名無しさん 2023-06-18 14:24:24 |
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ありがとう。
( 連絡先を交換すると、今度都合のいい日に相手を誘おうと決めて。満足そうにスマホをポケットに片付ける。こんな歳になってもこういうやりとりは何だかこそばゆい。
頭を撫でてしまったことには、やってしまったと少しばかり後悔していたが、相手の反応に何やら僅かに高鳴る鼓動。真っ赤に染る頬や耳を見れば、悪戯心がわいてくるもそれを抑えて手を離し。「ごめんごめん」と謝ると、こちらもビールに口をつけて。)
まぁ、でも飲み過ぎないようにね。
ん、分かってるって。
( 改めて飲み過ぎないようにとの忠告を受けると、まだ拗ねたような口振りで返す。しかし、その声色はなんだか楽しそうにも聞こえて、上機嫌であることには間違いないようだ。
ふと、自分が空腹であることに気がついて、適当に袋の中からポテトチップスを取り出した食べ始める。元々自炊も出来なくはないが、外食をするようになってからというものキッチンは使われていない。今日も適当に菓子や出来合いで済ませるつもりだろう。
そんなこんなで他愛も無い話をしながらどんどん酒は進み、ふわふわとゆるく思考が鈍る感覚に襲われる。量はいつもより少ないと思うが、誰かと話しながら飲んでいると心地よく酔いが回っているのが分かる。
全身の力を抜くように息を吐くと、隣に座る相手の肩に手を置いて、ぐいと身を寄せては顔を見上げ、これまた唐突な事を言い出した。)
…ねぇ、松風さん。
介抱とかそんなんじゃなくていいからさ。泊まってってよ。
隣にいてくれると、安心するから。
…、俺は明日休みだから構わないけど。
いいの?俺なんか泊めて。
涼くんに何するかわかんないよ。
( 暫く飲んでいると相手も酔いが回ってきたのであろうことを感じ、そろそろ帰ろうかと考えていたところの相手からの誘い。これが自分ではなく怪しい奴だったらどうするのか、男だとはいえ危機感がないなと思うと、自分を見上げる相手を見つめて。冗談のつもりで言ってはいるが、見あげてくる酔った相手の姿は自分からすれば可愛い以外の何ものでもなく。高鳴る鼓動を悟られないように、「なんてな。別になにもしないけど」と笑いながら言い。)
……び、っくりしたぁ。いや、やっぱ絶対モテるっしょ、松風さん。俺でもちょっとドキッとしたし。
まぁ、ちゃんと冗談って分かってるって。
俺、まだまだ餓鬼みたいなもんだし、男だし、誰かに手を出されるほど可愛げ無いからさ。
( 此方をじっと見つめて言葉を返す相手から目を逸らせることができず、思わず鼓動が速くなるのを感じる。しかし、笑いながら付け加えられた言葉を聞けば、此方もつられて笑い、堪らず詰まっていた息を解放するようにゆっくり声を出した。
酔っているからなのか思ったことが素直に口から出ていくが、そもそも自分が他者から熱っぽいことを言われるわけが無いと思っているようで、相手の言葉は端から冗談だと信じているらしかった。チャラついた見た目に反して自己肯定感というものには疎く、恋だの愛だの、そんなものの対象に自分がなるなんて到底考えていないらしい。それ故に簡単に宿泊を許すものだから、彼の思うように危機感がないと言うのも図星だろう。)
そんなことないよ。
だって俺は今の涼くんのこと、可愛いって思ってるから。
( 男だから、といってそういう展開になるわけがないと思っているのだろう。彼の自己肯定感の低さには、思わず苦笑して。彼の髪の毛をそっとすくうように、自分の指に絡ませると頭を優しく撫でて。可愛げがないだなんて、こんなことをさせておいてどの口が言うのだと思いつつ、本心でそう言い。
時計に目をやればそれなりにいい時間。本当に泊めてもらうとしたら自分はソファーで寝ると提案し。)
もうこんな時間だし。涼くんに甘えて泊めてもらおうかな。
俺ソファー使わせてもらうよ。
……へ、そ、それは。ありがとう……?
( ゆっくりと髪に触れ、再び頭を撫でてくれる相手の言葉には思わず礼を述べ否定することはせず。その動作は大人の余裕というかなんというか、形容し難いがつい見惚けてしまうものがあり、本来男が男に可愛いと言われ礼を述べるものなのか定かでは無いが、照れ臭くなってしまったのは事実だ。
相手が時計に目をやるのをみて此方もその視線を追うと、確かにいつの間にか夜も深けていた。堪らず大きな欠伸を1つするも、ソファーで寝るという相手の腕を引けばそこは譲らないとばかりにもう片方の手でベッドを指さした。)
松風さんが寝るには狭いって。
俺が誘った上に体痛くされても申し訳ねぇし、俺がここで寝るからベッド使えよ。
あー…、じゃあ一緒に寝る?
( こういったやり取りはどちらかが折れるまで続くだろう。だからと言って彼をソファーで寝かせるのは自分の中では許せない。ちらっとベッドを見れば、1人用ではあるが、どちらかがソファーで寝るよりかはましか、と思うともうひとつの提案を。勿論無理強いはするつもりはないが、今までの中では最善の選択ではないかと思う。)
( 一緒に寝ようか、との提案に相手の腕を引く動作をピタリと止め、ぐるりと視線を流して考える。確かに、このお泊まり鉄板のやり取りは片方が引かないと永遠と続いてしまうし、どうやら相手もソファーを譲るつもりが無いらしい。そうなれば一緒に布団に入ってしまったほうが迅速且つ名案だと思える。
…が、少しばかり相手の言動に鼓動を早めてしまった身からすると、なんだか妙に意識してしまわないことも無い。
まぁ、先ほど自分でいったように、間違っても自分相手に“そんな”展開になる訳はないので、変に考えていても仕方がないかと開き直ったらしい。)
………狭いと思うけど、松風さんが平気なら、そうするか?
確かに、譲り合っててもしょうがないしな。
そうしよう。
窮屈だったら遠慮なく言ってくれ。
( 相手もその提案に乗ってくれたようで一安心。勿論、手を出すつもりはないが、先程から可愛いと認識してしまった彼が横で寝ると考えると何だか妙に落ち着かない。しかしそんなことを表情に出すまいと、平然を装い。それならばとベッドの方へ行き、ふと相手は酒を飲んでいるがシャワーなど浴びなくて平気だろうかと考え。「俺に気を遣わずシャワーとか行きたかったら行っていいから」と付け加え。)
……なら、軽くシャワー行ってこようかな。
疲れてるだろうし、松風さんは先に寝てて。
( 相手に続いてベッドの方へ向かおうとした時、相手からの言葉にまたも少し考えるとシャワーを浴びることを選択する。いつもなら完全に酔ってそのまま寝るところだが、今夜は潰れるほど飲んでいないし、どちらかと言えば少し酔いも覚めてきたぐらいだ。おまけに、相手が隣で寝るのに汗だくなバイト後のまま布団に入るのも気が引ける。なにより、同じタイミングで布団に入るよりは時間をずらした方が幾らか緊張しないで済むだろうと思ったようだ。
相手へ先に寝ててもらうように伝えると、テーブルの上に置かれた空き缶を片付けつつ、そのまま浴室へと向かいシャワーを浴びるのだった。)
いっておいで。
( 相手を見送り、お言葉に甘えてと、先に布団に入るとできるだけ自分は奥につめて横になり。平然を装って相手を送り出したはいいものの、やはり少しばかり緊張はしていて寝られるかなと思っていたが、思ったよりも寝やすく、疲れていたこともあり案外直ぐに眠気は訪れて、意識を手放し。)
( 酒が入っているので短時間でささっとシャワーから上がり、脱衣所で軽く髪も乾かし終えると、静かに部屋へと戻ってくる。
ベッドの隅で横になる相手を見つければ、やはり狭そうだなぁと小さく笑って。
既に寝てしまっているらしい相手を起こさぬようにゆっくり自分もベッドへ腰を下ろすと、その顔を思わず覗き込む。やはり整ってるなぁ、なんて心の中で呟けば、これ以上余計なことを考えまいと、相手とは背中合わせの形で布団の中へと潜る。
隣に誰かいるのは緊張するものの、やはり心地良いものに変わりはなく、いつもより暖かい布団の中で此方もあっという間に夢の中へと落ちていく。
しかし、言い忘れていたが寝相は決していい方ではなく、いつの間にか相手の方へと転がっている事だろう。)
ん……
( 目をうっすら開けると、手元にあったスマホを見ようと手を伸ばすが、近くにいる彼が目に入り思わず固まる。そういえば、一緒に寝たんだっけ。と、昨夜のことを思い出すが、今の状況はというと、彼のことをどうやら抱き締めて寝ていたらしい。まだスヤスヤと眠る彼の寝顔を見て、やはり自分より若いなとか、寝顔が幼いなとか、可愛いだとか…邪な事ばかりが頭を過ぎってしまう。彼が起きるまでしばらく、観察していようとスマホをとることをあきらめて)
………、……。
( なんだか久しぶりに心地よい睡眠が取れたというか、何かに抱きしめられているような抱きしめているような…、夢見心地で目の前のものに顔を擦り寄せると、もう一度腕に力を込めた。
しかし、明らかに枕や布団では無いその感触にだんだんと意識が現実に引っ張られるのを感じながら薄らと目を開けゆっくりと視線を上げると、そこにあったのは相手の顔で。視線がかち合うや否や驚きの声を上げながら慌てて上半身を起こした。
気がつけば朝になっていたようで、自分の失態に恥ずかしさのあまり顔を赤らめ両手で覆い隠しながら、小さく「 おはよう…」ととりあえず挨拶を )
……ふ、やっぱり可愛い
おはよう。久しぶりにゆっくり眠れたよ。
( 目が覚めた彼と目が合う。その後の驚きようと、恥ずかしそうな様子に思わず口から本音が零れてしまう。挨拶を返すと自分も上体を起こして欠伸をひとつ。ここ最近にあまりないくらいにはぐっすりと眠れたようで、疲れも取れている。これも彼を抱き締めて寝ていたからだろうか。だとしたら、毎日一緒に寝たい。なんて思い。)
俺も、なんか良く寝れた気がする。
けど、ごめん、抱きついたりしてて…。
( 昨夜同様、可愛い、と褒めてくれる相手に対してはそんな事ないと示すように首を横に振りつつ、平常心を保とうとゆっくり息を吐いてから上記を述べる。寝相は良くは無いと思っていたが、まさか相手を抱き枕のようにしてしまうとは思ってもおらず、その事に関しては素直に謝って。
相手もよく眠れたようなので、最終的にベッドで寝て貰えたのは良かったが、やはりシングルサイズでは狭かったよな、と考える。
気持ちを切り替えるためにも話題を変えようかと、「 朝食はどうしよう… 」と呟くが、それと同時にスマホの通知がなり其方へと手を伸ばした。)
いや、俺も起きたとき、涼くんを抱き締めてたみたいだ。
だからお互い様、な。
( 相手の謝罪の言葉には、こちらも相手を抱き締めて寝ていたのだから謝ることは無いと笑って。彼がスマホの通知に手を伸ばしたのには、自分もスマホを取り。ベッドから上体を起こし、寝起きでぺたっとした髪をかきあげ。画面を眺め、意外とまだ早い時間なのだと分かると、朝食はどうするかを自分も考えて。)
えっ、そうだったのか。まぁ、それなら…。
( 相手も此方を抱き締めていたという事実を知れば、お互い様だという言葉に少し罪悪感は減るものの、恥ずかしさは増すような…。ただ、決して嫌だと思うことはなかった。
相手の言葉に通知の内容を覗きながら答えるも、ざっと目を通せば少し残念そうに声のトーンを下げて続ける。どうやら連絡をくれたのはバイト先らしい。)
せっかくならお昼ぐらいまで一緒に遊びたかったけど、欠員が出ちまって昼からバイトなんだと…。
朝飯だけ近くで食べちゃおうぜ。
そうか。
ちょっと残念だけど、バイトなら仕方ないね。
涼くんのおすすめのお店に行こう。
( 彼の通話はどうやらバイト先からだったらしい。このあと仕事が入ったという彼の少しばかり残念そうな表情には、自分苦笑を浮かべて。連絡先も交換したし、これからいつでも会おうと思えば会えるのだから残念に思うことは無い。そう自分にも言い聞かせ。朝食については、彼の方がこの辺りに詳しいだろうと任せることにして。)
ごめんな…。最近辞めちまった子もいて人手不足でさ。
短時間だけでも入ってばかりなんだ。
…お、それなら任せろ!
( 仕方ない、と言ってくれる相手には眉尻を下げつつ再度謝り、勘弁してほしいぜ、と言わんばかりに腕を組んで苦笑いを。
そして、おすすめのお店と言われれば、お詫びにとっておきを紹介しようと早々にベッドから腰を上げ、髪を結って軽く準備を済ませれば彼を連れて近くの店へ。
古びた風情ある小さなカフェのようだが、以外にもメニューは豊富で、朝食にピッタリのものも多数。おまけに値段も安くよく利用しているようだ。)
( バイト先にも色々事情はあるのだということは分かっている。最近は若い子もすぐ辞めてしまうというのは、自分の会社でも同じで。仕方ないとこちらも苦笑して。
彼のおすすめの店へと足を運べば、趣のある小さなカフェ。席に座るとメニューには美味しそうな写真が。それをみると不思議と空腹感が増して、朝食メニューの方へ視線を移すとその中から、サンドイッチを選択。)
俺はこのサンドイッチとコーヒーにしよう。
涼くんは?
んー、俺もサンドイッチにしようかな。中身は違うやつで。
あとはアイスティー。
( 此方もメニューを見ながら悩ましげに眉間へ皺を寄せつつ、相手の注文が決まってから少しして、やっと決心がついたようにメニューを指さす。悩んだ挙句に味こそ違えど自分もサンドイッチにしたようで、相手へ伝えながら店員の呼び出しボタンを押す。
コーヒー飲めるなんて大人だなぁ、なんて自分が苦手な飲み物を注文する相手のことを考えると、ちらりとそこに視線をやる。しかし、今更ながら酔ってお泊まりに誘った自分の言動を思い出すと、恥ずかしくてさっとその視線を逸らした。)
いいね。
もしよかったら、1個交換しない?
そしたらどっちの味も楽しめるかなって。
( 相手はどうやら自分とは違うサンドイッチを選択した。それならば、と1個ずつ交換して食べようと提案を。なんだか馴れ馴れしすぎるだろうかなんて言ってから後悔するも、気にする事はないかとすぐに開き直り。店員が来たので、自分と相手の分とまとめて注文をして。
ふと、視線を感じ彼の方を見ると、視線を逸らされてしまう。どうしたのだろうかと疑問に思い尋ねて。)
?どうしたの?
確かに、それ名案じゃん。
( 相手からの提案には嬉しそうに同意して、早く料理が来ないかなぁなんて先に出されたお冷へ口をつけて。
そうしていると、自分への挙動について尋ねられるものだから、飲んでいたお冷を吹きそうになるのをなんとか抑えつつ、正直に自分の醜態について再度謝罪し、恥ずかしさを誤魔化すためか頬をぽりぽりとかいて。)
いや、昨日、酔ってたとはいえお泊まりを強請ってしまってたなぁって、今思い出したらはずくてさ。
ほんと、ごめん。
…?なんで謝るの?
俺は嬉しかったけどな。
( 先程の提案にのってくれたことには嬉しそうな笑みを浮かべて「やった」と呟き。
彼が視線を逸らした理由には、「あぁ」と納得しつつも、なぜ謝らなければならないのかと不思議そうな顔をして。泊まるときめたは自分だし、それに彼に誘われたことは何故か嬉しかったのだから。)
松風さんが嫌じゃなかったなら良いんだけど…
なんつーか、俺の威厳?が圧倒的に無いなぁ、と思って。
( 不思議そうな顔をする相手に、なんとか思っている事を伝えようとするがどうにもこうにも上手い言葉が見つからないらしく、結局はちぐはぐな回答になってしまう。
要するに、出会った時からかっこ悪いところしか見せていないのが悔しくもあり恥ずかしいという事なのだろう。まぁ、元々威厳なんてあるタイプでは無いが。
そんなやりとりをしていると、サンドイッチと飲み物が到着し、待ってましたと言わんばかりに気を取り直して瞳を輝かせる。そして、自分のサンドイッチを1つ手に取ると「 どぞ 」と笑顔で相手の方へと差し出した。)
あぁ、ありがとう。
( 彼の言うことは完全に理解はしきれないが、おそらく恥ずかしいのに違いないと思うと少しだけ柔らかな微笑みを浮かべて。
差し出されたサンドイッチを見て礼を言うと、ふとなにか思いついたように口元に笑みを浮かべ徐ろに口をあーんと開けて止まってみる。いかにもそのサンドイッチを食べさせてくれと言わんばかりのその行動は、彼の目にはどう映るだろうか。)
( 差し出したサンドイッチが受け取られるのを待っていたが、相手はそうする事なく、笑みを浮かべたかと思えば口を開けて静止する。その様子をみて瞬時に意図を汲み取るが、耳を赤くしてどうしたものかと一間おろおろとしてしまう。
決して嫌な訳では無いし、寧ろ期待したような目で此方を待っている相手が不覚にも可愛いと思ってしまったが、こういったのに慣れていないのでとてもむず痒い。
だが、意を決したように腰を浮かせ、手にしたサンドイッチを相手の口へと運べば「……美味しい?」と恥ずかしそうにしながらも小さく問う。そして続けざまに質問を。)
…松風さん、意外と甘えただったりすんの?
ん、美味しい。
…え?違うと思うけど。どちらかと言えば甘えられたい方。
こんなことしたの涼くんが初めて。
( 戸惑いこそあれど、自分の口へとサンドイッチを運んでくれる相手が最早愛おしく、遠慮なくそれを一口食べると何度か噛んで飲みこむ。当たり前だが美味しい。ふとあいてからの質問には素っ頓狂な声を出すも、しばらくして内容を理解すれば自分は甘えられたい側の人間だと話し。そしてこんなことをしたのは彼が初めて。なぜそうしたのかと言われると自分でも分からない。
次は自分のサンドイッチを1つ手に取ると彼へ差し出して「涼くんもあーんする?」 と期待の籠った眼差しで見つめ。)
( 違うと否定する返答を聞けば、ふぅん、とだけ返し特に興味が無いように装うが、実際はまだ鼓動が高鳴っていて。
大人の余裕が感じられる彼は確かに甘えられたい方だと感じるし、ただの気まぐれだと思ったが、自分だけだと聞くとそれはそれで変な期待を抱きそうになる。
必死に平常心を保とうとするも、今度は相手がサンドイッチを此方へ差し出し、再度期待の目を向けるものだからまたも此方も固まってしまう。
しかし、ここで遠慮するのもなんだか悔しくて、意を決したもう一度体を乗り出すと大きく一口かぶりついて。
口いっぱいのサンドイッチを頬張りながら、照れながらもなんだか不貞腐れた子どものように続ける。)
前言撤回、松風さんは甘えたじゃなくて意地悪だ。
……サンドイッチはめちゃくちゃ美味しいけど。
たしかに、ここのサンドイッチは美味しいな。
( 素直に一口食べてくれた相手にはやっぱり可愛いと、そんなふうに思ってしまう。意地悪だという言葉には、なんのことやらと首を傾げるもこんなに悪戯したくなる相手は他にいないと愉しそうに笑って。そのまま彼にサンドイッチを渡すと自分の手元にあるものを食べて、たしかにどちらの味も美味しいと頷く。コーヒーを合間に飲みながら満足そうに一息ついて。)
( 首を傾げてとぼける相手をじとっと見つめるが、なんだか此方もおかしくなって一緒に笑ってしまう。歳が離れているとはいえ、そんなことを感じさせないぐらい相手とは気負わず話ができる。
自分も残りのサンドイッチとアイスティーを胃に流し込めば、満足そうに「 だろ? 」と美味しいと言ってくれた相手へ笑顔を向ける。自分が好きな店を相手が気に入ってくれるのもとても嬉しいものだ。
朝食を平らげても相手とはまだ会話も続き、気がつけば幾らか時間は過ぎていた。ふと携帯で時間を確認すれば、店の中に1時間はいたらしく、少し名残惜しいが腰を上げて。)
そろそろ出ようぜ。
今度会った時は松風さんがおすすめの店、教えてよ。
あぁ。それまでにいくつか候補探しとくよ。
( 彼との時間はあっという間に過ぎてしまい、腕時計に目を移すともうそんな時間かと驚く。相手と話している時間は飾らない自分でいられるそんな気がして、とても心地の良いものに感じている。名残惜しそうに席を立つと「会計はまとめて払う」と伝えて、支払いを済ませると店の外に。)
バイト頑張って。
…あ、じゃあ、その時は俺の奢りな。
( あっという間に支払いを終わらせてくれる相手には、なんだか不服そうにしつつも礼を言う。しかし、全部払ってもらってばかりでは此方の気持ち的に示しがつかないため、上記を告げては明るく笑った。)
ありがとう。松風さんも仕事頑張って!
またな。
( 店の外に出て激励の言葉を貰えば此方もお返し、少し後ろ髪が引かれるような思いをしながらも来た道を戻るように小走りで去っていく。また次も会えるのだと思えば既に楽しみで、バイトも頑張れそうだと鼻歌を歌いだした。)
━━━━━━━
相手と出会って約1週間ほどが経っただろか。
平日はお互いに仕事やバイトで結局すぐに会うことはできず、少し残念な気持ちを抱きつつも、いつも通りそつ無く仕事をこなしていた。
だが、そんなある日、滅多にならない携帯から着信を知らせる音が…バイト先へと向かいながら着信元を見てみれば、そこには“母さん”の文字。途端に眉間へと皺を寄せ、舌打ちを。すぐさま着信拒否にするものの、その後もしつこくメールやらメッセージやらが届く。嫌気がさして全て無視すると、乱暴に携帯をポケットへと突っ込んでしまった。
────
( 仕事が忙しく中々彼に連絡は取れないでいるが、近々また食事にでも誘おうかとスマホを取りだして相手の連絡先を選択する。今度は彼がゆっくりできる休みの日を選択しようと、相手の予定に合わせる気満々で文面を打つ。)
「仕事が忙しくて中々連絡できなかった。ごめん。今度涼くん、休みいつ?その日にまた食事でもどうかな。」
( 文面を送信し終えると、嬉しそうにスマホを眺める。仕事の休憩とはいえ、普段スマホを眺めて笑っているなんて絶対しないため、同僚からはついに恋人ができたのか、など質問攻めにあったのは後の話。)
( 最近は機嫌よく過ごせていたのに、母親からのしつこい連絡に大分参ってきてしまった…、今日もまた家にはほとんど滞在せず外をぶらついて乱れきった心を落ち着かせていると、携帯に表示された「松風さん」の文字が目に入り、慌ててメッセージを開く。相手からの文章を読めば途端に表情が柔らかくなり、すぐさま返信を。)
「 全然大丈夫。仕事お疲れ様。
今週末はバイト休みだから、行けるよ。
せっかくだし、今度は俺がそっち行く。」
( 上記を返信し、約束通り食事へと誘ってくれる相手を思えば嬉しそうに笑って、気持ちを切り替えんと大きく息を吸えば、相手からの返信を待つ。
前回は自分家の周辺で過ごしていたため、相手の家が遠くて不便だったことだろう、そこで次は自分が向こうの最寄りまで行こうと考えたらしい。)
「わかった。じゃあ、土曜の夕方17時頃、○○駅で待ってて。
なんなら、今度は俺の部屋泊まりに来てもいいけど?」
( 返ってきた返信には、直ぐに上記のように打つ。自分のマンションの最寄り駅を指定すると、その近くで美味しいご飯どころを探さなくてはと意気込み。ひとまずその後はスマホを仕舞い仕事に戻ることにして。)
「 分かった! 松風さんが良いならそうしようかな。
土曜、楽しみにしてる 」
( 相手からの返信を読めば、心の中で“やった”と呟き、今度は自分が相手の家に泊まれることを楽しみに思う。ふと、このやりとりが本来恋人同士の行うもののように感じて照れくさくなるが、別に知り合い同士がご飯を食べて泊まることも普通だろう、と自分で自分を正当化して。そもそも既に自分の家に相手も泊まっているわけだし、何も変なことは無いはずだ。
相手へ再度返信を返すと、今頃また仕事をしているだろうと此方も携帯を仕舞い。早く土曜日にならないものかと待ちわびる。)
━━━━━━━━━━━
……ッ!…お前、こんな所まで付いてきたのかよ!
…離せッ!!
( それからまた数日後。
着替えなどの簡単な荷物を持ち、電車にのっては約束していた最寄り駅へ。
少し早めに着いてしまったが、時間まで適当に過ごそうと改札口を出た時、突然腕を掴まれて其方を振り向いた。
そこに居たのは白髪混じりにやつれきった身に覚えのある女性で、実際はもっと若いはずだが、その姿のせいで老婆にも見える。その女性は眼孔鋭く此方を見つめ、まるで呪文でも唱えているかのように『……涼、助けてよ 』と縋ってくる。
必死に振りほどこうとするが、しつこく迫ってくるその姿に、悲しみと怒りと、様々な感情が湧き上がり、自然と目に涙が溜まる。
暫くしてそんな2人の剣幕に周囲がざわつきはじめるのは言うまでもない。)
( 指定した時間より僅かに早く着いた。もう相手は来ているだろうか。そんなことを思いどこか浮ついた気持ちのまま辺りを探していれば、周囲が騒がしいことに気が付き。その渦中にいる人物を見れば、白髪の女性に迫られる彼の姿。彼の表情を見て、何も考えずに体が動くと、相手と女性との間に入り。)
─失礼。手を離してもらえますか。
彼は、俺との先約があるので。…それに、こんな目立つ場所で騒ぎになれば…、ほら。どちらが不利な状況か分かりますよね。
( 驚く程冷静に、尚且つ冷たい声と、視線を女性に向ける。この感情を表すならば苛立ち。だろうか。相手を自分の後ろに隠すようにして女性をただただ見下ろしていると、騒ぎを聞きつけたのか駅の警備員が数人こちらに向かってきており。)
( 気持ちが悪くて、一刻も早く逃げ出したくて、思わず女を突き飛ばそうかと1歩踏み込んだ時、聞き覚えのある声がしたのと同時に目の前を遮られる。驚いて見上げると、そこに居たのは約束していた彼で、相手は女と自分を引き離してくれたようだ。
思わず相手の背中に身を寄せれば、ズズッと鼻を啜ってスーツの裾を握った。
女は邪魔されたことに苛立った様子で舌打ちをし相手を睨みつける。しかし、遠くから警備員が来るのを見てやっと諦めが着いたのか、そのまま急ぎ足で駅の中へと消えていった。
相手の背からちらりと覗いて、女が去っていったのを確認すると「 ありがとう 」と俯きながら小さな声を絞り出す。)
ごめん、変なところ見せて。
助かった…。
…大丈夫か?
とりあえず、一旦ここから離れよう。
( 女が逃げていくのを最後まで見ていると、背後にいる相手から感謝の言葉が。助けるのは当然だと、気にしないでくれと伝えると相手の頭をそっと撫でる。駆けつけてきた警備員には、適当に話をして事を大きくせずに済ませた。ひとまずここから離れた方がいいと判断し、彼の手を取り。)
( 優しく頭を撫でられると、今度は安心感で涙が溢れそうになる。たが、それをかろうじで我慢しつつ、相手からの言葉には静かに頷いて。手も取られるがままにやっとのこと歩き出す。
もし、彼が間に入ってくれなかったら、きっと自分は手を出していたことだろう。そう考えると、自分自身も怖くなって惨めな気持ちになる。)
……母親なんだよ、あれ。
最近連絡がしつこいとは思ってたけど、こっそり付いてきてたとは思わなかった。
金に困った時だけ、あぁやって俺に固執するんだ。
多分、彼氏に騙されたか捨てられたかどっちかだろうな。
………情けねぇ。
( 相手には話しておいた方が良いだろうかと、ぽつりぽつりと口を開く。最後に見た時はもっと派手な格好をして遊びまくっていたようだったが、先程みた様子だと生活が上手くいっていないのが見て取れる。
最後に呟いた言葉は、母親に向けてはもちろんのこと、そんな親と完全に関係を断ち切れていない自分にも向けられたものだった。)
……母親。
そうか。涼くんは自分を責めることはないよ。
( 手を取り歩いているとぽつりぽつりと話す彼の言葉に耳を傾け。先程の女性は彼の母であると知り、言葉を飲み込む。何故か彼自身が負い目を感じているのには、彼のせいではないとそう声をかけるしかない。
暫く歩くと、高層マンションにたどり着き。エントランスに入ればカードキーでエレベーターへ。52階のボタンを押し辿り着いた先にある部屋を開ければ中に入り。玄関を通り抜けると広いリビングとキッチン。リビングにはテーブルとイス。そして大型テレビの前にはソファがあるが、それ以外はあまり何も置いていないシンプルな部屋で。)
どうぞ。なんにも無い部屋だけど。
とりあえず、何か飲む?コーヒーか紅茶か…。
( うん、と一言、相手からの気遣いに頷けば、少しは気持ちも落ち着いたようで顔を上げる。
暫く歩いてたどり着いたのは立派な高層マンションで、その大きさに圧倒されつつ相手について行く。エレベーターで52階のボタンを押す様子を見れば、自分の生活とは全然違うなぁ、なんて心の中で考えて。
部屋の中へ促されると、部屋の広さにも圧巻されるが、物が少ないところを見ると少し自分と似ているところもあってなんだか安心した。)
……あ、ありがとう。紅茶にしようかな。
( 部屋を見渡していた時、相手からの問いが聞こえて慌てて返答を。本来ならば一緒にご飯にいって楽しくやっていたはずなのに、自分のせいで気を遣わせているだろうな、と再度申し訳ない気持ちになりつつ、ソファーへとゆっくり腰を下ろす。
恐る恐る携帯の画面を見れば、もう母親からの連絡は来ていないようで、一先ず胸を撫で下ろした。)
はい。
ミルクと、砂糖もあるから使いたかったらどうぞ。
( 紅茶ときくと、お湯を入れて茶葉を蒸らし。ティーカップに注ぐと、それと一緒にミルクと砂糖を出してから自分の分も入れて。携帯の画面を気にしている所から、まだ連絡が来たり、母親が彼の家に押しかけて来る可能性があるかもしれない。そう思うと、心配になる。しかし自分が口を出していいものだろうか。なにか助けられることは、と考えつつ彼の隣に腰を下ろして。)
( 相手から紅茶の入ったカップを受け取ると、礼を述べて一口飲む。温かい紅茶の香りに力を抜くように息を吐けば、隣に腰掛ける相手の方は見ず、カップの中に浮かんだ自分の顔を眺めて呆れたように笑った。)
虐待の話でよく聞くだろ、産むつもりなんて無かったーってので育児放棄する奴。典型的なダメ親なんだよ、アイツはさ。
…どうにか環境を変えたくて引っ越したのに、結局、家に1人でいると色々考えちまうし、家もバレたし、どうしたらいいんだか。
( 自分と母親の関係を更に上記のように述べ、紅茶をもう1口飲むと、砂糖を受け取ってカップの中に注ぎ、それが沈んでいく様をぼんやり見つめる。
あんな親元を離れて一人暮らしを始め清々するはずだったのに、静かな家にいるとどうしても思い出してしまう。)
…じゃあ、ここに住む?
( 彼の話を聞けばよくある親の育児放棄、虐待のそれと全く当てはまっており、また眉間に皺を寄せれば。家も特定され、身を危険に晒す可能性もあると知ると、なにか思いついたように彼を見つめて。暫くして口を開けば。)
( 彼の言葉に思わず動きが止まり、彼の顔を見つめたまま瞬きを数回。数秒の間を挟めばやっとのこと「…ぇ」とだけ小さな声を出した。しかし、その表情はいくらか嬉しそうで。)
……正直、とってもありがたいけど。
でも、松風さんに迷惑かける訳にはいかねぇし…。
( 考えてみるととても魅力的な誘いである事には変わりないし、自分の心身的な安全のためにも最善策かもしれない。
だが、仲良くなったと言ってもまだ数回しか会ったことはないし、相手の方こそこんな他人を家に引き入れて大丈夫なのだろうか、と少し懸念はあるようで。)
迷惑なんて思わないよ。部屋も余ってるし、シェアハウスみたいで俺はなんかわくわくするんだけど。涼くんが嫌じゃなければ。
( 迷惑、そんなことは少しも思わなかった。むしろ、彼となら一緒に暮らしてみたいとさえ思ったのだ。他人にこんな感情を抱いたのは初めて。まぁ、勿論彼が嫌じゃなければの話だし、勝手にこちらが盛り上がってしまっているかんは否めない。部屋数にあまりもあるし、折角なら使って欲しい。)
い、嫌じゃない!全然嫌じゃない。
( 相手からの言葉に、誤解されないように慌てて首を横に振りながら上記を伝える。
自分だって相手となら一緒に住んでも楽しそうだし、わくわくしてしまう気持ちも分かる。こんな立派な家に住むなんて場違いというか、少し緊張する気持ちは確かにあるが、それでも彼の言葉に甘えてもいいのなら、とちらりと相手の瞳を見つめて、おずおずと、なんだか照れくさそうに言葉を続けた。)
えっと、じゃあ、よろしくお願いします?
( / 連絡もできないまま更新をお待たせしてしまい申し訳ありません!まだいらっしゃいましたら、またお相手いただけると嬉しいです…!)
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