匿名さん 2023-04-29 15:14:24 |
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じゃあ、どっちもだ。
( いいえと相手は謙虚にしているが、本心は隠しきれないようで雪のような頬を朱に染め上げながら照れていて。こちらもいやいやと謙遜しようとするが、それではどちらも譲らないまま時が過ぎてしまうだろうと思えばこちらもはにかみながらお互い様だと上記のように言って。具は梅干し、昆布、余っていた焼き魚のほぐし身と、相手に飽きが来ないようにこまやかな気遣いをおにぎりに施しており、そのおにぎりを見てなんとも嬉しそうに瞳を輝かせてくるとなんとも冥利に尽きて、今後も相手の昼食を用意してみようかと思って。と、時計を見やればそろそろ身支度をしなければならない時間帯。椿に洗い物を頼めば自分は私室にてスーツに着替えれば「 それじゃあ、行ってくるよ。 」と玄関まで律儀に見送りに来てくる相手にそう言って。 )
( / そうですね…。個人的には前者がいいかなと思います。というのも、それは今回だけで今後女の影を匂わせて帰ってきた時に爆発してしまう、というような流れがとてもいいなと。とても私得な展開ですいません…。)
はい、お気を付けていってらっしゃいませ。
( 無事に食事も終え、洗い物を全て片付けたあと。こうして出掛けていく誰かを見送るというのは花街でスッカリ慣れたものだが、仕事に行く彼を見送るというのはどうにも寂しいなぁという心が邪魔をしていけない。そんな顔を見せては主人の迷惑になってしまうだけだ。椿は仕事用のスーツに着替え、どんな女をも虜にしてしまうような微笑みを携えた彼に此方も穏やかな笑顔を返せば、「 直政様、お早く帰ってきてくださいましね。約束ですよ。 」とそっと小さな小指を立てて昨日の指切りを思い出させるように首を傾げて。朝餉も一緒に料理が出来たけれど、きっと夜の準備の方が時間的にもゆっくり共に料理ができるだろうと椿も今からわくわく楽しみにしている様子で微笑み。朝の時間で簡単な料理はお手伝いできるようになったし、きっと夜はもっとお役に経とうと。 )
( / とんでもないです!一度蓄積されていった感情が爆発するのすごくリアリティがあって私も好きです…!ありがとうございます、ではそのように進めさせて頂きますね…! )
あぁ、約束だ。
( 朝に相手に料理の手ほどきをしたとはいえ、朝というあまり余裕のない時間帯のせいで調理したそれは簡単なものばかり。相手はまだまだ足りないらしく、『 一緒に料理を。』という、昨夜に約束したことを思い出させるかのように小指を立ててくると、わかっていると頷きながらこちらも小指を立てて上記のように述べて。屋敷で己のことを待ってくれている相手に加えて、約束という、早く帰ってこなければならない理由ができれば、昨日よりも頑張れる気がして、晴々しい気持ちで胸を張りながら屋敷を出ていき。相手に気づかれないようおりょうの包みを持って行きながら…。 )
~夜~
( あたりはしんと暗くなった午後11時頃。相手と一緒に料理をするという約束を果たすには少々…いやかなり遅い時刻で。遅れてしまった理由というのも、おりょうに包みを返しに喫茶店に寄るも今日は本人は休みらしく、仕方がなくおりょうの家に直接返しにいき。そこで家の中に招き入れられたのが運の尽き。人がいい己は断ることができず、今度は相手の手料理フルコースを馳走になってしまい、長々と居てしまったためにこのような時間帯になってしまって。ようやっと解放され、屋敷に着けば「 ただいま~…。」とまるで叱られるのを怖がる子供のような小さな声で屋敷の扉を開けるが、その体にはおりょうの家の匂いを引っ提げて帰ってきており。 )
( / こちらの私得な提案を採用してくださり、ありがとうございます…!この後、お詫びとして翌日に外出に連れて行くという流れでよろしいでしょうか? )
( 今日はとても良い日だった。お天気も良くて、それからお掃除だってコツを掴んだのか昨日よりも早く終わった。余った時間はお料理の復習をしたり、それからお布団を干したり、早めに浴槽を洗ったり。昼間になれば彼が作ってくれたおにぎりを食べて、その味の種類の豊富さやお米の甘さにきらきらと目を輝かせながら舌鼓を打ったり。そうこうしている間に日は落ち、昨日主人が帰ってきた時間となれば調理道具やらを出し料理の準備をして、あとは彼が帰ってくるのを待つだけで。
……だが幾ら待っても屋敷の扉のドアが開く音は聞こえてこず、時計の針は進んでいくばかりで椿の端麗な眉はどんどんと下がっていき。お仕事が忙しいのかしら、それともお外で何かあった?約束の事は忘れちゃっているのかしら。一度椿の胸の中に芽吹いた不安の種は留まること無くどんどんと大輪の花を咲かせていき。いつも2人で食事を取っているテーブルにそっと突っ伏しては「 ……直政様、まだかしら。 」 と言葉を零して。いつの間にやらそのまま眠ってしまい時間が経っていたのか、キィ、という扉の小さな音にハッと目を覚ませばぱたぱたと玄関へと駆けていき、〝おかえりなさい〟とで迎えようとした刹那。ふわりと彼から香ってきたのは紛れもなくおりょうの匂い。─── …嗚呼。なるほど。「 おかえりなさいませ、ご主人様。お鞄お持ちいたします。 」 にこり、と椿は花街で良く映える美しい笑顔を浮かべては丁寧な仕草で彼のカバンを受け取る。あんなにワクワクしていた気持ちはシンと胸の中から消え失せ、怒りよりもずっと、心を締め付けるような悲しみが新しく身体中を支配する。きっとあの人のところに居たのね。…私の約束なんかよりも、優先して。 )
( / もちろんです!ぜひその流れで宜しくお願いいたします…!! )
( 何か悪いことをしたわけでもないのに、いや、実際にはしたのだがそろりそろりとゆっくり屋敷の中に入り、扉を閉め時でさえも音をたたないように慎重に閉めるのはもう寝てしまっているかもしれない椿を起こさないようにという最後の配慮で。しかし、その配慮も無駄に終わり、屋敷の奥からパタパタと足音が聞こえるとドクンと心臓が跳ね上がる気がして。いつものように花の笑顔を浮かべてこちらを出迎えてくれると、どうやら怒ってないようだとホッとしたのも束の間。普段は名前で呼んでくれるのに今回はどこか他人行儀なご主人様呼びで、前言撤回、やはり怒っていると冷や汗をかき始め。甲斐甲斐しく鞄を受け取る相手に申し訳なさが最高潮に達すると「 ご…ごめんな?椿。おりょうさんがなかなか帰してからなくて…。料理は明日しよう!な? 」と、料理の約束の他に昨夜に約束した一人で女性に会いに、それもその家に行ったことを必死に相手からの許しを得ようとして「 椿、お腹空いてないか?いなり寿司買ってきたんだ。一緒に食べよう。 」とみっともなく手土産で相手の機嫌を取ろうとして。)
( / ありがとうございます!それではよろしくお願いします! / 蹴可 )
─── …いいえ、お気になさらず。
ご主人様に今朝懇切丁寧に教えていただきましたので。
( 口から零れる言葉は自分が思っている数倍も落ち着いていて、それから色のない無機質な声色で紡がれる。申し訳なさそうな主人の声色や表情に対して椿の表情は何処までもにこやかで、まるで美しく咲く花のごたる美しさであり。夜飯の準備をする為に早めに帰る、それから女の人と2人で会わない。見事に2つも約束事を破られた女というのは実に非常になれるのか、こちらの機嫌をとるように手土産があると告げる彼にゆるりと首を振れば「 お昼間にご主人様の握られたおにぎりをいただきましたので。お気遣いありがとうございます。 」と正に花街の女のように男性を掌に転がす甘ったるい声と笑顔で其れを断れば、「 お風呂の準備が出来ておりますので、どうぞお入りください。 」と恭しく頭を下げてそのまま踵を返し、先程ぱたぱたと嬉しそうに、忙しなく走ってきた女と同一人物とは思えないほどしずしずと音を立てずに部屋へ戻ろうと歩き出して。 )
( 冷たささえ感じるその無機質な声と言葉は自分にとってははまるで背中につららを入れられたかのような冷酷さで、その末恐ろしさに喉元がヒュッと縮こまり。ご機嫌取りの手土産にさえも目もくれず、ただいつものように、しかしどこか影を感じる花のような笑顔にそこしれぬ危うさを感じてはゾッと鳥肌を立てて、箸にも棒にもかからない相手の背中を立ち尽くしたまま見送ることしかできず。ひとまず、相手に言われた通りに風呂に入ることにして、体を洗い終えればざばっと勢いよく湯船にはいる。しずかな空間と暖かいお湯のお陰でさっぱりとしたためか、自分はなんてことをしてしまったのだとあらためて自分のしでかしたことの重さを理解して。このままではいけないと決心すればまた勢いよく湯船から上がり、体から水分を拭きあげて着替えれば、すでにおりょうの匂いはついておらず、いつものよつに石鹸の花の香りを漂わせている体で相手の部屋の前まで行ってコンコンとノックをして。「 椿、入ってもいいか? 」と、扉越しに相手に呼びかけるその声はまるで怯えた子供のような恐る恐ると言った声で。 )
……どうぞ。
( ふかふかのベッドで横になる気にもならなければ、乙女らしくしくしく泣くことも感情に任せて怒り狂うこともない。言わば今の椿は無であった。花街で〝椿人形〟と呼ばれていた美貌からスッカリ色を消し、能面のような顔でただひたすら窓辺の椅子に腰掛けて月を見上げているだけで。控えめなノックの後に聞こえたまるで母に叱られている子供のような声にぴく、と先程まで1ミリも動かなかった眉を動かして。彼の問いに答える声は相変わらず色のない無機質な声ではあるものの入室の許可を。何時もなら返事をする前に自分が開けるだろうし、彼の屋敷なのだからそもそも入室の許可を得ることなどおかしな話なのだが。部屋に入ってきた彼は先程の女の匂いはせずただただ石鹸の優しい香りと華やかな香りだけで、だがそれでも椿の鼻腔に残った女の香りは消えることなく一瞬だけ眉を顰めた後に怒りを分散するように小さく息を吐いて。 )
…っ、
( 扉越しに掛けた声に反応した相手の声は相変わらず凍てつくようなプレッシャーを放っており、それにまた鳥肌が立たされてしまうと一度深呼吸をして気持ちを整えてから相手の部屋に入って。部屋の中の相手は窓から指す月灯りに照らされてどこか儚げな雰囲気を醸し出しているが、その表情は慈悲のかけらさえ見当たらないほど凍りついており、そこからため息を吐かれると本当に許して貰えるのだろうかとどんどん弱気になっていって。しかし、どこまでいっても悪いのはおりょうの誘いを断れなかった自分で、これはしかるべき報いなのだと受け入れれば相手の下まで歩み寄り、深々と頭を下げて。 )
…ごめんなさい。
、……。
( 静かに自分の元に歩み寄り深く頭を下げる主人を見て、椿はシンと静まり返る。彼は自分の主人だし、許すも何もない。そもそも自分が勝手にした約束なのだから。だがしかし自分の中の乙女が約束を違える男など、と静かに囁いてくるのもまた事実であり。実際にしては直ぐだけれど、体感として十分や数十分にも感じてしまう長い沈黙のあと、椿は音も立てずにゆっくりと椅子から立ち上がれば彼の元へと歩み寄り「 ……直政様。頭をお上げください。 」と、まだ幾分か冷たさは残るものの先程よりも余程温度感のある優しい声で言葉を零して。「 なぜ私が怒っているか、……いいえ。怒るよりも悲しかったわ。悲しい気持ちなのか、お分かりの上での謝罪とお見受けしてよろしいですね、 」続いて紡いだ言葉は、いつもの天真爛漫とは掛け離れた、遊廓の中で生き足掻いてきた強い淑女らしい顔─── 或いはそう見えるように強がっているだけかもしれないが─── で、その蘇芳は逸らすことなくただひたすら真っ直ぐに彼の黒瑪瑙を射抜いており、その瞳の色には怒りも悲しみもなく、ただ淡々と事実確認をする、書類を見るような色が映し出されていて。 )
( 主人が侍女に頭を下げるなど、後にも先にも聞いたことがないが誰がどう見てもこれは自業自得の行いで、猛省の意を込めて頭を下げ続ける。その状態のまま、相手の言葉をいまかいまかと待つが時間にして数秒だろうが、時間が永遠に感じられて、裁きを待つ罪人とはこんな気分なのだろうかと自嘲して。そうして頭の上から投げかけられた言葉は、先ほどよりも温もりの感じられる、まるで子供を叱った後に諭す母親のような声色で。その声に従うように顔をあげ、続けて綴られる淡々とした事実確認は自分のしでかしてしまったことをあらためて理解させるような言葉で、いつものようにほわほわふにゃふにゃとした表情からは想像できないほど真剣な表情で見据えてくると「 …うん。料理をする約束も、一人で女性に合わない約束も破ってしまったこと。申し訳ないと思ってる。 」と、その真剣な表情に応えるように、こちらも相手の蘇芳を見つめ返しながらそう言って。 )
─── ……はい。
分かっていただけたのであれば。
( こちらの瞳を真っ直ぐに、そして真剣に見つめる彼の黒瑪瑙を暫く見つめたあと。ふわりといつもの花のような笑顔を浮かれればその謝罪を受け入れるように話は終わりだと告げて。そのまま優しい手で彼の頬に手を添えては「 仏の顔も三度までと申しますもの。今回はこれでこの話はご破算に致します。 」とスッカリいつもの調子に戻った様子でにこにこと。…マァその言葉には暗に次は無いという言葉が隠されてはいるのだが、椿自信も己の中にヒッソリと佇む鬼女の顔には気付いていないのか恐らく無意識下に零れ落ちた言葉で。彼の家柄や地位からしてこんな花街上がりの女に頭を下げるというのは絶対に世間的には許されないことなのに、それでも自身の破った約束に対して真摯に頭を下げてくれる主人に、椿の氷の心もすっかり溶けたようで、彼の頬に添えた手でそっと其れを撫でては「 私こそ、厭な態度をとってしまってごめんなさい。 」 と、喧嘩両成敗ではないが自分も必要以上に彼に刺々しい態度をとってしまったことに対して謝罪して。 )
( 相手の鉄仮面のような、強固な意志さえ伝わってくるその表情がほろほろと解けるように綻んでいけばその表情から許しを得たとわかるとホッと胸を撫で下ろして。こちらもつられて表情を緩めていけば不意に頬に手を添えられると、紡がれた言葉に冷や汗をたらりと一筋垂らして。仏の顔も三度まで。つまり、もう仏の顔を二つ消費しているということであり、次はないと言う暗に意味していて。そのまま頬を撫でてくる相手がこちらも申し訳なかったと、端麗な眉根を下げながら謝罪してくるとこちらが悪いのに相手を謝らせてしまったという事実にさらに申し訳なさに拍車がかかり、相手の仏の顔にも限りがあるということで、自戒をこめて相手に誠意を見せなければと思えば「 そうだ、お詫びに明日いいところに連れて行こう。 」と、以前言っていた、三味線と扇を買わなければと、それ以外にも相手に必要なものがあれば買ってあげようとして。 )
へ、
……あ、そんな。いいえ!お詫びだなんて。
( 彼の言葉にきょとん、と目を丸くしたと思えばぶんぶんと手と首を横に振り、先程のいなり寿司の土産の際とは天と地の差を感じられるような対応を。謝って貰えただけで充分だとでも言うように眉を下げれば、彼もきっと忙しい身なのに自分に時間をかけるなんてと不安そうで。「 直政様のせっかくのおやすみなのに、 」 とスッカリ彼の呼び方もいつものような呼称に変わり、自分の機嫌取りのために彼の休日を潰すのが忍びないという乙女の不安げな表情に変わり。でも実の所は彼と一緒に出掛けられるというのは嬉しくて、強くNOと言えないのが困ったところなのだが。 )
いいや、決まりだ。明日行こう。
( 相手の表情がいつものようにほわほわふにゃふにゃとしていけば、先ほどとは立場がまるで逆になってしまったかのように、今度はこちらが手綱を握り相手を振り回し始めて。呼び方も普段の名前呼びになれば、いつもの相手が戻ってきたことに安堵して、不安げな表情の椿がいやいやでもと躊躇っていると「 遠慮しなくていい。それを、椿の舞を早く見たいんだ。 」と、そのためには三味線と扇を用意しなければならないと、相手にとって断れないだろう理由を述べては「 ほら、今日はもう遅いから風呂に入って早く寝て明日に備えなさい。 」と、相手の背中を押して風呂場へと急かして。 )
舞って、─── な、直政様!高いのはダメですからね!
あ、ちょっと、あああ……
( 彼の〝舞〟という単語に自分が明日どこに行くかは検討がついたのかハッと表情を変えてはあわあわと彼に釘を刺すように口を開くも、敢え無くその言葉はいそいそと風呂場へ背中を押す彼に阻まれてしまい。だってきっとお詫びだとかなんとか託けてすごくすごく高級なものを買おうとされるような気がする。ただでさえ自分にとんでもない額をかけていただいているのに、これ以上はいけない。だがしかし彼の言うとおりもう湯浴みを済ませて布団に入らなければ明日の朝に響くだろう、ただでさえ今は生活習慣を一般人に合わせるように修正している最中なのだから。風呂場の前まで到着しては椿は観念したかのようにキュッと眉を下げ、彼の方を振り向けば「 …おやすみなさいませ、 」ふにゃりと微笑んでは風呂場へと入っていき。
頭からつま先に至るまでぴかぴかに洗い、それから1人で使うには広いと感じる浴槽にしっかり肩まで浸かれば自分でも認知していなかった疲れがあったのだと厭でも実感してしまう。否、今日はどちらかと言うと精神的な疲れだろうか。こういう時はサッサと布団に入って寝るが良いと思うが早く風呂から上がれば、寝巻きである浴衣を着て寄り道することなく真っ直ぐに部屋へと向かい、明日はどこへ行くのかしらなんて考えながらそのまま気絶するように眠ってしまい。 )
( 相手の釘を刺すような言葉に聞く耳など持っていないのか、気にせず背中を押して、寝る支度を勧める。二人とも部屋を出て、観念して微笑みながら明日の外出に備えて浴場に向かう相手にこちらも笑みを返しながら手を振って見送って。そうして短い修羅場はこれにて一件落着。すると、今まで気が張っていたためかリラックスした途端にどっと疲れが押し寄せてきたような気がして、自室に戻れば沈み込むようにベッドにダイブして。明日はあそこに行って、それからどこに行って。それからそれから…と今のうちから計画を立てているうちに意識は夢の中に沈み込んでいき。翌朝、眠りについたのも遅かったためか、カーテンの隙間から日差しが差しても一向に起きる気配がなくて。 )
ん、……んん。ふぁ。
( まだ朝の光が差し込むよりは少し早い時間。なんとも言い難い寝苦しさに目を覚ましたのか、可愛らしいうめき声を上げながらクシャ!と顔をしかめてはゆるゆると体を起こし欠伸をひとつ。なにだか体が怠いような気がするのは寝起きだからだろうか、後で白湯でも飲もうと寝起き特有の回らない頭でふらふらと諸々の朝の準備を済ませては朝食を作らねばとエプロンをつけてそのまま台所へと。まだ時間が早いのもあるせいかどうやらまだ主人は起きていないそうで、昨日と献立は同じになってしまうが自分で朝食を作ってしまおうと判断すれば漸く開いてきた蘇芳をごし、と擦った後に米の準備から朝食準備を1人始めていき。焼き魚もできた、卵焼きもできた、米は炊けるのを待つだけ、問題は味噌汁だった。出汁もちゃんと取れたのだが、そのあと具のねぎを刻んでいる時に思わず左手の人差し指の先を包丁で切ってしまい「 っつ、……! 」と人生で初めて刃物で自らの手を傷つけた痛みに思わず顔を顰めて。ジンジンと熱を持つ指先から流れる鮮血に〝やってしまった!三味線の婆に怒られる!〟と一瞬焦ったもののここが花街でないことを思い出せば安堵したように息を吐いて。そんなこんなで、〝商品〟を傷つけた事で怒る者は居ないなと安心したのかそれとも女が痛みに強いのか、それとも単に絆創膏が見つからずに諦めたのか。患部に一旦布巾の端切れを巻き付けるという荒療治で味噌汁を完成させてしまえば朝食の準備は一旦終わり。まだじくじくと指先は痛むが、せっかく1人で作ったのだから冷める前に食べてもらわないと!とぱたぱた彼の部屋に駆けていけばコンコンコン、と控えめなノックのあとに「 直政様。起きていらっしゃいますか? 」と部屋の主へと声をかけ。 )
んん…?っくぁ…。
( カーテンの隙間から指す柔らかな日差しに穏やかな微睡を味わっていると、不意に扉の方からノックが聞こえれば、意識は夢の中から現実へと強制的に引き上げられて。しかし、まだ夢の中に片足を突っ込んでいるらしく、緩慢な動きで伸びと欠伸をしながらおぼつかない頭で状況確認をすると、どうやら椿が起こしに来てくれたことが把握できて。緩慢な動きは変わらず、のそりのそりとベッドから降りて扉へと歩み寄り、開ければ「 あぁ…おはよぉ椿…。 」と昨日の朝のようにむにゃむにゃとしており。昨晩、自分が相手に早く寝るよう急かしたというのに己は寝坊してしまっていてしっかりしなければと黒瑪瑙の瞳をごしごしとすると、相手の指にあてがわれた布巾に目がいき「 …椿、それどうしたんだ? 」とその付近を指差しながら問いかけて。 )
うふふ。おはようございます。
─── …嗚呼!すみません。料理中に少し切ってしまって…絆創膏の場所が分からなくて布巾の端切れを使ってしまいました。
( 寝起きの彼はやっぱりぽやぽやとかわゆくて、まだ眠たそうに瞳を擦る姿はやはり庇護欲やら母性を擽られる。椿はくすくすと穏やかに笑っていたものの、自分の指先の端切れを指さされればきょとんと目を丸くした後に怪我よりも勝手に端切れを使ってしまったことに対して言及して。料理中に自分の血液が紛れ込んではいけないと思ってのことだったけれど、やっぱり絆創膏を探せば良かったわ。なんてだいぶ的外れなことを考えては困ったように眉を下げて笑い。まだ慢性的なずきずきとした痛みや出血こそあるものの、椿としてはそんなことよりも冷めないうちに朝ごはんを食べて欲しい気持ちが多いのか「 朝ごはんができてますよ。 」と〝たべて!〟と言わんばかりに能天気ににこにこふわふわ微笑み。 )
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