真夜中のピエロさん 2023-07-07 19:26:00 ID:5a4928631 |
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「―――それはよかった。ありがとう。」
(男はそう言い終えると緩慢な動作で席に着いた。彼の動作と共に、彼の視界の先でさらさらと揺らぐのは淡く透き通るような白。相も変わらず邪魔くさい髪の毛だと男は思った。実のところ、彼の片目を完全に隠すように伸びた髪は彼自身の傷痕を隠してくれる大きな壁であるのだ。視界のほとんどをそれに覆われてしまうという欠点はあるものの、わざわざ目立つような場所にある傷を出会う相手皆に晒して置くのは、何より彼にとって居心地の悪さを覚えることだったからだ。男はゆっくりと瞬きをしたその先、瞼の裏に記憶を描いた。誰も彼も、男の満面を目に映すと、この傷痕ばかりに視線を刺す。右顔面に大きく残った縫い痕はそうして時偶、彼の精神を大きく揺さぶった。その嫌な揺れは間もなく全身に伝わり、ぞっとするような思いをいつも彼にさせるのであった。だから男は恐れている。自身の右側に刻まれたそれが他人の瞳に映ることを。男は閉じていた目を開けると、適当に目に映ったアルコールを選んで店長にその旨を伝えた。それから何もすることがなくなったので、隣で頬杖をつく青い髪の彼に視線をやった。)
「…あのさ、間違っていたら悪いんだけども…もしかして、ここで飲むの初めてだったりする?」
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