛇たちを撫でつつ、縁側に再び腰を下ろして月を見上げた。木々の騒めきが一層強くなり、彼の下半身がぞわりぞわりと大蛇のものへ変貌していく。─「姦姦蛇螺」。それが彼の真名であった)
(ジュリア)
今日のキミは随分とおかしなことを言うねえ。事務所はここだよ、ワトソン君。ここはベーカー街221Bじゃないか。
(そう笑いながら歩き続ける『彼』が足を止めたのは、雑居ビルのテナント─の筈なのだが、明らかに他のテナントとは異なる毛色を放っている。いかにも高級そうなランプや絵画、それにマホガニー製のテーブルなどを始めとした高級外国家具に高そうな本革張りのソファ、極めつけには目を引く黒檀の暖炉にシャーロック・ホームズの全シリーズと小難しそうな専門書ばかりが詰め込まれている本棚─とこちらも正に小説の中のシャーロック・ホームズ事務所を模倣したような雰囲気の空間が広がっていた。『彼』は慣れた様子で事務所の奥の方にある、これまた本革のチェアに腰を下ろすと「ま、寛ぎたまえ」と貴女に一言)
【 春原 美月 】
……不思議なお兄さん。
( 彼のお陰で無事に家へと辿りつき、軽くシャワーを浴びてベッドに飛び込んだあとも考えてしまうのはあの美しい夜のような、蛇のような雰囲気を持つ人のこと。なぜあんな山奥の神社に住んでいるのか、1人で住んでいるのか、─── …寂しくは、ないのか。そんな疑問をぐるぐると頭の中で混ぜ込んでいればいつの間にか美月の意識は深い眠りの海へ落ちていき、また明日も会いに行こうなんてぼんやりと頭の奥で決意しながらそのまま意識がプツンと途切れ。 )
【 藤宮 花名 】
、─── …。
( 何もかもが、〝本物〟だった。素人目からでも高級な海外の家具だと判る本革張りのソファやテーブル、雑居ビル内のテナントではおおよそ見たことの無い黒檀の暖炉。それから医学を齧っている自分ですら内容の理解に時間のかかりそうな専門書たち。花名は思わずその室内の雰囲気に息が止まれば、慣れた様子で部屋の奥に鎮座する本革張りのチェアに腰をかける姿はここがいつもの〝彼〟の定位置なのだろうとハッキリと此方が分かるほどに様になっており、本当に此処がロンドンなのではないかと錯覚してしまうほどだ。「 ……あの、もし仮にわたしが貴方の助手だとして。貴方が私に求めることはなんでしょう……? 」ぽろり、と室内を眺めていた間に零れた質問に自分でも驚いたのか、花名パッと慌てて口元を抑えては、「私はワトソンさん?ではないですけれど!」 と付け足して。 )
(榊)
─さあ、「ひと」らしく眠るとしようか。
(月が完全に雲に覆い隠され、木々も静まり返った頃、彼は蛇たちにそう微笑み掛ける。蛇たちは呼応するように雑草の隙間へと潜り込み、彼は社の中へと戻っていった。草木の模様が刺繍された布団に身を委ね、瞳を閉ざし、必要のない睡眠の中へと落ちてゆく)
(ジュリア)
決まっているだろう?勿論、ボクの助手として事件解決の手伝いをすることさ。
(手持ち無沙汰のように長い髪を指先に巻き付けつつ、『彼』は貴女を見据えて再び笑った。チェアから腰を起こすと本棚の方へ歩き、いくつかの分厚い専門書らしき書籍を掴み出すとテーブルに置く。「ほら、コレはキミの所有物だよ。ボクの事務所に置いて帰るのはやめたまえといつも言っているじゃないか」呆れたような声色でそう呟き、また自身の定位置へと戻っていき)
トピック検索 |