真夜中のピエロさん 2023-07-07 19:26:00 ID:5a4928631 |
![]() |
通報 |
(いつもと同じ道、いつもと同じ夜の街独特のどこか冷たい空気を吸い込んで、男は薄暗い道をただひたすらに歩んでいた。この先にひっそりと佇む個人経営のバーが彼の最近のお気に入りである。静かな黒色の闇の中に靴の音だけが響く。男は人通りの見えない路地裏を進み、目的の特徴的な灯りを瞳に映すと、僅かにその瞼を下ろした。モノクロの中に色づく水彩のように、ゆらりと揺れた橙色の眩しさに数度目をしばたたかせて、室内へと続く扉を引いた。カランカランという鈴の転げるような心地の良い音が耳に入り、聞き慣れた店長の声がした。ふと手首に着けた腕時計の針を確認する。時刻はちょうど9時を回ったところだ。これもいつも通りだと鼻で小さく息を吐いて、顔を上げる。不意にそこで視界の先―――見慣れたカウンター席に珍しい色彩を捉えて、男は引き込まれるようにそちらに足を動かした。椅子に腰を掛けている青年の髪は灰で撫ぜたような空色で、こちらから表情は確認できないが、その後ろ姿からはどこか不思議な魅力を感じる。)
「―――ねぇ、隣いいかな?」
(男は青年の横の席に身を寄せて、そう言葉を発したが青色の彼が反応する素振りはなく、ひょっとすると警戒されたのだろうかと目を瞬かせた。こんな時間に男が男に話しかけられて警戒? そんな馬鹿な。男は一瞬脳内を過った考えをそうして振り払うと、もう一度、今度はつい数秒前より幾分か大きな声を出した。)
「――ね、青い髪のお兄さん。君だよ、君。隣座っていいかな?」
|
トピック検索 | |||